「信用経済」の記事

西野亮廣から、挑戦者達へ― 著書『新世界』に込めた想い

西野亮廣から、挑戦者達へ― 著書『新世界』に込めた想い

2018.11.28

新著『新世界』を発売した西野亮廣さんに取材!

今、働くうえで重要なのは「お金」ではなく「どれだけドヤれるか」

相方へ、就活生へ…本では記されなかった“想い”を語る

キミが一歩踏み出すのに必要なのは「強い気持ち」なんかじゃない。「情報」だ――。

絵本やビジネス書を書いたり、国内最大級の有料会員制コミュニティ「西野亮廣エンタメ研究所」を運営したりと、話題に事欠かないキングコング・西野亮廣氏。冒頭のメッセージは、11月16日に発売された同氏の新著『新世界』に記されたものだ。

同著では、「なかなか一歩を踏み出しきれずにいる人」に向けた、“今知るべきお金と信用”を理解するためのノウハウが記されている。今回は、同著で西野氏が伝えたかった、もしくは伝えきれなかったメッセージの数々を聞いてきた。

西野亮廣氏。当日は「7000冊の本にサインを入れる」という気が遠くなるような作業の中、取材に応じていただきました

「挑戦する人たち」を後押したい

――『新世界』はどういった人たちに読んでもらいたいと思い、執筆されたのでしょう?

西野亮廣氏3冊目のビジネス書『新世界』。11月16日に発売し、20日時点で3刷13万5000部!

西野亮廣氏(以下、西野):自分みたいな、挑戦して、下手をすれば「村八分」に遭っているような人に届けばいいな、と思って書きましたね。

そういった方々の気持ちは、痛いほどよくわかるので(笑)。今回に限らず、僕の本はそういった人に向けて書いたものが多いです。

――では、あまり読者の年齢層は限定していないのですね

西野:そうですね。広い年齢層に受け入れられるようになっていると思います。例えば20歳前半の人を考えると、彼らって「上からも横からも潰されてしまう」じゃないですか。

若くて挑戦しようとしている人たちが、上の人たちから潰されてしまったら面白くない。そういった人たちが潰されてしまわないように、「ここさえ押さえていれば突破できるよ」という方法論を学べるような本にしました。

オンラインサロンに入るメリットって?

――著書でも触れられている西野さんのオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」に入ると、どのようなメリットがあるのでしょう?

西野:基本的には、僕が毎日サロンに記事をあげてるので、それを読んで欲しいですね。「読み物」として、月額1000円の会費を払う価値のあるものを書いています。

余裕があればサロンのイベントに参加すると、メンバー同士のつながりができるので、それも強みだと思います。そこで仲間を作れば、次に自分がアクションを起こす時に協力者がいる状態になります。それと、例えば初対面の人でも「同じ中学校」だったり、共通の知り合いがいる人って、話が盛り上がるじゃないですか。そういう意味では、僕のオンラインサロンに入っていれば、共通言語が多くなるので、初めましてでも距離を縮めやすいというのも特徴ですね。

今選ぶべき、「自分にポイントが入る会社」って?

――『新世界』では、「社員に利用されない会社は廃れる」という意見が書いてありましたが、西野さんが思う「良い会社」とは、どういう会社なのでしょう?

西野:社員に「ポイントが入る」会社はいいな、と思いますね。反対に、働いても「ポイントが入らない会社」はよくない。例えば、社長のワンマン経営で、お金で社員を釣って「アレしろコレしろ」と指示を出すだけの会社では、会社にはポイントが入るけど、社員にポイントが入らない。

指標の1つとして、「フォロワーが増えるかどうか」が挙げられます。例えば幻冬舎の箕輪(厚介)さんの話が代表的です。箕輪さんは今あれだけ活躍していますが、彼が個人でいろいろな活動をすることにOKを出したのは、会社ですよね。

もし幻冬舎が個人の動きを制限してしまっていたら、箕輪さんは今のような影響力を持てていないかもしれない。さらにいうと、「窮屈だからこんな会社辞めてしまおう」と思っていたかもしれません。

――つまり良い会社とは、「社員の才能を開花させられるような環境」といったイメージでしょうか

西野:そうですね。才能があるなら、その才能を使いたいと思うのは当たり前です。でもせっかく優秀な人が入社したとしても、組織の歯車にしかなれないようだと、そこで得られるものが少ない。そうなると、社員はすぐに辞めてしまうかもしれないし、会社にはそもそも優秀な人が入ってこなくなってしまう。

個人でやりたいことがあったら、積極的にチャンスを与えてくれる会社が良いですよね。

――では、もし西野さんが今、就活生だったとしたら、どの会社に入りたいと思いますか?

西野:フリーランスになるでしょうね。でも、もしどこかに入る、という話だと……DMM.comさんとかですかね。社員にチャンスが与えられる会社ですし、やはり今はそういう面白そうなところに、才能が集まってきている。「あそこに行ったら、自分が主役になって面白いことをできそう」と思われる会社は、これからもっと成長していくでしょうね。

西野亮廣から相方「カジサック」へ

――「一歩踏み出す」と言えば、相方の梶原さんも、芸能界から「YouTube」の世界へと踏み出しました。その挑戦を横で見てて、どう思いますか?

西野:まぁ、「遅いよ」ってのが一番ですね(笑)。とはいえ、その挑戦はめちゃくちゃいいなと思っています。正直彼は、「2019年末までに登録者数が100万を越えなければ、芸人を引退します」と言っていますが、これにはもはや誰も興味ないと思うんですよ。

キングコング・梶原さんは10月1日、「新米YouTuber・カジサック」として本格的に活動を開始しました。(チャンネル登録者数は11月27日時点で約49万人)

西野:僕も、すでに芸人を辞めていますし。でも、芸人を辞めても僕の活動が特に変わっていないことは、世間にバレてしまっています。だから、あれ(梶原さんの宣言)にはなんのフックもないと思うんです。

ただ、そんなことはどうでもよくて。何よりも、自分がやりたいことを自分の意思でやっているので、それが色っぽいですよね。失敗したら自分の責任ですし、もし失敗しても学ぶことがある。そういうことを、彼はこれまでしてなかったから、今回の挑戦は応援しています。

どれだけ「ドヤれるか」が人材確保のカギ

――『新世界』では、西野さんがすでに執筆された『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』という2冊のビジネス書に続き、「現代の信用とお金」について書かれています。今回は特に「オンラインサロン」についての話が多かったように思いますが、それはなぜでしょうか?

西野:オンラインサロンの仕組みは、現代の働き方を考えるうえで重要な要素だと思ったためです。よく、知り合いの経営者から「給料を多く払っているのに、社員が辞めていく」という悩みを相談されるのですが、これは、オンラインサロンを運営している僕としては、当たり前の話なんですよね。

今、多くの人たちは「お金」よりも「充実感」、さらにいうと「どれだけドヤれるか」ということを重要視しているんです。「これだけ大きなプロジェクトに関わった」とか、「こんなにスゴイものを作った」とか、そういったドヤれる経験に価値を見出しているんです。

特に現代では、「アイツの活動は面白いな」と思ってもらえたら、お金は後からつくれるようになりました。インスタグラムのフォロワーが100万人いたら、そこに仕事が生まれるように。フォロワーを増やすためには、完璧なルックスだったり、完璧な作品だったり、何かしらの発信できることが必要になります。

だからこそ、オンラインサロンの運営者にも、経営者にも、「いかにしてドヤらせてやれるか」という視点が必要だと思います。そこで、経営者にオンラインサロンの知識を入れておいてほしいと思い、その話を書きました。

――では『新世界』は経営者に読んでほしい本でもあるということですね

西野:はい。ただ、それはあくまで目線の1つです。就活生にとっては、「ダメな組織」「いずれダメになる組織」の傾向を知るキッカケにもなると思います。その知識があれば、会社選びを間違えない。

折角行きたい会社に行っても、そこが2、3年後に潰れたら、それまでの努力が無駄になってしまいます。そうならないためにも、今の若い人たちは「お金と人の流れが変わってきている」ことを理解する必要がある。それらを理解するうえで、わかりやすいのがオンラインサロンなんです。

「発信の価値」が徐々に上がってきている

――「お金と人の流れが変わってきている」という話でいうと、西野さんが開催する「サーカス!」というイベントでは、“客だけでなく、制作スタッフもお金を払っている”のだとか。このような流れの変化は、なぜ生まれるのでしょうか?

西野:意味がわからないですよね(笑)。なぜ、制作スタッフがギャラをもらうのではなく、お金を払うのか。ただこれは、現代における「発信することの価値」を考えると、わかることなんです。

以前、「サーカス!」とは別に、僕のオンラインサロンで、音楽のイベントをしました。そのイベントは、お客さんよりもステージの出演者の方が高いお金を払うシステムで行いました。そうすると、イベント後の満足度はどちらが上か。結果は、応援する「客」よりも、応援してもらってスター気分を味わえる「出演者」だったんです。

これは先ほどの「どれだけドヤれるか」という話にもつながりますよね。本でも書いたように、将来は「制作スタッフや出演者が有料で、お客さんが無料」というイベントも開催できると思っています。

弾けた「オンラインサロン」バブル

――確かに、時代の潮流を感じるためにオンラインサロンの仕組みを学ぶことは重要だと思います。これからもオンラインサロンのブームは続くでしょうか?

西野:業界でいうと、オンラインサロンはもう下火のイメージですね。小規模のサロンは増えているようですが、全体を見るとサロンの会員って、徐々に減ってきてるんです。オンラインサロンのバブルはもう、弾けた感じはしますね

だから、もし僕が今大学生だったとしたら、サロンオーナーにはなりません。今からYouTuberを目指す人が、ヒカキンさんを超えられないように、もうオンラインサロンの勝敗はついたと思っています。

――では『新世界』で伝えたかったのは、「オンラインサロンのつくりかた」ではない、ということですね

西野:そうですね。オンラインサロンをこれからつくる、というのは難しいです。ただ、すでにあるサロンに入るのは賛成です。そこで「ここなら勝てるかも」というポジションを見つけて、新たな挑戦をするのはいいと思います。

例えば、芸人の渡辺直美ちゃんっているじゃないですか。彼女は今とても人気ですが、ずっとテレビで戦っていたら、今のようにはなってなかったと思うんです。テレビの枠は、もうすでにほとんど埋まってしまってますから。

彼女は、Instagramのような「自分が戦えるポジション」を見つけられたから、今の人気があるのだろうと思っています。

重要なのは「ストーリーを見やすくすること」

――西野さんは、「ディズニーを倒す」と自身の夢を発信し続けています。しかし、「一歩が踏み出せずにいる人」の中には、なかなか自身の夢や目標を発信できずにいる人も多いことかと思います。SNSの時代で“信用を勝ち取る”ためには、批判覚悟で、夢や目標を発信していった方がいいのでしょうか?

西野:やり方は人それぞれだとは思いますが、大事なのは「自分のストーリーを見やすくすること」。目標を掲げるというのは、その1つの手段にすぎません。

僕のオンラインサロンを例に考えるとわかりやすいかもしれません。サロンって、どのくらい入会者が減るかっていう数字が日割りで出るんですよ。どんな時に増えて、減っているか、というのもわかります。

わかりやすいのが、自分が勝っている時って、伸びないんです。でも、勝とうが負けようが、挑戦して「これどうなるの?」と思われるようなタイミングって、一番伸びるんです。

これって、マンガと一緒ですよね。主人公が強い敵と戦って「勝つか負けるか」というストーリーがあるから「続きを読みたい」と思う。主人公がずっと勝ち続けていたら、面白くないじゃないですか。

つまるところ、人はストーリーに反応しているんです。「これからの物語どうなっていくの?」と思わせられれば、応援してくれる人たちは増えます。

だから、もし何かアクションを起こしたい、と思った場合には「どうすれば自分のストーリーが見やすくなって、キャッチーになるのか」を考えて欲しいですね。その1つが、目標を掲げるということ。たとえ目標を達成できなくても、そこから這い上がるストーリーをどう作っていくかが重要です。

――では最後に、読者にメッセージをお願いします

西野:この本を読んで、どう思うかはお任せします。ただ読んだ後には、感情が高ぶって、何かしらのアクションを起こしたくなると思います。そうなったら、ソロバンをはじくのは一旦止めて、感情に従って行動してほしいですね。

――ありがとうございました

【西野亮廣氏の新刊情報】

『新世界』(KADOKAWA)

著者:西野亮廣
定価:1,500円(本体1,389円+税)
発行部数:3刷13万5000部(11月20日時点)

バカと付き合うな(徳間書店)

著者:西野亮廣、堀江貴文
定価:1,404円(本体1,300円+税)
発売日:10月26日
発行部数:5刷19万部(11月26日時点)

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。

「信用経済」に続く”感謝で回る経済圏”、その現状と展望

「信用経済」に続く”感謝で回る経済圏”、その現状と展望

2018.10.04

個人の”信用”にフォーカスしたサービスが普及

VALU 小川社長や評論家 森永卓郎氏らが「信用経済」を語る

信用経済の仕組みに似た「感謝経済」を回す仕組みが登場した

「信用経済」という概念が注目を集めている。

日本では、「VALU」や「タイムバンク」といった、個人の”信用”にフォーカスしたサービスが登場。中国では、個人の信用をスコア化する「芝麻信用(セサミクレジット)」の登場が社会にインパクトを与えた。

そうした状況の中で、社会に新たな評価指標を根付かせようとしている企業がある。信用ではなく、”感謝”を軸にした経済圏の創出を図るオウケイウェイヴだ。

本稿では、オウケイウェイヴ 代表取締役社長 松田元氏の話と、すかいらーくホールディングス 取締役常務執行役員CMO 和田千弘氏、VALU 代表取締役社長 小川晃平氏、経済評論家 森永卓郎氏などが登場した「感謝経済プラットフォームローンチ発表会」での様子を合わせ、オウケイウェイヴが仕掛ける新たな経済圏の正体を紐解いていく。

オウケイウェイヴ 代表取締役社長 松田元氏。早稲田大学在学中にアズ株式会社を創業。2012年にアズグループホールディングス株式会社(現アズホールディングス株式会社)設立、代表取締役就任。2016年に株式会社創藝社代表取締役に就任。2017年9月オウケイウェイヴ取締役就任、2018年7月より現職

※以下、すかいらーくホールディングスの取締役常務執行役員CMOの和田千弘氏、VALU 代表取締役社長の小川晃平氏、経済評論家の森永卓郎氏らのコメントは9月20日の感謝経済プラットフォームローンチ発表会時のもの

感謝される人が報われる社会へ

――「感謝経済プラットフォーム」とは?

オウケイウェイヴ 松田氏「感謝経済プラットフォームは、感謝される人が報われる社会を目指す、”感謝で回る経済圏”をつくるための枠組みです。9月20日より発足して、現時点では19社が参画しています」

同氏によると、”感謝で回る経済圏”の仕組みはこうだ。まず、オウケイウェイヴが発行する「OK-チップ」と呼ばれるトークンをユーザー間でやり取りしてもらう(OK-チップは主に、同社運営のQ&Aサイト「OKWAVE」でのユーザー間の感謝のやり取りとして用いられる) 。ユーザーは、集めたOK-チップを使うことで、プラットフォームへの参画企業が出す優待や特典をゲットすることができる。

つまり、ユーザーが誰かに感謝してもらうような行動をとり、お礼としてトークンをもらうことで、それを自分の資産として使用できる、という仕組み。例えば、貯めたトークンをヘッドフォンと交換したり、IT機器の修理代金の一部にあてたりできるそうだ。

オウケイウェイヴの特設サイトでは、同社の提案する「感謝経済」に賛同した企業による優待や特典が掲載されている。協力企業は徐々に増えていく予定だそう

すかいらーくが「感謝経済」に賛同するワケ

この取り組みには、ファミリーレストラン「ガスト」などを運営するすかいらーホールディングスも参画している。同社では、感謝経済の仕組みを「人事評価」に活用する考えだ。同社の取締役常務執行役員CMOの和田千弘氏は、この構想を聞いて「まさにこれだ」と思ったそう。

すかいらーくホールディングス 和田氏「『感謝されている人』が多い店舗と、売り上げが高い店舗には相関性があるというデータが出ていることから、当社では、『他の社員からどれだけ慕われ、感謝されているか、さらには人徳を持って働いているか』ということを、人事評価の指標にしています」

すかいらーくが導入するのは、オウケイウェイヴの提供する、”感謝”のやり取りを「見える化」することのできる人事評価ソリューション「OKWAVE GRATICA(グラティカ)」。これは、感謝の気持ちを伝えられるオンライン上のメッセージングサービスだ。メッセージカードを送る際に「OK-チップ」を添えることができる。

和田氏「従業員同士、さらには従業員とお客様間でOK-チップをやり取りしてもらい、その数値を人事評価を組み込むことで、従業員の育成、および売り上げの拡大につなげたいと考えています」

9月20日に行われたオウケイウェイヴによる感謝経済プラットフォームローンチ発表会の様子 (写真左から6番目がすかいらーくの和田氏)

――すかいらーくのほかにも、医療法人やマーケティング企業などもプラットフォームへの参画を発表しています。参画企業の選定基準はあるのでしょうか

松田氏「我々の理念を理解してくれるかどうか、が一番重要な選定基準です。当社では発表会以前より、感謝経済プラットフォームについての構想を発表していました。今回発表した19社はすべて、その構想に共感していただいた企業。私達から声を掛ける前に、『協力したい』と手を挙げていただいた企業も少なくありません」

”感謝”を人事評価に組み込む、優待・特典に換える、というのは、あまり聞いたことのない仕組みだ。その構想を聞き、価値観を共有できない企業は、プラットフォームへの参画に二の足を踏むことだろう。そこで、プラットフォームの土台を固めるためにも、まずはオウケイウェイヴの目指す世界観を理解してくれる企業に協力を仰いだ。

腕の立つラーメン屋が、1億円調達できる仕組み

これまで、「人からどれだけ感謝されているか」という考え方が経済に組み込まれる仕組みはなかった。新たな評価指標が受け入れられつつある背景には、VALUを代表するような「他人からの評価」を経済に組み込む仕組みをつくった新興サービスプロバイダーの貢献は大きい。

小川氏は、「信用経済」という概念が普及したのは、既存の評価軸で個人を評価することに限界があったためだと語る。

VALU 小川氏「これまで、『信用』というものは中央集権的でした。ことお金に関して考えてみると、流れの中心には中央銀行があり、そこからメガバンク、地方銀行へと移っていくイメージです。しかし、現代において信用は、大きな組織から受け渡されるものに加え、周囲の人から積み上げられるようになってきている」

VALU 代表取締役社長の小川晃平氏

小川氏「例えば、ラーメン屋の店主が銀行からお金を借りようとすると、せいぜい4,000万円~5,000万円が限界。ただその人は相当な腕があって、本来は数億円の融資を受けられるポテンシャルを持っているかもしれない。そう考えると、今の金融機関における評価軸は、必ずしも時代に合っているわけではないんです。個人のスキルが真っ当に評価される世界を実現させたい、その考えのもとに生まれたのがVALUというサービスでした」

「私はSNSでフォロワーが10万人いるんだ」「オンラインサロンに1,000人もの入会者がいるんだ」と銀行にいっても、それが大金を融資する上での判断材料になるか、というと難しいだろう。しかし、YouTuberやInstagramerなどのインフルエンサーは、多くのファンを持ち、利益を生み出しているのは確かだ。

SNSの登場などをキッカケに、ここ数年で経済のトレンドは大きく変化している。それゆえ、既存の軸のみで人を評価するということは難しくなってきている。

――小川さんが話されていた内容について、どのように捉えていますか?

松田氏「信用の築き方がここ数年で大幅に変化しているのは、私も感じていることです。この変化の一番の要因は『ブロックチェーン技術の発達』にあると捉えています。今や、人々の行動が、ブロックチェーンによって残るようになっています。そうすると、悪い行動をした人や企業は信用を失うことになる。仮想通貨やICOといった、ブロックチェーンを用いた仕組みが一般的なものになってきたことで、これまであったような”金融機関的な”評価軸だけでは足りなくなってきています」

人からどれだけ感謝されているのか、ということも、これまでの評価軸では測れないものであった。感謝経済プラットフォームの登場で、これまでは評価されなかった人にスポットライトが当てられる世界は魅力的だ。

「1% の悪人」より「99% の善人」に焦点を

森永氏も、ローンチ発表会では「感謝経済プラットフォーム」の構想には賛同の意を見せていた。

森永氏「インターネットを利用する99% はいい人。でも、1% の悪い人が目立ってしまうんです。私がメルカリで欲しいトミカを購入しようとしていたとき、説明欄に『箱のみ』と書いてあることに気づいたんです。危うく、中身が無い物を購入してしまうところでした……。ビジネスにおいて、このような1% の悪人にフォーカスすると、窮屈なサービスが生まれてしまいます。『感謝経済』の考え方が普及し、『善意が経済を動かす』世の中になっていくことに期待しています」

経済評論家 森永卓郎氏

小川氏も、感謝経済への期待を述べる。

小川氏「いつだって、誰かの課題解決が仕事の源泉。しかし、これまではお金にならなかったような小さな課題解決が評価され、それが資本化されるというのは非常に良い仕組みだと思います」

日本ならではの"粋な文化"を取り戻したい

――「感謝経済プラットフォーム」によって、今後、社会にどのような変化がもたらされるのでしょうか?

松田氏「感謝の気持ちを『見える化』することで、形骸化してしまった、日本本来の”粋な文化”を取り戻せるのではないかと考えています。『2時間食器洗いするから』といってお金のない学生がタダ飯を食べられたり、『子どもが熱を出した』といって隣人に助けてもらったり。このプラットフォームによって、感謝すること・されることの価値を再確認する人が増えれば、人と人とが、今まで以上に密接に関わり合るようになっていくのではないでしょうか」

――今後の展望について教えてください

松田氏「まずはプラットフォームを拡大させるために、参画企業を増やしていきたいと考えています。将来的には海外展開も視野に入れています。このプラットフォームが日本ならでは”粋な文化”を世界に広めていくキッカケになるようにしていきたいですね」