「鉄道」の記事

「ロードスター」で熱海めぐり! JRが“コトづくり”に力を入れる理由

「ロードスター」で熱海めぐり! JRが“コトづくり”に力を入れる理由

2019.04.26

JR東日本グループの特別企画「オープンカープラン」

移動を旅の目的にする新たなビジネスプランとは

駅を拠点とした“コトづくり”の鍵は移動のシームレス化

JR東日本横浜支社とJR東日本レンタリースは、駅レンタカーでマツダ「ロードスター」を貸し出し、旅行者に新緑の伊豆半島ドライブを楽しんでもらおうというキャンペーン「オープンカープラン」を2019年6月30日まで展開している。

このキャンペーンは、3月31日まで千葉県・館山で実施していた「オープンカーde体感 南房総ドライブ」に続く第二弾。一次交通の担い手である鉄道会社がクルマを使った“コトづくり”に取り組む理由が気になったので、体験してきた。

開放感抜群の「ロードスター」でのドライブをレンタカーで手軽に楽しむ。これからの季節に最高の組み合わせだ

「ロードスター」と行く熱海の絶景めぐり

「オープンカープラン」は、現在開催中の「静岡デスティネーションキャンペーン」の特別企画。JR熱海駅にある駅レンタカー熱海営業所で「ロードスター」をレンタルし、ドライブを楽しむことができる。料金プランは3時間4,860円と1暦日9,720円の2パターン(いずれも免責補償料と税込)。今回は3時間プランを選択し、伊豆半島へとドライブに出掛けた。

駅レンタカー熱海営業所にはマツダ「ロードスター」の「S Special Package」(6速AT、ソウルレッドクリスタルメタリック)が2台用意してある

今回は、絶景スポット・十国峠駐車場を目指した後、長浜海水浴場を経由して駅レンタカー熱海営業所に戻るルートを選択。走行距離約30km、移動時間約1時間のショートコースだ。

熱海駅周辺は入り組んだ道が多いが、ボディサイズが小さくてFR(フロントエンジン・リアドライブ)の「ロードスター」は取り回しがしやすく、思い通りに操作できるので運転が楽に感じる。

運転の楽しさを感じたのが、駅レンタカー熱海営業所から十国峠に向かう途中の坂道だ。FR専用設計が施された1.5L直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」を搭載する「ロードスター」は、坂道も難なく登っていくが、特筆すべきはエンジンサウンド。アクセルを踏み込むたびに気持ち良く吹け上がる様を耳でも楽しめる。

西に駿河湾を望む抜群のロケーションの十国峠駐車場で撮影した1枚。北には富士山を見渡すこともできるが、当日はあいにく、雲がかかって見ることができなかった

晴天に恵まれ、絶好のドライブ日和となった取材当日。晩春の気持ちいい風を全身に浴びながらのドライブは、オープンカーならではの魅力だ。十国峠の次は潮の香りを感じる海岸線を通って、長浜海水浴場を目指した。

長浜親水緑地駐車場にて。マツダのデザイン哲学「魂動デザイン」をまとう「ロードスター」は写真映えもバッチリだ

夏には多くの海水浴客が訪れる長浜海水浴場も、海開き前とあって人の姿はまばら。「ロードスター」を長浜親水緑地駐車場に停め、しばし砂浜散策を楽しんだ後、駅レンタカー熱海営業所へと帰路に着いた。

帰着後、「オープンカープラン」の予約状況を尋ねてみたところ、5月以降は平日を中心にまだ空きがあるそうだ。JR熱海駅から少し足を伸ばせば、韮山反射炉や伊豆の国 パノラマパーク、沼津港といった歴史・絶景・グルメの観光スポットが盛りだくさん。ロードスターであれば、移動時間も含め、その魅力を満喫できること請け合いだ。

熱海営業所に用意してある「ロードスター」はナンバーにもこだわりが。今回試乗したクルマは「・・12(伊豆)」で、もう1台は「1212(伊豆伊豆)」となっている

「ロードスター」が旅の目的に?

伊豆半島ドライブを五感で楽しませてくれた「オープンカープラン」。しかしなぜ、一次交通の担い手である鉄道会社が、二次交通(クルマ)にフォーカスした旅行商品に力を入れるのかについては疑問が残った。そこで、JR東日本横浜支社の小林真一郎氏、同千葉支社の佐藤裕史氏、JRレンタリースの笠井淳氏に話を聞いた。

左から佐藤氏、笠井氏、小林氏

まず、「オープンカープラン」を館山・南房総エリアに続き熱海で開催するに至った経緯については、「4月からの静岡デスティネーションキャンペーンの開催にあわせて、JRレンタリースさんからお声がけをいただき、同キャンペーンの特別企画として熱海営業所で実施しています」(小林氏)という。だが、そもそも「ロードスター」をレンタルするという企画は、千葉支社が地方創生を目的にする“コトづくり”事業に取り組んだことが始まりだった。

千葉県の場合、千葉駅~新宿駅や京葉線・蘇我駅~東京駅といった区間は、通勤・通学をメインによく使われている。一方、千葉駅から銚子方面や勝浦・安房鴨川方面、館山方面となると、基本的には観光に特化している。そのため、JRとしては同地域に観光客を呼び込みたいところだが、「観光の目玉となるものはいろいろある中で、知ってもらう機会があまりない」(佐藤氏)のが現状だという。また、千葉県に限らず、地方の場合は駅と各観光地が離れているところが多く、二次交通の拡充が大きな課題となっていた。

「当初は、『ロードスター』を走らせて遊んでもらえればいいぐらいに考えていました」という佐藤氏。しかし、ロードスターが旅の目的であったとしても、現地の魅力を知ってもらう効果は大きいという

館山・南房総エリアに観光客を呼び込むにはどうすればよいのか。この課題について考えていた佐藤氏は、「私と現・木更津駅長には、ロードスターに乗っていたという共通点がありまして、じゃあ、ロードスターを走らせたら面白いんじゃないかと」(佐藤氏)思いついたそう。こうして生まれたオープンカープランの企画は、JRレンタリースとマツダの協力を得て実現に至る。

2018年12月から今年3月末までという、オープンカーには厳しい季節の開催となった「オープンカーde体感 南房総ドライブ」は期間中、ほぼ予約で一杯となり、大きな反響を呼んだ。利用者の中には、20代~30代の若者も多かったという。

「価格を低く設定したことで、若い方でも利用しやすかったのだと思います。また、近年は写真を目当てに旅行される方も多いですが、ロードスターは晴れているとまたいい色が出るので、そう意味でもぴったりですよね」(笠井氏)

笠井氏はもともと、クルマが観光のプラスαになればと考えていた。そのため、ロードスターを目的に訪れる利用者が多かったことは意外だったそうだ。「今回も、ロードスターに乗りたいから熱海に来るというお客様がいらっしゃるはずです。そういったニーズを掘り起こすことができれば、新たなビジネスチャンスにつながると思います」と笠井氏は期待を示す。

「前回の開催では、ロードスターに乗ることで楽しい気分になられるのか、笑顔で帰ってこられるお客様が多かったですね。ファンの多いクルマですので、やっぱり普通のレンタカーとは違ったのだと思います」(笠井氏)

JRグループでは、今後も異なる地域で「オープンカープラン」の実施を検討していくとのこと。佐藤氏は「キャンペーンが広がりを見せていることに、地元の方もすごく喜んでくださっています。ロードスターに乗りに来てもらって、現地を知ってもらえるというのが重要。いろんな地域にどんどん行ってもらって、そこで観光の魅力を知っていただくきっかけになれば嬉しいですね」と語る。

一次交通と二次交通のシームレス化で滞在時間を延ばす

JR東日本グループは「経営ビジョン2027」の中で、駅を拠点に旅の目的地を創生する(コトづくり)という方針を打ち出している。最後に、一次交通と二次交通を組み合わせることで、どのような可能性を感じているのか小林氏に聞くと、「今後は鉄道を利用して現地に訪れたお客様に対して、バスやレンタカー、もしくは自転車など、いろんな選択肢の幅を広げるというのが大切になってくると考えています」との答えが返ってきた。

「鉄道だけ、自動車だけというのではなく、いかにお客様にとって最善の策を用意できるかが交通事業者の使命になってくる」と小林氏

近年の旅行は、観光だけというよりも、そこで何を体験できるかという部分に重きを置く傾向が見られる。そうした旅行者の欲求を満たすために必要となるのが、効率的な移動手段による移動時間の短縮であったり、今回の「オープンカープラン」のように、移動そのものを目的にしてしまうことだ。JRがロードスターをフィーチャーした今回のキャンペーンは、鉄道とクルマの組み合わせで広がる旅の可能性を感じさせてくれた。

JR西日本が「おおさか東線」で目指す“完成形”とは

JR西日本が「おおさか東線」で目指す“完成形”とは

2019.04.25

「おおさか東線」の新大阪~放出間が開通

新大阪へのアクセス強化で新幹線需要アップを!

北梅田駅を建設して、より一層栄える大阪に

JR西日本が整備を進めていた「おおさか東線」の新大阪~放出(はなてん)間、通称「北区間」が2019年3月16日に開業し、これで2008年に営業開始した「南区間」(放出~久宝寺間)と合わせて、当初計画の全区間が完成した。

放出駅付近ですれ違う、奈良行きの「直通快速」(右)とおおさか東線の普通列車(左)

もともと存在していた貨物専用の城東貨物線を複線化し、旅客列車を走らせようという1950年代からの構想に基づき、新駅や新大阪への乗り入れルートを建設。鴫野~放出間で線路を共用していた学研都市線との分離・複々線化などを行ったものだ。

元より大阪市東部や東大阪市といった人口が多い地域を縦貫しているだけに、潜在的な旅客需要は見込まれていた。既存線の改良により、地下鉄のような莫大な建設費をかけることなく、これに応えた形だ。

新駅のうち、南吹田と城北公園通は、これまでバスしか公共交通機関がなかった地域に設けられており、交通の定時性、速達性の改善がおおいに期待される。JR淡路とJR野江は、それぞれ阪急、京阪との接続駅であり、周辺地域はもちろん、両私鉄の沿線と新大阪との間の往来が、混雑する大阪市中心部を経由しなくとも可能となった。ルートによっては乗り換え回数が減った。

城北公園通駅など、鉄道に恵まれなかった地域に設けられた駅もある

広域的にみれば、JR西日本は「直通快速」を新大阪~奈良間に設定し、JR大和路線奈良方面と新大阪との間のアクセス改善をもくろんでいる。新大阪~奈良間の直通列車は、1988年の「なら・シルクロード博覧会」開催の際に、梅田貨物線~大阪環状線経由(現在、関空特急「はるか」などが走るルート)で臨時快速が運転された実績があるが、単線の梅田貨物線や列車本数が多い大阪環状線のダイヤに挿入する苦労があり、その後、定期列車化されることはなかった。それがおおさか東線の全線開業で、毎日4往復の快速列車の設定が可能となったのである。

なぜ、新大阪へのアクセスを改善するのか

新大阪駅は東海道・山陽新幹線のターミナル駅。新大阪へのアクセスを改善するということは、まず第一に新幹線を便利に利用できるようにするということだ。奈良方面の直通快速を例として、沿線地域から発生する広域的な流動の一翼を担い、かつ新幹線の沿線から観光客、ビジネス客を招き入れるというもくろみが、おおさか東線の建設経緯および、今回のダイヤ設定から読み取れる。

沿線地域にとっては、新大阪へ直結されたことが大きい

おおさか東線の沿線は製造業が盛んな、いわゆる「モノづくり」の街だ。独自の技術を持った大小の事業所が多数、立地している。最近の産業構造の変化により、工場跡地に建設されたマンションが目立つようになったが、車窓を眺めていると街の特徴がよくわかる。

これまで、この地域は大阪市中心部へのアクセスこそ便利であったが、新幹線や空港といった、広域的なアクセスの拠点への便は、今ひとつであった。そこへ開業したおおさか東線は、新大阪への直行を可能とした。

終点の久宝寺が位置する八尾市もまた、製造業の街だ。今回の開業にあたり八尾市は、市制施行70周年記念事業と題して、おおさか東線普通列車へのヘッドマーク掲出行い、注目された。もちろん今後の他地域との交流活発化、ひいては産業振興への期待が込められていることだろう。

八尾市がPRのため掲出したヘッドマークをつけて走る普通列車

おおさか東線は、JR東日本の武蔵野線と対比されることもある。都心部から放射状に伸びる各鉄道を環状に結ぶ点が似ているからだが、沿線地域の構造はまったく異なる。武蔵野線も貨物専用線から旅客兼用に変更された路線だが、開業時の沿線は田園地帯。その後の発展により通勤路線となった。それに対し、おおさか東線はもともと過密とさえいえる人口集中地帯に建設されている。沿線の衰退を防ぎ、さらなる発展を促すことが、路線を持つJR西日本にとって重要な課題だ。

新大阪駅周辺の再整備も視野に

新大阪駅の周辺は、1964年の東海道新幹線開業時にはまったくの街外れで、単なる新幹線とほかの鉄道や自動車交通との接続駅でしかなかった。その名残りは、駅の正面出口に直結しているのがタクシー乗り場(現在の利用実態からすれば、まったく不合理)で、周囲の街へ出ようとすると、慣れないと道に迷いかねないぐらい不便な構造ともいえる。

ところが新幹線駅に至近という立地は、やはり企業にとっては魅力的で、オフィス街が形成され、超高層ビルも建設されるようになった。ただ、商業施設はほとんどなく、街は雑然としていて、梅田や難波のような繁華街としての賑わいには乏しい。

新大阪駅の駅名標には現在、隣の駅として西九条が表示されているが、これがいずれ「北梅田」に変わる

2018年8月29日、新大阪駅周辺地域は「都市再生緊急整備地域の候補となる地域」として、内閣府から公表された。将来的な中央リニア新幹線や北陸新幹線の乗り入れをにらんでのことである。これを受けて大阪市は大阪府と連携し、国、経済界、民間事業者などとともに、「新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備地域検討協議会」を立ち上げた。都市再生緊急整備地域指定へ向けた準備を始めている。

もちろんJR西日本も新大阪へのアクセスをになう鉄道事業者として、この動きに深く関わることになる。むしろ、新大阪駅周辺整備の必要性は、同社がいちばん強く感じていたのではあるまいか。新大阪の都市核としての発展があれば、関西各地や中国地方からの列車を走らせているJR西日本にとって、自社の発展につながるからだ。

おおさか東線の整備は、むしろJR西日本サイドから新大阪の再開発と発展を促す、ひとつのアイテムと位置づけられ、進められてきたことだろう。もちろん、中央リニア新幹線や北陸新幹線の新大阪乗り入れも、将来的な視野に入れてのことだ。

おおさか東線の「終点」は北梅田

関西圏でも「駅ナンバリング」が進んでおり、あまり目立ってはいないように見受けられたが、おおさか東線の各駅にも付けられている。現在、新大阪がJR‐F02。以下、順に付けられ、久宝寺がJR‐F15となっている。JR‐F01は、乗り入れ予定の「北梅田(仮称)駅」のために空けられている。

北梅田駅は現在、JR大阪駅北側の旧梅田貨物駅跡地に建設中だ。開業は2023年春が予定されている。完成すると、現在、梅田貨物線を経由している関空特急「はるか」や特急「くろしお」などが停車する。そしておおさか東線列車も乗り入れる。

JR大阪駅のすぐ北側、地下に建設中の北梅田駅

現在でも、直通快速は新大阪へ到着した後、そのまま折り返さず、旧梅田貨物駅跡にある梅田信号場(北梅田駅の北西側にある)まで回送されてから折り返す。15分に1本の運転が基本のおおさか東線普通列車の間に割り込む形のダイヤなので、普通が折り返す新大阪駅2番線には入れず、3番線に到着、1番線から発車している。

新大阪駅の在来線乗り場は、おおさか東線の北梅田延伸を睨んで設計されている。1番線は「はるか」「くろしお」などが到着し、京都方面へ直通する。2番線が前述の通り、おおさか東線普通列車の折り返し。3番線が関西空港行き「はるか」と白浜・新宮方面行きの「くろしお」の出発となっている。

おおさか東線専用に使えるのは、事実上、2番線しかない。しかし、北梅田までの延伸が確定事項であるのなら、これは暫定的な使用方法とみて取れる。おおさか東線の列車が、普通、快速を問わず北梅田発着になれば、新大阪での折り返し列車は確実に減るからだ。

北梅田乗り入れがなった時点で、おおさか東線は真の全線開業となる。梅田地区はいうまでもなく大阪でいちばんの商業エリアであり、巨大な大阪駅ビルに代表されるように、JR西日本の経営上、最重要拠点でもある。そこへ、おおさか東線によって、これまで鉄道に恵まれなかった地域からの流動が生まれるとなれば、梅田の地位はさらに向上する。最終的にJR西日本が目指すところは、そこだ。

新快速をより快適にするJR西日本の「Aシート」の存在意義

新快速をより快適にするJR西日本の「Aシート」の存在意義

2019.04.23

プラス500円でより快適な乗車を提供するJR西日本の「Aシート」

京阪神圏を走る新快速は大きな輸送力を持つ

新幹線が通らない区間を新快速がカバー

JR西日本の新快速は、12両という長い編成を組んで、京阪神間を越えた区間に至るまでサービスを提供している

2019年3月16日のダイヤ改正では、JR西日本が注目すべき施策をいくつか打ち出した。そのうちのひとつに、京阪神圏の近郊輸送(アーバンネットワーク)の主力列車である新快速に設けられた、「Aシート」がある。既存の新快速用車両2両を改造し、片側3カ所の扉のうち中間を埋めて、客室内にはリクライニングシートと荷物置場を設置したものだ。

上下各2本、計4往復の新快速でサービスを開始した「Aシート」の車両

利用するには乗車券と別に「500円の乗車整理券」が必要だが、前売りは一切行われず、空席がある場合のみ、着席後に乗務員が下車駅を確認して発売する。こうすることによって着席を保証するもので、昨今、各社に広まっている「着席保証サービス」の一種でもある。その一方で「乗ってみるまで、座れるかどうかわからない」という欠点も指摘されている。

シートの乗車整理券は車内で、下車駅を指定して乗務員から購入する

現在のところ、12両編成中1両、野洲~姫路・網干間に1日2往復だけの設定で、「お試し」という域を出ない。だが、「グレードアップした座席を新快速に設けては」という議論は以前からあり、古くはJR西日本が発足した初期にも、グリーン車連結構想があるとの報道が見受けられた。

Aシートの登場から1カ月あまり。春休みの「青春18きっぷ」利用期間も終わって、試乗も一段落。動向も落ち着いたかと思われるが、利用客には一応の評価を得ているものと思われる。利用率次第で、今後の拡大は視野に入っていることであろう。

Aシート車には独自のロゴを入れて、ほかの車両と区別している

長距離客の需要をつかむか?

こうしたサービスへの潜在的な需要は、JR西日本も十分に把握していたはずだ。新快速用の電車は、2人掛けの「転換式クロスシート」と呼ばれる座席を装備し、普通や快速では一般的なロングシートや4人掛けのボックスシートの車両より快適と言われる。それは間違いではないが、さすがに最新式の特急用リクライニングシートとは比べものにはならない。

実際に乗車してみたが、座り心地がまったく違う。大型テーブルやフリーWi-Fi、電源コンセントも完備されている。それが500円の追加料金で利用できるとあれば、1両46席を埋める程度の需要は、十分にあるものと思われる。

新快速の特徴に長距離運転が挙げられる。最長で、福井県の敦賀発、兵庫県の西端に近い播州赤穂行きというものがある。大阪~姫路間、あるいは大阪~彦根間など、利用が多い区間は営業キロで100km前後となり、130km/h運転が自慢の新快速でも、所要時間は1時間かそれ以上になる。

首都圏で類似した区間としては、上野~水戸間や新宿~甲府間などがある。いずれも全車座席指定の特急が、およそ30分おきに走っており、本来なら特急列車が輸送の主役でもおかしくはない。JR各社が50kmまでの特急料金を設定しているように、もっと短い距離でも速くて快適な特急を利用する客は多いのだ。大阪~京都間(42.8km、新快速で約30分)ぐらいの区間でも、ほかの地方や私鉄では特急、ひいては着席への欲求は高い。非常に盛況で、今後の増強が伝えられる京阪特急の「プレミアムシート」が、よい例だろう。

しかし、JR西日本では特別料金不要の新快速が輸送の主軸を担ってきた。山科~京都~大阪~三ノ宮~姫路間では、12両編成で15分間隔運転という、大きな輸送力を提供しているが、それだけ需要は大きい。裏返して見れば、特別料金という収益源を、これまで逃してきたと言えはしないか。薄利多売と言うが、均一的なサービスよりも値が高くても質が良いものを求め、出費を惜しまない客は、どんな分野においても必ず一定数、存在するはずだ。現に新快速は、運賃がほかの私鉄より高いにもかかわらず、スピードで私鉄特急を圧倒して、顧客を確保してきた。

サービスアップと収益アップの一挙両得をねらう

新快速はもともと、京阪神間における私鉄特急との競争上、快速より上位の列車として誕生した。1970年のデビュー当時の運転区間は京都~西明石間で、日中のみの運転であった。それが国鉄~JR西日本の「安価な高速サービスを関西一円に広げる」という戦略に基づき、東は米原・長浜方面、西は姫路方面まで延長され、朝夕ラッシュ時間帯にも運転されるようになったという経緯がある。JR西日本となってからは収益の柱のひとつと位置づけられ、転換式クロスシートの快速列車は、ほかの線区でも多数、運転されるようになった。

「プレミアムシート」の連結が成功をおさめた京阪特急。新快速のライバルといえる存在だ

現在の新快速の運転区間の大半は、新幹線が並走している。もちろん、スピードでは新幹線が圧倒的ではあるのだが、新大阪駅や新神戸駅あるいは西明石駅が市街地の中心部にない。また、米原~京都間には新幹線駅がないという事情もあって、関西圏内の輸送では新幹線の占める割合は小さく、その分、新快速に人気が集まっている。

そこに存在する特別料金を支払ってでも快適性を求める需要に対して、まったく応えないというのも、今日ではサービス改善という面でマイナス評価につながる。それ以上に収益アップの可能性をみすみす見逃すというのも、一部上場企業の経営上、いかがなものだろうか。

今回のAシート導入の背景としては、やはり京阪のプレミアムシートが、JR西日本の並行路線、しかも大阪市内~京都市内という「短区間」で成功をおさめたことがあるだろう。京阪神間の私鉄の特急列車と、それに対抗する国鉄~JR西日本の新快速は、長年「特別料金不要で快適な座席を提供する」ということが、ひとつのポリシー、あるいは鉄道会社としてのアイデンティティとなっていた。それは、大筋においては今後も続くと思われるが、その一方で、混雑して座れなければ意味がないというジレンマも抱えている。

これまで「着席保証サービス」というものに対して慎重、あるいは懐疑的であった京阪神間の各鉄道会社。しかし「座りたい」という欲求は全国共通のはずだ。首都圏の座席指定制特急の利用客、特に朝夕ラッシュ時間帯に、年配者や小さな子供連れといった交通弱者が目立つのも、立席では移動が厳しいからに他ならない。バリアフリーとは、すなわちどのような人でも移動の自由が保障されるという意味。今日の鉄道会社にとって、最重要課題だといっていい。

お試し期間を終えた後は?

もちろん、Aシートのサービスは現状が完成形であるはずがない。まず供給量の拡大を図るのが先決であろう。片道2本しか連結列車がない今では、わざわざ「Aシートに乗ろう」と運転時刻を調べなければ利用できない。いつでも乗れるよう、すべての新快速への連結されることが理想だ。

同時に、座席指定制つまりは事前予約を可能としなければ、支持は得られないと思う。乗ったが満席で座れない可能性があるという今の制度は、当然ながらJR西日本も不十分と考えているだろう。

ただ、新快速はほかの在来線特急と比べて運転本数が圧倒的に多く、かつ停車駅も多い。車両の改造もさることながら、JRの予約システム「マルス」の改修、ひいてはそのための投資が可能かどうかに今後がかかっている。完全にインターネット予約・チケットレス乗車だけにして、マルスとは切り離した座席予約システムとすることも、あるかもしれない。