近年、企業の福利厚生で存在感を増しているのが社員食堂だ。単に従業員に安価な食事を提供するだけでなく、健康増進やコミュニケーションの場としての効果にも注目が集まっている。今回、ソフトバンクの社員食堂を取材する機会を得た。営業利益1兆円を叩き出す企業の社員食堂では、どのような運営が行われているのだろうか。

社員食堂入口には多様なメニューが

地上25階の巨大レストラン

ソフトバンクの社員食堂を訪れたのは、ランチタイムも終わりかけた、平日の13時。ソフトバンク本社が所在する東京汐留ビルディングの25階エレベーターホールを出ると、すぐに大きなメニュー表が張り出されていた。このフロア全体が社員食堂になっているのだ。

ソフトバンクはこの東京汐留ビルと、隣の汐留住友ビルに関係会社などが入っており、社員の総数は1万人を超える。その巨大な胃袋を支えるのがこの社員食堂だ。座席数は約1300用意されている。ランチタイムの利用者は約2500人、1日の平均利用者数は4500人程度。ちょっとした商業施設のフードコート並みといっていいだろう。

社員食堂としての営業時間は、朝8時から22時まで。早朝に出勤してきた社員の腹ごしらえから、仕事帰りに軽くバーで一杯、といったニーズにまで広く対応している。

入り口ではペッパー君が独特のイントネーションでおすすめメニューを紹介してくれている
メニューにはカロリーや栄養素なども併記されており、健康に気を使っている人にも好評だ

料理は種類ごとに窓口(レーン)が分かれており、レーンの数は14種類。ラーメン、中華といった定番ジャンルに加え、海鮮やグリルといった窓口まで用意されている。中には冬季限定のおでんコーナーまでがあった。

また、色々食べたい人には、量り売りのビュッフェ形式のメニューも用意されている。このほか、自席で食べたい人向けに、お弁当やパン、スイーツまで用意されており、メニューの豊富さはファミリーレストランも顔負けだ。

レーンに並んで好きな料理を取っていく形式。メニューは常時30種類以上が提供されており、季節や売れ行き、利用者からのフィードバックなどをもとに細かな変更が入る
ビュッフェ形式のコーナーも完備。グラム単位での量り売りとなる。ビュッフェだけで2種類用意されている念の入れようだ
スイーツコーナーではパティシエ手作りのアイスがおすすめ。写真は昼過ぎなのでだいぶ売れてしまっているが、ケーキも200円以下のものが常時数種類が並んでいる
おでん売り場になっているのは、終業後にお酒を出すバーカウンター。会社から出ずに「ちょっと一杯」できるのはなんとも羨ましい

支払方法は現金だけでなく、交通系電子マネーやYahoo!マネーの利用も可能。さらに社員証を使って支払うと、給与から天引きされるという仕組みも用意。社員証を使った支払いなら5%オフになり、見ていると社員証を使って決済する人がかなり多かった。

ソフトバンクではロケーションフリーや在宅勤務が浸透していることもあり、社員食堂で仕事をしている社員も多いという。実際、コーヒーを片手にノートPCを広げて作業している姿も少なからず目撃した。またミーティングコーナーにはPCやスマートフォン/タブレット用の入力端子が完備されたディスプレイが設置されており、飲食しながらでもミーティングが行える。

食堂の利用促進にアプリを活用

社員食堂の運営は、ソフトバンクの総務本部が担当している。社食はこのビルにソフトバンクが引っ越してきて間もない2005年にオープン、2016年に食堂運営会社を変更し、現在の姿になった。どのような社食にするべきか、他社の社員食堂を十数社見学するなど、試行錯誤を重ねながら進めてきたという。

地上25階と言うことで眺望は絶景。ただし社員からは見飽きられており、この日も日向になる窓は暑くて眩しいとばかりにシェードが降りていた

調理やメニューの決定といった現場でのオペレーションは外部の委託業者(中央フードサービス)が担当しているが、社内との調整や全体のディレクションは総務本部がハンドリングする。ソフトバンクから社食運営のための補助金なども特に出ていないとのことで、おいしい食事をリーズナブルに提供するべく、業者と協力してトライ&エラーを繰り返しながら取り組んでいるのだ。

こうした取り組みは社員食堂の有効活用にも向けられている。イベント会場としても利用されており、これまでに近隣企業の人事の交流会など、社外の人を招いてのイベントも開催されたそうだ。また社員が考えたメニューを導入したり、ネパール人シェフが作る本格カレーを提供するなど、さまざまな催しも開催され、利用者の楽しみを喚起する取り組みが続けられている。

傍目には十分賑わっているように見える社員食堂だが、さらなる利用促進の仕掛けとして社内向けアプリの活用も行なっているのがユニークなポイントだ。

このアプリは2017年10月にリリースされたもので、アプリからは社員食堂のメニューを見たり、メニューの売り切れ状況や、おおまかな混雑の状況も確認できる。また、前述した社員証決済したものについては社員証に紐づけられて記録が残り、あとからメニュー名やカロリー、成分などを確認することもできる。

アプリでは新着情報などを閲覧可能
混雑状況の確認も

「社員向け情報はイントラネットを通じて配信されてきましたが、毎回、自主的にアクセスする必要があり、本当に読んでほしい情報が読み飛ばされてしまうことがありました。これがアプリになることで、重要なメッセージは通知として伝えることができるので、読んでもらえる機会が圧倒的に増えました」(総務本部・佐藤俊輔さん)。社員食堂の利用促進だけでなく、総務からの連絡も受信しやすくなるということで、一石二鳥なわけだ。

天井に設置された3Dカメラを使い、現在の混雑具合を把握。アプリ上でグラフィカルに表示できるようになっている

現在は引き続きアプリ利用の浸透に取り組んでいる。また、社内アンケートや食事を通じた健康データの取得とメニューのリコメンド化など、IT化によってチャレンジしてみたいアイディアはたくさんあるという。

ソフトバンクが考える社食の姿

前述したようにさまざまなイベントにも利用されており、リニューアル後の評判も上々という社員食堂だが、多数の社員からの要求に継続して応えていくというのも並大抵の苦労ではないはずだ。総務本部としては、社員食堂とはどうあるべきだと考えているのだろうか?

「食事が美味しいということは、仕事をする環境への満足度に直結していると思います。ただ、100円でも高いという人もいれば、もっと高くしてでも美味しくしてほしいという声もあるように、食事に対する要求はひとりひとり違うので、ある意味答えがない永遠の課題です。できるだけ多くの声に応えて、社員の健康や福利厚生を社外に誇れるものにし、会社の価値を高めたいと考えています」(佐藤氏)

最近は社員食堂が、ただ腹を満たすだけでなく、社員の健康管理の場としても注目されている。福利厚生が手厚い企業は離職率も下がり、業務全体が円滑に進むひとつの指針となるはずだ。ソフトバンクというと、孫会長のキャラクターもあってか、目標に向かって突き進むモーレツ型の企業という印象が強いが、こうした見えにくい部分でのバックアップがあってこその好調ということなのだろう。

もちろん、自社ビルでなければ契約上、導入が難しいなど、すべての企業が社員食堂を準備できる環境にはないだろう。社員食堂以外で多くの企業にとって参考になると思われる点としては、ソフトバンクの総務本部が進めているアプリ化が挙げられる。プッシュ化で死蔵される情報が少なくなるなど、社員への情報提供手段としては非常に有効だろう。大きな組織になればなるほど、有効性は高まりそうだ。