「放送業界」の記事

ラジオの価値を見直すべき時? TBSラジオが音声メディアの研究所を設立

ラジオの価値を見直すべき時? TBSラジオが音声メディアの研究所を設立

2019.04.04

TBSラジオが「Screenless Media Lab.」を設立

聞き手を動機づけられる? 音声メディアの強みとは

広告媒体としてのラジオには大きな可能性がある

TBSラジオは音声メディアの可能性を探求する研究所「Screenless Media Lab.」を設立した。そもそも情報量が多すぎる上、その中身が視覚情報に偏重している現代社会において、ラジオなどの音声メディアが持つ役割と可能性を科学的に見つめなおそうという動きだが、この研究所はラジオに何をもたらすのだろうか。

TBSラジオは「Screenless Media Lab.」の設立を発表した。画像は同社の三村孝成社長

研究所の所長には、社会政治学者で『AIアシスタントのコアコンセプト』という書籍の著者でもある堀内進之介氏が就任した。そもそも、TBSラジオの三村社長が同書に感銘を受け、堀内氏を訪ねたことが研究所の設立につながったそうだ。

研究内容は多岐にわたる様子だが、例えば、どのような言い方、語順、ワード選び、速さ、ニュアンスで聴覚情報を伝えれば、聞き手により深く理解してもらえるか、といったようなことがテーマになるようだ。研究結果はTBSラジオ内だけでなく、外部に向けても発信していく方針。書籍化やセミナーの開催などを検討しているという。

聴覚情報は受け手に意欲を起こさせる?

TBSラジオの三村社長は、聴覚情報は視覚情報に比べ、受け手を動機づける効果が高いところに着目している。研究の結果、こういった特性をうまく活用することができれば、TBSラジオは広告媒体としての価値向上を狙えるかもしれない。

広告を流す場合、視覚情報と聴覚情報では、内容の伝わり方が異なる。視覚情報の強みの1つは「一覧性」だ。例えば、軽自動車が欲しいと思っている受け手に対し、「●●社には××や■■といった軽自動車があります。それぞれの値段はご覧の通りです」といった内容を一覧にして見せる広告を流せば、おそらく、広告としての効果は高い。ただし、こういった広告は、軽自動車の購入に対して意欲を持っていない人には刺さらない。

堀内所長によれば、視覚偏重で情報量も多い現代社会において、情報の受け手である人間は「情報疲れ」の状態に陥っており、多すぎる情報に参ってしまった結果、無関心化、無欲化が進んでいるという研究結果がある。情報の受け手は情報を「知る」ところまでは到達するが、それを「分かる」とか、「理解する」とかいうところまでは時間を割けないので、その情報をもとに何かを「意欲する」こともない。そんな分析があるそうだ。

先進国では消費者の無関心化が進んでいるそう

一方、一覧性がなく、聞き終わるまでに時間のかかる聴覚情報には、聞き手が「受け取った情報について自分で考えて整理する必要があるし、分かろうとする気持ちが無意識に引き起こされる」(堀内所長)という特徴がある。つまり聞き手が、情報に対して自ら関わろう、分かろうとすることが、聴覚情報の強みだ。

「音声は購買意欲が芽生える前の『意欲前領域』、そこにアプローチできる」。三村社長は視覚情報に対する聴覚情報の強みについて、このように語る。それが本当であれば、先ほどの自動車メーカーは、すでに軽自動車の購入を考えている消費者ではなく、これから軽自動車の購入を考えるかもしれない潜在的な顧客に語りかけることができる。人数を比べれば、軽自動車の購入を考えている顕在化した消費者よりも、後者の潜在的顧客の方が多いことは明らかだ。もちろん、聞き手が聴覚情報を「聞き流す」ことも多いだろうが、そうさせない聴覚情報とはどのようなものなのかは、研究テーマの1つになるはずだ。

聴覚情報と視覚情報には、それぞれに得意な領域がある。例えば電話で、「●●の方は『1』を、××の方は『2』を押して下さい」という長い音声案内を聞くのは、フラストレーションが溜まるものだ。この手の案内を一覧にして瞬時に見せられる点では、視覚情報に強みがある。TBSラジオが設立した研究所では、聴覚情報をもって視覚情報を置き換えていくのではなく、「視覚情報と聴覚情報のバランスを考えていく」(堀内所長)という。

「Screenless Media Lab.」の堀内所長

広告媒体としてのラジオの可能性を考えた時、思い出すのは数年前によく耳にしたKINCHOのコマーシャルだ。殺虫剤の宣伝だったのだが、登場人物である「大沢くん」と「高山さん」の関係性と今後の展開が気になり、新作の放送を楽しみに待っていたリスナーは少なくなかったはず。聞き手の心を動かした聴覚情報の好例といえそうだ。

あるいは、「ラジオショッピング」というシステムが実際に成り立っている現状にも着目すべきかもしれない。テレビショッピングやネットショッピングなどに比べると、商品の画像が見られないことは大きなウィークポイントだと思われるのだが、「返品率がとても少ない」(三村社長)というラジオでの買い物。確かに、好きで聴いている番組のパーソナリティーがおいしそうに食べる「(切れ子)明太子」や「(はねだし)梅干し」に、購買意欲を刺激された経験は筆者にもある。音声メディアに人を動かす力があるからこそ、この時代でもラジオショッピングが成立しているのだろう。

情報過多の時代に、受け手を動かす情報の伝え方とはどのようなものか。「高度化した情報化時代で、無欲化、無関心化が進んでいる中、広告主にとって音声情報は、ますます必要になってくると思う。『意欲前』(購買意欲が湧く前の状態)に対して、どのようにアプローチするかが大事。ラジオに限らず、音声情報をどう使うかは、広告主にとって今後、最大のテーマになるかもしれない」というのが三村社長の考えだ。

NHK受信料「ワンセグ携帯」に支払い義務、最高裁確定で注意すべきこと

NHK受信料「ワンセグ携帯」に支払い義務、最高裁確定で注意すべきこと

2019.03.13

ワンセグもNHK契約義務、初めて最高裁で認められる

テレビと無縁でも契約該当する可能性、心配ならiPhoneを

テレビ離れ進めば、徴収手段もどんどん広がる?

ワンセグ携帯を持っているだけで、NHKと受信契約を結ぶ義務が発生することが確定した。

ワンセグ携帯でのNHK受信契約義務をめぐる訴訟は複数起こされていたが、最高裁は3月13日、そのうちの1件について、契約義務があるとしていたNHKの勝訴を初めて確定した。スマートフォンや携帯電話といった、本来はテレビ視聴を目的としない機器であっても、ワンセグ機能を搭載していればNHKと受信料契約を結ぶ義務が生じると認められた。

NHKは、受信契約義務のある受信機の設置数のうち、「ワンセグ機能付き携帯電話のみを設置されている方の割合は約0.3%と推計しています」と、影響範囲の狭さを説明している。ただしワンセグ機能は、特に国内主要キャリアが近年取り扱った国内メーカー製のスマホ・携帯電話では、ほとんどの機種で標準搭載されてきた。実際には0.3%以上の人に影響が及ぶ恐れもある。

今回の件を受けてワンセグ所持により契約義務が発生した場合、NHKの定める「地上契約」に該当すると考えられ、月額で1,260円から、年額前払い割引でも13,990円の支払いが必要だ。

またNHKは受信料契約について、生計をともにする同一世帯では、受信機器の数にかかわらず1件の世帯ごと契約でかまわないとしているが、単身赴任や、大学生(未成年含む)の子供のひとり暮らし、2世帯家族で生活費が別々などの場合は、家族であっても別途の受信料契約が必要(家族割引あり)になる場合があるとしている。家族の所持するスマホについても、ワンセグ機能の有無を確認しておく必要があるだろう。

NHKの視聴はしないが、スマートフォンは無いと困るという場合は、海外メーカーのスマートフォンであればワンセグ機能を搭載しないモデルを選べることがあり、特にアップル社のiPhoneであれば全機種でワンセグ機能を搭載していない。スマートフォンの細かな機能などを把握できないのであれば、iPhoneを選んでおけば間違いないだろう。

NHKは従来から、「NHKのテレビの視聴が可能なパソコン、あるいはテレビ付携帯電話についても、放送法第64条によって規定されている『協会の放送を受信することのできる受信設備』であり、受信契約の対象」と説明してきた。

またNHKは、2019年4月の開始を目指し、テレビ放送のインターネット常時同時配信の準備を進めている。放送法の不備を指摘したい人々の間では「インターネットに接続するだけで契約義務が生じるようになる」と喧伝する声も根強いが、インターネットというネットワークの相互接続で成り立っているインフラを利用する側にいながら、その上でいちコンテンツ提供者以上の何らかの権利を主張できるはずがない。

脱・聴取率競争のTBSラジオ、次の一手はラジコリスナーの“見える化”

脱・聴取率競争のTBSラジオ、次の一手はラジコリスナーの“見える化”

2019.01.29

ラジコリスナーのデータを1分単位で可視化するツールを導入

リスナーをリアルタイムで把握できると何が変わるのか

TBSラジオが目指すのは“データドリブン”なラジオ局

他局との聴取率競争ではなく、“ノンリスナーのリスナー化”に注力したいとの姿勢を鮮明にし、次々に新たな施策を打ち出すTBSラジオ。先日、同局が「スペシャルウィークをやめる」と発表したことは記憶に新しいが、次の一手はラジコリスナーの“見える化”だ。TBSラジオはどんな手法でリスナーを可視化し、そのデータをどのように番組づくりに反映させるのか。三村社長にも話を聞いたので、合わせてお伝えしたい。

脱・聴取率競争に舵を切ったTBSラジオは、ラジコリスナーの可視化ツール「リスナーファインダー」(画像右上がモニター)を導入する

ラジコ聴取者を1分単位で把握、データは番組づくりに活用

TBSラジオは今回、「radiko」(ラジコ、スマートフォンのアプリやパソコン=インターネット経由でラジオが聴取できるサービスのこと)の聴取者をリアルタイムで把握し、その情報を番組制作に活用できるデータダッシュボード「リスナーファインダー」を採用し、試験運用を開始した。このツールは電通が開発したもので、TBSラジオが業界で初めて採用する。精度向上のための試験運用は2019年3月末までで、本格運用は4月以降となる見通しだ。

リスナーファインダーを導入することで、TBSラジオでは、ラジコ経由で同局の番組を聴いているリスナーの人数、年代、性別を1分単位で把握できるようになる。ラジコには、ラジオ番組の面白かった場面をSNSでシェアする機能「シェアラジオ」が実装されているが、リスナーファインダーでは将来的に、SNSでシェアされた回数なども確認できるようになるという。TBSラジオでは同ツールを使いながら、どんなデータ・機能が役に立つかを詰めていく「アジャイル開発」の手法を用いて、リスナーファインダーの使い勝手と効果を高めていく方針だ。

スタジオのサブで「リスナーファインダー」を活用している様子。右上のモニターで、制作スタッフはラジコリスナーの人数や年代、性別などをリアルタイムで把握することができる。なお、このモニターには象徴的な意味もあって、同じデータは制作スタッフが各自のPCなどでも確認可能とのことだ

リアルタイムで把握できる情報は上記のとおりだが、このツールは番組放送後の事後分析にも活用可能だ。番組放送の次の日には、より細かいデータを参照・分析できる。例えば聴取者の流出入、ユニークユーザー数、平均聴取分数、聴取者の地域別分布などを確認したり、リスナーが未婚か既婚か、子供はいるか、職業、世帯年収といったデータを参照したりといった使い方ができる。これは、リスナーファインダーが電通の「People Driven DMP」をベースとするツールだから可能となる機能だそうだ。

同ツールの機能で興味深いのは、ラジコリスナーがどんな嗜好を持った人なのかを把握するため、TBSラジオが「アンケートの回答結果」を参照できるという点だ。例えば、ある番組を聴いているリスナーが、「どんなクルマを買いたい」と思っているかといったような情報が、この機能で把握できる。このアンケートは番組に連動したものではなく、リスナーファインダーで集められる(People Driven DMPの)情報に紐付いたデータらしいのだが、こういった情報を番組づくりに役立てる手立てはいくらでもありそうだ。

編成・営業セクションでもリスナーファインダーのデータは確認可能だ

目指すはノンリスナーのリスナー化

TBSラジオはビデオリサーチが調査している「聴取率」で業界トップのラジオ局だが、他局に数字で勝っていても、リスナーの数は「徐々に、一貫して減り続けている」(TBSラジオの三村孝成社長)。重要なのは他局との聴取率争いではなく、ノンリスナー(ラジオを聴いていない人)をリスナー化し、ラジオを聞く人自体を増やすことなのだ。「ラジオ局の敵はラジオ局ではなく、世の中のありとあらゆる新しいメディア」だと三村社長は話す。

ラジオの聴取率とその調査方法についてはこちらの記事で詳説したが、簡単にいうと、ビデオリサーチの調査は1年間のうちの6週間を調査期間に設定し、アンケートで聴取率を調べるというものだ。これを目安にして番組づくりをするよりも、ラジコリスナーの数を毎日、継続して確認し、どんな企画がリスナーに受けたのかをスピーディーに検証して、番組づくりにいかしていく方が、結果的にはリスナーのニーズにも応えられるのではないか。これがTBSラジオの仮説であり、リスナーファインダーを導入して取り組む課題なのである。

リスナーファインダーはラジコリスナーを対象とするツールであり、いわゆるラジオ受信機で聴いている人のデータを取ることはできない。しかし、ラジコの数字が上下すれば、聴取率全体も連動して上下するという実感を三村社長は得ているという。ラジコリスナーを意識して作った番組は、結果として、ラジオ聴取者全体を意識した番組にもなるということなのだろう。

「リスナーファインダー」導入でTBSラジオは変わるのか

では実際に、リスナーファインダーの導入後、TBSラジオの番組はどう変わるのか。例えば、あるゲストが登場してラジコリスナーが急増した場合、そのゲストの出演時間を延長するといったような手法はありうるのかというと、「それはない」というのが三村社長の回答だった。

少し心配なのは、“聴取率狙い”で番組のカラーが変わってしまうケースがあるのではないかという点だ。社会問題やニュースなどを取り扱うワイド番組、例えばTBSラジオであれば「荻上チキ Session-22」のような番組では、何らかのテーマに対し、パーソナリティーや出演者が態度を鮮明にし、自らの考えを話す場面が多い。それがラジオ番組の魅力であったりもするので、リスナーファインダーで明らかになったリアルタイム聴取率を見てリスナーに忖度し、発言内容を左右するようなケースが発生しては自縄自縛といった感じになってしまう。荻上チキさんがそのような忖度をするとは全く思っていないが、念のため、この点についても三村社長に聞いてみると、以下のような回答を得られた。

「番組のスタンスに編成から方針を出すことはないです。(リスナーファインダーで得られる)数字で現場を管理するのではなく、よりクリエイティブなアイデアが制作現場から出てくるきっかけになればと考えて採用を決めました」

三村社長はリスナーファインダーをラジオ番組の「制作支援ツール」と位置づける。他局と聴取率争いを繰り広げて一喜一憂するのではなく、ラジコリスナーの聴取データを参考にして、新規リスナーの開拓に向け、製作現場が多様なアイデアを出すために、このツールを使ってくれればとの考えだ。そんな姿勢を三村社長は、「TBSラジオは“データドリブン”なラジオ局を目指す」との言葉で表現した。

実際のところ、リスナーファインダーでは他局のデータは可視化できないので、戦う相手は他局ではなく「過去の自分」(三村社長)、つまり、過去に放送したTBSラジオの番組ということになる。企画・ゲストによってラジコリスナーがどのように増減したかを検証し、今後の番組づくりに活用するというのが同ツール導入の目的だ。

ただ、リスナーファインダー上でラジコリスナーが増えたとしても、その新規リスナーが他局から流入した人なのか、ノンリスナーがリスナー化した人なのかについては、同ツールで調べることができない。このあたりについて三村社長は、「今までにない企画をやって増えた分については、そのうちのいくばくかはノンリスナーだと思っていきたい」とした。

TBSラジオの三村社長

いまだに葉書でリスナーからのメッセージを受け取ることも多いと聞くし、いい意味でアナログなメディアとしての魅力を持つのがラジオだとは思っていたのだが、業界で最も聴かれているラジオ局が、“データドリブン”という言葉を使って自らの目指すべき姿を語ったのは興味深い。リスナーファインダーの導入でTBSラジオの番組にどのような変化が見られる(聴かれる)のか、ラジオファンとして注目していきたいと思った。