なぜ携帯キャリアは「大容量プラン」を推進するのか

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第25回

なぜ携帯キャリアは「大容量プラン」を推進するのか

2018.11.22

続々と登場する携帯キャリアの大容量プラン

通信技術の向上により大容量通信を下支え

大容量プランを展開する各社の思惑とは?

ソフトバンク・KDDI(au)・ドコモは2016年頃より、データ通信量が20GBを超える大容量プランの提供に力を入れるようになった。この流れは年々進んでいき、今年新たに発表されたプランを見ても、通信量をさらに追加したものや、動画・SNSの通信量をカウントしないものなど、大容量化を進めるものがほとんどであった。そこには通信技術の向上だけでなく、各社の思惑も。

20GB以上のプランにさまざまなオプションを付随

ここ最近、毎年のように大きな変化が起きている大手携帯キャリアの料金プランだが、2018年も大きな動きが相次いだ。その1つはKDDIの「auフラットプラン25 Netflixパック」だ。

これは20GBの通信量が利用できる「auフラットプラン」に、映像配信サービスの「Netflix」と「ビデオパス」をセットにし、さらに5GBの通信容量を追加したもの。別途契約を必要とせずにNetflixが利用できる上に、別々に契約するよりもお得な料金で利用できるのが特徴だ。

auが8月に投入した「auフラットプラン25 Netflixパック」。25GBのデータ通信と、Netflixなどの映像配信サービスがセットで利用できるプランだ

もう1つは、ソフトバンクの「ウルトラギガモンスター+」。これは通信容量が50GBの「ウルトラギガモンスター」に、YouTubeやHulu、AbemaTVなど、計8つのサービスを利用した時の通信量をカウントしない「カウントフリー」の仕組みを付け加えたものだ。

いずれのプランにも共通するのは、通信容量が非常に大きいこと。数年前には5~7GB前後の通信容量が主流だったことを考えると、その数倍もの容量を誇る最近のプランはいわば「使い放題」にも近い。

通信量の20GB超えは、今となっては驚く話ではなくなった。だが、2016年頃までの大容量プランといえば、通信料金だけで月額1万円を超える非常に高額なもので、「契約したくでもできない」ものであった。それが手ごろな料金となり、多くの人に利用されるようになったきっかけは、2016年にソフトバンクが「ギガモンスター」を投入したことである。

ギガモンスターは、20GBのデータ通信を月額6,000円で提供した。基本料金を加えても月額1万円を切る安さで注目を集めた。その後KDDIやドコモも同様のプランを提供するようになり、以後大手キャリアの利用者には20GB以上の大容量プランが広く浸透するようになった。

手ごろな価格で大容量通信が利用できるプランの先駆けとなったのは、ソフトバンクが2016年に提供開始した「ギガモンスター」である

本音は通信料収入の維持拡大

使える通信容量が大きければ、大容量通信が必要なサービスを安心して利用できる。通信量を気にしてWi-Fi環境下でしか利用しなかった動画サービスを、今ではLTE環境下でも抵抗なく利用するようになったユーザーも多いことだろう。大容量プランの登場が、スマートフォンで利用するネットサービスの幅を広げたのは確かだ。

しかし、なぜキャリアは大容量プランの低価格化を推し進めたのか。その理由の1つが、技術の進化によって、低コストでの大容量通信の実現が可能になった点にある。

キャリア各社は、複数の電波を束ねることで高速かつ大容量の通信を可能とする「キャリアアグリゲーション」や、小型の基地局「スモールセル」の設置による負荷分散などといった4Gの技術に加えて、多数のアンテナを用いて個々の端末に直接電波を飛ばすことで、大容量通信を実現する「マッシブMIMO」など、次世代移動通信システムの5Gに用いられる技術の一部も先取って活用することで、大容量プランの提供を実現している。

ソフトバンクはギガモンスターの導入に当たり、多数のアンテナを用いて通信容量を増やす「マッシブMIMO」の技術を導入したことを明らかにしている

だが、大手キャリアの一番の目的は、下落傾向にある通信料収入を回復させることである。MVNOによる低価格なモバイル通信サービスの台頭によって、最近の大手キャリアは、低価格なサブブランドに力を入れたり、MVNO自体を買収したりするなど、低価格サービスの充実に力を入れるようになった。

その結果、顧客の流出を抑えることはできたものの、これまで高額な料金プランを契約していた人達が、キャリア自身が用意した低価格サービスへと流れる動きを強める結果にもなってしまった。そのことがキャリアの通信料収入を引き下げる要因へとつながっている。

キャリアにとって通信料金は収入の柱であるだけに、低価格化の進行は業績悪化に直結してしまう。そこで、高価格なサービスの魅力を高めることによって低価格サービスへの流出を防ぎ、ARPU(average revenue per user:顧客一人あたりの平均売上高)を下げ止めるために、通信量を大幅に増やした。これが、大容量プランが生まれた理由と見られる。

ここで気になるのは、大手キャリアが大容量プランだけでなく、利用した通信量に応じて毎月の料金が変化する、“段階制の料金プラン”も積極的にアピールしはじめたことだ。これはどちらかというとスマートフォン初心者に向けたものという位置付けと捉えられる。行政による低価格化の圧力によって生まれた側面も多分にあるだろう。それだけにキャリアとしては、段階制よりも魅力が大きく値段が高い、大容量のプランを多くの人に契約して欲しいというのが本音でもあるのだ。

首相や官房長官までが携帯値下げに言及する背景と影響

知って納得、ケータイ業界の"なぜ" 第24回

首相や官房長官までが携帯値下げに言及する背景と影響

2018.11.19

政府の「4割引き下げ」発言の背景を改めて考える

日本の携帯料金は本当に高いのか?

携帯料金の引き下げがインフラ投資に影響

2018年8月に菅義偉官房長官が、携帯電話の料金は4割下げる余地があると発言したことが大きな波紋を呼んだ。それを受けて携帯各社が立場を表明せざるをえなくなったりと、いまだに余波は続いている。なぜ国を仕切るような人達が、携帯電話料金の引き下げにこだわったのだろう。

発端は菅官房長官の「4割引き下げ」発言

2018年8月21日、菅義偉官房長官の「携帯電話の料金は4割程度引き下げる余地がある」という発言が、携帯電話業界にとても大きな波紋を呼んだ。

この発言の背景には、スマートフォンの普及によって、携帯電話料金が家計に占める割合が年々高まっていることにあるようだ。菅官房長官は発言の根拠として、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で、日本の携帯電話料金が平均の約2倍であるなど諸外国と比べ携帯電話料金が高いこと、2019年に携帯電話事業への参入を予定している楽天が、既存事業者よりも安い料金で参入する方針であることなどを挙げている。

4割引き下げ発言の余波はその後も続いた。実際、2018年9月に実施された沖縄県知事選において、政権与党である自民党らが応援する候補が、携帯電話料金の4割削減を目指すことを、公約の1つとして掲げて選挙運動をした。各種報道を見るに、この公約は若者から支持を得るための目玉の1つとなっていたようだ。

ここ最近携帯電話業界の競争促進のため市場ルールの見直しを進めてきた総務省や公正取引委員会なども、発言を受けて再び携帯電話の料金などに関する議論を活発にしていくと見られる。このように、官房長官の携帯電話料金4割引き下げ発言は、携帯電話業界に非常に大きな影響を与えているのだが、実は政府関係者が携帯電話料金の引き下げに言及するのは、今回が初めてではない。

記憶に新しい所では、2015年に安倍晋三首相も携帯電話料金の引き下げに言及している。これを受けて総務省のICTサービス安心・安全研究会が「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」を実施し、その結果、スマートフォンの「実質0円」販売に代表される、端末価格を過度に値引いて販売することが事実上禁止されるなど、市場に大きな影響が及んだ。

2015年の安倍晋三首相の携帯電話料金引き下げ発言に端を発して実施された「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」。その結果は携帯電話業界の商習慣に大きな影響を与えた

大手3社は「競争せず儲けすぎ」は本当?

しかしなぜ、首相や官房長官など、国を仕切る人物が、相次いで携帯電話料金の引き下げを求める発言をしているのだろうか。その理由は、携帯電話会社が比較的国内に限られた事業を展開していながら、長期にわたり高い利益を上げ続けていたことが要因として考えられる。

2017年度の各社の通期営業利益を見ても、NTTドコモが9,733億円、KDDIが9,627億円と、いずれも1兆円に迫る規模だ。ソフトバンクはまだ上場していないが、その親会社であるソフトバンクグループの営業利益は1兆3,038億円で、うちソフトバンクを主体とした国内通信事業の利益は6,829億円と、半分近くを占めていることが分かる。

携帯大手3社は好調な決算を継続しており、2017年にはソフトバンクグループが1兆円超え、NTTドコモやKDDIも1兆円に迫る営業利益を出している

2017年度の通期決算で1兆円規模の利益を出している日本企業は、他にNTTドコモの親会社である日本電信電話(NTT)と、トヨタ自動車くらいしかなく、それに続くのも自動車会社が主。だが自動車会社は国内だけでなく海外でも利益を上げているが、通信会社、特に携帯電話会社は利益の多くを国内で稼ぎ出している。

また自らインフラを敷設する携帯電話会社は、20年にわたる再編を経てNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3グループに集約され、競争停滞が続いている。首相や官房長官はその競争停滞が通信料金の高止まりにつながり、携帯電話会社が儲けすぎていると見て、国民からの支持を得るべく料金引き下げに言及するようになったといえそうだ。

だがそもそも、政治家が民間企業が提供するサービスの料金に対して言及すること自体、民事介入であり好ましいものではないし、日本の携帯電話料金が本当に高いのか? ということに疑問を持つ専門家もいる。また確かに大手携帯キャリア同士の直接的な競争は停滞しているが、「ワイモバイル」など大手キャリアのサブブランドや、低価格サービスを提供するMVNOらによる競争は激化の一途をたどっており、実は携帯電話料金を安く抑える選択肢は大幅に増えている。

低価格サービスに関する競争は激しさを増しており、2018年8月にはソフトバンクのワイモバイルブランドが、料金据え置きで通信容量を増量することを発表している

また大手キャリアは高い利益を得ている一方で、携帯電話のネットワークインフラ改善に向けた投資には毎年数千億円規模の金額を費やしている。それが世界有数の充実した携帯電話ネットワークを作り上げていることも事実だ。もし利益が急速に落ちてしまえば、そのしわ寄せとして地方を中心にインフラ面で大きなデメリットが生まれることも考慮すべきだろう。筆者はといえば、携帯電話市場に関する多角的な評価なくして、国が携帯電話料金引き下げに言及するのは、やはりナンセンスではないかと感じている。

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

見積もりが楽天的? 出揃ったキャリア決算、新規参入「楽天」の厳しい船出

2018.11.13

大手キャリアの「値下げ論争」への回答が出揃った

ドコモの値下げに、KDDIは様子見、ソフバンは人員削減で対策

楽天は、自前でのネットワーク敷設を想定通りに行えるのか?

10月末から11月初旬にかけて、大手キャリアが相次いで決算会見を実施。菅官房長官の「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある。2019年10月に第4のキャリアとして楽天が参入するまでに実現できるだろう」という発言に対して、各キャリアの姿勢が改めて見えてきた。

値下げ発表受け、様子見のKDDI、人員削減のソフトバンク

菅官房長官の発言で携帯3社の値下げ議論は岐路に立たされた

値下げに積極的な姿勢を見せたのはNTTドコモだ。同社の吉澤和弘社長は「2019年第1四半期に2〜4割の値下げを実施する。4000億円程度のお客様還元を考えている」と発表した。具体的な値下げ方法までは明かさなかったが、端末代金に対する割引をやめ、通信料金と分離する「分離プラン」の導入が有力視されている。

ただ、これまで吉澤社長は値下げに消極的な姿勢を示していたはずだが、突然、導入に踏み切った背景にあるのは「官邸からNTTの持ち株に圧力があったのではないか」(複数の業界関係者)と見られている。

NTTドコモの「値下げ発言」に対して「正直、驚いている」と語ったのは、KDDIの高橋誠社長だ。高橋社長は「我々は昨年、すでに分離プランを導入している。まさに分離プランのトップランナーであり、政府からの宿題もすでに済ませている」と説明した。実際のところ、「NTTドコモの値下げは、具体的な内容がわからない」(高橋社長)ようで、NTTドコモに先んじて、値下げで仕掛けるということはせず、まずは様子見の姿勢を取るようだ。

ただし、NTTドコモの値下げのインパクトによっては「対抗値下げも検討する」(高橋社長)とのこと。ソフトバンクも基本的には「すでに今年9月に分離プランを導入している」(孫正義会長)というスタンスだ。

孫正義会長は「9月に導入したウルトラギガモンスター+は、ギガ単価で見れば、世界でもっとも安いのではないか」と主張。いたずらに値下げ競争には応じない姿勢を見せた。ただし、格安ブランドのワイモバイルにおいては、来春に分離プランを導入する予定で、「1〜2割程度、安くなるのではないか」(宮内謙社長)と見積もった。

NTTドコモがどれだけ値下げしてくるか、どのくらいの影響力があるか見えないだけに、ソフトバンクでは、国内通信事業に携わる社員の約4割を今後、成長ができる分野に配置転換し、通信収入が下がっても、増益を達成できる組織体制にしていく予定だ。

第4のキャリア「楽天」の厳しい船出

菅官房長官や各キャリアの社長の話をまとめると、2019年には2回、通信料金値下げが起きる可能性が出てきた。

まず最初はNTTドコモの値下げだ。吉澤和弘社長は「2019年第1四半期」という言い方をしているが、通常、NTTドコモが料金プランなどの発表を行う場合、決算会見で明らかにすることがほとんどだ。例年、NTTドコモでは、ゴールデンウィークに突入する直前の4月末に決算会見を実施する。来年も4月末に発表し、6月あたりに値下げを実施するという流れになる可能性が高そうだ。

ここで、他社を驚かせるような料金プランが投入されれば、KDDIやソフトバンクも対抗値下げを迫られることになるだろう。

もうひとつは楽天の携帯電話事業参入のタイミング。こちらは2019年10月の予定だ。

11月8日に行われた楽天の決算会見で、料金施策について質問を受けた楽天モバイルネットワークの山田善久社長は「1年先なので、他社がどうこうよりも、ユーザー視点で魅力的な料金を提供していきたい。短期的に他社がどうだからといって決めるものでもない。最終的な料金戦略は決まっていないが、期待されているので、それに応えられる料金にできればと思う」と語った。

総務省に提出された計画書では、MVNOで提供している楽天モバイルの通信料金と同等にするつもりと言われている。しかし、第4のキャリアとして参入した場合、楽天モバイルと同じ料金設定では、ユーザーにとって魅力的には見えないだろう。当然のことながら、楽天モバイルよりも安価な料金設定でなければ、誰も振り向いてくれない。

楽天はKDDIとローミング契約し、サービス開始当初は東京23区、名古屋市、大阪市以外のネットワークをKDDIから借りることができる。

しかし、2026年までには全国に自前でネットワークを敷設しなくてはならない。それには相当なコストが掛かるはずだ。楽天では6000億円未満で実現できると強調するが、その発言を本気で信じる業界関係者はほとんどいない。

ベンダー体制図と設備投資額。「少数の実績のある企業と連携を取りながら進めている。投資額は、当初発表していた600億を下回ると考えている」との説明がなされた

MVNOよりも安い料金をユーザーに提供しつつ、しかも、全国にネットワーク構築できるだけの設備投資額を確保できるだけのソロバン勘定が楽天には求められるのだ。

2019年10月に参入する楽天に対して心配しているのが提携したばかりのKDDIだ。高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランを入れると、大手3社がすべて分離プランになる。(キャリアの通信料金が安く見えるので)楽天は、いまのMVNOと同じ料金プランでも、通用しなくなるのではないか。そこで料金をさらに下げると体力的に持たなくなる。(低料金を期待されている)楽天のハードルが上がっているような気がする」と語った。

本来であれば、高い料金プランを続ける大手3社に対して、楽天が低料金プランで果敢に攻めていくという構図が理想だったはずだ。しかし、NTTドコモが、重い腰を上げてしまったことで、楽天にとっても、厳しい船出になってしまうのではないだろうか。