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2019年に国内パソコン市場を揺るがす、3つのプラスと1つのマイナス

2019年に国内パソコン市場を揺るがす、3つのプラスと1つのマイナス

2019.01.07

2019年のパソコン市場が活況になり得る3つの理由

中国を締め出した米調達基準が国内PC業界にも影響

懸念は2018年から続くインテルのCPU供給能力か

2019年のパソコン市場は、好調な1年になりそうだ。

というのも、パソコンを取り巻く環境には、3つの大きな出来事が追い風となって吹くからだ。

Windows 7終了ではXP終了問題の教訓が活きる

1つは、2020年1月14日にWindows 7の延長サポートが終了し、新たなOS環境に移行するための特需が顕在化する点だ。特に今年の後半以降は、この需要がより一層、伸びてくると見られている。

Windows 7のサポート終了が迫る。XPでは混乱もあったが今回はスムーズ?

日本マイクロソフトは国内で、Windows 7の延長サポートが終了する2年前の2017年1月から新たな環境への移行に向けたプロモーション活動を積極化していた。過去、Windows XPのサポート終了時に発生した「不要な特需」(日本マイクロソフト・平野拓也社長)の轍を踏まないため、前倒しで移行を行ってもらうための仕掛けをしてきたわけだ。その取り組みの成果が順当に表れ、大手企業では既に95%がWindows 10に向けた移行を開始しており、また自治体の97%がWindows 7のサポート終了時期を認知しているというデータも出ている。

Windows XPでは、延長サポート終了直前に需要が集中しまったことが不味かった。期間内に新たな環境へ移行することが優先されたため、予算の関係上、普及価格帯の性能が充分ではないパソコンを導入したり、そもそも品不足の影響で、新たなパソコンが導入できなかったりした。市場全体でも、サポート終了後になっても2カ月間にわたって、前年実績を上回る台数のパソコンが出荷されるといった「問題」が起きていた。

本来ならば、生産性やビジネスモデルなどを考慮し、時間をかけて導入機種を検討するべきだったところが、単なる準備不足というつまらない理由で後回しになってしまったという反省がある。

極端に需要が集中して、業界全体がその対応に追われるという状況に陥らないためにも、ここまで認知度をあげてきた日本マイクロソフトの取り組んできた現状は、評価される結果だといえるだろう。

だが、その一方で、中小企業のサポート終了に対する認知度が57%と、まだ低いままに留まっているというデータもある。

日本マイクロソフトでは、2020年1月の延長サポート終了時には、Windows 10の利用率を90%にまで高める方針を打ち出しているが、2019年前半までに中小企業および地方都市における認知度をどこまで高めることができるか、そして、2019年10月の消費増税前の時点で、Windows 10の利用率をどこまで高めることができるかが、この目標を達成するための道標になっている。

同社では、中小企業向けのキャラバンを日本各地で開催している最中であるほか、早期導入企業向けのキャッシュバックキャンペーン(すでに終了)や、新たなIT環境の整備に向けた公的支援制度に関する情報提供および申請支援なども積極化させることで、新たな環境への移行を促進していく考えだ。

2つめは、2019年10月に予定されている消費増税の影響だ。

2014年4月に消費税率が8%に引き上げられたとき、パソコンには空前ともいえる駆け込み需要が発生した。Windows XPの延長サポート終了と時期が重なり、2013年度は、国内パソコン市場としては、過去最高の出荷台数を記録した。

今回の消費増税のタイミングも、Windows 7のサポート終了時期と近いため、この2つの需要が重なりあうことが想定される。

2019年10月の消費税率10%への引き上げは、前回同様に、パソコンの駆け込み需要に拍車をかけることになるだろう。

中国を締め出した米国基準の採用も追い風?

そして3つめは、2019年4月からスタートする防衛省および防衛装備庁における新防衛調達基準の試行導入の影響だ。

対象となるのは、防衛省と取引がある約9,000社の企業。あまり話題にはなってはいないが、大事なのはここからで、この試行導入をきっかけに、将来的には政府調達の新たなルールが生まれる可能性がある。

実は、ここで採用される新防衛調達基準は、米国政府が採用している「NIST SP800-171」に準拠したものである。

米国の中国締め出しの影響は日本にも

このNIST SP800-171は、米国政府機関が調達するIT関連製品や技術を、開発および製造、販売する企業に対して、一定のセキュリティ基準に準拠するように求めるガイドラインであり、14分野109項目にわたる具体的なセキュリティ要件を示し、米国政府機関が使用する機器などをハッキングされにくいよう環境整備し、取引先からの情報漏えいを阻止することを目指している。米国政府による中国ファーウェイ製品の締め出しが世界中に激震を与えているが、この基本的な考え方もNIST SP800-171がベースになっている。

米国では、政府調達に関わるあらゆる企業がこのルールに準拠することになっており、開発や生産に関わるパートナー会社はもちろん、それらの企業の孫請け、孫孫請けといった企業、さらには政府に納める製品の物流会社や管理会社なども同様に、このガイドライン準拠の対象になっている。

日本ではここまでの徹底はしていないが、防衛装備庁では、「調達に関しては、一般企業を含むサプライチェーン全体において、機微な情報を守る必要がある。そのためには、防衛調達における契約企業に適用されるセキュリティ基準を、同盟国である米国の新たな基準と同程度まで強化する必要がある」と説明。サプライチェーンに関わる多くの企業が対象になることを示唆している。

2019年4月からの防衛省での試行導入を経て、その後の本格導入、そして政府全体の調達基準にもこの仕組みが採用されるようになると、NIST SP800-171に準拠した仕様のパソコンなどを利用する必要があり、日本国内のあらゆる企業で使用されているITシステムが見直される可能性も出てくる。それによって、パソコンの買い替え需要なども発生することになるだろう。

専門家は、「将来的には、NIST SP800-171のガイドラインを満たしていなければ、政府入札だけに留まらず、企業間の様々な取引からも除外される可能性がある。どんなITシステムを使っているかが、取引を左右することになり、それは多くの企業経営にも影響するだろう」と警笛を鳴らす。

そのほかにも、パソコン市場では、2020年の小学校でのプログラミング教育の必修化に向けた子供向けパソコン需要の喚起、5月1日からの新元号施行に伴う、ITシステムの改修による新たな需要の創出のほか、2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けた景気上昇も追い風になりそうだ。

不安はインテルの生産能力、ほぼ通年続くCPU不足

一方で、パソコン市場を取り巻く環境のなかで、懸念すべき出来事が1つある。

それは、米インテルのCPU(中央演算処理装置)の供給不足の問題だ。

米インテルのCPU供給が旺盛な需要に追い付いていない

2018年夏頃から、インテル製CPUの供給が需要に追いつかず、それに伴い、業界全体でパソコンの生産にも遅れが出るようになった。

同社ではその理由について、パソコンやデータセンター向けサーバー製品の需要が予想を上回り、生産が追いついていないことをあげている。

実際、米インテルの最新四半期(2018年7~9月)の業績を見ても、ノートPC向けCPUの売上高は前年同期比13%増、デスクトップPC向けも前年同期比9%増と高い伸びを示している。明確に需要が拡大しており、そこに供給が追いつかないという現状が裏付けられる。

米インテルは生産能力の増強に向け、当初計画の設備投資に加えて、新たに10億ドルの追加投資を行う方針だ。米国とアイルランド、イスラエルの工場おいて、特に供給不足となっている14nmの生産プロセスによるCPUの生産能力を増強する。

だが同社によると、その効果が出るのは2019年のクリスマス商戦を待たなくてはならない。つまり、2019年のほぼ通年を通じて、CPUの供給問題は発生するという見方もできる。

日本は他国に比べ、Windows 7から新たなOS環境へと移行するパソコンの台数が多い。その上、固有の事情として2019年10月の消費増税前の駆け込み需要が見込まれる。CPUの潤沢な供給を2019年のクリスマス商戦まで待たなくてはならないということになれば、駆け込み需要や、新OS移行にも支障が出ることになる。CPU不足の問題は、日本の特需に水を差す可能性があるのだ。

日本は単価が高いパソコンの販売比率が高いため、外資系パソコンメーカーの場合、部品が品不足になったときには、収益性の高い日本市場向けパソコンに優先的に回すとことが一般的ともいわれる。それでも世界的に旺盛な需要によって調達量に限りがあれば、日本での需要に対応しきれないという事態に陥りかねない。

インテルに対抗する立場にある米AMD(Advanced Micro Devices)は、新型CPUの「Ryzen」が注目を集めており、絶好のビジネスチャンスが巡ってきたともいえるが、インテルとAMDではそもそもの企業規模が大きく違い、供給をカバーするにも限界がある。

インテルに対抗する立場で、新型CPU「Ryzen」が好評のAMD社はチャンスだが…

2019年に見込まれる旺盛なパソコン需要に対応しきれるだけのCPUが、国内パソコン市場に供給できるかどうかは、業界全体にとって悩ましい問題となる。

エバンジェリストからアドボカシーへ、MicrosoftとIBMが進める開発者起点のIT変革

阿久津良和のITビジネス超前線 第7回

エバンジェリストからアドボカシーへ、MicrosoftとIBMが進める開発者起点のIT変革

2018.12.18

デジタルトランスフォーメーションは世界的な潮流

重要な役割を果たす「デベロッパー・アドボカシー」とは?

大きなデジタル変革、日本企業が”また”乗り遅れないために

昨今のIT企業では、「エバンジェリスト(伝道師)」ではなく「デベロッパー・アドボカシー」「デベロッパー・アドボケイト」という肩書きを目にすることが多い。本来は、その権利を代弁・擁護し、権利実現を支援する「アドボカシー(advocacy)」の実践者を指す言葉だが、昨今のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の潮流で欠かせないキーワードとなりつつある。今回は大手IT企業でアドボカシー職を務める2人の著名人に話をうかがった。

エバンジェリストからデベロッパー・アドボカシーへ

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)でデベロッパー・アドボカシー事業部を統括する大西彰氏は、エバンジェリストとデベロッパー・アドボカシーの違いについて次のように説明した。「エバンジェリストはテクノロジーとマーケティングのハイブリッドで、世界観や製品の良いところを1対大勢で主張する。デベロッパー・アドボカシーは現実の開発者と1対1で向き合う。例えば(機能が正しく)動作しないといった悩みに開発者と同じ目線で受け止め、その声を本社へフィードバックする」。つまりエバンジェリストもデベロッパー・アドボカシーも対する相手は顧客でありながら、その役割は似て非なる。

日本IBM デジタル・ビジネス・グループ デベロッパー・アドボカシー事業部 Tokyo City Leader(事業部長) 大西彰氏

日本マイクロソフト(日本法人)からマイクロソフトコーポレーション(本社)直属の組織に席を移し、デベロッパー・アドボカシー職を務める寺田佳央氏も同様の説明を行いつつ、「私の中では(エバンジェリストからデベロッパー・アドボカシーへ)肩書きが変わっても、取り組む内容や姿勢はさほど変わっていない。Javaを盛り上げる上でコミュニティと良好な関係を築くことが大切で、Javaエバンジェリスト時代から開発者との会話や交流をとても大切にしてきた」と振り返る。奇しくもその発言は大西氏も同様で、「本質は変わっていない。振り返ると日本マイクロソフトのエバンジェリスト時代もデベロッパー・アドボカシー的な活動だった」と語る。

マイクロソフト デベロッパー・リレーション クラウド+AI リージョナル・デベロッパー・アドボカシー 寺田佳央氏

ここから見えるのは、顧客に寄り添うという顧客ファースト視点を両者とも重視しており、その意識を具現化したのがデベロッパー・アドボカシーという役割なのだろう。

ここで両者の背景を説明したい。大西氏は日本マイクロソフトで約12年、エバンジェリストなどを務め、2017年10月から日本IBMに移籍。IBMは「本社CEOのGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)やCDO(Chief Digital Officer)のBob Lord(ボブ・ロード)も開発者にコミットすることを明言」(大西氏)しているように、開発者への関与を強化し、現在約200名のデベロッパー・エコシステムグループで広域な情報発信や個別の重要顧客を支援する活動を行っている。同社は主要なビジネス拠点にリーダーを配置しているが、東京の拠点は少数精鋭でデベロッパー・アドボカシー、プログラムマネージャーらが活動中だ。

寺田氏のJavaに関する活動は、以前の日本オラクル時代から有名であったが、2015年7月に日本マイクロソフトへ移籍。とあるイベントへ参加した際、「以前のマイクロソフトとは大きく変わった」という印象を持ったのが最初で、さまざまな開発言語に積極的に対応したMicrosoft Azureの可能性に惹かれたことで籍を移したという。Unix や Java の文化しか知らない自分だからこそ、そして代表的なマイクロソフトの競合企業 (Sun Microsystems) に勤めていた自分だからこそ、大きく変わったマイクロソフトの今を伝えられると考えた。そして「『Microsoft Love OSS !!』のメッセージを日本全国の開発者・運用者の皆様にお届けしたい」(寺田氏のブログより言葉を抜粋)と自身の役割を語っていた。現在、寺田氏もマイクロソフトコーポレーション所属で、千代田まどか氏(ちょまど)と共に日本リージョン(地域)担当のアドボカシーとして活動している。

日本はやっぱり遅れ? デジタルトランスフォーメーション

さて、各社がデベロッパー・アドボカシーという役割を設ける理由だが、背景には世界的なDXの潮流が大きい。デジタルテクノロジーで企業の変革を起こすには、ソフトウェアによる最適化が必要だが、そのソフトウェアのコードを書く開発者は特に日本で軽視されがちだ。

ビジネスリーダーとソフトウェア開発者の両者が「両輪」となってサービス開発を共に進めるのが理想ながらも実現していない。トラディショナルな企業の縦割り構造や旧態依然の企業文化など、DXが進まない理由は多岐にわたるが、この状況について大西氏は、「専門家の皆さんは難しく語っているものの、とどのつまり『(1)無駄な時間を省いて、(2)最初に全体を判断し、(3)どこからでもアクセスできる』。この3つが重要」と指摘する。

他方で両社に共通するのがクラウドの存在だ。日本IBMは「IBM Cloud」、日本マイクロソフトは「Microsoft Azure」を持つプラットフォームベンダーだが、クラウドの主役はSaaSなどクラウド上で動作するサービスであり、サービスを開発する開発者が最重要となる。そのため日本IBMは、現実世界のシナリオに則したオープンソースのアプリケーション集「IBM Developer Code Patterns」を運営して、「開発者の目的にあったシナリオを見つけて頂き、素早く試してもらう道を作る」(大西氏)活動を続けてきた。また、2018年6月11日に開催したThink Japan IBM Code Dayには3,000人以上が来場。他社ベンダーも参加する同社としては史上初のイベントに対して、「古くからお付き合いのあるパートナー様からは『IBMも変わった』というポジティブなフィードバックを頂いた」(大西氏)。

このように開発者コミュニティに対する積極的な姿勢は、日本マイクロソフトも同様だ。日本マイクロソフトの年次イベントである、de:code や Tech Summitでは、WindowsやOffice、.NETと言った既存のマイクロソフト製品・技術のコミュニティやファンをとても大切にしながらも、さらに今では当たり前のようにOSS に関連したセッションも数多く行われている。また、寺田氏はMicrosoft MVPに代表されるインフルエンサー支援やコミュニティへ積極的に参加している。

そして寺田氏の今の活動には、デベロッパー・アドボカシーへ就任する前の経験が、大きな影響を与えていると言う。「2年ほど前までは、プレゼンで発表することが業務の中心だった。それが、昨年よりお客様の実ビジネスの課題を、目の前で直接解決していく“ハックフェスト”を実施するようになった。もちろんプレゼンはとても重要で今後も実施していく。しかし、テクノロジーの領域によっては、約1時間のセッションで伝えることが難しい技術もある。たとえば、Kubernetesのような、開発手法、運用方法、DevOps、マイクロサービスのように多岐にわたるノウハウが必要な技術だ。ハックフェストは、プレゼンより多くの時間を掛け、アーキテクチャや実際のコーディング内容を確認し、操作方法でつまずくポイントを詳細に説明できる。実際に参加されたお客様やコミュニティ・メンバーが短期間で著しい成長される姿を目の当たりにし、この取り組みは素晴らしいと感じたと共に、この体験が私自身も大きく成長させた。そしてアドボカシーになった今も、コミュニティに向けてハックフェストを実施している」と、開発者と同じ目線で語る重要性を力説する。

寺田氏はデベロッパー・アドボカシーとして、「私自身は顧客が幸せになることを考えて、顧客が作りたいシステムに関する情報や技術をお届けしたい。その結果として日本IT市場が前進する活動を続けたい」と抱負を語る。大西氏も「IBMはさまざまなテクノロジーにコミットしている。開発者に対してオープンであるイメージを伝えて『ファン』になって頂きたい。個人的には日本のDXを加速させるために顧客支援を続けていく」(大西氏)と述べ、コミュニティや顧客に対する支援と、日本企業のDX推進を目指す姿勢を示した。

各社は開発者起点のエコシステム拡大を展望

お二人の取材を通じて感じたのは、ソフトウェア開発者の重要性である。筆者も以前はプログラマーとして働いた経験を持つが、今思い返せば恵まれた環境とは言い難かった。各所で叫ばれているDXの本質はワークフローを最適化するサービスにあり、サービスを開発するソフトウェア開発者にある。それを理解しているIT企業は開発者起点のエコシステム拡大を踏まえて、デベロッパー・アドボカシーの活動を始めているのだろう。

阿久津良和(Cactus)

インテル日本法人にソニー出身の新社長、船出するスズキ丸が直面する課題とは

インテル日本法人にソニー出身の新社長、船出するスズキ丸が直面する課題とは

2018.10.25

半導体大手のインテル、日本法人の次期社長に元ソニーの鈴木国正氏

異例の外部登用となった新社長、成長分野へ事業の転換を担う?

今後は自動車や5G、IoT、データセンターなどPC以外が成長のカギ

半導体メーカーIntelの日本法人となるインテル株式会社(以下IJKK=Intel Japan KK)は、10月24日に東京都内で記者会見を開き、同社の新社長に鈴木国正氏が11月1日から就任することを明らかした。

IJKKの社長は、今年の3月末に前社長となる江田麻季子氏が退任したことが明らかになってから、IntelのEMEA地域の事業部長を務めていたスコット・オーバーソン氏が、暫定的に務めてきた。だが、オーバーソン氏は暫定社長という扱いで、本格的な次期社長をこれまで探してきたというのが経緯となる。

そのIJKKの新社長に就任する鈴木国正氏は、ソニー株式会社でキャリアを積んできた経営者で、最終的にはソニーの携帯電話事業子会社のソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社の社長 兼 CEOにまで上り詰めた後、今年の3月にソニーを退職していた。ソニーモバイルでモバイル事業に関わる前には、PlayStation向けのネットワークサービスの立ち上げ、さらに99年~00年代にはソニーのPC事業「VAIO」事業の副本部長、最終的には事業本部長に昇格してVAIO事業をリードするなどしており、その頃は顧客としてIntelに関わってきた。

左から鈴木氏の直接の上司となる米Intelセールス&マーケティング統括本部副社長 兼 グローバル・マーケッツ&パートナーズ 本部長 シャノン・ポーリン氏、インテル株式会社次期社長の鈴木国正氏、インテル株式会社 代表取締役社長 スコット・オーバーソン氏

なぜ内部昇格ではなかったのか、その舞台裏

IJKKの社長が鈴木氏に決まったということを知った時に、筆者が抱いた正直な感想は、「今回は内部昇格ではないのだ」ということにつきる。

というのも、歴代のIJKKの社長は、本社から赴任してきた場合を除き、ほとんどはIJKKからの内部昇格だったからだ。直近の江田麻季子前社長は、IJKKでマーケティング本部長を務めた後、アジアパシフィック地域でマーケティングに従事し、その後IJKKに戻り社長に昇格した。江田氏の前任者になる吉田和正氏も、IJKKで各事業部の事業本部長などを経験した後、IJKKの社長に昇格した。それ以前の傳田信行氏、西岡郁夫氏なども、いずれもIJKKの内部からの昇格となっており、暫定的に本社の副社長が務めていた時期を除けばほとんどが内部昇格で社長を出しているのが同社の歴史だ。

なぜ今回は内部昇格ではないかと言えば、江田麻季子前社長の退任がIntelにとって想定外の事態だったからだと考えることができる。江田氏の退任理由は明らかにされていないので詳細は不明だが、これまでの社長交代時は慣例として、前任者と後任者がそろって記者会見に臨んでいたことを考えれば、Intelにとって後任者も決まらない中での社長交代劇は「想定外」だったと言っていいだろう。

江田氏が社長になった後、江田氏と同じ時期に社長候補だと考えられていた二人の副社長は相次いでIJKKを去っている。つまり、幹部の世代交代がこの時に方針として決まったため、他の候補者は社を去ったのだと考えられる。そして、江田氏が社長の間に社内から後任者を決め昇格させ、円滑な世代交代が進められるはずだったが、そのシナリオは江田氏の突然の退任ですべて狂ってしまった、そう考えることができるだろう。

そこで、社外から社長が招請されることが決まり、その人材として、ソニーの幹部の一人として経営経験も豊富な鈴木氏が次期社長として選ばれた、そういうことだろう。今後は、「次の次」を見据えた人事もどこかのタイミングで行なわれることになると見る。

日本でPC事業の強化が一筋縄ではいかなくなる理由

新社長は荒波に向かうことになる?

これまで、IJKKの存在価値は日本のOEMメーカーを手厚くサポートし、鈴木氏がいたソニーVAIOがそうであったように、世界でも注目されるユニークでイノベーティブな製品の販売につなげるというところにあった。そこが本社からも評価されてきたのだが、その状況は大きく変わりつつある。というのも、日本からグローバル市場向けPCを大規模に販売するメーカーが事実上なくなりつつあるからだ。そうした中で鈴木新社長は、これまでは調達先として関わってきたIJKKの中に落下傘社長として舞い降りることになる。与えられることになる課題は決して簡単ではない。

Intelの地域子会社の売り上げのカウントは、その地域に存在するOEMメーカーがどれだけCPUを買ってくれたのかで決まってくる。例えば、DellやHPのようにグローバルにビジネスを行なっているPCメーカーが、IntelからCPUを買ってPCを製造して、日本で100万台を売ったとする。その売り上げはIJKKにつくのかというと、そんなことはなくて、米国本社の売り上げになる。同じように、AcerやASUSなどの台湾メーカーが日本でPCを売ったとしても、台湾Intelの売り上げとしてカウントされ、IJKKの売り上げにならない。

では、日本のPCメーカーにCPUを売ればいいではないかということになると思うが、問題は、実質的にグローバルに大規模にPCを販売する日本のPCメーカーというのが既になくなりつつあることだ。NEC PCと富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は既にLenovoの傘下になっており、今のところ両社とも売り上げはIJKKにカウントされているが、どこかのタイミングでそれがLenovoに切り替わって、中国Intelにカウントされるようになってもおかしくない。そして日本のメーカーの中では最大シェアを誇っていた東芝クライアントソリューションも、現在はシャープの子会社、もっと言えばその親会社の台湾ホンハイ社の孫会社となっている。今後それが台湾Intelへ移行してもおかしくない。

日本のPC市場は10年代前半の年間1,500万台からは減って年間1,000万台という市場に縮小しているが、それでも1千万台の市場があり、ボリュームとしては決して小さくはないが、今後それが劇的に増えると予想する人はいないし、日本の大手PCメーカーというものがなくなっていくことで、IJKKの役割は日本独自のOEMメーカーのテクニカルサポートという従来の役割から、徐々に変わっていくことにならざるを得ない。つまりIJKKにとってPCビジネスは既に成長市場ではないということだ。

自動車や5G、IoTなどの新分野を増やすことが課題に

このため、今後IJKKにとって重要になってくるのは、PC以外の分野への売り込みだ。特に、日本に残された最後の巨大コンシューマ向け製造業とされている自動車向け半導体の販売は、IJKKにとってもこれから最重要な分野になる可能性が高い。

自動車メーカーは単に車に搭載されるエッジ向けの半導体だけでなく、自社で設置するデータセンターなどにも多大な投資を行なっている。言うまでもなく自動運転は、自動車単体では実現できず、自動車メーカーが設置するデータセンターにあるコンピューティングリソースと協調しながら運行されるからだ。

また、今後は自動車メーカーが通信キャリアの基地局近くに設置していくエッジサーバーなどでも新しいビジネスチャンスがあると考えられる。既にIJKKはトヨタ自動車と協力して、エッジサーバーの規格を提案する取り組みを行なうなどしており、次のステップに向けて自動車メーカーとの協業を強化している。そうした取り組みを強化して、自動車メーカーとの取引を拡大できるか、それがIJKKの生き残りにとって重要な鍵となるだろう。

これ以外にも、5Gソリューション、そして自動車以外のIoT、さらには現在のIntelの稼ぎ頭であるデータセンター事業など、PC以外の事業がこれからのIJKKにとっては重要分野となっていくはずだ。こうしたビジネス環境の中で、鈴木氏がどのようにIJKKの舵取りをしていくのか、その手腕に注目が集まることになる。