「地方創生」の記事

お酒の原料を国内生産にこだわるキリンの意図

お酒の原料を国内生産にこだわるキリンの意図

2018.11.14

さまざまな個性を楽しめるクラフトビールが人気

ワイナリー新設を急ぐメルシャンの狙いは?

国内各地に農園保有はCSV活動の側面も

大手飲料メーカー、キリンホールディングス(以下、キリン)から相次いで取材のお誘いがあった。ひとつは岩手県・遠野市、もうひとつが長野県・塩尻市。

お酒好きなら、この2つの地名を聞いてわかる方もいるかもしれない。そう、遠野市はホップ生産が有名なところ。塩尻市はブドウのヴィンヤード(農園)が点在する場所だ。つまり、ビールとワインの原料生産地となる。

まず遠野について。遠野は、作家・柳田國男が記した「遠野物語」でも有名だ。柳田は“民俗学の父”とも呼ばれ、多くの物語を集め、遠野物語を完成させた。なぜ、遠野に多くの物語が伝わったのか。それは、7つの街道が集まる交通の要衝で、旅人や商人が各地の伝承を伝えたといわれているからだ。そして、雪に閉ざされた冬に、民家で地元の方々がその物語を語り合ったため、多くの物語が伝承されたというのが有力な説だ。

さて、遠野物語から離れてビールの話に移ろう。実はビールは苦戦している。昭和期にはもっとも人気のあるお酒として、親しまれた。ただ、今は当時の約3割減の消費量といわれている。

クラフトビールに視線を注ぐビールメーカー

こうした状況のなか、ビールを扱う企業は、新たなジャンルに注目し始めた。それは、いわゆる“地ビール”だ。20年ほど前、地ビールブームが訪れたが、現在はそう呼ばれていない。「クラフトビール」という名前が定着している。

遠野で醸造されているビールもクラフトビールだ。遠野の農園で生産されたホップを、地元のビール工場に運び、そして醸造。そうして生まれたクラフトビールを、キリンが流通させている。

正面奥のこんもりした場所がホップ畑
収穫を待つホップの実
ホップのツルは、約5mまで伸びる。そのためリフト搭載のクルマで収穫する
痛んだホップなどを選別して取り除く

もちろん、「一番搾り」や「ラガー」のような流通量ではない。ほんのわずかの流通量だが、ビール人気の復調のためにもクラフトビールは期待されている。そして、毎年この時期には遠野産ホップを使用した「一番搾り とれたてホップ生ビール」が販売される。遠野産ホップを使ったビールに興味があれば、手にとっていただきたい。

農園の近くにあるレストランで自家製のクラフトビールなどが楽しめるほか、ビールに合うおつまみ、週替わりの数量限定カレーが味わえる
遠野醸造では6種類のビールが用意されている。壁から突き出た6本のレバーとカランが、なかなか壮観

ワイナリーの新設を急ぐメルシャンの動き

一方、長野県・塩尻市ではワインの原料となるブドウが生産されている。塩尻市にある桔梗ヶ原という場所にヴィンヤードを拓き、ブドウ栽培が行われている。なお、ワインに関しては、キリン傘下のメルシャンが事業主体だ。ここで生産されたブドウによる「桔梗ヶ原メルロー」は、リュブリアーナ国際ワインコンクールでグランド・ゴールド・メダルを受賞したことで有名。以来、海外からの引き合いも強くなった。

これまで「シャトー・メルシャン」のワイナリーは甲州市・勝沼町のみだった。それが昨年から大きな動きを見せている。塩尻市・桔梗ヶ原と上田市・椀子にワイナリーを新設するとアナウンスしたのだ。

メルシャンが2カ所もワイナリーを増やすのはなぜか。まず挙げられるのが、日本産ワインの人気が向上したことだろう。和食が世界文化遺産に指定され、海外で和食人気が高まった。そうした食事にはやはり日本産ワインを合わせたいという需要が増えたからだろう。もちろん、国内でも日本産ワインの人気が高まっている。

そして、もうひとつがブドウ生産のヴィンヤードが増えたこと。ワインを醸造したくても、ブドウがなければ叶わない。その課題を解決するために農園を増やし、ブドウの収穫量を上げたことが根底にあるのではないか。

桔梗ヶ原ワイナリーは1938年に建てられた歴史のあるワイナリーだ。ただ一時、醸造をストップ。今回、新設されたワイナリーで約30年ぶりの仕込みが始まった
ワイナリーの敷地には、小さいながらもブドウ畑がある。敷地にこうしたブドウ畑があると、ワイナリーの雰囲気が増す

そして、いよいよ桔梗ヶ原のワイナリーが完成した(椀子はまだ)。その新設された桔梗ヶ原ワイナリーの初仕込み式に招待された。神主さんを呼んで、ワイナリーの安全を祈願したあと、仕込みが始まった。御神酒はもちろんワイン。ワインボトルの前で厳かに大麻(おおぬさ:神事で使われる棒)を振る神主さんの姿は、なかなか見物であった。

初仕込みということもあって、厳かに神事が行われた
御神酒はもちろんワイン。しかも「桔梗ヶ原メルローロゼ」だった

地方の農業を活性化するため国内に農園を拓く

仕込みが済んだということは、もっとも早く出荷される「プリムール」(新酒)が来年の春頃には飲めるのではないか。筆者は大のワイン好きなので、このワイナリーで醸造されたワインをいただくのが楽しみだ。

農園の話に戻ろう。もちろん、国内で生産された原料により醸造されるお酒は、少量となる。ではなぜ、キリンは国内各地に農園を保有しているのか。担当者は、「品質を調整しやすいのは確かですが、地方の農業を活性化する側面もあります」と話す。キリンは「健康」「地域社会」「環境」といった社会課題に、CSVとして取り組んでいる。こうした農園もCSV活動の一環なのだろう。

お手本は“出会い系”!? 地域が人をスカウトする「SMOUT」の狙い

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第7回

お手本は“出会い系”!? 地域が人をスカウトする「SMOUT」の狙い

2018.10.24

ベンチャーによる地域と人を結ぶ仕組み

地域のプロジェクトを提示して人の興味を引く

ターゲットは移住に二の足を踏んでいる層

最近の出会い系アプリは、実によくできている。

「あ、好みかも!」「きっと私と話が合いそう……」。異性の写真とプロフィールを見て気になる相手がいたら、ひとまず「いいね」をタップ。すると「いいね」した自分の情報が相手に届き、もしこちらの写真とプロフィールを気に入ってくれたなら連絡をとりあえたり、直接会えたりできる――。

ようは「あなたに興味あり」の意思表示が気軽でカンタンだから、出会いのチャンスが増えやすい。そのうえで相手のリアクションによってマッチングに至るので、成功率も高くなる。つまりローリスク・ミドルリターン。だからこそ老若男女、未婚既婚を問わず、多くの人々に支持されているのだろう。いや「既婚は問えよ」とは思うけど……。

男女のように、地域と人を結ぶ

「実はこうした“出会い系”の仕組みを、ものすごく研究したんです」と今年6月に「SMOUT」というサービスを起ち上げたカヤックLIVINGの松原佳代さんは言う。「もちろん『SMOUT』が促す出会いは、結婚したい男女じゃない。私たちがマッチングしているのは“地域と人“なんですよ」(松原さん)

カヤックLIVINGの松原佳代代表。面白法人カヤックにて2005年から上場までの10年間、広報をつとめたのち2015年に独立。(株)ハモニアを設立、代表取締役となる。カヤック在籍中に「建築家と家づくりのマッチング事業「HOUSECO」(現SuMiKa)の事業責任者をしていた縁で、2017年、カヤックLiving代表に就く。鎌倉在住。2児の母

「SMOUT」(スマウト)は、地方移住を視野に“地域と人“をつなげるマッチングサービスだ。

地方自治体や企業、NPOなどが“地方”側のプレイヤー。まず彼らが「SMOUT」上で自分たちが実施している事業やイベントなどの「プロジェクト」の詳細をアップする。

『千葉・館山の駅前シャッター通りにホステルを創りたい人募集中』『徳島でお試しサテライトオフィス、してみませんか?』『岩手・花巻でぶどう農業を新しいアイデアでアップデートできる人、副業でも可』といった具合だ。

「SMOUT」のトップ画面。田んぼを前に若者が楽しげだ

また、地方での移住やUターン・Iターンに興味がある“人”たちもエンドユーザーとなる。こちらは、まず自分が興味のあることや仕事のスキル、得意分野などを含めたプロフィールを登録する。

そのうえで出会い系よろしく「SMOUT」上で興味あるプロジェクトを見かけたら「興味ある!」のアイコンをタップ。タップした情報は、プロジェクト主催者である自治体や企業などに届く。そしてユーザーのスキルや得意分野を判断し「ぜひ参画してほしい!」となればユーザーにスカウトメールを送って、マッチング成立! というわけだ。

「すぐに移住! というものばかりではなく、まずは地域のプロジェクトに参加してみよう、というスタイルのものが多くあります。ハードルが下がるし、プロジェクトを通して、実際にその地域やコミュニティとの相性を事前に推し量れる。合う合わないを判断できるわけです。そして段階的に移住へと進む人がいたらいいと思っています」(松原さん)

サイトには各地のプロジェクトが並ぶ。感覚的に「興味ある」あるいは「スカウトされたい」をタップしておくと、それをみた自治体などの運営者からメールが届く、かもしれない

すぐ近くにいるような「身近な人たち」が対象

ここ数年、若い世代を中心に都市部から地方へと移住するムーブメントがあるのは周知のとおり。IT環境が整備されリモートでの仕事が格段にしやすくなってきたこと、スローなライフスタイルが支持されていることがおもなきっかけだ。また「地方創生」という言葉に代表されるように、過疎化などの課題を解決して地方の活性化に貢献したい、と考える層が増えたことが大きな要因である。

もともとウェブサービスやゲームなどのコンテンツ制作企業であるカヤックで広報・PRを担当。その後、代表としてカヤックの子会社のカヤックLIVINGを任され、家を建てたい人と設計士や工務店をつなげるマッチングサービス「SuMiKA」を運営していた松原さんは「移住に対する機運を肌で感じていた」と話す。

「周囲にITエンジニアやエディターが多いんですね。リモートワークしやすい彼らから『移住に興味がある』という声がここ数年ですごく増えていた。またライフスタイルにこだわって家づくりをしたいという『SuMiKa』のユーザーのなかから、実際に移住する人が目立ってきた。ようは移住が特別じゃないものになってきたな、って感じていたんです。実は私自身も海外移住を考えていたころもありましたしね」(松原さん)

ニーズの高まりを反映して、すでに地方自治体はウェブサイトに移住希望者向けの相談窓口を積極的に設置。地域移住のライフスタイルを紹介するウェブメディアもすでに数多く存在する。

ただ、そこには、ちょっとしたミスマッチも見え隠れした。

「移住情報の多くが一方通行だったんですね。コンテンツとしての情報はある。しかし、直接的にマッチングまで促してくれるようなサービス、一歩踏み出すというか、肩を押してくれるようなサービスがまだなかった。しかし、いま求められている地域移住のニーズって、もうすこしおせっかいに『移住、どうですか?』と背中を押すことだと感じていたんです。なぜか? いま地域移住を考えているのが、誰もの周りにいるような“身近な人たち”になってきたからです」(松原さん)

ほしいのは「エイヤ!」をくれるもうひと押し

移住がトレンドワードになってから、すでに数年が経過。そうなるとトレンドに敏感でライフスタイルにこだわりのある人たちは、すでに“行動を起こし終えた”というのが松原さんの見立てだ。

「とがったアーリーアダプターの方々は、すでに移住しちゃっていると思いました。ただユーザーヒアリングすると『移住に興味がある』という人が5割以上いたんですね。つまり『興味はあるけど、エイヤ! 飛び込むのはまだ躊躇している』という方々が相当数いると考えた。いわば現実的な、普通の方々が移住を考えるフェイズに入ってきているのかなと考えたんです」(松原さん)

アーリーアダプター層なら、移住メディアの情報や移住フェアのようなイベントだけでも「エイヤ!」と飛び込めるはずだ。好奇心の強さとフットワークの軽さは、たいてい比例する。しかし普通の人なら、慎重になるのは当然のこと。だからこそ、リスクや不安を解消してくれる誰かの“後押し”をするようなサービスがあれば、潜在的な移住ニーズを持つ人たちの「それなら移住してみよう!」につながる、と思い至ったわけだ。

「だから『出会い系』を参考にしたわけです。出会い系のマッチングアプリのように、やや不精な方でも、カジュアルにリスクなくお互いの扉をノックできるような仕組みをつくれば、移住したいけどちょっと怖いという、多くの人たちのニーズを満たせるかなって……」(松原さん)

既存の出会い系アプリのみならず、スカウト系の転職サイトも大いに参考にし、システムを内製したという。

地域側には、直接営業をかけてアプローチした。移住者や人手を熱望していた自治体や地域の企業、NPOからしても、これまで「能動的に移住希望者にアプローチできる場」がなかったため、歓迎されたという。最初は無料で掲載をスタートし、今は月5万円の掲載料が基本料金。この掲載料が「SMOUT」のマネタイズの柱だ。

こうしてカジュアルに参加して、相性を確かめたうえで地域からアプローチを受けられる「SMOUT」が誕生した。ローンチ直後から多くのユーザーを集めて、半年を待たずに登録者は1000人を越えた。自治体を中心とした掲載プロジェクトも増えて、現在では常時70ほどあるという。

「いま日本には約1800の自治体があるので、まだまだのびしろはあると信じています」(松原さん)

また「SMOUT」は、物理的な移住や移動とは違う形で人と地域を繋げる仕組みづくりにも取り組んでいる。「ネット関係人口」がそれだ。

「SMOUT」がサイトで公開している「ネット関係人口」のスコア

「SMOUT」内での「興味あり」の数やメールのやりとりの数、定住人口。公式Facebookページの「いいね!」の数、インスタでのハッシュタグ投稿……。移住は考えていないが、都市部にいながら地域に何かしら強い興味を持っている、応援したいという感情は、こうしたネット上の言動に現れるものだ。これを「SMOUT」では「ネット関係人口」と定義。スコアを算出してランキングとして発表している。

ネットによって、どこにいても働けるようになったように、地域への貢献もどこにいてもできる。ネット関係人口としてそれを可視化すれば、新しい地域と人、地方と都市とのエンパワーメントが生まれるかもしれない。ゲーム的に『もっとスコアをあげたい!』という地域活性のモチベーションになるつながるかもしれない。そんな期待も持っているんですよ」(松原さん)

ネットで仕事も人とのつながりも、さらには地域とのつながりも持続できる世の中。「SMOUT」は、私たちにそんな「暮らしやすさの選択肢」を提供してくれている優しいサービスなのだ。しかも、未婚も既婚も問わずに……。

進化を続ける観光列車、ローカル路線で活きる「短編成」戦略とは?

進化を続ける観光列車、ローカル路線で活きる「短編成」戦略とは?

2018.09.26

高級クルージングトレインとは異なる観光列車

個人旅行の活況に沿った新たな魅力を提案

ローリスクを狙った各社戦略と、地元利害が一致

国鉄末期からJRの初期にかけて、「ジョイフルトレイン」と通称された観光向けの特別な仕様の車両が数多く登場した。昭和40年代から走り人気があった「お座敷列車」の発展のような形で、2~6両程度の1編成を1つの団体で貸し切って旅行してもらうというのが、基本的な販売方法である。

しかし、バブル景気の崩壊を経て約30年が経過した今日では、こうしたスタイルの団体専用車両は、大半が姿を消してしまった。代わって人気を得ているのが、「ななつ星in九州」「TRAIN SUITE 四季島」「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の3本がある超ハイクラスの「クルージングトレイン」。そして2~3両程度の短い編成で、家族連れや小グループを主な対象とした、貸切ではない観光列車である。

いずれも、風光明媚な車窓風景や特徴のある沿線のグルメなどがアピールポイントだが、短編成の観光列車は、リーズナブルな値段かつ予約方法を簡便にして、誰でも気軽に乗車できることも特徴としている。社員旅行のように数カ月前から旅行代理店に手配を依頼する大規模な団体旅行がすたれ、思い立ったら吉日とばかりに出かける個人旅行が主流となった、大きな時代の流れに沿った施策だ。

こうした施策の実例を、2018年7月1日に最新の観光列車「あめつち」をデビューさせたJR西日本を例にみていこう。JR東日本の観光列車(例えば「フルーティア」)のように、個人でも申し込める、旅行代理店が販売する旅行商品(ツアー)の形を取っている会社もあるが、JR西日本では基本的に駅の窓口で乗車券と指定席券を購入すれば、簡単に観光列車に乗ることができる。

7月1日に運転を開始したばかりのJR西日本最新の観光列車「あめつち」
観光列車にふさわしいよう、完全に刷新された「あめつち」の車内

安くつくれる、既存車改造の観光列車

JR西日本に限らず、各地の観光列車は既存の車両を改造したものがほとんどである。一から新製した方が自由が効き、さまざまなアイデアの実現に対する制約も少なくなるが、そういう例は限られる。

実際に、独創的な設備を備える「クルージングトレイン」は、各社とも完全新製車だ。ただ、これは1人あたり数十万~100万円以上もの旅行料金を収受できる列車だからこそ、できること。鉄道車両を新製する場合、1両あたり一般的な車両で2億円ほど。特殊装備を持つ車両だと3億円やそれ以上かかる。投資の回収という意味で、新製は難しいのだ。

これが改造車だと車体やエンジン、台車といった、初期費用が大きくかかる部分をそのまま利用できる。インテリアや車内設備の刷新には、実はさほどの費用がかからない。家の新築とリフォームの違いと同じことだ。

JR西日本の観光列車は、2005年に呉線広島~三原間に登場した「瀬戸内マリンビュー」に始まり、2007年の山陰本線「みすゞ潮騒(現在の『○○のはなし』)」、2014年の七尾線「花嫁のれん」、2015年の城端・氷見線の「ベル・モンターニュ・エ・メール」と、キハ40系気動車(ディーゼルカー)を改造したものが、かなりの割合を占める。編成はいずれも1両ないし2両だ。

「あめつち」「○○のはなし」などの原形であるキハ47形気動車
萩など、山口県の日本海側の観光地と山陽新幹線新下関駅を結んで走る「○○のはなし」。「みすゞ潮騒」からの再改造車だ

鳥取~出雲市間を走る「あめつち」も2両編成で、キハ40系に属するキハ47形をリニューアルしたもの。改造の要点は、一部の乗降扉を埋めて室内スペースを広げ、内装を全面リフレッシュ。座席はゆったりした2・4人掛けシートと海側(宍道湖側)を向いた1人掛けシートに交換し、そのほか、販売・供食用のカウンターの設置、最新式トイレへの更新といったところだ。車内を見る限り、原形を想像することは難しい。

たがしかし、窓はほとんど改造されておらず、冷房装置も流用されている。原形と詳細に比べてみると、大規模な車体の変更が避けられているのがわかる。

ほかの観光列車もおおむね、こういう方針で改造されている。「○○のはなし」のように窓を大型化して眺望を改善したものや、「花嫁のれん」のように前面を大きく改造しイメージを変えた例もあるが、基本的にどれもキハ40系の面影は強く残っている。

こうした方針を採る理由はまず気軽に乗車してもらうため、特急の普通車指定席(「花嫁のれん」)や、快速のグリーン車(「あめつち」)あるいは普通車指定席(「○○のはなし」など)として、座席を販売していることがある。例えば、「あめつち」に鳥取~出雲市間で乗車するならば、運賃2,590円に普通列車用グリーン料金1,950円をプラスするだけでよい。つまりは初期投資は押さえ、その分、安く販売しようということなのだ。

ただし「ちょっと豪華な車両」というだけではアピールに欠けるため、地元企業・商店の協力を得て、地域性が感じられる料理やスイーツなどを、予約制で提供している例が多い。これらは本格的なコース料理でもなく、デラックスな駅弁という感じだ。値段も「休日のちょっとしたおでかけ」にふさわしいものとしている。

多くの観光列車の車内では、食事やティータイムが楽しめる。「あめつち」のスイーツセット

短期的なマーケティングか

「あめつち」などの改造種車となったキハ40系は、1977~1982年に国鉄が新製した気動車。すでにデビュー後、35~40年程度が経過している。鉄道車両の寿命は十分な補修を加えても40~50年程度とされているので、キハ40系改造の観光列車は実はそれほど長い期間、走ることは想定されていないと考えられる。せいぜいあと10年程度だろうか。

けれども観光客の嗜好は、もっと短いタームで変化してもおかしくはない。長く使っていると「時代遅れ」になる可能性はむしろ高い。

ならば、短期間で廃車にしても惜しくはない、減価償却も終わった車両を安く、かつ徹底的に改造するのが得策ということになる。飽きられたら、また新しいタイプの観光列車をつくって取り換えればよいという考え方だ。

既存車を改造すると、乗務員やメンテナンス担当職員にとっても、見た目は違っても扱い慣れた車両であるメリットがある。また単線区間が多いローカル路線では、元をただせば同じ、という車両が使われている快速や普通列車などと連結して運転すれば、ダイヤ編成上も楽になる。「フルーティア」が例である。

JR東日本の「フルーティア」(手前2両)は東北のフルーツが楽しめる列車。写真は快速列車と連結された姿

数はわずかでも、目新しい車両は話題にもなり、観光的なアピール度も高い。経営的には古い車両の改造でしかつくれなくても、地元観光業界にとってはありがたい存在にもなるだろう。ローカル路線の利用客増にもつながる。ローリスク・ハイリターンを狙ったJR各社の戦略と、地元の利害が一致した現れが各地で花盛りの観光列車といえる。