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MWC18で見えた、ベンダー同士の競争が激しさを増す「5G」の今後

MWC18で見えた、ベンダー同士の競争が激しさを増す「5G」の今後

2018.03.07

標準化に目途が立ったことで、2019年から2020年にかけての商用化に向けた準備が急速に進められている次世代モバイル通信方式「5G」。その5Gを実現するネットワークインフラや端末を開発するする上で必要な機器やチップを提供するベンダー同士の争いも、急速に激しさを増しているようだ。2月26日からスペイン・バルセロナで開催されていた「Mobile World Congress 2018」の様子から、5Gを巡る現在の競争環境を追ってみよう。

5G NRの標準化とともに競争が加速

最大で20Gbpsの通信速度を実現するなど、現在主流の4Gより高い性能を誇る次世代のモバイル通信規格「5G」。昨年12月に「5G NR」の標準仕様の初回策定が完了が完了したことから、いよいよ商用サービスの実現に向けた準備が、本格的に進められることとなった。

中でも5Gの導入に前向きな姿勢を示しているのは、東京五輪が開催される2020年に合わせて5Gの商用サービスを提供する予定の日本のほか、平昌五輪で5Gの試験サービスを提供していた韓国、そして4Gで先行している米国や中国などだ。こうした国々では2019年から2020年にかけて5Gのサービス提供を予定しており、標準化に目途が立ったことを機としてサービス提供に向けた準備が急ピッチで進められるものと見られる。

平昌五輪で5Gの試験サービスを提供した韓国のKTは、Mobile World Congressでも平昌五輪における5Gの実績をアピールしていた

それに伴い激しくなっているのが、5Gのネットワークを整備するのに必要な、基地局やアンテナなどを提供する通信機器ベンダー間の競争である。標準化の完了前までは、キャリアなどと協力しての実証実験しか展開できなかったが、標準化に一定の目途が立ったことにより、実際のビジネスへとつなげられるようになったからだ。

実際、スペイン・バルセロナで毎年開催されている携帯電話の総合見本市イベント「Mobile World Congress」でも、昨年までは商用化への道筋が明確にされていなかったこともあり、5Gに関するアピールは比較的抑えられていた。だが今年は5Gを前面に打ち出す企業が増え、5Gのビジネスと競争が本格化しつつある様子を見て取ることができた。

スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress」。今年は通信機器ベンダーやキャリアを中心に、5Gのアピールを積極化する企業が多く見られた

通信機器ベンダーとして世界的に大きなシェアを持つ企業は、エリクソンやノキアなどの北欧勢と、ファーウェイやZTEなどの中国勢である。中でもトップシェアを争うエリクソンとファーウェイは、大規模な展示スペースを設け5Gの製品アピールを積極的に推し進めていたようだ。

独自の施策で差異化を図る北欧・中国勢

5Gでは帯域幅が広く、既存の4Gより高い、6GHz以上周波数帯を用いることで、高速化を実現する。だが高い周波数帯は電波の直進性が強く、障害物が多いと電波が届きにくいという特性がある。それゆえ5Gでは従来のように広範囲に電波を届けるのではなく、多数のアンテナ素子を用いてユーザーが利用する端末に直接電波を届ける「Massive MIMO」などの技術を用いることで、可能な限り従来と変わらないエリアカバーを実現しようとしている。

28GHz帯という高い周波数帯に対応したエリクソンの基地局。高い周波数帯を用いるだけに、基地局やアンテナも多様化し、多彩な形でエリアをカバーすることになるという

また5Gの通信を司るコアネットワーク側では、ユーザーの用途に応じてネットワークの使い方を変える「ネットワークスライシング」という技術を導入。高速性が求められる動画配信と、低遅延が求められる遠隔操作とでネットワークを分け、双方の機能を両立することが重視されている。

だがこうした基本的な技術は標準化がなされているだけに、各社の機器ともに基本的には大きな違いが出るわけではない。それゆえ通信機器ベンダーは、基礎部分以外でさまざまな差異化を図っていくことにより、機器販売の拡大につなげようとしているようだ。

例えばエリクソンは、最大で5つの周波数帯の電波をキャリアアグリゲーションで束ね、さらに4×4 MIMOを適用することによって、2Gbpsの通信速度を実現する仕組みの開発を、クアルコムなどと共同で進めているという。5Gが当初から現在のLTE並みにエリアを広げられるわけではないことから、5GのエリアからLTEのエリアに移った際にも、可能な限り通信速度が変わらない環境を作り上げる狙いがあるようだ。

またファーウェイは、基地局やコアネットワークだけでなく、チップセットや端末も自社で全て提供できる強みを生かし、5Gのモデムチップと、それを搭載した「CPE」(Customer Premises Equipment)と呼ばれる据え置き型のWi-Fiルーターを開発したことを発表。ネットワークから端末まで、いち早く提供できる環境を整えたことをアピールしている。

ファーウェイはネットワークだけでなく、チップやデバイスも自社で開発できる強みを生かし、5Gのモデムとそれを搭載したCPEをいち早く提供できることをアピールしていた

米国主体に5Gで存在感を高めるサムスン

だがファーウェイやZTEなどの中国勢は、政治的な要因が影響してか、最大の市場である米国のキャリアに向けてはネットワーク機器を提供できないでいる。そうした隙間をぬってこの市場での存在感を高めようとしているのが、韓国のサムスン電子だ。

スマートフォン最大手として知られるサムスンだが、実は基地局などのネットワーク機器も手掛けており、UQコミュニケーションズのWiMAXの基地局なども同社が多く手掛けている。加えてサムスンは現在、NTTドコモやKDDIと5Gのネットワークに関する実証実験も推し進めている。

そしてサムスンは日本だけでなく、地元となる韓国のキャリアや、米国でも最大手キャリアのベライゾン・ワイヤレスに、主として固定回線の代替として利用するCPE向けの通信機器を提供することを発表。製品ラインアップやカバーできる領域は大手に劣るものの、スマートフォンなどで培った技術力を武器に、ライバルの少ない米国を主体として、5Gを機に通信機器ベンダーとしての存在感を高めたい考えがあるようだ。

一方で、5G対応端末で通信をするのに欠かすことができないモデムチップに関しても、インテルやクアルコムのほか、ファーウェイやサムスンがMobile World Congressでの展示・発表を実施しており、台湾のメディアテックも5Gモデムのプロトタイプを披露。こちらの競争も激しくなっていることが分かる。

メディアテックが展示していた5Gのスマートフォン型試験端末。モデムはまだチップ化がなされておらず、現在はアンテナが搭載されているのみだという

そうしたことを意識してか、クアルコムは5G対応のモデム「Snapdragon X50」でいち早くスマートフォン向けに搭載できるサイズを実現したことや、6GHz以上の帯域に対応したことなどをアピール。CPE向けが主体で大きなサイズのモデムチップが多い中、自社の優位性を明確に打ち出していた。

クアルコムは5Gのモデムチップを基盤ベースから、スマートフォンサイズにまで小型化したことをアピールしている

ここまで触れてきたように、標準化に目途が立ったことから、5Gを利用する環境に関しては、水面下での争いが非常に激しくなり、それだけ事業化に向けた準備が前進していることが見えてくる。一方で、5Gの利用を活性化するのに欠かせない、デバイスやサービスなどに関してはまだ模索が続いている状態でもある。今後は5Gの利用活性化に向けた取り組みがより必要になるだろうし、そのためには通信機器ベンダーも、サービスなどにより踏み込んだ取り組みが求められるかもしれない。

パナソニックの有機ELテレビ工場にこめられたモノづくりへの思い

パナソニックの有機ELテレビ工場にこめられたモノづくりへの思い

2017.06.01

パナソニックが、6月16日から、4K有機ELテレビ「ビエラ TH-65EZ1000」など3機種を発売する。それにあわせて、同製品を生産している栃木県宇都宮市のアプライアンス社テレビ事業部モノづくり革新センターの生産ラインの様子を公開した。モノづくり革新センターでは、2017年5月から、有機ELテレビの生産を開始しており、この様子を公開したのは初めてのことだ。パナソニックの有機ELテレビへの取り組みともに、それを生産するテレビ事業部モノづくり革新センターの取り組みを追った。

生産される4K有機ELテレビ「ビエラ TH-65EZ1000」

フラグシップモデルに位置づけられる有機ELテレビ

パナソニックが発売する有機ELテレビは、同社のテレビ製品のフラッグシップモデルに位置づけられ、同社では、「ビエラ史上最高峰の漆黒の黒と色再現性を実現している」とする。

左半分が有機ELテレビ映像、右半分が実際の造花。色の再現性に驚く

4K有機ELテレビの特徴は、4Kの829万画素を、1画素単位で映像を制御できる自発光方式であるという点だ。自発光方式は、プラズマテレビやかつてのブラウン管テレビと同じだ。

パナソニックが、有機ELテレビをフラッグシップに位置づけるのは、有機ELパネルならではの豊かな黒階調と、きめ細やかな色彩を実現しているのに加え、同社が、プラズマテレビで培ってきた自発光パネルに最適化した画質処理技術を生かせるためだ。その点では、早々にプラズマテレビをあきらめ、液晶テレビにシフトしたソニーが、有機ELテレビを発売しても、あくまでも液晶テレビをフラッグシップに位置づけているのとは、基本戦略に差がある。

パナソニックは、2013年に発売した「ZT60」を最後に、プラズマテレビから撤退。それ以降は、液晶テレビを発売してきた経緯がある。だが、プラズマテレビを発売していた当時、世界で一番画質が高いテレビとして、プラズマテレビを購入したユーザーが、買い替えサイクルに入ってきている。そうしたユーザーに対して、プラズマテレビと同じ自発光デバイスであり、世界最高画質を実現するのが有機ELテレビであると提案。高画質を求めるユーザーへのリプレースには、最適であると位置づけているのだ。

パナソニックでは、新たな画質処理エンジンを開発。これを組み合わせた高画質回路「ヘキサクロマドライブPLUS」によって、有機ELパネルの性能を最大限に引き出すことができたという。

さらに、同社のハイファイオーディオブランドである「テクニクス」の開発チームとともに音質をチューニング。最大出力80Wの新しいサウンドシステムを搭載した「Tuned by Technics」により、最高画質に相応しいサウンドも兼ね備えることに成功した。

このように、パナソニックの有機ELテレビは、パナソニックのプラズマテレビ、高級オーディオといったこれまでの資産を生かすことでフラッグシップと位置づけるテレビを実現している。

50年間続くパナのテレビ生産の拠点

今回、パナソニックが公開した栃木県宇都宮市のアプライアンス社テレビ事業部モノづくり革新センターは、パナソニックのテレビづくりのノウハウを蓄積した拠点であり、有機ELテレビの製品化には欠かすことができない拠点だ。

栃木県宇都宮市のアプライアンス社テレビ事業部モノづくり革新センター

テレビ事業部モノづくり革新センターは、宇都宮工場として、1967年に創業。今年がちょうど50年目の節目を迎える。

創業当時の宇都宮工場

第1号製品として、カラーテレビの「TK-930A」を生産。翌年には、累計生産10万台を達成するという急ピッチで量産体制を立ち上げ、その後も、当時は、Nationalブランドだった「クイントリックスシリーズ」や「画王シリーズ」といったブラウン管テレビを生産。

(左)宇都宮工場で生産された第1号機「TK-930A」。(右)1974年のテレビ生産ラインの様子

1983年には累計生産1000万台を達成した。さらに、2001年からは、デジタルテレビの生産を開始。2003年からは薄型テレビ「VIERAシリーズ」の生産を開始する一方で、2004年にはブラウン管テレビの生産を終息した。

累計生産1000万台達成の様子

現在は、19型~75型までの液晶テレビを生産。さらに、隣接する生産棟では、長年に渡って、テクニクスブランドのオーディオ機器も生産しており、2014年にテクニクスが復活して以降、ここで再生産を開始した。また、CATV向けのセットトップボックス、病院やホテル向けの業務用液晶テレビも生産されている。

モノづくり革新センターにおける50年に渡るテレビ生産の蓄積は、今回の有機ELテレビの生産において、重要な役割を果たしている。

パナソニック アプライアンス社テレビ事業部モノづくり革新センターの阪東弘三所長は、「自発光デバイスの性能を引き出すための生産技術を活用し、さらに、高画質回路であるヘキサクロマドライブPLUSの生産では、高度に精密化された最新の自動化装置を持つ基板実装ラインで内製できる体制を構築している。そして、正確な発色を行うために、すべての製品を、自動検査によって、全輝度領域において色度確認などを行うだけでなく、1台1台の画質を匠が目視で確認。忠実な色再現を実現している」とする。

パナソニック アプライアンス社テレビ事業部モノづくり革新センターの阪東弘三所長

現在、4K有機ELテレビの生産は、1ライン24人体制となっており、年間1万台の生産に対応できるようにしている。

この4K有機ELテレビの組立工程には、「赤帯」と呼ばれる、モノづくり革新センターで、最も優れた技術を持つスタッフだけが立つことができるという。

モノづくり革新センターでは、スタッフが持つスキルにあわせて「青帯」、「緑帯」、「黒帯」と段階があがるが、「赤帯」は、有機ELテレビの生産にあわせて新たな設置された最上位クラスだ。

赤帯になるには、視力が1.0以上、色覚異常がないこと、有機ELに関する基礎知識を持っていることが必須となり、さらに、ペーパーテストで90点以上を獲得することや、画面上にあるドットの不具合を6秒以内に見つけるといった、不具合発見テストに合格することなどが条件となる。

このスキルを持ったスタッフは、ほかのスタッフとは異なる作業ユニフォームが与えられ、たとえば、検査においては、組立ライン上に設置されたブラックボックスの中に入り、1台1台、目視でチェックを行うといった作業も行う。

このブラックボックスのなかには人が入って、目視による検査を行う

同様に、外観検査においても、機械による自動検査とともに、赤帯に認定された匠による目視による厳しいチェックが行われる。

外観検査などを目視で行う

ただ、組立、検査、梱包など、各工程ごとに求められるスキルが異なるため、それぞれに赤帯認定が行われる。つまり、各工程において、最も技術力を持ったスタッフが、有機ELテレビの組み立てを行っていることになるわけだ。

なお、組立工程では、パネルの搬送などには吸着機が使用されたり、部品の組み込みには双腕ロボットが導入されたりしており、匠の作業をサポートすることになる。

また、基板実装ラインは、室温25度、湿度40%の環境が維持されており、高速マウンターなどの実装ラインの装置は約9割がパナソニック製になっているという。

有機ELテレビの基板実装ラインの様子

「有機ELテレビの真の実力を発揮するには、高度な技術が必要不可欠。新たな技術と蓄積した技術の両方を生かすことで、自発光デバイスである有機ELテレビの性能を、最も引き出すことができる生産技術を確立した。これによって、ジャパンプレミアムを実現する4K有機ELテレビの生産を可能にしている」と、阪東弘三所長は自信をみせる。

完成した有機ELテレビの基板

さらに、見逃せないのが、同じ敷地内でテクニクス製品を製造しているという点だ。「有機ELテレビに搭載したサウンドシステムは、テクニクスの開発チームの指導をもとに、スピーカーを全数検査している」という。

フラッグシップのテレビとして、最高画質と最高音質を実現するためのモノづくりが行われていることがわかる。

豊富な経験、高い技術力でモノづくりの革新進める

パナソニック アプライアンス社テレビ事業部モノづくり革新センターの阪東弘三所長は、「パナソニックのテレビは、全世界8カ所の生産拠点で生産されている。そのなかで、モノづくり革新センターは、マザー工場として、生産ラインの計画から製造技術まで、蓄積した様々なノウハウを展開している」と語る。

モノづくり革新センターの名称をつけたのは、2012年のことだ。

阪東所長は、「工場というだけでは生産を行う拠点でしかない。しかし、モノづくり革新センターでは、生産だけでなく、さらなる改善を図るとともに、海外の生産拠点のモノづくりを支援する役割を果たしている。有機ELもまだまだ作業工数を減らすことができるのは明らかであり、継続して、改善、革新することができる。生産拠点というだけでなく、支援や改善の役割を持った生産拠点であることが、モノづくり革新センターの名称に込められている」とする。

モノづくり道場を社内に開設してスキルの向上に取り組む

4K有機ELテレビでも、日本でスタートした生産ノウハウをベースに、すでに欧州ではチェコ工場での量産を開始。7月からはマレーシア工場でも、有機ELテレビの生産を開始することになる。

「モノづくり革新センターのミッションは、商品を鍛え、モノづくりを鍛え、人を鍛えることにある。この繰り返しのなかで、最高の品質を持ったテレビを届けることができる」と語る。

50年の歴史のなかで、モノづくり革新センターは、ブラウン管テレビ、プラズマテレビ、液晶テレビ、有機ELテレビという、4つの異なるデバイスでのテレビ生産を行った経験を持つ、世界でも稀な工場になったといえる。

「豊富な経験とノウハウ、高い技術力を持ち、市場の声を反映した生産を行うモノづくり革新センターは、日本のモノづくりを象徴する生産拠点であり、だからこそ、ここで生まれるジャパンプレミアムは、最高のテレビを提供できる」と語る。

有機ELテレビをフラッグシップとするパナソニックのテレビ生産は、最先端の技術を持った製品ではあるが、生産拠点に蓄積された長年のノウハウなしには実現しない。

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

2017.05.29

2017年5月26日、大阪府堺市のシャープ本社で開催された中期経営計画の発表会見。シャープの戴正呉社長は、少しでも早く、この内容を発表したくて仕方がなかったようだ。

シャープ代表取締役社長 戴正呉氏

開始予定時刻は、午後3時10分。戴社長は開始時間よりも、かなり早く雛壇にあがることが多いが、今回は、開始10分前に、記者やアナリストに資料が配布された直後に雛壇に着席。司会者に向かって、「資料が配付されたのならば始めよう」と促す異例の状況となった。司会者とは、「まだ6分あります。みなさんには3時10分とお伝えしているので、まだ来られる方がいます。もう少しお待ちください」といったやりとりの一幕もあった。

警備が厳しいグリーンフロント堺の入口からは、徒歩で10分以上はかかる同社本社での会見。車で来場しても、ゲートを通過してから会場に入るまでには、2分以上の時間は必要だ。司会者はそれを見越したのか、予定時刻の1分半前には、戴社長の要望通り、前倒しにして会見をスタートした。中期経営計画の会見が予定時間から前倒しでスタートした例は、長年の記者経験でも初めてだ。

一方で、会見の質疑応答では、日本経済新聞の記者に噛みつくシーンも見られた。

「日経新聞には反論したい。シャープは人員削減とばかり報道しているが本当なのか。それは個人の意見。まずい報道ばかりだ。亀山工場は、1400人の社員数が4000人になっている。実際の状況をチェックして報道してほしい」と、質問に答える前に、それまでの雰囲気とは違う、強い口調で反論してみせた。

2016年4月に行われた鴻海によるシャープ買収の会見でも、鴻海流ともいえる同社が主導権を持った会見スタイルが注目されたが、今回の会見でも、そのスタイルが健在であることを示してみせた。

2017年度に最終利益の黒字化を目指す

シャープが、鴻海傘下で初めて発表した中期経営計画の内容は、2019年度に売上高で3兆2500億円、営業利益では1500億円を目指すというものだ。

また、これに伴い、2016年度通期業績発表時には公表を見送っていた2017年度の業績見通しについても発表。売上高は前年比22.4%増の2兆5100億円、営業利益は44.1%増の900億円、経常利益は215.1%増の790億円、当期純利益は前年度のマイナス248億円の赤字から590億円の黒字への転換を予想。さらに、2018年度の売上高予想も2兆8900億円であることを公表した。

シャープの戴正呉社長は、「シャープは、2014年度には2000億円以上の赤字だった。だが、2016年10月以降から営業利益が黒字になった。これは私の実績。私は、有言実現の人である」とし、「この計画は、今年2月以降、10回以上に渡って検討を行ったものであり、数字には自信がある。2017年度の最終黒字化を実現し、2019年度の目標も必ず達成する」と、計画達成には強い意思をみせる。

2016年8月から鴻海傘下での再生をスタート。その舵取りを担ってきた戴社長にとって、短期間にここまでの業績回復を達成してきた自信が、この発言につながっているといえよう。

「2016年度は構造改革に取り組んできた。だが、今回の中期経営計画では、2020年度以降の『次の100年における持続的成長』を確実なものにするために、『ビジネスモデルの変革』、『グローバルでの事業拡大』、『経営基盤の強化』の3つのトランスフォーメーションに取り組んでいく」とする。

8KとAIoTを軸に

その軸になるのが、「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」だ。戴社長は、「8KとAIoT(AIとIoT)で世界を変える」と、今後のシャープの基本方針を示してみせる。

これまでにも戴社長は、「シャープは家電メーカーから脱却する」といってきたが、言い換えれば、この2つの領域に、シャープは事業を集中させ、成長戦略を打ち出すことをより明確に示したともいえる。

たとえば、人に寄り添うIoTでは、「人々の生活を取り巻くAIoTに対応した機器が、変化に気づき、考えて、提案をしてくれる新たなパートナーになる。それによって、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティへ取り組みをシャープがリードする」と語る。

また、8Kエコシステムにおいては、「シャープの強みを軸にして、低価格の8Kカメラ、編集システムを実現することで8Kコンテンツを拡大すること、8K映像を配信するインフラ環境を整備し、8K表示機器および映像伝送のためのインターフェースで業界を先導するといった3つの重点領域に注力するとともに、他社とのアライアンスを推進することになる」とする。ここでは亀山工場で、8Kテレビの生産を行いたいとの意向を示し、それにあわせて亀山工場への投資を進めることも明らかにした。

この2つの事業は、シャープが新たな事業ドメインとして設定したスマートホーム、スマートビジネスソリューション、アドバンスディスプレイシステム、IoTエレクトロデバイスの4つの事業を横断する形で推進することになる。

そのため、全社に横串を刺すことを目的に、AIoT戦略推進室、8Kエコシステム戦略推進室をそれぞれ設置して、One SHARPとしての事業推進を図る。

注目しておきたいのが、この2つの戦略推進室の人事だ。

AIoT戦略推進室の室長には、社外取締役を務めていた元ソニーの石田佳久氏、そして、8Kエコシステム戦略推進室の室長には、元NHKの西山博一氏をそれぞれ起用する。

「石田氏は、ソニー時代には、テレビを担当していたが、それ以前にはパソコンのVAIOやソニーモバイルを担当していた。テレビは仕方なくやった。この分野は専門である。また、西山氏は、NHK出身。5月25日~28日まで、NHKと一緒に、大相撲夏場所の8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイングを東京で開催した。2018年にはNHKが8Kの実用放送をスタートする。8Kでは、テレビだけでなく、カメラも作りたいと考えている」などとし、それぞれの分野の専門家を登用した人事に自信をみせる。

ちなみに、経営層の人事では、2015年には取締役が15人、執行役員が24人いた体制を、取締役が9人、執行役員を12人に削減。シャーププロパーの取締役は、財務担当の野村勝明氏だけになる。その野村氏も、一度はシャープを出て、鴻海が出資したSDPで会長を務めてきた経験者。鴻海傘下での中期経営計画は、シャープの血を薄めて推進することになる。

一方で、4つの事業ドメインを細かく見てみると、この中期経営計画のゴール設定が意欲的であることがわかる。

たとえば、スマートホームは、2016年度実績では5506億円だった売上高を、2019年度には1兆円以上へと倍増する計画を打ち出している。また、IoTエレクトロデバイスは、2016年度実績の4136億円を、2019年度には8000億円以上に拡大。やはり倍増を目指す計画だ。2016年度実績の8420億円を、2019年度には1兆円以上に拡大するアドバンスディスプレイシステムとともに、1兆円規模の柱を3本創出する考えだ。そこに、収益性の高いスマートビジネスソリューションを、2016年度の実績の3177億円から、2019年度には4500億円以上と着実に成長させるというシナリオだ。

また、別の角度から見ると、2019年度の海外売上高は2016年度実績の1.8倍に拡大。とくに、テレビ市場への再参入を図る欧州では、この3年間で3.3倍にまで拡大。中国市場でもテレビにおける付加価値展開を軸に、2.5倍に拡大する計画だ。

「シャープはガラパゴスにならないように、国籍は関係なく、グローバル人材を登用。経営の現地化をしていく」とする。

さらに、デバイスという観点でみれば、IoTデバイスや8Kデバイス、車載デバイスなどの成長により、今後3年間で、1.6倍の事業拡大を目指すという。

鴻海とのシナジー効果をどこで発揮させるか

こうした高い成長計画のベースになっているのは、シャープの強みが発揮できるところを伸ばすという基本姿勢と、その成長において鴻海が持つ力をとことん利用しようという姿勢だ。

また、戴社長は、「シャープは、幅広い事業、独自技術、商品の独創性、革新的なデバイスという強みを持つ。だが、その一方で、商品ラインアップ、デバイス設備の世代更新、グローバル展開を支える人材・リソースといった点での課題がある。強みをさらに強化するとともに、マネジメント力の強化、鴻海グループとのシナジーにより、AIとIoT、8Kエコシステムといった『新技術』と、技術力とコスト力を生かした事業拡大による『グローバル市場』を、当社が狙う事業機会と位置づけている」と説明する。

言い換えれば、新技術での成長は、シャープの得意分野を生かしたものであり、グローバル市場での成長は鴻海とのシナジーによる成果ということになる。

「シャープでは、事業企画の強化やローカルフィット、コア技術開発の強化、工場のスマート化など、付加価値モデルの創出とビジネスモデルの転換に注力する。その一方、共同開発、共同調達、生産委託、物流において、鴻海とのシナジー効果を生かし、事業拡大のスピードを効率的に高めていくほか、OEMやOEMベンダーとの連携、サービス事業者との連携を図るなど、社内外のリソースを効果的に組み合わせることで、バリューチェーンを最適化し、事業拡大、ビジネスモデルの転換を加速する」と、戴社長は基本戦略を示す。

戴社長は、この9カ月間で、シャープの強みと弱みを熟知し、それを素直に中期経営計画に反映させたともいえる。

「過去の経営陣の失敗は、責任感の問題」と言い切る戴社長。経営陣を完全に刷新し、本当の意味での鴻海による再生が始まったといえる。