「地方創生」の記事

広島電鉄が積極的に「信用乗車方式」を採り入れる理由

広島電鉄が積極的に「信用乗車方式」を採り入れる理由

2018.09.04

軽電車改革のひとつとして信用乗車が普及

そもそも信用乗車はなし崩し的に始まった

合理性を高めて人員削減につなげるねらい

広島市内や宮島方面へネットワークを広げ、市民や観光客の重要な交通機関となっている広島電鉄(広電)は、全国各地の路面電車が軒並み廃止された昭和40~50年代に、いち早く現在に通じる近代化施策を展開し、業界でも先駆的な役割を果たしてきた。

大型高性能電車の投入や電車優先信号の設置、停留所の改善などである。現在でも、LRT(Light Rail Transitの略。役割的、輸送量的に一般的な鉄道とバスの中間を埋める、路面電車の発展形である軽電車システム)への完全な脱皮を目指して、さまざまな改革に取り組んでいる。

「信用乗車方式」も、そのひとつだ。乗務員(運転士・車掌)が運賃の支払いをチェックせず、利用客の良心に任せる方式で、複数の車体を連結した大型の電車(連接車)であっても、すべての扉からの乗降が可能となり、停車時間の短縮、ひいては移動時間のスピードアップ、自家用車に対する競争力アップにつなげることを大きな目的としている。

広電1000形の信用乗車方式

広島電鉄では、ICカードの導入を機に2011年度にもこの方式を採用する方針と、一部の報道では伝えられた。しかし本格的な導入はなかなか実現しなかった。2018年5月10日になってようやく、停留所のホームとの段差がない超低床式電車のうちの1形式である1000形(愛称はグリーンムーバーLEX)14両のみにおいて、ICカード乗車券利用客に限り、すべての扉からの降車を可能とした。なお広電では、運賃は降車時に支払うシステムである。

1000形の正面には「ICカード全扉降車車両」とのステッカーが貼られている

1000形は3つの車体をつなげた市内軌道線用の連接車。宮島線直通などで活躍し4カ所の乗降扉を持つ5車体連接車に比べれば車体は短く、需要がやや小さい運転系統でも充当しやすいという特徴を持つ。

そして1000形は、乗降扉が2カ所しかない。これまでは進行方向後ろ側からのみ乗車、前側(運転士脇)からのみ降車を可能としていた。それが、後ろ側となる扉に降車専用のICカードリーダーを設置。乗車専用のカードリーダーにタッチしてあれば、乗務員がいない後ろ側の扉からの降車も可としたのだ。

信用乗車方式を取り入れた広電1000形「グリーンムーバーLEX」。2カ所の扉が確認できる

実際に8月、1000形に乗車して観察・体験してみた。車両後ろ側の席に座った場合、電車内をあまり移動せず降車でき非常に楽だ。もう慣れた地元客はスムーズに乗降しているが、遠来の客の場合、大きな文字で表示されているにもかかわらず、乗車時に降車専用カードリーダーにタッチしてしまい降車時にエラーを出す。結局、無賃乗車になってしまうなど、不慣れさ加減が目立った。日本全体では、まだまだなじみが薄いシステムであることを感じた。

広電が嚆矢ではない日本の信用乗車方式

信用乗車方式は欧米では常識的なシステムで、特にヨーロッパの公共交通機関では1970年代から急速に広まった。乗務員による運賃支払いチェックを行わない代わりに、自動券売機での乗車券購入を義務づけ、時に抜き打ち車内改札を行って、有効な乗車券を所持していないと高額な罰金を徴収することでバランスを取ったのである。

欧米では「信用乗車方式」が常識。大型の電車でも、有効な乗車券やカードを持っていれば、すべての扉から乗降が可能だ(写真はスウェーデンのストックホルム市電)

ただ、日本の鉄道は利用客数が格段に多く、改札口を設けた方が効率的だと考えられている。もし導入するとすれば、バスより大きな車体で定員も多いのに、「後ろ乗り前降り」といったワンマンバスと同じ運賃支払い方式を採用。停留所での停車時間の延び、ひいては全体のスピードダウンが利用率向上の足かせになっていた。そのため昔ながらの路面電車よりも、最新技術を採用したLRTが有力視されるようになった。

ICカードの普及にともない、無人駅にも簡易改札機をおくケースが増えた。利用客はこれにカードをタッチして、運賃を支払う(写真は京阪石山坂本線の例)

なし崩しに広まる? 鉄道会社のノーチェック

現実には「なし崩し」的に、利用客の良心に運賃支払いを任せる方式が広まっている。JR、私鉄を問わずローカル線でも、ワンマン運転区間では「きっぷや運賃は駅の集札箱へ」という案内が、無人駅で目立つようになってきたのだ。

JRのとある駅に置かれた集札箱。乗車券を購入していない場合、この箱に所定の運賃を入れればよい

これは車掌が巡回して乗車券を発売したり、バスと同じように運転士が運賃収受を行う方式と比べて簡便ではあるが、無人駅相互間の乗車においては鉄道会社のチェックはできない。利用客数がごく少なく定期券利用がほとんどであるから、割り切れたのである。

また、ICカードが利用できる路線の拡大に伴い、無人駅に簡易式カードリーダーを設置する例も増えた。これも「タッチ」するかどうかは利用客に任されている。真面目な日本人の国民性が支えているからこそのシステムなのだ。

利便性向上とともに合理化も狙う

広島電鉄も、信用乗車方式を導入する十分な動機があったのは確かだ。乗車券ではなくICカードを並行して採り入れたのは、時代の流れに合わせるとともに"日本流"ともいえる。

先例として、2017年10月15日より富山ライトレールは、ICカード利用客に限り進行方向後ろ側の扉からの降車を終日にわたって可とした(同社では「信用降車」と呼ぶ)。これも広電の後押しとなったであろう。

広島電鉄に先がけて「信用降車」を採用した富山ライトレール

ただ、広島電鉄(市内軌道線のみで3892万6000人/年・2015年度)は富山ライトレール(205万6000人/年・同)と比べて利用客数がはるかに多い。電車も134両保有している広電と比べて、富山ライトレールは7両(いずれも連接車は1両として計算)しかない。広島電鉄は乗降客が多く、大きい初期投資になっても確かな信用乗車のシステムが必要。ただ、広島市街のみならず、宮島までカバーする規模だ。まずは実施が限定的になるのも、やむを得ないところだ。

運行を維持するための要員確保が課題

もちろん、広電の信用乗車方式導入は1000形で終わるものではない。ゆくゆくはすべての電車に拡大する方針である。その目線の先にはスピードアップ、利便性向上とともに合理化、つまりは要員削減があるはずだ。

少子高齢化による若年層の減少は、すでにバス業界や運送業界において深刻になっている。鉄道業界がその例外であろうはずがない。直面しつつある運転士不足に対応するには、全体の職員数が減ることはやむを得ないとしても、運転士の数だけは若者を養成して確保しなければならないのだ。

かつてのワンマン化による車掌の削減は、人件費を抑制し経営を改善することを最大の目的としていた。しかし今日の人員削減は、合理化を進め将来における運行の確保のためという側面も大きいと考えられるのである。

ルールのないコミュニティはどうなる? サイハテ村「一万坪の社会実験」(後編)

ルールのないコミュニティはどうなる? サイハテ村「一万坪の社会実験」(後編)

2018.09.04

熊本県「サイハテ村」が実践する新たなコミュニティについて取材

ルールがないことで、コミュニケーションが促進される

リーダーがいないことで、主体的に動く人材が生まれる

現代ならではのコミュニティをつくるためのオンラインサロンを開講

新たなコミュニティの形を目指す熊本県「サイハテ村」。約1万坪からなるこの地では、ルールもリーダーもない、お好きにどうぞ”な村づくりというコンセプトのもと、30人ほどの人々が暮らしている。ルールのないコミュニティで、村人はどのように生活をしているのか。彼らの暮らしから見えてくるものとは。

前編に引き続き、サイハテ村の「コミュニティマネージャー」坂井勇貴氏の話をお届けする。

坂井勇貴氏。1984年3月生まれ、長野県出身。CAMPFIRE・BASEなどの会社と提携し、三角エコビレッジ・サイハテのコミュニティマネージャーとして、運営およびプランニングの中枢を担う

”成功例”の轍を踏まないコミュニティ形成

筆者(以下、田中) : 社会とコミュニティの関係性が徐々に崩れている状況を打開するため、この村では新たなコミュニティの形を模索しているとのことですが、ルールがないということは、集団で生きていくうえで難しいように思います。これまで、学校・会社と、ルールのあるコミュニティでしか生きてこなかったので、想像がつきません。

坂井勇貴氏(以下、坂井) : 実際に、サイハテ村を始める際、長年エコビレッジに携わっていた人から「成功しているコミュニティには共通して、明確なルールがあり、カリスマ的リーダーがいるパターンが多い。その2つを手放してコミュニティを形成するなんて馬鹿げている」と批判されたこともありました。

しかし私たちは、そういった決まり事を無くしたコミュニティは、どう機能していくのか? ということを知りたいのです。決して、正解を見つけたいわけではありません。私たちがしているのは、数年、数十年先の未来を見据えた大規模な実験なんです。

ルールはコミュニケーションを殺しかねない

田中 : 実際に、サイハテでは30名ほどの村民が集まり、国内外から千人を超える人が村を訪れているそうです。坂井さん自身、全国各地でコミュニティ形成についての講演会を行っていらっしゃいますが、ルールがないコミュニティがなぜ存続し続けられるのでしょうか?

坂井 : 実はルールがないことにも、メリットがあるんです。例えば、ある出来事を考えてみましょう。この村に、「週に1度、村の美化作業を行う」というルールがあったとします。そうすると、もしそのルールを破ったときには、その人は罪悪感を感じ、周囲の人は、ルールを守らせるためにその人に罰を与えることになりますよね。

ここで問題となるのは、そこにコミュニケーションが生まれないことです。ルールを破った時点で、その人の言い分は受け入れられないんです。「寝坊してしまって……」と言ったところで、「じゃあ寝坊しないようにすればいいじゃん」という会話しか生まれない。

「ルールを破ったとき、そこにコミュニケーションは生まれない」というのはこれまでも何度か経験があります。こちらの言い分を言えない場合もしばしば

しかし、明確なルールが定められていない場合には「どうして美化作業をしないのか? 」「どうして寝坊をしてしまったのか? 」というコミュニケーションが生まれる。その結果「実は私はこの作業に意味がないと思っているから、起きてたけど来なかったんだ」といった、ルールを破った際には言えなかったその人の本音を聞き出せるようになるかもしれない。

田中 : 確かに。その関係性だと「私は朝が苦手だから、夜に1人で美化作業をさせて欲しい」といった意見も出るかもしれませんね。会社でも同じことが言えそうです。遅刻したら減給されたり、上司に怒られたりする。さらに、その罪の意識から上司とコミュニケーションを取りにくくなる。

坂井 : そうですね。つまり、ルールが人と人の上下関係を生み出し、フラットな関係性を築きにくくし、良いコミュニケーションが生まれにくくしているんです。今、『ティール組織』というビジネス書が人気なのをご存知でしょうか?

※『ティール組織 - マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』著 : フレデリック・ラルー、英治出版より販売(amazonリンク)

この本は2018年1月に日本版が発売となり、非常に反響を集めました。ティール組織とは、従来の「達成型」と呼ばれる組織とは大きく異なる組織構造や文化を持つ新たな組織モデルです。

簡単に説明すると、組織内での上下関係、ルールなどといった文化を撤廃し、フラットな関係性をつくることによって組織・人材に変革を起こせるということが書かれている本なのですが、サイハテではこの考え方に似たコミュニティが形成されています。

2018年7月、「ティール組織」をテーマとしたイベントをサイハテにて開催した

田中 : フラットな関係性を築きやすくなれば、上司とのコミュニケーションがとりやすくなり、自分の意見が発言しやすくなる。その結果、組織の風通しが良くなることが想像できます。

リーダーがいないから、『主体的に動く人材』が生まれる

坂井 : また、リーダーがいないため、主体的に動く人材が生まれやすいこともサイハテの特徴です。もともとここは、現在もサイハテに住んでいる工藤シンクが発起人となって誕生した村なのですが、彼はリーダーではなく、ただの住人。

私自身もサイハテに必要な役割を模索する中、この村での生活を発信する「サイハテメディア」というHPをつくったり、全国で講演活動をしたり、サイハテ村に関連するコンテンツやコラボ企画をつくったりして、「コミュニティマネージャー 」としての仕事を自主的に行なっています。

このように、サイハテの住人が各自で行動し、協力し、村をより良くしていこうと尽力しています。リーダーがいないからこそ指示を待つのではなく、主体的に動く人物が生まれやすいのは、この村ならではの特徴だと思いますね。

リアルで実践し、オンラインで学びを共有する仕組み

田中 : 暮らしを軸としたコミュニティから学ぶことがたくさんありそうです。

坂井 : これまでも日本各地でさまざまなコミュニティが生まれ、多くのアイデアや学びがありました。シェアリングエコノミーやティール型組織も今では多くの人に注目されていますが、私たちはずっと前から実践してきたことです。

ただ、横のつながりがなく、その知見を共有できないことが問題でした。そこで、こうした多様なコミュニティで生まれた知恵を共有し、さらに深めることのできる『NCU 次世代型コミュニティ大学』というオンラインサロンをつくりました。

このサロンは、サイハテを始めとして、東京・渋谷の駅近ビルで「拡張家族」という新たなコミュニティの形を提案するCift(シフト)など、日本中で活躍する多様な15のコミュニティをキャンパスに見立て、世界に誇れる次世代型のコミュニティ像を追求するオンライン大学です。会員数はローンチから1ヶ月ほどで約100人集まっており、今後も徐々に人数を増やしていきたいと思っています。

NCUで積極的に情報を発信するのは、全国15のコミュニティで活躍する実践者たちだ

田中 : 自身の所属するコミュニティで得た知見を、オンライン上で共有、議論をすることによって、体系化していくことができる場所というわけですね。

坂井 : はい。サロンに入会すると、Facebookの非公開グループ上で入会者どうしでのやり取りができるようになっています。このサロンを活用することで、リアルのコミュニティで検証したことをオンライン上で深め、またリアルに落とし込むことができる。これによって現代に合った次世代型のコミュニティづくりを促進していければ、と考えています。

「和の精神」に基づく次世代のコミュニティ像をつくりたい

田中 : サイハテの今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか。

坂井 : うーん、実はそのことについてはあえて考えないようにしています。村人の1人としては、もっと人が増えて欲しいとか思うところはあるのですが。コミュニティマネージャーとして、「こういう風になればいいな」と思うことはありますが、それを推し進めてしまうと、リーダーのような存在になってしまいます。そのバランスをとるのが難しいところです。

一方で、私が運営しているNCUの件についていうと、こちらは明確な今後の目標があります。それは、未来社会に対して提案できる次世代型コミュニティ像を作ることです。

世界が賞賛する日本の「和の精神」。これはこれからの未来を語る上で重要なファクターになると確信しています。しかし、今のままでは古い伝統《個性や自由の欠如》として未来社会の軸になり得るとは考えられません。

急速に変化していく現代社会の中にあっても通用する“次世代型”コミュニティ。個性や自由を保ったまま、調和や安定を作り出すコミュニティカルチャーはここ日本だからこそ取り組むべき事だと考えています。

田中 : 日本ならではの「和の精神」がもととなって生まれる新たなカルチャー……。考えるとワクワクしますね。

編集後記

以上、サイハテ村と坂井氏の話を紹介した。筆者がこの村に滞在したのは1泊2日という短い時間ではあったが、村づくりの作業や食事の時間に、サイハテの住人、および一時的に訪れている人たちと交流することができた。

坂井氏と話していると、「どうやら大変そうなことをしている」ようにも感じるが、いざ村で生活をしてみると、何のことはない、ただの共同生活のようにも感じる。しかし、どこかで居心地の良さを感じることができたのは、現代で失われた「人と人のつながり」を色濃く感じることができたためだろう。

一緒に料理をして、夕食を共にする。村をより良くするために、共有スペースを作ったり、不要な木を伐採したりする。さまざまな行動を共にしていく中で、徐々に関係性が築かれ信頼感が生まれていく感覚は、「当たり前」のようでどこか懐かしいものであった。これこそ「村」というコミュニティの良さの1つであろう。

しかし、百聞は一見に如かず。言葉にすると「当たり前」のことでも、いざ体験してみると「当たり前のことができていなかった」と気付かされることが多くあったため、一度訪れて欲しい。

熊本県の辺境の地にあるサイハテは、ルールのないコミュニティだからこそ、人と人とのつながりを感じることのできる温かな場所であった。

ルールのないコミュニティはどうなる? サイハテ村「一万坪の社会実験」(前編)

ルールのないコミュニティはどうなる? サイハテ村「一万坪の社会実験」(前編)

2018.09.03

熊本県の辺境にあるエコビレッジ「サイハテ村」に潜入!

ルールもない、リーダーもいないコミュニティを実践

社会の構造が変化し、新たなコミュニティの形が求められている

「コミュニティ」の重要性が再認識されている。2017年にはFacebookが創業以来、初めて企業ミッションを変更したことが話題となった。

「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する――」

インターネットの発達に伴い、続々と誕生したYouTubeやFacebook、Twitter、Instagramなどのさまざまなプラットフォーム上で、人々は自らの趣味、趣向、価値観にあったコミュニティを選択、参加するようになった。

こうした流れはオンラインだけではなく、オフラインにおいても起こっている。熊本県・宇土半島の山奥にある「サイハテ村」も、特有な価値観のもと形成されたコミュニティの1つだ。

「お好きにどうぞ」というキーワードのもと、ルールもない、リーダーもいないという不思議な関係性で人々が住まうこの”変な村”が実践している「新たなコミュニティの形」とは何か。現地で村の雰囲気を味わってきた。

熊本県宇城市三角町にあるサイハテ村。天草市へとつながる宇土半島の山奥、約1万坪もの敷地に、約30人の住民が暮らしている。電車やバスは通っていないため、車でしかいくことができず、かつ道も狭いのでなかなか行きづらい。

村へいく途中に通る山道。「本当にここに人が住んでいるのか? 」と不安になる

サイハテ村に到着

三角エコビレッジ・サイハテ。現地のデザイナーが描いた特徴的な壁面の建物が多く存在し、独特の雰囲気を放っている

記事にすると一瞬でサイハテ村に到着してしまうのだが、現地までの道のりは長く、とにかくアクセスが悪かった。思わず「到着」という必要のない小見出しを使いたくなるほどに、「とにかく無事に着いたこと」に達成感を得た。

?? : ようこそ、サイハテ村へ。

到着して最初に出会った村人は、サイハテ村の「コミュニティマネージャー」の、坂井勇貴氏。取材当日の村案内をお願いしていた人物だ。

坂井勇貴氏。1984年3月生まれ、長野県出身。CAMPFIRE・BASEなどの会社と提携し、三角エコビレッジ・サイハテのコミュニティマネージャーとして、運営およびプランニングの中枢を担う

筆者 (以下、田中) : 本当に人が住んでいるんですね……! とにかく、無事にたどり着けて良かったです。途中、何度も心が折れそうになりました。

坂井勇貴氏(以下、坂井) : お疲れ様でした。まさか原付で来るとは(笑)。ちょっと休憩しましょうか。

ルールもリーダーもない、お好きにどうぞ”な村づくり

坂井 : 田中さんは、どうしてサイハテ村に取材に来ようと思ったんですか? 

田中 : 実は私、熊本県出身で、実家がこの近くなんです。もともと、どうやら変なコミュニティがあるということは知っていて。今回、夏休みで帰省するタイミングで、取材してみたいと思って伺ったんです。

坂井 : だから原付だったのか。

田中 : そうなんです。ここに来る途中の山道で何度も、パンクするんじゃないか? とヒヤヒヤしましたが、なんとか無事に来られました。今回はこの村に一泊してみて、サイハテが実践する”新たなコミュニティの形”について体感したいと思っています。

坂井 : 是非この村の雰囲気を感じてみてください。じゃあ村の紹介をしていこうかと思うんですが、その前に。この村の唯一のルールについて説明します。

田中 : ルール?

坂井 : この村のルールは、ルールがないこと。ルールもない、リーダーもいない、”お好きにどうぞ”の村づくりを行っているのがここ、サイハテ村なんです。

田中 : (「ルールがない」のが唯一のルール……なんだかややこしいな)

サイハテ村を探索!

坂井 : まずはここが、今日泊まってもらうゲストハウスです。

ゲストハウス。広く開放感のあるベッドスペース、清潔感のあるトイレ、お洒落なダイニングがあり、居心地がいい

田中 : 綺麗ですね。山奥にこんなに快適なゲストハウスがあるなんて……。

坂井 : 実はここ、2016年にクラウドファンディングで資金調達して作ったゲストハウスなんです。約200万円の資金を集めることができました。

田中 : ……これは、プールですか?

村に設置されているプール。当日は村に遊びに来ていた子供たちが遊んでいた

坂井 : はい、村の前身となった施設で使用されていたプールを村人達で綺麗にして使えるようにしたんです。

アースバッグと呼ばれる、土のう袋を積み上げて建造した建物。村の標高が高いため、その眺めはとても綺麗だ
サイハテ村では「完全な自給自足」を目指しているわけではないが、鶏やヤギの飼育、各種青果物の栽培がなされているとのこと

「エコ」に振り切らない、ハイブリッドなコミュニティ

田中 : 村の案内、ありがとうございました。のどかな場所ですね。ところで「エコビレッジ」というと、完全な自給自足を目指しているイメージを持っていたのですが、サイハテはそうではないんですか? 

エコビレッジとは、持続可能性を目標としたまちづくりや社会づくりのコンセプト、またそのコミュニティ。以下のように定義されている。

・ヒューマン・スケールを基準に設計される。

・生活のための装備が十分に備わった住居がある。

・人間が自然界に害を与えず、調和した生活を行っている。

・人間の健全な発達を促進する。

・未来に向けて持続的である。

フリー百科事典「Wikipedia」より引用

坂井 : そうですね。サイハテでは、そこまでエコに固執しているわけではありません。そもそも昔(といってもここ数十年で)、エコビレッジが誕生したのは「環境破壊を止めたい」とか「資源の浪費を抑えたい」とかいう考えから。その想いは私達にもありますが、だからって「エコじゃないから」という理由で、生活の不便さをすべて享受しているわけではありません。食糧が足りなければ、買いに行きますしね。

もちろん、パソコンもスマホも使います。この村の住民の多くはクリエイターで、パソコン1つでWebデザイナーとして働いている人がいれば、ドローンを使っている人もいます。決してテクノロジーを否定しているわけではなく、私たちが目指しているのは、現代にあったエコビレッジの形、テクノロジーとエコが融合した”ハイブリッドなコミュニティ”なんです。

なぜ今、”コミュニティ”が重要視されているのか?

田中 : ハイブリッドなコミュニティ、ですか。

坂井 : はい。ここ数年、「コミュニティ」という言葉をよく聞くようになったのは、今一度、人と人との関わり方を見直すタイミングが訪れているためであり、そこで重要になるのが新たなコミュニティの形だと考えています。

私は以前、人口が100人ほどの村に住んでいました。そこではハッキリと「村社会」が存在していたんです。それは昔であれば、どの地域にも当てはまったこと。しかし、高度経済成長期を境にその社会が一部崩壊し、核家族が増え、コミュニティの形が変わりました。

当時はそれでうまくいったのですが、現在、社会とコミュニティの関係性が徐々にアンバランスになってきています。一生懸命働いてもお金がない、近所付き合いがないため子どもや老人の面倒を見てくれる人がいない、そもそも何をするにしても人手が足りない。私たちは、そういった問題を解決するための新たなコミュニティの形をここサイハテ村で模索しているんです。

後編では、サイハテ村が新たなコミュニティの形模索する中で見えてきたこと、その課題などについて紹介します。(後編は9月4日公開予定です)