「VR」の記事

VR空間を商業スペースに! クラスターが構築するバーチャル経済圏の軌跡

VR空間を商業スペースに! クラスターが構築するバーチャル経済圏の軌跡

2018.10.19

VR空間でクラスターがカンファレンスを開催

事業の沿革を振り返るとともに、今後の展望を語る

サービスにはアーカイブ、ワールド構築、ロビーの3機能を追加する予定

初めてVR空間に入った。

と言っても、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着していたわけではなく、パソコンの画面で視聴していたので、感覚的には一人称視点のゲームを操作しているようなものである。マウスで視点を調整しつつ、キーボードで空間内を移動するというスタイルだ。それでも、ほかのユーザーと同じ空間に立つことで、意外と仮想世界に“参加している感”を味わえた気がする。

VR空間に入ったときに、筆者の前に広がっていた光景。画面の左下のスペースに文字を入力すると、奥のチャットスペースにコメントを表示させることができ、アイコンをクリックすると「拍手」や「笑う」といったアクションが実行可能だ。また、カメラアイコンではスクリーンショットを保存できるようになっている

1年で実現したVR音楽ライブはトレンドランキング1位に

なぜ、慣れてもいないVR空間に入ったのかというと、企業のカンファレンスが実施されると聞いたためだ。その企業の名前は「クラスター」。バーチャル空間上の商業プラットフォーム「cluster」を提供しているスタートアップだ。

clusterは、会議室やセミナーホールなど「ルーム」と呼ばれるVR空間を作り、人を招待することができるサービス。ルームでは今回のような企業のカンファレンスを行うことができるほか、ライブのようなイベントを開催することもできる。

2018年8月31日には、VTuberの輝夜月がclusterで音楽ライブを開催。当日はclusterのVR会場だけでなく、全国7都市15劇場でライブビューイングを実施した。VR会場のチケットは10分で売り切れるほど人気で、バーチャルとリアル合わせて5000人以上の動員を記録したという。

輝夜月のVRライブの様子。ちなみに、clusterのデフォルトアバターは通常白いロボットのようなものだが、ライブ当日は全員エビフライだった。なぜエビフライかというのは、輝夜月の動画を観ればわかる。
©Kaguya Luna/SACRA MUSIC 2018

輝夜月といえば、VTuber四天王にも数えられる強者だ。チャンネル登録数は84万を超えており、戦闘能力も53万くらいあるだろう。そんな猛者を呼び込めるなんて、clusterとはいったいどれだけ力のあるプラットフォームなのか。

クラスター 代表取締役の加藤直人氏は「2016年2月にα版がローンチされた『cluster.』ですが、最初はサービス名にドットが入っていました。初めて実施したイベントでは海外の方が壇上に登り独演を始めるなど、カオスな状態になってしまいましたね。2017年6月に正式版がリリースされ、ようやく現状のclusterに近い形が出来上がりました」と、サービスを振り返る。

10月17日に行われたVRカンファレンスの様子。真ん中の青い鳥がクラスター 代表取締役の加藤直人氏だ。その左にいる女性アバターは同社で広報を務めるくらすたーちゃん

VR自体、一般的に認知されるようになってから長い歴史があるわけではないが、思っていた以上に若いサービスで驚いた。正式版リリースが2017年6月ということは、clusterはまだ1歳ちょっとのヒヨコのようなものだ。ピヨピヨかわいいヒヨコちゃんである。

にもかかわらず、輝夜月ライブの終了後には、Twitterで約3万件のツイートが寄せられて、トレンドランキング1位を記録。事業の成長はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

もちろん、ライブの成功は輝夜月の人気があってこそだとは思う。しかし、ライブ会場で行われた仮想空間ならではの演出が、現実以上の熱気を生み出したことは間違いない。実際に当日VR会場に足を運んだユーザーが投稿した「伝説を見た日になった」「次世代のライブを見て鳥肌が止まらない」といったツイートからも、clusterとの相乗効果が見て取れる。

バーチャルクリエイターが稼げる“経済圏”を目指す

そんな勢いに乗るクラスターが、次に目指すところはどこだろう。

「3年後までには、バーチャルクリエイターが稼げるようにしたいと考えています。バーチャルな体験を売りたい人と参加したい人がいて、我々はそこにclusterというスペースを提供できるようになりました。ようやく基礎が完成した段階だと言えます。そういう意味で今までは0→1でしたが、これからは1→∞。セカンドステージに突入したと言えるでしょう。それに合わせて、サービス名からはドットを取り、公式ロゴを新たにデザインしました」(加藤氏)

clusterの基礎的な部分が出来上がったことで、次のステージに進んだクラスター。サービス名が若干変わっただけでなく、ロゴが一新され、公式サイトもリニューアルされた。これからは“人類の創造力を加速する”というミッションを掲げ、仮想空間上でさまざまな取引が行われる「バーチャル経済圏」の構築を目指す。

クラスターの旧ロゴと新ロゴ

そのための足掛かりとして、clusterに、過去のVRイベントに参加できる「アーカイブ機能」、Unityに依存しない「ワールド構築機能」、常時開設している「ロビー機能」を追加する予定だという。

また直近では、ギフティング機能である「Vアイテム」を実装。10月26日より開催される視聴者参加型のVRハロウィンイベント「バーチャルハロウィン in cluster」から使えるようになる。今年のハロウィンは、仮想空間での仮装を楽しんでみてはいかがだろうか。

今回、VR空間で発表会を聞くという初めての体験をしたわけだが、あまり違和感はなく、途中で参加者が拍手したり笑い声を出したりするスタイルは、カンファレンス形式のものにも意外とフィットするかもしれないと思えた。

難点としては、リアルのように席がきちんと並んでいるわけではないこと。ほかの参加者が前方に集まってくると、白い頭が視界を遮るため、若干スライドが見えづらくなった。また、どこまで前に出ていいものかイマイチ判断できず、周りを押しのけてずいぶんと前に出てしまったが、このあたりのマナーは慣れればわかってくるのだろうか。

全体を通してみると、個人的には未知の文化に足を踏み入れるようなワクワク感を味わえたので、まだVR体験をしたことのない人は、ぜひ一度トライしてみてほしい。

VRの「ミライ」を垣間見せるOculus Go/Quest

VRの「ミライ」を垣間見せるOculus Go/Quest

2018.10.16

一口にVR HMDと言っても主に2種類存在する

中でも、PC不要で簡単に使えるオールインワン型が注目の的

オールインワン型人気を牽引するOculus Go/Questについて解説

Facebook傘下のVR HMDメーカーのOculusが自社イベント「Oculus Connect 5」で、同社の最新型VR HMDのOculus Questを発表した。

Oculusは昨年発表したOculus Goも好調で、従来のPCユーザー向けのVR HMD「Oculus Rift」では取り込めていなかったユーザー層の取り込みに成功している。それはなぜなのだろうか?

2つの種類があるVR HMD

VRを利用するために必要なハードウェアと言えば、言うまでもなくVR HMD(Virtual Reality Head Mount Display)だろう。VR HMDは、内部に2枚ないしは1枚のディスプレイパネルが入っており、被った人の目の前に来るレンズに投映することで、まるで人間に自分の周囲に仮想現実(VR)があるような視覚的錯覚を与え、高い没入感でコンテンツを楽しむことができる機器のことだ。

このVR HMD、外から見るとどれも同じゴツいメガネに見えるかもしれないが、実際には仕組みや構造などから2つの種類に分けることができる。1つは単体型で、もう1つがオールインワン型となる。

前者の代表例はHTCから販売されているVIVE(ヴァイブ)シリーズ、Oculus(オキュラス)から販売されているOculus Riftなどがこれに該当する。これらの単体型HMDは、それ自体はディスプレイになっており、そこにコンテンツを表示させるには、PCなどの外部コンピュータが必要になる。

HTC VIVE

そしてもう1つが、Oculusが先日発表したOculus Quest、そして現在も販売しているOculus Goのような製品。さらにはスマートフォンメーカーが販売していた、内部にスマートフォンをセットしてそのディスプレイを利用してコンテンツを表示する、Samsung ElectronicsのGearVRのような製品もこれに該当する。

こちらの特徴はVIVEシリーズやOculus Riftシリーズのような、外部にPCのようなコンピュータを必要としないこと。VRを楽しむのに必要なデバイスが、すべてVR HMDに内蔵されている形になる(だからオールインワンなのだ)。

単体型とオールインワン型、最大の違いは

シンプルにユーザーの視点でこの2つの方式の違いは何かと言えば、それはケーブルの有無だ。HTC VIVEやOculus Riftなどの単体型VR HMDでは、それ単体ではコンテンツを描画したりする機能を持っていないので、必ずPCなどのコンテンツを再生する機器を接続する必要がある。

また、こうした単体型VR HMDでは、ユーザーが装着しているHMDの位置を、外部におかれている赤外線のモーションセンサーで認識する必要がある。このため、センサーを設置する場所が必要になるほか、ユーザーが動ける位置はそのセンサーが感知できる範囲内という制限がある。

もう1つの制約は、利用するPCの性能が高い必要がある点だ。例えば、Oculus Riftの場合は、奨励環境ではPCにNVIDIAのGeForce GTX 1060ないしはAMD Radeon RX 480以上という、GPU(グラフィックスの描画を行なう半導体のこと)を搭載している必要がある。一般的なビジネス向けのPCでは、IntelのCPUなどに内蔵しているGPUしか内蔵していないことが多いため、そのままではVR HMD用のPCとしては利用することが難しい。そこで、PCもゲーミングPCと呼ばれる性能が高いGPUを搭載している必要があるのだ。

なぜそうした高性能なGPUが必要かと言うと、単体型VR HMDに内蔵されているディスプレイの解像度が高いからだ。例えば、HTC VIVEシリーズの最新製品となるHTC VIVE Proに内蔵されているディスプレイの解像度は2,880×1,600ドットになっており、リフレッシュレートと呼ばれる画面をリフレッシュするタイミングは90Hz(1秒間に90回)になっている。多大な数の画素数を1秒間に90回もリフレッシュするので、GPUにかかる演算量は膨大になってしまうため、高速なGPUが必要なのだ。

性能が足りないとどうなるかというと、リフレッシュする回数を減らしたり、描画しなければいけないところを端折ったりして対応するのだが、そうするとユーザーの目にはその端折ったところが不自然に感じたりして、いわゆる「VR酔い」と呼ばれる乗り物酔いと同じような症状が起きる可能性がある。それを避けるためにも、高性能なGPUを利用したPCは必須なのだ。

低価格なオールインワン型・Oculus Goが大人気に

そうした単体型HMDに対するオールインワン型のメリットは、PCや外部モーションセンサーといった外部機器と接続する必要がなく、そうした機能もすべてVR HMDの中に入っていることだ。多くのオールインワン型VR HMDはバッテリーも内蔵しており、すべてワイヤレスで利用することができる。

これまで、オールインワン型の多くは、スマートフォンを内部にセットしてそれをディスプレイや描画装置として使うという形になっていた。Samsung ElectronicsのGearVRがその代表例で、低コストにVR HMDを実現する方法として、コストパフォーマンスを重視する一般消費者に受け入れられてきた。

一歩進めて、最初からスマートフォン相当の機能を内蔵することはできないか?とソリューションを開発してきたのが、スマートフォン向けに半導体を提供している半導体メーカーのQualcommだ。Qualcommは数年前からそうしたソリューションを同社の顧客に対して提案してきた。それが実際の製品として発売されたのが、Oculus Goだ。

Oculus Go

Oculus Goの特徴はオールインワン型のボディに低価格を実現できるLCDパネル、スマートフォンにも使われているQualcommのSnapdragon 821という半導体やバッテリーが内蔵されており、OSもAndroid OSベースとなっている。

つまり、スマートフォンの機能がそのままVR HMDになった、という点にある。かつ価格はストレージが32GBのモデルが2万3,800円(税別)、64GBのモデルが2万9,800円(同)という、従来のVR HMDに比べて圧倒的な低価格が実現されいる。

例えば、Oculus Riftを利用することを考えると、HMDだけで5万円(同)が必要で、さらにゲーミングPCのようなハイエンドの高価なPCが必要になる(多くの場合は10万円台後半~20万円台)。それに対して、上位モデルでも3万円を切った価格を実現したため、カジュアルユーザーやスマートフォンユーザーなどに大受けしてヒット商品になった。

Oculus Goのセンサーを高度化した新製品、来年発売

そして、そのOculus Goの上位版としてOculusが自社イベント「Oculus Connect 5」で発表したのが、Oculus Questだ。

Oculus Quest

Oculus Questは単体型VR HMDに採用されているような高解像度なディスプレイを採用しており、最大の違いはHMDの動きを検出する機能が、Oculus Goでの3DoFから、Oculus Questではより自由度の高い6DoFへと強化されていることだ。

非常に単純化して言うと、Oculus Goの3DoFではせいぜい頭の回転の程度の動きしか検出できないのに対して、Oculus Questの6DoFでは回転に加えて、傾きや前後左右の動きを検知することができる。これにより例えばVRのゲームをプレイするときに、動きの自由度が圧倒的に向上することになる。

Oculus Questではコンテンツを再生するための半導体も強化されている。Snapdragon 835というSnapdragon 821の1世代後の製品で、処理能力や描画性能が大きく向上している。ただし、ゲーミングPCに内蔵されているようなGPUに比べると性能は劣るため、コンテンツの再現力などではまだ差があるが、それはケーブルがないことの自由度とのトレードオフだと言えるだろう。

コンテンツの再現力などの点では単体型に譲るのは事実だが、ただHMDを被るだけで自由に仮想空間を動き回ることができるオールインワン型は、使い勝手の点でも、わかりやすさという意味でも、一般消費者には魅力的な商品と映る。

今後はOculus GoやOculus Questのようなオールインワン型VR HMDが普及していくことはほぼ間違いのない状況だと考えられている。今後は他社もそれを追いかけるような商品を投入しだして、本格的なVR時代がやってくることになるのではないだろうか。