「Credit Tech」の記事

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。

Credit Tech(クレジットテック)とは?

まるわかり! Credit Tech 最前線 第1回

Credit Tech(クレジットテック)とは?

2018.09.18

産業革命以前から信用とそれに伴う金融サービスは多面化を続けてきた

現代ではあらゆる資源の取引量が爆発的に増大

すべての商取引の前提を覆すほどのダイナミックな動きが起きている

「信用スコア」や「評価経済」という言葉を耳にしたことはないだろうか。

現在、日本では「信用」に意識を向けなくとも、国民のほとんどは不自由ない生活を送れる。会社に勤めていればローンを組めるし、現金を持っていれば買い物ができるだろう。そのため、信用を意識する人はあまり多くない。現金の信用が極めて高いお国柄にも、その一因がありそうだ。さらに遡れば、単一民族の村社会を起源とする国民性が、信用を意識することが少ない根本原因かもしれない。

一方で、日常的に「信用」を意識する国もある。アメリカでは、1950年代後半からクレジットカードが浸透し、現在でもその存在感は大きい。「クレジットカードでどこまで支払えるのか?」は一種のステータスシンボルであり、特に金融の領域で、享受できるサービスや待遇を左右する大きな因子となっている。この意味で、クレジットカードは「信用スコア」を見える化した先駆けとも言えるだろう。

アメリカに限らず、クレジットカード(≒信用スコアという考え方)は世界各地で展開され、スコアを上げる、スコアを下げないという感覚もかなり浸透している。「信用」の高低を意識した生活は、すでに日常に溶け込んでいるのだ。

そして近年、日本でも「信用」を取り巻く動きが活発になってきたように感じる。

本連載では、「テクノロジーを用いて、信用情報を新たに創造し、精緻化すること、そして新たな信用を基盤に新しいサービスが成立するビジネス領域」を『Credit Tech(クレジットテック)』と呼び、紹介していく。

第1回の今回は、「信用」に関わるビジネスが盛り上がりをみせる背景を、時代の流れから読み解いてみたい。

なぜいまクレジットテックが注目されているのか?

近年、急速に多面的な担保がなされるようになってきたように見える「信用」だが、実はこれまでの人類の歴史においても、商取引の活性化に伴い、信用の担い手と信用を担保する情報は多面化してきている。まずは、その変遷を簡易的に紹介しよう。    

【産業革命以前】国(教会)が「身分と土地」によって信用を担保
17-18世紀の産業革命以前の西欧列強では、信用とそれに紐づく金融事業は、主に国(や教会)が保証する身分や土地所有によって担保されるものだった。商取引が現代ほど多方面ではなく、流通させるべきお金の総量もそう多くなかったことに加え、貸し付けは国によるものが中心だったため、身分、土地といった限られた情報や資産を担保にするだけで、十分経済が回っていた。

【産業革命後】中央銀行が「所有財やサービス」から信用を担保
産業革命を迎えると多くの資本家が生まれた。彼らは一市民でありながら財を蓄え、これまで以上に多くの取引やサービスの提供を担うようになる。それに応じて、従来の身分や土地以外にも、所有する財やサービスが富の源泉と捉えられるようになった。つまり、土地所有や身分以外に信用を担保する資本が誕生したのだ。

これに伴い、増大する財やサービスを担保とした金融サービスが提供されるようになり、イングランド銀行を走りとする中央銀行がその役目を担うことになった。部分的な銀行業や個別の貸し付けは古来より存在していたが、財やサービスが信用、金融に値する資本として公に共通認識されたのはこの頃が初めてだった。

【1950年代】クレジットカードが誕生し、信用情報機関が「利用/支払い実績」から信用を担保
近代になると、本来お金を保有する個人/法人の購買機会損失を補うため、現金がなくとも同等に信用が付与されサービスを受けられる汎用的な仕組みとして、「クレジットカード」が作られた。商店ごとに独自に提供するいわゆる"ツケ"は以前より存在していたが、多くの商店で汎用的に利用できる後払いの仕組みはクレジットカードが世界初である。

クレジットカードは、利用開始時にはその個人/法人に対して国・銀行が担保する従来の資本を信用の前提とするが、実績が蓄積されるにしたがい、「利用/支払い実績」が信用を担保するようになる。クレジットカードの実績に紐付いた信用と、それを担う信用情報機関の誕生である。

このように、信用とそれに伴う金融サービスは、「従来の信用情報を基盤とする仕組みだけでは、スムーズかつ誠実な取引を行うにあたり、摩擦が大きくなる」という事態に直面するたびに、信用の担い手と信用を担保する情報を多面化させてきた。そして現在、その新しい波が来ている。

【現在】各民間企業が保有する「さまざまなビッグデータ」により信用を担保
インターネットの登場に代表される近年のテクノロジーの発展に伴い、顔の見えない相手との取引や、CtoCマーケット、グローバル展開するECサービスなど、これまでにない新しい取引形態が多数成立した。結果として、個人/法人を問わず、ヒト・モノ・カネ・情報など、あらゆる資源の取引量が爆発的に増大している。

それに対して、国や銀行や信用情報機関が担保してきた従来の信用のあり方だけでは、担保の質・スピードともに、不十分になってきている。例えば、国を跨いでの取引には、ある特定の国や銀行が保証する信用では不十分だし、CtoCにおいてはお互いの信用をわざわざ問い合わせて確認する手間はかけにくい。また、銀行やクレジットカードのアカウントを保有していない人も存在する。ここにきてまた、新たな信用の担い手と信用を担保する情報が必要になった。

そして、テクノロジーの発展した現在においては、民間企業がその担い手だ。各社が競い合うように、自社のユニークなビッグデータをもとに信用を担保し始めている。例えば中国のアリババは、自社サービスの購買歴と決済歴をもとに独自のスコアリングサービスを展開。LINEやメルカリも、自社のプラットフォーム上のコミュニケーションや売買のビッグデータをもとに、新しい信用のあり方を模索している。私の所属するネットプロテクションズも、従来の信用情報に紐付かない自社与信による後払いサービスを展開し、そこで得た1億件以上の購買歴と決済歴をもとにサービス改善や開発を推進することで、増大する商取引をよりスムーズにしている。

ここまで見てきたように、実は信用の担い手と信用を担保する情報はこれまでも増え続けてきた。そのため、信用が多面化していること自体に新しさがあるわけではない。一方で、信用の担い手と情報がここまで急激に、爆発的に増えている状況は、過去に類を見ない。この動きは日本のように、単一民族ならではの暗黙知的信用を強固な基盤とする社会においてですら、すべての商取引の前提を覆す可能性を秘めているほどの、非常にダイナミックな動きなのだ。

なぜいまクレジットテックが注目されているのか?

答えは明快だ。

人類の商取引の基盤が、いままさに、有史最大とも言える規模とスピードで、変革しようとしているからである。

次回は、テクノロジーによって可視化されてきた「新しい信用情報」について、具体的な内容を紹介したい。