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ワンピースに学べ! 「官民ファンド役員辞任騒動」で報道すべきだった、真の論点

藤田朋宏の必殺仕分け人 第3回

ワンピースに学べ! 「官民ファンド役員辞任騒動」で報道すべきだった、真の論点

2019.01.09

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による連載

第3回は、「産業革新投資機構の騒動」について

何事も「正義と悪」で語りがちなマスコミの報道に思うこと

「なんだか勿体ない報道だなぁ」

産業革新投資機構(JIC)の経営者の方々と経済産業省に関する報道を見て、そんなことを感じました。官民ファンドであるJICの役員が報酬水準をめぐって所管の経産省ともめ、田中正明社長をはじめとする民間出身の取締役が全員辞任するという出来事でした。

僕が勿体ないと感じた原因は、マスコミの多くが勝手に「偉いおじさんは悪い」という前提を設定したストーリーばかりで報道していたことです。こうした報道は、本来の報道のあるべき姿を逸脱しているのではないか、と僕は思うのです。

産業革新機構の田中正明社長は、経産省との対立が原因で、社外取締役ら民間出身の9人の取締役が全員辞任し、新規投資を凍結すると発表した(画像は経産省外観)

前時代的な「わかりやすい悪人」がいるストーリー

僕が子供のころは、子供が見る番組は味方と敵の関係が単純な作品ばかりでした(ちなみに僕は人口ピラミッドで一番多い45歳)。当時は、顔が青くて感情が無さそうな宇宙人や、見るからに悪そうな顔で悪そうな喋り方をする怪人が地球征服を企んでいるような作品ばかり。大して悪いこともしていない敵を爆破して、みんなで勝利を喜ぶという単純なストーリー展開が、敵役が可哀そうでどうにも好きになれない子供でした。

僕と同じように感じる子供も多かったのか、それとも作っている側の大人が飽きたのか、恐らく初代のガンダムくらいから、子供向きの作品にも、「主人公にも敵役にもそれぞれの正義が存在する」という価値観の作品が増えたように思います。

それから数十年が経ち、今や国民的作品であるワンピースに至っては、敵役の海軍の背中にデカデカと「正義」と書いてあります。子供向け作品でさえ、「どっちが正しいか」という子供じみた議論はせず、「正義vs正義」の構図で話が進んでいきます。平成に入って、「価値観なんてもんは人の数だけあるんだ」っていう当たり前の事実を子供でも知っている国になったわけです。

にも関わらず、何かあるたびに日本のマスコミの多くは、誰か悪役を仕立てないと報道できないルールでもあるかのように、単純なストーリーの報道ばかりしています。

正義を一つに絞らないと視聴者が理解できないと思っているのか、はたまた報道の形を取りながら自分の考える正義で日本を染めたいと思っているのか。どちらが理由なのかはわかりませんが、こういった人による価値観の差異を雑に扱うスタンスで届けられる報道を見るたびに、「このテレビ局の人たちは視聴者を子供以下の理解力の持ち主ばっかりだと思っているんだろうな」なんてことを感じるのです。

もう平成も終わるわけですが、いつになったら彼らは、怪人を爆破して喜んでいた時代の価値観で報道をしていることに気づくのでしょうか。

そこには本当に「悪役」がいるのか

そもそも、JICの経営陣は彼らが考えるあるべき姿と何が違かったのかを自分たちの言葉で発表していましたし、経産省も世耕大臣が代表して自分の考え方をしっかり述べていました。

登場人物が、それぞれの価値観でそれぞれの言葉で「日本をより良くするためにはどうしたらいいか」という意見を言っていたのです。これはとても立派な態度と行動だったと思います。

僕は、こうした健全で建設的な議論から逃げないことが、今の日本にとって最も大事なことだと考えています。しかし、世の中ではこういった議論がオープンになされたことそのものを問題視して、監督官庁である経産省を責める声も多かったように感じます。

論点を明確に定義して、オープンに議論して、混乱を詫びた上で辞任するって素晴らしいことじゃないですか。国の中枢のところでああいったオープンな議論が行われる国って、素晴らしい国だと僕は思うんですよ。揉め事は有ってはいけないのではなく、健全で建設的な議論をしようと思ったら、揉め事を避けてはいけないと思うのです。

せっかく、経済界で名前の通った人たちが個人的なレピュテーションリスク(企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスク)を恐れず進退を賭けて問題提起してくれたのだから、短絡的にどっちが正しいとか、どっちが間違えているとかいう結論を出すことを目的としない、建設的な議論を続ける努力をするのが報道の役割だったのではないでしょうか。

しかし、実際のマスコミの報道を見ていると「なんだか偉い人がもっと給料くれって言って喧嘩している」的な、極めてクダラナイ議論に矮小化されて報道され、エリートが私欲で喧嘩している的なネタとして消費されてしまったことが、とても残念でした。

「正義と悪」を決めつける報道は、正義か悪か

ちなみに、同時期に話題になっていたニュースに、某自動車会社の有名な経営者が「莫大な社費を流用しているvsしていない」という報道もありました。テレビのワイドショー的にはこちらも「エリートが過剰に給料を多く欲しがっている話題」として一括りにされていましたが、こちらには建設的な論点は何もありません。

このような非建設的な話をダラダラと報道しみんなで議論しても、なんの意味もないと僕は思うのですが、こっちの件の方がマスコミ的「悪役」が設定しやすいからなのか、年が明けても未だに盛り上がってます。

なんだか「新たな国民の悪役」を皆が欲しがって消費している「残念な国」になっている傾向が、年々強まっているような気がしています。

ここで忘れてはならないのは、ワンピースが「正義vs悪」という対立軸を設定しないままでも、20年以上も国民の関心を引き続けているということです。少年ジャンプを読む小学生でも、あの何百人のキャラクターのそれぞれが有する価値観の差を理解できるのが、今の日本国民の認知レベルなんだと思います。

つまり、報道する側に尾田先生のような人物の価値観を魅力的に描き分ける技術があれば、JICの件でも視聴者を惹きつけるコンテンツは作れたはずなんです。

今回のように、対立する双方がそれぞれ建設的に意見を言っているコンテンツなんてそうはありません。前向きな議論やさまざまな立場の価値観を紹介するうちに、国民全体が日本経済をどうしていくべきかについて、一人一人が意見を持てる国に自然となっていくはずなのです。

毎月のように発掘されて、新たな国民の敵として設定されてしまう悪役に、毎日さらに新しい角度から悪口を見付けた人が頭が良く見えるような、そんな安易な報道コンテンツに逃げずに、いろいろな人の価値観を整理しそれぞれの価値観を魅力的に見せることが、優秀な人が高給をもらっているマスコミに期待すべき役割だと思うのですよ。

報道のストーリーメイク、4つの改善策

では、今回の件はどういうストーリーで報道すれば良かったのか、誰かに意見を言う時は「それじゃダメだ」に留めず「例えばこうしてみるとか」まで付け足すことをモットーに生きているので、勝手に4点考えてみました。

1点目:結論を出さないことを恐れない

報道の役割は「複雑な問題に、誰でも同意できるような短絡的な答えを提示すること」とかいう、おかしなプライドを持っているからコンテンツの魅力が減ってしまうのです。理解が難しい、しかし根源的に大切な問題は、短絡的な答えを出さず難しいまま放置しておく方がストーリーとしての魅力は増すのです。

ワンピースだって、「そもそもワンピースってなんぞや」「海賊王ってなんぞや」って根源的な命題には何ひとつ答えないまま、連載が続いているわけです。短絡的に答えを出す単純なコンテンツでは、もう子供でも楽しめないのです。

つまり、「官民ファンドってなんぞや」ってところがこの議論のラスボスであることは明示しつつも、「その説明は、どうやら登場人物によって理解が違うようだぞ」というままにする報道戦略であれば、このテーマはもっと人々の興味を引けたのではないか、と僕は思うのです。

2点目:論点は給料の「額」ではなく「出どころ」

官民ファンドとはなんぞやという本質をふんわりさせたままにしておく前提で、本件ステークホルダーの意見の相違の理由は、「ファンド運用者の給料は、元本から出されるのか、儲けから払われるのか」という点にあります。しかし、僕がみた限りの報道で、給料の出どころについての理解が違うことに言及した報道は一つもありませんでした。

具体的には「税金で用意した2兆円から給料を払うのだから一般的な公務員と合わせるべきだ派」と、「成功報酬は投資で儲けた額から払うのだから一般的な投資企業と合わせるべきだ派」に整理できたはずです。それから適切なタイミングで「給料の出どころは税金じゃないと思うけど、国で用意した2兆円がなければ投資成果も出せないんだから中庸が正解だ派」を登場させます。

それぞれの案に対して適切なキャラクターを設定できれば、サラリーマンの昼飯の話題だけでなく、高校生の部活の話題にまででき、それがあるべき日本経済のあり方を一人一人が意識するキッカケにまでできたはずです。この「そもそもどこから給料を払っているかの認識の差だよね」っていう整理をちゃんとしている報道、見かけましたか?

報道のポイントであった「給料」、その出どころについて多く語られた報道は少なかった

3点目:「2兆円なんてちっちゃい」という事実

そもそも「2兆円」という運用額の大小も重要です。無駄にデカイ数字が出てくると話が盛り上がる手法は少年ジャンプが発明した優れた手法ですが、これは小学生だけでなく、大人にも通用します。日本人は、「私はあなたより強いです」と言われるよりも「私の戦闘力は53万です」と言われるほうが、ストーリーに感情移入できるように調教されているのです。

ここで僕が皆さんと共有したいのは、国が運用するファンドとして、2兆円はかなり小さいということです。例えば、ソフトバンクビジョンファンドは10兆円規模、日本の15分の1のGDPしかないシンガポールの国営ファンドであるGICやテマセクは、それぞれ10兆円以上運用していると言われていますし、アメリカなんかでは二桁兆円のファンドなんてザラです。日本生命でも60兆円くらいは運用しているはずです。

「そうか、2兆円ってちっちゃいのか」って驚きが、この議論をより深めたはずなのです。

そうすれば、「あのおじさん達は、ちっちゃい規模のファンドなのに国のために頑張ろうとしていたのか」「ちっちゃいファンドだから成り手がいないのか」「ちっちゃいファンドなんだから給料安くていいんじゃない? 」「そもそも日本がそんなちっちゃいファンドサイズで恥ずかしくないのか」などなど、いろいろな議論が生まれたことでしょう。

ソフトバンクビジョンファンドの概要。(写真は2016年11月開催の決算説明会)

4点目:本当の登場人物はみんな魅力的

最後に、そもそもこのストーリーに出てくる人を、全員かっこよく描くべきでした。だって実際かっこいいんだから。本物以上にかっこよくしたらそれはエンターテイメントの範疇ですが、だからといって、本物よりかっこわるく報道する必要はないはずです。

僕は経産省と産業革新機構、どちらの組織とも一緒に仕事をする機会が多いです。ここで繰り返し声を大にして言いたいのは、こういった組織で働くみなさんは本当に、日本の国を良くするためにいつも一生懸命だということです。

価値観や正義感は人それぞれですが、若い人からベテランまでどの人も、本当に一生懸命働いています。大衆が虐めることで消費すべき対象ではなくて、国のために奮闘するかっこいい人達なんです。にもかかわらず、時代錯誤の「エリートってのは悪いことしているに違いない」という大前提での報道が目についたのが、今回の最も残念なところでした。

それぞれが足を引っ張るような報道ばかりしているから、日本はいつまでもデフレマインドから抜け出せないんだよ、と思うのです。

「大物おじさん=悪」と決めつけては勿体ない

また、今回辞任された皆様とは直接面識はないのですが、彼らと同じような経済界の大物のおじさんたちと話をさせていただく機会は、僕の日々の仕事でそれなりにあります。こういった、双六でいえばすでに「上がった」ような人たちこそ、日本をより良くするために、人生の残り時間で何ができるかと本気で考えている人が多いと感じています。

こういった(大物)おじさんたちって、そりゃあ一癖も二癖もある人ばかりですよ。でも基本的には一本筋の通った面白い方々であることが多いし、だいたいみんな愛嬌があります。そう言ったおじさん達を、マスコミが嵩にかかっていじめて何か建設的なことが起きるのでしょうか。

「大物おじさん=悪人」と定義して消費してしまうのは簡単です。しかし、こういった人たちを愛して、彼らが何を言っているのかを少しでも理解しようとし、「本来どうあるべきだったのか」という観点で前向きな議論をすることが、この記事をうっかり最後まで読んでしまった皆さん一人一人の生活を、さらに楽しいものすると信じています。

さらには、近年の日本でよく見られる報道の姿勢が「誰かを悪役に設定し、複雑な議論に短絡的な結論を出す」ものから、「一人一人の価値観を整理し、単純な悪役を設定しない」ものに変わったとしたら、この国はもっとずっと楽しくなるのになぁ、と思うのです。

双方が建設的な議論をしているときは、一旦、「どちらも正しい」と受け止め、理解しようと心がける姿勢が大事。というのが筆者の意見です

(藤田朋宏:ちとせグループ 創業者 兼 最高経営責任者)

連載バックナンバー

10年前の失敗を糧に銀行破壊に挑む「ネオバンク」、米で急成長

山下洋一のfilm@11 第3回

10年前の失敗を糧に銀行破壊に挑む「ネオバンク」、米で急成長

2018.12.25

銀行大手を上回るネオバンクの新規顧客獲得ペース

リーマンショック以来、10年ぶりの景気減速の兆し

長く続いた米国の景気拡大局面ついに終了か

巨大なバンキング市場にディスラプションが起こる可能性

Amazonなどプラットフォーマーの市場参入も

米国で「ネオバンク」と呼ばれる新たな銀行の利用者が増加している。例えば、サンフランシスコを拠点とするChimeは毎月15万人以上の利用者を増やしており、新規口座獲得のペースはCitibankやWells Fargoといった銀行大手を大きく上回る。

ネオバンクの明確な定義はまだなく、今伸びているのは預金や融資といった従来銀行が行ってきたサービスを肩代わりする事業者だ。Chimeのほか、Simple、Moven、Empowerなどがネオバンクと呼ばれており、銀行大手にはない新しい金融サービスを提供する。彼らの多くは、銀行業務に必要なライセンス並びに安全の担保を、既存の地方銀行と提携することで確保している。

米景気拡大がついに終わる? ふたたびネオバンクに脚光

ネオバンクが銀行大手の牙城を崩そうとするのは、実はこれが二度目だ。第一波はリーマンショック後の2009年頃に起こったが、景気回復と共に銀行大手が息を吹き返し、バンキング市場に大きく食い込むことはできなかった。それから10年が経過し、長く続いた米国の景気拡大局面の終わりの兆候が見え始め、今ふたたびネオバンクが注目されている。

"景気減速・後退"を要因としている点では前回と同じだが、今回のネオバンクには大きな追い風が吹いている。同じく10年の歴史を積み上げてきたスマートフォンの普及である。Chimeなど基本的な銀行業務を提供しているネオバンクは、オンラインのみでサービスを提供し、ユーザーはスマートフォンを通じて全てのサービスを受け取れる。

10年前はスマートフォンの信頼が低く、残高確認以外をスマートフォンでやることに不安を覚える人が多かった。しかし、この10年でスマートフォンは私達の暮らしに深く浸透し、例えばモバイルで買い物をする人は珍しくなくなった。一方で、10年前は人々の生活を豊かにするものの一つだったショッピングモールがここ数年で急速に縮小している。

同じことがバンキングに起こっても不思議ではない。なぜなら、バンキング市場は"巨大"で、長く"変化に乏しく"、そうした銀行大手に人々が強い"不満"を抱いている。「デジタル・ディスラプション」が起こる条件が揃っているからだ。

ここまで読んで、「ネオバンクって日本でいうネット銀行だよね」と思った人も多いと思う。確かに、今のところネオバンクは日本にもあるネット銀行以上の存在にはなっていない。では、なぜ今回ネオバンクを取り上げたかというと、今注目すべきはリアルな銀行の方。米国では日本に比べ、従来の銀行がディスラプション(破壊)の脅威にさらされている。

「不要な手数料、不透明な手数料と決別できる」とアピールするChime。銀行大手のサービスを利用する米国の平均的な家庭は毎年329ドルの手数料を支払っているという

リアル銀行を襲うディスラプションの波

「手数料が高い」「顧客のためのサービスに欠ける」「モバイル対応が遅い」など、競争が少ない立場にあぐらをかいてサービスの向上・改善に取り組んでこなかった銀行大手に対する人々の不満は根強い。とはいえ、リーマンショック後は、多くの銀行がオンラインサービスを強化し、顧客の体験に基づいたサービスの改善を行った。それでも手数料だけは変わらず、それどころが金額が上がり、対象が増え続けている。何か問題があって小切手の換金をストップさせたら30ドル、残高を超えて小切手やデビットカードを使ってしまったら35ドル (Overdraft fee)というように油断するとどんどん貯金が目減りしていく。残高が足りなくなることなんてめったに起こらないと思うかもしれないが、2017年に米国で343億ドルものOverdraft feeが徴収された。Bankrateの調査によると、ATMの手数料も過去10年間で上がり続けており、最新の調査 (2017年7月~2018年7月)でも記録を更新した。

従来の銀行は各地に支店を置き、スタッフや機材を維持していく必要がある。固定費用が大きな銀行にとって、手数料は預金の少ない顧客からも入ってくる安定収入になっている。10年前にネオバンクが話題になった時は、近くに支店があり、数多くのATMで現金を引き出せる安心感を優先する人が多かった。しかし今は、近くに支店があるより、スマートフォンで完結する便利さを求める人が増えている。従来銀行の手数料に頼らざるを得ない構造が疑問視されるようになって、ネオバンクやチャレンジャーバンクに顧客を奪われる。銀行の固定費用負担の重みが増し、さらに手数料収入に頼るという悪循環だ。

それに対して、支店を持たないネオバンクは、少ない固定費用負担でサービス開発を充実させ、手数料を最小限に抑え、預金利率にも反映させている。そう考えると、このまま増え続ける手数料を払うことに対する疑問は大きくなる一方だ。さらに、キャッシュレス化がこのまま進めば、ATMにアクセスできるような環境もこれまでほど重要ではなくなるだろう。

Wall Street Journalによると、米国では2017年6月までの1年間で閉鎖した銀行支店が1,700店を超えた。1年間の減少数としては過去最高だ。しかし、全ての銀行で減少しているのではなく、地域のコミュニティに根づいた小規模の銀行は逆に支店を増やしている。これは90年代後半から2000年代の書店市場の変化に似ている。90年代後半、大量仕入れによる値引き商法を展開した大手書店チェーンによって街の書店が減少した。そんな大手書店チェーンのビジネスモデルをAmazonが破壊。逆にAmazon時代になると、学校など地域コミュニティとの関係が強い街の書店がリアルの世界では独自の価値を提供できている。

では、今あるネオバンクがこのまま銀行大手に取って代わるかというと、デジタル・ディスラプションの多くがそうであるように、破壊的創造から新たな環境が形成される過程で、初期に活躍したスタートアップの多くは姿を消すだろう。

Amazonはバンキング市場をも支配するのか?

すでにSquareやGoldman Sachsといった異なる分野での成功者がバンキング市場に参入してきている。さらに「プラットフォーマー」の参入も噂される。今日のネオバンクは自身のサービスを説明する上で、Amazonを例に引くことが珍しくない。より良い体験を築き上げ、利用者のロイヤリティを獲得することに注力し、利用者のデータを新たな製品やサービスに活用していこうとしている。しかし、そのモデルとしているAmazonがバンキング市場の攻略に乗り出さない理由はない

実際に今年3月、「AmazonがJPMorgan Chaseと共に、若い世代のニーズを満たし、また銀行口座を持てない人達のソリューションにもなる当座預金口座のようなサービスを開発している」とWall Street Journalが報じた。その後にBainが行った6,000人の米消費者を対象にした調査で、Amazon Primeメンバーの43%が「試してみたい」と回答した。18~34歳の年齢層だと70%近くになる。今のネオバンク市場の盛り上がりには、次世代のデジタルバンキングへの期待と、それを早く実現させたいという力が働いているのだ。

米通貨監査局 (OCC)から国法銀行免許を暫定取得したVaro、金融サービスとは何なのか? 銀行の存在意義は? 利用者にとっての価値は? といった根本を問う議論が規制にも及んでいる

山下洋一のfilm@11」は、シリコンバレーを中心にテクノロジー企業の勃興を追い続けてきた筆者が、独自の視点で米国の”今のリアル”を切り取る連載コラムです。

LINEが銀行業に参入、スマホ世代を取り込み金融サービスで存在感

LINEが銀行業に参入、スマホ世代を取り込み金融サービスで存在感

2018.11.28

「LINE Score」で信用情報サービスに乗り出すLINE

みずほ銀行と提携、2020年には銀行業に進出を計画

スピード感やチャレンジ精神、IT業界の文化を金融業界へ

「LINEの金融サービスはだいたい出そろった」。LINEの代表取締役CEOである出澤剛氏は、11月27日の新サービス発表会でこう語った。決済サービスの「LINE Pay」をはじめ、この1年は特に矢継ぎ早にサービスを強化、拡大してきたが、新たにスコアリングサービス「LINE Score」を発表して信用情報サービスに手を広げ、そして銀行業として「LINE Bank」を2020年に開業する。

LINEとみずほの協業によるLINE Bankが2020年に開業へ

矢継ぎ早の新サービス LINE PayはWeChat Payと提携

2018年になってからだけでも、LINEは1月にテーマ投資のフォリオと提携。新会社LINE Financialを立ち上げて金融サービスへの取り組みを本格化した。3月にはLINEウォレット、4月には損保ジャパン日本興亜ホールディングスと提携。5月には野村ホールディングスと合弁契約。7月には仮想通貨交換所BITBOX、8月にはLINE Pay店舗用アプリ提供開始とQRコード決済最大5%還元を開始。10月にはLINEほけん、LINEスマート投資を開始。11月にはマイカード、LINEクーポン、LINE家計簿をそれぞれ開始した。

LINEの金融サービス

国内だけではない。グローバルでも、LINE Payを提供する東南アジア3カ国・地域の台湾、タイ、インドネシアでサービス強化。特に台湾でインターネットバンキング、インドネシアで大手銀行と提携している。

ユーザー数の多い東南アジアでもLINE Payをはじめ金融サービスを提供している

そうしたサービス強化に向けて、みずほフィナンシャル専務執行役やオリエントコーポレーション専務執行役員などを歴任した齊藤哲彦氏を、LINE Financialの代表取締役社長CEOとして招聘。12月から舵取りを任せる。

LINE Financialの代表取締役社長CEOに就任する齊藤哲彦氏

こうした取り組みのひとつのキーとなっているのがLINE Payだ。最近のQRコードを使った決済サービスとしては古参に当たる2014年からサービスを提供。QRコード、プラスチックカードに続いて非接触決済のQUICPayに対応することで対応店舗を拡大。11月22日にはスマートフォン決済利用可能店舗を100万カ所まで増加させた。

今年、多くのサービスを提供したLINE Pay

とりあえずの目標を達成した形だが、出澤社長はさらに個人店舗などを始めとした小規模店での利用拡大に向けて開拓を加速させる考えだ。

LINE Payの長福久弘取締役COOは、「挑戦の多い年だった」と2018年を振り返る。100万カ所の対応箇所の拡大だけでなく、3.5~5%という高い還元率、各種キャンペーンで、ユーザーの利用拡大にも取り組んだ。

加盟店向けには、初期費用、決済手数料無料に加え、集客、販促、経営、経理といった「決済の枠を越えた店舗に必要不可欠なサービスを提供していきたい」(長福氏)考えだ。

手数料無料化だけでなく、さまざまなサービスを店舗向けにも提供する

さらに「決済革命は次のステージへ」(同)と意気込んで発表されたのが、さまざまな提携だ。まずはJapanTaxiと提携して、決済用タブレットをタクシー内に設置し、LINE Payでの支払いに対応する。キャッシュレス化が遅れているタクシー業界で、2020年までに全国のタクシーで4台に1台となる5万台を対応させる計画だという。

JapanTaxiが対応するキャッシュレス対応タクシーでLINE Pay支払いに対応する

年末の忘年会シーズンを狙って「LINE Payでわりかんキャンペーン」も実施する。QRコードを読み込むだけで割り勘ができるということだが、詳細は今後発表する。

QRコード読み込みで割り勘できるというサービス。詳細は後日発表される

そして大きなトピックがインバウンド向けの施策だ。訪日観光客が拡大している中、国別で訪日客の多い東南アジアの国々で、台湾は2,100万、タイは4,400万、インドネシアは2,200万のユーザーを抱えるLINE。これに日本を加えた4カ国・地域でLINE Pay Global Allianceを結成。これまで各国バラバラだったLINE Payについて、まずは訪日客が自身のLINE Payを使って日本で決済が行えるようにする。

訪日観光客が増加する中、特にアジア圏からの観光客が多い

韓国では、親会社のNAVERが提供するNAVER Payと連携することで、同様にNAVER Payユーザーが日本のLINE PayのQRコード決済を可能にする。さらに、中国ではテンセントが提供するWeChat Payと提携する。

日本ではソフトバンク系列のPayPayが中国Alipayと提携しているが、その対抗馬としてLINE PayがWeChat Payをサポートする。WeChatは、LINEと同様にチャットアプリとして、決済からSNSへの連携が小売店にとっても付加価値をもたらすとしており、「より多くの小売店に対し、より多面的な付加価値を与えられる」(テンセントWeChat Pay事業部副総裁・李培庫氏)とアピールする。

テンセントWeChat Pay事業部副総裁・李培庫氏
多くのユーザーを抱える各サービスが国内のLINE Payに対応することで、インバウンドでのキャッシュレスが進展する

LINE Pay Global Allianceは、2019年早期にも開始する予定で、LINE PayはWeChat Payのアクワイアラーとして加盟店審査も行い、さらなる加盟店拡大にもつなげていく考えだ。

なお、現時点でインバウンド向けの施策であり、日本のLINE Payユーザーは基本的に海外で使うことはできない。今後の対応も検討するが、特にWeChat Payの場合、中国国内でLINEの通信がブロックされているため、当面対応はできない見通しだ。

PayPayが100億円を還元する大型キャンペーンを実施するが、これまでのキャンペーンを継続していくことで対抗する。QRコード決済の利用者拡大に向けて、PayPayのキャンペーンは活性化につながるとみて歓迎の意向だ。

LINEがつくる銀行の正体

LINEはコミニュケーションサービスであり、ユーザーがやりとりする相手、その頻度などの情報をLINEは抱えている。メッセージ内容などの秘密情報は得られないが、それでも「ある種の特徴やある程度の人間関係、傾向の分析ができ、行動の傾向データを把握できる」と出澤社長は話す。

従来の信用評価に対して、オンラインなどの情報や行動傾向のデータを加えるのがLINE Score

こうしたオンラインの行動傾向データに属性情報を掛け合わせてスコアを算出するスコアリングサービス「LINE Score」も提供する。ビッグデータ解析によって、従来の信用情報だけではない、「今の時代にあった、個人にフィットした信用情報をスコアリングする」(出澤社長)というもので、これを活用したさまざまなサービスを提供する考えだ。

もちろん、単にLINEを使っているだけではスコアは算出されず、ユーザー同意が必要

第1弾サービスとして、「LINE Pocket Money」を提供。これは個人向けローンサービスで、従来の信用情報に加えてLINE Scoreを活用することで、「より解像度の高いデータが活用できる」(同)としている。

まずは個人向けローンのLINE Pocket Moneyを提供
LINE Scoreと金融機関の信用評価を組み合わせる
スコアリングデータは、利率や利用可能額にも活用する
今後、さまざまなサービスとLINE Scoreを連携させる

そして最後に発表されたのが、みずほフィナンシャルグループと提携し、それぞれの子会社であるLINE Financialとみずほ銀行が両社でLINE Bankを設立する。19年春に新会社を立ち上げ、2020年には開業を目指す。

LINEとみずほフィナンシャルグループでLINE Bankを設立する

みずほ銀行はLINEのメインバンクの1社でもあり、これまでも付き合いがあった。みずほ銀行自身がLINEを使ったサービスを提供しており、3年前からの付き合いの中、ここ1年ほどで銀行設立に向けた話し合いを進めてきたという。

メガバンクは、若者の新規口座開設数でインターネットバンキングに後れを取っており、特にデジタルネイティブ層へのリーチに不安があった。LINEはこうした層に強く、相互補完できる。ある程度の競合は織り込みつつ、こうした「デジタルネイティブ世代への接点を持つことが第一の目的」(みずほフィナンシャルグループ 執行役副社長 リテール・事業法人カンパニー長の岡部俊胤氏)。

みずほフィナンシャルグループ 執行役副社長 リテール・事業法人カンパニー長の岡部俊胤氏

みずほは、決済、与信といった銀行にまつわるプラットフォームを有しており、オリコのリスク管理を含めた部分でLINEを支えることも目的とする。岡部氏は「黒子」という表現を使うが、みずほはLINE以外にもこうした黒子役での事業展開を今後進めていくという。その試金石ともなりそうだ。

出澤社長は、金融サービスの提供において、「日常的に一番使う、生活に密着するのは銀行業」と指摘。その中で、現在の銀行には「我々の観点からすると、ユーザーにとって改善の余地がある」としており、そうした現在の銀行の課題を解決することを目指す。

「今の金融サービスは10年前、20年前に考えられた設計で、なんとかインターネット対応しようとしている」と出澤社長。そうした古い設計から将来に向けるのではなく、「5年後を見据えて、その時に当たり前の金融サービスを提供する銀行を作る。5年後から逆算して、5年後に必要なサービスは何かと考えている」と話す。

LINEの代表取締役CEO・出澤剛氏

みずほ側にとっても、LINEの持つビッグデータによるデータビジネスを踏まえたビジネス研究も視野に入れるとともに、岡部氏はLINEとの協業によるスピード感やチャレンジ精神といったIT企業の文化を取り入れたい、という考えを示している。また、LINE Bankからみずほ銀行への移行によるユーザーの拡大も期待する。

こうした一連の金融サービスによって、出澤社長は必要なサービスが出そろったという認識を示す。LINE Bankの詳細は現時点で明らかではないし、LINE Scoreを活用したサービスもまだそろっていないが、出澤社長は「大きな意味で金融業界は動いてきている。その中で動かざるをえない状況」と指摘し、サービスを強化・拡大していく計画だ。