「役員人事」の記事

社長から社長への転身、プロ経営者の存在とは?

社長から社長への転身、プロ経営者の存在とは?

2017.12.22

常々、不思議に思うことがある。経営者と呼ばれる方々は、数年で転社し、そしてまた経営者として活躍される。これは、どういうことなのだろうか。

有名なプロ経営者の例を挙げてみよう。たとえば、サントリーホールディングスの代表取締役社長 新浪剛史氏。氏はローソン代表取締役社長兼CEOを経て、現職に就いた。もともと三菱商事の外食関連の職に就いており、飲食に関係の深いコンビニや酒類メーカーの経営者となった。

まったく異なる業界の経営者としてわたり歩く例もある。たとえば原田泳幸氏。アップルコンピュータ代表取締役兼米アップルコンピュータのヴァイスプレジデントを務めたのち、日本マクドナルドのCEOになった。当時は「マックからマックへ」という表現で、多くのニュースで報道された。その後、ベネッセホールディングスの会長兼社長に就任したが、就任直後におよそ2000万件の個人情報流出が発覚。ほとんど活躍できないまま、同社を去った。ベネッセの件は、不運だったといわざるをえない。

ただ、コンピュータから外食産業、教育企業という、まったく異なる業界の経営者を歴任した有名な例といえよう。

酒類業界からリゾート、オークションをわたり歩く

日本ヒルズ・コルゲートの瀬口盛正氏

このように、まったく異なる業界をわたり歩いている経営者は、ほかにもいる。たとえば10月から日本ヒルズ・コルゲートの代表取締役社長になった瀬口盛正氏。日本ヒルズ・コルゲートは、ペット用食品のグローバル企業、Hill's Pet Nutritionの日本法人だ。

では、瀬口氏はどのような業界をわたり歩いてきたのだろうか。企業トップとして活躍した例をみてみよう。

2003年にマキシアム・ジャパンの代表取締役社長になった。マキシアムは、レミー・マルタンやジム・ビームといった酒ブランドを所有する企業。オランダに本社を置く、グローバルな酒類企業だ。続いてマキシアム・メキシコの代表取締役社長に就任する。続いて、2009年にクラブメッドの上席副社長になり、2011年には同社の代表取締役社長に就任。クラブメッドは、リゾートをユーザーに提供する企業で、地中海のバカンスで有名だ。「エーゲ海に捧ぐ」という映画を観た世代なら、同社の名前に聞き覚えがあるだろう。

瀬口氏のキャリアはまだまだ続く。クラブメッドのあとはサザビーズジャパンの代表取締役社長となる。サザビーズは、美術品を中心としたオークション運営企業で、18世紀に設立された老舗だ。ルノワール作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」という絵画を、バブル期に119億円で日本人が落札したことで大きなニュースになった。サザビーズジャパンは、そのオークション企業の日本法人だ。そしてその後、現在の日本ヒルズ・コルゲートのトップとなる。

つまり、酒類からリゾート、オークション、ペットフードと、まったく異なる業界をわたり歩いてきたのだ。前出の原田氏に劣らない業界バリエーションだ。

日本ヒルズ・コルゲートは、犬や猫のウェルネスを考慮したペットフードを得意とする

人を育ててこそ経営者

だが、疑問も残る。これほど多様な業界をわたり歩いて、順応できるものなのだろうか。瀬口氏は「経営者の仕事は組織づくり。8割は組織作りに労力を使い、専門知識の習得は2割ほど」と話す。また、組織をつくるということは、人を育てるということと強調する。人を育てるということに関しては、業界は関係ないとも力強く語った。

ただ、これほど多様な業界をわたり歩いているのは、瀬口氏の性格にも起因していそうだ。「同じ業界の企業に移っても面白くない。異なる業界だからこそ新たな刺激になる」(瀬口氏)という。まったく違う客層に接せられることが、楽しみなのだそうだ。

また、自分が日本人であることも強みだという。前述のとおり、瀬口氏はグローバル企業のトップとして活躍してきた。ただ、日本法人となると特殊で、日本ならではの商習慣が存在する。瀬口氏は、グローバル企業の常識と、日本ならではの商習慣を理解している。そうしたスキルがあるからこそ、さまざまな企業のトップに招聘されるのかもしれない。

今後の瀬口氏の活躍に期待したい。

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

V字回復を宣言するシャープ、家電メーカーからの脱却は本物か?

2017.05.29

2017年5月26日、大阪府堺市のシャープ本社で開催された中期経営計画の発表会見。シャープの戴正呉社長は、少しでも早く、この内容を発表したくて仕方がなかったようだ。

シャープ代表取締役社長 戴正呉氏

開始予定時刻は、午後3時10分。戴社長は開始時間よりも、かなり早く雛壇にあがることが多いが、今回は、開始10分前に、記者やアナリストに資料が配布された直後に雛壇に着席。司会者に向かって、「資料が配付されたのならば始めよう」と促す異例の状況となった。司会者とは、「まだ6分あります。みなさんには3時10分とお伝えしているので、まだ来られる方がいます。もう少しお待ちください」といったやりとりの一幕もあった。

警備が厳しいグリーンフロント堺の入口からは、徒歩で10分以上はかかる同社本社での会見。車で来場しても、ゲートを通過してから会場に入るまでには、2分以上の時間は必要だ。司会者はそれを見越したのか、予定時刻の1分半前には、戴社長の要望通り、前倒しにして会見をスタートした。中期経営計画の会見が予定時間から前倒しでスタートした例は、長年の記者経験でも初めてだ。

一方で、会見の質疑応答では、日本経済新聞の記者に噛みつくシーンも見られた。

「日経新聞には反論したい。シャープは人員削減とばかり報道しているが本当なのか。それは個人の意見。まずい報道ばかりだ。亀山工場は、1400人の社員数が4000人になっている。実際の状況をチェックして報道してほしい」と、質問に答える前に、それまでの雰囲気とは違う、強い口調で反論してみせた。

2016年4月に行われた鴻海によるシャープ買収の会見でも、鴻海流ともいえる同社が主導権を持った会見スタイルが注目されたが、今回の会見でも、そのスタイルが健在であることを示してみせた。

2017年度に最終利益の黒字化を目指す

シャープが、鴻海傘下で初めて発表した中期経営計画の内容は、2019年度に売上高で3兆2500億円、営業利益では1500億円を目指すというものだ。

また、これに伴い、2016年度通期業績発表時には公表を見送っていた2017年度の業績見通しについても発表。売上高は前年比22.4%増の2兆5100億円、営業利益は44.1%増の900億円、経常利益は215.1%増の790億円、当期純利益は前年度のマイナス248億円の赤字から590億円の黒字への転換を予想。さらに、2018年度の売上高予想も2兆8900億円であることを公表した。

シャープの戴正呉社長は、「シャープは、2014年度には2000億円以上の赤字だった。だが、2016年10月以降から営業利益が黒字になった。これは私の実績。私は、有言実現の人である」とし、「この計画は、今年2月以降、10回以上に渡って検討を行ったものであり、数字には自信がある。2017年度の最終黒字化を実現し、2019年度の目標も必ず達成する」と、計画達成には強い意思をみせる。

2016年8月から鴻海傘下での再生をスタート。その舵取りを担ってきた戴社長にとって、短期間にここまでの業績回復を達成してきた自信が、この発言につながっているといえよう。

「2016年度は構造改革に取り組んできた。だが、今回の中期経営計画では、2020年度以降の『次の100年における持続的成長』を確実なものにするために、『ビジネスモデルの変革』、『グローバルでの事業拡大』、『経営基盤の強化』の3つのトランスフォーメーションに取り組んでいく」とする。

8KとAIoTを軸に

その軸になるのが、「人に寄り添うIoT」と「8Kエコシステム」だ。戴社長は、「8KとAIoT(AIとIoT)で世界を変える」と、今後のシャープの基本方針を示してみせる。

これまでにも戴社長は、「シャープは家電メーカーから脱却する」といってきたが、言い換えれば、この2つの領域に、シャープは事業を集中させ、成長戦略を打ち出すことをより明確に示したともいえる。

たとえば、人に寄り添うIoTでは、「人々の生活を取り巻くAIoTに対応した機器が、変化に気づき、考えて、提案をしてくれる新たなパートナーになる。それによって、スマートホーム、スマートオフィス、スマートファクトリー、スマートシティへ取り組みをシャープがリードする」と語る。

また、8Kエコシステムにおいては、「シャープの強みを軸にして、低価格の8Kカメラ、編集システムを実現することで8Kコンテンツを拡大すること、8K映像を配信するインフラ環境を整備し、8K表示機器および映像伝送のためのインターフェースで業界を先導するといった3つの重点領域に注力するとともに、他社とのアライアンスを推進することになる」とする。ここでは亀山工場で、8Kテレビの生産を行いたいとの意向を示し、それにあわせて亀山工場への投資を進めることも明らかにした。

この2つの事業は、シャープが新たな事業ドメインとして設定したスマートホーム、スマートビジネスソリューション、アドバンスディスプレイシステム、IoTエレクトロデバイスの4つの事業を横断する形で推進することになる。

そのため、全社に横串を刺すことを目的に、AIoT戦略推進室、8Kエコシステム戦略推進室をそれぞれ設置して、One SHARPとしての事業推進を図る。

注目しておきたいのが、この2つの戦略推進室の人事だ。

AIoT戦略推進室の室長には、社外取締役を務めていた元ソニーの石田佳久氏、そして、8Kエコシステム戦略推進室の室長には、元NHKの西山博一氏をそれぞれ起用する。

「石田氏は、ソニー時代には、テレビを担当していたが、それ以前にはパソコンのVAIOやソニーモバイルを担当していた。テレビは仕方なくやった。この分野は専門である。また、西山氏は、NHK出身。5月25日~28日まで、NHKと一緒に、大相撲夏場所の8Kスーパーハイビジョンパブリックビューイングを東京で開催した。2018年にはNHKが8Kの実用放送をスタートする。8Kでは、テレビだけでなく、カメラも作りたいと考えている」などとし、それぞれの分野の専門家を登用した人事に自信をみせる。

ちなみに、経営層の人事では、2015年には取締役が15人、執行役員が24人いた体制を、取締役が9人、執行役員を12人に削減。シャーププロパーの取締役は、財務担当の野村勝明氏だけになる。その野村氏も、一度はシャープを出て、鴻海が出資したSDPで会長を務めてきた経験者。鴻海傘下での中期経営計画は、シャープの血を薄めて推進することになる。

一方で、4つの事業ドメインを細かく見てみると、この中期経営計画のゴール設定が意欲的であることがわかる。

たとえば、スマートホームは、2016年度実績では5506億円だった売上高を、2019年度には1兆円以上へと倍増する計画を打ち出している。また、IoTエレクトロデバイスは、2016年度実績の4136億円を、2019年度には8000億円以上に拡大。やはり倍増を目指す計画だ。2016年度実績の8420億円を、2019年度には1兆円以上に拡大するアドバンスディスプレイシステムとともに、1兆円規模の柱を3本創出する考えだ。そこに、収益性の高いスマートビジネスソリューションを、2016年度の実績の3177億円から、2019年度には4500億円以上と着実に成長させるというシナリオだ。

また、別の角度から見ると、2019年度の海外売上高は2016年度実績の1.8倍に拡大。とくに、テレビ市場への再参入を図る欧州では、この3年間で3.3倍にまで拡大。中国市場でもテレビにおける付加価値展開を軸に、2.5倍に拡大する計画だ。

「シャープはガラパゴスにならないように、国籍は関係なく、グローバル人材を登用。経営の現地化をしていく」とする。

さらに、デバイスという観点でみれば、IoTデバイスや8Kデバイス、車載デバイスなどの成長により、今後3年間で、1.6倍の事業拡大を目指すという。

鴻海とのシナジー効果をどこで発揮させるか

こうした高い成長計画のベースになっているのは、シャープの強みが発揮できるところを伸ばすという基本姿勢と、その成長において鴻海が持つ力をとことん利用しようという姿勢だ。

また、戴社長は、「シャープは、幅広い事業、独自技術、商品の独創性、革新的なデバイスという強みを持つ。だが、その一方で、商品ラインアップ、デバイス設備の世代更新、グローバル展開を支える人材・リソースといった点での課題がある。強みをさらに強化するとともに、マネジメント力の強化、鴻海グループとのシナジーにより、AIとIoT、8Kエコシステムといった『新技術』と、技術力とコスト力を生かした事業拡大による『グローバル市場』を、当社が狙う事業機会と位置づけている」と説明する。

言い換えれば、新技術での成長は、シャープの得意分野を生かしたものであり、グローバル市場での成長は鴻海とのシナジーによる成果ということになる。

「シャープでは、事業企画の強化やローカルフィット、コア技術開発の強化、工場のスマート化など、付加価値モデルの創出とビジネスモデルの転換に注力する。その一方、共同開発、共同調達、生産委託、物流において、鴻海とのシナジー効果を生かし、事業拡大のスピードを効率的に高めていくほか、OEMやOEMベンダーとの連携、サービス事業者との連携を図るなど、社内外のリソースを効果的に組み合わせることで、バリューチェーンを最適化し、事業拡大、ビジネスモデルの転換を加速する」と、戴社長は基本戦略を示す。

戴社長は、この9カ月間で、シャープの強みと弱みを熟知し、それを素直に中期経営計画に反映させたともいえる。

「過去の経営陣の失敗は、責任感の問題」と言い切る戴社長。経営陣を完全に刷新し、本当の意味での鴻海による再生が始まったといえる。

ANAの社長交代会見が招いた少し笑えない意外な事態

ANAの社長交代会見が招いた少し笑えない意外な事態

2017.02.16

2月16日午前、耳を疑うようなニュースが流れた。ANAホールディングス傘下の全日空が「重要な経営課題」について、同日午後3時に記者会見を開くという。重要な経営課題という表現は、どうしても“不祥事”に直結してしまう。

時期も悪かった。ここ最近は大企業の不祥事が頻発している。それもあって、“ネガティブなこと”に思考が傾きやすい。

さて、この手の記者会見の場合、ごくまれに、新聞やテレビ報道陣のみに限定されることがある。そのため、ウェブ媒体であるマイナビニュースが入場できるのか、ANA広報部に確認の電話をかけた。

広報部の答えは「どうぞ、どうぞ。ぜひいらしてください」というものだった。これから不祥事を発表するとは思えない、ストレスフリーの明るい口調だった。「ん?」とは思ったが、広報という立場上、メディアに対する口調に悲壮感は出せないのかもしれない。

だが、すぐに理由がわかった。昼には一部のメディアが「今回の発表は社長交代か」という趣旨のニュースを報道した。だが、何しろあの表現だ。そのニュースを読んでも、社長交代だけでなく、重要な何かが発表されるのだろうと考えた。

マーケットも敏感だった。“重要な経営課題”という表現は“悪材料”を想像させたらしく、ANAホールディングス株は大きく下落。社長交代という報道が出たあとも大きく乱高下した。

会見を行う篠辺氏(左)と平子氏(右)

そして午後3時、会見は始まった。その内容は、全日空の代表取締役社長 篠辺修氏が3月31日をもって退任し、4月1日に取締役執行役員 平子裕志氏が代表取締役社長に昇格するというものだった。篠辺氏はANAホールディングスの取締役副会長に就任する。

会見は10分ほどで終わった。その後は質疑応答となったが、そのなかで篠辺氏は「重要な経営課題という表現が株価に影響してしまいました。今後の人事発表では、ほかの表現にします」と反省。「ただ、社長人事も重要な経営課題なのですが……」と苦笑いした。

さて、「今回の発表は社長交代」という報道が、記者発表の午後3時を待たずに流れたが、ひょっとしてひょっとすると、株価下落に驚いたANA側がリークしたのかもしれない、などと考えてしまった。