「宇宙」の記事

月で藻を栽培せよ! JAXAとちとせ研究所が目指す「未来の宇宙食」

月で藻を栽培せよ! JAXAとちとせ研究所が目指す「未来の宇宙食」

2019.02.18

JAXAとちとせ研究所が共同研究を開始

将来の宇宙飛行士の食料は「藻」?

マット・デイモンに伝えたい、藻の無限の可能性

「マット・デイモンは、『藻』の可能性をわかっていませんでした」

とは、今回の取材中に思わず笑ってしまった言葉だ。火星に一人置き去りにされた宇宙飛行士の生存をかけた奮闘を描いた映画『オデッセイ』のワンシーンに対する言及であった。

劇中でマット・デイモン演じる植物学者のマーク・ワトニーは、火星の土とクルーの排泄物を使って食料となる「ジャガイモ」を栽培したが、彼が藻類学に明るければ、映画のストーリーは大きく変わっていたのかもしれない。

タベルモとJAXAが目指す、次世代の宇宙食

バイオベンチャー企業群のちとせ研究所は2018年9月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙探査イノベーションハブが実施した研究提案募集「穀物に頼らないコンパクトなタンパク質生産システム」に、同社の研究テーマが採択されたと発表した。

研究名は「食用藻類スピルリナを用いた省資源かつコンパクトなタンパク質生産システムの開発」。2018年10月より1年間、ちとせ研究所はJAXAと共同で、将来的な月面長期滞在を見据えた「藻」の月面生産システムの開発を手掛ける。

将来の月面・月周辺での活動風景イメージ:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

研究が順調に進み、実際に宇宙空間で藻の栽培が行われた暁には、宇宙飛行士が吐き出す二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、かつ増えた藻は栄養源として食べることができる、という一石二鳥な結果が期待される。

スピルリナはスーパーフードの王様

同研究に用いられるスピルリナとは、タンパク質含有量が高く(乾燥重量ベースで60% ほど)、さらにビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含む藻だ。スピルリナ1gから得られる栄養分は、1kgのバランスのとれた野菜と果物の栄養素に相当するとされており、健康食品として海外を中心に人気を集めている。

こうした理由からスピルリナは、「スーパーフードの王様」と呼ばれている。

ECサイトでは、冷凍パックの生スピルリナや、ヨーグルト仕立てのアイスなどを販売している

共同研究には、ちとせ研究所のグループ会社であるタベルモやIHIエアロスペース、藤森工業も参加する。

タベルモはこのスピルリナにおいて、独自の培養技術と急速冷凍技術を武器に急成長しているスタートアップ企業だ。2018年に三菱商事と旧産業革新機構(現在の産業革新投資機構)から17億円の資金調達し、同年末には「NEXTユニコーン 推定企業価値ランキング」(日本経済新聞)新素材領域で4位(推定価値・27億円)にランクインした。

そんなちとせ研究所、およびタベルモの新たな挑戦が「未来の宇宙食」を作ることであるわけだが、そもそも宇宙空間で藻を栽培するなんて可能なのだろうか。

実は宇宙と接点の多い「藻」

研究の提案者である、ちとせ研究所 藻類活用本部 本部長 星野孝仁氏は、「昔から、宇宙空間での空気と食料の自給システムに藻を利用しようと、さまざまな研究が進められていました」と説明する。

ちとせ研究所 藻類活用本部 本部長 星野孝仁氏

そもそも「宇宙空間での藻の活用」を目指す動きは、今に始まった話ではないのだとか。

最近の成果では、ESA(欧州宇宙機関)が2017年12月、生きたスピルリナを宇宙ステーション(ISS)へと打ち上げている。実験を行った結果、スピルリナは地球上と同じ速度で育ち、酸素を生成することも確認された。

さらに2018年9月には、アメリカ航空宇宙局(NASA)もスピルリナをISSに打ち上げ、微小重力下での増殖能力があるかを確認するための試験を行ったそうだ。

これらの状況を踏まえて星野氏は、「この研究が描く未来は決して夢物語ではなく、むしろリアリティが高いと言えるでしょう」と続ける。

場所をとらない、コンパクトな生成システムの開発へ

今回の研究は、まずは地上で「宇宙でも使える可能性の高い装置」を作る所から始まる。肝になるのは、宇宙飛行士の作業工数や使用する水・酸素・二酸化炭素・電力などのリソースをどれだけ抑えられるか、という点だ。

突き詰めるべきは、「閉鎖的な環境において、藻の栽培に必要不可欠な水やガス、栄養素を効率的に循環させる方法を探ること」(星野氏)だ。

宇宙空間では、輸送費の都合もあり「コップ一杯の水」を持っていくだけで何十万円という費用がかかる。そのため、藻の生産に必要な水はできるだけ少量に抑えなければならない。

「映画『オデッセイ』を想像すればわかりやすいかと思いますが、宇宙空間で植物工場を作ろう、といった話もあります。しかし、野菜の栽培には大量の水が必要不可欠です。宇宙空間で水は大変貴重な存在。藻を上手く活用すれば、より少量の水で、より栄養価の高い食物を、高効率で得られるのです」(星野氏)

そこで考えたのが、単純な水槽のような形ではなく、「板状」の光源に湿ったシートを被せてその内側で藻を栽培する仕組み。まだ研究途上のため装置は完成していないものの、すでにプロトタイプはできている。

スピルリナ製造装置(プロトタイプ)。画像右のLEDライトに、画像左のように湿ったシートを被せて藻を栽培する

ひとまずは、同様の原理を用いた装置をより進化させていき「1日あたり、乾燥重量で6g/㎡」のスピルリナ栽培を目指す。

現時点では光合成のために必要な光には人工光源を使用しているが、将来的には光ファイバーやレンズを用いて太陽光を使用する考え。また、藻の成長に必要な栄養素やガス(二酸化炭素)には、宇宙飛行士の排泄物や呼気を利用する。

「マット・デイモンは、『藻』の可能性をわかっていませんでした。藻は、その培養のスピードや、成長に必要な栄養素などの点で野菜とは異なるメリットを持っています。ですが、まだまだ研究は道半ば。藻の持つポテンシャルを最大限に活かせるような装置を作り、将来の宇宙空間での実験につなげたいですね」(星野氏)

宇宙だけじゃない? 藻で「未来の牛乳」も目指す

さらに同社は、この「未来の宇宙食」を目指す技術を、別のビジネスにも応用する考えだ。それは、各家庭に置けるコンパクトな藻の生産装置によって作られる「未来の牛乳」。同社ではそれを「ミルク」を文字って「モルク」と名付けている。

毎朝、牛乳の代わりに飲むもの――。それがモルクという名前に付けたメッセージだ。同社はこれを、近未来の課題と言われる「食糧危機問題」への解決策としても見据えている。

「藻は水と太陽光があれば栽培が可能なので、現在の限られた農場とスペースを取り合いません。今回のJAXAとの共同研究で得られる、コンパクトな藻の栽培装置のノウハウを活用すれば、いずれは各家庭に置けるほどの大きさで十分に機能するようになることでしょう」(星野氏)

「藻」が将来の宇宙食になり、かつ朝食のお供になる――、とはなんともSFチックな話ではあるが、研究採択期間が終わる今年の秋頃までには何らかの成果が発表されるわけだ。こうしている今も、未来がどんどん近づいている。

JAXAお墨付きの基板屋に見る、ニッポン宇宙産業の未来

JAXAお墨付きの基板屋に見る、ニッポン宇宙産業の未来

2018.09.27

宇宙ビジネスが活況。宇宙開発技術は日に日に進化している

プリント基板製造のOKIサーキットテクノロジーが航空宇宙分野で好調

今後の宇宙市場拡大の鍵を握るのは、JAXAと民間企業の歩み寄り

いま世界中で、宇宙を舞台にしたビジネスが活況だ。

はやぶさ2の小惑星到着、ホリエモン率いるIST(インターステラテクノロジズ)によるMOMO2号機の打ち上げ(現在は3号機に向けたクラウドファンディングに挑戦中)、ZOZO前澤友作氏がSpaceXのロケットで月周回軌道に乗るプロジェクトを発表するなど、日本だけに目を向けても話題に事欠かない。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は「2030年以降、有人での月面探査ミッションを目指す」ともしており、宇宙開発に必要な技術は日進月歩で進化している。

そうした航空宇宙産業の盛り上がりを支えている1つの企業が、ハイエンド基板の設計・製造に強みを持つOKIサーキットテクノロジー(OTC)だ。同社が製造するプリント基板は、JAXAの「お墨付き」を受けており、人工衛星やロケット開発・製造プロジェクトの多くで採用されている。同社の考える今後の事業戦略を聞くと、日本の今後の宇宙市場の姿が見えてきた。

宇宙事業に力を入れる、基板屋「OKIサーキットテクノロジー」山形県・鶴岡工場

「鶴岡から宇宙へ」庄内平野から宇宙を見つめるOTC

OTCは、山形県は鶴岡市・庄内平野の南部に位置する企業。2016年7月、NECのグループ会社である日本アビオニクスのプリント基板事業の譲渡を受けて以来、急激に航空宇宙分野での売り上げを成長させている。

OTC 代表取締役社長 西村浩氏

OTCの代表取締役社長を務める西村浩氏は、「今後は宇宙事業を収益の柱の1つに」と語る。

同社はもともとハイエンドなプリント基板、特に情報通信機器や制御装置、半導体製造装置といった分野に強みを持っていた。そこに日本アビオニクスの強みであった航空宇宙向けのプリント基板技術が加わったことで、航空宇宙事業が強化。2015年に4億円程であった航空宇宙分野での売り上げは、2019年には18億円、売上比率でいうと、全体の7% から23% にまで増加する見通しであるという。

「宇宙は、人工衛星の需要が増してきていること、民間での宇宙進出企業が勃興していることから、まだまだ成長の余地がある市場。当社の持つ技術を活かし、さらなる成長につなげていきたい」(西村氏)

プリント基板製造工程

技術はJAXAお墨付き「日本で唯一」全認定を取得

航空宇宙分野で同社の最大のクライアントとなるのが、JAXAだ。そこに部品を提供するためには、同機構の定める認定を取得する必要がある。プリント基板に関しては7種類あり、OTCは日本アビオニクスの事業継承後、急ピッチですべての認定取得を目指した。

「ロケットや衛星など、不具合の発生が膨大な損害を生み出す宇宙事業においては失敗が許されない。そのため、認定を得るためには高度な技術が求められ、苦労した」(西村氏)

通常、1つの認定を取得するためには早くて7~8カ月かかるそうだが、同社は2016年の事業取得後、2年ほどで5つの認証を取得。すでに持っていた2つの認定と合わせて、日本で唯一、すべての認定を持つ企業となった。まさに「JAXAお墨付き」というわけだ。短期間での認定取得を実現したことから、同社の技術力の高さがうかがえるエピソードである。

航空宇宙の分野における特徴として、求められる要求が高いこと、大型の設備を必要とするために多くの設備投資費用がかかることが挙げられる。そのため、同分野における企業の新規参入障壁は非常に高く、ライバルが少ない。結果、JAXAが搭載しているプリント基板のほとんどはOTCが提供するまでになった。

OTC工場内の浄水場。プリント基板を製造するためには巨額な設備投資が必要なことも、企業の新規参入を妨げる要因となっている

市場拡大のカギは民間の宇宙企業

しかし、ハイエンドな製品ばかりを提供していては、航空宇宙分野における市場の大幅な成長は期待できない。OTCの主要クライアントであるJAXAは年ごとに定められる国家予算によってある程度の支出額が決まってしまい、そもそもの市場規模が制限されているためだ。今後同社が航空宇宙事業をより大きくしていくためには、ISTのような新規の宇宙企業をクライアントとしていく必要がある。

そうはいっても、ISTは民生品を活用することで安価に宇宙を活用することを目指している企業。ハイエンドな部品は「欲しくても手が届かない」といったところだろう。そうした企業を相手に市場を広げていくとなれば、価格帯を下げて製品を提供する必要がある。

「航空宇宙事業の成長を目指すためには、民間企業との連携が必要となってくる。とはいえ、彼らのニーズとこちらが提供できる技術が異なる以上、双方のメリットがある関係性を築くことは難しいのが現状」(西村氏)

たとえ高価格であっても、高機能・高付加価値・高信頼性を求めるJAXAと、安価なものを求めるISTでは、ニーズが180度異なる。この異なる2つのニーズがどう交差し、新たな市場が生まれていくかが、OTCの航空宇宙事業、ひいては日本の宇宙開発市場を成長させる1つの鍵と言えるだろう。

現状、JAXAに提供する製品は、信頼性に重きを置くあまりに”高価格”となっていることは確かだそう。そう考えると、今後求められる要求が低くなれば、今よりも価格を抑えた生産も可能となることが期待できる。

「JAXAやISTなどの、対局にある2つの市場が歩み寄ることで、新たな市場が生まれることとなれば、当社のもつハイエンドな基板をつくれる技術は、今まで以上に活躍の場が広がることだろう。ここ数年で民間企業の宇宙進出が進んでいることから、そういった市場が生まれる可能性は高いと考えている」(西村氏)

少量多品種生産を求められる同社工場では、1日300ロット、合計4000枚程のプリント基板を製造している。ロット数が多いために、多くの作業は手作業で行われているのが特徴だ

活況な宇宙ビジネスは新たなチャンスを生み出すか

日本における民間企業の宇宙進出と言えばISTのほかにも、産業革新機構やANA、東京放送らから国内のシリーズAとしては過去最高規模となる103.5億円の資金を調達したことで話題になったispaceなどもある。

しかしグローバルを見てみると、火星移住を目指すイーロンマスクのSpaceXや、Amazon創業者のジェフ・ベゾス率いるブルーオリジンなどが先行する。そうした企業と、日本のスタートアップたちの差は果てしなく大きい。

その差を埋めるためには、より多くのチャレンジャーが民間から登場するのと同時に、OTCのような企業が、性能と利益にある程度の折り合いを付けたコンポーネントを提供し、市場を育てていくことが求められる。将来的な市場の拡大を見越し、先行投資のフェーズととらえる時期が必要ではないだろうか。