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決済端末で国内トップ、キャッシュレス社会のカギ握るパナソニック佐賀工場

決済端末で国内トップ、キャッシュレス社会のカギ握るパナソニック佐賀工場

2018.10.22

圧倒的シェアを誇る決済端末はパナソニック佐賀工場で生産

パナソニックは事業の垣根を越えノウハウの活用を始めた

グローバルの流れ読みキャッシュレス社会の実現を支援

クレジット決済端末やICカードリーダーなどを生産する、佐賀県鳥栖市のパナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場が、このほど報道関係者に公開された。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場は、1964年に、九州松下電器の佐賀事業部の工場として発足。6万1000平方メートルの敷地に4万3000平方メートルの建物面積を持ち、約230人が勤務。同じ敷地内にあるパナソニック補聴器社や品質革新本部などにいる人を含めて、グループの佐賀拠点全体では約400人が在勤している。

佐賀工場では、同社が取り扱う国内シェアナンバーワンのICカードライターや決済端末のほか、ネットワークカメラ、ネットワークディスクレコーダー、液体冷却機器などを生産。加えてマイクや受信機などの音響機器、スキャナーなどのドキュメント機器、非常放送設備、多言語翻訳用スピーカーマイクやメガホンヤク、光IDソリューション、さらには、パナソニック アプライアンス社が取り扱っているグローバルシェアナンバーワンのコードレス電話機の生産も、この佐賀工場が担う。

佐賀工場で生産されている決算端末
補聴器も佐賀工場で生産されている
POS接続型マルチ決済端末では、ユニット型のJT-R600CRシリーズを生産している
各種クレジットカードの決済に利用
メガホンを兼ねた翻訳機のメガホンヤクも佐賀工場で生産
グローバルでトップシェアのコードレス電話

生産の実証実験を行う場にもなっている佐賀工場

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場の高橋俊也工場長は、「パナソニックには、事業部ごとに生産を行う商品特化の工場が多いなか、佐賀工場は2カンパニー、6事業、17カテゴリーに渡る商品を生産する特殊な工場である。そして事業部直轄工場ではなく、コネクティッドソリューションズ社直轄工場だ」と紹介する。この背景には、直近10年間で生産集約を繰り返し、様々なノウハウが入り交じった拠点として発展してきた経緯がある。事業部が持つ生産ノウハウを、別の事業部の商品に生かすといったことが頻繁に行われている。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場の高橋俊也工場長

また、「老朽化した棟を、2012年に建て直したⅠ棟は、パナソニックの国内製造拠点としては最新のものになっている。1フロアでの一貫生産体制を取り、導線を短くしている。年間生産機種の半分は年3回以下の生産品目であり、100台以下の生産品目が70%を占める異品種少量生産に対応できる拠点でもある。10年前の商品を1台だけでも生産する『お久しぶり生産』と呼ぶ取り組みも行っている。顧客の要望にあわせたカスタマイズ対応、セキュアなモノづくりも実現した、BtoBの生産に最適化した生産拠点であり、日本生産ならではの品質にこだわり、そのノウハウを生かして、様々な商品を生産している」(高橋工場長)という特徴も説明する。

360度カメラで作業者の手元まで映し出すデジドン(デジタルアンドン)の採用などにより、生産活動での工程状態をリアルタイムに可視化。工程パソコンや作業者入力、梱包最終チェックでのデータを収集するなど、パナソニクッグループのなかではいち早くトレーサビリティの仕組みを採用したのも特徴だ。これらのデータを活用して、これまでに蓄積した6億3000万件のデータから、必要なレポートを簡単に作成し、生産活動に反映させているという。

さらに、ロボットの手前ともいえる、自動化を活用したローコストオペレーションにも取り組んでいる。高橋工場長は、「組立の自動化による工数削減や、検査設備のロボット化で省人化と確実な品質確認を実現している。また、音声による保守作業のアシストや、作業者の身体データの活用、深度カメラを利用した動作の定量化、設備の予兆管理など、様々な新規要素やソリューション案の実証実験を工場内で実施している」と説明する。

これらの現場カイゼンとテストベッドの組み合わせによって、体験の場を提供することも可能だ。顧客の困り事を解決できるコア商材をパッケージ化するとともに、パナソニックグループ以外の顧客とつながり、カイゼン活動などのコンサルティングを中心として提案、それを実現するデバイスの販売に貢献するショールーム工場でもある。「顧客の現場に近づき、お役立ちするインテグレーターを目指す」という。

音声による保守作業のアシスト。チェックシートが不要でハンズフリーで点検ができる。時間短縮のほか、記入ミス、検査ミスをなくすことに成功
天井に設置したモーションセンサーを活用して作業者の手順をチェックし、人的ミスの防止につなげる取り組み
USBカメラを利用した検査設備のロボット化で、省人化と品質を確保
HG-PLCを活用した電力線通信技術の検証も行っている

事業の垣根を越えノウハウ活用を始めたパナソニック

佐賀工場は、これまでの生い立ちから、様々な事業部の商品を生産するユニークな製造拠点であるが、こうした事業部やカンパニーをまたいだ形で、お互いのノウハウを活用する取り組みは、佐賀工場に限らずパナソニックグループ全体で始まっているという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モノづくりイノベーション推進室の一力知一課長は、「パナソニックには、グローバルに327の生産拠点があり、これらの工場は1つの指標で管理される一方で、それぞれが持つ文化、テクノロジー、ノウハウという3つの要素を共有する取り組みを進めている」と話す。

たとえば、家電製品は誰もが使えることを前提に開発されるが、そうしたノウハウを工場の生産設備にも応用するといった考え方は、家電メーカーであるパナソニックならではのものだ。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モノづくりイノベーション推進室の一力知一課長

また、製造現場では、通常作業者と熟練者とでは設備の稼働率に差があることをデータから導きだし、その動線の特徴を可視化することで、ノウハウを共有化している。梱包材の設計の際も、シミュレーションデータを元にして、人に負荷がかからないように箱の上半分に手をかけられるようにデザインし、腰部への負担を軽減するといった工夫が凝らされ、これが共有されている。

「基板製造ラインにおいては、検査画像やカメラ映像、設備データを含めて約3TBのデータが発生しているが、このうち記録できているデータは100分の1となる26GB程度。しかも、それから活用されているデータは、300分の1となる0.8GB程度に留まる。こうした多くのデータを活用して、意味があるものや、価値があるものに、どう変えるかを考えていかなくてはならない」とデータ活用の現状を説明する。

こうした生産現場で蓄積したノウハウは、今後、パナソニッグループでの活用だけでなく、パナソニックグループ以外にも提供していくことになるという。

「約60年に渡るパナソニックのカイゼンノウハウと、社内で培った豊富な経営効果実績に基づき、経営課題の抽出や課題解決に貢献したい」と展望を語った。

国内で圧倒的シェアだがガラパゴス事業にしたくない

佐賀工場で生産しているパナソニックの決済端末は、国内シェア7割という高い実績を持つ。

パナソニックでは、1974年に磁気式カードリーダーの生産を開始。小売店などで利用するクレジット決済端末は、1986年の発売以来、188万台を出荷。SuiCaやおサイフケータイなどに対応した非接触型ICカードリーダーは、2003年の発売から累計で155万台の出荷実績を持つという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター法人営業3部総括の田中康仁氏は、「パナソニックはこの分野では老舗企業の1つであり、30年以上の歴史を持つ。自販機、外食、流通、物流のほか、鉄道やタクシーなどの交通、ガソリンスタンドなどのエネルギー分野などにも幅広く導入されており、キャッシュレュ社会の実現に向けて、クレジット決済端末、非接触ICカードリーダー/ライターを提供している」と話す。

コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター法人営業3部総括の田中康仁氏

歴史があるというだけではなく、市場の変化やグローバルの流れを捉え、Apple Payなどの新たなサービスにもいち早く対応しているという。「国内市場が中心のビジネスであるが、技術面では、決して、ガラパゴスの事業ではない」と技術の対応力の高さを説明する。

Apple Watchを使って、交通系カードやApple Payでも利用できる

決済システムは、セキュリティの強化とともに、オムニチャネルにおける連携、セルフチェックアウト、無人店舗といったように利用現場の変化や進化に対応する必要がある。

パナソニックでは、そうした新たなニーズに対応するために、国際ブランドの非接触IC決済に対応した「決済端末のICカード対応」や、国際基準であるPCI PTSのセキュリティ要件「SRED」に対応した「POS接続型マルチ決済端末」の提案に力を注ぐ姿勢を示し、具体的な製品として、POS接続型マルチ決済端末では、ユニット型の「JT-R600CRシリーズ」を投入した。さらに、組み込み型の「JT-R610CRシリーズ」を戦略製品として、力を注ぐという。

また、「多様な決済ニーズへの対応とともに、スマホ設計で培った技術や、組み込み技術、アナログ技術などの特徴を生かすこともできる。スキャンする距離を長く取って、確実に読みとれるようにしたり、スピーカーを大きな音で鳴らしたりといったことも、家電で培ったノウハウなどを活用している」と強みを語る。

「佐賀工場では、PCI P2PEで求められる高度なセキュリティ要件に対応した専用設備、運用が可能になっている。この設備を持っていることも差別化になる」と付け加えた。

キャッシュレス社会の早期実現に積極関与へ

現在、国内のキャッシュレス決済の比率は約20%。今後、これは40%にまで引き上げられるとの見通しもある。政府の方針や外国人観光客の増加とともに、キャッショレス化の進展は加速していくだろう。

田中氏は、「多彩な決済手段に対応した次世代プラットフォームを採用した商品、サービスを順次展開することで、キャッシュレス社会の早期実現を支援する」と話す。

パナソニックでは、クレジット決済端末で2020年度に累計出荷200万台、非接触型ICカードリーダー/ライターも同様に2020年度に累計出荷200万台を目標にしているというが、「今後はこれら製品の融合も進んでいくことになる」と田中氏が展望を語る。

決済端末やICカードリーダーは、組み込み型で提供されたり、POSの横に設置されたりすることが多いため、パナソニックブランドの強い勢力が目立ちにくい製品だ。しかし、パナソニックは現状で国内シェア7割という圧倒的シェアを持ち、その上に、これから新たな決済方式への対応などを背景に、市場は2桁成長が見込まれている。

目には見えにくいが注目しておくべき、パナソニックの隠れた有力事業の1つだといえる。

新型スマホで有機ELを国産化したシャープ、韓国勢に攻勢なるか

新型スマホで有機ELを国産化したシャープ、韓国勢に攻勢なるか

2018.10.05

シャープが新スマホに、自社製「国産」有機ELパネル採用

有機ELはスマホ各社で採用相次ぐが、韓国勢がほぼ独占

スマホシェア獲得に強い意欲、有機ELパネル外販も視野

シャープは10月3日、Androidスマートフォンの新製品「AQUOS zero」を発表した。最大の特徴は画面に自社製”国産”の有機ELパネル(OLED)を採用した点だ。

iPhoneを含め、最近のハイエンドスマホでは有機ELの採用が相次いでいる。だが、これらの有機ELの供給は韓国メーカーがほぼ独占しているという状況だ。シャープの自社製有機ELにより、業界の勢力図はどう変わっていくのか。

シャープが自社製の有機ELを採用した新型スマホ「AQUOS zero」

採用が相次ぐ「有機EL」、韓国勢が猛威

スマホ市場ではハイエンド機種を中心に有機ELの採用が相次いでいる。スマホ向け有機ELで先行してきたサムスンのGalaxyシリーズに続き、アップルは「iPhone X/XS」、ファーウェイは「P20 Pro」、ソニーモバイルは「Xperia XZ3」と、各社が最上位モデルで有機ELを採用した。

有機ELパネルの製造は、スマホ向けにサムスン、テレビ向けにLGと、韓国勢が猛威を振るっている。日本ではソニーとパナソニックの開発部門を統合したJOLEDが開発試作を進めているが、量産は2020年から。海外勢に対して国内勢は出遅れている形だ。

その一方でシャープは、今回の「AQUOS zero」から、同社堺工場・三重工場で製造した有機ELパネルを搭載した。同機は年内に発売予定となっている。

自社国内製と大きく打ち出した6.2インチ有機ELディスプレイ

有機ELは液晶と比べてコントラストや彩度が高く、写真や映像は液晶よりも鮮やかに映る。画面が焼き付きやすいデメリットはあるものの、バックライトが不要なため薄型軽量化にも向いている。

シャープは有機ELのこの特徴を活かし、さらにスマホ本体の側面にマグネシウム合金、背面にアラミド繊維といった軽量な材料を組み合わせることによって、徹底的な軽量化を図った。スマホの重さは約146gで、一般的な文庫本と同程度にまで抑えられている。6インチクラスでは200g前後のスマホが多い中で、手に持っただけで「明らかに軽い」と分かるレベルだ。

AQUOS zeroが搭載する有機ELパネル
見た目よりも軽い約146gを実現

有機ELは曲げやすいことも特徴で、サムスンは画面端をカーブさせたスマホを2014年に発売している。AQUOS zeroも画面全体がカーブを描いており、片手で持ちやすい本体形状で6.2インチの大画面を実現。軽さだけでなく、総合的にも世界の最新スマホと比べても見劣りしないスペックを備えている。

勢力図はどう変わる? 有機EL外販も視野

IT業界のマーケティング調査を行うBCNの調査によると、国内スマホ市場におけるシャープのシェアは、2018年上半期にAndroidスマホで1位。同社は「2020年にはAndroidシェア40%を目指す」としており、特にミッドレンジ機の「AQUOS sense」は累計200万台を出荷していることから、後継機の「AQUOS sense2」にも期待がかかる。

ベストセラーモデルの後継機「AQUOS sense2」

だが、他メーカーも負けてはいない。10月2日にスマホ新製品を発表したファーウェイもBCNの調査を引用し、2018年6〜9月期にAndroidスマホでシェア1位をアピール。10月にはソニーモバイルやサムスンによる冬モデルの登場が見込まれる中、GoogleやOPPOも新製品を投入する構えだ。

関連記事 : 「Googleスマホが日本上陸へ - iPhone最強の市場で勝算は? 」

その中でシャープの強みは、やはりディスプレイだ。シャープには有機EL以外に独自の「IGZO」液晶技術があり、省エネに優れる。IGZO搭載のフラグシップ機「AQUOS R2」は併売するとしており、今後もそれぞれのパネルの特性を活かした製品を出してきそうだ。

また、スマホで有機ELのポテンシャルを引き出すには画質のチューニングも重要となる。シャープは今回、AQUOSシリーズのテレビで培った広色域技術を、有機ELスマホ用にゼロから見直した。こうした映像周りのノウハウもシャープの強みといえる。

広色域技術をオンにした左の画面は、より鮮やかだ

ディスプレイの形状も変化している。かつてスマホの画面は16:9が主流だったが、18:9など縦長の大画面化が進んでおり、上部にはカメラを搭載する切り欠き(ノッチ)が必要になってきた。将来的には折りたたみ画面への進化もあり得るが、ディスプレイ技術があればこうしたトレンドも先取りできるはずだ。

国内市場では、鴻海傘下になったとはいえ「シャープ」や「AQUOS」のブランド力は健在で、幅広い年齢層に知られている。海外では有機ELスマホをベルリンの「IFA 2018」で先行展示しており、海外市場に向けた計画もあるという。そしてやはり、有機ELパネルを他の端末メーカーに供給する外販も見据えているようだ。

世界のスマホの開発競争はサムスン、アップル、ファーウェイの上位3社がリードしており、その序列を覆すことは容易ではない。だが、シャープはディスプレイを中心に独自の強みを持っており、これまでのiPhoneへのパネル供給実績や、親会社である鴻海との連携など、現状に一石を投じる武器がそろいつつあるように見える。

"着る"空間「WEAR SPACE」製品化へ 巨人・パナソニックがアジャイル開発に挑む

2018.10.04

パナソニックから既存製品カテゴリ「外」のプロダクトが登場

パナソニックブランドは用いず、クラウドファンディングを開始

大企業にベンチャーマインドを注入するためのプロジェクト

集中力を高めるためのウェアラブルデバイス「WEAR SPACE」。ややSFめいたような、見慣れない形状が目を惹くが、これはスタートアップ企業ではなく、家電業界の巨人・パナソニックから生まれた製品だ。

同製品は「WEAR SPACE project」発の製品として、クラウドファンディングで資金調達を行い、量産に着手する。パナソニックブランドを用いないプロジェクトとしてスタートしたその理由について、発表会の場で話を聞いた。

コワーキングの裏にある「一人作業」ニーズ狙う

パナソニックアプライアンス社 デザインセンター所長 臼井重雄氏

今回「WEAR SPACE」を企画したのは、パナソニックの中でも家電を手がけるアプライアンス社内のデザインチーム「FUTURE LIFE FACTORY」。同社 デザインセンター所長 臼井重雄氏の肝いりで立ち上がった所長直下の組織で、若手デザイナーのみで構成されている。

パナソニックでは製品ごとにチームが分かれており、たとえば炊飯器のチームが新製品を作る場合は、従来品をベースとした性能向上など、リニューアルのような格好で開発を行う。それとは逆に、既存の製品カテゴリと結びつかない、ゼロベースの製品開発を行うのが「FUTURE LIFE FACTORY」だ。

パナソニックアプライアンス社 デザインセンター 新領域開発課 FUTURE LIFE FACTORY 姜 花瑛氏

「WEAR SPACE」は、ノイズキャンセリング機能を搭載したワイヤレスヘッドホンと、ファブリックパーティションを組み合わせて出来ている。水平視野を6割カットし、目の前の作業への集中を促進するという。専用アプリでノイズキャンセリングを3段階で変更可能で、Bluetoothによる音楽のワイヤレス再生にも対応する。

開発の背景には、働き方改革により、パナソニックはじめ大企業の多くでフリーアドレスが導入されたことにあった。コワーキングがトレンドになる一方、一人で集中したいシーンは誰しもあるが、オフィス内に個人用ブースを確保するのはなかなか難しい。そうしたニーズを解決するためのプロダクトとして、「WEAR SPACE」が生まれた。

実際に装着してみたところ、装着時に「重い」と感じることはなく、側圧のみで固定された。現在、ヘッドホン部分はパナソニック製品を組み込んでいるが、製品版で同様の仕様とするか、同社傘下のshiftall(後述)が一から製造するかは現在検討中とのこと

コアターゲットは、ソフトウェアエンジニア、Webデザイナーなど、仕事道具にこだわりを持つデスクワーカーを想定。FUTURE LIFE FACTORY・姜氏は、「それ以外の人たちにも、図書館やスポーツ選手の集中、漫画家、漫画喫茶、図書館などで活用いただけるのでは」とコメントした。

先ほどの発言で、姜氏が多様な活用シーンを想定した裏には、製品化が決定する前に、「SXSW 2018」などのイベントで「WEAR SPACE」を展示したことで生まれたコラボレーション企画にある。

たとえば日本酒のテイスティングを行う「YUMMY SAKE」とのコラボレーションでは、味覚に集中するために「WEAR SPACE」が使われた。また、ASD、ADHDボランティア「tentonto」とのコラボレーションで、ASD、ADHD当事者の装着感を実際に聞き取ることもできた。

大手メーカーとしては、開発過程をオープンにするのは異例のこと。だが、それによって開発側だけでは想像していなかった利用例が生まれたと語った。

量産を手がけるのは「帰ってきた」スタートアップ

「WEAR SPACE project」では、企画・デザインをFUTURE LIFE FACTORYが手がける一方、設計・製造・販売はパナソニック本体ではなく、その傘下のshiftallが手がける。

shiftall CEO 岩佐琢磨氏

shiftallは、「1/8タチコマ」などの製品で知られるハードウェアベンチャー・Cerevoの元CEOである岩佐琢磨氏が代表を務める、ハードウェアのアジャイル量産を手がける企業。キャリアをパナソニックからスタートし、独立してCerevoを立ち上げた岩佐氏にとって、古巣に帰ってきた格好となる。

企画と製造を分けた体制のメリットは開発期間の短縮。パナソニック社内で前例のない新製品を作るには「2年程度かかるケースもある」(姜氏)とのことだが、shiftallが設計・製造・販売を手がけることでその期間を短縮。約10カ月程度で製品化が可能になるとした。

また、岩佐氏はパナソニックに限定しない、メーカー系大企業についての話と前置きした上で「大企業がなくしたもの」と題したプレゼンを展開。「カッティングエッジなプロダクト」「小さなロットで迅速に市場投入するノウハウ」「ノンシリアル(非連続)なイノベーション」がそれにあたるとした。

「WEAR SPACE」について、「音楽を聴く機具から、集中するための機具に大きくアプローチを変えた」点が面白い、と語った岩佐氏。こうしたゼロからイチを生み出すような取り組みが最終製品に結びつくのは(大企業においては)難しいため、同プロジェクトの成り行きが、パナソニック内部にスタートアップマインドを作る上でも重要になると語った。

目標金額は1500万、実物展示も実施

「WEAR SPACE project」のクラウドファンディングは、10月2日からスタートしている。利用したサービスは、CCCの「GREEN FUNDING by T-SITE」。期限は12月11日まで、目標調達金額は1500万円。2019年8月以降にリターンとして製品を届ける想定だ。製品価格は3万5000円だが、支援プランによって割引が設定されている。

「ワークスタイリング 東京ミッドタウン」では、「WEAR SPACE」を体験できる

「WEAR SPACE」の実物は、発表会の行われた「ワークスタイリング 東京ミッドタウン」や「RELIFE STUDIO FUTAKO」「代官山ティーンズ・クリエイティブ」(Designart 2018開催時)など、都内各所で展示を予定している。

「これまで、デザインの提案は悪く言えば"絵に描いた餅"で、社内で提案して却下されたらそこで終わっていた」と姜氏。だが、今回のプロジェクトでは、クラウドファンディングで製品のあり方を市場に問いかけることで、新たな事業機会を素早く検証することを目的としている。最終的にはパナソニックが既存事業にとらわれない新商品を次々生み出せるような会社になっていければ、と抱負を語った。

また、shiftall・岩佐氏は、在席当時からパナソニックがどう変わったかという質問を受けて、「トップが危機感持っていること」と回答。同氏が退職した当時(2007年ごろ)、薄型テレビの好調で業績がV字回復している時と比較して、良い意味でトップダウンが効き始めていると評価した。その一方で「相変わらず(新規事業に対して)ブレーキ役も多い」とも指摘し、同社の関与によって、新事業の創出を後押ししていく姿勢を見せた。

クラウドファンディング開始から一夜明けた10月3日、最も安価に製品を入手可能な「Super Early Bird」プランは、定員100名に達していた。好調な出だしのまま進むことができるか、今後の動向にも注目したい。