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飲料提供だけの時代から発展! 付加機能を持ち始めた自動販売機

飲料提供だけの時代から発展! 付加機能を持ち始めた自動販売機

2018.07.10

普段、何気なく使っている自動販売機。日本自動販売システム機械工業会によると、清涼飲料を提供する自販機だけで、約2,130,000台になるそうだ(2017年12月時点)。もうこうなると、単なる販売チャネルのひとつというよりも、ある意味インフラともいえそうだ。

実際、ライフラインといえなくもない。特にこれからは熱中症の季節。熱中症で亡くなられる方は毎年300~500人といわれており、猛暑の年だと1,000人を超えることもある。気軽に水分補給できる自動販売機は、清涼感やテイストを味わう以外の役目も果たしていることになる。

防犯カメラ搭載の自動販売機。ピーポくんイラストの使用許可も得ている

その自動販売機において、大手飲料メーカーが付加価値を模索し始めた。奇しくも7月初旬、キリンビバレッジとサントリービバレッジソリューションが相次いで付加機能付きの自動販売機を発表した。

まずは、キリンの自動販売機について。簡単にいえば防犯機能付きということになる。飲料サンプルの一部に監視カメラを備え、街の状況を撮影する。つまりは防犯カメラの役割を自動販売機に内蔵しているわけだが、一般的な防犯カメラとは大きく異なる。

犯罪解決に加え抑止効果も期待

というのも、一般的な防犯カメラは高い位置に設置されるので、顔の細部などがみえない場合がある。一方、自動販売機は人の高さとほぼ同じ位置から撮影をする。これならば、映像から人物を確認しやすく、いざ犯罪が発生した場合、解決につながりやすい。そして何よりも、高い位置に設置する一般的な防犯カメラに比べ、安価なコストで導入可能だ。

左:2段目、左から2番目のサンプルにカメラが設置されている。このデモ機の場合、右側の「生茶」のところにある。右:撮影した映像。魚眼によりかなりワイドな範囲を撮影できる。遠くのほうも鮮明だ

もうひとつ利点がある。それは、防犯カメラを搭載した自動販売機には、そのことを伝えるPOPが掲げられる。一般的な防犯カメラは高い位置にあるので、それに気づかずに犯罪につながる可能性がある。だが、自動販売機に防犯カメラが内蔵されていることをあえて伝えることで、犯罪の抑止につなげようというワケだ。ないとは思うが、その気になればカメラを内蔵していなくても、POPだけで効果が生まれる可能性もある。

とにかく、防犯カメラ内蔵の自動販売機が存在していることを、広く知れわたらせることが犯罪への抑止につながる。

今回、この防犯自動販売機の取り組みを始めるのは、東京都足立区の警視庁西新井警察署(以下、西新井署)管内。まずは30台の自販機を導入し、効果検証を行う。

なぜ西新井署なのかというと、この地域は都内でも犯罪がもっとも多く発生するところのひとつだからだ。西新井署は、防犯のためにとにかく大きな声を上げていたらしい。その声にキリンが応えたカタチだ。

左:西新井警察署管内が検証地域。右:みまもり自動販売機への期待を語る西新井警察署長 福山隆夫氏。防犯カメラのほか、自販機の明かりも心強いと話す

防犯カメラ内蔵自販機は「みまもり自動販売機」と名付けられた。子どもたちを見守るため、通学路や公園といった場所に重点的に設置される。キリンによると、開発には西新井署の助言を受け、画質や記録時間、映像提供までの速度などを決めたという。

映像確認は西新井署のみ可能

なお、映像提供に無線機器は使用しない。無線だと第三者に映像がわたる可能性があり、プライベート保護の面で危険があるからだ。映像は、すべてマイクロSDカードに記録される。それを定期的に抜き取り、西新井署にわたされる。ちなみに、このマイクロSDカードはキリンの職員は一切アクセスできない。西新井署にあるこのシステム用の3台のパソコンでのみ、データを閲覧できる。つまり、個人情報の流出の可能性はきわめて少ない。

キリンは以前からCSV活動に積極的だ。社会と企業の共通価値創造を軸にした活動が目立つ。もちろん、キリンにはねらいもある。こうしたCSVを展開することで、総合飲料メーカーとしての存在感を高め、結果的に商品購入に結びつけたいということだろう。

企業であるので、利益追求は当然のことだと思う。ただ原資を投入して社会貢献をするCSRではなく、何かしらの利益(売上だけではなく、社会利益を含める)を生み出すCSVに軸足を置いているのだ。

続いてサントリーの付加価値自動販売機をチェックしよう。こちらは、かなりユニークだ。自動販売機といえば、飲料を買うもの、あるいはタバコを購入するものと思うだろう。少なくはなったが、カップ麺を購入できるものもある。

ところが、今回サントリーが投入するのは、お弁当が購入できるというもの。もちろん、ガシャンと音を立ててお弁当が落とされるのではない。そんなことをすれば、盛りつけは崩れるし、何よりも衛生的ではない。売れ残ったお弁当の廃棄リスクも少なくないはずだ。

そこで、サントリーでは自動販売機にお弁当ボタンを用意し、それで購入をすると付近の飲食店からお弁当がデリバリーされる仕組みを採った。デリバリーというカタチなので、不特定多数の購入者が相手の街中の自動販売機ではなく、企業に導入された所在が明確な自動販売機のみになるが、いくつかメリットが生じる。なお、飲食店のコーディネイトはぐるなびが行う。

上段:お弁当が購入できる自動販売機。その日の日替わりメニューのほか、お弁当購入ボタンが用意されている。下段:お弁当を購入すると、飲料で使える10円分のコインが出てくる。届けられたお弁当パッケージの一例

昼休みの有効活用に最適

その最大のメリットが食事時間の短縮だろう。朝10時までに自動販売機でお弁当をオーダーすれば、近隣の飲食店から12時までに届けられる。わざわざ、近隣の飲食店に歩かなくてよいので、昼休みの時間を有効に活用できる。「コンビニでもよいのでは?」という意見もありそうだが、昼休みのコンビニのレジは混雑する。しかも、温め待ちでレンジの前に行列ができることもある。

そして日替わりなのもウレシイ。飲食店に足を運ぶと何しようか迷ったり、逆に同じメニューばかりを選んだりすることもある。日替わりならば“問答無用”で、メニューが決め打ちされる。

メニュー例。左は水曜日の「二種味比べ牛タン弁当」。右は木曜日の「宅弁限定 梅の花特製 2段弁当」

一方、飲食店側のメリットも大きい。店舗内の食事のほかにお弁当を用意する飲食店も多いが、お弁当があまる可能性があり、廃棄ということにもなる。だが、事前に自動販売機からの発注数がわかっていれば、廃棄の可能性はなくなる。昼間のお弁当を気に入ってくれて、夜の飲食に利用してもらえることも考えられる。

問題はセキュリティ。基本的に発注されたお弁当は、自販機近くのテーブルなどに置かれるのだが、発注者以外の人が持って行ってしまう可能性がある。また、最近のオフィスは厳重な入室管理により、部外者である飲食店スタッフが入れないシーンもありそうだ。ただ、オフィスグリコのように、総務や事業部の担当者と取り決めが交わされれば、クリアできそうだ。

いずれにせよ、自動販売機に新たな機能が組み込まれ始めた。今後、どのような自販機が出てくるのか、楽しみである。

シェイクシャックが大阪上陸! 本格化するハンバーガー“夏の陣”

シェイクシャックが大阪上陸! 本格化するハンバーガー“夏の陣”

2018.06.06

「Shake Shack」(シェイクシャック)が日本で10カ所目となる新たな店舗をオープンした。場所は大阪・梅田。“黒船来航”にも例えられた日本進出で成功を収めたシェイクシャックが、満を持して関西に上陸する構図だが、それは何を意味するのか。

シェイクシャックの大阪上陸は何を意味するのか

国内10店目のシェイクシャックは大阪

6月1日のオープンに先立つこと1週間前の5月25日、「Shake Shack 梅田阪神店」の内覧会が開かれた。席数136席の広い店内には大阪・関西の報道関係者が集まったが、筆者が予想したほどには“ごった返す”感じではなかった。大阪のメディアは、まだ事の重大さに気づいていないようだ。

関西初のシェイクシャック。場所は第一期棟の建て替えが竣工したばかりの阪神百貨店梅田本店1階

シェイクシャックは米国・ニューヨーク発祥のハンバーガーレストランである。マディソンスクエアパークに慈善活動で出したホットドッグのカート(屋台)が評判を呼んで、創業者のダニー・マイヤー氏が2004年に常設店をオープンした。今では世界13カ国に176店を展開する。

日本のシェイクシャックは大阪の梅田阪神店で10店目。海外店舗数トップである中東・アラブ首長国連邦の11店まであと1店、2位のサウジアラビアと並ぶ10店の店を持つ日本は、世界でも「シェイクシャックが多い国」ということになる。

梅田阪神店のデザインコンセプトは「Through the Window」。御堂筋に向いた大きな窓の外にはテラス席が44席。「HEP FIVE」の赤い観覧車も見える

日本上陸は大成功? 運営会社社長の見解は

2015年11月の日本上陸以来、2年と7カ月で10店と、着実に店舗数を伸ばしてきたシェイクシャック。今や日本のハンバーガーシーンを力強く牽引している感さえある。これはもう、十分な「成功」と言えるのではないか――。

国内のシェイクシャックを運営するサザビーリーグの角田良太社長に聞いてみると、「まだ成功だとは言い切れない」とあくまで慎重な構えだ。「本当に成功だったかどうかは、あと2、3年してわかること。いま望むのは、日常生活の中で月に1度でも『やっぱり食べたいね』と思っていただけること。そして、その中できちんと店が回っていること」と、段階を踏んだ確かな成功を目指す。

5月25日に開催されたプレス向け内覧会で挨拶する角田社長

シェイクシャックが日本に上陸した2015年は、個人経営を主とするハンバーガーの「専門店」が、地道な努力の時期を経て、人気と実力をようやく確かなものとしていった、そんなタイミングと重なる。専門店が根づかせ、コツコツと築き上げていった「食事として十分に成立するような本格的なハンバーガー」の土台の上に、ちょうど折よくシェイクシャックが乗ってきた恰好だ。

シェイクシャックの「シュルームバーガー」(960円、以下すべて税抜価格)はポートベローマッシュルームとチーズ3種をコロッケのように揚げたものがビーフパティの代わりに挟まった「ベジバーガー」。これがベジタリアン向けとは思えぬおいしさで、筆者もおすすめの1品!

結果として、シェイクシャックは2年半で9店を順調にオープンさせ、都内・首都圏のハンバーガー市場はそれを"追い風"に、いよいよ活気づいた。さて、今度の大阪ではどんな化学反応を引き起こすのか。

迎え撃つ大阪の各店の反応は

大阪・関西の状況を見ると、増えては減ってを繰り返す、なかなか定着しない時期が続いたのちに、2016年辺りから2店目、3店目をオープンする個人店の動きが目立ちだした。今は東京同様、ちょっとした「開店ラッシュ」が続いている。そこへやって来た"黒船"シェイクシャック――。関西の専門店各店の反応は以下の通りだ。

シェイクシャック名物のオリジナルアイス「コンクリート」は全部で3品。写真は黒ごまピューレをトッピングした大阪限定のコンクリート「セサミオシャカ」(Small:490円)

「楽しみに待ってました」と語る北垣勝彦さんは、関西バーガー店の草分けのひとつ、兵庫・西宮「エスケール」(2003年創業)の中心メンバーだった人物だ。「東京に上陸しても関西まで来ない海外の店が多い中、2年半という早さで来たことに勢いを感じます」と高評価だ。

大阪・高槻の本店をはじめ、2店のバーガー店と2台の移動販売車を展開する「ティーズ・スターダイナー」の寺川裕之さんは「嬉しいですよ、東京行かんでいいから」と開口一番。「こうした1個1,000円近くするハンバーガーを新たに知ってもらえる機会ができて、ありがたいです。業界が盛り上がると思います」と歓迎ムードだ。

ポテトは波型にカットした「クリンクルカットフライ」(Small:300円、写真は内覧会用のミニサイズ)。オリジナルビール「シャックマイスターエール」のアテにぴったり

値段にシビアな土地柄

心斎橋、本町、梅田に「リッチガーデン」3店を構える安藤啓示さんは、「怖さもあるが、楽しみと3:7ぐらい。いい影響を及ぼしてくれそう」とした上で、「値付けが絶妙だと思う。1個1,000円を超えるハンバーガーが半ば当たり前なところへ、その"下をくぐる"感じで出してきている」とその価格設定を評価した。

人気店「バーガリオン」をはじめ、バーガー店3店のオーナー西村周平さんは「やっと来てくれた」と喜ぶ一方で、「正直、東京ほど盛り上がるのかな? 大阪で伸びる要素があるのかな?」と不安も覗かせる。「『いきなりステーキ』が大阪ではそれほど売れていない。それぐらい値段にシビアな土地柄」というのがその理由だ。

大阪限定Tシャツをはじめ、オリジナルグッズも販売している

商品と価格、そして大阪特有の気風・土地柄について、サザビーリーグの角田社長は「大阪の方々は前向きで元気。シェイクシャックもまさに、そんな元気な店なので、私は相性はいいと思っています」と店舗同様に前向きだ。「まずは体験していただいて、ジャッジしていただけたら。それでも十分に楽しんでいただけると思っております」と、「体験」という言葉を使ってアピールした。

ファストフードとグルメバーガーのあいだ

そうはいっても気になるお値段。シェイクシャックのハンバーガーは全部で5品ある。看板メニューの「シャックバーガー」(710円)はチーズバーガーがその正体だ。最低額のバーガーは、バンズにパティを挟んだだけの「ハンバーガー」(610円)。これにはトマト、レタスなどの野菜とソースが無料でトッピングできる。

看板メニューの「シャックバーガー」はチーズバーガー。パティはホルモン剤を一切使わず飼育された豪州産アンガスビーフ100%。バンズは生地にジャガイモを練り込んだポテトバンズを使っている

これを他店の商品と比較してみると、例えばマクドナルドで近い内容の「グラン クラブハウス」は490円。バーガーキングの「ワッパーチーズ」は570円。クアアイナの「チーズバーガー」(1/3LB=肉の量が約150g)は927円。大阪では梅田と万博公園に2店を展開するJ.S. バーガーズカフェの「チェダーチーズバーガー」はレギュラーで1,110円。西村さんの店バーガリオンの「チーズバーガー」は1,000円……そして、「シャックバーガー」は710円だ。

「リッチガーデン」の安藤さんがいうところの、1個1,000円超えの「下をくぐる」価格帯というのがこのこと。ファストフードといわゆる「グルメバーガー」の間、それがシェイクシャックの立ち位置だ。

大阪名物「岩おこし」を乗せた梅田阪神店限定のコンクリート「ツウテンシャック」(Small:490円)。コンクリートとは、"卵黄多め"で"空気の含有量が少ない"「フローズンカスタード」と呼ばれるフレッシュアイスを使ったスイーツのこと。通常のアイスクリームよりもしっとりとクリーミーに仕上がる

ハンバーガーを測る新たな物差し

他にも、創業のきっかけになったホットドッグやシェイク、名物のオリジナルアイス「コンクリート」、さらにオリジナルブランドのワインやドラフトビール「シャックマイスターエール」などもあって、シェイクシャックのメニューは目移りしてやまない。それこそ角田社長のいう「まずは体験して」というところだが、ここで筆者の体験に基づくアドバイスをひとつ……。

珍しさから、ついついアレもコレもと一気に注文しがちだが、あまりいっぺんに頼むと案外な高値になるので、欲張らず、何度も足を運んで、少しずつ試して行くのが長く楽しむコツに思う。

「店舗数ありきでなく、場所にこだわりを持ちたい」と話す角田社長。今後は「できればこの2、3年のうちにプラス10店、合計20店」を目標に挙げる

大阪のハンバーガーシーンに大きな影響をもたらす可能性を秘めたシェイクシャック。その噂を聞いて、大阪の人たちがシェイクシャックのハンバーガーを次々と口にしていったなら、従来、ファストフード店を基準に測っていたハンバーガーという食べ物の「物差し」が、徐々にシェイクシャックへと移っていく可能性があると、筆者は見ている。つまり、シェイクシャックは日本のハンバーガーの「新たな物差し」になりうる存在なのだ。

「まだまだブランドをご存知ない方もたくさんいらっしゃる」と角田社長は話すが、それはハンバーガーという食べ物そのものについてもいえること。これを機に、ファストフードからグルメバーガーの専門店、高級ホテルやレストランのものまで幅広く「体験」して、ハンバーガーについてよく知るきっかけになればと願っている。

お酒市場で存在感を強める日本産ワイン

お酒市場で存在感を強める日本産ワイン

2018.05.25

2012年頃から続くワインブームに、新たな動きが見え始めてきた。日本産ワインがその存在感を強めているのだ。

そもそも現在まで続く第7次ワインブームのきっかけはチリ産ワインだった。EPA(経済連携協定)が日本とチリの間に結ばれ、経済面でさまざまな協力が行われた。ワインもそうした経済連携の項目のひとつ。購入しやすい価格でコンビニに並ぶようになり、ワインブームが訪れた。

こうした安価なワインは確かに市場の牽引役として、人気が続いている。だが、ここにきて新たな動きもみられ始めた。日本産ワインの存在感が増しているのだ。

こうした日本産ワインの人気をさらに沸き立てようと、各お酒メーカーが仕掛け始めた。なかでも積極的なのが、キリン傘下のメルシャンだ。

セミナーで甲州ワインの解説を行う、メルシャン 営業本部 マーケティング部 尾谷玲子氏

まず、ゴールデンウィークの直後、メディア向けのワインセミナーが開催された。このセミナーで紹介されたのは、フラッグシップブランド、シャトー・メルシャン。しかもすべてが「甲州」というブドウ種から醸造されたワインだ。

甲州は古くから日本にあるブドウ種で、約1,000年前に甲州市勝沼付近で発見された(約1,500年前との説もある)。ワインが日本で作られるようになったのは約140年前なので、長いこと生食用と親しまれたことになる。そして日本でワインが醸造され始めた際、古くからある品種であることから、この甲州が使われた可能性が高いといわれている。

OIV登録で拓けた甲州ワインの輸出

そして2010年、甲州がOIV(国際ブドウ・ワイン機構)に品種登録された。実はこのOIVに品種登録されていないと、甲州という名前でワインを欧州で販売することができない。つまり、OIVへの登録により、ワインの本場への扉が開いたといえる。ちなみに甲州のほか、マスカット・べーリーAという日本の黒ブドウ種が、OIVに品種登録されている。

だが、知名度でいえば、やはり甲州に分があるだろう。山梨の旧名、甲斐の国を表す甲州という名前は、産地をイメージしやすい。しかも、コンビニや飲食店で甲州ブドウを使ったワインが取り扱われることが多く、なじみ深いということもある。さらに世界文化遺産に登録された和食に合うという特色がある。甲州で作られたワインは、著名なワイン評論家、ロバート・パーカーも「日本食に適している」と評価したほどだ。

今回、メルシャンが甲州ワインのみのセミナーを開催したのは、このあたりに理由があるといえる。

左からシャトー・メルシャン 山梨甲州 2016、甲州きいろ香 2016、甲州グリ・ド・グリ 2016。甲州グリ・ド・グリがオレンジがかっているのは、赤ワインのように皮や種を圧搾しているため

ただ、日本産ワインには、もうひとつの潮流がある。それはメルローやカルベネ・ソーヴィニヨン、シラー、シャルドネといった欧州系ブドウ種を日本で育て、それを醸造して日本産ワインとする方向だ。

ただ、こうした欧州系ブドウは日本の高温多湿な気候での栽培が難しいとされてきた。以前、国立科学博物館で開催されたワイン展を見学したことがあるが、相当な紆余曲折の末、ワイン用ブドウに育て上げた経緯を垣間見た。また気候だけでなく、太平洋戦争といった国難も日本産ワイン醸造に影響を与えた。

明治時代からヴィンヤード(ブドウ農園)はあったが、本格的にワイン用ブドウ生産が軌道に乗るのは1980年頃からだと思う。古くからあるサントリー登美の丘や、メルシャン桔梗ヶ原といったヴィンヤードで収穫されたブドウから醸造したワインが、メキメキとブランド力を上げてきた。

そして2015年、国税庁によって「国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造した果実酒」を「日本ワイン」とすると定義された。上記の条件を満たすワインには日本ワインの表示ができるようになった。そして食の多様化とともに日本ワインの人気は向上。おもに飲食店などで楽しむワインファンが増えた。

ブドウの収穫量向上がカギ

ただ、問題もある。それは、日本でのワイン用ブドウの生産力が脆弱なこと。前述したが文化遺産になった和食が海外でも楽しまれるようになった。当然、和食と日本ワインの組み合わせを求めるファンが海外にも増えたが、大々的に輸出するまでには至っていない。今は少しでもヴィンヤードの面積を増やし、数年後の収穫につなげるフェーズともいえる。

そうしたなか、メルシャンはボランティアやメディアを招待してブドウの植樹イベントを行った。場所は長野県上田市鞠子。ここは20ヘクタールの広さを誇る、メルシャンの主要ヴィンヤードだ。ヴィンヤードだけでなく、ワイナリーの建設も予定されており、日本ワインの生産力向上をねらう同社のシンボルともいえる。

左上:浅間山が遠望できるパノラマ。右上:20ヘクタールの広大なヴィンヤード。左下:ヴィンヤードの一画にワイナリーができる予定。右下:ボランティアによる植樹の様子

筆者もこのイベントで、計4本のシラーの植樹を行った。何年後かに、自分が植えたブドウから醸造されたワインを飲めるかもしれないと思うと、感慨深いものがある。