「大学入試改革」の記事

アップルの新iPad、失った教育市場でのシェアを回復できるか

アップルの新iPad、失った教育市場でのシェアを回復できるか

2018.04.04

アップルが米国時間の3月27日に発表した、新しい第6世代の「iPad」。デバイス的に見れば、Apple Pencilに対応したことを除きサプライズに乏しいものの、教育市場への販売強化を強く意識した内容となっていたことが、驚きをもたらしているようだ。なぜ、アップルはiPadで教育市場への注力を打ち出したのだろうか。

新iPadを教育市場に向け積極アピール

ここ最近、大きな注目を集める機会が少なかったアップルの「iPad」。特に、アップルがビジネスユースを意識した「iPad Pro」に力を入れるようになって以降、低価格モデルとなるiPadへの注力は日増しに弱まっていく印象さえ受けていたほどだ。

しかしながら3月27日(米国時間)、アップルはそのiPadに関する発表会を米国で実施。iPad Proではなく、iPadの発表会というだけでも驚きがあるが、その内容も異例というべきものだった。

今回発表された新しいiPad(第6世代)のスペックを見ると、チップセットが前世代の「A9」から「A10」に変更されたのに加え、従来iPad Proのみ対応していたApple Pencilに対応するなど変化を感じさせる部分は確かにある。だがデバイスのサイズや解像度が大きく変わっているわけではなく、新規性には乏しい印象も受ける。

アップルが新たに発表した第6世代のiPad。チップセットの性能向上に加え、従来iPad ProのみであったApple Pencilに対応したのが大きなトピックとなる(画像:アップルニュースルームより、以下同)

しかしながら、アップルはこのiPadを、従来通りコンシューマー向けとしてアピールするのではなく、教育市場向けのデバイスとしてアピールしたのである。実際、アップルが今回発表会を実施したのは米国・シカゴの学校だったようで、単に製品を発表するだけでなく、それを活用した授業の様子などをアピールしていたようだ。

またアップルは、新しいiPadとApple Pencilに関して、学校向けのディスカウントも用意。日本円でiPadが3万5800円、Apple Pencilが9800円で購入できるという。こうした点からも、アップルが新しいiPadで、いかに教育市場に力を入れようとしているかを見て取ることができるだろう。

伝統的に強かった教育市場でグーグルが台頭

アップルが教育市場に力を入れるのには、この市場で失ってしまった存在感を再び高めたい狙いがあることは明白だ。アップルは元々教育市場の開拓に熱心であり、かつては米国を中心としてMacの導入を積極的に進め、教育市場で高いシェアを獲得していた。

しかしながら近年、教育市場におけるアップルのシェアは大幅に縮小している。その理由の1つは、iPhoneの成功によってアップルが教育市場への関心を失っていったことが挙げられる。アップルが教育市場に力を入れてきたのには、Macのシェアが小さいが故、ビジネスユースよりも教育など、比較的ニッチながらも確実性がある市場を開拓することで、Macの販売を増やす狙いがあったといえるだろう。

だがiPhoneを提供して以降、アップルはコンシューマー市場においてMacをはるかに上回る成功を収め、現在も日本などを主体に、スマートフォン市場で高いシェアを獲得している。より大きなビジネスを重視するあまり、教育市場に向けた対応が手薄になっていた感は否めない。

2つ目の理由は、教育市場におけるグーグルの台頭である。グーグルはライセンス料金が無料の「Chrome OS」と、それを搭載した低価格のコンピューター「Chromebook」を提供しているが、てこのChromebookが、現在米国を中心として教育市場で高いシェアを獲得するにまで急成長しているのだ。

Chromebookは単に安いというだけでなく、元々ネットワークに接続して利用することを前提に設計されている。それゆえグーグルは、教育市場向けの「Chrome Education」などを用意、デバイスの集中管理がしやすい仕組みなどを提供することによって、教育市場で高い支持を得てシェア拡大へとつなげているのだ。

アップルがコンシューマー市場へ注力している間に、グーグルがChromebookで教育市場を攻め、気が付けば高いシェアを獲得するに至ってしまった。そうした状況を見て、アップルは教育市場でのシェア奪還を推し進めるべく、比較的価格が安いiPadを活用して教育市場向けのアピールを強めるに至ったといえる。

アップルが新しいiPadで狙うのは、シェアを失った教育市場での復活であり、そのためにも教育関連の機能やサービス充実が図られている

デバイスより重要となるソリューション

だがiPadというデバイス的側面だけで、教育市場で受け入れられるのは難しいだろう。そもそもiPadは、アップルの中では低価格だとはいえ、学校向けディスカウント込みで3万5800円、Apple Pencilを加えると4万5600円。Chromebookと比べると決して低価格とは言えないし、デバイスの選択肢がないのも弱みだ。

もちろん、iPadはインターフェースやアプリケーションなどの面で優位性があるが、それだけでは教育市場へのアピールが弱い。Chromebookが支持を得たのは、教育市場に向けたトータルでのソリューションを用意したからこそ。デバイスやアプリケーション、サービスなどを包括的に提供し、教師が扱いやすいソリューションを用意することこそが、教育市場で受け入れられるには重要になってくるといえよう。

それだけにアップルに求められるのは、学校側に対していかに魅力的なソリューションを提供できるかにかかってくる。この点についてアップルは、コンピューター教育というよりも、iPadを使い生徒達に楽しく学んでもらうことを重視した環境を提供することで、支持を得ていきたい考えのようだ。

実際アップルが、新iPadと同時に打ち出した教師向けのカリキュラム「Everyone Can Create」を見ると、iPadとApple Pencilを用いてスケッチや音楽、写真などのスキルを身に着ける、クリエイティブ教育を重視した内容となっている。従来のコンピューター教育とは異なる方向性を打ち出すことを重視しているようで、そうしたアップルの方針が教育の現場に受け入れられるかどうかが、シェア拡大の鍵を握るといえそうだ。

アップルが提供する「Everyone Can Create」は、単なるコンピューターの学習ではなく、iPadとApple Pencilを活用したクリエイティブ教育を重視した内容となっている

また日本がそうであるように、教育の現場ではそもそもコンピューターを使うことに慣れていない教師も多く存在する。販売を拡大していく上では、ICT教育の重要性は理解できるものの、それを教育できる人材が少ないという現状に、どのように対応していくかという課題もあるだろう。そうした課題に適切な答えを出せるかというのも、重要なポイントになってくるのではないかと感じている。

地方から変わる教育。広島県が先進的な新たな教育を目指す

地方から変わる教育。広島県が先進的な新たな教育を目指す

2017.12.05

2021年の大学入試改革に向けて、小中高の教育のあり方が大きく変化している。というのも、これまでの入試テストは、問題用紙が配られ、それに対する答えを記入するというのがスタンダードだった。それが今、変わろうとしている。

どのように変わるのか。文部科学省の「学習指導要領のポイント等」によると、「思考力、判断力、表現力等の育成のバランスを重視する」という一文がある。つまり、これまで受験で重視された「記憶力」ではないのだ。もちろん、学習をするにおいて記憶力は大切だ。ただ、それ以上に思考力、判断力、表現力等が重視されることになる。

では、具体的にはどういう学習になるのか。これまで、しばしば多くの学校の授業を見学・取材させていただいたが、グループワークの時間を多くとる学校が増えている。先生がテーマを与え、グループ分けされた生徒たちがそれについてディスカッションする。そして、プレゼンテーションするという具合だ。もちろん、正当な答えはない。生徒たちの議論から生まれた結論が、まさしく答えなのだ。

離島に先進的学校を新設

こうした教育を目指すために、新たに中高一貫校を新設しようとしている自治体がある。広島県だ。

もちろん、既存の学校の教育方針を変更し、こうした新たな学習を推進していくというのが大筋だ。だが、そうした新教育を目指し、学校を新設するというのも良案だと思う。

では、広島県はこの学校をどこに新設するのか。それは瀬戸内海に浮かぶ大崎上島。橋でつながっていない“離島”としては、瀬戸内海で小豆島に次ぐ大きさの島である。「地理的及び自然的特性を生かした振興を図るための特別の措置を講ずること」を目的とした、「離島振興法」が適用された島である。

広島県教育委員会 寺田拓真氏

まず、県庁にて教育委員会の方に話をうかがった。なぜ、県が大規模な学校を新設するのか。広島県教育委員会事務局課長の寺田拓真氏は、「広島から日本の教育を 変えていきたい。その手本となるべき学校の新設を目指す」と話す。広島県は、一昔前はいわゆる“不良”と呼ばれる若者が多かったところ。文科省から是正指導を受けたこともある。それが今、小学校教育で全国5位、中学校教育で15位前後の学力を達成しているのだそうだ。教育委員会や学校の先生といった方々の努力は並大抵ではなかったであろう。

竹原と大崎上島を結ぶフェリー

実際に、どのような学校になるのか。何しろ離島だ。通学に生徒たちが苦労するのは想像に難くない。だが、おおよそ予測できていたが、全寮制の中学・高校の一貫校となるらしい。孤島の学校といえば、島根県の隠岐島前高校が有名だが、こちらは寮を備えるほか、家からの通学も可能だ。だが、「高校魅力化」に成功した孤島の学校として、全国の教育現場にその名が知れわたっている。

さて、県庁で寺田課長からお話をうかがったあと、教育委員会の職員の方に建設予定地を案内していただいた。まず広島市内から東へクルマを走らせること1時間30分ほど。竹原市の港へと向かう。余談だが、この竹原市はアニメ「たまゆら」の舞台になったところだそうだ。そして、ここからフェリーで約30分、大崎上島に上陸した。

瀬戸内海が見わたせる神峰山

大崎上島に到着したところ、島の主峰「神峰山」(かみみねやま)の頂上に案内された。頂上からは瀬戸内海に浮かぶ島の数々、白い航跡を引く船が見わたせた。正直「こんな景観のよい島で勉強できるのか。しかも、全寮制だというのだから、3年間、もしくは6年間、この島で過ごせるだけでも価値がある」と素直に思った。

神峰山頂上からの景観をひとしきり堪能したあと、いよいよ本題である学校建設予定地へと向かった。現地に着いてみると、とにかく広い! なんでもマツダスタジアム約5個分の広さがあるそうだ。まだ、建築物がないまっさらな敷地だったので、余計に広く感じたのかもしれない。

左:神峰山からの景観。右:広大な学校建設予定地

そしてロケーションのよさ。私が立った場所からは右に先ほど訪れた神峰山、そして左側は瀬戸内海だ。この神峰山方面にコテージ風の寮が建つらしい。通常、寮といえば3階建てぐらいのビル1棟というイメージだが、コテージ風とは何ともうらやましい。そして、建設予定地から海までは、すぐに歩いて行ける距離にあり、堤防を越えるとそこは穏やかな瀬戸内海だった。しかも、真っ白な砂浜。案内してくださった教育委員会の方によると、この砂浜で生徒が遊んだり、泳いだりできるらしい。

しかし、なぜこれほどの規模の全寮制中高一貫校を設立するのか。その目的は「グローバル・リーダー」の育成にある。日本ではグローバル・リーダーと呼べる人材が少ない。そうした人材を生み出すために、それに見合った教育を行っていくという。授業の内容も大事だろうが、案外と豊かな自然と寮生活ではぐくんだ協調性・協働性などが、新たなリーダーを生み出すのかもしれない。

左:建設予定地至近にある大串海岸の夕陽。晴れていれば、この学校の生徒は毎日この眺めを見られる。右:帰路のフェリーからの夕陽

いい忘れたが、この学校の名称は「広島叡智学園」となる予定だ。特筆したいのは、私立校ではなく県立校であるということ。つまり、基本的に入学金、月額授業料はほかの県立学校と同じということになる。海外研修旅行積立金や寮費といった諸費は別になるが、私立に比べれば教育費は抑えられるだろう。平成31年4月に開校を目指し、中学1年の1期生を50人程度、高等学校進学時に20人程度の外国人留学生を受け入れる予定だ。そして平成36年には360人規模まで生徒を増やすという。

取材が終わり、先ほどの海岸を再び訪れると、なんとも美しい夕景が映えていた。何年後かに、グローバル・リーダーと呼ばれるような人材が、広島叡智学園から輩出されるのを楽しみにしたい。

ジェンダー平等キャンペーン「HeForShe」イベントで学生たちが力強く提言

ジェンダー平等キャンペーン「HeForShe」イベントで学生たちが力強く提言

2017.10.19

ジェンダー平等をテーマにする「HeForShe」のロゴ

「ジェンダー平等」という言葉がよく聞かれるようになった。“ジェンダー”とは、男女の社会的性差のこと。性差による格差をなくすというのがジェンダー平等の考え方だ。現在、世界的な課題として国や企業、アカデミアが取り組んでいる。

もともとジェンダー平等の取り組みは、“女性のために、女性が活動する”というイメージが強かった。だが現在は、男性の活動も目立つようになり、世界的なうねりになりつつある。

学生たちが主役のシンポジウム

このジェンダー平等の象徴的なキャンペーンが「HeForShe」(ヒー・フォー・シー)。このキャンペーンは、国連機関であるUN Womenにより立ち上げられた。2014年9月に当時の国連事務総長とエマ・ワトソンUN Women親善大使により発表されて以来、賛同者が増え、2017年2月現在で世界120万人の署名を集めている。

先陣を張った群馬県立中央中等教育学校のプレゼン。すべて英語で驚いた

そのキャンペーンのシンポジウムが、国連大学内の「ウ・タント国際会議場」で行われた。「~Generation Z~からの提言」と銘打たれたこのイベントの主役は学生たち。ジェンダー平等について、自分たちのアイデアや提案をプレゼンテーションするのが、このシンポジウムの内容だ。

とにかく参加校が多かった。群馬県立中央中等教育学校、中央大学、名古屋大学、お茶の水女子大学、郁文館夢学園グローバル高等学校、名古屋大学教育学部附属中・高等学校、愛知県立旭丘高等学校、立教女学院中学校・高等学校の8校が国連大学に集まった。

正式なアナウンスはなかったが、プレゼンの見学者は約300人ほどいただろう。男性の姿も多く、ジェンダー平等への関心の深さが伝わってくる。ジェンダー平等という考え方を広く伝えるというこのシンポジウムの目的は、果たされたといえるだろう。

そのほかにも意義があったのではないかと思える。

まず、多くの学生がジェンダー平等について真剣に考えたこと。

参加校をみると、大学生はもちろん中学生、高校生の参加もある。特に中学生はジェンダー平等という考え方にあまり馴染みがないはずだ。世界的な課題について、中学生の段階で触れることができたのは大きな意味があったのではないか。

また、国連大学でのプレゼンに参加した学生だけでなく、多くの学生がジェンダー平等について考えたのが容易に想像できる。

というのも、国連大学の舞台に立つことができるのは、各校の予選を勝ち抜いてきたチームだ。つまり、惜しくも予選敗退してしまった学生たちもジェンダー平等について真剣に考えたことになる。夏前だったが、立教女学院の予選を見学させていただいたことがある。数チームが参加していたことを考えると、多くの学生にジェンダー平等について考える機会を与えたにちがいない。

左:お茶の水女子大学、右:郁文館夢学園グローバル高等学校

プレゼン能力を磨く絶好の機会

そしてもう一点、学生たちがチームを組み、議論の場を設けたことに注目したい。ディスカッションして異なる考え方をひとつにまとめあげ、そしてプレゼンに持っていく。これは、アクティブ・ラーニングの基本ともいえることだ。現在、多くの学校でこうした取り組みが行われている。

しかし、見知った顔ばかりの学内でのプレゼンではない。大勢の一般客に向けてプレゼンする機会は、学生たちにはそうそうないだろう。こうした経験は、社会に出た際に、必ず役立つのではないかと思う。

シンポジウム終了後に、プレゼンを行った学生の話を少しうかがえたが、約2カ月かけて準備してきたそうだ。大切な夏休みを消化してしまったかも知れないことを考えると、義務的に準備した生徒もいるのかなと思ったが、学生たちの口から出てきた言葉は「楽しかった!」というものだった。全員に意見を聞けなかったが、目を輝かせている様子をみると、すべての学生がプレゼンを楽しんだにちがいない。

なお、今回のシンポジウムの主催はUN Women 日本事務所と資生堂、後援はお茶の水女子大学、中央大学、名古屋大学、BuzzFeed Japanだ。3月にもHeForSheに関わる取り組みがあったそうだが、その時はPwC Japanグループ、文京区、ユニリーバ・ジャパン、UN Women日本事務所が協力したそうだ。これからも多くの企業がこうした取り組みに関わるだろう。