「流行の仕掛人」の記事

バズらせ屋メルカリが「新元号の発表」を見逃すワケがなかった

バズらせ屋メルカリが「新元号の発表」を見逃すワケがなかった

2019.04.02

新元号発表の2時間後、メルカリが新元号イベントを実施

「令和」の文字をプリントしたTシャツを配布

このプロモーションの目的は? 仕掛け人に話を聞いた

昨年末、リアル店舗のような折込チラシを配布してSNSで“バズった”メルカリ。これまでも、何度も巧みなプロモーションを仕掛けてきた同社が「新元号の発表」という国民的イベントで黙っているワケがなかった。

メルカリは新元号の発表後間もなく、渋谷ストリーム前にてイベントを実施した

「速さ」で注目を奪った、巧みなプロモーション

4月1日14時、新元号が「令和」と発表されてからわずか2時間半後、国民の興奮冷めやらぬ頃に同社は、渋谷で「メルカリ新元号発表イベント」を実施した。

イベントで行われたことは2つ。まず1つ目は、「美しすぎる書道家」こと涼風花氏の書道パフォーマンスだ。力強く「令和」の文字を書くそのパフォーマンスは、通行人の目をくぎ付けにした。

書道パフォーマンスを行う、書道家の涼風花氏

もう1つは、事前に涼氏が書いていた「令和」の文字をプリントしたTシャツの無料配布だ。この「令和Tシャツ」は元号の発表後、急ピッチで大勢のスタッフによって制作され、合計500人に渡された。

パフォーマンスに足を止めた人たちがTシャツを受け取るための列に並び、またそれを見た人が後列に続く。時間が経つごとに人が集まってきて、会場には長い行列ができていた。

「令和」プリントTシャツの受け取り時には人が多く集まりすぎて、ちょっとしたパニック状態に

新元号発表直後ということもあり、このイベントには多くの報道陣が参加した。さらには渋谷の通行人を巻き込み、SNSでの発信にもつなげさせるという、メルカリの上手なプロモーションを見せつけられた。

このイベントは、どのように企画され、何を狙って行われたのか。イベント終了後、この企画の担当者であるメルカリ マーケティング部 マーケティングスペシャリストの星賢志氏に話を聞いた。

メルカリ マーケティング部 マーケティングスペシャリストの星賢志氏

服が情報を伝える、再利用可能な「新しい号外」

――今回のイベントの狙いはどういったものだったのでしょう?

星賢志氏(以下、星):日本中が盛り上がる新元号の発表を、メルカリがいち早くお祝いしよう、というのが今回の企画でやりたかったことです。

涼さんの巨大な書き初めは、新しい時代が始まることを示したいという想い、そしてTシャツの配布は、これまでなかった「号外の新しい形」を提案したいという想いのもとに実施しました。

配布された「令和」Tシャツ

――号外の新しい形とは?

星:今まで「号外」というと、主に新聞などの紙媒体で配布されることが多かったかと思います。しかし、それらは渡されたあとには使い道がなくて、ゴミになってしまうことが問題でした。

そこで今回メルカリが配布したのは、新元号を伝えるための情報をTシャツにプリントした「再利用可能な号外」です。Tシャツを着たり、写真を撮ったりして楽しめるので、受け取ったあともゴミになりません。

また、このプロモーションには、当社が提供する「メルカリ」のサービスのメッセージも込めています。メルカリによるCtoCのマーケットプレイスは、本来価値のなくなったものをゴミとして捨てるのではなく、次の人に渡す、という仕組みを作り出しています。

Tシャツを受け取った人の中には、その場で着用して写真を撮る人もいた

――元号の発表後に、すぐ配布用のTシャツの制作に取り掛かったとのことですが、イベントの準備時間が短く、トラブルもあったのではないですか?

星:もともと、「新元号が発表されてすぐに動く」という前提で組んだ施策だったので、大きな問題はありませんでしたね。むしろ、イベント運営側の「ドタバタ」を絵にできたのも、面白かったんじゃないでしょうか。

元号の発表後、数十人のスタッフが1枚1枚のTシャツに「令和」の文字をプリントする様子も、メディアに公開されていた

メルカリは、世間を投影するプラットフォームに

――イベントを終えたばかりで、まだ確認できていないかと思いますが、元号発表直後から、メルカリで「令和」関連の商品が売れていることが話題になっています。こうした盛り上がりについてはどう捉えていますか?

星:メルカリでは昔からよく、世間の話題を投影するような現象が起こってきました。例えば、大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝した時には、関連グッズが多く売れたり、検索されたりするようになりました。

そういった現象は、メルカリが世の中に浸透している証でもありますので、今回、メルカリ上でいろんな商品のやり取りがなされていることは嬉しいですね。

――最後に、イベントを実施した今の心境を教えてください

星:多くの方にイベントに来て頂き、非常にありがたく思います。

それと同時に、「新しい元号」「新しい時代の始まり」に多くの人が注目していることを客観的に感じられました。令和はいい時代になればいいなぁと、一個人として思いますね。メルカリでも、「新しい時代の日常的なマーケットプレイス」として、これからもさまざまなことに挑戦し続けたいと思います。

メルカリの存在感は、「新しい時代」でも増していきそうだ
“元祖プロゲーマー”の高橋名人が今のeスポーツプレイヤーに期待すること

“元祖プロゲーマー”の高橋名人が今のeスポーツプレイヤーに期待すること

2019.03.27

「アサヒ からだ十六茶」と「高橋名人の16連射」が夢のコラボ

期間限定で「高橋名人の16連ダッシュ全国大会」というゲームを公開

「ハドソン全国キャラバン」やeスポーツについて話を聞いた

「高橋名人の16 連ダッシュ全国大会」のゲーム画面

アサヒ飲料は、「アサヒ からだ十六茶」のリニューアルを記念して、3月26日~4月16日に高橋名人の16連ダッシュ全国大会」(https://karada16cp.jp/)を開催する。3週間限定で配信されるゲームを使って、ゲームのスコアを競うイベントだ。期間中、記録は日々集計され、毎日のスコア1位のプレイヤーと、キャンペーン終了時のスコア上位16名に賞品が贈られる。

ゲームを監修した高橋名人は34年前に、全国40カ所以上の地域でゲームイベント「ハドソン全国キャラバン」を開催したプロゲーマーの先駆けでもある。「1秒間に16回ボタンを押す」という技術により、連射系シューティングゲームを中心に活動した。ハドソンの社員という立場ながら、テレビや雑誌などに多く出演し、自社のゲームだけでなく、ゲーム市場全体の地位向上に寄与したレジェンド的存在だ。

今回、高橋名人に直接話を伺う機会を得たので、コラボのきっかけやeスポーツの先駆けともいえる「ハドソン全国キャラバン」の裏話、そして今のeスポーツに感じていることなどについて伺った。

20年以上を経て実現した「16」つながりのコラボ

――まずは今回「アサヒ からだ十六茶」とコラボしたきっかけを教えてください。

高橋名人(以下名人):単純な話ですよ。いわゆる「16」つながりです。アサヒ飲料のほうは、商品名そのまま「十六」茶。私は代名詞でもある「16」連射です。ただ、十六茶も20年以上前に発売した商品なので、もっと早くコラボの話を持ってきてくれればよかったんですけどね(笑)。20年かかってようやく到達したっていうのも感慨深いですが。

20年越しのコラボが実現した「十六茶」を見つめる高橋名人

――たしかに(笑)。むしろ今までなかったのが不思議ですね。

名人:昔、十六茶を持ってきて、「こんなお茶があるんですけど、名人の許可とっているんですか」って、聞いてきたファンの方がいましたね(笑)。

――名人の16連射は30年以上前に定着したイメージですが、現在においても16から連想される人物で高橋名人を超える人はいないかもしれません。

名人:そうですかね。まあ、ありがたいことですけど、そろそろほかにイメージされる方が出てくれてもいいんじゃないでしょうか。

――16つながりでコラボが実現したということですが、どのような内容のコラボなのでしょうか。

名人:まず、私とのコラボなので「簡単なゲームを作って、みんなで遊んでもらいたい」と思いました。そして、対象商品が「からだ 十六茶」。それらの要素から、ため込んでしまうと身体によくない糖や脂肪などを避けつつ、ときどき現れる「からだ 十六茶」を手に入れるというゲームを考案しました。

糖や脂肪に当たるとダメージを受けて、「からだ 十六茶」をゲットすると体力が回復するというシステムなのですが、体力がなくなってゲームオーバーになっても、1度だけ復活のチャンスがあるんです。「16連射復活」というモードに突入し、そこでみごと16連射を決めればライフポイントが回復します。

――そこで16連射するんですね。ゲーム内で移動した距離を集計して、毎日、賞品を出すと伺いました。

トータルスコア上位16人が受け取ることができるトレーナー

名人:私が昔参加していたゲーム大会「ハドソン全国キャラバン」では、地域ごとに優勝者を決めて賞品を配布していましたが、今回はブラウザゲームなので、地域ではなく日ごとに優勝者を決めるようにしました。

あと、キャンペーンの期間が終了したらトータルでのランキングも集計して、「トップ16」の人にはトレーナーをプレゼントします。これは、私が毛利名人と映画『GAME KING 高橋名人VS毛利名人 激突!大決戦』で対決したときに着ていたトレーナーの復刻盤ですね。高価なものではないかもしれませんが、多くの人に賞品が行きわたってほしかったんです。

――いやいや、これは金額じゃ計れない価値がありますよ。そう思える人は多くいると思います。特にアラフォーとか。

名人:アラフォーばかり参加しちゃうかもしれませんね。

“元祖eスポーツ”は子どもたちの夢の舞台

――ゲームのイベントといえば、高橋名人は「ハドソン全国キャラバン」のイメージが強いと思います。キャラバンはeスポーツの先駆けのような存在ともいえると思いますが、当時はどんな感じだったのでしょうか。

名人:当然、当時はeスポーツなんて言葉はありませんでした。今のeスポーツとも違う点はあるのですが、全国各地で行ったゲーム大会としてはキャラバンが初めてだったのではないでしょうか。

――ほぼ毎日開催して、名人がそれぞれの会場に訪れていたんですよね。まさにライブの全国ツアーのような感じがします。

名人:どちらかと言うと、プロレスの興行みたいな感じかな。10台のモニターを用意して、250人くらいの参加者で、毎日2回大会を開いていました。予選から本戦まで、大体2時間半で終わるように設定していたんですけど、それでも最後の方はあぶれて参加できない子供たちもいましたね。

キャラバンは、南から北上するチームと北から南下する2チームが同時に行っていたんですが、大阪ではモニターを倍増させました。2回で700人くらい参加したんじゃないかな。たしか、大阪での開催場所は阪急デパートで、待機列がデパートを3周半くらいしていたって聞いています。翌年の開催では、500~700人くらいの参加だったと記憶してますが、3000人くらいの応募がありました。参加するだけでも大変なイベントになりましたね。

――スケジュールもハードですよね。

名人:朝6時に起きて、7時に設営を開始し、10時から大会を始めて、12時半くらいに終わる。30分くらい休んで、2回目が始まって、16時くらいから撤収するんです。そこから、スタッフは機材を運ぶ車で次の開催地に移動。僕はアシスタントと一緒に電車で移動していました。夕飯を食べつつ反省会をして、12時には就寝し、また翌日は6時から活動する感じですね。これを40日間繰り返すんです。

その間、一度だけ3日間のお休みをもらって東京に戻ってきたんですけど、そのうち1日はテレビ番組の『おはスタ』に出演し、もう1日は会社で現状の報告と反省会が入っていて、結局、家に居られたのは1日だけでした。

――南下ルートは高橋名人のライバル的ポジションにいた毛利名人が担当していたんですよね。

名人:そうです。毛利君は当時大学生でした。同人誌でゲームの攻略本を作っていて、僕に見せに来たんですよね。そこで「君、ゲーム好きなんだ、うまいの?」って聞いたら、うまいっていうので、『スターソルジャー』をプレイしてもらったら、本当にうまかった。そこで、「夏休みヒマ?」って聞いたら、ヒマだと言うので巻き込んじゃいました(笑)

――人生変えちゃいましたね。

名人:まあ、僕自身も変えられちゃったんですけどね(笑)。その後もキャラバンは毎年開催し、多くの人に参加していただいたんですけど、そのうち、キャラバン小僧と呼ばれる人たちが出てきました。キャラバンが終わったら、次のキャラバンまでにアルバイトとかしてお金を貯めるんです。そして、キャラバンが始まったら、僕らと一緒にキャラバンについてきて、ほとんどの大会に参加するんですよ。当然スタッフとかとも仲良くなって盛り上がっていくんですけど、どの大会でも彼らが上位に入賞してしまい、現地の子供たちがベスト10に誰も入れない状態になってしまいました。そこで結局、一度入賞した人は「参考記録」にしようという形になりましたね。やはり、その土地でのチャンピオンを決めたかったので、そういう措置をとりました。

88年大会は初めてPCエンジンを使ってキャラバンを行いました。タイトルは野球ゲームの『パワーリーグ』。これまでは大会ごとの優勝者を決めていただけですが、このときは各地の1位選手を東京に集めて全国大会を行ったんです。地方から飛行機で来てもらったのですが、空港からはホテルに直行。ホテルで大会を開催し、終わったらまたすぐ空港に直行ですよ。東京で子どもたちを自由に遊ばせて、何かあったら大変なので、とにかく気を遣いました。

高橋名人は今のeスポーツに何を思う?

――そこまでの規模になると、現在のeスポーツと近いものがありますね。そういう経験を30年以上前に経験した高橋名人にとって、eスポーツはどのように見ていますか。

名人:1つの大会を行うのにも賞金や法律の問題がありますからね。まだまだクリアしないといけないことは多いイメージです。

たとえば、1000万円の優勝賞金の大会を開く場合、少なくとも5000万円くらいの予算が必要になるんですが、メーカー主導だと、プロモーション費と考えてもなかなか出せるものではありません。しかし、プロゲーマーが職業として活動していくためには、このクラスの大会が最低でも月に1回はないとつらいわけです。

海外の場合、参加費や課金キャラクターの代金の数パーセントを賞金に当てるということで、運営できているんですが、日本だと賭博法や景品表示法に抵触してしまうので、そのやり方ではできません。このあたりは早く改正してほしいと思います。

――キャラバンなどのイベントが「元祖eスポーツ」だとすると、名人は元祖eスポーツプレイヤーとなるわけですが、プレイヤーとして選手に対して思うところはありますか。

名人:僕は結局、会社員で、宣伝することが仕事でした。たとえば、会社にとってみれば15秒のCMには莫大なお金がかかりますが、10分のテレビ番組に出演できればCM40本分の価値があるわけです。なので、僕はどちらかというと、腕前を競うよりも、見せ方がうまくなるように考えていました。そのため、僕はゲームの腕がそこそこでも良かったんですけど、今のプロプレイヤーはそこそこではダメなので大変ですよね。

先ほども言いましたが賞金額が上がってきているとはいえ、大会の回数は少ないので、一部の人しか稼げていないわけです。ゴルフのように大会数も多く、さらにコーチの仕事もあるという状態になっていかないと、多くのプロは生活できないでしょう。

賞金総額3000万円くらいの大会が、月に1回あるといいでしょうね。平均100万円ずつでも獲得できれば、年間1200万円になるので、最低でもそれくらいはないと。

――プロプレイヤーになると、大会の結果だけでなくタレント性も求められますが、そのあたりはいかがでしょうか。

名人:僕が当時、気をつけていたのは、子どもたちに好かれる以上に、お母さんに好かれることです。家計を握っているのはお母さんですし、しつけをするのもお母さんでしたから。僕が言っていた「ゲームは1日1時間」というセリフも、子どもたちに向けているようで、6割くらいはお母さんに向けていたんですよね。「高橋名人が1時間って言っているでしょ」って子どもに言ってくれたらそれでもう目的は果たせているわけです。

また、僕を理由にしてくれることで、もし、子どもが新しいゲームを欲しくなったとき、「高橋名人が推しているのであればしょうがないな」ってなりがちですからね。

そうやって、ゲームをやる人だけじゃなく、その周りの人に好かれて、気になってもらえる存在になってほしいと思います。僕のころも「名人」と呼ばれる人はたくさんいましたが、現状で名人と呼ばれる人が今どれくらい残っているか考えれば、どのようなやり方が正しかったのかわかるでしょう。

今、eスポーツやゲームを取り扱う番組が増えてきて、ゲームプレイヤーも多く出演していますが、ゲームとは関係のない番組にも呼ばれるようになってほしいです。そして、たとえば、野球のイチロー選手のように、有名になればなるほど、子どもたちの中により入りこんでいって、一層強い憧れを抱かれるような選手になってくれればうれしいですね。

――高橋名人は、eスポーツを運営する側でもありましたが、運営側に対して感じることはありますか?

名人:今は注目されているので、eスポーツに関することをすれば儲かるって思っている人も多いでしょう。でも、現状では簡単に儲けることは難しい。2~3年は、先行投資として、宣伝のためと思って大会を運営してもらい、長期スパンで考えてほしいなと思います。

――最後に、今回の「高橋名人の16連ダッシュ全国大会」は、1度ゲームオーバーになると復活するために連射をする必要がありますが、現在でも16連射はいけるのでしょうか。

名人:今は無理ですねー(笑)。たぶん12連射くらいがいいところじゃないですか。キャラバンのように5分間プレイするとなると、平均8~10連射くらいになってしまうかもしれないです。連射のピークは27歳のころだったんですよ。当時、連射の様子を撮影してもらったことがあるのですが、10秒間で174発撃っていたのが確認されました。17.4連射ですね。

――常人は5分間連射し続けることがすでに無理なので、まさに名人健在って感じですね。ありがとうございました!

実際に連射を見せてもらった。謙遜していたが、そのスピードはまさに“名人”だった
ペットボトルコーヒーで覇権を取った「クラフトボス」が「紅茶」に手を広げる理由

ペットボトルコーヒーで覇権を取った「クラフトボス」が「紅茶」に手を広げる理由

2019.03.04

ヒット商品「クラフトボス」の新商品はなんと「紅茶」

コーヒー、紅茶という「壁」を越えた消費者動向がカギに

すっきり飲める無糖紅茶の裏には常識破りの製造方法

「BOSSなのに、コーヒーじゃないの?」

「クラフトボス」の新商品「クラフトボス・ティー」(2019年3月19日発売)が発表された時、率直にこんな感想を抱いた。

コンビニのコーヒー飲料の棚を様変わりさせたと言っても過言ではない、サントリーの「クラフトボス」。缶コーヒーではウリだった苦みやコクを抑え、長い時間かけて「ちびだら飲み」できるすっきりとした味わいが受け、ブランド立ち上げから2年目となった2018年も、前年から大幅に売り上げを伸ばし、発売から2年で2.7倍と急成長している。

「クラフトボス」製品群。左からブラック、ブラウン、ラテ
クラフトボスは同ブランドを牽引する急成長を遂げている(BOSSブランド戦略発表会より)

2018年6月発売の「ブラウン」以来ラインアップに動きがなかったため、新商品によるてこ入れは想定内だったが、中身がコーヒーではないというのは大胆な選択に映る。

「BOSS(ボス)」ブランドを牽引する主力シリーズに、ブランドの代名詞である「コーヒー」以外を投入することに決めた理由はどこにあったのだろうか。開発者とブランド責任者の言葉から、それを探ることにした。

「クラフトボス・ティー」は、2018年6月以来となるクラフトボスシリーズの新商品。加糖した商品が大半のペットボトル紅茶だが、これは無糖のストレート紅茶だ

「コーヒー党」以外も引きつけたクラフトボス

ブランド責任者であるサントリー食品インターナショナル 柳井慎一郎常務執行役員は、「クラフトボス」のヒットの裏には、それまでにない購買動向があったと語る。ひとつは、それまで缶コーヒーの購買層の外にいた、若年層や女性による売り上げが目立つこと。心地よいワークスタイルを訴求するCMや、現代的な感性に訴えるボトルで新たな客層を切り開いた格好だ。

「WORK&PEACE」というキャッチコピーを掲げ、現代のビジネスパーソンが心地よく働くというコンセプトを表現

もう一つは、コーヒーではないペットボトル飲料を飲んでいた人たちの「流入」。クラフトボス ブラックには緑茶やジャスミン茶などの「無糖茶」ユーザー、クラフトボス ラテはミルクティーなど乳成分が入った「ミルク系飲料」のユーザーが新たに手を伸ばしたという。

クラフトボスには、緑茶やジャスミン茶など「無糖茶」、あるいは乳成分入りの「ミルク系飲料」のユーザーも流れ込んできた(イラスト:シマダマヨ)

また、「BOSS」ブランドの商品は大半がコーヒー飲料だが、わずかながら紅茶飲料も存在し、また2018年には缶入りスープ「ビストロボス」も発売した。「ボスブランドの軸は、『働く人の相棒』というシンプルなコンセプトにある」(柳井氏)とのことで、ボス=コーヒーという図式にとらわれない方針が透けて見えた。

市場調査において、「クラフトボスには共感するが、コーヒーは全く飲めない」消費者の存在が浮かび上がってきたという。それならば、クラフトボスから茶飲料を発売することで、コーヒーであるがゆえに取りこぼしていた需要の掘り起こしができるかもしれない。

他飲料ユーザーからの支持、そして飲料種別にとらわれないブランド展開。そのふたつが「クラフトボス・ティー」を生んだと言えそうだ。

「紅茶」の追加で生まれる変化に期待

無糖茶ユーザーの深掘りを狙う中で生まれた「クラフトボス・ティー」。だが、ペットボトル飲料の茶カテゴリの中で、紅茶飲料の占める割合はあまり多くない。圧倒的首位は緑茶飲料で、それにブレンド茶・麦茶などの「その他茶類」が続き、紅茶はその次の規模だ(※ 全国清涼飲料連合会 清涼飲料水品目別生産量推移より)

しかし、茶カテゴリで最大規模の「緑茶」に関して言えば、商品訴求の型がクラフトボスにそぐわないという背景もありそうだ。柳井氏は「緑茶飲料はメーカー問わず、『伝統』『格式』を重んじるコミュニケーションが主流」と語ったが、確かに緑茶飲料は日本らしさや歴史を感じさせるCMが多い。クラフトボスの軽やかで現代的なイメージとは真逆のため、選択肢から外れたのは想像に難くない。

サントリー食品インターナショナル 常務執行役員 ジャパン事業本部 ブランド開発事業部長 柳井慎一郎氏

一方、「クラフトボス」開発担当者の朝岡あゆ美氏は、市場調査などで感じたある「壁」を語った。市場調査の中で「コンビニコーヒーをよく買う」人々と話す機会を多く持ったが、彼らは調査の一環で試飲するまで、缶コーヒーはじめRTD商品(Ready to drink:蓋を開けてすぐにそのまま飲める飲料)は一切手に取ってこなかったと話したという。

「ですが、クラフトボスを試しに飲んでみたら『これなら自分にも飲める』と言ってくださった方も多かったのです。紅茶という選択肢を追加することで、コーヒーそれ自体が苦手という方、さらにはRTDのコーヒー・茶飲料を飲むという体験を持たない人にも手に取っていただき、『これなら飲める』という発見をしていただけたら、と思います」(朝岡氏)

サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部 ブランド開発第二事業部 朝岡あゆ美氏

また、コーヒー主体のブランド内で紅茶が果たす役割はほかにもあるようだ。あくまで社内でのエピソードと前置きをした上で、朝岡氏は「1日中コーヒーを飲んでいる社員が疲れたと漏らした時、『クラフトボス・ティー』を渡したら『(今の気分に)すごくちょうどいい』と飲み始めた」と語った。コーヒー党の人からすれば、紅茶の方が「軽い」のだ。

近年カフェイン量を取り除いた「デカフェ」飲料が選択肢として徐々に浸透している中で、カフェインを摂りすぎることや「カフェイン疲れ」への懸念も広がっている。こうした飲料特性の違いから、「クラフトボス」シリーズ内での回遊に、紅茶が一役買うのでは、という期待もありそうだ。

製造の常識をやぶり実現した「香り高いのに渋くない」味

「クラフトボス」といえば、冒頭にも簡単に書いたが「ちびだら飲み」できるすっきりした味わいがブランド内で一貫した特徴だ。しかし、紅茶でそれを実現するにはかなりの苦労が伴ったという。

「工場で紅茶をいれる釜のサイズと前後のラインの規模から、紅茶の平均抽出時間はあらかじめ決まっているのですが、その中で紅茶の渋みを抑えるには薄く出すほかなく、そうすると一緒に香りも消えてしまい、大きな課題となりました」(朝岡氏)

紅茶の渋みを出しづらくするいれ方は、恒常のサイクルタイムでは実現できず、開発部門が「正直ありえない」と言うほどの短時間抽出を行った。それに加えて、渋み成分をまろやかにするような処理をほどこし、おいしいと感じる成分は残しながらも、渋みや重みなど、紅茶を敬遠する理由となる味として感じないように設計しているという。

「開発メンバーはずっと、無糖の紅茶を作ってみたいという思いを持っていました。それが我々の思いとして結実するなら頑張ります、と一念発起してくれたんです」(朝岡氏)

朝岡氏はリプトンブランドの担当経験もあり、今回「クラフトボス・ティー」の開発に携わったのは、当時共に働いていたチームだった。

「すっきり香る」というキャッチコピーそのものの味わいは、開発段階での試行錯誤の結果生み出された味わいだった

製造の常識を曲げてまで理想の味を実現するチャレンジには、開発部門の協力が欠かせず、この製品のための実験も数多く行われたという。関係者がそれほどまでの情熱を傾けた理由は、「無糖の紅茶」が同社からはほとんど発売されてこなかったことと関係がある。

ペットボトル紅茶の大半が「甘い」理由

健康志向が高まり、無糖の炭酸水やミネラルウォーター、トクホ製品などが支持を受ける中、無糖紅茶が出ても不思議ではないように思う。しかし、市場調査を行うと、無糖紅茶はニーズが少ないという結果が出るのだそうだ。企画があがる度にRTD紅茶=甘いという「常識」は強固であることが裏づけられ、ゴーサインが出ることはこれまでほとんどなかった。

キリンが「午後の紅茶 おいしい無糖」を長年展開しているところを見ると「無糖の紅茶」にも広がる可能性はあるように感じてしまうが、そう尋ねると、朝岡氏は首を横に振った。つまり、既存商品に対抗するほどの可能性が見つけられなかったということだ。

加糖紅茶が好まれる背景にあったのは「おやつ需要」。夕方、甘い物をちょっとつまみたくなるタイミングで紅茶飲料は手に取られることが多く、短時間にさっと、小腹満たしに買われることが多いそう。確かに、そうした用途で言えば、無糖の紅茶は適さない。

しかし今回の開発ミッションは「ちびだら」飲める、すっきりした働く人の相棒となる「クラフトボス」の紅茶。目指す味わいと想定飲用シーンが既存のRTD紅茶市場と異なるがゆえに、無糖紅茶としての開発が実現したのだった。

サントリー渾身の無糖紅茶は「働く人の相棒」になれるか

ビジネスマンがPCに向かっている時、その傍らにはペットボトル飲料がある。コーヒーは多くの人が手に取るメジャーな選択肢であり、だからこそ飲用シーンに適した「クラフトボス」が一定の地位を築くことができた。そこに「無糖の紅茶」が加わることで、どんな変化が生まれるだろうか。

こう問いかけてみたが、さっそく身近なところで変化を目撃した。オフィスで筆者の隣に座っている後輩(男性・20代)に試飲用の「クラフトボス・ティー」を渡してみたところ、最初は「飲み慣れない」と言っていたが、後日「いつも」のコーヒーではなく、無糖の紅茶飲料を手に取っていた。コーヒーよりも喉が潤って、香りも良かったので買ってみたくなったのだそうだ。

缶コーヒーを飲まない人たちがクラフトボスを受け入れたように、これまで「いつも」のコーヒーを手に取っていた人たちにも、こうした行動の変化が現れるのだろうか。発売後、ビジネスマンの卓上にある飲料がいっそう多様化することで、同ブランドが打ち出す「心地よい働き方」が一歩進んでいくのかもしれない。