「教育ICT」の記事

デジタルホワイトボードにグーグルが参入、独自の強みとは?

デジタルホワイトボードにグーグルが参入、独自の強みとは?

2018.09.04

ライバルひしめくホワイトボード市場に巨人が挑む

グーグルが指摘するホワイトボードの問題とは何か

独自機能やAI技術の投入でライバルに対し差を生む

8月にグーグルがデジタルホワイトボード「Jamboard」の国内発売を発表した。タッチに対応した大型のディスプレイで、オフィスの会議室などに置くことを想定した製品だ。

グーグルの「Jamboard」と、Google Cloud 日本代表の阿部伸一氏

このデジタルホワイトボードは、教育市場では電子黒板とも呼ばれており、マイクロソフトなど多数の競合製品がひしめいている。日本では後発となるグーグルだが、その強みはどこにあるのだろうか。

ホワイトボードの課題を解決し、遠隔地とコラボ

働き方改革によるワークスタイルの多様化に伴い、課題として持ち上がってきたのが複数の拠点をまたぐコミュニケーションだ。地方の支社やサテライトオフィス、在宅勤務など、さまざまな拠点から会議に参加する場面が増えている。

だが、多拠点の会議でも「ホワイトボードを使い始めると、問題が起きる」とGoogle Cloud 日本代表の阿部伸一氏は指摘する。ホワイトボードを写真として共有するなどの手段はあるものの、微妙なタイムラグから距離感が生まれ、対等な議論が進まなくなるというわけだ。

そこでグーグルが開発したデジタルホワイトボードが「Jamboard」だ。2017年5月に米国で発売後、Dow JonesやNetflix、Whirlpool、Spotifyなどが続々と導入。世界展開において、日本は14カ国目の発売になるという。

本体は55インチのタッチ対応ディスプレイとなっており、素手による手書きや付属のペン、消しゴムを用いた操作にも対応する。壁掛け用マウントやオプションのスタンドで設置し、実際の導入作業も有償のサービスとして提供するという。

素手や付属のペン型デバイスで自由に書き込める

特徴は、グーグルが企業や教育機関に向けて提供するクラウドサービス「G Suite」との連携だ。Googleドキュメントやスプレッドシートの文書を呼び出せるのはもちろん、検索やGoogleマップといったサービスとも連携するという。

多拠点での利用時には、複数のJamboardを連携したコラボにも対応。スマホやタブレットのアプリを用いることで、Jamboardがない拠点や在宅勤務でもリアルタイムに内容を共有できる仕組みだ。

スマホやタブレットからも会議に参加できる

グーグルのクラウド連携や価格に強み

調査会社のリサーチステーションによれば、2018年時点でのデジタルホワイトボードや電子黒板の市場規模は世界で43億1000万ドル。2023年には51億3000万ドルにまで伸びる見通しだという。

日本市場では、グーグルの直接のライバルとしてはマイクロソフトが「Surface Hub」を投入しているほか、総合電機メーカー、黒板メーカーなどがさまざまな製品を展開している。

その中でグーグルは、Jamboardの強みとしてG Suiteとの連携や人工知能(AI)技術、価格を挙げている。

たとえば書き込みの内容はGoogleドライブに自動的に保存される。企業の会議室ではホワイトボードの消し忘れがセキュリティ上の問題になりがちだが、Jamboardならクラウドに保存し、会議を再開したいときには簡単に復元できるというわけだ。

書き込んだ内容はGoogleドライブに自動保存される

また、グーグルが一般向けに提供するインターネットサービスとも連携できる。グーグル検索でヒットした画像の取り組みや、誰もが見慣れたGoogleマップの地図を貼り付けられるのは、グーグルならではの強みといえる。

グーグルのAI技術も活用されている。日本語に対応した文字認識機能では、ペンで手書きした文字を認識し、キーボードから入力したものと同じテキストとして扱える。手書き文字がテキストになれば検索にヒットするので、後から参照しやすい。

本体価格は64万円(税別)で、マイクロソフトの55型モデルが100万円を超えていることを考えれば大幅に安い。米国の4999ドルよりは高いものの、これは日本の商流を考慮したものだという。

国内では法人市場に強いNTTドコモやソフトバンクなど7社が販売パートナーとなっており、関連したサービスやソリューションとのセット導入で値引きを期待できそうだ。

ICTの活用指導力が最下位、奈良県が大学・企業と「教育」に取り組むワケ

ICTの活用指導力が最下位、奈良県が大学・企業と「教育」に取り組むワケ

2018.04.11

文部科学省は、学校におけるICT環境の整備状況や、教員のICT活用指導力に関して調査する「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」を毎年公表している。奈良県は、教育のICT活用指導力において、毎年低迷していた。

能力別5項目のうち、奈良県は「都道府県別 教員のICT活用指導力の状況」や「児童・生徒のICT活用を指導する能力」「情報モラルなどを指導する能力」「校務にICTを活用する能力」の4項目で47都道府県最下位を記録。奈良県教育委員会 奈良県立教育研究所 副所長の石井 宏典氏は、「ここ5年ほど、(調査で)指導力は46位、47位を行ったり来たりという低い状況だった」と現状を素直に認める。

奈良県教育委員会 奈良県立教育研究所 副所長 石井 宏典氏

遅れを取り戻すために奈良県教育委員会が取り組んだのは、「ICT活用教育 奈良モデル」の構築だった。

周回遅れ、でも逆手に取って「フロントランナー」へ

奈良モデルでは、児童・生徒・教員・地域・家庭という教育に関連するすべての立場において、ICT活用能力の向上を目指す。昨今は生徒のICTに対する慣れ・親しみと、教員のICTに対する理解のギャップがあるとして大きな問題となっている。特に奈良県は教育のICT活用指導力が下位に低迷するように、その最たる例といっても良い。

一方で石井氏は、そうした状況だったからこそ、「立ち遅れていた立場を逆手に取り、ここからの取り組みは最先端に舵を切ることができる。『遅れているから』と気後れするのではなく、フロントランナーとしてやっていけるのではないか」と話す。例えば、これまでの教育におけるICT活用は"箱モノ"ばかりに目が行く。

実際、冒頭の調査では、ICT環境の整備状況を「教育用コンピューター台数」や「無線LAN整備率」「超高速インターネット接続率」といった切り口で捉えている。当然ながら、これらは前提条件として必要な指標だ。だが、グローバルでICTを当たり前としたビジネス環境が拡大する中で、大切なのは「子供たちがICTをどう活用できるか」だ。ひいては、奈良県の課題である「大人が子供にICTを前提に勉強させられるか」でもある。

同研究所 研究開発部 ICT教育係長 小崎 誠二氏

同研究所の研究開発部 ICT教育係長の小崎 誠二氏は、「奈良モデルでは、生徒と教員、双方がICTをフルに活用できるよう、日本マイクロソフトやアドビシステムズ、モリサワ、内田洋行などと包括契約を結び、全員が最新のソフトウェアを利用できるようにした」と話す。

近年、ソフトウェアは買い切り型から常に最新のソフトウェアを利用できるサブスクリプションモデルへと移行しつつある。継続した課金を負担に感じる印象もあるが、一方でイニシャルコストを気にせずに、世のトレンドに遅れることなく最新のソフトウェアをキャッチアップできるメリットは小さくない。

奈良モデルでは、企業と包括契約を結ぶことで、「個別に1個ずつ契約するよりも総コストは抑えられるようにした。何より、奈良県として自由に(ソフトウェアを)使えるようにしたことは大きい。これまでのように学校単位などでは、使いたい先生・学校ばかり先行して、格差があった。県全体で使えるようにしたことで、誰もが分け隔てなく利用できれば、利用することに躊躇する可能性が減るし、包括契約だから使わないことがあってもコストは抑えられる」(小崎氏)という。

高大連携のなぜ

企業との包括契約には続きがある。

こうした新しい時代の教育は、子供たちに勉強を教えたいという思いを持っている先生たちにとっては高い壁だ。2020年から必修化される小学校における「プログラミング的思考」は、勘違いされがちだがプログラミング教育ではない。あくまで物事を論理的に、プログラム開発における思考過程を追うような教育のことだ。

一方で、ICTを活用した指導力とは、まさにPCやタブレットのソフトウェアを用いて算数、理科、はたまた美術など、さまざまな教科を教えることだ。先生たちは、その多くが大学を出て、そのまま教職員になる。学校という世界しか知らない。もちろん、それ自体を否定するわけではない。

ただ、石井氏は「先生たちが先生になるのは、『あの先生の、あの教えが素晴らしかったから自分も教えたい』という原体験が大きいはず。それ以外の世界を知らない。だからこそ、新しいことを学び、共有できる環境が必要だ」と話す。教え方に加えて、新しい今の時代に即した教育を。そこで奈良県は高大連携で一つの取り組みを始めた。

慶應義塾大学SFC研究所 ファブ地球社会コンソーシアムの高大連携WGで、情報教育の実践型「授業レシピ」と地域連携型ネットワーク構築に向けた取り組みだ。ファブ地球社会コンソーシアムとしては、デジタルを活用したモノづくり(ファブリケーション)の世界が広がる中で、それを高大連携によって前提となる知識を広く広げたいという想いがある。

"レシピ"とは、いわゆるアクティブラーニング型の授業を実行するだけでなく、授業を俯瞰した先生たちによる評価、体験した生徒たちの成果物をレシピに残すことを目指す。子供たちがどういう過程でモノを作り上げたのか、先生の俯瞰した評価なども交えて参照できれば、後続する、ほかの学校の先生にも参照できる。

慶應義塾大学 環境情報学部 准教授の中澤 仁氏は、「高校は30年前からWordとExcelしか教えていない。高大連携はかねてから求められているものだが、その内実は、高校はきちんとした情報リテラシーの生徒を育てたいし、大学はそうした生徒をさらに伸ばすということをやるべきなのに、そうした良い循環が起きていないのが実態だ」と話す。

慶應義塾大学 環境情報学部 准教授 中澤 仁氏

テクノロジーがかつての一部の企業しか持てなかった時代とは異なり、すべてがサービス化され、価格面、技術面の双方で人々の手に渡りやすくなった今、「3Dプリンターやレーザーカッター、プログラマブルミシンなど、その手で簡単にモノを作れるということを、鉛筆で文字を書くのと同じようにスキルとして教えられる、ということをもっと広げられたら」(中澤氏)。

ものづくりを生徒が"お手軽"体験

そこで3月の行ったのが、企業も交えた「つくりかたの未来講座」だ。3Dプリンターなどの環境を提供するファブラボ鎌倉や、カメラセンサーを提供するオリンパス、電子楽器のヤマハ、そして「奈良モデル」に参画しているアドビシステムズなどが、授業に必要なツール・サービスを提供した。

未来講座では、慶大が作成した情報教育のレシピに沿って「課題設定能力」と「課題解決能力」「情報伝達能力」を育てるような授業を行う。この日の例では、「掃除」をテーマに、ソニーのIoTセンサー「MESH」やオリンパスのカメラセンサーを用いて、「どうやったら掃除が楽しく出来るようになるのか」を生徒たちに考えさせた。

ソニーのIoTセンサー「MESH」は、さまざまなセンサーを連携してさまざまな機能を実現できる

「つくりかた」と謳うからには、実際にモノも作らせた。奈良県内の高校から集められた40人弱が、初めて会う人と共に、さまざまなアイデアを出し合い、どう課題を捉え、解決へと導き、どう素晴らしいモノに仕上がったのかを伝えるということを一連で体感した。あるチームは一人がすべてを発表し、別のチームは実演を交えて説明し、概念だけを説明したチームもあった。

レーザーカッターで実際に小物を作ったチームもあった

この講座を通して中澤氏らが伝えたいことは、作ったモノの完成度の高さではなく、勉強したという事実でもない。

「(生徒に対して)今日は、遊びに来たと思ってほしい。何の遊びかと言えば、レーザーカッターでプレートが作れること。三次元プリンターでオブジェクトが作れること。それがもし家にあったら、いろんな遊びが可能になること。未来講座という名前がついているが、今すぐできることを体験してもらう講座だ。家に帰ったら3Dプリンターを買ってと、親にねだって欲しい(笑)」(中澤氏)

企業からこの講座に参加した社員は、誰もが「即座に仕事に繋がるわけではない」と口を揃える。レーザーカッターメーカーの担当者が「学校さんに納入していますが、一般的な高校に広く、というわけではない」と話せば、オリンパスの担当者も「私は技術開発部門で、特にこれをセールスするわけではない」と話す。一方で、「重要なのは、新しい価値に触れてもらって、自分たちで気づかなかった使い方とか、可能性を見出したい」(オリンパス担当者)という想いもあるようだ。

アドビシステムズ デジタルメディア ビジネス本部 教育市場営業部 担当部長の楠藤 倫太郎氏は、奈良県との包括契約を結んだ理由に立ち返って「ファブリケーションのような新しい時代の価値観を広げるのは、1校ずつ全国でこうした未来講座をやって回るのは難しい。教育委員会とお話して、この仕組みの話になったとき、機会が増えると感じた」と振り返る。

生徒同士が語り合ってアイデアを出したものがレシピになるだけでなく、傍らで観察する先生たちもまた、意見を出し合うことで「よりよい授業」を導き出し、それを共有していく

アドビシステムズは外資だが、日本法人として出来ることをやってきた。「日本の子供は創造性が足りないと言われるが、それは(創造性に繋がるような)体験が足りないだけ。私たちが子供の教育のためにやってきたことは半分CSRでもあるが、何より体験できる機会を増やせば、自発的に考える生徒が出てくると信じている」(楠藤氏)。

中澤氏も、企業が教育に直接携わるメリットについて「生徒と社会の距離を縮める」「企業ネットワーク」の2点を上げる。社会は人と人、そして会社と会社の関係性で成り立っている。会社が商取引を通じて経済が回り、人々が生きているという実感を生徒がどこまで意識できるのか。

「高校生からすれば、『デジタルのモノづくり』と言われても遠く感じてしまう。でも、実際に目にしたことがある企業が自分たちに直接説明してくれたら、実感として一番残る。それは、高校生のみならず、先生でも同じことだ。大学としても、企業が入ってくれれば、企業が繋がっている教育の現場で新しい学びの在り方を模索できる」(中澤氏)