「家電」の記事

東芝「白物家電」の現在地、再スタートから2年半… 新社長が語る2019年

東芝「白物家電」の現在地、再スタートから2年半… 新社長が語る2019年

2019.02.12

立ち直りつつある東芝「白物家電」の決算

マイディア効果が大きかった2018年の成長

新体制で改めて挑む白物家電の成長戦略

「中国マイディアグループ傘下で再スタートを切ってから約2年半を経過し、2018年から、いよいよ成果が出てきたというのが実感である」--。

東芝ブランドの白物家電事業を行う東芝ライフスタイル(TLSC)が、2018年度の成果と、2019年度以降の事業方針について説明した。同社の小林伸行社長にとっては、2018年4月に社長に就任してから初の方針説明の場となった。その内容は、初の通期黒字化や製品ラインアップの拡充など、統合の成果が生まれていることを示すものであった。

2018年度は初の通期黒字化を達成

中国マイディア効果が寄与した2018年の成長

東芝ライフスタイル 取締役社長の小林伸行氏

同社の2018年度(2018年1月~12月)の売上高は2,620億円。新体制がスタートする以前の2016年度の売上高である約2,400億円からは約220億円、同2017年度からは100億円強の増収となり、2年間で約10%の成長を遂げた。

また、税引前利益は、2016年度および2017年度はいずれも赤字だったが、2018年度はそこから約60億円改善して、「わずかだが、黒字になった」(小林社長)という。

黒字化の要因について、小林社長は、「コスト削減効果が大きかった。また、マイディアグループの調達力が寄与している」とマイディアとの連携効果をあげる一方、「これまでに一時休止していたカテゴリーの製品を強化したり、新たなカテゴリーの商品を投入したことが大きかった」とも説明する。

そこでは、商品力、開発・設計力の強化や、コスト競争力強化、市場・商品ラインアップの拡充がポイントであり、「グループ製造拠点の相互乗り入れによる効率運用、大規模調達力によるコスト競争力強化による効果が出ている」という。

たとえば、冷蔵庫を例にあげると、東芝ライフスタイルが持つ中国の工場の生産性は、2016年に比べて、80%も向上したという。また、400リットルクラスの冷蔵庫では、生産コストを20%も削減できたともいう。

マイディアとの連携がコスト競争力強化に繋がった

小林社長はこれを、「中国の工場の生産キャパシティは約100万台。だが、統合前は稼働率が半分に留まっていた。現在は、東芝ブランドの冷蔵庫を、マイディアの中国の販売ルートに乗せたり、マイディアブランドの冷蔵庫を生産するといったことで、フル稼働しており、それが生産性を高めることにつながった」と説明する。

今の東芝ライフスタイルの強みとは?

世界第2位の家電メーカーならではの調達力は、とても大きな要素だ。

かつての体制では、中国向けには、年間100万台の冷蔵庫を生産しているにすぎなかった。だが、マイディアグループでは、年間2,500万台の冷蔵庫を中国向けに生産している。これが「圧倒的な調達力が強みになり、冷蔵庫以外の様々な製品で生かされている」という。

そして、新たに12カテゴリーの製品を投入したことが、売上げ拡大に貢献した。

実際に同社はマイディアの生産力、コスト力を活かし、これまでカバーできていなかった日本市場向けの150リットルクラスの小型冷蔵庫、16リットル以下の電子レンジや、単機能の電子レンジ、4.5kgの洗濯機などの製品を矢継ぎ早に追加した。

一方で小林社長は、意識改革、成果主義の徹底も、成長につながるポイントになったと振り返る。

権限を委譲する代わりに、責任を持たせ、利益を配分する成果主義の手法を徹底した。小林社長は「これで、従業員の意識は大きく変化した」とし、これが、「自分たちの会社、あるいは自分たちのブランドを継続し、発展させていくという意識につながった」と話す。さらに、組織体制の効率化、プロセスの見直しによるコスト改善、評価制度の見直しなど、直接的な数字に表れていない部分での改善も進め、これが、「成長を支えるバッググランドになった」とも話す。

小林社長は、この変革を「自分ゴトの会社風土の熟成」と表現した。他人ゴトではなく、自らが率先して取り組み、自立した組織風土に作り替えている。大企業の意識から脱却し、スタートアップ企業のような文化を作ろうとしている。

意識を変え、「自分ゴトの会社風土の熟成」を進める

小林社長は、「事業を継続するためには、すべてのステイクホルダーから、東芝ライフスタイルという会社が必要であると認めてもらわなくては成り立たない。そうしなければ自立ができたとはいえない。その中心にいるのがお客様である。お客様を中心に置き、将来に向けて成長に向けて、自らが投資をしていく。そのためには、利益を自分たちで生み出す必要がある」とし、「まだ少しだけの黒字ではあるが、それが自信につながり、これからやっていけるという確信につながる。私自身もそうだし、従業員もそうである」と、意識改革の重要性を重ねて強調する。

立ち直りつつある状況、残る課題は?

だが、その一方で、「スピードもまだまだ遅く、やらなくてはならないことも多い」と、手綱を締める。

たとえば、モノづくりにおいては次のように語る。

「東芝ブランドの白物家電は、お客様中心のモノづくりがDNAではあるが、ここ数年、それが少し足りなくなっていたという反省があった」

小林社長自身、東芝時代に約30年間に渡り、家電事業一筋で携わってきた経験を持つ。洗濯機以外の家電は、すべて担当したことがあると話す。

そうした経験から見た反省点を解決するため、2018年には社内に企画、デザイン、研究開発を一体化したコンシューマーイノベーションセンター(CIC)を設置した。

「(CICで)横串をさして、先行開発、デザイン力、商品力、そして、マイディアの技術を取り込んだグループ連携によって、総合力を生かせる体制を整えた。多様化している日本の消費者のライフスタイルにあわせた商品、サービスの提案を目指している。そうした製品やサービスを提供することが、大切であると認識しており、それをしっかりと評価していただくことが、今後の成長に直結する」

東芝の白物家電事業が持つDNAをしっかりと復活するため、土台づくりにも余念がないというわけだ。

東芝「白物家電」の2019年、どうやって成長する?

2019年以降の成長戦略も意欲的だ。

今後3年間の売上高の年平均成長率は10%、ROSは3年で5%を達成する目標を掲げた。

3年間で売上高を年平均10%成長、ROSは5%達成を目標とした

ここでは、製品ラインアップの拡大に加えて、継続的な効率化、コスト削減への取り組みを進める一方で、グローバル展開も視野に入れる。小林社長は、「現在の海外売上げ比率は約3割。まずは、4割程度にまで引き上げたい」と、海外事業を成長戦略の軸に据える考えだ。

2019年には、欧州市場に新たに参入し、2020年にはインド市場への参入を目指す。インドでは、電子レンジ、洗濯機、エアコンなどの製品投入を想定しているという。

だが、「白物家電としての東芝ブランドは、これから新たに作り上げていかなくてはならない」というハードルもある。インドや欧州では、東芝ブランドが知られてはいるが、それはテレビやPC(パソコン)によるものだからだ。

小林社長は、「東芝ブランドの白物専業メーカーとして、日本発のブランド戦略をグローバルで展開し、さらに成長し、グローバルで輝く東芝ブランドを作り上げていく」と意気込む。

日本からグローバルに展開し、再び「輝く東芝ブランド」構築へと意気込む

わずかとはいえ、2018年に黒字化したことは、東芝ライフスタイルの復活という意味では、大きなステップとなった。

「東芝時代から変わらないモノづくりのDNAの向こうに、我々の未来を見たい。スピードをあげて、意識を変えて、環境変化のスピードに置いていかれず、さらに、先回りできるように、変化を続け、事業を発展させたい」

マイディアグループの売上高は、2017年度実績で約4兆1,000億円。そのうちの8割が白物家電事業という内訳だ。

「主力事業が白物家電という会社のなかで事業を進めている。それが、東芝時代とは違う点。成長のチャンスを掴むことができた」

マイディアを後ろ盾に、新たに描かれた東芝「白物家電」の成長戦略。目に見えるかたちで、これをこれから新体制がどう推進していくのかが注目される。

一社独占の食洗機市場、切り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、切り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(後編)

モノのデザイン 第49回

日立があえて行った、縦型洗濯機の「控えめ」なリデザイン(後編)

2018.12.20

日立の縦型洗濯乾燥機「ビートウォッシュ」最新機種

デザインと耐久性の両立など、細部にまでこだわりが

日立の家電全体が目指す「控えめ」なデザインを体現した

洗浄力の高さで定評のある縦型洗濯機。今年11月、同カテゴリに属する日立アプライアンスの「ビートウォッシュ」シリーズに、最新機種が登場した。中でも最上位モデル「ビートウォッシュ BW-DX120C」は、機能面での進化に加え、外観上も大きく変わった。

同製品のデザインや設計・機構を担当したのは、日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部のデザイナー・二宮正人氏と、日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏。前回の記事に引き続き、一見しただけでは気づきにくい、細部にまでこだわり抜かれた要素やそれを実現するまでの苦労、問題を克服した方法について語っていただいた。

日立アプライアンスから11月に発売された縦型洗濯乾燥機の新製品「ビートウォッシュ BW-DX120C」。デザインを担当した日立製作所研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ プロダクトデザイン部のデザイナー・二宮正人氏(右)と、機構・設計部分を担当した、日立アプライアンス 家電・環境機器事業統括本部 多賀家電本部第一設計部技師の宗野義徳氏(左)に、製品化に至るまでのデザインにまつわるエピソードを伺った

難しかった「光」の調整

既存機種からの象徴的な変更として、天面のガラスパネル部分に操作部が移動し、タッチパネル式のディスプレーが採用された新製品。この変更については前回伺ったが、実はLEDの光らせ方自体にもこだわりがあるという。

二宮氏は、「通常、LEDというのは、ベース(下地)が黒であれば、コントラストも出しやすいというのが定説なんです。しかし、本体が白である本製品では、視認性を確保しつつも、LEDが消灯した際には見えないように隠すという調整がかなり難しかったのです。デザイナーとしては非常にこだわった部分です」と明かす。

確かに、本製品では使われているLEDは橙色と青色の2色だが、ガラス素材を通すことでかなり見え方は変わる。新製品の場合、橙色LEDを用いているが、ガラスを通すことでピンクがかった色味に見え、ソフトな印象を与える。

橙色をメインに、2色のLEDを採用したガラスパネル上の操作・表示部。白く透過性のあるガラス素材越しとなることで、輝度によっても見え方が大きく変わる。視認性を確保しつつデザイン上の違和感がない光らせ方の調整にも苦心したとのこと
操作部のボタンやインジゲーターのレイアウトやデザイン案。いくつものパターンが検討されたという

本製品では、機能がデザイン的にうまく昇華されている例が少なくない。その1つが操作パネルの裏側。基板が入っているために出っ張った構造になっているが、取っ手を付けることによって、掴みやすさとデザイン性を両立させている。

また、天面のフタが手前に向けてわずかに反りあがった形状になっているのも特徴だ。二宮氏曰く、「開けやすくするためであると同時に、デザイン上のアクセントにもなっています。反りあがっていることで、お客様の心理的になんとなく触れたくなる、開けたくなる効果というのもデザインで体現しているんです」とのこと。

宗野氏も「フタを開けた時の佇まいは、シャープでありながらも角に少し丸みを持たせたデザインになっています。尖ってはいるけれど危なくはなく、かっこよく見せるギリギリのところまで"R(角の丸み)"を小さくしました。完全に尖った感じではなく、少し丸みがあるほうが空間とも調和しやすいという狙いもあります」と続ける。

天面のフタの手元部分に配備されたシルバーの縁取りは、デザイン上のアクセントであり、ビートウォッシュのデザイン意匠。手前方向に反り上がりをあえて設け、ユーザーが触れたくなる衝動を掻き立てるとともに、シャープな印象を持たせて、全体のデザインを引き締める役割も担う。シャープさを損ねないレベルに角を丸くして、安全面への配慮と空間調和も図られている

デザインと耐久性の両立を目指した「洗剤投入口」

洗剤投入口にあたる部分も、デザイン上のこだわりが詰まった場所である。洗剤用のタンクは、取り外すとそのまま自立して置けるように設計。セットした際には、フタを閉めるとタンクが中に押し込まれて完全にはまる仕組みになっている。また、運転中にフタが振動で開いてしまうのを防ぐために、内側にはマグネットが埋め込まれ、吸着する仕組みが採用されている。

いずれもユーザーの操作性をよりよくするためにこだわり抜かれた工夫ではあるものの、一方で担保されなければならないのが耐久性だ。フタというのは、開け閉めが頻繁になされる部分でもあり、一般に壊れやすい。これを解消するために、設計・機構担当者とデザイナーとの主張は食い違う。宗野氏はその際の攻防を次のように明かした。

「設計・機構を担当する側としては、タンク取り付け部のフタは最低限タンクに覆いかぶさる部分だけに留めたいんです。最小限の面積にすることで、お客様はフタの重さを感じずに開け閉めできますし、耐久性もよくなります。しかし、デザイナー側からすると、フタの部分を途中で割ってしまうことですき間ができてしまう上に、デザイン上もシンメトリーではなくなり美しさが損なわれてしまうと主張されてしまいました(笑)。そこで、最終的にはフタは全体を覆う形の本体と同じ長さにしました。面積が大きくなることで壊れやすくなるという課題は、フタの素材を見直し、より硬めの素材を選定することで解決しました」

機構・設計的には、自動洗剤投入用のタンクに直接かぶさる部分だけに留めたかったと明かされた、手前側のフタの部分。シンメトリーを保つ外観の美しさはもちろん、凸凹や隙間を失くすことで汚れにくさや、手入れのしやすさも両立させたという。面積が大きくなったことでフタの部分に負担はかかりやすくなるが、強度のある素材を採用することで堅牢性を担保したという

ちなみに、新製品の本体サイズは、幅と高さに関して従来モデルと変わっていない。自動洗剤投入機能を搭載した関係で、奥行のみ70ミリほど増加している。だが、パッと見た目の印象は若干小ぶりにも見える。その点を指摘すると、二宮氏はデザイン上のトリックを次のように説明した。

「前のモデルに比べると、ガラスパネルの幅自体や位置を本体ギリギリのところまで伸ばして無駄な要素を省いたことで、スリムに見える効果が生まれています。それ以外では、先ほど述べたパネルの反り上がり形状で全体をシャープに見せているのと、正面から見ると絞られた印象になるよう最適なバランスを考えて、本体の洗濯槽側のほうにも傾斜をつけたりもしているので、より小さく見えるのだと思います」

前機種(右)に比べて、数値上は正面からのサイズは同じ。ガラスパネルの幅や位置を本体端側のギリギリまで拡大したり、微妙な傾斜をつけたりすることなどにより、新製品(左)のほうが視覚的には心なしかスリムに見えるようにデザインされている

新製品の"機能美"について改めて問いかけたところ、「すべて機能美で組みあがっている」と二宮氏。確かに、無駄やノイズをなくしてシンプルに研ぎ澄まされたデザインというよりは、ひとつひとつの機能が、目にわかるかたちでデザインとして昇華されていると感じる。

一見控えめであっても、人を魅了するデザイン

今回のビートウォッシュシリーズのリニューアルに先駆け、2016年にドラム式洗濯乾燥機「ビッグドラム」シリーズのデザインも一新している日立。しかし、今回の縦型洗濯機におけるデザインの刷新はそれに次ぐ流れではなく、まったく別のプロジェクトのもとで進められたのだという。

日立アプライアンスでは、今年2月に社長の德永俊昭氏が記者会見の席で、日立の家電全体のデザイン改革を進めていくという意向を発信しており、ビートウォッシュのデザインの変更はその一環として位置づけられている。

日立は家電全体で"一見控えめであっても、人を魅了するデザイン"を目指すべく、"Less,but Seductive"というデザイン共通言語を策定した。二宮氏は「気付かないけど、"感じる"というのがデザインとして成功していると思います。日立では、今までも使いやすさにこだわったものづくりを続けてきました。新製品ではその哲学を継承しつつも、日々の負担となる洗濯を少しでもポジティブにするための洗濯機を徹底して追及し、衣類をキレイに洗い上げるという性能を表すために、外観上も美しく清潔な佇まいを目指してデザインしました」と、製品全体としてのデザインコンセプトを総括した。

"一見控えめであっても、人を魅了するデザイン"を目指すべく策定された全社スローガン"Less,but Seductive"が昇華された新製品。ただシンプルに要素をそぎ落としていくというのではなく、パッと見それとは気づかない機能美をさりげなく散りばめつつも、違和感がなく心地よさを感じるという、デザインの真髄を体現したプロダクトと感じる

筆者は、10月に行われたビートウォッシュの新製品発表会でひと目見るなり、「この製品は奥が深そうだ」という印象を持った。実際に、開発経緯やエピソードを伺ってみると、満ち溢れた想像を超える作り手側のこだわりに、感心するばかりだった。今回の取材では、日立が家電全体で掲げた"一見控えめであっても人を魅了するデザイン"というデザインコンセプトが、製品に行き渡りはじめているのだなという実感を得ることができた。