「鉄道」の記事

着席保証列車「ライナー」の特急化を進めるJR東日本

着席保証列車「ライナー」の特急化を進めるJR東日本

2019.05.28

特急へと置き換わっている「ライナー」

国鉄時代から運用されている古い編成

アナログ的なチケット販売から脱却を目指す

以前の記事で、主に朝夕の通勤時間帯に走る、特別料金を別途収受して着席を保証する列車について紹介した。そして、京王電鉄、東急電鉄など、それまで座席指定制または定員制の列車を運転したことがなかった「新規参入組」では、今後、こうした列車の拡充に積極的になるであろう一方、意外に寿命は短く、居住性にすぐれ経営効率上でも有利な、リクライニングシート装備の「座席指定特急」へと変化するのではないかと考察した。

「着席保証列車」はもう古い?

事実、JR東日本では、2019年3月16日のダイヤ改正で、「ライナー」と総称されてきた通勤客向けの着席保証列車のうち、中央本線の「中央ライナー(東京~高尾間)」「青梅ライナー(東京~青梅間)」を廃止。新たに全車座席指定の特急「はちおうじ」と、特急「おうめ」を設定した。総武本線の「ホームライナー千葉」も廃止となり、代わりに快速列車が増発されている。

運転最終日の「中央ライナー」。常に満席近い需要があった
特急「はちおうじ」「おうめ」に使われるE353系電車。「あずさ」「かいじ」と共通で運用される

後者の場合、利用率の問題から廃止し、前後を走る快速の混雑緩和を図ったとも考えられるが、「ライナー」の特急への置き換えは、これまでほかの線区でも段階的に実施されてきた。高崎線では、2014年3月15日のダイヤ改正で「ホームライナー鴻巣(上野~鴻巣間)」が、特急「あかぎ」と統合の上で、全車座席指定の特急「スワローあかぎ」に置き換えられた。同じ改正では東北本線(宇都宮線)の「ホームライナー古河(上野~古河間)」が廃止されている。常磐線ではさらに早く、1998年には各「ライナー」が特急「フレッシュひたち」(現在の「ときわ」)へと置き換えられた。

一部が高崎線の「ホームライナー鴻巣」の置き換え列車として設定された「スワローあかぎ」

国鉄時代からの歴史がある「ライナー」

朝夕のラッシュ時間帯に通勤客向けの座席指定特急を運転した初期の例としては、1967年に新宿~新原町田(現在の町田)間に設定された小田急ロマンスカーがある。そして東武や京成、西武などにも広まったのだが、いずれの会社も「特急列車の一種」という扱いは崩さず、現在に至っている。

小田急の通勤客向け特急、「ホームウェイ」。国鉄とは違い、あくまで特急として運転され続けてきた

一方、国鉄でもこの施策には注目し、夜間、ターミナル駅から郊外の車両基地まで回送していた特急用車両へ、特急券ではなく、300円の「乗車整理券」を定期券などのほかに購入すれば乗車できるようにした。これが「ホームライナー」で、1984年の上野~大宮間がその第一号であった。そして増収策として全国の都市圏へと広がり、JR各社に引き継がれた。ある意味「国鉄の遺産」でもある。

この乗車整理券とは、本来、年末年始や旧盆などの超繁忙期に、長距離列車の自由席への優先乗車順を指定するために発売されたもので、列車の定員分のみ発行されたことから、「ホームライナー」に転用して「必ず座れる」とした。その後、JR東日本は乗車整理券とは制度上分けて、ライナー券、ライナー料金の制度を整えた。だが、現在に至るまで、特急券とは別の規則に基づいて発売されている。つまり、「ライナー」は基本的に特急用車両を使用し、座席の保証と快適な居住性を提供するものの、あくまで特急とは別の列車として推移してきたのである。

しかし、乗車整理券、ライナー券は特急券ではないがゆえ、発売場所がわかりにくくなりがちという欠点があった。乗車駅、下車駅が限定される特殊な列車であるがためで、国鉄~JRの座席指定・発券システム「マルス」にも収納されなかった。

発売場所は、地域や路線によって、まさにまちまち。窓口、自動券売機(設置場所は改札外、改札内と両方のケースがある)、ホームでの係員による手売りもあって、日常的にその路線で通勤している客にしかわからない。常連以外には、いかにも利用しづらい状況が生じていた。また、JR各社サイドからみれば、1日数本の列車のための特別な設備や人手が必要であった。

東京駅の中央線ホームに設置された指定券(特急券)の券売機。以前は「ライナー券」の自動券売機であった

「ネット予約」時代への対応

ところが、特急列車の指定席のインターネット予約、チケットレス乗車が常識となってくるにつれ、事情が変わってきた。アナログ的なライナー券発売方法を採っていた「ライナー」は、勤務先からスマホで予約したいという需要に対し、応えられなくなってきたのだ。「中央ライナー」「青梅ライナー」のように、2002年よりインターネット予約、チケットレス乗車に対応した例(ただしJR東日本系のビューカード決済専用)もあったが、むしろ稀な存在に終わっている。

また、特急の利用促進を図って、短距離の自由席特急料金を引き下げる傾向も国鉄末期から強まってきており、ライナー料金との差が小さい、または同額になるケースが目立っていた。例えば、東京~八王子間47.4kmの自由席特急料金は510円であるが、「中央ライナー」のライナー料金も510円だった。車両は同じで、座席が指定される、されないの違いだけであった。

こうした状況に基づいて、「ライナー」と特急との一本化を図ろうというJR東日本の判断が出てきても、自然なことと思われる。中央本線においては、特急「あずさ」「かいじ」と「中央ライナー」「青梅ライナー」に共通で使われてきたE257系電車が、E353系電車へと全面的に置き換えられるタイミングに合わせて、特急へ変更されたのである。

「『ライナー』の特急への統合」は、「(同じ路線を走る特急と併せて)インターネット予約・チケットレス乗車の導入、および割安なネット予約料金の設定による利用客の誘導」「全車座席指定化、割高な車内料金の設定」と表裏一体の施策である。このJR東日本の方針は「スワローあかぎ」運転開始時から一貫しており、今改正において中央本線へも拡大されたということである。

なお、本論から多少離れるが、全車座席指定化については、国鉄時代から自由席特急券を持たない、「特急への飛び乗り客」への対応に手を焼き、膨大な人手が割かれていたという事情に基づく。実質的な値上げになったとしても、利用客にはあまり同情できない。車内料金の設定も、同様である。

筆者が実見した例では、深夜帰宅時の特急の自由席5両に車掌が5人も乗務して、車内改札と自由席特急券の発売に追われていたというものがある。現代の日本の社会において、人件費が必要経費に占める割合がいかなるものか。それは理解しなければならないところだ。ちなみに、その特急はその後、廃止された。需要はあったであろうが経費がかかりすぎ、収益にはつながらないという、私企業としては常識的な判断が下されたものと思われる。

通勤時間帯の普通・快速列車はきちんと運転されている。特急や「ライナー」はあくまで付加価値として提供されているものだ。

「湘南ライナー」の特急化で完結か

国鉄時代に「通勤5方面」といわれた、東海道、中央、高崎・東北、常磐、総武の各方面のうち、現在「ライナー」が残っているのは東海道本線方面だけである。「湘南ライナー」および新宿発着の「おはようライナー新宿」「ホームライナー小田原」は運転本数も多く、今も需要は大きい。

しかし、同じ東海道本線を走る特急「踊り子」「スーパービュー踊り子」は、近い将来の車両取り替えが予定されている。「湘南ライナー」に充当される主力車両は、「踊り子」と同じ185系電車であるから、当然、同時に取り替えられよう。そして、これまでのJR東日本の方針からすれば、やはり全車座席指定の特急に変更されるものと思われる。これで、同社の着席保証列車に対する施策は、特急への統一によって完結をみることになる。

特急「踊り子」や「湘南ライナー」に使われる185系電車。近い将来に別の車両に取り替えられる予定

夕方・夜の下り「湘南ライナー」に乗車するには、現状、東京駅と品川駅にある専用自動券売機でライナー券を購入しなければならない。しかし特急化後は、世の趨勢に合わせてインターネット予約が中心となり、かつ「マルス」でも予約可能となって、全国の「みどりの窓口」でも特急券が購入できるようになる。

例えば、今は仙台から東京まで東北新幹線を利用し、東京駅で「湘南ライナー」に乗り換えて大船まで帰宅したいと思っても、ライナー券が購入できるかどうかは、東京駅に到着し「湘南ライナー」が発車するホームまで行かなければわからない。それが特急化されれば、仙台駅で一括して特急券を購入することもできる。制度ひいては発売システムの統一の効果としては、このようなこともある。

「ロードスター」で熱海めぐり! JRが“コトづくり”に力を入れる理由

「ロードスター」で熱海めぐり! JRが“コトづくり”に力を入れる理由

2019.04.26

JR東日本グループの特別企画「オープンカープラン」

移動を旅の目的にする新たなビジネスプランとは

駅を拠点とした“コトづくり”の鍵は移動のシームレス化

JR東日本横浜支社とJR東日本レンタリースは、駅レンタカーでマツダ「ロードスター」を貸し出し、旅行者に新緑の伊豆半島ドライブを楽しんでもらおうというキャンペーン「オープンカープラン」を2019年6月30日まで展開している。

このキャンペーンは、3月31日まで千葉県・館山で実施していた「オープンカーde体感 南房総ドライブ」に続く第二弾。一次交通の担い手である鉄道会社がクルマを使った“コトづくり”に取り組む理由が気になったので、体験してきた。

開放感抜群の「ロードスター」でのドライブをレンタカーで手軽に楽しむ。これからの季節に最高の組み合わせだ

「ロードスター」と行く熱海の絶景めぐり

「オープンカープラン」は、現在開催中の「静岡デスティネーションキャンペーン」の特別企画。JR熱海駅にある駅レンタカー熱海営業所で「ロードスター」をレンタルし、ドライブを楽しむことができる。料金プランは3時間4,860円と1暦日9,720円の2パターン(いずれも免責補償料と税込)。今回は3時間プランを選択し、伊豆半島へとドライブに出掛けた。

駅レンタカー熱海営業所にはマツダ「ロードスター」の「S Special Package」(6速AT、ソウルレッドクリスタルメタリック)が2台用意してある

今回は、絶景スポット・十国峠駐車場を目指した後、長浜海水浴場を経由して駅レンタカー熱海営業所に戻るルートを選択。走行距離約30km、移動時間約1時間のショートコースだ。

熱海駅周辺は入り組んだ道が多いが、ボディサイズが小さくてFR(フロントエンジン・リアドライブ)の「ロードスター」は取り回しがしやすく、思い通りに操作できるので運転が楽に感じる。

運転の楽しさを感じたのが、駅レンタカー熱海営業所から十国峠に向かう途中の坂道だ。FR専用設計が施された1.5L直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」を搭載する「ロードスター」は、坂道も難なく登っていくが、特筆すべきはエンジンサウンド。アクセルを踏み込むたびに気持ち良く吹け上がる様を耳でも楽しめる。

西に駿河湾を望む抜群のロケーションの十国峠駐車場で撮影した1枚。北には富士山を見渡すこともできるが、当日はあいにく、雲がかかって見ることができなかった

晴天に恵まれ、絶好のドライブ日和となった取材当日。晩春の気持ちいい風を全身に浴びながらのドライブは、オープンカーならではの魅力だ。十国峠の次は潮の香りを感じる海岸線を通って、長浜海水浴場を目指した。

長浜親水緑地駐車場にて。マツダのデザイン哲学「魂動デザイン」をまとう「ロードスター」は写真映えもバッチリだ

夏には多くの海水浴客が訪れる長浜海水浴場も、海開き前とあって人の姿はまばら。「ロードスター」を長浜親水緑地駐車場に停め、しばし砂浜散策を楽しんだ後、駅レンタカー熱海営業所へと帰路に着いた。

帰着後、「オープンカープラン」の予約状況を尋ねてみたところ、5月以降は平日を中心にまだ空きがあるそうだ。JR熱海駅から少し足を伸ばせば、韮山反射炉や伊豆の国 パノラマパーク、沼津港といった歴史・絶景・グルメの観光スポットが盛りだくさん。ロードスターであれば、移動時間も含め、その魅力を満喫できること請け合いだ。

熱海営業所に用意してある「ロードスター」はナンバーにもこだわりが。今回試乗したクルマは「・・12(伊豆)」で、もう1台は「1212(伊豆伊豆)」となっている

「ロードスター」が旅の目的に?

伊豆半島ドライブを五感で楽しませてくれた「オープンカープラン」。しかしなぜ、一次交通の担い手である鉄道会社が、二次交通(クルマ)にフォーカスした旅行商品に力を入れるのかについては疑問が残った。そこで、JR東日本横浜支社の小林真一郎氏、同千葉支社の佐藤裕史氏、JRレンタリースの笠井淳氏に話を聞いた。

左から佐藤氏、笠井氏、小林氏

まず、「オープンカープラン」を館山・南房総エリアに続き熱海で開催するに至った経緯については、「4月からの静岡デスティネーションキャンペーンの開催にあわせて、JRレンタリースさんからお声がけをいただき、同キャンペーンの特別企画として熱海営業所で実施しています」(小林氏)という。だが、そもそも「ロードスター」をレンタルするという企画は、千葉支社が地方創生を目的にする“コトづくり”事業に取り組んだことが始まりだった。

千葉県の場合、千葉駅~新宿駅や京葉線・蘇我駅~東京駅といった区間は、通勤・通学をメインによく使われている。一方、千葉駅から銚子方面や勝浦・安房鴨川方面、館山方面となると、基本的には観光に特化している。そのため、JRとしては同地域に観光客を呼び込みたいところだが、「観光の目玉となるものはいろいろある中で、知ってもらう機会があまりない」(佐藤氏)のが現状だという。また、千葉県に限らず、地方の場合は駅と各観光地が離れているところが多く、二次交通の拡充が大きな課題となっていた。

「当初は、『ロードスター』を走らせて遊んでもらえればいいぐらいに考えていました」という佐藤氏。しかし、ロードスターが旅の目的であったとしても、現地の魅力を知ってもらう効果は大きいという

館山・南房総エリアに観光客を呼び込むにはどうすればよいのか。この課題について考えていた佐藤氏は、「私と現・木更津駅長には、ロードスターに乗っていたという共通点がありまして、じゃあ、ロードスターを走らせたら面白いんじゃないかと」(佐藤氏)思いついたそう。こうして生まれたオープンカープランの企画は、JRレンタリースとマツダの協力を得て実現に至る。

2018年12月から今年3月末までという、オープンカーには厳しい季節の開催となった「オープンカーde体感 南房総ドライブ」は期間中、ほぼ予約で一杯となり、大きな反響を呼んだ。利用者の中には、20代~30代の若者も多かったという。

「価格を低く設定したことで、若い方でも利用しやすかったのだと思います。また、近年は写真を目当てに旅行される方も多いですが、ロードスターは晴れているとまたいい色が出るので、そう意味でもぴったりですよね」(笠井氏)

笠井氏はもともと、クルマが観光のプラスαになればと考えていた。そのため、ロードスターを目的に訪れる利用者が多かったことは意外だったそうだ。「今回も、ロードスターに乗りたいから熱海に来るというお客様がいらっしゃるはずです。そういったニーズを掘り起こすことができれば、新たなビジネスチャンスにつながると思います」と笠井氏は期待を示す。

「前回の開催では、ロードスターに乗ることで楽しい気分になられるのか、笑顔で帰ってこられるお客様が多かったですね。ファンの多いクルマですので、やっぱり普通のレンタカーとは違ったのだと思います」(笠井氏)

JRグループでは、今後も異なる地域で「オープンカープラン」の実施を検討していくとのこと。佐藤氏は「キャンペーンが広がりを見せていることに、地元の方もすごく喜んでくださっています。ロードスターに乗りに来てもらって、現地を知ってもらえるというのが重要。いろんな地域にどんどん行ってもらって、そこで観光の魅力を知っていただくきっかけになれば嬉しいですね」と語る。

一次交通と二次交通のシームレス化で滞在時間を延ばす

JR東日本グループは「経営ビジョン2027」の中で、駅を拠点に旅の目的地を創生する(コトづくり)という方針を打ち出している。最後に、一次交通と二次交通を組み合わせることで、どのような可能性を感じているのか小林氏に聞くと、「今後は鉄道を利用して現地に訪れたお客様に対して、バスやレンタカー、もしくは自転車など、いろんな選択肢の幅を広げるというのが大切になってくると考えています」との答えが返ってきた。

「鉄道だけ、自動車だけというのではなく、いかにお客様にとって最善の策を用意できるかが交通事業者の使命になってくる」と小林氏

近年の旅行は、観光だけというよりも、そこで何を体験できるかという部分に重きを置く傾向が見られる。そうした旅行者の欲求を満たすために必要となるのが、効率的な移動手段による移動時間の短縮であったり、今回の「オープンカープラン」のように、移動そのものを目的にしてしまうことだ。JRがロードスターをフィーチャーした今回のキャンペーンは、鉄道とクルマの組み合わせで広がる旅の可能性を感じさせてくれた。

JR西日本が「おおさか東線」で目指す“完成形”とは

JR西日本が「おおさか東線」で目指す“完成形”とは

2019.04.25

「おおさか東線」の新大阪~放出間が開通

新大阪へのアクセス強化で新幹線需要アップを!

北梅田駅を建設して、より一層栄える大阪に

JR西日本が整備を進めていた「おおさか東線」の新大阪~放出(はなてん)間、通称「北区間」が2019年3月16日に開業し、これで2008年に営業開始した「南区間」(放出~久宝寺間)と合わせて、当初計画の全区間が完成した。

放出駅付近ですれ違う、奈良行きの「直通快速」(右)とおおさか東線の普通列車(左)

もともと存在していた貨物専用の城東貨物線を複線化し、旅客列車を走らせようという1950年代からの構想に基づき、新駅や新大阪への乗り入れルートを建設。鴫野~放出間で線路を共用していた学研都市線との分離・複々線化などを行ったものだ。

元より大阪市東部や東大阪市といった人口が多い地域を縦貫しているだけに、潜在的な旅客需要は見込まれていた。既存線の改良により、地下鉄のような莫大な建設費をかけることなく、これに応えた形だ。

新駅のうち、南吹田と城北公園通は、これまでバスしか公共交通機関がなかった地域に設けられており、交通の定時性、速達性の改善がおおいに期待される。JR淡路とJR野江は、それぞれ阪急、京阪との接続駅であり、周辺地域はもちろん、両私鉄の沿線と新大阪との間の往来が、混雑する大阪市中心部を経由しなくとも可能となった。ルートによっては乗り換え回数が減った。

城北公園通駅など、鉄道に恵まれなかった地域に設けられた駅もある

広域的にみれば、JR西日本は「直通快速」を新大阪~奈良間に設定し、JR大和路線奈良方面と新大阪との間のアクセス改善をもくろんでいる。新大阪~奈良間の直通列車は、1988年の「なら・シルクロード博覧会」開催の際に、梅田貨物線~大阪環状線経由(現在、関空特急「はるか」などが走るルート)で臨時快速が運転された実績があるが、単線の梅田貨物線や列車本数が多い大阪環状線のダイヤに挿入する苦労があり、その後、定期列車化されることはなかった。それがおおさか東線の全線開業で、毎日4往復の快速列車の設定が可能となったのである。

なぜ、新大阪へのアクセスを改善するのか

新大阪駅は東海道・山陽新幹線のターミナル駅。新大阪へのアクセスを改善するということは、まず第一に新幹線を便利に利用できるようにするということだ。奈良方面の直通快速を例として、沿線地域から発生する広域的な流動の一翼を担い、かつ新幹線の沿線から観光客、ビジネス客を招き入れるというもくろみが、おおさか東線の建設経緯および、今回のダイヤ設定から読み取れる。

沿線地域にとっては、新大阪へ直結されたことが大きい

おおさか東線の沿線は製造業が盛んな、いわゆる「モノづくり」の街だ。独自の技術を持った大小の事業所が多数、立地している。最近の産業構造の変化により、工場跡地に建設されたマンションが目立つようになったが、車窓を眺めていると街の特徴がよくわかる。

これまで、この地域は大阪市中心部へのアクセスこそ便利であったが、新幹線や空港といった、広域的なアクセスの拠点への便は、今ひとつであった。そこへ開業したおおさか東線は、新大阪への直行を可能とした。

終点の久宝寺が位置する八尾市もまた、製造業の街だ。今回の開業にあたり八尾市は、市制施行70周年記念事業と題して、おおさか東線普通列車へのヘッドマーク掲出行い、注目された。もちろん今後の他地域との交流活発化、ひいては産業振興への期待が込められていることだろう。

八尾市がPRのため掲出したヘッドマークをつけて走る普通列車

おおさか東線は、JR東日本の武蔵野線と対比されることもある。都心部から放射状に伸びる各鉄道を環状に結ぶ点が似ているからだが、沿線地域の構造はまったく異なる。武蔵野線も貨物専用線から旅客兼用に変更された路線だが、開業時の沿線は田園地帯。その後の発展により通勤路線となった。それに対し、おおさか東線はもともと過密とさえいえる人口集中地帯に建設されている。沿線の衰退を防ぎ、さらなる発展を促すことが、路線を持つJR西日本にとって重要な課題だ。

新大阪駅周辺の再整備も視野に

新大阪駅の周辺は、1964年の東海道新幹線開業時にはまったくの街外れで、単なる新幹線とほかの鉄道や自動車交通との接続駅でしかなかった。その名残りは、駅の正面出口に直結しているのがタクシー乗り場(現在の利用実態からすれば、まったく不合理)で、周囲の街へ出ようとすると、慣れないと道に迷いかねないぐらい不便な構造ともいえる。

ところが新幹線駅に至近という立地は、やはり企業にとっては魅力的で、オフィス街が形成され、超高層ビルも建設されるようになった。ただ、商業施設はほとんどなく、街は雑然としていて、梅田や難波のような繁華街としての賑わいには乏しい。

新大阪駅の駅名標には現在、隣の駅として西九条が表示されているが、これがいずれ「北梅田」に変わる

2018年8月29日、新大阪駅周辺地域は「都市再生緊急整備地域の候補となる地域」として、内閣府から公表された。将来的な中央リニア新幹線や北陸新幹線の乗り入れをにらんでのことである。これを受けて大阪市は大阪府と連携し、国、経済界、民間事業者などとともに、「新大阪駅周辺地域都市再生緊急整備地域検討協議会」を立ち上げた。都市再生緊急整備地域指定へ向けた準備を始めている。

もちろんJR西日本も新大阪へのアクセスをになう鉄道事業者として、この動きに深く関わることになる。むしろ、新大阪駅周辺整備の必要性は、同社がいちばん強く感じていたのではあるまいか。新大阪の都市核としての発展があれば、関西各地や中国地方からの列車を走らせているJR西日本にとって、自社の発展につながるからだ。

おおさか東線の整備は、むしろJR西日本サイドから新大阪の再開発と発展を促す、ひとつのアイテムと位置づけられ、進められてきたことだろう。もちろん、中央リニア新幹線や北陸新幹線の新大阪乗り入れも、将来的な視野に入れてのことだ。

おおさか東線の「終点」は北梅田

関西圏でも「駅ナンバリング」が進んでおり、あまり目立ってはいないように見受けられたが、おおさか東線の各駅にも付けられている。現在、新大阪がJR‐F02。以下、順に付けられ、久宝寺がJR‐F15となっている。JR‐F01は、乗り入れ予定の「北梅田(仮称)駅」のために空けられている。

北梅田駅は現在、JR大阪駅北側の旧梅田貨物駅跡地に建設中だ。開業は2023年春が予定されている。完成すると、現在、梅田貨物線を経由している関空特急「はるか」や特急「くろしお」などが停車する。そしておおさか東線列車も乗り入れる。

JR大阪駅のすぐ北側、地下に建設中の北梅田駅

現在でも、直通快速は新大阪へ到着した後、そのまま折り返さず、旧梅田貨物駅跡にある梅田信号場(北梅田駅の北西側にある)まで回送されてから折り返す。15分に1本の運転が基本のおおさか東線普通列車の間に割り込む形のダイヤなので、普通が折り返す新大阪駅2番線には入れず、3番線に到着、1番線から発車している。

新大阪駅の在来線乗り場は、おおさか東線の北梅田延伸を睨んで設計されている。1番線は「はるか」「くろしお」などが到着し、京都方面へ直通する。2番線が前述の通り、おおさか東線普通列車の折り返し。3番線が関西空港行き「はるか」と白浜・新宮方面行きの「くろしお」の出発となっている。

おおさか東線専用に使えるのは、事実上、2番線しかない。しかし、北梅田までの延伸が確定事項であるのなら、これは暫定的な使用方法とみて取れる。おおさか東線の列車が、普通、快速を問わず北梅田発着になれば、新大阪での折り返し列車は確実に減るからだ。

北梅田乗り入れがなった時点で、おおさか東線は真の全線開業となる。梅田地区はいうまでもなく大阪でいちばんの商業エリアであり、巨大な大阪駅ビルに代表されるように、JR西日本の経営上、最重要拠点でもある。そこへ、おおさか東線によって、これまで鉄道に恵まれなかった地域からの流動が生まれるとなれば、梅田の地位はさらに向上する。最終的にJR西日本が目指すところは、そこだ。