「試乗記」の記事

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

SUVでは満足できない人へ…「パサート」試乗で再考したクロスオーバーワゴンという選択肢

2019.01.17

フォルクスワーゲンの「パサート オールトラック」に試乗

これは意外? クルマ好きも納得のスポーティーなクルマ

ステーションワゴンとSUVの“いいとこ取り”

昨今のSUVブームはとどまることを知らない。コンパクトからラグジュアリーまで多様性もみられ、さらに「RAV4」の日本復活など、いくつかの新型車投入のニュースも届いている。しかし、SUVが必ずしも全てのユーザーにとってベストな選択肢とはいえないはずだ。

日常の使い勝手などを考慮すると、セダンとSUVの架け橋である「クロスオーバーワゴン」こそ、真の“いいとこ取り”なのではないかと思うところもある。今回は、フォルクスワーゲンから登場した「パサート オールトラック」に試乗し、この車種の魅力について再考してみた。

フォルクスワーゲンのクロスオーバーワゴン「パサート オールトラック」に試乗した

スバルが普及させたクロスオーバーワゴンという車種

フォルクスワーゲンがミッドサイズモデル「パサート」に新グレード「パサート オールトラック」を追加した。このモデルは、パサートのステーションワゴン「パサート ヴァリアント」をベースとし、SUVのエッセンスを取り入れた「クロスオーバーワゴン」と呼ばれるジャンルのクルマだ。つまり、ステーションワゴンとSUVの中間的な存在である。特徴としては4WD、専用サスペンションで高めた最低地上高、SUVを彷彿させるラギッドなスタイルなどが挙げられる。これらにより、ステーションワゴンよりも走破性が高まっている。

「パサート オールトラック」は最低地上高の高さやSUVを髣髴させるスタイルなどを特徴とする。価格はグレード別に「Passat Alltrack TDI 4MOTION」が509万9,000円から、「Passat Alltrack TDI 4MOTION Advance」が569万9,000円からだ

少しだけクロスオーバーワゴンの歴史を振り返りたい。意外かもしれないが、こういったクルマを普及させたのは日本メーカーなのだ。

SUVのニーズが高まっていた1990年代の北米で、SUVを持たないスバルは大苦戦していた。その打開策として、2代目「レガシィ」をベースとするクロスオーバーモデル「アウトバック」(日本名:レガシィ グランドワゴン)を開発。これが大ヒットとなり、北米市場での巻き返しに成功する。

スバルが2代目レガシィをベースに開発した「アウトバック」。意外にも、歴代モデルの中にはセダン仕様が用意されていたこともある。日本では「レガシィ グランドワゴン」の名で登場。その後、「レガシィ ランカスター」と名称を変更した。先々代モデルからは日本でも輸出名を取り入れ、現在同様の「レガシィ アウトバック」となった

アウトバックがヒットした背景には、ステーションワゴンの高性能化が進み、実用車というイメージが変化して、アクティブなカーライフやスポーティな走りが楽しめる多用途なクルマとして認知されだしたことがあった。セダン譲りの使い勝手と走行性能、そこにラフロードにも対応できる走破性を組み合わせた欲張りな存在として人気を集めたのだ。事実、アウトバックの後にはボルボ「XC70」(後のV70 クロスカントリー)や「アウディ オールロード」といったクロスオーバーワゴンの名車が続々と誕生している。

今やクロスオーバーワゴンは、ステーションワゴンの定番となった。そのパサート版が「パサート オールトラック」だ。

パサート版クロスオーバーワゴンはどんなクルマなのか。試乗で確かめた

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすい?

ラギッドなイメージを高めたエクステリアは、パサート本来の上品なデザインの中に、アグレッシブさを感じさせる。主な変更点としては、アンダーガード付きの前後バンパー、ホイールアーチのブラックモール、シルバー仕上げのサイドシルモールなどが挙げられる。サスペンションは標準車+30mmアップとし、最低地上高は160mmを確保した。

ボディサイズは全長4,780mm、全幅1,855mm、全高1,535mm。コンパクトとはいえないが、日本の道路や駐車場には適応しやすいサイズといえる。最大のポイントは、ルーフレールを装備しながらも薄型とすることで、全高を1,550mm以下としているところ。これなら、多くの立体駐車場に入れられるはずだ。

「パサート オールトラック」は日本でも使いやすいサイズ感だ

基本的にインテリアはパサートと共通だが、グレーのパネル加飾を取り入れるなど、スポーティーな装いにしてある。装備は上級モデルらしく充実していて、全車速追従機能付きのACCや車線内中央維持支援機能「レーンアシスト」、渋滞時追従支援機能「トラフィックアシスト」などの先進安全運転支援機能をはじめとし、スマートキー機能の「キーレスアクセス」やSSDナビ付きインフォテインメントシステム「ディスカバープロ」、シート&ステアリングヒーター、パワーテールゲートなど快適装備も満載だ。

車内は広々としており、前後席共に快適なスペースが確保してある。ラゲッジスペースは標準で639Lと大容量。後席を折りたためば最大1,769Lまで拡大可能だ。

インテリアはスポーティーな装い。機能はパサート ヴァリアントの上級グレードに近いもので、充実している
後席は3分割の可倒式。折りたためば最大で1,769Lまで積める

これがベストパサート? スポーティーな乗り味を体感

次にメカニズムを見ていく。エンジンは「AdBlue」(アドブルー、尿素SCRシステムの触媒として用いる尿素水のこと)を使用したクリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載。最高出力は190ps/3,500~4,000rpmで、最大トルクは400Nm/1,900~3,300rpmを発揮する。トランスミッションにはDCTタイプの6速DSGを組み合わせる。

最大のポイントは、現行型パサートで初めて4WDを採用していること。さらに、アクセルやパワステ制御などを変更できる走行モードには「オフロードモード」が追加となっている。オフロードモードでは、急な下り坂で車速を一定に保つブレーキ制御「ヒルディセントアシスト」などが作動する。

クリーンディーゼルの2.0TDIエンジンを搭載する「パサート オールトラック」

試乗したのはパサート オールトラックの最上級グレードである「アドバンス」だ。一言でいえば、かなりスポーティーなキャラクターに仕立てられている。低回転で最大トルクを発揮するディーゼルエンジンの魅力が存分に味わえて、峠道の上り坂も力強く駆け上っていく。元気さはパサートTDIを上回っている印象だ。出力は同等だが、アクセルなどのセッティングが異なるのだろう。

そこに前後のトルク配分が可変となる4WDの「4MOTION」と電子制御ディファレンシャルロック「XDS」が加わることで、コーナリングもグイグイ曲がっていく。それでいて乗り心地も良いのだ。ラフロードに適応すべく、足回りのしなやかさを重視していることが良好な乗り心地につながっているのだろう。

「パサート オールトラック」の上級グレード「アドバンス」で御殿場周辺の峠道を走った

同じパサートのスポーティグレード「2.0Rライン」は、もっとハードなセッティングで乗り心地もやや硬めとなる。一方で、パサート オールトラックのアドバンスはバランス重視のセッティングなのだが、クルマ好きをも納得させるスポーティーさを持ち合わせている。これがベストパサートだとさえ思ったほどだ。

ただ、アドバンスはオールトラックの標準車が装着する225/55R17タイヤに対し、245/45R18タイヤにサイズアップしている。さらにはXDSやアダクティブシャシーコントロール「DCC」なども追加となっているので、標準車のオールトラックと異なる部分があることは加味しなければならない。

ただ、オールトラックがスポーティなワゴンに仕立ててあることは間違いない。ファミリーカーだけどドライブを楽しみたいというユーザーには、パサートの中で最もオススメできるクルマだ。

ファミリーカーでも走りを楽しみたいという人には「パサート オールトラック」をオススメしたい。確かに509万円からという価格は安くないが、「パサート ヴァリアント TDI」のエントリーモデルのナビ付きが約470万円であることを考慮すれば、納得のプライスといえよう

走りの良さを持ち合わせたSUVも増えてはいるが…

ステーションワゴンがブームとなったきっかけは、実用性の高さに加え、ワンボックスカーやSUVなどでは得られない走りの良さを獲得できたところにあった。しかし、走りの良さを身につけた昨今のSUVは、そのニーズを奪い、ステーションワゴンの領域を食ってしまったといえる。あれほど盛況であった日本のステーションワゴンも激減し、今やスバルの一強となっている。

ただ、輸入車を見ると、ステーションワゴンの顔ぶれはなかなか充実しており、一定の販売台数を確保している。その中には、いくつかのクロスオーバーワゴンが存在する。

クロスオーバーワゴンはステーションワゴンに価値が加わったクルマなので、ベース車と比べれば、やはり値段は少々高くなる。それでも、中身に見どころはあるし、コスパで考えても納得できるものが多いと思う。日常での使い勝手を重視したい人、ワイルドさやスポーティーさを強調するSUVに子供っぽさを感じてしまう人などは、改めてクロスオーバーワゴンに注目してみてはいかがだろうか。

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第12回

かつて憧れたクルマは今? 安東弘樹、トヨタの新型「スープラ」に乗る!

2019.01.16

安東弘樹さんがトヨタ「スープラ」試作車に試乗!

本当は単独で作りたかった? 安東さんが開発者に聞く

乗った感想は「嬉しいような寂しいような」

「やっぱり、憧れのクルマでしたね」。日本で「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗っていたトヨタ自動車の初代「スープラ」について尋ねると、安東弘樹さんはこう語った。かつて憧れたクルマは今年、5世代目の新型モデルとして復活を果たす。新型「スープラ」のプロトタイプに試乗し、開発責任者と話した安東さんは何を思ったのか。試乗会に同行したので、その模様を報告する。

※文と写真はNewsInsight編集部の藤田が担当しました

2018年12月6日、安東さんはトヨタが袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催した新型「スープラ」プロトタイプの試乗会に参加した

40年前の小学生を熱狂させた初代「スープラ」

トヨタのスープラは、1978年に「セリカ」の上級車種として誕生した。日本では「セリカXX(ダブルエックス)」、北米では「スープラ」と名乗っていたが、3世代目からは車名をスープラに統一する。今回の新型で5世代目となるスープラの歴史について、弊紙ではモータージャーナリストの森口将之さんに解説して頂いた。

新型「スープラ」

トヨタはBMWとの共同開発で新型スープラを作った。プラットフォームはBMWの「Z4」および「3シリーズ」との共用で、エンジンもBMW製だ。新型スープラでは過去のモデルに共通していた直列6気筒エンジン(直6)とフロントエンジン・リアドライブ(FR)方式を継承。トヨタの開発陣は、「スポーツカーとして究極のハンドリング性能を達成するため、『ホイールベース』(前輪と後輪の間の幅)、『トレッド』(左右タイヤの間の幅)、『重心高』の3つの要素を重要視して開発初期のパッケージ検討を進めた」と説明する。

セリカXX(初代スープラ)の誕生当時、安東さんは11歳だった。思い出を聞いてみると、「見かけると、みんな『わー、ダブルエックスだ!』みたいな感じになってました。考えてみると、当時の小学生はほとんどが知ってたわけですから、すごいですよね。うちの長男(小学生)なんて、学年でクルマ好きの友達が1人しかいないって言ってますよ。あと、ダブルエックスはワーニングが音声だったので、『しゃべるクルマ』って呼んだりもしてました」とのこと。大学生の頃は「バブリーな友達」が3代目スープラを所有していたという。

3代目「スープラ」

では、これまでにスープラを買おうと思ったことはあったのだろうか。

「それは、なかったですね。どちらかというと、私は『ザ・スポーツカー』みたいなクルマより、『アルピナ』(カブリオというオープンカーに乗り継いだとのこと)に乗っていたこともあるくらいなんで、“アンダーステートメント”というと格好よすぎるんですけど、控えめというか、そういうものを選ぶ傾向にあります」

開発責任者の多田さんに聞く作り手の思い

試乗前、安東さんは新型スープラの開発責任者を務める多田哲哉さんとのグループインタビューに臨んだ。その際のやり取りは以下の通りだ。

安東さん(以下、安):取材でイギリスに行ったとき、「ハチマルスープラ」(型式がA80だったので4代目スープラをこう呼ぶ場合がある)が走っていて、それをみんなが見てたんですよ。すごく誇らしい気持ちになりました。「ワイルドスピード」という映画でも、スープラがフィーチャーされてましたよね。私は51歳なんですけど、この年代の人たちって、初代から見てきていますし、スープラにすごく思い入れがあります。それで、あえて失礼な言い方をするんですけど、「このクルマをトヨタだけで作りたかった」というお気持ちはなかったんですか? 

多田さん(以下、多):もちろんありました。「スポーツカーを他社と共同で作ることに、どんな意味があるのか」とか、「看板商品なのに、自社のエンジンが載っていないのはおかしい」みたいな話もたくさん頂いているんですけど、ただ、時代は大きく変わっているんです。

特に、最近のトヨタを見てもらえば分かると思うんですけど、業種を超えて、いろんなところとコラボレーションして、ものを作っているじゃないですか。それは他の会社も同じで、旬の会社は皆、それぞれの分野の最も面白い技術を持っているところと組んで、お客さんの期待を超えるようなプロダクトを作っています。そうじゃないと、この時代、もう残っていけないと思うんです。

新型「スープラ」開発責任者の多田さん

:正直、私たちの立場からすると、協業なんかやめて欲しい。内部で作った方が、はるかに簡単ですから。意思疎通もできますし。正直、「86」を作った後は、2度と協業はいやだと思ったくらいなんですが()、今回は、86の時とは比べものにならないくらい大変でした。会社としてのやり方も両社で違います。そういうことが何となく分かってきて、意味不明なこともたくさん起こりまして。

※編集部注:トヨタとスバルが協業して作ったのがスポーツカーの「86」と「BRZ」だ

:お察しします!

:ただ、最近はものすごく仲良くなりました。私たちも、BMWのやり方から学んだことがすごくたくさんあります。「あ、だからこうなってるのか!」「だからあの時、あんなことを言ってたのか!」みたいな感じです。それが協業の意味だと思います。

:スープラにMT(マニュアルトランスミッション)を導入する可能性は?

:もちろん! 先週もミュンヘンに行って、MTのテストをしてきたところです。今回はAT(オートマチックトランスミッション)で乗ってもらってますけど、MTがいやだとか、作らないとか言っているわけではないんです。

ただ、新世代のスポーツAT()というのは、手前味噌ですが、かなり出来がいいんです。MTとか、いわゆる「ツインクラッチ」みたいなものと比べても、正直、負けているところはほとんどありませんし、逆にアドバンテージがたくさんある。

※編集部注:ハンドルにシフトパドルが付いていて、手元でシフトチェンジしながら走れるATのこと

:ミッションメーカーとも話をしていますけど、もう、ツインクラッチとかMTの開発に、彼らはあまり力を入れてないんですね。「ネガ」がありすぎるので、やっている意味がなんです。来年、再来年になると、その差はさらに開くと思います。

:ATの方がタイムも早いとは思うんですけど、私は「シフトチェンジ」という行為そのものが好きで……

新型「スープラ」へのMT導入に希望をにじませた“シフトフィールフェチ”の安東さん

:もちろん分かりますよ! ガチャガチャやる感じがいいんですよね。

:もしスープラが欲しいと思ったとしても、MTがない時点で、選択肢からドロップしてしまうんですよね。そこはもったいないなーと思うんですけど。

:シフト操作が楽しいということは、シフトフィールをすごく求めるんですか? いかに気持ちよく、スパスパいけるかという。

:いやもう、本当、それだけというか。

:それがまず、トルクの大きいエンジンのミッションには、ものすごくハードルが高いんですよね。皆さんが期待しているようなシフトフィールを実現するには、ものすごく開発要素があるんですよ。それをそもそも、ミッションメーカーにやる気がない。

もちろん、お金をかければ、例えば「ポルシェ」のハイエンドにはMTが設定されていますけど、ああいう風に、中身をどんどんカーボン化して軽くするとか、そういう道もあるとは思うんですけど、そんな高価なミッションを設定して、スープラのユーザーは本当に買うのかなと思うんです。

もっと言えば、今後はスープラと86の両方を作っていくので、両方ともお求めいただきたいんですけど、86というのは、まさにそういう人のためにあるクルマです。86ではいろいろな操作を楽しんで、クルマと触れ合ってもらいたいんです。でも正直、スープラのトルクとスピードを考えると、よっぽど運転の上手な方ならいいんですけど、普通のお客さんが、こんなこと(例えば細かいシフト操作など)を楽しむ暇は、たぶん、ないと思うんです。

今回のATに乗っていただいて、それでもMTが欲しいということであれば、アップデートもありますし、お届けできればいいかなと。まずATに乗ってみていただいて、本当にご要望があれば、という感じですね。

:パワーユニットは直列6気筒の1本だけに絞るんですか?

:「スープラは直6」というのは揺るぎないんですけど、販売上の事情もあるので、もうちょっとお求めやすいクルマといいますか、ワイドバリエーションで構えたいと思ってます。

BMWとの共同開発について多田さんは、「部品として変えられるところは、ほとんど別で作っています。それを共通化して一緒に作ったとして、そんなことで値段が下がっても、ぜんぜん嬉しくないというのが両社の考えです。使えるものは使いましたが、お互いに作りたいものをちゃんと企画して、デザインもしたので、内外装の部品も、数えてみると90数%は別々で作っています」と説明していた

いよいよ試乗、安東さんの反応は…

この後、いよいよ試乗に向かった安東さん。雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで新型スープラに乗った感想を聞くと、「しっとり感というか、重厚感がすごいですね。ウェット路面でもクルマとの一体感を感じられて、楽しかったです」と話し始めた。

「ただ、嬉しいのか寂しいのか分からない、っていうのが正直なところですね。これって共同開発じゃないですか。このクルマをBMWの『Z4』より(おそらく)安く、トヨタのチャンネルで買えるのは嬉しいんですけど、ただ、スープラはトヨタのアイコンになるクルマだと思うので、乗った時に、思わず『流石はBMW!』というクルマでしたので、どうなんだろう? という気持ちです。これが純粋なトヨタ製だったら、『お、すげー!』ってなるんですけど」

共同開発である点は気になるものの、トヨタがスープラを16年ぶりに復活させる決断を下し、実際に商品化したこと自体については好感を抱いたという安東さんは、新型スープラのオーナー像にも思いを馳せる。

「価格はいくらなんだろう……。いくら安くなるといったって、たぶん、500万円は切らないだろうし。そうすると、若い人が乗るというのは難しいですよね。昔、スープラに憧れたけど買えなかった、セリカXX世代の人かなぁ。ある意味、Z4と競合すると思うんですけど、(Z4はオープンカー、スープラはクーペなので)屋根が開くか開かないかで差は際立つと思います。そこをお客さんがどう判断するかですね。スープラのデザインが好きな人は、絶対いると思いますけど」

新型「スープラ」を試乗する安東さん

「今日はフルブレーキングしないくらいの速度域でしか走ってないですけど、いいクルマでしたし、楽しいクルマでした。雨の袖ヶ浦も勉強になりました! ただ、やっぱりユーザー像がはっきり見えないのは気になりますね」。そんな言葉を残し、安東さんは帰路についたのだった。

大変革のトヨタを象徴するスポーツカー? 新型「スープラ」に試乗

大変革のトヨタを象徴するスポーツカー? 新型「スープラ」に試乗

2019.01.15

ボリューム感は過去最高? ヴェールを脱いだ新型「スープラ」

エンジンは伝統の6気筒に加え4気筒を用意

滑らかな吹け上がりと重厚なサウンドを堪能

トヨタ自動車は16年ぶりの復活となるスポーツカー「スープラ」を北米国際自動車ショー(デトロイトモーターショー)で発表した。BMWと共同開発した新型は、歴代でもっとも短くて幅広いボディを持つ。エンジンは伝統の直列6気筒に加え、新たに4気筒が登場するとのことだ。プロトタイプに乗った印象を含めて概要をお伝えしよう。

強烈に張り出したリアフェンダー

プロトタイプの試乗会が行われたサーキット「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」のピットに置かれていた新型スープラを見て最初に感じたのは、大柄ではないのに迫力があるということだ。

迫力を感じた新型「スープラ」のデザイン

日本でもスープラを名乗り始めた3代目以降、このクルマの全長が次第に短くなっていったことは、先日掲載となった記事でも触れておいた。新型も、その路線を受け継いでいる。なにしろ、ホイールベースは2,470mmと、車格では下の「86」より100mmも短い。前後のオーバーハングも抑えてあって、4,380mmという全長は歴代スープラで最短だ。一方、1,865mmに達する全幅は歴代でもっともワイドである。

トレッド(左右タイヤ間の距離)はフロント/リアともに1,600mm前後。ホイールベースとの比率は1.6以下で、ライバル車のひとつとなる日産自動車「フェアレディZ」や、リアエンジンであるためホイールベースを短くできるポルシェ「911」などを下回っている。

短いホイールベースと幅広いトレッドが新型「スープラ」の特徴だ

一般的に、ホイールベースが短いほど身のこなしは俊敏になり、トレッドが広いほどコーナーでの踏ん張りが増す。新型スープラが「曲がりやすさ」にこだわったスポーツカーであることは、そのサイズからも分かる。

ワイドなボディを強調するかのように、スタイリングではとにかくリアフェンダーの盛り上がりと張り出しが目立つ。試乗会では2002年まで販売していた旧型と見比べることができたのだが、当時はボリューム感があふれていると感じた旧型のフェンダーラインも、新型と並ぶと平板に思えてしまったほどだ。

盛り上がったリアフェンダーが強烈な印象を与える新型「スープラ」
こちらが先代の4代目「スープラ」

新型スープラがBMWとの共同開発であることは、先述の記事にも書いた通り。具体的には、BMWの新型「Z4」とプラットフォームやパワートレインなどの基本を共用している。基本と書いたのは、細部のチューニングを各社が独自に行っているためだが、2,470mmのホイールベースに加え、エンジンやサスペンションの形式などはほぼ共通だ。

しかし、デザインはまるで違う。日本では2019年春に発表予定の新型Z4はオープンカーであり、ドアの前の「エアブリーザー」と呼ばれるスリットからリアに向けてせり上がるラインで後輪を強調している。一方、伝統のクーペスタイルを引き継ぐ新型スープラは、はるかに大胆で存在感抜群の後輪まわりを特徴とする。

BMWの新型「Z4」。新型「スープラ」と基本を共用するが、見比べるとデザインはまるで違う

もちろん、フロント/リアまわりも違う。新型スープラは複数のレンズを内蔵した大きめのヘッドランプと長めのノーズ、リアゲート一体のスポイラー、横長のリアコンビランプなど、旧型に近いディテールを各所に配してあり、伝統を継承したいというトヨタの気持ちが伝わってくる。

新型「スープラ」はオーストリアで生産

歴代で初めて2人乗りになった新型スープラのインテリアは、シートが低めであるのに対し、プロペラシャフト(エンジンの力を後輪に伝える棒状の部品)が通るセンターコンソールは高く、スポーツカーらしいタイトな空間となっている。展示車両はステアリングやセンターコンソールの一部が赤いレザーで覆われており、鮮烈な雰囲気を醸し出していた。

赤のレザーが鮮烈な新型「スープラ」

それとともに目につくのは、ATのセレクターレバーとエアコンやオーディオなどのスイッチがBMWと共通であることだ。さらに、右ハンドルでありながら、ウインカーのレバーは欧州車のように左側にある。

車内ではBMWとの共通点も目につく

実は、新型スープラは日本ではなくオーストリアで生産される。BMWの新型Z4は、カナダに本拠を置くメガサプライヤー「マグナ・グループ」に属するマグナ・シュタイアがオーストリアの工場で生産するとのこと。トヨタはオーストリアに工場を持っていないから、生産施設も同一になるのだろう。欧米が主要マーケットであるなら、輸送などを考えても妥当な判断だ。

新型スープラを作るにあたり、トヨタは直列6気筒エンジンを積むFR(フロントエンジン・リアドライブ)という伝統を受け継ぐべく、BMWとの共同開発を選んだ。しかし、発表された資料によると、3L直列6気筒ターボエンジンのほかに、チューニングの異なる2種類の2L直列4気筒ターボも用意するとのことだ。

日本仕様のグレードは「SZ」「SZ-R」「RZ」の3タイプ。SZとSZ-Rが4気筒になる。SZは最高出力145kW、最大トルク320Nm、SZ-Rは190kW/400Nmで、6気筒のRZが250kW/500Nmだ。トランスミッションは全車8速ATで、旧型には存在したMT(マニュアル車)は現時点で用意していない。ちなみに、Z4にも2L直列4気筒ターボエンジン搭載車はある。

新型「スープラ」では4気筒エンジンも選べる。MT車の発売は現時点で予定していないようだ

直列6気筒ならではの加速を試乗で体感

ここからは、実際に乗ってみた印象を報告したい。

新型「スープラ」の走りやいかに?(動画提供:トヨタ自動車)

乗り込んでみると、2人乗りなのでシート背後の空間はわずかであるが、身長170cmの筆者がドライビングポジションをとっても、薄いバッグを置けるぐらいのスペースはあった。テールゲートを介してアクセスする荷室との間には、ボディ剛性を確保するための隔壁が存在していた。急ブレーキのときに荷物がキャビンに飛び込んでくるのを防ぐ役目も果たしてくれそうだ。

2人乗りとなった新型「スープラ」。車内はスポーツカーらしくタイトだ

サーキットで乗ったプロトタイプは6気筒で、当時は発表前ということもあり、「A90」という形式名が入ったカモフラージュを施してあった。エンジンスタートボタンを押すと、直後にウーッという低い唸りのアイドリングが始まる。予想以上に音を聞かせる設計になっていた。

ピットロードを出てコースへ。最初のコーナーを回ってアクセルペダルを踏み込む。長くてバランスの取れたクランクシャフトが生み出す、滑らかな吹け上がりと重厚なサウンドとともに、力強く息の長い加速が堪能できる。それでいて、1,600~4,500rpm(エンジンの回転数)という幅広い領域で最大トルクを発生するだけあって、どこから踏んでもドライバーが望むだけの力を味わえる。

試乗では力強く息の長い加速が堪能できた

一方で、コーナーへの進入では、長い直列6気筒エンジンを積んでいるとは思えないほど軽快に向きを変える。前後重量配分を50:50としてある上に、重心高は水平対向エンジンを積むトヨタ「86」より低くなっているなど、こだわりの設計がスープラらしからぬ動きとして伝わってきた。シートのホールド感がタイトであったならば、より一体感が得られたかもしれない。

コーナーの立ち上がりでは、雨の中での試乗ということもあって、アクセルペダルを踏みすぎると後輪がスッスッと唐突に滑りがちだった。トヨタのスポーツカーとしては辛口のチューニングだと思ったが、晴れた日に乗ったジャーナリストは安心して走ることができたと話しているし、市販型では改善される可能性もある。

試乗したプロトタイプ。コーナリングの軽快さには驚いたが、雨のサーキットでは後輪が唐突に滑ることも

ちなみに新型スープラは、TOYOTA GAZOO Racingが立ち上げたスポーツカーシリーズ「GR」で初となるグローバル展開モデルだ。

TOYOTA GAZOO Racingが昨年、ル・マン24時間レースで優勝し、世界ラリー選手権(WRC)のタイトルを獲得したことは記憶に新しい。以前の記事にも書いたように、スープラはル・マンとWRCの両方に出場した経験を持つスポーツカーだ。世界で活躍した経歴を持つからこそ、GR初のグローバルモデルという重責を担うことになったのだろう。

昨年のソフトバンクとの提携が象徴しているように、トヨタは今、100年に一度の大変革の時代に直面して、自らの殻を破りつつあると感じている。新型スープラからも、その意気を感じた。開発や生産のプロセスから実際の走りまで、これまでのトヨタのスポーツカーとはひと味違うクルマだ。