「鉄道」の記事

東京メトロが「働く親のための託児所」をオープンした狙いとは

東京メトロが「働く親のための託児所」をオープンした狙いとは

2019.03.14

東京メトロが託児機能つきワーキングスペースを開設

働く親のための「会社でも家でもない」第3のスペースに

ニーズがあれば都心部での増設も検討

3月初旬、都心の交通を支える東京メトロ(企業名:東京地下鉄)が、沿線の駅近に一般利用向けのキッズルームを2箇所(東陽町・門前仲町)開設した。

施設名称は「room EXPLACE(ルームエクスプレイス)」。特徴は、ワーキングスペースを併設しており、親が子供のそばにいながらにして仕事に取り組めるところにある。

都市部における保育施設の不足は社会問題として顕在化しているが、そこに東京メトロが「託児機能つきコワーキングスペース」の運営で参入した理由はどこにあったのだろうか。発起人となった同社社員に開設経緯を聞いた。

「room EXPLACE」は現在2箇所運営されており、メディア向けの内覧会は東陽町の施設で行われた
プレゼンテーションは、施設内で一番大きな部屋であるキッズルームで行われた
キッズルームの運営は保育サービスを提供している「ジョイサポ」に委託。英語など教育プログラムも用意している

働く親の苦悩を解消するために

「roomEXPLACE」が生まれたきっかけは、出産を経験した同社社員の発案だったという。内覧会でプレゼンを行った東京メトロ 桶田麻衣子氏と、育児休業中のもうひとりの社員がこのプロジェクトを推し進めた。

東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業推進担当 課長補佐 桶田麻衣子氏

「『子供との時間を大事にしたい』と言うと、『仕事をしたくないのか』と言われる」。桶田氏はワーキングマザーの置かれた厳しい状況をそう吐露した。

育児と仕事は平日日中というおなじ時間的リソースを取り合う関係にあるためか対立軸で語られることが多い。そのため、育児の主たる担い手となっている女性社員への厳しい風当たりを生んでしまっている。

また、都心部での「保活」(子供を保育園に預けるための活動)は需給のバランスが崩れたなかで保育枠の争奪戦となっている。桶田氏自身、「保活の成否など復職にまつわる心配で、子供との時間を楽しみきれない」悩みを持っていたという。

仕事も育児も両立したい。そのために一時保育へ子供を連れて行くなどの状況も生まれるが、「自分の仕事の都合で申し訳ない」と思う親心がつきまとう。そこでたどりついた答えが、「『親の都合で申し訳ない』と考えないで済む場所づくり」だった。

会社でも家でもない、「育てながら働く場所」

コンセプトは「家・保育園・会社の『中間』にある育てながら働く場所」。

「roomEXPLACE」は、2つの施設それぞれで空間構成が異なるが、コワーキングスペースにキッズルームを併設している点は共通だ。キッズルームには専門スタッフが常駐する。土日祝も含め、8時~20時まで営業しており、当日でも空き状況によって利用可能なシステムで運営。ワーキングスペースの利用を前提として、キッズルームの利用を受け付ける。

ワークスペースの利用料金
月利用:2万円(税別)
時間利用:400円/30分(税別)

キッズルームの利用料金
時間利用:600円/30分(税別)

例)「時間利用:1時間」の合計料金:2000円
(ワーキングスペースの利用800円+キッズ
ルームの利用1200円)

※いずれも入会金は無料
※キッズルームのみの利用は不可
2019/3/31までワークスペース料金が無料となるキャンペーン実施
 詳細、および最新情報は施設Webサイトを参照のこと

決済は事前登録のクレジットカードで行うほか、鍵はスマートロックで、会員情報と結びついた交通系ICカードで開閉可能だ

事前予約に数十人の応募があったとのこと。利用形態は、今後ユーザーからの意見をうけて柔軟に改善していく方針だ。

まずは「ナンバーワン路線」に2施設を開所

同施設は東陽町と門前仲町の駅前にオープンした。いずれも東京メトロ東西線の沿線だが、東西線は首都圏の通勤ラッシュのなかでも混雑率はナンバーワンだ。

「抜本的な解決策ではないものの、この施設を活用したリモートワークによる時差通勤などで、わずかでも混雑解消に寄与していきたいです」(桶田氏)

設計は、鉄道関係の施設を中心にコンサルティングから建築設計まで総合的に対応する企業「リライト」が担当。物件の特徴からフォーマットを2パターン作成し、今後の増設もこのフォーマットを活用していく方針

物件の広さをベースに、異なるコンセプトの空間を2種類展開。門前仲町は親同士のオープンなネットワークづくりに重きを置き、子供の様子も見やすい開放的な空間構成だ。 

門前仲町の施設は、オープンな雰囲気で親同士のネットワーキングを生み出せるような設計

一方、内覧会で披露された東陽町の施設は、防音仕様のキッズルームにコワーキングスペースと個人ブースのワークスペースを併設した、仕事に集中するための空間となっている。 

一方、東陽町は仕事にフォーカスするための設計
「子育てしながら働くママへのインタビュー結果」(2017.4/2018.4)

想定ユーザーである働く親たちへのヒアリングでは、「職場外での就業を認めてもらったからには、集中して仕事をしたい」という声が多く、それを反映した設計となった。

当面はより多くの人に活用してもらうべく「個人利用のみ」で運営し、認知度向上を図る。

とはいえ、平日日中にこの施設を利用するには、勤め先がリモートワークに対応していないと難しい部分がある。そうした企業との提携については「拠点が増え、ネットワークが広がれば法人契約も検討」するという。

開所の裏には「沿線価値」向上への期待

働く親子には朗報、といったところだが、気になるのは東京メトロが事業として取り組んだ背景だ。東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部長 佐藤晃氏は、3年かけてこのプロジェクトを実行に移した理由について、保育環境の向上はもちろんのこと、「沿線価値」の向上にあると語った。

桶田氏のプレゼンテーションの中でも、同社の課題解決にこの施設で貢献したい旨が示されていた

「沿線の住民に路線と駅への親しみをもっと持っていただき、特に若い方に長く住んでいただけるような沿線にしていければ」(佐藤氏)保育所を使うような30~40代の路線ユーザーにとって有用な施設を運営することで、沿線一帯に愛着をもって長く定住してもらうという狙いが、この施設の実現を後押ししたといえる。

また、今後の開設の予定について尋ねると、「この2施設の稼働状況を踏まえながら、都心も含めた沿線地域への拡大を検討していきたいです。」と語った。

メトロならではのネットワークに期待

託児機能を持つコワーキングスペースは東京近郊に散見されるが、東京メトロが持つ通勤動態のデータや出店地域へのアドバンテージは見逃せない。都市部の通勤ラッシュ問題に直接かかわる企業だけに、こうした試みにより働き方改革の推進に取り組んでいることは、企業イメージの向上にもつながるだろう。

都心の一等地にリーチ可能な大手事業者の参入は、働く親に対する援助に一歩踏み込む可能性を感じさせる。とはいえ、このような施設の増加と両輪で、リモートワークに対応可能な企業が増えないことには、新たな働き方の普及は実現しない。

当面は一般利用で認知度の向上や沿線住民の利便を図るということだが、ゆくゆくは施設の増加、および企業との提携による利用促進に期待したい。

左から、リライト 代表取締役 籾山真人氏、東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部長 佐藤晃氏、東京地下鉄 経営企画本部 企業価値創造部 新規事業推進担当 課長補佐 桶田麻衣子氏、ジョイサポ 代表取締役 山田加代子氏
特急型電車のホームドア対応問題に、西武鉄道が出した秀逸な解答

特急型電車のホームドア対応問題に、西武鉄道が出した秀逸な解答

2019.03.08

輸送障害を防ぐためのホームドアが多くの駅に!

ホームドアが駅に設置できないとある事情とは?

通勤車両と異なる特急の乗降扉に対応するための工夫

西武鉄道の新型特急電車「Laview」の斬新な外観

西武鉄道の新型特急電車001系「Laview」は、大胆な外観や内装が驚かれ、このところメディアを賑わしている。斬新な発想に基づいてデザインされた車両であり、もちろん注目が集まるのも自然なことだ。2019年3月16日の営業運転開始が待たれる。

「未来志向」を感じさせる電車ではあるが、ただ単に見た目が素晴らしいというだけの特急ではない。最新型であるからには、現在の鉄道に要求されるあらゆる事項をクリアしていることは当たり前である。

公共交通機関に対して利用客がいちばん求めていることは、もちろん目的地までの安全かつ安定した輸送である。しかしながら首都圏においては、しばしば輸送障害が発生しているのが実情だ。その原因の多くが人身事故である。そのため、対策として「ホームドア」の整備が積極的に進められている。

特急型電車がホームドア整備のネック!?

国土交通省では「駅ホームにおける安全性向上のための検討会」が繰り返し開催され、中間とりまとめが2016年12月に行われている。それによれば、一日の利用客数が10万人を越える駅に対し、ホームドアを優先的に整備することとしている。「車両の扉位置が一定など」整備条件を満たしている場合は、原則として2020年度までに整備を完了することが目標だ。

ただ、ホームドア整備のいちばんのネックは、実は車両により一致しない扉位置。すべての電車の扉の位置がそろっている東京メトロ・丸ノ内線などでは、比較的早くホームドア整備が完了したのに対し、西武鉄道をはじめ小田急電鉄、東武鉄道、あるいはJR東海道本線などではホームドアの整備が遅れている。それは、特急型電車の存在が大きく影響しているからである。

すべての電車が同じ形式、同じ扉位置のため、ホームドアが速やかに整備できた丸ノ内線

そもそも特急型電車は、長距離旅行向けに乗降扉部分と客室とが分離している構造が一般的であり、乗降扉も車端部に極力寄せて客室を広く取るのが、どの会社でもふつうの設計であった。西武鉄道の「Laview」も例外ではない。しかしそれでは、同じ線路を走り同じホームに発着する、片側に3~4カ所に乗降扉がある通勤型電車と、扉の位置が合うはずがない。

特急型電車の扉位置を合わせる工夫

では、特急型電車を運行している各社は、ホームドア整備に際してどのような対応策を採ったのだろうか。西武鉄道の場合、既存の特急型電車10000系「ニューレッドアロー」が老朽化による取り替え時期を迎え、新型車を投入するこのタイミングで手を打った。

「Laview」については、筆者は乗降扉の位置に最初から注目していた。ホームドア対策が施されていないはずがないからだ。果たして各号車とも、もっとも車両の端になる車端部には乗降扉を配置していなかった。少し内側に寄せることによって、片側4扉の通勤型電車のいちばん車端部に近い扉に対応するホームドアの開口部に、「Laview」の扉位置を合わせたのだ。

「Laview」の乗降扉は、車端部から離されて配置されている

報道公開の際、筆者は乗降扉が車端部からどのぐらい内側に寄っているか、大まかにではあるが実測してみた。すると、車両の端から約135cmの位置に、乗降扉開口部の外側があった。乗降扉の幅自体は85cmである。

一方、すでに池袋駅に設置されているホームドア(通勤型電車のみが発着するホームにある)では、こちらも電車の車端部からホームドアの開口部まではおおむね120cm。ホームドアの開口部自体の幅は145cmである。

目立たない点ではあるが、これは重要な改良である。この特急が走る西武池袋・秩父線では、所沢駅などで通勤型電車とホームを共用することになる。将来、ホームドアが整備される際、「Laview」の扉位置が妨げになることはない。

乗降扉が内側に寄った分の車内スペースは、曲線状にデザインされた黄色い内壁だけが目立つエントランスとなっている。内壁と外壁の間には機器類が収納されているとのことだが、限られた空間の使い方としては、いささかもったいなく思えるほどだ。これも、ホームドアにより駅ホームの安全を保つために必要なスペースとして、割り切られたのである。

「Laview」では、もったいないとも思えるスペースを設けることで、扉の位置を調節した

各社が工夫をはじめた「ホームドア」設置への条件整備

こうした構造の特急型電車としては、2018年に営業運転を開始した、小田急電鉄70000形「GSE」が先鞭をつけている。この車両も車端部には乗降扉がなく、一部の号車では本来、客室内に設ければ便利なはずの荷物置場を、わざわざ客室外の車端部に置くなど、車内設備の配置を工夫して将来的なホームドア整備に対応している。

小田急の新型特急電車「GSE」も、車端部ではなく車両内側に乗降扉を設けている

東武鉄道の500系「Revaty」は2017年にデビューしたが、この特急型電車は、3両編成を組み合わせて運用することを前提にしていることから、両先頭車は運転台の直後に扉がある。中間車はトイレなどの隣に乗降扉を配して、巧みに車端部への乗降扉設置を避けている。

東武鉄道の「Revaty」も乗降扉の位置を工夫している

では、既存の特急型電車で、まだ取り替え時期に達していないものは、どう対応するのだろうか。より幅広い範囲の乗降扉位置に対応する「ワイドドアタイプ」あるいは、「昇降式(ロープ式)」のホームドアを採用することも一案だ。前者は通勤型電車でも扉の位置や幅が異なるものが走っている東京メトロ東西線、後者は片側3扉車と4扉車が混在している、JR西日本の路線で採用されている。

もっと簡単な解決方法を編み出したのが、東京メトロ・千代田線だ。この線には小田急電鉄から直通の特急ロマンスカー60000形「MSE」が乗り入れてきている。MSEは2008年のデビューと新しく、最近も増備が行われた車両である。だが、「ホームドア対策」は施されておらず、乗降扉もおおむね車端部ぎりぎりにある。

一方、千代田線も混雑が激しい路線であり、ホームドア整備は喫緊の課題だ。そこでどうしたかといえば、特急に限り、普通列車とは停止位置を少しずらして、「ホームドアと場所が一致する乗降扉のみ開ける」ことにしたのだ。一部の乗降扉、およびホームドアのみを開閉させる技術は、まったく難しいものではない。

ホームドアに合う位置の扉だけ開閉することにした、千代田線内の小田急「MSE」

MSEのこの施策は、2018年10月20日より実施された。もちろん、すべての乗降扉を開くことはできないが、通勤型電車に合わせたホームドアを設置した駅でも、10両編成の特急の場合は6カ所で乗降可能となったのである。なお、千代田線内で扉を限定した乗降方法は、乗り入れ当初から行われていた。今回は、乗り降りできる号車が変わったということだ。

こうした各社のホームドア対策を観察してみると、やはり西武「Laview」の設計が後発だけに、スマートに思えてくる。鉄道会社の看板である特急型電車と通勤型電車の共存方法は、まだこれから各社の大きな課題となってくるだろう。

ネーミングの重要性を再認識させた「京急の駅名改称」

ネーミングの重要性を再認識させた「京急の駅名改称」

2019.02.04

京浜急行電鉄が駅名変更に踏み切る4駅とは?

新駅名はどのようなプロセスで決まったのか

地域のアイデンティティともいえる駅名の重要性

2020年3月に改称される予定の4駅の駅名標(プレスリリースより)

京浜急行電鉄(京急)は1月25日、2020年3月に4駅の駅名を改称すると発表した。これによると、大師線産業道路駅が「大師橋駅」、京急本線の花月園前駅が「花月総持寺駅」、同じく仲木戸駅が「京急東神奈川駅」、そして逗子線の終点新逗子駅が「逗子・葉山駅」と、それぞれ新しい駅名を名乗ることになる。

このうち産業道路駅は、大師線の連続立体交差化事業により、2019年3月3日に地下駅となる予定になっており、駅名の由来となっていた、同駅東側で交差する「産業道路(神奈川県道6号東京大師横浜線)」との踏切が廃止されるため、地元からも改称の要請が上がっていた。大師橋とは、川崎市と大田区を結ぶ産業道路の多摩川に架かる道路橋であり、地元のシンボルである川崎大師から名前を取っている。道路にちなむ駅名という、伝統にも配慮したものと思われる。

ほかの3駅は、産業道路駅の改称計画をきっかけに2018年9月、京急が創立120周年記念事業として小・中学生から駅名改称案を募集した、「わがまち駅名募集」において集まった案を参考に決定したという。品川や横浜、金沢文庫、三浦海岸など、他社線乗り換え駅や「公共施設、神社仏閣、歴史的史跡などの最寄り駅として広く認知されている駅」だとして26駅は改称の対象外。そのほかの駅は、2018年10月10日を期限として新駅名を募った。結果、応募総数は1,119件にのぼったというが、その割には改称の規模は4駅(大師橋駅を含む)と、最小限に留まったという印象だ。

新駅名はどうやって選ばれたのか

花月園前駅は、1914年から1946年まで営業していた遊園地「花月園」にちなむ駅名で、遊園地の閉鎖後は同名の競輪場になっていた。しかし2010年には競輪場も閉鎖され、駅名の根拠を失っていたがために、改称も妥当かと思われる。地元に親しまれた花月を残し、駅近くにある曹洞宗の大本山「總持寺」にちなんで総持寺をつけた。ただし、總持寺の最寄り駅はJR鶴見駅または京急鶴見駅である。

仲木戸駅はJR京浜東北線・横浜線東神奈川駅の至近にあって、乗り換え駅(下車後、少し歩く)として機能しており、特に横浜線沿線と羽田空港を往来する客には重宝されている。JR駅と同じ「東神奈川」という文字を使った「京急東神奈川駅」としたのは、「駅名が異なることで乗り換え可能な駅としてお客さまから十分に認知されていない」ことが理由なのだという。

けれども、今はネット検索の時代である。例えば横浜線の小机駅から羽田空港への経路や乗り継ぎ時刻を検索すると、東神奈川~仲木戸乗り換えルートとその所要時間が示される。仲木戸には、羽田空港アクセス列車であるエアポート急行も停車する。ちなみに仲木戸とは、徳川将軍が宿泊した「神奈川御殿」の木戸が由来である。

京急仲木戸駅改札口からJR東神奈川駅をみる。数十メートルしか離れておらず、乗り換え客は多い

新逗子駅は1985年に京浜逗子駅と逗子海岸駅を統合して誕生した駅だが、ブランド力が高い「葉山」を付けることになった。なお、葉山町には鉄道はない。新逗子駅から葉山町の中心部までは、路線バスで10分ほどかかる。

羽田空港国内線ターミナル駅発「新逗子」行きのエアポート急行。この行先表示も駅名改称により「逗子・葉山」行きに変わる

小・中学生の意見は反映されたのか

今回の駅名改称と「わがまち駅名募集」との関連は、今のところ「参考にした」としか表明されていない。新駅名が、募集により寄せられた案にもとづくかどうかも、明らかではない。ただ、改称後の駅名は、子どもらしい発想によるものとは思えない。

一方、100年以上も地域に親しまれた駅名が維持されて、安堵している住民も多いのではなかろうか。難読駅名として改称対象となっていた雑色(ぞうしき)、追浜(おっぱま)、逸見(へみ)といったところは、現状維持となった。

10駅には「副駅名標」が付く。写真は難読駅のひとつ追浜駅の例(プレスリリースより)

もとより、今回の「わがまち駅名募集」に対しては肯定的な意見は少なく、批判が多かったように見受けられる。私自身も、地域のアイデンティティの否定につながるとして、この施策には賛成しかねており「京急の企業イメージにも影響するので慎重な対応を」と、2018年10月29日付けの記事で意見を述べた。

今回の施策において、改称対象となった駅周辺地域や自治体に対して、事前の説明があったかどうかも明らかではないが、地元にとって「寝耳に水」の改称計画であったとしたら、反発は十分に予想されるところだ。改称する4駅は、ある意味、地元の同意が得られた駅なのだということだろう。

駅名の重要性を考えてみる

改称される4駅は、旧駅名を「副駅名標」にするという。例えば鮫洲駅には「鮫洲運転免許試験場」、日ノ出町には「野毛山動物園」など近隣の著名な施設を副駅名標としており、それらと同じような駅が駅が生まれることになる。これらは駅名標の看板に、新駅名に添えて旧駅名が表示される。現在、京急鶴見駅に「副駅名称広告」として「京三製作所本社」と付いているが、これは広告の一環。だが、今回副駅名が付与される4駅は、京急鶴見駅とは異なり、無償で表記すると京急は説明している。

広告として駅名標に表示されている会社名の例

この副駅名標は「誘客促進」につながると、京急が判断した駅につけられる。誘客を優先するのなら、開業時の花月園前駅のように、施設名をダイレクトにつけた方が効果は高いと思われるのだが、そうならなかったところに「改称しづらい」理由が透けて見える。

最近では山手・京浜東北線の新駅の駅名「高輪ゲートウェイ」が物議を醸したが、新しく生まれる街と、その玄関口であるという事情をおもんぱからない、感情的な論が目立った。歴史的文化的背景を持つ、開業から100年以上を経た駅名、あるいはそれ以前から存在する地名とは、事情が異なる新駅だ。高輪ゲートウェイ駅は江戸時代が海、明治以降が鉄道施設用地で、住民はいなかった。高輪は歴史ある地名ではあるけれども、隣接する地域でしかない。

駅名とは、これほどデリケートなものである。鉄道会社にとって、商品名のひとつであるといえよう。だが、そこに住まい、毎日利用している地域住民にとっては、やはり「アイデンティティ」でもあるのだ。昨今の駅名をめぐる動きによって、そのことが再確認できたと感じる。