「iPhone」の記事

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

カレー沢薫の時流漂流 第16回

文明の利器を使ったIT露出狂「AirDrop痴漢」

2018.11.19

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第16回は、Apple製品ユーザーを襲う「AirDrop痴漢」について

我々の生活はありとあらゆるものが電子化し、飛躍的に便利になった。

しかし、あらゆるものの中には当然「犯罪」も含まれ、さらに「痴漢」まで含まれるようになってしまったのだ。

皆さんはiPhone、iPad、Macなどを使っているだろうか。そして満員電車など人が密集する場所へ行く機会が多かったりするだろうか?

上記に当てはまる人、特に女性は注意が必要である。私はと言えば、スマホはアソドロイド、パソコンはウィソドウズ、人ゴミどころか人がいるところにさえ滅多にいかないので鉄壁と言える。

「IT露出狂」の出現

最近、Apple製品を使用した「AirDrop痴漢」なるものが現れているらしい。「痴漢も電子化の時代、わざわざ相手の前に立って局部を見せるような奴は時代遅れですよ」と「AirDrop痴漢」がろくろを回すポーズで語っているかは知らないが、当然褒められたことではない。

「AirDrop」とは、Apple製品間でデータをワイヤレスで送り合うことができる機能である。自分のMacからiPhoneにデータを送ったり、iPhone同士で友人と写真を共有したりできて便利なものだ。しかし、「AirDrop」は登録いらずで簡単な一方、半径9メートル以内にいる「AirDrop」をonにしている相手になら、誰にでもデータを送れてしまうのである。

これを使って画像を共有しようとすると、「Petagine's_iPhone」など、近くにあるApple製品の端末名が表示される。ペタジーニのiPhoneなら止めておこうと思うかもしれないが、ここで「Danmitsu's_iPhone」とか、明らかに女性と思われ、しかも何かエロスを感じる(※個人の感想です)名前を見つけた場合、その端末にわいせつ画像などを送り付ける、というのが「AirDrop痴漢」の概要である。

相手に直接手を触れるわけではないので、人が多い場所だと送ってきた相手の特定はかなり難しい。被害者はわいせつ画像を見せられた不快感と、周りにそういう人間がいるという恐怖感を味わうことになり、加害者はそれを見て楽しむという、いわば「IT露出狂」だ。

便利な機能が出来るたびに、それを使った犯罪が現れるのが世の中というものだが、これも「AirDrop」の機能を悪い意味で上手く使った犯罪である。その知恵を他の事に生かせなかった上に、そういった行為を「楽しい」と思うセンスに生まれて来てしまったことは二重に不幸なことだ。

被害者は女性が多いが、男性でも被害を受けることがあり、グロ画像を送られてきたという被害もある。

また、俳優の加藤諒さんは新幹線に乗っていたところ、車内で携帯をいじっている自分の後ろ姿の写真が「AirDrop」に送られてきたと言う。わいせつ画像でなくても、「お前のことを見ているぞ」というストーカー的恐怖感を相手に与えることも可能なのだ。

被害と「誤爆」を防ぐシンプルな解決法

「AirDrop痴漢」を防ぐ手立てはないのか、というと意外と簡単で、平素は「AirDrop」の設定を「受信しない」にしておき、使う時だけonにすれば良い。

そのほか、名前や性別を特定されないように、「Gorira's_iPhone」など、ユーザーネームを変更しておくのも効果的だ。

画像を共有する相手などいないという人間は、Apple製品を買ったらまず「AirDrop」機能を切るぐらいでもいいかもしれない。何故なら、この「AirDrop痴漢」は知らず知らずのうちに加害者になる可能性もあるからだ。

恋人に送るはずだった語尾が「ぞえ♪」のLINEを上司に送ってしまったり、ツイッターのアカウント切り替えを忘れて美容垢に推しカプがどれだけ尊いか語ってしまったりするような「誤爆」が「AirDrop」でも起こるのである。

しかも、LINEなら登録してある相手にしか送らないだろうし、SNSならある程度他人が読むことを想定して投稿するだろうが、「AirDrop」の場合、半径9メートル以内にいる赤の他人に、1人で楽しむためだけのお宝画像を送ってしまうという事態になりかねないのだ。受信してしまった方も不幸だが、送った方もある意味それ以上不幸である。

このように、「AirDrop」は便利だが、意図せず自分の性癖を含む個人情報を流出させてしまう恐れもあるため、使う時だけonにするのが今のところ一番良いかと思われる。

ちなみに、この「AirDrop痴漢」は犯罪にならないかというと、もちろんそんなことはない。わいせつ画像を送るのは「猥褻物頒布罪」になり得るし、わいせつでなくても相手が不快に思う画像を送り付けるのは「迷惑行為防止条例」違反になる場合がある。

実際、電車内で「AirDrop痴漢」を80件以上繰り返したという男が書類送検されたという。送信者が特定しづらいと言っても「本気を出せば特定できるしバッチリ逮捕もされる」ということはすでに実証されているので、もしイタズラ感覚でやっている人間がいるなら、逮捕されない内に今すぐやめた方がいい。

このような使い方は、Appleが想定していなかったことだろう。つまり、最初に考え着いた人間は、アイディア力にすぐれている。

その力を犯罪以外に使えなかったのは、重ね重ね残念である。

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第23回

大画面化するスマートフォン 使いやすさの試行錯誤は縦長から折り畳みへ

2018.11.16

海外メーカーの台頭で日本にも大画面化の波が到来

大画面化と使いやすさの両立、各社の工夫の歴史

縦長スマホにとって代わるのは「折り畳み」スマホか

スマートフォンのディスプレイは年々大型化が進んでおり、かつては「大きすぎる」と言われた5インチディスプレイが、今や小さい部類に入ってしまうほどだ。一方で使いやすさを維持しながらディスプレイの大画面化を実現するため、メーカー各社はさまざまな工夫を重ねている。スマートフォンのディスプレイサイズはなぜ大きくなり、今後はどのように変化していくのだろうか。

海外メーカーの台頭で日本でも大画面化に拍車

スマートフォンにとってディスプレイは、単に情報を表示するだけでなく、タッチして操作するインタフェースも兼ねている非常に重要な存在だ。そのスマートフォンのディスプレイが、ここ10年ほどで最も大きく変化した要素が「サイズ」である。

どれくらい大きくなったのかというのは、新旧のスマートフォンのディスプレイサイズを比べてみれば一目瞭然だ。日本で最初に発売されたiPhoneである「iPhone 3G」のディスプレイサイズは3.5インチだった。一方、「iPhone X」や「iPhone XS」、「iPhone XR」といった最近のiPhoneのディスプレイサイズは6インチ級があたりまえ。1.7倍に以上に拡大しているのだ。

今やスマートフォンのディスプレイサイズは5インチ以上が一般的で、6インチも珍しくなくなった。画像の「iPhone X」のディスプレイサイズは5.85インチだ

さらに「iPhone XS Max」は6.5インチもあるし、他の大手メーカーでもサムスン電子の「Galaxy S9+」やファーウェイの「HUAWEI P20 Pro」のように、6インチを超えるディスプレイを採用した機種は増えている。なぜ、これほどまでにディスプレイサイズが大きくなったのかというと、それは大画面が欲しいというユーザーが多いため。スマートフォンの性能向上によって動画やコミック、ゲームなどのコンテンツを楽しむ人が増えていることから、ユーザーのニーズに応えるかたちで、大画面が求められるようになったといえよう。

だが日本国内の事情に目を向けてみると、公共交通機関での通勤・通学が多いのに加え、片手で文字入力ができる「フリック入力」が広く普及したこともあり、片手でスマートフォンを操作する傾向が強く、実は大画面に対するニーズはそこまで大きい訳ではない。実際日本では、4インチディスプレイの「iPhone SE」が人気を保っていたし、シャープの「AQUOS R Compact」やソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia XZ2 Compact」などのように、4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトなスマートフォンも投入されている。

2018年の夏モデルとして販売されている「Xperia XZ2 Compact」は4.9インチと、最近では珍しくなった4インチ台のディスプレイを採用したコンパクトモデルだ

にもかかわらず、日本でも大画面のスマートフォンが増えているのはなぜか。まずは国内のスマートフォンメーカーが減少したことで、市場に海外メーカー製のスマートフォンが増えているためだ。海外では移動手段の違いに加え、文字入力システムの違いからスマートフォンを両手で持って操作する機会も多く、片手操作に対するこだわりが弱いのだ。

新興国などでも、ディスプレイサイズが大きいほど人気が出る傾向が目立ち、大画面に対するニーズが強いのである。海外製スマートフォンが日本市場に入り込みやすくなったことが、日本国内においてもスマートフォンの大画面化を進めたといえる。

縦長スマホの元祖はアップルだった?

とはいえ、スマートフォンが大画面化するに従って、本体の横幅がひろがり、さすがに海外のユーザーからも「持ちづらい」という声が増えてきたようだ。そこで近年急速に増えているのが、従来の16:9比率ではなく、18:9や19:9といった縦長比率のディスプレイの採用である。

持ちづらさに影響する横幅をこれ以上広げることなく、ディスプレイを縦に伸ばすことで大画面化しようとしたのだ。この流れをけん引したのは韓国メーカーで、2017年にはLGエレクトロニクスが「LG G6」(日本未発売)、サムスン電子が「Galaxy S8/S8+」といったように、縦長比率のディスプレイを採用した機種を積極的に投入した。

2017年発売の「Galaxy S8」「Galaxy S8+」は、18.9:9と縦長比率の有機ELディスプレイ「インフィニティディスプレイ」を採用したことで大きな話題となった

この韓国の両メーカーとも、グループ内にディスプレイデバイスを開発する企業を持っている。それゆえ縦長比率のディスプレイが生み出されたのには、実は大画面化だけが目的ではない。自社のスマートフォンに新しいディスプレイをいち早く搭載し、トレンドを作り上げることで、グループ企業のディスプレイデバイス販売拡大につなげる狙いもあったといえる。

だが、縦長ディスプレイで大画面化するというアイデアを真っ先に実践したのは、実はアップルである。アップルはかつてディスプレイの大画面化に消極的で、2011年発売の「iPhone 4s」までは3.5インチのサイズにこだわっていた。だが大画面化を求めるユーザーの声を受け、2012年発売の「iPhone 5」でディスプレイサイズを4インチに拡大した際に、ディスプレイの横幅はそのままに、縦に長くするという手法をとったのである。ある意味、アップルは5年前に現在のトレンドを先取りしていた、といえるかもしれない。

スマートフォンのディスプレイを縦に伸ばして大画面化するというアイデアをいち早く実践したのは、アップルの「iPhone 5」だった

しかしながら、ディスプレイを縦に伸ばして画面サイズを大きくする工夫にも、いずれ物理的な限界が来ることは目に見えている。そこで、さらなる大画面化の追求で、いま注目されているのが折り畳み式ディスプレイだ。このアイデア自体は、NTTドコモが2013年の「MEDIAS W」(NECカシオ モバイルコミュニケーションズ製)、2018年の「M」(ZTE製)で既に実現しているものだが、いずれも2枚のディスプレイを用いていたため、どうしても画面の折り目に継ぎ目が発生してしまう弱みを抱えている。

折り畳みスマートフォンとして注目されたNTTドコモの「M」は、2枚のディスプレイを用いるスタイルであるため折り畳み部分に継ぎ目が発生してしまう

だが有機ELを用いれば、ディスプレイを折り曲げられる“真の”折り畳みスマートフォンが開発できると言われており、大手スマートフォンメーカーがその開発を進めているとの観測報道も幾度となくなされている。

これは折り畳みできるという意味の「フォルダブル」スマホなどと呼ばれ、先ごろはサムスン電子が、来年発表するというフォルダブルスマホ「Galaxy F」のプロトタイプを開発者向けに見せはじめたりしている。2019年は各社から製品が登場するのではないか? との声もあるようだが、いま確実に言えることは、真の折り畳みスマートフォンがいつ、どのメーカーが、どのような形で投入するのかが、大いに注目されているということだけである。

新MacとiPad Proから読む「iPhone減産時代」のアップル

新MacとiPad Proから読む「iPhone減産時代」のアップル

2018.11.08

方針が変わった? アップルの製品発表会を紐解く

売り上げ安定へ、ファンが求める「手堅いMac」を再評価

iPadはタブレットからコンピュータへ脱皮できるのか

アップルは10月30日(現地時間)、ニューヨークで記者発表会を開き、MacとiPadの新製品を発表した。

発表会場は、米ニューヨークのThe Brooklyn Academy of Music

今回の発表では、iPad発売以来最大のリニューアルといっていいほどの変化を遂げた「iPad Pro」に加え、「MacBook Air」「Mac mini」といった、人気はあるが最近新モデルが出ていなかった製品の改訂が行われた。

特にMacのリニューアルについては、ファンの多くが驚いた。長年待ち望みながら、アップルが応えてはこなかったラインアップだからだ。どのくらい驚きだったかというと、「おかしい! 私たちが思う通りのものが出てくるなんで、アップルらしくない!」という皮肉な声が聞こえてくるくらいである。

「iPad Pro」。iPad発売以来、最大といっていいほどの大幅なリニューアルを遂げた
「MacBook Air」。ほぼ7年ぶりのデザイン刷新であり、2010年代末のノートPCらしい製品になった
小型デスクトップの「Mac mini」も刷新。CPU変更も含め、実に4年ぶりの新モデルになる

それでは、アップルは現在どのようなハードウエア戦略を持っているのだろうか? 新製品群から考察してみたい。

ようやく期待に応えた「Macのリニューアル」

今回の発表のポイントは、簡単にいえばふたつに絞れる。ひとつは「iPadのてこ入れ」であり、もうひとつは「Macの再評価」である。特に、同社の戦略を語る上での大きな変化は後者にあたる。

正直、ニュースバリューという意味では、iPad Proの方がずっと大きいだろう。そして、今後のアップルの売り上げに対する貢献度も、新iPad Proの登場による「iPadの変化」がもたらすものの方が大きい。だが、「アップルが今後どういう会社になろうとしているのか」を考える上では、MacBook AirとMac miniの復活は、分析しがいのある要素だ。

冒頭で述べたように、MacBook AirとMac miniは、長らくリニューアルされてこなかった製品群である。MacBook Airは、CPUなどの刷新こそ2年おきに行われていたが、デザイン的には2011年からそのまま。Mac miniに至っては、2011年にデザインが変わり、2014年にCPUが刷新されて以降、実に4年も新製品がなかった。どちらも、設計は古いが価格が安く、手に取りやすい製品として扱われてきた。

今回も壇上で多くの発表を行ったアップルのティム・クックCEO

特にMacBook Airについて、アップルは2015年以降、明確に「旧モデルを安価に売る」路線と位置づけてきた。メインストリームは、新たに設計し直した「MacBook」と「MacBook Pro」だとしていたのだ。

だが、この路線は成功とは言い難かった。MacBookは、Airのヒット要因である「13.3インチという、世界的に見ると使いやすいサイズ」「高性能なわけでも、劇的に軽いわけでもないが手頃な価格」といった要素を満たせていなかったからだ。

ではなぜAirをアップルが刷新してこなかったのか? その謎は解けないままなのだが、少なくともアップルは、MacBookではAirの人気を引き継げていない、と認めたことになる。ニューヨークでの発表会で実機を短時間だがチェックすることができた。実際よくできた製品で、ヒットする可能性は高い。

長らくリニューアルしてこなかった人気の2製品が合わせて刷新された

Mac miniに至っては、後継機すらなかった。PCのメインストリームがノート型になり、デスクトップも一体型が主流になった昨今、分離型のデスクトップの需要は減っていた。だがなくなったわけではない。特に小型のデスクトップは、PCのことがよくわかっているマニアや、業務で多数のPC(Mac)を必要とする人に根強い需要がある。

アップルはこれまで、MacBook AirにしてもMac miniにしても、消費者の需要を満たしきる製品を出してこなかった。そこにリソースを注入するよりは、iPhoneやMacBook Proに使った方が経営上有利だ、と思っていた可能性は高い。

だが今年、その方針は大きく変わった。Macに関する需要のアンマッチを解消し、ファンが求める「手堅い」Macを発売することで、売り上げを安定させる戦略を採ったのだろう。

背景に見える「iPhone依存」からの脱却

今後もアップルにとって、iPhoneが稼ぎ頭であることは変わりない。だが、スマートフォンのハードウエアは陳腐化しており、そのためハイエンドモデルの価格はジワジワと高価になっている。その結果、今後スマホの買い換えサイクルはより長期化していく。15年前にPCのスペックが陳腐化して以降、買い換えサイクルはどんどん長期化していった。それと同じことが、より速いペースで再現される可能性が高い。

そうなると、アップルとしてはiPhoneを「台数で勝負するモデル」と位置づけるのが難しくなっていく。実際、アップルは11月1日、2018年10~12月期決算より、iPhoneの販売台数を公表せず、売り上げだけを発表する形に変える、と発表した。これは、台数で勝負するモデルから売り上げ・利益率重視に切り換える証であり、「台数だけを見られても経営状況を適切に示さない」と判断しているからである。

かといって、いきなりiPhoneの販売台数が急落するとは思えない。だがハイエンドな最新機種は利益率が良いが台数が出ず、台数は旧機種で稼ぐモデルは広がっていき、結果的に、アップルのビジネスにおける「iPhone依存度」は下がって行かざるを得ない。少なくとも、今のような株価を維持して株主を納得させ続けるには、成長源泉をiPhone以外にも求めざるを得なくなる。

成長源泉としてもっとも有力なのは「サービス収入」の増加だ。過去15年に渡り、アップルは「ハードを差別化するためのソフトやサービスを利用する」というスタンスをとってきた。やれGAFAだ、やれ独占的プラットフォーマーだ、と世間では色々言われるが、アップルの利益はあくまでハードウエアの販売から生まれており、ハードを便利で魅力的なものにするための存在が、ソフトでありサービスだったわけだ。

しかし、アップルはこの方針を改めつつある。サービスを広く他社機器に公開するスタンスにはならないようだが、オリジナル映像の配信を含めたコンテンツビジネスを軸に、「サービスだけでも収益を得る」部分を増やしていく。要はユーザーひとりあたりの収益に着目し、ハードウエアよりも成長率の高いサービス部分の売り上げにフォーカスすることで株主に対するイメージを変えたい……という意図が読み取れる。

もちろん、それだけでは終わらない。現状はiPhoneほど大きな売り上げではないiPadやMacの部門についても、より「売れる」「売りやすい」機種を用意することで、売り上げ増を狙っているのだろう。今回ファンが待ち望んでいたモデルがリニューアルしたのは、やはりそれだけ「売りやすい」からだ。

「新しいコンピュータ」への脱皮を図るiPad

Mac以上に「稼ぎ頭」としてアップルが期待しているのがiPadだ。iPadは初期から完成度が高い製品だっただけに顧客満足度が高い。一方で、「ビュワー」として使う分には性能が陳腐化しづらいので、なかなか買い替えが進まず、急速に需要が満たされ、販売数が伸びなくなっていった。

そこでこれからは、安価な製品を買い替え需要に頼って売っていくのではなく、ビュワーではなく「コンピュータ」としての価値を拡大することで、他社との競合から離れてiPadの市場を作る……これが同社の戦略だ。

そのひとつが今年3月にも発表会が行われた「教育向け」であり、もうひとつが「アーティスト向け」のニーズである。

iPad Proは「ペン」を重視しており、今回も「アーティストが自由に絵を描けるコンピュータ」としての価値をアピールしていた

Macを含むPCの市場は安定的なものになっており、大きく減る要因はないし、いきなり伸びる要因もない。一方、タブレットを「ビュワー」ではなく「新しい個人向けコンピュータ」と定義した場合、市場開拓はまだできる。むしろ、カメラやペンを活用したアプリの市場は、PCでは開拓できておらず、スマホではサイズの問題でやはり開拓できていない。

タブレット市場を「新しい個人向けコンピュータ」にトランジションできれば、PCから一部の市場を奪い、まだまだ成長できる……というのがアップルの発想だ。他のメーカーは、タブレット市場そのものの開拓を諦めた雰囲気があり、「新しい個人向けコンピュータ」としては、教育市場に向けて、低価格なChromebook(Google)を売る流れがあるのみだ。

ただ、この市場開拓が成功しているか、というと、まだ疑問はある。タブレット市場が年率10%・20%の単位で減少しているなか、アップルとファーウェイだけが数を伸ばしている。積極的な製品展開をしているから市場を維持できているのだが、逆にいえば、他社はすっかりやる気をなくしている。

ハンズオン会場で実機を紹介するティム・クックCEO

そこで、アップルはどう「孤軍奮闘」するのか。スマホ市場がiPhoneとAndroidの競争で伸びてきたように、1社で市場を構築するのは非常に困難だ。ファーウェイはタブレットにおいてはまだ非常に弱く、アップルのライバル、というのは難しい。

ハードだけでは市場はひっくり返らない

10月30日に発表された新iPad Proは素晴らしい製品だ。アップルがいう通り「過去最高のiPad」であり、購入した人の満足度はきっと高いだろう。だが、それだけで市場はひっくり返らない。

アップルは数年をかけて、「新しい個人向けコンピュータ」市場がビジネスとして旨味があることを証明する必要に迫られている。そこに旨味があると思えば、他社ももちろん黙っていないはずだ。アップルは単価の高いiPad Proで旨味の大きなビジネスをしつつ、「こっちの水は甘い」と他社にアピールする必要がある。そうやって、スマホの販売量減少をカバーする製品へと育てていくことが、アップルという会社にとっても急務なのである。

そのためには、iOSをよりPC的な汎用性の高いものに進化させる必要があるし、アプリ市場の活性化も必要だ。まだこの市場については、「ファンが欲しいと思うものを作る」だけで伸びる段階ではない。