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日立グループの家電新会社が始動、40代の新社長が挑むイノベーションとは?

日立グループの家電新会社が始動、40代の新社長が挑むイノベーションとは?

2019.03.22

日立が家電・空調事業を再編し新会社を発足へ

新社長は非家電畑出身、40代と若い谷口潤氏

「モノ」から「コト」への大変革期、手腕に注目

日立グループの家電および空調事業を行う新会社「日立グローバルライフソリューションズ」が、2019年4月1日付けで発足する。それにあわせて、新会社の社長に就任する予定の谷口潤氏が、今後の事業方針について説明した。

4月1日付けで、日立グローバルライフソリューションズの取締役社長兼CEOに就任する谷口潤氏

日立グローバルライフソリューションズは、家電および空調の販売、サービスを行ってきた日立コンシューマ・マーケティングと、家電の設計、製造および空調の販売、サービスを行ってきた日立アプライアンスの合併により発足する。

新会社は、日立コンシューマ・マーケティングと日立アプライアンスの合併により発足

新会社の売上高は5,000億円超、従業員は約1万1,300人。家電および空調の商品企画から設計、製造、営業、アフターサービスまでのバリューチェーンを、一気通貫で提供する組織となる。

新会社は「生活ソリューションカンパニー」を目指す

社会構造の変化が速くなり、デジタライゼーションが進展するなかで、人々のライフスタイルも多様化している。このような変化に対応するために、谷口氏は「すべてのバリューチェーンを統合し、変化に即応できる事業体へと進化させることが大切になってきた」と課題を挙げる。

新会社では「お客様の生活課題を解決する商品、サービスの提供、日立グループの強みを生かした新たな生活ソリューションを創出し、生活課題の解決を通じて、世界中の人々のQoLを高める『生活ソリューションカンパニー』を目指す」といい、その生活ソリューションカンパニーの実現のために、「多彩な人財が、ワクワクし、いきいきしながら働くことができる企業風土を実現していきたい」と抱負を語る。

新会社が目指す「生活ソリューションカンパニー」の姿

谷口氏は、早稲田大学 理工学部 機械工学科を卒後し、1995年4月に日立製作所にシステムエンジニアとして入社。以降、システム事業部、トータルソリューション事業部、社会イノベーション・プロジェクト本部、ソリューション推進本部、制御プラットフォーム統括本部などで、制御およびソリューション分野を担当している。直近では、サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 情報制御第三本部長を務め、日立製作所 大みか事業所を拠点として、産業分野におけるIoTソリューション事業の立ち上げなどに関与してきたという経歴を持つ。現在、46歳だ。

ここ数年の同氏は、日立のデジタルソリューション事業でグローバル展開を進めている。IoTを活用したプリント基板生産ラインの最適化ソリューションに取りまとめ役として携わり、JUKIとの協創を推進したほか、中国医薬品メーカーの石薬集団に、医薬品製造管理システムのHITPHAMSを納入した実績を持つ。

谷口氏は新会社の社長に就任するにあたり、「日立の家電、空調事業の強みは、ひとりひとりに寄り添うこと。これに、私が経験してきた社会イノベーション事業の立ち上げおよび確立、パートナーとの協創などの実績を組み合わせることで、事業スピードを高める。さらに、従業員やパートナーが持っている新たなアイデアの実現に向けて、チームワークとネットワークを強固にできると考えている」と意気込む。

家電事業の経験がない新社長、強みは?

家電事業は経験がない谷口氏だが……

ただ谷口氏は、日立に入社して以来、家電事業の経験がまったくない。しかしそれは、前任にあたる日立アプライアンスの社長、徳永俊昭氏も同じだ。ある意味、日立らしい人事ではある。

家電事業の経験がないという点を、谷口氏はどう受け止めたのか。「新会社の社長就任の要請を受けたときのファーストインプレッションは、ワクワクであった」という。「家電および空調事業は、お客様の声がダイレクトに届く事業であり、反応をきちっと見ながら、スピーディーに意思決定ができるビジネスだから」とする一方、「第1号の電気冷蔵庫を発売して以来、日立の家電事業は85年以上の歴史を持つ。その事業をリードしなくてはいけないという点では、気持ちが引き締まる」と責任の重さにも触れる。

そして、これまでの経験がメリットになるとも強調する。

「私自身、食品業界やヘルスケアビジネスに取り組んできた経験がある。言い換えれば、これらはコンシューマビジネスの領域であり、家電とは違う側面から、お客様と一緒に、コンシューマ分野における商品開発やサプライチェーンの構築を行ってきた。その経験は生かせる」

日立グループのなかで生活者に一番近い場所にいる特徴をもつ新会社では、社会イノベーション事業での経験も活用できるとし、例えばフードロスが大きな社会問題になっていることを挙げ、「冷蔵庫はフードバリューチェーンの出口という捉え方ができる。冷蔵庫の利用データを、フードバリューチェーンの末端のデータとして解析、利活用することで、コールドチェーンのソリューションができあがる。いまの仕組みでは、小売店でなにが売れたということはわかるが、なにが人の口のなかに入ったのかはわからない。チェーンのどこに問題があるのか、どこを最適化し、効率化すればいいのか。その解決に向けて、冷蔵庫という最後の部分を持っている価値は大きい」と可能性を説明する。

さらに、家電および空調事業が、「モノ売り」から、「コト売り」に移行しはじめていることも、谷口氏の経験をメリットに変える。

従来からのモノづくりは磨き上げなくてはならないと前置きしつつも、「コト売りが重視されるなかで、家電/空調事業のポートフォリオを入れ替えなくてはならない。そこに向けて、コト売りが中心となる社会イノベーション事業の経験が生きる」と話す。

「モノ売り」から「コト売り」への転換は必須

実際に日立の家電および空調事業では、すでにいくつかのコト売りがスタートしている。

同社の業務用空調/冷熱機器のサービスソリューションである「Exiida遠隔監視サービス」、単身高齢者向け見守りサービス「ドシテル」、食をテーマにしたSNSサービス「ペロリッヂ」などがそれだ。

購入後の家電製品を、インターネットを利用してアップデートする「ソフトウェア・デファインド・コンセプト」も、家電のコト売りのひとつだ。

日立では昨年来、洗濯機、冷蔵庫、ロボット掃除機などをインターネットに接続したIoT家電を投入してきた。谷口氏は、「私には、高校生の娘と中学生の息子がいるが、娘が高校に入った途端、冷蔵庫のなかに、弁当用の作り置きの冷凍食品が増えた。日立の冷蔵庫は、ソフトウェアによるアップデートで冷蔵室が冷凍室に変わる。生活の変化に寄り添って、家電も変わる必要がある」と、自らの経験を通じて、コト売りへの転換の必要性を訴える。

家電が、ひとりひとりの生活に寄り添う必要性を訴える

社会イノベーション事業はコト売りの固まりだ。その実績を、家電/空調事業におけるコト売りへの転換に、どう生かすかが注目される。

トライ&エラーの許容、協創、「こうなりたい」という想い

そして、谷口氏の社会イノベーション事業の経験は、こんなところにも生きるという。

「パートナーと積極的に連携する企業風土や、トライ&エラーをある程度、許容するといった仕組みを導入することによって、新たなチャンスを作ることができる企業を目指す」

これは、社会イノベーション事業において、「協創」を実践してきた経験をもとに打ち出した方針だ。

谷口氏の座右の銘は、「尊敬と感謝」だという。

「自分ひとりでできることは小さい。いろいろな仕事をしてきたが、そのなかで感じたのは、会社のパフォーマンスをあげるためには、ひとりひとりの強みをいかに引き出すかという点であり、そこに社長としての私の腕のみせどころがある。パフォーマンスを最大化し、変化に即応する組織にしたい。また、他社との協創を通じて、可能性を最大化してきたこれまでの経験を、新会社の成長に生かしたい」

46歳という若さも大きな武器になる。「若いということは、体力もあるということ。新社名の通り、ビジネスはグローバルに広がっている。世界中の様々な人たちと、フェース・トゥ・フェースで生の声を聞き、事業成長につなげていく」と、谷口流の経営手法の一端を示す。

日立グローバルライフソリューションズという社名は、全世界で1万人以上という同社の従業員の投票によって決定した。

ヒューマン・ライフ分野において、人々の安心・安全・快適な暮らしを支えるソリューションをグローバルに提供するというのが社名の意味だそうだ。そこには、「従業員がこうなりたいという強い想いが込められている」という。

世界的に家電事業が転換点を迎え、変化を余儀なくされるなかで、新会社の成長を左右する大きな要因になりえる谷口氏のリーダーシップに注目が集まる。

社長から社長への転身、プロ経営者の存在とは?

社長から社長への転身、プロ経営者の存在とは?

2017.12.22

常々、不思議に思うことがある。経営者と呼ばれる方々は、数年で転社し、そしてまた経営者として活躍される。これは、どういうことなのだろうか。

有名なプロ経営者の例を挙げてみよう。たとえば、サントリーホールディングスの代表取締役社長 新浪剛史氏。氏はローソン代表取締役社長兼CEOを経て、現職に就いた。もともと三菱商事の外食関連の職に就いており、飲食に関係の深いコンビニや酒類メーカーの経営者となった。

まったく異なる業界の経営者としてわたり歩く例もある。たとえば原田泳幸氏。アップルコンピュータ代表取締役兼米アップルコンピュータのヴァイスプレジデントを務めたのち、日本マクドナルドのCEOになった。当時は「マックからマックへ」という表現で、多くのニュースで報道された。その後、ベネッセホールディングスの会長兼社長に就任したが、就任直後におよそ2000万件の個人情報流出が発覚。ほとんど活躍できないまま、同社を去った。ベネッセの件は、不運だったといわざるをえない。

ただ、コンピュータから外食産業、教育企業という、まったく異なる業界の経営者を歴任した有名な例といえよう。

酒類業界からリゾート、オークションをわたり歩く

日本ヒルズ・コルゲートの瀬口盛正氏

このように、まったく異なる業界をわたり歩いている経営者は、ほかにもいる。たとえば10月から日本ヒルズ・コルゲートの代表取締役社長になった瀬口盛正氏。日本ヒルズ・コルゲートは、ペット用食品のグローバル企業、Hill's Pet Nutritionの日本法人だ。

では、瀬口氏はどのような業界をわたり歩いてきたのだろうか。企業トップとして活躍した例をみてみよう。

2003年にマキシアム・ジャパンの代表取締役社長になった。マキシアムは、レミー・マルタンやジム・ビームといった酒ブランドを所有する企業。オランダに本社を置く、グローバルな酒類企業だ。続いてマキシアム・メキシコの代表取締役社長に就任する。続いて、2009年にクラブメッドの上席副社長になり、2011年には同社の代表取締役社長に就任。クラブメッドは、リゾートをユーザーに提供する企業で、地中海のバカンスで有名だ。「エーゲ海に捧ぐ」という映画を観た世代なら、同社の名前に聞き覚えがあるだろう。

瀬口氏のキャリアはまだまだ続く。クラブメッドのあとはサザビーズジャパンの代表取締役社長となる。サザビーズは、美術品を中心としたオークション運営企業で、18世紀に設立された老舗だ。ルノワール作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」という絵画を、バブル期に119億円で日本人が落札したことで大きなニュースになった。サザビーズジャパンは、そのオークション企業の日本法人だ。そしてその後、現在の日本ヒルズ・コルゲートのトップとなる。

つまり、酒類からリゾート、オークション、ペットフードと、まったく異なる業界をわたり歩いてきたのだ。前出の原田氏に劣らない業界バリエーションだ。

日本ヒルズ・コルゲートは、犬や猫のウェルネスを考慮したペットフードを得意とする

人を育ててこそ経営者

だが、疑問も残る。これほど多様な業界をわたり歩いて、順応できるものなのだろうか。瀬口氏は「経営者の仕事は組織づくり。8割は組織作りに労力を使い、専門知識の習得は2割ほど」と話す。また、組織をつくるということは、人を育てるということと強調する。人を育てるということに関しては、業界は関係ないとも力強く語った。

ただ、これほど多様な業界をわたり歩いているのは、瀬口氏の性格にも起因していそうだ。「同じ業界の企業に移っても面白くない。異なる業界だからこそ新たな刺激になる」(瀬口氏)という。まったく違う客層に接せられることが、楽しみなのだそうだ。

また、自分が日本人であることも強みだという。前述のとおり、瀬口氏はグローバル企業のトップとして活躍してきた。ただ、日本法人となると特殊で、日本ならではの商習慣が存在する。瀬口氏は、グローバル企業の常識と、日本ならではの商習慣を理解している。そうしたスキルがあるからこそ、さまざまな企業のトップに招聘されるのかもしれない。

今後の瀬口氏の活躍に期待したい。

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

2017.05.29

2017年5月26日、大阪府堺市のシャープ本社で開催された中期経営計画の発表会見。シャープの戴正呉社長は、少しでも早く、この内容を発表したくて仕方がなかったようだ。

シャープ代表取締役社長 戴正呉氏

開始予定時刻は、午後3時10分。戴社長は開始時間よりも、かなり早く雛壇にあがることが多いが、今回は、開始10分前に、記者やアナリストに資料が配布された直後に雛壇に着席。司会者に向かって、「資料が配付されたのならば始めよう」と促す異例の状況となった。司会者とは、「まだ6分あります。みなさんには3時10分とお伝えしているので、まだ来られる方がいます。もう少しお待ちください」といったやりとりの一幕もあった。

警備が厳しいグリーンフロント堺の入口からは、徒歩で10分以上はかかる同社本社での会見。車で来場しても、ゲートを通過してから会場に入るまでには、2分以上の時間は必要だ。司会者はそれを見越したのか、予定時刻の1分半前には、戴社長の要望通り、前倒しにして会見をスタートした。中期経営計画の会見が予定時間から前倒しでスタートした例は、長年の記者経験でも初めてだ。

一方で、会見の質疑応答では、日本経済新聞の記者に噛みつくシーンも見られた。

「日経新聞には反論したい。シャープは人員削減とばかり報道しているが本当なのか。それは個人の意見。まずい報道ばかりだ。亀山工場は、1400人の社員数が4000人になっている。実際の状況をチェックして報道してほしい」と、質問に答える前に、それまでの雰囲気とは違う、強い口調で反論してみせた。

2016年4月に行われた鴻海によるシャープ買収の会見でも、鴻海流ともいえる同社が主導権を持った会見スタイルが注目されたが、今回の会見でも、そのスタイルが健在であることを示してみせた。

2017年度に最終利益の黒字化を目指す

シャープが、鴻海傘下で初めて発表した中期経営計画の内容は、2019年度に売上高で3兆2500億円、営業利益では1500億円を目指すというものだ。

また、これに伴い、2016年度通期業績発表時には公表を見送っていた2017年度の業績見通しについても発表。売上高は前年比22.4%増の2兆5100億円、営業利益は44.1%増の900億円、経常利益は215.1%増の790億円、当期純利益は前年度のマイナス248億円の赤字から590億円の黒字への転換を予想。さらに、2018年度の売上高予想も2兆8900億円であることを公表した。

シャープの戴正呉社長は、「シャープは、2014年度には2000億円以上の赤字だった。だが、2016年10月以降から営業利益が黒字になった。これは私の実績。私は、有言実現の人である」とし、「この計画は、今年2月以降、10回以上に渡って検討を行ったものであり、数字には自信がある。2017年度の最終黒字化を実現し、2019年度の目標も必ず達成する」と、計画達成には強い意思をみせる。

2016年8月から鴻海傘下での再生をスタート。その舵取りを担ってきた戴社長にとって、短期間にここまでの業績回復を達成してきた自信が、この発言につながっているといえよう。

「2016年度は構造改革に取り組んできた。だが、今回の中期経営計画では、2020年度以降の『次の100年における持続的成長』を確実なものにするために、『ビジネスモデルの変革』、『グローバルでの事業拡大』、『経営基盤の強化』の3つのトランスフォーメーションに取り組んでいく」とする。

8KとAIoTを軸に

その軸になるのが、「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」だ。戴社長は、「8KとAIoT(AIとIoT)で世界を変える」と、今後のシャープの基本方針を示してみせる。

これまでにも戴社長は、「シャープは家電メーカーから脱却する」といってきたが、言い換えれば、この2つの領域に、シャープは事業を集中させ、成長戦略を打ち出すことをより明確に示したともいえる。

たとえば、人に寄り添うIoTでは、「人々の生活を取り巻くAIoTに対応した機器が、変化に気づき、考えて、提案をしてくれる新たなパートナーになる。それによって、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティへ取り組みをシャープがリードする」と語る。

また、8Kエコシステムにおいては、「シャープの強みを軸にして、低価格の8Kカメラ、編集システムを実現することで8Kコンテンツを拡大すること、8K映像を配信するインフラ環境を整備し、8K表示機器および映像伝送のためのインターフェースで業界を先導するといった3つの重点領域に注力するとともに、他社とのアライアンスを推進することになる」とする。ここでは亀山工場で、8Kテレビの生産を行いたいとの意向を示し、それにあわせて亀山工場への投資を進めることも明らかにした。

この2つの事業は、シャープが新たな事業ドメインとして設定したスマートホーム、スマートビジネスソリューション、アドバンスディスプレイシステム、IoTエレクトロデバイスの4つの事業を横断する形で推進することになる。

そのため、全社に横串を刺すことを目的に、AIoT戦略推進室、8Kエコシステム戦略推進室をそれぞれ設置して、One SHARPとしての事業推進を図る。

注目しておきたいのが、この2つの戦略推進室の人事だ。

AIoT戦略推進室の室長には、社外取締役を務めていた元ソニーの石田佳久氏、そして、8Kエコシステム戦略推進室の室長には、元NHKの西山博一氏をそれぞれ起用する。

「石田氏は、ソニー時代には、テレビを担当していたが、それ以前にはパソコンのVAIOやソニーモバイルを担当していた。テレビは仕方なくやった。この分野は専門である。また、西山氏は、NHK出身。5月25日~28日まで、NHKと一緒に、大相撲夏場所の8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイングを東京で開催した。2018年にはNHKが8Kの実用放送をスタートする。8Kでは、テレビだけでなく、カメラも作りたいと考えている」などとし、それぞれの分野の専門家を登用した人事に自信をみせる。

ちなみに、経営層の人事では、2015年には取締役が15人、執行役員が24人いた体制を、取締役が9人、執行役員を12人に削減。シャーププロパーの取締役は、財務担当の野村勝明氏だけになる。その野村氏も、一度はシャープを出て、鴻海が出資したSDPで会長を務めてきた経験者。鴻海傘下での中期経営計画は、シャープの血を薄めて推進することになる。

一方で、4つの事業ドメインを細かく見てみると、この中期経営計画のゴール設定が意欲的であることがわかる。

たとえば、スマートホームは、2016年度実績では5506億円だった売上高を、2019年度には1兆円以上へと倍増する計画を打ち出している。また、IoTエレクトロデバイスは、2016年度実績の4136億円を、2019年度には8000億円以上に拡大。やはり倍増を目指す計画だ。2016年度実績の8420億円を、2019年度には1兆円以上に拡大するアドバンスディスプレイシステムとともに、1兆円規模の柱を3本創出する考えだ。そこに、収益性の高いスマートビジネスソリューションを、2016年度の実績の3177億円から、2019年度には4500億円以上と着実に成長させるというシナリオだ。

また、別の角度から見ると、2019年度の海外売上高は2016年度実績の1.8倍に拡大。とくに、テレビ市場への再参入を図る欧州では、この3年間で3.3倍にまで拡大。中国市場でもテレビにおける付加価値展開を軸に、2.5倍に拡大する計画だ。

「シャープはガラパゴスにならないように、国籍は関係なく、グローバル人材を登用。経営の現地化をしていく」とする。

さらに、デバイスという観点でみれば、IoTデバイスや8Kデバイス、車載デバイスなどの成長により、今後3年間で、1.6倍の事業拡大を目指すという。

鴻海とのシナジー効果をどこで発揮させるか

こうした高い成長計画のベースになっているのは、シャープの強みが発揮できるところを伸ばすという基本姿勢と、その成長において鴻海が持つ力をとことん利用しようという姿勢だ。

また、戴社長は、「シャープは、幅広い事業、独自技術、商品の独創性、革新的なデバイスという強みを持つ。だが、その一方で、商品ラインアップ、デバイス設備の世代更新、グローバル展開を支える人材・リソースといった点での課題がある。強みをさらに強化するとともに、マネジメント力の強化、鴻海グループとのシナジーにより、AIとIoT、8Kエコシステムといった『新技術』と、技術力とコスト力を生かした事業拡大による『グローバル市場』を、当社が狙う事業機会と位置づけている」と説明する。

言い換えれば、新技術での成長は、シャープの得意分野を生かしたものであり、グローバル市場での成長は鴻海とのシナジーによる成果ということになる。

「シャープでは、事業企画の強化やローカルフィット、コア技術開発の強化、工場のスマート化など、付加価値モデルの創出とビジネスモデルの転換に注力する。その一方、共同開発、共同調達、生産委託、物流において、鴻海とのシナジー効果を生かし、事業拡大のスピードを効率的に高めていくほか、OEMやOEMベンダーとの連携、サービス事業者との連携を図るなど、社内外のリソースを効果的に組み合わせることで、バリューチェーンを最適化し、事業拡大、ビジネスモデルの転換を加速する」と、戴社長は基本戦略を示す。

戴社長は、この9カ月間で、シャープの強みと弱みを熟知し、それを素直に中期経営計画に反映させたともいえる。

「過去の経営陣の失敗は、責任感の問題」と言い切る戴社長。経営陣を完全に刷新し、本当の意味での鴻海による再生が始まったといえる。