「地方創生」の記事

スーパークリエイターが佐賀県で挑む スマート農業とAI無人店舗の中身

スーパークリエイターが佐賀県で挑む スマート農業とAI無人店舗の中身

2019.03.06

佐賀県でAIを活かしたスマート農業と無人店舗に取り組む

スマート農場の実証実験で得られた成果は?

小売店の現実により近づけたAI無人店舗の展開

株式会社オプティム(以下OPTiM)は、株式会社日本HP(以下HP)が2月に東京都内で開催したプライベートイベント「HP Reinvent World 2019」に出展。同社 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏の講演を行った。

講演の中で、OPTiMが佐賀県で展開しているドローンとAIを利用したスマートアグリカルチャー(スマート農業と)、AIを利用した無人店舗の取り組みを説明した。

OPTiMが進めるドローンを利用したスマートアグリカルチャー(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIとIoTソリューションを活用し、佐賀県の農場で実証実験

株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏

OPTiMは2000年に創業したIT企業だ。日本国内でPC向け、スマートフォン向けのソフトウェアや、IoT向けのソリューションなどを提供している。2014年10月に東京証券取引所 マザース市場に上場し、2015年10月に東京証券取引所 市場第一部へ市場変更した。

同社は00年代にはPC向けのソフトウェアなどに力を入れていたが、10年代前半にはそれをスマートフォンに拡大し、10年代後半にAIやIoT関連のビジネスに力を入れるようになった。山本氏が率いるOPTiM Cloud IoT OS事業では、そうしたAIやIoTのソリューションを展開している。同社は多数のエンジニアを抱えるエンジニアリングファーストの企業として知られていて、山本氏自身も、過去にはIPAが行なっていた「IPA未踏ユース2005年度スーパークリエイター」に選出されるなどの実績を残しているエンジニア出身だ。

その山本氏が話したのは、OPTiMが佐賀県で行なっている2つのユニークな事業。1つがドローンとAIを活用して作付けしている作物を自動判別するソリューション、もう1つがAIを活用した無人店舗だ。

作付けをドローンの空撮映像とAIで判別するソリューション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

まず1つめのドローンとAIを利用した作付けのチェックは、カメラを搭載した固定翼型ドローンで農地を撮影するとともに、AIで作付けされている作物を自動で判別するというソリューションだ。

このようにAIが作付けしている作物を自動で判別していく(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

そもそも「なぜこんなことが必要なのか」と言うと、国や県が農家に補助金を出す際に「特定の作物を作付けしていること」が条件に含まれるためである。山本氏は「従来は県の担当者らが、作物をいちいち目視で確認していて膨大な時間がかかっていた。それを大きく削減できると考えてプロジェクトをスタートした」と、事業の意義を説明する。

具体的に今回の佐賀県の例では、目視調査の場合、実にのべ約1,360時間と、県の担当者にとって大きな負担になっていた。仮にその時間を別の業務に割くことができれば、新たな住民サービスを生み出せるかもしれない。県民にとっても大きなメリットがある取り組みだ。まずは佐賀県の白石町で始めており、現在は佐賀県全土へと対象を広げつつある状況という。

講演会場で配られたスマート米。これは今回の佐賀とは別に、同社のAI技術を活用することで減農薬栽培を実現した千葉県の農場で生産された

ロス率0を実現した無人店舗、モノタロウ・佐賀大学との共同プロジェクト

2つめの無人店舗に関しては、実際に取り組みが行われている佐賀大学の構内店舗を例として紹介。これは佐賀大学のほか、”現場系”に強い通販サービスを運営するモノタロウと共同で取り組んでいるプロジェクトだ。

モノタロウと佐賀大学との共同プロジェクトによる無人店舗(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

この無人店舗では、Amazonが米国で運営している無人店舗「Amazon Go」のような、大量のカメラを店舗内に設置して、客が何を取ったかをAIの画像認識で判別して決済までを自動化するのではなく、購入決済は来店客のスマートフォンで商品バーコードを読み取る形にしている。

山本氏は、「Amazon Goのような方式だと100台程度のカメラが必要になるし、それと同じぐらい大規模な処理用ワークステーションも必要になる。これは小売店にとっては現実ではないと判断した。そこで、カメラはセキュリティとマーケティング用に5台だけ用意して、決済は客のスマートフォンで行う形にした」と、より現実の小売店のニーズに即した方式を採用したと説明する。

店舗内の全景(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

AIが店舗のカメラや入退店ゲート、各種センサーなどを制御・分析することで、防犯などのセキュリティ面を担っているほか、来店客の行動分析によるマーケティング面での店舗運営支援もできるようにしている。

カメラは5台でセキュリティとマーケティング観点でのモニタリングを行なっている(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

気になるロス率(有り体に言えば万引きされる商品の率)は、驚くべき事に始めて半年の実績で「0」だったという。小売店では商品の消滅などのロス率をある程度見込んで運営がされている。もちろん大学の構内という比較的治安が良い場所ということを差し引く必要はあるが、小売店の利益に直結するロス率0という数字は注目に値する。

AIソリューション、現状ではクラウドよりもエッジが現実的

OPTiMのエッジワークステーション(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)

こうしたOPTiMのAIソリューションを裏で支えたのは、HPのエッジAIソリューションだったという。山本氏は、「ディープラーニング(深層学習)の学習と推論を、GPUを搭載するHPのワークステーションで行なっている。ワークステーションにHPを選択した理由は、こちらが必要としている量を確実に供給してくれる体制とサポート体制がしっかりと整っていたため」と、様々なベンダから検討した結果、HPを選択するに至った決め手を説明した。山本氏によれば、パブリッククラウドで提供されるGPUなども利用してみているが、現状では、「エッジにワークステーションを置く方が使い勝手が良い」と評価しているそうだ。

OPTiMのエッジワークステーションのラインアップ(出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)
株式会社日本HP 専務執行役員 パーソナルシステムズ 事業統括 九嶋俊一氏(左)と株式会社オプティム 執行役員 兼 OPTiM Cloud IoT OS事業責任者 山本大祐氏(右)

なお、山本氏は、3月20日に書籍『成功に導くためのAIプロジェクト実践読本』を発売する予定という。どうやってAIのソフトウェアを書くのか、という従来のAI関連の書籍とは異なり、AIをどうやって自社のビジネスに投入していくかについてフォーカスした内容だそうだ。

「AIを使ったサービスは、従来のソフトウェア開発とはモデルが異なる。それを契約としてどのようにクロージングしていくかが重要になる。ソフトウェアの開発契約をどうしたらいいのか、ソフトウェアの知財をどうしたらいいのか、そのソフトウェアを使ったビジネスが拡大したときにレベニューシェアをどうしたらいいのか、そうした時に参考になる書籍にした」(山本氏)といい、社内ノウハウも惜しげ無く盛り込んだとのことなので、AI活用ビジネスを始めようという人は注目しておくといいだろう。

3月20日に販売予定の「成功に導くためのAIプロジェクト実践読本」(マイナビ刊 出典:HPと協業を進めるOPTiMのエッジAI戦略、株式会社オプティム)
華やかなファッションの祭典「TGC」に託された社会的な役割

華やかなファッションの祭典「TGC」に託された社会的な役割

2019.02.01

地方都市へと活動の場を広げるTGCのねらい

数千人規模の集客が地方に経済効果をもたらす

「SDGs」という国際的な開発目標を強力に発信

きらびやかなステージライトが降り注ぐなか、最新ファッションに身を包んだモデルたちが颯爽とランウェイを歩く……。ファッションイベントとして、毎回大きな注目を浴びる「TOKYO GIRLS COLLECTION」(TGC)ではお馴染みの光景だ。そのTGCの地方イベント「SDGs推進 TGC しずおか 2019」が開催された。

「SDGs 推進 TGC しずおか 2019」のオープニング

単なるファッションショーではない側面

もともとTGCは“日本のガールズカルチャーを世界へ発信”というのがおもな役割といえるだろう。事実、筆者もTGCをそのように捉えていた。だが、数年前から単なるファッションイベントというだけではない側面が目立ち始めている。

ランウェイから観客席にプレゼントを投げる乃木坂46の白石麻衣さん

たとえば福岡県・北九州市で開催されている「TGC北九州」。TGCといえば国立代々木競技場やさいたまアリーナといった、首都圏の大規模会場での開催が目立つ。宮崎県や福島県で開催された例もあるが、“単発”といったイメージが強かった。だが「TGC北九州」は、2015年の開催を皮切りに計4回行われ、地方都市で開催されるTGCとしては、過去最多を誇る。

そして、地方都市開催という流れはより一層加速し、広島県や富山県もTGCの舞台となった。さらに2019年、この年最初に開催されたのが「SDGs推進 TGC しずおか 2019」だ。ちなみに静岡県でTGCが開催されるのは初めてで、4月にはこちらも初となる熊本県開催が控えている。

ランウェイを颯爽と歩くモデル

もちろん首都圏でのTGC開催はメイン路線だろう。それプラス、地方進出を強めている背景は何か。それは“地方創生”にある。TGCは、SNSのフォロワー数が数十万人もいるモデルやアーティストが100~200人参加する。彼ら彼女らがSNS等でイベント告知を行えば、それだけで相当な情報拡散につながる。日本国内だけでなく、海外でも注目されているイベントなので、インバウンドへの影響も少なくないはずだ。これだけでも、地方都市には大きなメリットといえる。

そして直接的な経済効果も十分に期待できる。まず、TGCといえば多くのモデルやスタッフが参加・活動するイベントだ。交通機関や飲食・宿泊施設への経済効果は少なくない。事実、会場となった「ツインメッセ静岡」にタクシーで移動する際、運転手さんは「今日はツインメッセ静岡を目指すお客さんで、朝から会社を挙げてのフル稼働です」と話した。そして、開場ともなれば約7,000人もの観客が会場を目指す。どのくらいの経済効果になるのか、見当もつかない。

「SDGs推進」を強烈にアピール

そして「SDGs推進 TGC しずおか 2019」には、地方創生と並ぶ大きな役割がある。まさにイベントのタイトルにある「SDGs推進」だ。「SDGs」(エス・ディー・ジーズ)とは“持続可能な開発目標”のことで、「貧困」「飢餓」「保健」「教育」「ジェンダー」といった17の国際目標により、「誰一人取り残さない持続可能で多様性と包摂性のある社会」を実現するというもの。2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された開発目標だ。

ステージのスクリーンに映し出された「SDGs」の開発目標
タレントの早見優さんが国連旗を掲げてランウェイを進む(後方の2人は娘さん)。「SDGs」が国連主導の開発目標であることを示す象徴的なシーンだ

この「SDGs」を推進するために、強いメッセージを込めて開催されたのが「SDGs推進 TGC しずおか 2019」なのだ。静岡県知事・川勝平太氏もイベントを訪れ、県を挙げての「SDGs推進」を宣言した。

ステージに上がった川勝平太静岡県知事(右から2番目)。知事が着用していた遠州織物の展示・販売も会場で行われていた

ではなぜ「SDGs」をTGCが推進するのか。W TOKYO 東京ガールズコレクション実行委員会 チーフプロデューサー 池田友紀子氏は「これまで『TGC 地方創生プロジェクト』を通じて地方の活性化を進めてきましたが、今回は『SDGs推進』という国際的な目標もテーマにしました」と話す。

「『SDGs』は2030年を年限とした開発目標ですが、まだまだ認知度が低いのが現状です。そこで『SDGs 推進 TGC しずおか 2019』を開催することで、若い人たちに少しでも知ってもらえればと思っています」(池田氏)

インタビューに応じてくれた深川麻衣さん

事実、ショーに参加した乃木坂46の深川麻衣さんは、「『SDGs』という言葉にあまりなじみがなかったのですが、今回イベントに参加させていただいて理解が深まりました。今後も『SDGs』に関わる機会があれば、積極的に参加したいです」と話す。またイベントを裏で支えた学生ボランティアも、それまで「SDGs」という言葉を知らなかったという。

前述の池田氏は、「この『SDGs推進 TGC しずおか 2019』が開発目標のとっかかりになればいいと思います。若い世代に『SDGs』という言葉を知っていただき、今後、多くの活動を生み出すきっかけになればと思います」と話す。

2019年は「G20サミット」「TICAD7」(アフリカ開発会議)「初のSDGs首脳級会合」が開かれる。「SDGs」の浸透がさらに進む年になるだろう。

自治体を直撃する人口減に対し“移住”で活路を見いだす霧島市

自治体を直撃する人口減に対し“移住”で活路を見いだす霧島市

2019.01.18

人口減を抑制する施策に積極的に取り組む霧島市

霧島市への移住を決意した市民の経済活動の一端

移住を後押しする霧島市の観光資源を巡ってみる

全国には1,700以上の自治体(市区町村)が存在する。それぞれの自治体には特色もあり課題もあるが、都市圏以外の自治体、いわゆる地方自治体には共通の問題がある。それは“人口減”だ。都市圏への人口流出、少子高齢化が起因となっている自然減により、地方自治体の人口減は加速している。2045年には自治体の半数が維持できないというショッキングな分析もある(日本創成会議)。

では、この人口減を少しでも抑制するために、地方自治体は何をするべきか。「子育て支援」「大企業誘致による雇用創出」といったところが思い浮かぶが、やはりもっとも基本的なのが「移住の促進」ではないだろうか。移住については、どの地方自治体も注力しているが、積極的に推進しているのが鹿児島県・霧島市だ。

霧島市は過去5年間、九州の自治体で移住者数ナンバーワンとなっている(2016年に行われた西日本新聞社による、各自治体のアンケート結果より)。移住先として霧島市が選ばれている理由で真っ先に思い浮かぶのが移住者に対する補助金。霧島市でも、市外からの転入で中山間地域(平地から山間地にかけての傾斜地)に住宅新築を行えば、100万円が補助される。だが、補助金に関しては、額や条件の違いこそあるとはいえ、どこの地方自治体も実施していることだ。

では、移住者はなぜ霧島市を選んだのか……。実際に霧島市に飛んで、移住者の現状を確かめてきた。

まずは移住者の声を聞いてみる

最初に向かったのは、割烹&CAFEを運営する「露乃樹さこう」。築90年の古民家をリノベーションして誕生した食事処だ。古民家とあって、いわゆる“田舎”という雰囲気が満喫できる。ところが、出てきたランチは、山の幸・海の幸が豊富な彩り鮮やかなものだった。店舗の外見からは「もっと野趣あふれるメニューかな」と思ったが、いい意味でその期待は裏切られた。それもそのはず、料理長は京都の懐石料理店で長年修業した人物だ。雅なメニューには納得できる。

古民家をリノベーションしたお店。レトロな雰囲気が漂っている。右は「露乃木名物だしかるかん」

続いて話題だというジェラート店「ジェラテリアクオーレ」へ。ご年配の方やこども連れの家族、カップルとひっきりなしに入店し、10種類以上のフレーバーが並ぶ冷凍ディスプレイの前で、何を選ぶか悩んでいた。こちらの店主は、関東地方でパティシエとして働いていたそうで、ソフトクリームに興味がわいたそうだ。そして、霧島市でのジェラート製造・販売に踏み切った。その理由のひとつに、霧島市の素材の豊富さがある。乳製品はもちろんのこと、各種フルーツ生産が盛んなことも移住のきっかけになった。

三叉路のあいだに建っているお店。多くの客が来店し、夕方には品切れになるそうだ。右は霧島市の素材で作られたジェラート。左から「キャラメルパンプーキン」「焼きいも」「霧島茶ソルベ」「クオーレ ミルク」
クルマ修理店のガレージをリノベーションした「CAFE 510」

そして最後は「CAFE 510」へ。店主は東京生まれ東京育ちだが、霧島市出身の奥さんと東京で出会い、結婚を機に霧島市に移住。店内は満席でスタッフは忙しく、お話をすることはできなかったが、活気を感じることができた。

3店巡ってみて気づいたのは、どこも多くの店が集まる立地ではなかったこと。都市圏では、ある程度店舗が集まることで、地区全体の集客につながるイメージがある。露乃樹さこうにいたっては、道路を挟んだ正面は閉鎖した映画館。数メートル先には完全な廃屋が残されていた。それなのに多くのお客が訪れ、活況を呈していた。移住ということになると、経済活動に不安を覚えるが、話題になれば遠方からのお客も来るということが実感できた。そして三者とも“霧島の食材”“霧島の自然”に魅せられ、移住を決意したことが伝わってきた。

左から霧島市役所 企画部 地域政策課 中山間地域活性化グループ 藤田友成氏、霧島市役所 企画部 地域政策課 貴島俊一氏

とはいえ、霧島市役所 企画部 地域政策課 貴島俊一氏によれば、中山間地域の人口減少は歯止めがかかっておらず、市全体の人口は微減傾向にあるという。ただ、貴島氏は、霧島市が鹿児島空港へクルマで20分かからない立地にあることが大きな光明だと強調した。鹿児島市ならまだしも、薩摩半島南部にある指宿市から鹿児島空港にアクセスするのは大変だ。そうしたこともあって、鹿児島県内各地から霧島市に移住する動きが目立っているそうだ。

大規模工場と伝統の産業が同居する霧島市

これまで巡った店舗は完全なる個人商店だが、霧島市は企業誘致にも積極的だ。その象徴ともいえるのが、京セラだろう。同社は霧島市と立地協定を締結しており、約4,500人が働く工場を稼働させている。そもそも、京セラ創業者の稲森和夫氏は、鹿児島県鹿児島市出身。鹿児島県に多額の寄付をするなど、郷里に対する情にあふれている。また、ソニーセミコンダクタマニュファクチャリングも2,000人規模の工場を霧島市で稼働させている。

延べ床面積29,232.18 平方メートルという広大な京セラ 鹿児島国分工場。付近の城山公園から全貌が確認できる

一方、伝統的な産業も盛んだ。有名なのは焼酎と黒酢。今回の取材では、昔ながらの壺によって黒酢を醸造する坂元醸造を拝見した。坂元醸造は創業約200年の老舗で、5万本以上の壺により黒酢を生産している。霧島市には多くの壺酢醸造所があり、その壺の総数は約10万本といわれているが、その半数を坂元醸造が占めていることになる。

5万本以上の壺を保有する坂元醸造。なかには200年前の創業時から使われている壺もある

なぜ、霧島市で黒酢の生産が盛んなのか。担当者によると、良質な地下水と蒸し米、米麹が入手しやすいからだという。そして何よりも、九州の南端という立地がカギとなる。燦々と降り注ぐ陽光により暖められた壺が、良質な黒酢生産に最適なのだという。以前、坂元醸造の壺を他所に運び、黒酢生産を試みた人がいたそうだが、うまくいかなかったとのことだ。

今回、大規模工場の取材はできなかったが、京セラ4,500人、ソニー2,000人のなかには、移住者も多くいるに違いない。また、伝統産業が盛んなので、そうした産業に興味を持つ若者にとって、移住のきっかけになるかもしれない。

霧島市最大の財産は豊富な観光スポット

さて、移住を促すかもしれない観光資源の多さも霧島市の財産だ。まずは桜島。正確には所在は鹿児島市なのだが、霧島市からも眺められる。むしろ鹿児島湾(錦江湾)越しの雄姿を楽しもうと思ったら、霧島市側からのほうが迫力はあるかもしれない。

噴煙を上げる鹿児島のシンボル、桜島。ここ最近は比較的におとなしいそうだ

建造物についても見所が多い。まずは「霧島神宮」。6世紀に造られ、建国神話の主人公「ニニギノミコト」を祀っているという。荘厳な社殿は霧島市のシンボルだ。

また、JR九州・肥薩線「嘉例川駅」も隠れた人気スポットだ。こちらは霧島神宮とは比べるまでもなく新しいが、それでも築116年を誇る県内最古の駅舎だ。印象的だったのは、ホームに入ると20代前半の女性が複数いたこと。しかも彼女らは一眼レフを手にしていた。ボディサイズからするとミラーレス一眼だろうが、“若い女性はスマホで撮影”と思い込んでいたので新鮮な光景だった。

いわずと知れた観光スポット「霧島神宮」。日本初の新婚旅行をした坂本龍馬夫妻が、訪れている。右は「嘉例川駅」。カメラを持った女性たちは、駅舎のほかここに停車をする「特急 はやとの風」もお目当てだったようで、しきりに線路の先を凝視していた。ただ、残念ながらこの日は運行はなかった

また、霧島市といえば温泉で有名だが、体験取材に訪れたのは「家族湯」という様式。家族湯とは首都圏では聞き慣れないが、霧島市で発祥し、今や西日本に広がっている温泉様式のことだ。湯船(露天付きもある)と個室がセットになっており、“家族でくつろげる”からというのが家族湯の由来だ。

家族湯は基本的に個室と湯船がセットになっている。利用したのは「かれい川の湯」の「かわせみ」という貸し切り湯。ちなみに霧島市には、家族湯施設がそこかしこにある

このほかにもまだまだ観光スポットはあるが、ここまでにしておこう。黒豚や和牛、野菜類などの食材、豊富な観光資源、空港に近く都市圏への移動に有利なことなど、移住促進のための要素は多い。これらをいかに移住に生かすか、それがカギになりそうだ。