「試乗記」の記事

単なる“お安いベンツ”ではない! 試乗で確かめた新型「Aクラス」のコスパ

単なる“お安いベンツ”ではない! 試乗で確かめた新型「Aクラス」のコスパ

2019.03.18

最新のデザイン哲学を採用、見た目の鮮度は抜群

若々しさはそのまま、質感と乗り心地は大幅に向上

Cセグのコンパクトではイチ押し! 気になる今後の派生モデル

メルセデス・ベンツのエントリーモデル「Aクラス」。4代目となる新型は先代からコンセプトを引き継ぎ、若い世代を意識したコンパクトな5ドアハッチバックとして登場したが、乗ると進化は歴然としていた。この新型でAクラスは、単なる“お安いメルセデス”という殻を打ち破ってきたように感じる。

日本では2018年10月に発売となったメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」

「Aクラス」の来歴と新型の立ち位置

まず、Aクラスの歴史を振り返ってみよう。このクルマは1997年、メルセデス・ベンツで初めてのコンパクトカーとして登場した。初代はメルセデス・ベンツ初の前輪駆動(FF)車で、実用性を重視したトールワゴンスタイルを採用していたが、これは電気自動車(EV)への発展性も考慮した設計だった。将来的に、キャビン下に電池などを搭載する想定だったのだ。しかしながら、技術およびインフラが共に発展途上であったため、実現はしなかった。

2代目はトールワゴンスタイルを踏襲したが、3代目では大幅なイメチェンを図り、コンパクトな5ドアハッチバックへと転身した。それまでのファミリーカー路線から、スポーティーかつ若々しいキャラクターへと発展を遂げたのだ。これが成功し、人気モデルとなった。

4代目となる新型は、プラットフォームから一新したオールニューモデルで、先代のキャラクターを受け継ぎつつも、メルセデスの末っ子に相応しい質感や先進性を獲得しているのが特徴だ。歴代モデルの進化が示すように、メルセデスの先駆者的な役割も担う。

新型「Aクラス」は先代と比べ質感が大幅に向上している。ボディサイズは全長4,420mm(+65mm)×全幅1,800mm(+20mm)×全高1,420mm(±0)と従来型より少しサイズアップしているが、それでも日本で扱いやすいサイズであることには変わりない

使い手にベストな選択肢を提示する「MBUX」

新型Aクラスは、見た目の鮮度も抜群だ。日本には昨年登場した大型4ドアクーペ「CLS」から、メルセデス・ベンツでは新しいデザイン哲学「Sensual Purity」(官能的純粋)を採用しているが、新型Aクラスもその哲学を共有する。CLSそっくりな迫力のフロントマスクは、サメをモチーフとした「シャークノーズ」と呼ばれる造形。正直、かなりスポーティーでカッコいいと思うし、上級コンパクトにふさわしい風格だ。「ただのコンパクトカーだと思うなよ」という気迫すら感じさせる。

迫力のフロントマスク。撮影車の「A180 Style AMGライン」は、内外装にスポーティーな演出がプラスされ、Aクラスの若々しさも強調されている

インテリアも同様に鮮度がいい。液晶モニターを2枚並べたダッシュボードはかなり未来的な印象で、デスク上に設置されたタブレット端末のようだ。それぞれの主な役割は、運転席側がメーターパネル、中央側がインフォテインメントシステム。よくあるモニターを覆うメーターフードもなく、すっきりとした印象を与える。

未来的な印象のダッシュボード。メーターパネルは表示のカスタマイズが可能だ。中央側のモニターはタッチスクリーンとなっていて、画面上でも操作できる

新型Aクラスでは、インフォテインメントシステム「MBUX」も話題となっている。目玉機能は対話型音声認識機能だ。CMでもお馴染みの、「ハイ! メルセデス」で起動するアレである。

音声認識による操作は他のクルマにもすでに存在しているが、既存のシステムが固定文の命令調言葉による操作であるのに対し、MBUXの場合、ユーザーは細かいことを気にせず、ただ語り掛ければよい。例えば「ちょっと熱いんだけど」と言えば、エアコンの温度調整をしてくれるといった感じだ。

ただ、MBUXが優れているのは、メカスイッチ、タッチスクリーン、タッチパッド、ステアリングスイッチ、音声認識と多彩な操作方法に対応していて、ユーザーがベストな方法を選択できる点にある。誰にでも使いやすいシステムを目指しているのだ。便利さを高めるためにユーザーの行動パターンを予測し、オススメ機能として表示も行う。話題のAIは、この予測を行う学習機能のみに使われている。後にも述べるが、AI機能はかなり限定的なものなのだ。

MBUXはユーザーにベストな選択肢を提供するインフォテインメントシステムといえる

次にキャビンを見ていくと、プラットフォームの一新やボディのサイズアップなどの恩恵もあり、前後席とも空間にゆとりがある。特に後席は、従来型よりも圧倒的に広さを感じる。死角は減らされていて、視認性も向上した。デザインの犠牲になりがちなラゲッジルームも開口部を広げ、容量は29L増の370Lに拡大。後席を倒せば、1,210Lのスペースが生まれる。ファミリーカーとしても使える実用性にはこだわった様子だ。

前後席とも空間にはゆとりがある。シフトレバーはウィンカーなどと同様、ステアリングコラムに装着されている。代わりにセンターコンソールには、MBUXの操作用のタッチパッドが収まる

新開発のパワートレインは、1.33Lの4気筒ターボエンジンに7速DCTが組み合わさる。従来型「A180」に搭載されていた1.6Lターボからは更なるダウンサイズだが、最高出力は136ps、最大トルクは200Nmと性能は向上している。燃費消費率も15.0km/L(WLTCモード)と低燃費だ。バリエーションは増えていくと思われるが、現状で選べるのは、このパワートレインの前輪駆動車のみである。

1.33Lの4気筒ターボエンジン。新開発のエンジンでAクラスが初搭載となる。トランスミッションはAT同様の扱いができる7速DCTを組み合わせる

標準装備も充実しており、前後のLEDランプ、本革巻きステアリング、自動防眩ミラー、MBUX、ワイヤレスチャージング(Qi規格対応の携帯電話)、テレマティクスサービス「Mercedes Connect」などが備わる。オプションの「レーダーセーフティパッケージ」を装着すると、メルセデスのフラッグシップセダン「Sクラス」と同等の先進安全運転支援機能にアップデートできる点もポイントだ。

乗って分かった完成度の高さ

試乗したのは、「A180 Style」と「A180 Style AMGライン」の2台。「AMGライン」の方には、AMGのエアロパーツと18インチのアルミホイール、スポーツレザーシートなどが追加となるが、メカニズムは同様だ。

乗ってみて最初に感じたのは、質感の高さと乗り心地のよさだ。従来型Aクラスでは、若々しさやスポーティーという言葉を盾にして、乗り心地や質感などは全体的に粗削りな仕上がりにしてある部分も見られた。価格差があるとはいえ、メルセデスの鉄板モデル「Cクラス」との明確な格差を感じたものだ。ところが新型は、若々しいAクラスのキャラクターを受け継ぎながらも、快適性や質感などをグンと向上させている。特に静粛性に優れ、車内の会話は前後席間でも明瞭に聞き取れた。

液晶メーターは見やすく、運転もしやすい。高速道路に入ると新エンジンが実力を発揮し、不満のないスムーズな加速を見せてくれた。エンジン回転数を高めるとスポーティーな排気音を奏でるが、それでも車内は十分以上に静かだ。運転する楽しみを演出すべく、開発時には排気音にもこだわったのだろう。

若々しいキャラクターはそのままに、乗り心地や静粛性などで完成度の高さを感じさせた新型「Aクラス」

試乗前に、メルセデス・ベンツ日本の広報担当者から「ぜひ試してみてほしい」と言われたので、後席にも収まってみた。その広さにはゆとりがあり、体格のいい男である私が座って長距離を移動しても、問題がないのではと感じるほどだった。

後席の方が不利となる静粛性についても、排気音を含め決してうるさくはなく、そのレベルは高かった。さらには、MBUXの音声操作を後席から行えることも確認できた。何処に座っていても、車載機能を音声で操れるのはMBUXの魅力だ。

後席にはゆとりがあるので、体格のいい男性でも楽に長距離を移動できそう

正直、MBUXの音声認識はまだまだ発展途上の段階で、うまく理解してもらえず、がっかりするシーンもあった。しかしながら、車載ソフトとクラウドの両方でカバーする仕組みなので、今後、言葉の理解度もどんどん上がってくるはずだ。メーカー側も、幅広い層が使うコンパクトカーから同機能を導入し、積極的に使ってもらうことで、ブラッシュアップを図っていくつもりなのだろう。

最後にタイヤサイズの違いだが、前後席ともに、乗り心地でいえば標準の16インチの方が上だった。しかし、AMGラインの18インチも悪くはない。ここは、見た目の好みだけで決めていいだろう。

乗り心地をとるかカッコよさをとるか…タイヤサイズは好みで決めていいだろう(画像はAMGラインの18インチ)

新型「Aクラス」はメルセデスらしい仕上がり

従来型で理想像を模索してきた積み重ねもあってか、新型Aクラスは「プレミアムコンパクトカー」と呼ぶにふさわしい内容に仕上がっている。Cセグメントのコンパクトカーの中では、このクルマがイチ押しだ。ただ、322万円のエントリーグレード「A180」では、Aクラスの魅力の全てを味わえないことは忘れてはならない。「A180 Style」の方は快適装備がプラスされ、メーターの液晶パネルは表示が大きくなる。

例えば、「A180」でもMBUXは標準装備だが、カーナビ機能はオプションとなっている。さらに、先進安全運転支援機能の「レーダーセーフティパッケージ」も外せない。この2つを組み合わせると、約43万円のプラスになる。エントリーといえども、やはり価格はメルセデスだ。

「A180」の車両本体価格は328万円、「A180 Style」は同369万円。「A180 Style」にオプションのレーダーセーフティパッケージとナビゲーションパッケージを付けると419万2,440円になる。画像の新型「Aクラス」は「AMGライン」というオプション(25万5,000円)を装着している

しかしながら、以前のAクラスよりも、新型の方が断然、コスパは良好だ。格上であるCクラスとのギャップに悩む必要もないだろう。Cクラスにステップアップしたければ、すればいい。それだけ、新型Aクラスはメルセデスらしさを十分に備えていて、しかも新鮮さに溢れている。中身をしっかりと磨き上げてきた姿勢は、キャラクターこそ違うが、日本人を魅了し、“小ベンツ”の愛称で親しまれた「190E」を彷彿させる。

また、個人的には、Aクラスとベースを共有するスペシャルティカー「CLA」や「GLA」の次期モデルにも注目している。どちらも小型上級車だが、既存モデルに対しては、もう少し上を見せてほしいという思いがあった。その点、次のCLAおよびGLAは新型Aクラスをベースとするので、それを叶えてくれることだろう。そういう意味では、小さくともメルセデスの贅沢さを存分に味わいたいと考える人ならば、これら派生モデルの登場を待つべきなのかもしれない。

BMWの新型「3シリーズ」に試乗! 性能は正当進化、気になる点は…

BMWの新型「3シリーズ」に試乗! 性能は正当進化、気になる点は…

2019.03.15

7代目となった新型「3シリーズ」に試乗

走り出しから「駆けぬける歓び」を実感できる性能に納得

デジタル化と大型化がトレンドの自動車業界に感じる違和感

BMWの「3シリーズ」が7年ぶりにフルモデルチェンジし、7代目となった。「駆けぬける歓び」を標榜するBMWの主力商品だけあって、先代より大型化したボディサイズは決して鈍重な印象を与えず、走り出しから力を発揮するエンジンの性格もあり、走りは軽やかだ。ただ、気になる点があったのも事実なので、そのあたりも含めて試乗の感想をお伝えしたい。

BMWの新型「3シリーズ」に試乗した

運転の楽しさを宿命づけられたBMWの“小型”モデル

初代3シリーズは1975年に誕生した。そのルーツとなっているのは「2002系」と呼ばれた小型セダンであり、始祖は1966年に発売となった「1600-2」という2ドアセダンである。1968年に生まれた「2002」は「マルニー」などと呼ばれて日本でも愛好され、ことに1973年の「2002 ターボ」は、まだターボチャージャーが稀だった当時、スポーツカーではなくセダンに高性能エンジンを搭載したことで話題となった。

戦後、BMWの主力となったのはこうした小型セダンだった。ドイツ車の中でも、運転を楽しむクルマとして、BMWの価値が決定づけられたといえるだろう。従って、3シリーズはBMWの主力として、運転の楽しいセダンあるいはステーションワゴン(BMWではツーリングと呼ぶ)であることが求められ続けている。

新型3シリーズも、車体こそ大柄になったとはいえ、運転の歓びを感じさせる作りであることに変わりはなかった。

新型「3シリーズ」のボディサイズは全長4,715mm、全幅1,825mm、全高はグレードによって異なり、「320i」が1,440mm、「330i」が1,430mmとなっている

BMWの象徴であるキドニーグリルは、従来よりも立体的な造形となり、フロントボンネットフードを長く見せている。逆にリアは、流れるような姿とすることで、速さを造形においても伝えてくる。

前後タイヤ間のホイールベースは先代より40mm長くなったが、同時にトレッド(左右タイヤ間の距離)を拡大することで、踏ん張りの効いた動きの鋭さを高めている。重心は10mm下げて、安定性を向上させた。ボディサイズは大型化しているものの、重量は約55kgも軽く仕上がっている。

こうした改良により、BMWは新型3シリーズを大型化しながら、決して鈍重ではなく、軽快で運転の楽しい4ドアセダンに仕立てたとの説明である。

2.0リッターの直列4気筒ガソリン直噴ターボエンジンを積む新型3シリーズは、BMWの伝統にもなっているフロントエンジン・リアドライブ(FR)を踏襲する。最大出力は日本専用の「320i」というグレードで184ps、「330i」で258psだ。

2.0リッターの直列4気筒ガソリン直噴ターボエンジンを搭載

発進・停止を繰り返すシーンでも感じる優れた走行性能

試乗したのは、市販されている車種では現時点で最上級に位置づけられる「330i M Sport」だ。運転を始めてすぐ、軽やかに走るクルマであるとの印象を受けた。

BMWは重量配分で前後が50:50となる設計にこだわっている。試乗車の車両重量は1,630kgで、重量配分は前が830kg、後ろが800kgだった。一般的に、FRのクルマは前後の重量配分が6:4くらいであることが多い。前後重量の調和はBMWにとって、クルマを軽快に仕上げる上で欠かせない要素の1つだ。

新型「3シリーズ」の価格をグレード別に見ていくと、「320i SE」(2019年半ば頃に発売、受注生産)が452万円、「320i Standard」が523万円、「320i M Sport」が583万円、「330i M Sport」が632万円となっている。試乗車はオプションを含め計724万2,000円だった

エンジンは最大出力258psを発生する高性能仕様だ。このクルマは毎分1,550回転(rpm)、つまり、アイドリングの少し上の領域から最大のトルクを発生する特性を与えられているので、アクセルペダルを少し踏み込むだけで、大きな力を発揮した。操作にも遅れはなく、軽快に走り出すことができる。

クルマに乗っていると、市街地で発進・停止を繰り返すシーンに遭遇する機会は多い。車体の軽さや、低い回転でも存分に力を出すエンジンは、そういった場面に快適さをもたらす。暮らしの中でも、BMWのブランドメッセージである「駆けぬける歓び」を実感できるのが新型「3シリーズ」だ。

高速道路へ入り速度が上がると、走行感覚は落ち着いた感じになる。肩の力を抜き、安心して運転を続けられるのは、欧州車に共通する乗車感覚だ。欧州では、クルマを高速で走らせる場面が多いことを実感させる。

新型「3シリーズ」は日々の暮らしの中でも走行性の高さを感じさせてくれるクルマだ

この新型3シリーズからBMWは、運転支援のためのセンサーに「3眼カメラ」を採用している。その効果もあってか、車線維持機能は格段に精度が上がった。車線維持の的確さも、高速走行時の安心感につながる。

これまでの3シリーズに比べると、後席にゆとりをより感じるようになっているのも新型の特徴だ。十分な大きさの座席に体をゆだねられるだけでなく、前の席の下へ爪先を差し入れることができるので、くつろいだ体勢でいられる。車内は静粛性に優れているので、前席との会話も楽しい。

荷室は見るからに広く、後席中央に通じる開け口があるので細長い荷物も積み込める。4ドアセダンとしての実用性にもぬかりがなく、細部にわたって配慮のきいた仕立てであることに満足できるだろう。

荷室は広く、細長い荷物も積み込める

デジタル化の弊害? 気になったのは視認性

一方で、気になる点もあった。まず、車体の寸法が大きくなったというだけでなく、運転中に車幅を確認しにくいため、車体の左端をガードレールや歩道の段差にぶつけないかと、運転中は常に不安だった。

車体の中心を知る目印が分かりにくいせいかと思ったが、実は、左端の様子を確認する時に1つの目安となるフロントウィンドウの支柱が、目の端で捉えられないせいだと気づいた。この傾向は、アウディ「A7」や「A8」にもいえることだ。

走行性能に優れていたり、速く走れるクルマであったりする印象を持たせるため、近年のクルマづくりでは、外観の造形でフロントボンネットフードを長く見せる手法が使われがちだ。その分、フロントウィンドウの支柱は乗員側へ寄ることになる。それにより、フロントウィンドウ全体が運転席に近づき、助手席側の支柱が目の隅で捉えにくくなるのである。

人間は、実際にそこへ目の焦点を合わせていなくても、目の端に様子が捉えられたり、あるいはそこに何かがあるという気配を感じられたりすると、安心するものだ。だが、その何かを視界に捉えられなかったり、例え首を回して見ても視界が遮られていたりすると、気配さえ感じられず、不安になる。

フロントウィンドウの視認性は気になる点だ

また、斜め右前方の視界が、フロントウィンドウの太い支柱と大きなドアミラーとによって遮られて死角となることで、対向車が迫り来るのを見損なったり、右カーブの先が判別しにくかったりもした。これも、運転に集中できなくする要因の1つだ。

新型3シリーズでは、速度やエンジン回転数を表示するメーターの中央に、カーナビゲーションの地図などを表示する仕様となっている。そのため、速度計は左側、エンジン回転計(タコメーター)は右側に配置されるのだが、タコメーターは、逆時計回りに針が回る方式となった。永年親しんできたメーターとは逆回転となるので、これも認識しにくい。なぜなら、針の回転し始めが右端となるため、運転中の視界の端で、その様子を捉えられないからだ。

慣れの問題かもしれないが、逆時計回りで針が回るタコメーターはエンジン回転数を認識しづらかった

左ハンドルであれば、運転者は車体の中央よりに目線を送って視野を確保するので、右側にあるタコメーターを視界に捉えられるのかもしれない。だが、右ハンドルでは、運転席側のドアミラーを確認する以外、右側を意識する機会が少ないので、タコメーターの動きを捉え損なうのである。

これら一連の不都合は、開発にコンピューターを活用する現代のクルマづくりに負う面があるのではないかと考えられる。コンピューターの画面上で多くのことを検証できる一方、他のクルマや二輪車、あるいは歩行者が存在する現実の道路状況の中で、運転者がその都度、何に注意を払い、どこへ目線を動かしているかまで、十分に検証できていないのではないだろうか。そして、いざ実験車両を使った走行試験を行ってみると、根本的な不具合に気がつく。そんな不具合や不都合を感じる新型車に試乗で出会うことがある。

「3シリーズ」試乗で考えたクルマづくりのこれから

今回の新型は、3シリーズの伝統を損なうことなく機能や性能を大幅に向上させ、「駆けぬける歓び」を体現する魅力を備えている。だが、実際に運転をしてみると、そうした機能や性能に没頭し切れない不安や不便を感じさせる部分があった。

車体寸法についても、前型に比べ当然のごとく大きくなり、1990年代後半から2000年代初頭に販売されていた「5シリーズ」に近くなっている。このように、新型車が登場するたびに大型化し、少し前の上級車種とサイズ的に同等になっていく昨今の傾向には懸念を覚える。それはBMWに限ったことではなく、世界の自動車メーカーについていえることだ。

大柄なクルマがあることに異論はない。だが、例えば3シリーズのように、運転することを嬉しく思わせる小型セダンであり、なおかつ、その俊敏性や機敏性が特徴であったような車種を、あえて大きくする意味がどこにあるのだろう。多少の大型化はあるとしても、そろそろ限度を超えていないだろうか。

「3シリーズ」に限った話ではないが、多くのクルマが当たり前のように大型化していく現状には疑問がある

世界の小型車の規範とさえいわれたフォルクスワーゲン「ゴルフ」も、現行の7代目については「大きすぎる」という声が聞こえ始めている。格下とされてきた同社の「ポロ」で十分だと考える人もいるようだ。メルセデス・ベンツは「Cクラス」を大きくする一方で、格下のAクラスにまで4ドアセダンを追加する予定だという。日本で“小ベンツ”と呼ばれた「190E」を源流とするCクラスの存在意義は、どこへいくのだろうか。

競合他社との比較にばかり目を奪われ、次々に新車を大型化していきながら、より小さなクルマを求める消費者に対しては、新たな小型車を提供する。こうした戦略では販売車種が増えるばかりで、営業の最前線では、売りやすいクルマしか売らないという結果になってしまうのではないだろうか。今後は、己の存在意義をしっかりと主張し、消費者に本物の価値を訴えかけるようなクルマが求められてくるのではないかと思う。

新型「Aクラス」に試乗! デザインで考えた「ハイ! メルセデス」

森口将之のカーデザイン解体新書 第14回

新型「Aクラス」に試乗! デザインで考えた「ハイ! メルセデス」

2019.03.14

「MBUX」をインターフェイスデザインの観点でチェック

音声コマンドの理想的な在り方とは?

基本性能の進化にも改めて注目を

2018年秋に日本に上陸したメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」は、デザインや走り、安全性などよりも、「MBUX」と呼ばれる対話型インターフェイスが話題になっている。実車に試乗することができたので、「インターフェイスデザイン」という観点でチェックしてみることにした。

メルセデス・ベンツの新型「Aクラス」

「インターフェイスデザイン」とは

「デザイン」という言葉がカバーする範囲は広い。筆者は2013年度から5回、グッドデザイン賞の審査委員を務めたことで、そう感じるようになった。グッドデザイン賞では「モノ」のデザインだけでなく、「コト」のデザインもジャッジする必要があるので、形や色にとどまらず、背景にある社会や生活にまで思考を巡らせてきたからだ。

でも最近は巷でも、デザインという言葉を広義に捉える人が増えてきているような気がする。昔からある「グラフィックデザイン」や「プロダクトデザイン」といった言葉に加え、「ソーシャルデザイン」や「グランドデザイン」といった新しい言葉が当然のように使われるようになってきた。

その流れでいけば、昨年10月に日本で発表されたメルセデス・ベンツの新型「Aクラス」は、インターフェイスデザインがトピックになっているクルマと言える。(内外装の)デザイン、走り、安全性といった、新型車の登場時に話題になりがちなポイントよりも、「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)と呼ばれる対話型インターフェイスが注目されているからだ。

新型「Aクラス」は内外装のデザインよりもインターフェイスのデザインの方に注目が集まっているクルマだ

MBUXとは何か。簡単に言ってしまえば、アマゾンの「Echo」やグーグルの「Google Home」のようなスマートスピーカーを、クルマに搭載したものである。これまでも、一部の車種ではカーナビやエアコンなどを音声で操作することができた。しかし、それらはステアリング上のボタンを押してAIにアクセスして、初めて音声コマンドを入力できるというものだった。音声だけでAIを起動できるクルマは、この新型Aクラスが初めてではないかと思う。

筆者は昨年2月にEchoを事務所に導入し、使用している。つまり、スマートスピーカーに慣れ親しんでいるユーザーの1人である。なので、MBUXについては興味津々だったのだが、実車に触れると考えさせられる部分が多かった。

筆者は事務所に入った瞬間にEchoを起動することが多い。片手にバッグを持ち、もう一方の手ではドアを開けながら、つまり、両手がふさがっていても、言葉を発するだけでニュースを聞いたり、音楽を鳴らしたりすることができるので便利だ。しかし、クルマの運転中は常にステアリングを握っている。AIを起動する場合には、ステアリングにスイッチがあれば良い。

MBUXは自動運転時代を想定したものだ、という主張があるかもしれない。しかし、現行法では、運転中にステアリングから手を離してはいけないというルールがある。自動運転がすでに実用化されているような誤解を与えるような言動は、安全面を考えれば慎むべきだろう。

「ハイ! メルセデス」と「アレクサ!」の違い

「ハイ! メルセデス」という起動ワードも気になった。実際は「ハイ!」や「ヘイ!」がなくても、単に「メルセデス」と発話するだけでAIが起動するのだが、それでも単語自体が長いし、発音しやすい言葉とは言い難い。

Echoで使われている起動ワードの「アレクサ」は、世界中の人にとって発音しやすい言葉とは何かを研究し、採用したものだと聞く。しかも、「アレックス」などの名前の人が使用することも考慮して、起動ワードを変更することが可能な仕様となっている。

先日発売となったBMWの新型「3シリーズ」にも、「BMWインテリジェント・パーソナル・アシスタント」と呼ばれる音声操作システムが搭載されている。こちらの起動ワードはデフォルトで「OK! BMW」に設定されているが、後から変更することが可能だ。

インターフェイスデザインの観点でMBUXと比べると、使いやすいワードを研究して採用した点でアマゾンの方に分がある。音声による対応という観点で見ると、レベルは最近のボルボ車の方が上に感じた。

ただ、AI関連の技術は1年間で格段の進歩を遂げるという実感もあるので、使い込んでいくうちに、MBUXもレベルアップしていくのだろう。また、ドライバー以外の乗員にとっては、スイッチに手を伸ばしたり、ドライバーに操作をお願いしたりしなくても良いわけで、有用な装備と言えるのかもしれない。

新型Aクラスのインターフェイスの特徴はまだある。メーターパネルとセンターのディスプレイを一体化させ、横長でフラットな1枚のパネルに集約したことだ。試乗した日は雨だったこともあるが、この種のパネルで気になる外光の反射はうまく抑えてあって、常にクリアな視認性が得られた。

メーターパネルとセンターのディスプレイが一体化している

センターコンソールのタッチパッドは、右利きの人の使い勝手はどうなんだろうと思ったりしたが、筆者は左利きであり、大きな不満は抱かなかった。

新型「Aクラス」のセンターコンソール。四角く見える部分がタッチパッドになっている

続いて、目の前のステアリングから左右に生えるコラムレバーを見ると、トランスミッションのセレクターレバーであることを記した黄色いステッカーが貼ってあった。

近年のメルセデスは、セレクターレバーをセンターコンソールやインパネではなく、ステアリングコラムの右側から生やしている。この方式を採用しているのはメルセデスくらいだ。間違えやすいので、ステッカーを貼ったのだろう。

ステアリングコラムの右側に付いているセレクターレバー。黄色いステッカーでそれが何であるかを明示してあった

とりわけAクラスのセレクターレバーは、左側のウインカー/ワイパーレバーと同じように細く、スタイリッシュに仕立ててあるので誤解しやすいかもしれない。もちろん、乗り慣れれば問題はなくなるだろうが、注意書きが不要なインターフェイスデザインが理想だと思う人は多いはずだ。

基本性能の進化にも目を向けたい

このように、インターフェイスデザインについては語るところが多い(?)新型Aクラスだが、自動車本来のデザインやエンジニアリングの進化は着実だった。

エクステリアデザインは、他のメルセデスも採用しているエッジを効かせた顔つきや、キャラクターラインを控えめにして面で魅せるボディサイド以外は、旧型の人気が高かったためもあり、キープコンセプトでまとめている感じがした。

しかし実際は、全長が120mm、ホイールベースが30mm伸びており、室内や荷室が広くなっている。なのに、全体から受ける雰囲気はAクラスそのままというのは、デザインの工夫があってこそだろう。

走り出すと、今度はしっとりした乗り心地に感心した。試乗車のタイヤサイズが205/60R16と、近年の欧州車としてはおとなしかったおかげかもしれないけれど、先代初期型の荒っぽさが払拭されたのは大きな進歩と言える。

しっとりとした乗り心地には感心した

試乗した「A180」というグレードが搭載していたのは、メルセデスがルノーと共同開発した1.3L直列4気筒ターボエンジンだった。アクセルペダルを踏み込んで上まで回すとこもり音が気になったものの、1.3Lという数字から想像するよりも力はあり、回転はなめらか。7速デュアルクラッチトランスミッションのマナーもスムーズだ。

メルセデスとルノーが共同開発した1.3L直列4気筒ターボエンジン

もうひとつ気づいたのは、「スポーツモード」が最近のクルマとしては、かなり明確にアクセルやトランスミッションなどのキャラクターを変えることだ。このモードを選べば、Aクラスがカジュアルでスポーティな車種であることを多くの人が感じるはずだ。

運転支援システムはメルセデスの最上級セダン「Sクラス」と同等の操舵支援機能付きアダプティブクルーズコントロールを採用している。セットオプションで24万円という価格ではあるものの、車線変更までアシストしてくれるのはこのクラスでは異例と言える。動作のレベルも高かった。

先代より全長もホイールベースも伸びているので、室内は広くなった

クルマとしての基本性能は水準以上にある。なので、MBUXがそのポテンシャルに水を差していないかと気になったが、最近は話題性重視で買い物をする人が多いような気もするので、MBUXをメインに宣伝を行うメルセデスの手法は、マーケティング面では正しいのかもしれない。

ただ、形や色のあるものだけがデザインなのではなく、光や音もデザインの一部であり、使い勝手を高める上で、これらを工夫していくことも大切であることは、お伝えしておきたいポイントだと思っている。