いま世界中で、宇宙を舞台にしたビジネスが活況だ。

はやぶさ2の小惑星到着、ホリエモン率いるIST(インターステラテクノロジズ)によるMOMO2号機の打ち上げ(現在は3号機に向けたクラウドファンディングに挑戦中)、ZOZO前澤友作氏がSpaceXのロケットで月周回軌道に乗るプロジェクトを発表するなど、日本だけに目を向けても話題に事欠かない。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「2030年以降、有人での月面探査ミッションを目指す」ともしており、宇宙開発に必要な技術は日進月歩で進化している。

そうした航空宇宙産業の盛り上がりを支えている1つの企業が、ハイエンド基板の設計・製造に強みを持つOKIサーキットテクノロジー(OTC)だ。同社が製造するプリント基板は、JAXAの「お墨付き」を受けており、人工衛星やロケット開発・製造プロジェクトの多くで採用されている。同社の考える今後の事業戦略を聞くと、日本の今後の宇宙市場の姿が見えてきた。

宇宙事業に力を入れる、基板屋「OKIサーキットテクノロジー」山形県・鶴岡工場

「鶴岡から宇宙へ」庄内平野から宇宙を見つめるOTC

OTCは、山形県は鶴岡市・庄内平野の南部に位置する企業。2016年7月、NECのグループ会社である日本アビオニクスのプリント基板事業の譲渡を受けて以来、急激に航空宇宙分野での売り上げを成長させている。

OTC 代表取締役社長 西村浩氏

OTCの代表取締役社長を務める西村浩氏は、「今後は宇宙事業を収益の柱の1つに」と語る。

同社はもともとハイエンドなプリント基板、特に情報通信機器や制御装置、半導体製造装置といった分野に強みを持っていた。そこに日本アビオニクスの強みであった航空宇宙向けのプリント基板技術が加わったことで、航空宇宙事業が強化。2015年に4億円程であった航空宇宙分野での売り上げは、2019年には18億円、売上比率でいうと、全体の7% から23% にまで増加する見通しであるという。

「宇宙は、人工衛星の需要が増してきていること、民間での宇宙進出企業が勃興していることから、まだまだ成長の余地がある市場。当社の持つ技術を活かし、さらなる成長につなげていきたい」(西村氏)

プリント基板製造工程

技術はJAXAお墨付き「日本で唯一」全認定を取得

航空宇宙分野で同社の最大のクライアントとなるのが、JAXAだ。そこに部品を提供するためには、同機構の定める認定を取得する必要がある。プリント基板に関しては7種類あり、OTCは日本アビオニクスの事業継承後、急ピッチですべての認定取得を目指した。

「ロケットや衛星など、不具合の発生が膨大な損害を生み出す宇宙事業においては失敗が許されない。そのため、認定を得るためには高度な技術が求められ、苦労した」(西村氏)

通常、1つの認定を取得するためには早くて7~8カ月かかるそうだが、同社は2016年の事業取得後、2年ほどで5つの認証を取得。すでに持っていた2つの認定と合わせて、日本で唯一、すべての認定を持つ企業となった。まさに「JAXAお墨付き」というわけだ。短期間での認定取得を実現したことから、同社の技術力の高さがうかがえるエピソードである。

航空宇宙の分野における特徴として、求められる要求が高いこと、大型の設備を必要とするために多くの設備投資費用がかかることが挙げられる。そのため、同分野における企業の新規参入障壁は非常に高く、ライバルが少ない。結果、JAXAが搭載しているプリント基板のほとんどはOTCが提供するまでになった。

OTC工場内の浄水場。プリント基板を製造するためには巨額な設備投資が必要なことも、企業の新規参入を妨げる要因となっている

市場拡大のカギは民間の宇宙企業

しかし、ハイエンドな製品ばかりを提供していては、航空宇宙分野における市場の大幅な成長は期待できない。OTCの主要クライアントであるJAXAは年ごとに定められる国家予算によってある程度の支出額が決まってしまい、そもそもの市場規模が制限されているためだ。今後同社が航空宇宙事業をより大きくしていくためには、ISTのような新規の宇宙企業をクライアントとしていく必要がある。

そうはいっても、ISTは民生品を活用することで安価に宇宙を活用することを目指している企業。ハイエンドな部品は「欲しくても手が届かない」といったところだろう。そうした企業を相手に市場を広げていくとなれば、価格帯を下げて製品を提供する必要がある。

「航空宇宙事業の成長を目指すためには、民間企業との連携が必要となってくる。とはいえ、彼らのニーズとこちらが提供できる技術が異なる以上、双方のメリットがある関係性を築くことは難しいのが現状」(西村氏)

たとえ高価格であっても、高機能・高付加価値・高信頼性を求めるJAXAと、安価なものを求めるISTでは、ニーズが180度異なる。この異なる2つのニーズがどう交差し、新たな市場が生まれていくかが、OTCの航空宇宙事業、ひいては日本の宇宙開発市場を成長させる1つの鍵と言えるだろう。

現状、JAXAに提供する製品は、信頼性に重きを置くあまりに”高価格”となっていることは確かだそう。そう考えると、今後求められる要求が低くなれば、今よりも価格を抑えた生産も可能となることが期待できる。

「JAXAやISTなどの、対局にある2つの市場が歩み寄ることで、新たな市場が生まれることとなれば、当社のもつハイエンドな基板をつくれる技術は、今まで以上に活躍の場が広がることだろう。ここ数年で民間企業の宇宙進出が進んでいることから、そういった市場が生まれる可能性は高いと考えている」(西村氏)

少量多品種生産を求められる同社工場では、1日300ロット、合計4000枚程のプリント基板を製造している。ロット数が多いために、多くの作業は手作業で行われているのが特徴だ

活況な宇宙ビジネスは新たなチャンスを生み出すか

日本における民間企業の宇宙進出と言えばISTのほかにも、産業革新機構やANA、東京放送らから国内のシリーズAとしては過去最高規模となる103.5億円の資金を調達したことで話題になったispaceなどもある。

しかしグローバルを見てみると、火星移住を目指すイーロンマスクのSpaceXや、Amazon創業者のジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンなどが先行する。そうした企業と、日本のスタートアップたちの差は果てしなく大きい。

その差を埋めるためには、より多くのチャレンジャーが民間から登場するのと同時に、OTCのような企業が、性能と利益にある程度の折り合いを付けたコンポーネントを提供し、市場を育てていくことが求められる。将来的な市場の拡大を見越し、先行投資のフェーズととらえる時期が必要ではないだろうか。