「M&A」の記事

仕事相手との信頼関係を築くためにもセキュアなデータ共有を

仕事相手との信頼関係を築くためにもセキュアなデータ共有を

2018.04.20

これまで、さまざまな企業を取材してきたが、様相が変わりつつあるなというのが正直な感想だ。どう変わったかというか、もとに戻り始めている印象がある。

近年、ICT技術の進展により、コミュニケーションをビデオチャットなどで済ます企業が多くなったが、やはりフェイス・トゥ・フェイスによる信頼関係構築を重視する企業が多くなった気がする。

AOSリーガルテック 代表取締役社長 佐々木隆仁氏

だが、お互いにやりとりするデータ量は増え、しかもセキュアな環境でデータを取り扱わなければならないという方向性は変わらない。そして、リモートワークという流れが強まり、本社とのデータ共有というのが重要になってきた。そこで、データ復旧や共有クラウドといったサービスを展開する、AOSリーガルテック 代表取締役社長 佐々木隆仁氏に話を聞いた。

まず、同社が力を入れているのはバーチャルデータルームだ。これは、認証されたものでしかアクセスできないクラウドシステム。このシステムが開発された経緯が少しユニークだ。

紙の契約書が多い日本のM&A

日本では、紙資料や紙の契約書が圧倒的な効力を持つ。たとえば企業のM&Aの場合、何枚もの紙の契約書が交わされて進められている。しかし、これでは時間がかかるうえ、契約書の確認作業に何人もが目をとおす。ともすれば、契約書の紛失などで、交渉が一時頓挫する事態になりかねない。

日本ではM&Aが頻繁に行われるようになったが、吸収合併が下手、という印象が国際的に認識されているのが現状だ。そうしたM&Aの現状をサポートするという意味で、バーチャルデータルームの需要が高まったという。

また、司法界からの要求も高かったいう。

そもそもAOSリーガルテックは、警察や検察からデータ復旧を頼まれ、それを復元するという事業に取り組んできた。

テレビのニュースでよく家宅捜索のシーンが放映されることがある。ダンボール箱を抱えた捜査員が資料を次々とクルマに運ぶあの光景だ。だが、紙の資料は押収できても、HDDなどのデータを消されたらお手上げだったそうだ。そこで、同社がデータ復元作業を手がけたという。

そして近年、司法はIT化が叫ばれるようになった。これまで、準備書面や訴状といった紙書類を用意し、それを提出して裁判というのが日本の司法だった。だが、電子データによる提出を推進することで、当事者の負担を軽減しようという動きが盛んになってきた。

AOSデータルームのUI。フォルダカラム、メインカラム、サムネイルカラム、ツールカラムとなっており、日本語表記なのでわかりやすい

ところがだ。こういうと批判を受けそうだが、弁護士のなかにはまだITに対してのスキルが弱いという方々も少なからずいる。そうした方々でも文書共有できるツールとして期待されているのがバーチャルデータルームで、同社はわかりやすいUIとセキュアな環境を両立する「AOSデータルーム」を開発した。

こうした経緯を考えれば、AOSリーガルテックという社名に合点がいく。リーガル(法律)+テック(技術)というワケだ。

一般企業でも高そうなニーズ

ただ、司法や官庁だけでなく、一般企業でもニーズが高そうだ。たとえば、個人情報を多く扱う会社、司法紛争を抱えている会社などでもセキュアな環境でのデータ共有は必要なのは間違いない。

連絡やデータ共有手段に海外のツールを使用しているという企業は多いだろう。だが、英語表記によりUIに迷うことがあったり、場合によってはデータを盗まれたりしているという。データ共有をセキュアに行うことは、取引先との信頼関係向上につながり、フェイス・トゥ・フェイスのつきあいも円滑になるはずだ。

かつてはたくさんあった携帯会社、3社まで減った理由

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第15回

かつてはたくさんあった携帯会社、3社まで減った理由

2018.02.27

楽天が「第4のキャリア」として携帯電話事業に参入を表明したことが、大きな話題となっている。だが過去をさかのぼれば、第4どころか、PHSも含めれば地域によっては7つもの企業が、自社でモバイル通信のインフラを構築してサービスを提供し、競争を繰り広げていた時代があった。それがどのようにして、現在の大手3社体制となったのかを振り返ってみよう。

PHSも含めればかつては7社以上存在していた

昨年末、「楽天モバイル」を展開している楽天が、他社からインフラを借りるMVNOではなく、自ら通信インフラを持つ携帯電話事業者になることを表明したことが、大きな話題となった。楽天は今年3月にも総務省が実施すると見られている、4G用の1.7GHz帯と3.4GHz帯の追加割り当てを申請し、割り当てがなされた際には2019年の携帯電話事業参入を目指して準備を進めるとしている。

楽天は、個人向けのMVNOサービスとして好調な「楽天モバイル」の実績をバネに、自らインフラを敷設する携帯電話事業にも参入することを明らかにしている

無論、既にNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社が全国津々浦々に充実したインフラを整えているだけに、楽天が今から携帯電話事業に参入して順調に成長できるのか、という点には多くの疑問符が突きつけられている。それだけに、楽天が今後携帯電話事業参入に向けてどのような動きを見せるのかというのは、今年の業界動向を見据える上でも大きな見どころとなるだろう。

だがよくよく考えてみると、何年か前まで携帯電話会社は3社以上存在していたし、PHSも含めればもっと多くの数が存在した時代もあった。それがなぜ、現在の大手3社体制に集約されていったのかを、改めて振り返ってみたい。

一般消費者向けにサービスを提供する携帯電話会社はかつてNTTの携帯電話事業、その後独立したNTTドコモのみであったのだが、1988~1989年にかけてKDDIの前身となる、京セラ系の第二電電(DDI)が展開するDDIセルラーグループとトヨタ系の日本移動通信(IDO)の2社が参入。さらに1994年には現在のソフトバンクの前身となるJR系のデジタルホングループ、そして日産系のツーカーグループと、5社が同時に存在していた時期がある。

沖縄でauブランドの携帯電話事業を展開するKDDIの子会社「沖縄セルラー」は、かつて存在したDDIセルラーグループの名残りでもある

だがこれらの会社が、現在のように全国で同じように競争をしていたわけではない。かつては同じ地域に参入できる携帯電話会社の数が限られていたため、IDOは関東・中部エリア、DDIセルラーグループはそれ以外のエリアで事業展開をしていたし、ツーカーはDDIと関東・中部で「ツーカーセルラー」、デジタルホングループとツーカーグループは東名阪以外で「デジタルツーカー」として共同事業展開していた。ゆえに実際には東名阪で4社、それ以外では3社、しかも同じ会社に複数のグループが入り混じるという、非常に複雑な競争環境となっていたのである。

加えて1995年には、DDI系のDDIポケット、NTT系のNTTパーソナル、電力系のアステルグループと、3グループのPHS事業者が参入。特に1990年代後半から2000年代初頭にかけては、携帯電話の普及率が急速に高まっていた時期だけあって、携帯・PHSを合わせると、最も多い東名阪エリアでは7社が激しい競争を繰り広げるという状況だったのだ。

ウィルコム、イー・アクセスに足りなかったのは?

だが携帯電話の普及率が高まり市場が成熟していくとともに、各社の競争環境は大きく変化していくこととなる。PHS事業者は「つながらない」イメージの定着によって軒並み不振となり、NTTパーソナルはNTTに吸収され、アステルグループは解散。携帯電話事業者に対しても、KDDIの誕生によるDDIセルラーグループとIDOの統合、日産の経営危機によるツーカーグループの解体、そしてデジタルホングループの親会社である日本テレコムが英ボーダフォンに買収されるなど、再編の波が次々と押し寄せてきたのである。

その結果、携帯電話事業者はNTTドコモ、KDDI、そしてボーダフォンの日本法人の大手3社へと集約されていくのだが、そのことを快く思っていなかったのが、事業者の減少による市場寡占を懸念した総務省である。そこで総務省は2005年に、新規携帯電話事業者の参入に向けた周波数帯割り当てを実施。イー・アクセスが設立したイー・モバイル(後に統合)と、現在のソフトバンクグループに当たる旧ソフトバンクが設立した「BBモバイル」、そして独立系のアイピー・モバイルが免許を獲得することとなった。

だが旧ソフトバンクはボーダフォンの日本法人買収による参入へと方針を切り替え、アイピー・モバイルは資金不足や社内の混乱などによって事業開始前に破産。イー・モバイルだけが純粋な新規事業者として参入を果たす結果となった。また同じ2005年には、KDDI傘下となったものの、auに注力するというKDDIの方針からノンコア事業に位置付けられたDDIポケットが、ファンドの力を借りて「ウィルコム」として独立。その結果、大手3社に独立系の2社を加えた5社による競争がしばらく続くこととなったのである。

イー・モバイルは2005年に電波の割り当てを受けて携帯電話事業に参入。独立系の携帯電話会社としてWi-Fiルーターに力を入れるなど、独自のサービスを打ち出していた

そうした状況が大きく変化したのは2010年前後のこと。2009年にリーマン・ショックの影響を受けてウィルコムが経営破たんし、再建のため旧ソフトバンク傘下となった。また2012年には、資金繰りに窮していたとされるイー・アクセスの買収を、iPhone向けの周波数帯を欲していた旧ソフトバンクが、KDDIとの水面下での争いの末に買収を勝ち取った。その結果、現在の大手3社体制が確立されたのである。

ウィルコムは経営破たん後に旧ソフトバンク子会社となり、その後旧ソフトバンク傘下となったイー・アクセスと合併。ワイモバイルが誕生するきっかけとなった

独立系の2社がサービス継続に至らなかった背景には、携帯電話のインフラが通話が主体の2Gから3G、そしてデータが主体の4Gへと高度化し、高速データ通信を実現するためより多くの基地局を設置する必要が出てきたことで、従来より一層大規模なインフラ投資が必要になったことが挙げられるだろう。独立系の2社は資金面での基盤がぜい弱だったため、資金繰りでつまづき旧ソフトバンクへと吸収されたわけだ。

こうした歴史を振り返ると、楽天が第4のキャリアとして新規参入し、生き残り続けるためには十分なインフラ投資ができる豊富な資金力と、そのインフラ投資継続できるだけの顧客基盤をいかに構築できるかが、強く求められるといえる。ある程度企業体力のある楽天とはいえど、ゼロからインフラを整備するのに必要な投資はけた違いなものとなるだけに、この難題をいかにクリアできるかが楽天の成否を決めることとなりそうだ。

日本郵政が4000億円の減損計上、豪トール買収の何が問題だったのか

日本郵政が4000億円の減損計上、豪トール買収の何が問題だったのか

2017.04.26

日本郵政は2016年度決算で4003億円の減損損失を計上する。2015年に6200億円で買収した豪州の物流企業「トール」の業績が悪化し、同社の損益見通しを見直した結果としての措置だ。日本郵政の連結最終損益は、3200億円の黒字予想が一転して400億円の赤字に転落。果たしてトール買収の何が問題だったのか。

減損計上を発表する会見に詰め掛けた報道陣。もともと広い部屋ではないが、日本郵政本社ビルの会見室からは人があふれた

減損計上の背景は

トール(Toll Holdings Limited)の事業内容は、①豪州国内物流事業、②国際フォワーディング事業、③コントラクト事業の3つに区分できる。フォワーディングとは物を運ぶ際にさまざまな手続きなどを一括して請け負うサービスのこと。コントラクト事業とは荷主企業から物流業務の一部あるいは全部の委託を受ける事業で、サードパーティロジスティクス(3PL)とも呼ばれるビジネスだ。日本郵政による買収決定時の資料を見ると、トールはアジアパシフィック地域で高いプレゼンスを持ち、多国籍企業経営の経験も豊富なのだという。

トールの営業損益は、資源価格の下落と中国・豪州経済の減速で悪化した。収益性低下は主に豪州国内物流事業の不振が原因だが、国際フォワーディング事業の損益も赤字だという。

トールは景気拡大期に100件を超すM&Aを行って成長を遂げた企業だが、バックオフィスやオペレーションなどの統合が不十分で、ITシステムや組織が重複するなど、固定費の比率が高いという弱みがあった。豪州が景気減速期に入り、コスト競争力の低さというトールの弱みは顕在化し、高い固定費が同社の利益を圧迫した。

巨額の減損計上に結びついたトールの買収。日本郵政は今後、トールをどうするつもりなのだろうか。

今後、トールをどうするのか

減損計上を発表した会見で、トールを“高値づかみ”したことを率直に認めた日本郵政の長門正貢社長。同氏が買収決定時に社長だったわけではないが、当時の判断として、豪州経済の見通しに甘さがあったという見方については否定しなかった。トール買収で「不幸だった」点は、「高い買い物」だったことと「トールが豪州の企業であったこと」だと長門氏は語った。

記者会見に臨む日本郵政取締役兼代表執行役社長の長門正貢氏

今後、日本郵政はトールをどうするのか。長門氏は海外展開に注力する日本郵政の姿勢は「いささかも変わらない」とし、トールは海外展開の中核であり橋頭堡であり続けると断言した。トールの改革としては、2017年1月に経営陣を刷新しており、今後は2000人の人員削減などリストラを進め、同社を「筋肉質」な企業にしていくという。

そもそも、日本郵政が海外の大型買収案件に手を出した背景には、総合物流企業として発展していくためには、国内市場だけを相手にしていたのでは成長余地が乏しいとの判断があった。「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命保険」で利益の大部分を稼ぎ出す日本郵政グループだが、国内の郵便市場が縮小を続けるなかで、「日本郵便」の成長の場として海外に目を向け、トールの買収に踏み切った形だ。

トール買収の際は、シナジー効果の見えにくさを懸念する声もあったという。日本郵政は今後も、海外事業の拡大に向けて国内外でM&A案件を検討していく様子だが、今後のM&Aでは、シナジー効果が明確化されているかどうかに厳しい視線が集まりそうだ。