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マツダが新型車「MAZDA3」を発売! ブランド戦略の成否を占うクルマに?

マツダが新型車「MAZDA3」を発売! ブランド戦略の成否を占うクルマに?

2019.05.24

「MAZDA3」はハッチバックとセダンの2タイプ

まるで歩いているような運転感覚を目指したと開発主査

狙うは中~高価格帯? プレミアムブランド化の試金石

マツダは「アクセラ」の後継モデルとなる新型車「MAZDA3」(マツダ・スリー)を発売した。ボディタイプはハッチバック(マツダは「ファストバック」と呼称)とセダンの2種類、価格は218万8,100円~362万1,400円。マツダにとっては新世代商品群の先陣を切るクルマであり、マツダブランドがプレミアム化路線に舵を切っていけるかどうかの試金石となる商品でもある。

マツダが発売した「MAZDA3」。左がセダン、右がファストバック

新世代商品群の口火を切る「MAZDA3」

マツダは2012年に発売したSUV「CX-5」を皮切りに、「新世代商品群」(マツダにとって“第6世代”にあたる商品群)のラインアップを拡充してきた。今回のMAZDA3は、同社にとって“第7世代”にあたる商品群の幕開けとなるクルマだ。このクルマから、次の「新世代商品群」が始まる。

開発主査を務めたマツダ 商品本部の別府耕太氏によれば、MAZDA3で目指したのは「マツダブランドを飛躍させる」こと。そのために、クルマとしての基本性能を「人の心が動くレベル」まで磨き上げ、「誰もが羨望するクルマ」に仕上げたとのことだ。MAZDA3は「徹底的な人間研究」に基づいて作ったクルマであり、乗れば「まるで自分の足で歩いているような」運転感覚を味わえるという。その人馬一体の感覚は、助手席と後部座席でも体感できるそうだ。

コックピットの設計では、誰もが適切なドライビングポジションを取ることができることにこだわったという

マツダの新世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHETECTURE」(スカイアクティブ ビークル アーキテクチャー)が相当に進化している様子だが、その違いは素人でも分かるくらい、劇的なものなのだろうか。この問いに別府氏は、「走り出して交差点を曲がる10mくらい、低速域のシンプルな動作でも動きの違いが分かってもらえると思う。動きを滑らかにした。その一言に尽きる」と自信ありげな様子。進化の度合いは「テレビがアナログからデジタルに変わったくらい」とのことだった。

「MAZDA3」の滑らかな運転感覚は少し走るだけで分かると別府開発主査は話す

MAZDA3が搭載するエンジンは4種類。ガソリンは直列4気筒直噴エンジンの1.5Lと2.0L、ディーゼルは直列4気筒クリーンディーゼルターボエンジンの1.8L、そして、マツダが独自技術で開発した新世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X」の2.0Lだ。このうち、1.5リッターガソリンエンジンはハッチバックのみの設定となる。

1.5Lガソリンエンジンと1.8Lディーゼルエンジンは5月24日販売開始。2.0Lガソリンエンジンは5月24日予約受注開始、7月下旬販売開始予定だ。「SKYACTIV-X」は7月に予約受注を開始し、10月に売り出す計画(画像はファストバック)

どのエンジンを選ぶかで当然、価格帯も違ってくる。1.5Lは218万8,100円~250万6,080円、2.0Lは247万円~271万9,200円、1.8Lディーゼルは274万円~315万1,200円、SKYACTIV-Xは314万円~362万1,400円だ。ちなみに、同じグレードだとセダンとハッチバックの間に価格差はないが、バーガンディー(赤)の内装が備わるハッチバックのみの特別なグレード「Burgundy Selection」は、同一グレード内で最も高い価格設定となる。上に記した価格帯は同グレードを含めたものだ。

1.5Lガソリンは最高出力111ps(6,000rpm)、最大トルク146Nm(3,500rpm)、2.0Lガソリンは同156ps(6,000rpm)/199Nm(4,000rpm)、1.8Lディーゼルは116ps(4,000rpm)/270Nm(2,600rpm)。「SKYACTIV-X」の数値はまだ判明していない(画像はセダン)

182万5,200円~331万200円だったアクセラと比べると、MAZDA3の価格設定からは高価格化の印象を受ける。この点について、MAZDA3のマーケティングを担当するマツダ 国内営業本部の齊藤圭介主幹は、「アクセラでは低~中価格帯の市場にアプローチしていたが、MAZDA3では中~高価格帯へとステップアップしたい」との考えを示した。

セダンは「凛」、ハッチバックは「艶」

デザイン面では、マツダが第6世代商品群で取り入れた「魂動」というコンセプトをさらに深化させた。チーフデザイナーを務めたマツダ デザイン本部の土田康剛氏は、「引き算の美学」で「日本の美意識を表現したい」と考えたという。

セダンでは「凛とした伸びやかさ」で「大人に似合う成熟した」クルマを志向。ハッチバックでは「色気のあるカタマリ」をコンセプトに据えた。「セダンはあえて枠にはめて、ファストバックでは枠を外した」というのが土田氏の表現だ。周囲の景色や光を映し出すMAZDA3のエクステリアは、マツダが2017年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「VISION COUPE」(ビジョンクーペ)で印象的だった「リフレクション」(反映)を体現しているようだ。

「MAZDA3」では全8色のエクステリアカラーが選べる。「ポリメタルグレーメタリック」(画像、2019年1月の東京オートサロンにて撮影)はファストバック専用の新色だ

MAZDA3のエクステリアはスタイリッシュだし、ハッチバックの方はクルマの“肩”の部分が張り出していないので、アクセラに比べ室内が狭くなっていそうに見える。そのあたりについて別府氏に聞いてみると、「人にとっての空間は、部位によって多少の加減はあるが、現行(アクセラ)に対してほぼ同等。視覚的に、室内空間が狭そうに感じたとすれば、それはマツダのデザイン手法により、スタイリッシュさ、前後の伸びやかさ、力強さといったようなものを実現できているためとご理解いただきたい」との回答だった。

荷室については、ファストバックは基本的に「アクセラ スポーツ」(アクセラのハッチバック)と同等で、セダンは容量が拡大している。セダンの方は、アクセラよりも80mm延びた全長の大部分をトランクルームの容量拡大に充てたそうだ。

2輪駆動(FF)のハッチバックで比べると、ボディサイズは「アクセラ」が全長4,470mm/全幅1,795mm/全高1,470mm/ホイールベース2,700mm、「MAZDA3」が同4,460mm/1,795mm/1,440mm/2,725mm。フロントヘッドルームなどの数値を見比べると、数ミリ単位でMAZDA3の方が狭くなっているようだが、開発主査によれば「ほぼ同等」だという

MAZDA3には他にも多くのトピックスがあるものの、全ては書ききれないので、あと2点ほど挙げておくと、まず、このクルマは同社で初めてのコネクティッドカーとなる。車両自体の通信機能でマツダのサーバーと交信することで、24時間体制のサポートが受けられるのだ。例えば「アドバイスコール」という機能では、車両トラブルの際の初期対応から修理まで、幅広いサポートを受けることが可能。コネクティッド機能には使用料がかかるが、最初の3年間は無料だ。

もうひとつ、マツダが強調していたのが「静粛性」と「サウンドシステム」、つまり、MAZDA3車内の「音」に関する部分だ。このクルマはアクセラに比べ、静粛性と「音の伝わる時間と方向のリニアさ」が大幅に向上している。スピーカーは低音域、中音域、高音域それぞれに用意し、最適な場所に配置した。

高音域スピーカーは人の耳に近いドア上部、中音域スピーカーは乗員の体の横、低音域スピーカーは車室外のカウルサイドというところに配置。マツダ社内には「MAZDA3」を「走るオーディオルーム」と呼ぶ人もいるとのこと

MAZDA3の販売目標は、全世界で年間35万台。日本では月間2,000台を目指す。ボディタイプの内訳はファストバックが7割、エンジン構成は1.5Lガソリンが10%、2.0Lガソリンが40%、1.8Lディーゼルが20%、SKYACTIV-Xが30%を想定する。ちなみに、アクセラは2018年(暦年)で約38万7,000台が売れていて、その内訳は最も多い中国が11万7,000台、その次が北米で9万1,000台だった。

グレードにもよるが、MAZDA3は同クラスの輸入車であるフォルクスワーゲン「ゴルフ」やメルセデス・ベンツ「Aクラス」などと肩を並べるか、あるいはそれらを凌駕しかねない価格となる。直列6気筒エンジンの復活を宣言するなど、プレミアム化路線に舵を切ろうとしているマツダとすれば、ゴルフやAクラスなどの市場にMAZDA3で乗り込みたいところだろう。一方、1.5Lのガソリンエンジンでは、若年層に訴求できるかどうかもポイントとなりそうだ。

アルファロメオ好きに朗報! 「ジュリア」と「ディーゼル」は相性抜群

アルファロメオ好きに朗報! 「ジュリア」と「ディーゼル」は相性抜群

2019.05.23

「ジュリア」のディーゼルエンジン車が日本上陸

まずは価格に注目! お手頃な理由は?

試乗で納得した“スポーツディーゼル”の走り

アルファロメオの「ジュリア」にディーゼルエンジン搭載車が加わったのは大きなニュースである。先にSUVの「ステルヴィオ」に追加されたことで、エンジン自体のインパクトは若干薄れるが、ジュリアの選択肢が増えたことはカスタマー視点で見ても嬉しい。

アルファロメオの「ジュリア」にディーゼルエンジン搭載車が登場(画像はガソリンエンジン搭載車。ディーゼル車の外観はガソリン車の「スーパー」と変わらない)

まずは価格に注目! ガソリン車とほぼ同等?

FCAジャパンは2019年4月、ジュリアのディーゼルエンジン搭載車「2.2 ターボ ディーゼル スーパー」(2.2 TURBO DIESEL SUPER)を発売した。“スポーツディーゼル”の愛称が走りへの期待をあおってくるが、まず注目しておきたいのはプライスだ。「ディーゼル スーパー」の556万円は、ガソリンエンジンを搭載する「スーパー」よりは13万円高いものの、その1クラス上に位置する「ヴォローチェ」よりは31万円安くなる。

「ジュリア」の価格は受注生産のエントリーモデル「2.0 TURBO」が446万円、「2.0 TURBO SUPER」(スーパー)が543万円、「2.2 TURBO DIESEL SUPER」(ディーゼル スーパー)が556万円、「2.0 TURBO VELOCE」(ヴェローチェ)が587万円、「2.0 TURBO Q4 VELOCE」(ヴェローチェQ4)が597万円、「2.9 V6 BI-TURBO QUADRIFOGLIO」(クアドリフォリオ)が1,132万円となる

何が言いたいかというと、ジュリアにおけるディーゼル車のポジショニングに注目して欲しいのだ。通常、ディーゼルエンジン車は開発と生産にお金がかかるため、ガソリン車よりも割高になるパターンが多い。一概に全てのディーゼルエンジン車に当てはまるわけではないが、「コモンレール式」(燃料を噴射する仕組み)のパテント料やEGR(排気ガスを再循環させる装置)、ATS(排出ガス後処理装置)などの追加パーツ代もそこに含まれるからだ。

ドイツ御三家を例に取ってもその傾向は強く、BMWあたりはガソリン車とディーゼル車の価格差が顕著だ。なので、割高のディーゼル車を買う場合は、長く乗ってランニングコストで元を取ろうというような計算をすることになる。

が、ジュリアは違う。ディーゼル車をガソリンの同グレードと比較しても、価格はそれほど変わらない。ちなみに、ステルヴィオのディーゼル車は617万円で、ラインアップの中では最もリーズナブルなモデルとなっている。

ディーゼルエンジン車は割高になりがちだが、「ジュリア」の場合、同グレードのガソリンエンジン車と比較してもそれほど変わらない

もちろん、そこにはインポーターであるFCAジャパンの戦略と世界市場の変動がある。

例えば、その背景にはヨーロッパでのディーゼルエンジン離れが見てとれる。ドイツ系メーカーの環境数値における不正改ざん事件が尾を引き、ヨーロッパの国々でディーゼル人気がガタ落ちしているのだ。また、それを機にヨーロッパ各都市で厳しい規制も始まっている。

昨年、ボルボジャパンがプレゼンテーションで使った資料にその変化が記されていた。ヨーロッパ18カ国のディーゼル比率の減少をまとめたもので、2017年4~6月は市場に対し45%だったものが、2018年4~6月は37%にまで落ち込んでいたのだ。さらにいえば、ピークとされる2011年には56%に達していた年間市場比率は今年、30%台まで減少する見込み。もはや、どこで下げ止まるのかは見通せない状態だ。

そこで、各メーカーはヨーロッパ圏外でのディーゼル車比率を増やす算段を取り始めた。つまり、日本にも好条件でディーゼル車が導入されるようになったのだ。低価格が実現したのは、そんな事情もあってのことだと推測される。

「ジュリア」にディーゼルは…合う!

では、この2.2リッター直列4気筒直噴式ターボディーゼルを実際に走らせた印象を少しお伝えしよう。

まず、ディーゼル特有の振動と音だが、振動はほとんど気にならない。軽量化されたクランクケースの剛性は高く、バランスシャフトも最適化されている。それに、エンジンマウントやブラケットも進化しているようだ。よって、かつてのようなトラック然とした振動はなく、実にスマートに吹け上がる。ただ、ディーゼル特有のエンジン音は若干残り、窓を開けるとボンネット越しに耳に入ってくる。もちろん、それでも最近はやりのガソリン3気筒ユニットレベルなので、そこまで気になるものでもない。

ジュリアのディーゼルエンジンは最高出力190ps(3,500rpm)、最大トルク450Nm(1,750rpm)を発生する

走り出しは高トルクが効いていてグイッとクルマを前へ押し出す感じ。トルクが前面にくるので、イメージ以上に大きなエンジンを動かしている気になる。「小さいエンジンを上まで回して……」という昔のアルファの4気筒エンジンとは別路線だが、それでもアクセルに対するレスポンスが良いので、そこは“スポーツディーゼル”と呼ぶにふさわしい仕上がりだ。それに、ハンドリングも軽快である。

そうした高トルク特性は高速道路でキラリと光る。1,500回転付近での高速巡航は快適そのもので、1クラス上の高級車を走らせている感覚。余裕のパワーだ。よって、ドライブモードはエコモード的な「a」で十分。アクセルを深く踏み込まずに、快適&省エネのロングドライブを堪能できる。

高いトルクを発生するディーゼルエンジンの特性は、高速道路を走ると大いに堪能できる

ちなみに、「d」「n」「a」のドライブモードは味付けがハッキリ区別されている。なので、追い越し用の中間加速が必要な時は「d」にすればOK。ギアが落ち、6,000回転マックスの回転計をしっかり使って加速してくれる。

そんなジュリアのグレード別に見た販売(登録)構成比率だが、2018年でみると、「スーパー」が第1位で40%を占めていた。続いて「ヴェローチェ」のFR、「ヴェローチェ」のQ4という順位だ。といっても、ヴェローチェQ4に迫る数の「クアドリフォリオ」の存在も見逃せない。なぜなら、ディーゼルがデビューした2019年3月単月では、ディーゼル比が15%となり、各モデルが横並びに近くなったことで、クアドリフォリオがトップの座に躍り出たからだ。まぁ、この辺はスペシャルなモデルゆえ、デリバリーのタイミングもあるので、一概に1番人気とは言えないのだが……。

それはともかく、ディーゼル車の登場で、ジュリアファンがざわついているのは確かだ。オールドスクールなアルファロメオのイメージから、このクルマの登場に拒否反応を持つ方もいるだろうし、スポーツディーゼルの走りに納得する方もいるだろう。個人的には、後者であることは間違いない。しばらく走らせていると、ディーゼルであることを忘れるほど自然なエンジンフィールに酔いしれる。メーカーも、そこにたどり着いたからこそ発売したのだと思う。クルマづくりではデザイン、サウンド、フィーリングを大事にするイタリアメーカーだけあって、ディーゼルでもしっかりとそこにこだわっている。

トヨタがトレンドに逆行してまで「スープラ」を復活させた理由

トヨタがトレンドに逆行してまで「スープラ」を復活させた理由

2019.05.23

大変革の自動車業界でトヨタが復活させた「スープラ」

新型「スープラ」に結実した“師弟関係”

スポーツモデルの共同開発には歴史があった

トヨタ自動車はスポーツカーの新型「スープラ」を発売した。先代モデルの生産終了から、実に17年ぶりの復活だ。自動運転や電動化、若者のクルマ離れ、SUVブームなどが自動車の目下のトレンドである中、なぜトヨタは2シータースポーツモデルを再び作ったのか。新車発表会の会場に掲げられた「Supra is Back」の文字をキーワードに考えてみた。

トヨタ自動車は5月17日、東京・お台場にある同社の体験型テーマパーク「MEGA WEB」にて、FR(フロントエンジン・リアドライブ)の新型スポーツカー「GR スープラ」を発表。会場の大画面には「Supra is Back」の文字が映し出されていた(撮影:原アキラ)

今は亡きマスターテストドライバーへのオマージュ

多数の報道陣と旧型スープラオーナー、そして一般客を集めた発表会場では、大画面に映し出された真っ赤な「Supra is Back」の文字が目を引いた。この文字を書いたのは、トヨタ自動車のマスタードライバーであり現社長でもある“モリゾウ”こと豊田章男氏。新型車のテスト走行やレース会場に出向き、自らステアリングを握る同氏の姿は、業界人ならずとも知るところだ。

テスト走行やレースで自らもステアリングを握る豊田章男社長の姿はおなじみだ

ドライバーとしての豊田社長の師匠にあたるのが、300名に及ぶトヨタのテストドライバーのトップに位置していた成瀬弘マスターテストドライバーである。1960年代後半のトヨタ製スポーツカー「2000GT」やレーシングカー「トヨタ7」が、日本グランプリなどのレースで活躍していた当時、主要メカニックとして活躍していた成瀬氏。その後はテストドライバーとしての腕を磨き、独ニュルブルクリンクなど、海外で行われた数々の高速走行テストを担当した。成瀬氏の豊富な経験は皆が認めるところとなり、「ニュル・マイスター」の称号が与えられた。

初代「セリカ」をはじめ、「レビン・トレノ」(カローラのスポーツモデル)、「アルテッツァ」(4ドアセダンのスポーツモデル)、「スープラ」(先代)、スーパーカーのレクサス「LFA」など、トヨタ製歴代スポーツモデルの開発に成瀬氏が関わっていたのはいうまでもない。その彼は2010年、LFAの試作モデルをニュル近郊でテスト走行中、対向車と衝突して即死した。

成瀬氏が以前、売り上げ重視でテスト走行を軽視するトヨタのクルマづくりに対し、「ドイツのメーカーを見てみろ。開発中の新型車でニュルを走っている。それに比べて、トヨタがここで勝負できるクルマは、中古のスープラしかない」と語っていたのは有名な話だ。その言葉が忘れられなかった豊田社長は、いつか必ずスープラを復活させようと決意した。そして昨年10月、ニュルで新型スープラの最終テストに臨んだ“モリゾウ”は、心の中で「成瀬さん、ついに新型スープラでニュルに来ました……」とつぶやいたのだという。

豊田社長のトップダウンで復活が決まった新型「スープラ」

「直6」と「FR」はスープラの伝統

先月、50周年記念モデルの登場がニュースとなった日産自動車のスポーツカー「フェアレディZ」。その初代モデルは、排気量2.8リッターの直列6気筒(直6)エンジンを搭載した2シーターFRで、ポルシェ「911」に対抗できる性能の高さと安価さもあって、北米のスポーツカー好きの間で一気にブレークした。その後、「Zカー」のニックネームで呼ばれる大人気モデルになったのはご存知の通りだ。

それを黙って眺めているわけにはいかなかった彼の地のトヨタディーラーから強い希望を受け、フェアレディZの対抗馬としてトヨタが送り出したのが、当時のスペシャリティカーであったセリカに2.8リッター直6エンジンを搭載した1978年の「セリカ スープラ」(A40型/A50型、日本では「セリカ XX」の名称)だったのである。角目4灯ヘッドライトにトヨタの頭文字である「T」字型グリルを配したハッチバックスタイルは印象的だった。

スープラの初代となった「セリカ XX」(画像提供:トヨタ自動車)

1981年の2代目スープラは、当時流行のリトラクタブルヘッドライトを搭載した直線的なボディラインを持つ「A60型」。1986年に登場した3代目「A70型」は、“3000GT”の愛称の通り、排気量が3.0リッターに拡大していた。1993年にデビューした4代目「A80型」(先代モデル)は、最高出力280ps、最大トルク44.0kg(最終モデルは46.0kg)という強力な3.0リッター直6ツインターボエンジンを搭載。成瀬氏が語っていた中古のスープラとはこのモデルのことだ。

今回の発表会に登壇したトヨタ副社長でGAZOO Racing Companyプレジデントの友山茂樹氏は、現在もA80型のスープラを所有している。ホワイトボディのボンネットにエアインテークを設けたフルチューンの実車は、ご覧の通り会場内に展示されていた

そして、直6エンジン+FRレイアウトという歴代モデルの伝統を引き継ぐ新型2シーター「GR スープラ」(国土交通省への届け出名は「トヨタ・スープラ」)が、先代モデルの生産終了から17年の時を経て誕生した。かつてライバルだったフェアレディZの現行モデルは登場から11年が経ち、内外装のデザインや安全面で多少の古さを感じる。それに対し、最新装備で固めた5代目スープラは、多くの面でフェアレディZに対するリードを広げることになったのだ。

スポーツモデルの共同開発には前例あり

エンジンやシャシーなど、新型スープラのプラットフォームがBMWとの共同開発であることは、すでに報道されている通りだ。スープラの最上級グレード「RZ」が搭載する「B58型」3.0リッター直6エンジンの性能は、最高出力340ps(250kW)/5,000~6,500rpm、最大トルク500Nm/1,600~4,500rpm。BMW「Z4」の「M40i」が搭載する直6エンジンと型式もスペックも全く同じだ。

ボンネットを開けると、エンジンカバーの意匠やメーカーロゴこそ異なるものの、補機類のレイアウトやデザインが完全に一致しているのが分かる。インテリアも、センターコンソールのコマンドダイヤル部分のレイアウトがそっくりだ。

左が「Z4」、右が新型「スープラ」

スポーツモデル開発におけるトヨタと他社との協業は、古くはあの名車「2000GT」から始まっていた。150PSを発生した3M型2.0リッター直6エンジンのDOHCヘッド部分や、ダッシュボードの美しいウッドパネルはヤマハ発動機が担当していたのだ。直近では、2.0リッター水平対抗エンジンを搭載したトヨタ「86」とスバル「BRZ」という兄弟モデルの例がある。

今回の兄弟モデルでは、スープラがクローズドのクーペボディであるのに対し、Z4はオープンボディであることから、両者の用途や走行特性は異なるものになるだろう。シャシーのチューニングについても、それぞれのメーカーが持つノウハウが注ぎ込まれているはずだ。

BMW「Z4」がオープンボディであるのに対し、新型「スープラ」(画像)はクーペボディだ

先日乗ったZ4は、直6エンジンのフィーリングとサウンド、そして、BMWらしい俊敏なステアリングさばきが「さすが」と唸らせる出来だった。また、インテリアのフィニッシュレベルが高く、そのあたりは今回のスープラ6気筒モデルに比べて一日の長があるように感じた。

こちらがBMW「Z4」。インテリアの仕上げはBMWに一日の長があるように感じた

ただし、6気筒モデルの価格を見ると、Z4の835万円に対してスープラは690万円なので、145万円の差があることを考えると、“お買い得感”ではスープラに軍配が上がる。モリゾウが乗り味を決定した新型スープラの走りを一刻も早く試したいものだ。