「地方創生」の記事

「ロードスター」で熱海めぐり! JRが“コトづくり”に力を入れる理由

「ロードスター」で熱海めぐり! JRが“コトづくり”に力を入れる理由

2019.04.26

JR東日本グループの特別企画「オープンカープラン」

移動を旅の目的にする新たなビジネスプランとは

駅を拠点とした“コトづくり”の鍵は移動のシームレス化

JR東日本横浜支社とJR東日本レンタリースは、駅レンタカーでマツダ「ロードスター」を貸し出し、旅行者に新緑の伊豆半島ドライブを楽しんでもらおうというキャンペーン「オープンカープラン」を2019年6月30日まで展開している。

このキャンペーンは、3月31日まで千葉県・館山で実施していた「オープンカーde体感 南房総ドライブ」に続く第二弾。一次交通の担い手である鉄道会社がクルマを使った“コトづくり”に取り組む理由が気になったので、体験してきた。

開放感抜群の「ロードスター」でのドライブをレンタカーで手軽に楽しむ。これからの季節に最高の組み合わせだ

「ロードスター」と行く熱海の絶景めぐり

「オープンカープラン」は、現在開催中の「静岡デスティネーションキャンペーン」の特別企画。JR熱海駅にある駅レンタカー熱海営業所で「ロードスター」をレンタルし、ドライブを楽しむことができる。料金プランは3時間4,860円と1暦日9,720円の2パターン(いずれも免責補償料と税込)。今回は3時間プランを選択し、伊豆半島へとドライブに出掛けた。

駅レンタカー熱海営業所にはマツダ「ロードスター」の「S Special Package」(6速AT、ソウルレッドクリスタルメタリック)が2台用意してある

今回は、絶景スポット・十国峠駐車場を目指した後、長浜海水浴場を経由して駅レンタカー熱海営業所に戻るルートを選択。走行距離約30km、移動時間約1時間のショートコースだ。

熱海駅周辺は入り組んだ道が多いが、ボディサイズが小さくてFR(フロントエンジン・リアドライブ)の「ロードスター」は取り回しがしやすく、思い通りに操作できるので運転が楽に感じる。

運転の楽しさを感じたのが、駅レンタカー熱海営業所から十国峠に向かう途中の坂道だ。FR専用設計が施された1.5L直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」を搭載する「ロードスター」は、坂道も難なく登っていくが、特筆すべきはエンジンサウンド。アクセルを踏み込むたびに気持ち良く吹け上がる様を耳でも楽しめる。

西に駿河湾を望む抜群のロケーションの十国峠駐車場で撮影した1枚。北には富士山を見渡すこともできるが、当日はあいにく、雲がかかって見ることができなかった

晴天に恵まれ、絶好のドライブ日和となった取材当日。晩春の気持ちいい風を全身に浴びながらのドライブは、オープンカーならではの魅力だ。十国峠の次は潮の香りを感じる海岸線を通って、長浜海水浴場を目指した。

長浜親水緑地駐車場にて。マツダのデザイン哲学「魂動デザイン」をまとう「ロードスター」は写真映えもバッチリだ

夏には多くの海水浴客が訪れる長浜海水浴場も、海開き前とあって人の姿はまばら。「ロードスター」を長浜親水緑地駐車場に停め、しばし砂浜散策を楽しんだ後、駅レンタカー熱海営業所へと帰路に着いた。

帰着後、「オープンカープラン」の予約状況を尋ねてみたところ、5月以降は平日を中心にまだ空きがあるそうだ。JR熱海駅から少し足を伸ばせば、韮山反射炉や伊豆の国 パノラマパーク、沼津港といった歴史・絶景・グルメの観光スポットが盛りだくさん。ロードスターであれば、移動時間も含め、その魅力を満喫できること請け合いだ。

熱海営業所に用意してある「ロードスター」はナンバーにもこだわりが。今回試乗したクルマは「・・12(伊豆)」で、もう1台は「1212(伊豆伊豆)」となっている

「ロードスター」が旅の目的に?

伊豆半島ドライブを五感で楽しませてくれた「オープンカープラン」。しかしなぜ、一次交通の担い手である鉄道会社が、二次交通(クルマ)にフォーカスした旅行商品に力を入れるのかについては疑問が残った。そこで、JR東日本横浜支社の小林真一郎氏、同千葉支社の佐藤裕史氏、JRレンタリースの笠井淳氏に話を聞いた。

左から佐藤氏、笠井氏、小林氏

まず、「オープンカープラン」を館山・南房総エリアに続き熱海で開催するに至った経緯については、「4月からの静岡デスティネーションキャンペーンの開催にあわせて、JRレンタリースさんからお声がけをいただき、同キャンペーンの特別企画として熱海営業所で実施しています」(小林氏)という。だが、そもそも「ロードスター」をレンタルするという企画は、千葉支社が地方創生を目的にする“コトづくり”事業に取り組んだことが始まりだった。

千葉県の場合、千葉駅~新宿駅や京葉線・蘇我駅~東京駅といった区間は、通勤・通学をメインによく使われている。一方、千葉駅から銚子方面や勝浦・安房鴨川方面、館山方面となると、基本的には観光に特化している。そのため、JRとしては同地域に観光客を呼び込みたいところだが、「観光の目玉となるものはいろいろある中で、知ってもらう機会があまりない」(佐藤氏)のが現状だという。また、千葉県に限らず、地方の場合は駅と各観光地が離れているところが多く、二次交通の拡充が大きな課題となっていた。

「当初は、『ロードスター』を走らせて遊んでもらえればいいぐらいに考えていました」という佐藤氏。しかし、ロードスターが旅の目的であったとしても、現地の魅力を知ってもらう効果は大きいという

館山・南房総エリアに観光客を呼び込むにはどうすればよいのか。この課題について考えていた佐藤氏は、「私と現・木更津駅長には、ロードスターに乗っていたという共通点がありまして、じゃあ、ロードスターを走らせたら面白いんじゃないかと」(佐藤氏)思いついたそう。こうして生まれたオープンカープランの企画は、JRレンタリースとマツダの協力を得て実現に至る。

2018年12月から今年3月末までという、オープンカーには厳しい季節の開催となった「オープンカーde体感 南房総ドライブ」は期間中、ほぼ予約で一杯となり、大きな反響を呼んだ。利用者の中には、20代~30代の若者も多かったという。

「価格を低く設定したことで、若い方でも利用しやすかったのだと思います。また、近年は写真を目当てに旅行される方も多いですが、ロードスターは晴れているとまたいい色が出るので、そう意味でもぴったりですよね」(笠井氏)

笠井氏はもともと、クルマが観光のプラスαになればと考えていた。そのため、ロードスターを目的に訪れる利用者が多かったことは意外だったそうだ。「今回も、ロードスターに乗りたいから熱海に来るというお客様がいらっしゃるはずです。そういったニーズを掘り起こすことができれば、新たなビジネスチャンスにつながると思います」と笠井氏は期待を示す。

「前回の開催では、ロードスターに乗ることで楽しい気分になられるのか、笑顔で帰ってこられるお客様が多かったですね。ファンの多いクルマですので、やっぱり普通のレンタカーとは違ったのだと思います」(笠井氏)

JRグループでは、今後も異なる地域で「オープンカープラン」の実施を検討していくとのこと。佐藤氏は「キャンペーンが広がりを見せていることに、地元の方もすごく喜んでくださっています。ロードスターに乗りに来てもらって、現地を知ってもらえるというのが重要。いろんな地域にどんどん行ってもらって、そこで観光の魅力を知っていただくきっかけになれば嬉しいですね」と語る。

一次交通と二次交通のシームレス化で滞在時間を延ばす

JR東日本グループは「経営ビジョン2027」の中で、駅を拠点に旅の目的地を創生する(コトづくり)という方針を打ち出している。最後に、一次交通と二次交通を組み合わせることで、どのような可能性を感じているのか小林氏に聞くと、「今後は鉄道を利用して現地に訪れたお客様に対して、バスやレンタカー、もしくは自転車など、いろんな選択肢の幅を広げるというのが大切になってくると考えています」との答えが返ってきた。

「鉄道だけ、自動車だけというのではなく、いかにお客様にとって最善の策を用意できるかが交通事業者の使命になってくる」と小林氏

近年の旅行は、観光だけというよりも、そこで何を体験できるかという部分に重きを置く傾向が見られる。そうした旅行者の欲求を満たすために必要となるのが、効率的な移動手段による移動時間の短縮であったり、今回の「オープンカープラン」のように、移動そのものを目的にしてしまうことだ。JRがロードスターをフィーチャーした今回のキャンペーンは、鉄道とクルマの組み合わせで広がる旅の可能性を感じさせてくれた。

北海道を走る観光列車でJRが目指す「方向性」とは?

北海道を走る観光列車でJRが目指す「方向性」とは?

2019.03.29

JR北海道にトロッコ列車と東急車輌が走る

JR東日本が北海道に車両を貸し出す思惑とは?

北海道最大の資源である“自然”をウリにする

2019年2月にJR北海道がJR東日本、東急電鉄、JR貨物と共同で開いた記者会見では、JR東日本が保有するトロッコ列車「びゅうコースター風っこ」と東急が保有し横浜~伊豆急下田間で運転している「THE ROYAL EXPRESS」が、この夏から2020年夏にかけて、北海道を走るというプロジェクトが発表された。

JR北海道へ貸し出されることになった「びゅうコースター風っこ」。写真は水郡線を走ったときのもの(撮影:レイルマンフォトオフィス)

これについては、さまざまな報道がすでになされているので詳細は譲るが、要は、JRのトロッコ列車を道内で運行する試みと、北海道の観光資源に着目した東急が自社所有の列車を走らせて、新しい展開を図ろうという試みである。同じようなプロジェクトではあるが、その性質は異なる。JR貨物は、これらの車両を貨物列車として、北海道までの往復の輸送を担うことで参加する。

JR北海道、JR東日本、東急電鉄、JR北海道の各社の社長が一同に会して、北海道の観光列車についての記者発表が行われた

「びゅうコースター風っこ」は、国鉄が新製し、道内でも運用されているキハ40系ディーゼルカーからの改造車であるため、基本的な構造はJR北海道も熟知している。運行はJR北海道が担い、収益を上げる代わりに車両の借用料をJR東日本に支払う。集客についてもJR北海道が責任を負うこととなる。

JR北海道のキハ40形ディーゼルカー。近い将来の引退が予定されている

「THE ROYAL EXPRESS」は東急が営業の責任を負い、旅行商品を販売する。JR北海道は線路を使用させ、運行に協力するという形である。この場合、線路使用料がJR北海道の収益となる。

「最後のひと花」と「実績づくり」を狙うか

「びゅうコースター風っこ」の改造が完成しデビューしたのは2000年。もう20年近いキャリアを持つベテランである。改造前から数えると、鉄道車両としての寿命ともいえる40年ほどの車齢を重ねている。トロッコ列車として運行された区間は、JR東日本の路線で観光色が強いところなら、ほぼすべてといってよいほど。走れるところは、行き尽くしている。

キハ40系は老朽化が著しいため、JR北海道でもJR東日本でも、あと数年のうちに新型車両へ置き換えられるだろう。そのため、引退が予想されている車両だ。「風っこ」も例外ではない。そうした古参を、あえてかき入れ時である夏季(2019年7~9月の予定)にJR北海道に貸し出す。JR東日本としては、トロッコ列車を北海道で走らせることにより、利用客に新鮮な感覚を味わってもらいたいからだと想像できる。引退間近である車両の最後の活躍の場として、北海道の地を選んだ。JR北海道にとっては扱い慣れた車両を借り入れて実績を積み重ね、今後のほかの車両の借り入れの道筋をつけようという、思惑がありそうだ。

単にトロッコ列車を走らせるだけなら、JR北海道も「ノロッコ号」を保有している。釧路湿原を車窓に眺める釧網本線などを走るが、こちらも国鉄が製造した車両の改造で、「びゅうコースター風っこ」と同時期のデビュー。やはり老朽化が進んでおり、運行を継続するなら、近い将来、新しい車両を投入する必要に迫られている。

窓ガラスがなく、風を感じられるトロッコ列車は、自然に恵まれた北海道では人気があり、観光列車として一定の収益が期待できる。現在、JR北海道は、キハ40系の置き換え用として、JR東日本の新型ディーゼルカーと共通設計にした普通列車用ディーゼルカー(H100形)の投入計画を進めている。その延長線上として、両社共通の観光型ディーゼルカーの新製投入ということも、今回の「風っこ」貸し出しを基礎として、期待できそうだ。例えば「ノロッコ号」は2016年2月まで、「流氷ノロッコ号」として厳冬期に運転されていた。夏季はJR東日本の路線で。冬季は北海道らしい寒さが体験できるJR北海道の路線で運転するという、運用方法も考えられよう。

JR北海道が所有するトロッコ列車「ノロッコ号」。こちらも改造から約20年が経過している

「豪華列車」はどこまで必要か

一方の「THE ROYAL EXPRESS」は、2017年7月に運行を開始したばかりだ。こちらも伊豆急行(東急グループの鉄道会社)2100系電車を改造したものである。水戸岡鋭治氏デザインによる「列車によるクルーズ旅」をコンセプトにしたツアー専用列車であるが、早くも新境地を求めたことになる。

「THE ROYAL EXPRESS」(伊豆急行プレスリリースより)

北海道内で同列車は、ディーゼル機関車が牽引。電源車を連結し冷房や照明などに必要な電力を供給するという。前例がないわけではないが、特殊な運転方法であることは間違いない。「そこまでして、北海道で運転するのか」という見方もできよう。運転期間は2020年5~8月の間で1カ月間。観光シーズンといえる時期で、その間、伊豆を留守にするわけだから、大きなチャレンジである。

好意的に見るなら、東急が同種の列車をJRと協力して全国的に走らせる、その先例にするということであろう。「THE ROYAL EXPRESS」が自力で走行できるのは直流電化区間だけであるから、電化非電化を問わず、走行線区を選ばない車両の新製までにらんでいてもおかしくはない。同種の車両としてはJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」やJR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」がある。

ただ、この種の列車は「列車自体を楽しむ」ことがコンセプトのひとつでもあり、車窓風景が本州より格段に優れた北海道にふさわしいかという考えもある。印象が相殺されてしまう懸念があるのだ。窓が開く普通列車で北海道を旅した経験があるならば、豪華列車が果たして必要かという思いにもかられる。人間がいかに演出を凝らしても、大自然の前では無力かもしれないのだ。

リピーターが満足する施策とは?

北海道の観光資源の多くは、自然に由来している。風景そのものはもちろん、動植物であったり、海や山の恵みであったりする。人工的なテーマパークなどとは一線を画しており、それで、多くの人に深い魅力を感じさせている。

新宿のJR東日本本社に4社の社長が集まって記者会見を行うような派手なプロジェクトとは対局にあるが、花咲線(釧路~根室間)で2018年6月から取り組まれている利用促進策もまた、北海道の鉄道旅行の魅力を感じさせるための施策。今後の重要な方向性のひとつを示唆している。

北海道には大自然という無二の観光資源がある。写真の釧網本線北浜駅付近の海も、冬は流氷で埋まる

これは定期列車(快速・普通)の一部を対象として「見どころでゆっくり走る」「観光ガイドを音声で行う無料アプリの配布」「ご当地弁当の列車への配達」を柱としたサービスを行うもの。車両自体は特別なものではなく、一般的なJR北海道のディーゼルカーだ。途中駅での乗り降りも、当然、自由である。

初めて北海道を訪れる観光客ならば、確かにお勧めの観光コースを巡ってくれる、団体ツアーが便利であろう。そのコースに観光列車を組み込めばいい。しかし、いずれ飽きて離れる客は必ず出る。ならば、繰り返し北海道を訪れ、鉄道の旅を楽しむ「JR北海道ファン」を、一人でも多く獲得することが肝要になるのではないか。

そうした旅慣れたファンが、レディ・メイドの旅を好むとも考えづらい。広い北海道を「行きたいところへ自由に」「思うがままに」巡りたいと思うはずだ。控えめにその手助けをし、さらに旅を充実させることもまた必要だろう。乗りたい時に列車に乗れ、食べたい時に食べられる自由が大切なのだ。

花咲線の利用促進策のひとつとして、厚岸駅弁の「かきめし」も一部列車へ配達してくれる

国鉄時代には、毎年夏になると北海道ワイド周遊券を手にした若者が、青函連絡船で北海道へと押し寄せた。その頃、人をひき付けたローカル線の多くは廃止されてしまったが、花咲線が健在なのをはじめ、まだ完全に無くなったわけではない。

そこを「観光列車」で旅するのもよいが、なんでもない普通列車で旅をしてもいい。そういう、ひとつの方向性に凝り固まらない考え方を期待したい。

2月14日付けのJR北海道のプレスリリースでは、「多目的特急車両」の新製(2020年秋使用開始予定)が発表された。これはキハ261系特急型ディーゼルカーをベースに、多客期の臨時列車向けとしてリクライニングシートを装備するほか、イベント列車にも用いることができるよう1両をフリースペースにするなどの工夫を施したもの。車両そのものは豪華ではないが、十分な快適性を備え、豊かな観光資源を楽しめるような、走行線区を問わない柔軟な運用が行えるだろう。

宗谷本線の特急として走るキハ261系。これをベースに新しいイベント向け車両が造られる

いたずらに車両そのものをデコライズすることなく、北海道の自然に似合う、ナチュラルな魅力を持つ列車を作り上げる。そして、車窓など自然の恵みを存分に満喫できるアイデアを凝らす。北海道の鉄道旅行の未来を考えるなら、「車両だけに目を向けない」考え方もまた、必須ではなかろうか。

スーパークリエイターが佐賀県で挑む スマート農業とAI無人店舗の中身

スーパークリエイターが佐賀県で挑む スマート農業とAI無人店舗の中身

2019.03.06

佐賀県でAIを活かしたスマート農業と無人店舗に取り組む

スマート農場の実証実験で得られた成果は?

小売店の現実により近づけたAI無人店舗の展開

株式会社オプティム(以下OPTiM)は、株式会社日本HP(以下HP)が2月に東京都内で開催したプライベートイベント「HP Reinvent World 2019」に出展。同社 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏の講演を行った。

講演の中で、OPTiMが佐賀県で展開しているドローンとAIを利用したスマートアグリカルチャー(スマート農業と)、AIを利用した無人店舗の取り組みを説明した。

OPTiMが進めるドローンを利用したスマートアグリカルチャー(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIとIoTソリューションを活用し、佐賀県の農場で実証実験

株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏

OPTiMは2000年に創業したIT企業だ。日本国内でPC向け、スマートフォン向けのソフトウェアや、IoT向けのソリューションなどを提供している。2014年10月に東京証券取引所 マザース市場に上場し、2015年10月に東京証券取引所 市場第一部へ市場変更した。

同社は00年代にはPC向けのソフトウェアなどに力を入れていたが、10年代前半にはそれをスマートフォンに拡大し、10年代後半にAIやIoT関連のビジネスに力を入れるようになった。山本氏が率いるOPTiM Cloud IoT OS事業では、そうしたAIやIoTのソリューションを展開している。同社は多数のエンジニアを抱えるエンジニアリングファーストの企業として知られていて、山本氏自身も、過去にはIPAが行なっていた「IPA未踏ユース2005年度スーパークリエイター」に選出されるなどの実績を残しているエンジニア出身だ。

その山本氏が話したのは、OPTiMが佐賀県で行なっている2つのユニークな事業。1つがドローンとAIを活用して作付けしている作物を自動判別するソリューション、もう1つがAIを活用した無人店舗だ。

作付けをドローンの空撮映像とAIで判別するソリューション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

まず1つめのドローンとAIを利用した作付けのチェックは、カメラを搭載した固定翼型ドローンで農地を撮影するとともに、AIで作付けされている作物を自動で判別するというソリューションだ。

このようにAIが作付けしている作物を自動で判別していく(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

そもそも「なぜこんなことが必要なのか」と言うと、国や県が農家に補助金を出す際に「特定の作物を作付けしていること」が条件に含まれるためである。山本氏は「従来は県の担当者らが、作物をいちいち目視で確認していて膨大な時間がかかっていた。それを大きく削減できると考えてプロジェクトをスタートした」と、事業の意義を説明する。

具体的に今回の佐賀県の例では、目視調査の場合、実にのべ約1,360時間と、県の担当者にとって大きな負担になっていた。仮にその時間を別の業務に割くことができれば、新たな住民サービスを生み出せるかもしれない。県民にとっても大きなメリットがある取り組みだ。まずは佐賀県の白石町で始めており、現在は佐賀県全土へと対象を広げつつある状況という。

講演会場で配られたスマート米。これは今回の佐賀とは別に、同社のAI技術を活用することで減農薬栽培を実現した千葉県の農場で生産された

ロス率0を実現した無人店舗、モノタロウ・佐賀大学との共同プロジェクト

2つめの無人店舗に関しては、実際に取り組みが行われている佐賀大学の構内店舗を例として紹介。これは佐賀大学のほか、”現場系”に強い通販サービスを運営するモノタロウと共同で取り組んでいるプロジェクトだ。

モノタロウと佐賀大学との共同プロジェクトによる無人店舗(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

この無人店舗では、Amazonが米国で運営している無人店舗「Amazon Go」のような、大量のカメラを店舗内に設置して、客が何を取ったかをAIの画像認識で判別して決済までを自動化するのではなく、購入決済は来店客のスマートフォンで商品バーコードを読み取る形にしている。

山本氏は、「Amazon Goのような方式だと100台程度のカメラが必要になるし、それと同じぐらい大規模な処理用ワークステーションも必要になる。これは小売店にとっては現実ではないと判断した。そこで、カメラはセキュリティとマーケティング用に5台だけ用意して、決済は客のスマートフォンで行う形にした」と、より現実の小売店のニーズに即した方式を採用したと説明する。

店舗内の全景(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIが店舗のカメラや入退店ゲート、各種センサーなどを制御・分析することで、防犯などのセキュリティ面を担っているほか、来店客の行動分析によるマーケティング面での店舗運営支援もできるようにしている。

カメラは5台でセキュリティとマーケティング観点でのモニタリングを行なっている(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

気になるロス率(有り体に言えば万引きされる商品の率)は、驚くべき事に始めて半年の実績で「0」だったという。小売店では商品の消滅などのロス率をある程度見込んで運営がされている。もちろん大学の構内という比較的治安が良い場所ということを差し引く必要はあるが、小売店の利益に直結するロス率0という数字は注目に値する。

AIソリューション、現状ではクラウドよりもエッジが現実的

OPTiMのエッジワークステーション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

こうしたOPTiMのAIソリューションを裏で支えたのは、HPのエッジAIソリューションだったという。山本氏は、「ディープラーニング(深層学習)の学習と推論を、GPUを搭載するHPのワークステーションで行なっている。ワークステーションにHPを選択した理由は、こちらが必要としている量を確実に供給してくれる体制とサポート体制がしっかりと整っていたため」と、様々なベンダから検討した結果、HPを選択するに至った決め手を説明した。山本氏によれば、パブリッククラウドで提供されるGPUなども利用してみているが、現状では、「エッジにワークステーションを置く方が使い勝手が良い」と評価しているそうだ。

OPTiMのエッジワークステーションのラインアップ(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)
株式会社日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ 事業統括 九嶋俊一氏(左)と株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏(右)

なお、山本氏は、3月20日に書籍『成功に導くためのAIプロジェクト実践読本』を発売する予定という。どうやってAIのソフトウェアを書くのか、という従来のAI関連の書籍とは異なり、AIをどうやって自社のビジネスに投入していくかについてフォーカスした内容だそうだ。

「AIを使ったサービスは、従来のソフトウェア開発とはモデルが異なる。それを契約としてどのようにクロージングしていくかが重要になる。ソフトウェアの開発契約をどうしたらいいのか、ソフトウェアの知財をどうしたらいいのか、そのソフトウェアを使ったビジネスが拡大したときにレベニューシェアをどうしたらいいのか、そうした時に参考になる書籍にした」(山本氏)といい、社内ノウハウも惜しげ無く盛り込んだとのことなので、AI活用ビジネスを始めようという人は注目しておくといいだろう。

3月20日に販売予定の「成功に導くためのAIプロジェクト実践読本」(マイナビ刊 出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)