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アップルの「サブスクリプション参入」で考える、コンテンツ産業の変化

アップルの「サブスクリプション参入」で考える、コンテンツ産業の変化

2019.04.04

アップルが雑誌・ゲーム・映像のサブスクに参入

現地では発表に「大盛り上がり」、日本との温度差の原因とは

ビジネスの鍵を握る「オリジナリティ」 アップルの戦略は?

3月25日、アップルが雑誌・ゲーム・映像のサブスクリプションビジネスに参入することが発表された。筆者も発表会の場にいたが、ゲストも多彩で、なかなか盛り上がった。

アップル本社内にあるスティーブ・ジョブズ・シアター。アップルはここを「特別な発表会をする場所」と位置づけているが、今回の発表はまさにそうだったのだろう

「え? 盛り上がった?」

日本から配信で発表会を見ていた人は、ひょっとするとそんな疑問を持ったかも知れない。日本ではあまり知らないテレビ・セレブリティが何人も登壇する発表会は、ハードウェアを期待したファンには物足りなかっただろう。

だが現地は、実際「盛り上がって」いた。その「盛り上がり方の違い」に、ひとつのヒントがある。アップルのサブスクリプション参入は、コンテンツ産業に起きている、ある変化を示すものだった。

コンテンツサービスを「アメリカシフト」でスタート

先に、日本で盛り上がらなかった発表会がなぜアメリカでは盛り上がるのかを解説しておこう。

理由はシンプルなものだ。登壇したセレブリティは、アメリカで暮らす人々には非常に馴染み深い人々だったからだ。まあ、当たり前といえば当たり前の答えなのだが、ここに、アップルの現在の戦略が隠れている。

発表会にスティーブン・スピルバーグ監督本人が登場した時には、会場は割れんばかりの歓声に包まれた
アメリカでは非常に著名なテレビ司会者であるオプラ・ウィンフリーも登場。会場は非常に盛り上がっていたのだが、日本から見ていた人には、いまいちピンと来なかったのではないか

アップルは今年の秋に、オリジナルコンテンツを軸にした映像配信事業である「Apple TV+」をスタートする。登壇したセレブリティは、皆、そのオリジナルコンテンツに関わる人々だ。ということは、アップルはまず「アメリカを軸にしたコンテンツを、アメリカの視聴者に向けて提示する」ことで戦おうとしているのだ。

これは、同社としてはある意味で妥当な戦略といえる。

アップルは、Apple TV+の開始に先駆け、5月に、同社の映像視聴系アプリを「Apple TVアプリ」としてリニューアルする。Apple TVアプリ自体はアメリカ専用ではないが、その設計思想はかなり「アメリカのテレビ事情」を考慮したものと感じられる。

アメリカでは、7割の家庭がケーブルテレビネットワークの有料サービスに加入しており、そこを経由して地上波も見ている。それぞれの家庭が有料チャンネルに加入し、時にはスポーツや映画などをペイ・パー・ビュー形式で……という生活をしている。要は日本でケーブルテレビや衛星放送を見ている人と同じような生活だが、それを大半の家庭が行っている、という状況が異なる。

Apple TVアプリには「Apple TVチャンネル」という仕組みがある。これは、ケーブルテレビの有料チャンネル契約をインターネットに持ち込み、Apple TVアプリの中からシンプルに使えるようにしたもの、と言っていい。同様のスタイルはAmazon Prime Videoが先行して始めているのだが、この図式は、特にアメリカの消費者にはわかりやすい。

Apple TVアプリに用意される「Apple TVチャンネル」の構造は、アメリカの消費者には非常に馴染み深いケーブルテレビのビジネスモデルに近い

アップルにとって、アメリカは本国であると同時に最大の需要国だ。そして、映像を中心としたサブスクリプション・サービスは、アメリカを中心に回っている。ケーブルテレビ局や地上波局、ハリウッドの映画会社まで、動画配信を抜きにビジネスを考えるのは難しい状態であり、人々の関心も、「いかに快適にネット配信を見るか」というところにある。

昨今のアップルは、iPhoneなどの中国需要を見込み、かなりの「中国シフト」を敷いていた。だが、中国でのiPhoneのニーズも陰りが見える。そしてなにより、中国はその国の特殊性から、ネットサービスを他国と同じように展開するのが難しい。

となると、アップルが「まずはアメリカ」と考えてサービスを構築するのも無理はない。

「お得さ」よりも「オリジナリティ」が重要

サブスクリプションというビジネス形態は、「オリジナル作品」という点を軸に見ると、新しい切り口が見えて来る。サブスクリプションの契約者は日本にも増えてきたが、月末になると次のようなことを考える人もけっこういるのではないだろうか。

「今月は忙しくてあまり見られなかった。もったいないから解約しようか」「今月はたくさん見たけど、結果として、見たいものをほとんど見てしまったような気がする。解約しようか」

これはとても自然な流れだ。だが、サービス事業者視点でみれば、簡単に解約されてはたまらない。サブスクリプションは「長期間契約が続く」ことによって、売り上げが積み上がることが重要なものだ。

だから各社はコンテンツ調達にコストをかけるが、ここにひとつ問題がある。結局、すでに劇場で公開済みの映画や、テレビで放送済みのドラマなどは、色々なストアに配信ライセンスが提供されるから、あまり大きな差別化にならない。

結局は「そのサービスでしか見れない」「そのサービスでしか遊べない」コンテンツの存在が重要になる。かといって、新しいコンテンツの善し悪しはなかなか判断がつかない。

すなわち、サブスクリプションを継続してくれるかどうかは、「見たいものがある」だけでなく、「ここは自分の好みに合うコンテンツを供給してくれる」という信頼感を築けるか否かに掛かっているのだ。

各社はサブスクリプションで得られた収入の多くをコンテンツ制作につぎ込む。「お得さ」よりも「うちは他と違う」ことのアピールこそが、コンテンツサービスの本道なのだ。考えてみれば当たり前のことである。アップルもそれは変わらない。そうした「コンテンツへの投資の姿勢」をいかに提示できるかが重要だ。

アップルは、ゲームのサブスクリプションである「Apple Arcade」では、すべてオリジナルのゲームにこだわる。特定の開発者に対して「出資」する形で新ゲームの開発を進める。家庭用ゲームのプラットフォーマーがずっと続けていることと同じ努力を、アップルもやることになる。ただ、ひとつの違いは、一本一本ゲームを売るのでなく、「サブスクリプション」によるビジネスになる、ということだ。

映像における「アメリカシフト」も、オリジナルコンテンツ調達という観点で見るとよくわかる。世界最大のコンテンツ生産地はハリウッドだ。ハリウッドとの関係を強めて「アメリカのコンテンツ」を作っていくことは、有力なオリジナルコンテンツ調達という面でも、ある意味効率がいい。多様性には欠けるが、サービス一年目の企業が選ぶ選択肢としては納得できる。

アップルは、自らが持つ資産を担保にオリジナルコンテンツへ投資し、「サービスへの期待度」を煽っている。だから、ハードよりもサービスの発表会をリッチなものにしたのであり、最初の顧客である「アメリカ国民」を重視した展開を行ったのだ。

アップルが口酸っぱく「ユーザーのデータは守る」と言い続けるワケ

アップルが口酸っぱく「ユーザーのデータは守る」と言い続けるワケ

2019.04.03

アップルが実施したスペシャルイベントを振り返る

新サービスで「プライバシー」を強調した理由とは?

アップルは「GAFA」からの脱却を望んでいる

アップルは3月25日(現地時間)、アメリカ・クパチーノにある本社敷地内のスティーブ・ジョブズ・シアターにてスペシャルイベントを開催。4つのジャンルで新サービスを発表した。

同社がハードウェアの新製品を発表することなく、サービスに特化してイベントを開催するのは異例のことだった。ティム・クックCEOは「ハードウェア、ソフトウェア、サービスの3つをすべて手がける会社は我々アップルしかいない」と明言。今後は、iPhoneなどのハードウェアだけでなく、サービスを収益源として強化していく方向性を示した。

アップルのティム・クックCEO

各種サービスでは一貫してプライバシーを重視

発表されたのはニュース・雑誌の読み放題サービス「Apple News+」、クレジットカードサービス「Apple Card」、オリジナル動画配信サービス「Apple TV+」、100本以上のゲームが遊び放題となる「Apple Arcade」となる。
 アップルが2時間弱のイベントで、一貫して主張していたのが、新サービスでもセキュリティ面に配慮し、ユーザーのプライバシーを徹底的に守るというポリシーだ。

例えば、クレジットカードサービス「Apple Card」ではiPhoneにバーチャルなクレジットカードが発行されるのだが、Apple Payで利用しているセキュアエレメントチップにカード番号を書き込むだけでなく、支払い毎にセキュリティコードを生成し、送信して決済する。

また、今回、アップルはApple Payが使えない店舗で支払えるように、チタン製の物理カードも用意するのだが、クレジットカード番号や有効期限などの記載が一切無く、店舗で利用する際、悪意のある店員にカード番号を覚えられる心配が無いものとなっている。

Apple Card

また、発表会では「アップルはユーザーが購入したものを知らない」「アップルはユーザーがどこで買ったか知らない」「アップルはユーザーがいくら支払ったか知らない」とアピール。アップルはユーザー購入データに興味はなく、さらに、提携先であるゴールドマンサックスも、ユーザーのデータをマーケティングツールとして、第3者に共有したり販売したりしないと宣言した。

「アップルはユーザーがいくら支払ったか知らない」

昨今、日本ではQRコード決済が盛り上がりを見せているが、いずれの決済事業者も大盤振る舞いなキャンペーンでユーザーを獲得しようと躍起になっている。いくつかのQRコード決済サービスは、クレジットカードであれば店舗側から徴収する決済手数料が無料だったりする。こうした手数料が無料な背景には、ユーザーの購買データなどをマーケティングツールとして活用するという別の収益源があるからだ。

その点、アップルはユーザーの個人情報を徹底的に守るという考えのもと、こうした購買データをアップル自身が知ることもないし、ゴールドマンサックスが第3者に転売するということもない、とハッキリと宣言しているのだ。

また、ニュース・雑誌の読み放題サービス「Apple News+」においても、「アップルは「ユーザーが何を読んだか知らない」「ユーザーを追跡して広告を出すことは許さない」としている。ウェブのニュースサイトをいくつか回っていると、同じジャンルの広告が出続けることがあるが、これはユーザーの興味を判断し、動きを追跡しているからこそ実現できているものである。

「ユーザーを追跡して広告を出すことは許さない」

アップルでは、こうしたユーザーを追跡して広告を出し続ける仕組みを徹底的に嫌っている。そのため、新サービスでも、こうした動きを排除しようと躍起になっているのだ。

また、ゲームプラットフォーム「Apple Arcade」では、広告やアイテム課金などは提供されない。月額課金制のサブスクリプションモデルであるため「ユーザーからお金をもらうからには広告は出さない」というスタンスのようだ。

また、Apple TV+においても、同じく月額課金制であるため、広告は表示されない。 

「GAFA」からの脱却を図るアップル

アップルが口を酸っぱくして「ユーザーのデータは守る」「広告ビジネスはしない」と力説するのは「GAFAとして一括りにされたくない」という焦りがあるからだ。

GAFAとはGoogle、Amazon、Facebook、Appleという4社の頭文字をとっている。特にGoogleとFacebookはユーザーのデータを元に広告を表示するのがビジネスモデルの中心だ。アップルのティム・クックは「ユーザーの個人情報で商売をしている」と両社を糾弾したこともあった。

アップルでは他の3社とは一線を画し「GAFAではなく、GAFにすべき」という主張を繰り返している。

今回のイベントはアップルが「ハードウェアだけでなく、サービスでも収益を上げていく」という戦略のアピールに加えて、その節々には「グーグルとは全く考えが異なることを世間に広く理解して欲しい」というメッセージが込められていたのだ。

動画配信にゲームにニュースにクレカまで、Appleが2019年に新サービス攻勢

動画配信にゲームにニュースにクレカまで、Appleが2019年に新サービス攻勢

2019.03.26

アップルが動画配信サービスの「Apple TV+」を発表

さらに定額ゲームに定額ニュース、クレジットカードまで

他社の台頭が目立つサービス分野で競合を再追撃へ

米アップルが日本時間3月26日にスペシャルイベントを開催した。

動画配信など新サービスの発表だろうというのが大方の予想だったが、蓋を開けた結果出てきたのは、動画配信サービス「Apple TV+」、定額制ゲームサービス「Apple Arcade」、ニュースサービス「Apple News+」の3つの新サービス。さらにはクレジットカード(に似た何かではなく本当にクレカ)の「Apple Card」まで登場した。バラエティに富む発表内容だったので、少しまとめてみたい。

発表会はアップル本社内にあるスティーブ・ジョブズ・シアター(Steve Jobs Theater)で行われた

Apple TV+

Apple TVアプリで利用できる定額動画配信サービスがこの「Apple TV+」だ。

今回のApple TV+は先行し既に巨大なNetflix、Hulu、Amazonプライムビデオに真っ向から挑むサービスで、アップルの勝算が気になるが、まずはオリジナル番組の魅力で勝負するようだ。以下に同社の発表を引用しておこう。

「オプラ・ウィンフリー、スティーヴン・スピルバーグ、ジェニファー・アニストン、リース・ウィザースプーン、オクタヴィア・スペンサー、J・J・エイブラムス、ジェイソン・モモア、M・ナイト・シャマラン、ジョン・M・チュウなど、世界で最も著名かつクリエイティブなアーティストたちによるまったく新しいプログラムをご用意しています。」

Apple TV+に参加するスティーヴン・スピルバーグ監督がゲスト登壇

ちなみにApple TVアプリ自体も今年5月にアップデートする予定で、iOS端末だけでなくMacでも、さらには他社のスマートTVや、競合するAmazonのFireTVでも利用できるようになる。これによりApple TVアプリがあれば、他社のものも含めて定額動画配信の視聴環境が手に入るというわけだ。

Apple TV+のサービス開始は今年の秋。料金と提供地域もその頃に公開する予定だという。

Apple Arcade

「Apple Arcade」はゲームのサブスクリプションサービス。簡単に言えば追加課金ナシの定額制でゲーム遊び放題というサービスだ。iOS端末やMac、tvOS機器に対応し、リビングで遊んでいたゲームの続きはiPhoneで、といったデバイス間でのゲームデータ共有もできる。

問題はどんなゲームがラインアップされるのかだが、Apple Arcadeに参加するゲームデベロッパーとして名前が挙がっているが、Annapurna Interactive、Bossa Studios、カートゥーンネットワーク、Finji、Giant Squid、KleiEntertainment、コナミ、LEGO、ミストウォーカー、SEGA、Snowman、ustwogamesなど。

SEGAと言えばソニック・ザ・ヘッジホッグ。Apple Arcadeへは今年後半に「Sonic Racing」を提供予定

著名クリエイターの手による、100タイトル以上のオリジナル新作ゲームを独占提供するともしており、ファイナルファンタジーの生みの親として知られる坂口博信氏や、シムシティのウィル・ライト氏らが新作に着手中というアナウンスがあった。アップルはApple Arcade用ゲームの開発費を助成するプログラムを用意し、クリエイターを積極的に囲い込もうとする姿勢も見せている。

提供開始は今年の秋で、日本での提供は明言されていないが、150か国以上での提供を予定しているというので期待したい。

Apple News+

今回の「Apple News+」は、既存のiOS向けニュースアプリ「Apple News」をバージョンアップしたもの。

ウェブニュースや300誌以上の雑誌に加えて、新聞紙面も定額でまとめて購読できるという特徴がある。購読者に合わせて厳選されたニュース記事を提供する新しいサブスクリプションサービスだとしているが、キュレーションやレコメンドでアップルならではの機能が盛り込まれているようだ。

雑誌と新聞が定額で読み放題の「Apple News+」

サービスの定額購読料は9.99ドルからで、米国、カナダ、英国、オーストラリアで展開する。今のところ他の国・地域向けでサービスを提供する情報はないが、国ごとの出版社との契約負担を考えれば日本向けはまだ期待できないかもしれない。

Apple Card

今回の発表で最も意外だったのは「Apple Card」だろう。イシュアを担当するパートナーとしてゴールドマン・サックスと組み、アップルが自社ブランドのクレジットカードを発行する。

Apple Cardの特徴は利用開始までの手続きのシンプルさで、iPhoneからその場で発行でき、そのままApple Payに登録してすぐさま利用できる。もちろん、Apple Payが使えない店舗用などに物理的なクレジットカードも発行できる。

クレジットカードの「Apple Card」。シンプルな券面のチタンカード。高級感が凄いが年会費無料

物理的なカードの方も(特に見た目が)独特で、カードフェイスにデザインされているのはアップルの林檎マーク程度で、カード番号の表記すら無く、色もシルバー基調に揃えられたシンプルで高級感のあるものになっている。しかもプラスチックカードではなく、チタン素材のメタルカードになっていて、気分はまるでアメックス・センチュリオンだ。

チタンカードなのに年会費は無料、還元率は2%(Apple Storeでは3%、物理カード決済では1%)とかなり条件の良いクレジットカードだけに、欲しい人は世界中にいそうだが、残念なことに当初の提供は米国向けのみで、今年の夏に登場予定。