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ソースネクストの時価総額を3倍にした翻訳機市場、競争激化は必至か

ソースネクストの時価総額を3倍にした翻訳機市場、競争激化は必至か

2018.08.16

過去最高を更新し続けるインバウンド需要取り込みに必須

ホテル・空港・飲食店といったサービス業に広まり始める

先行というアドバンテージを維持するため自社開発後継機

ソースネクストの翻訳機「POCKETALK(ポケトーク)」がヒットしている。訪日外国人の増加を背景に、ホテルや飲食、空港などで相次いで採用されており、発表から1年でソースネクストの時価総額は約3.3倍に膨らんだという。

ソースネクストが翻訳機の新モデルを発表

7月26日には、新モデルとして「POCKETALK W(ポケトークW)」を発表した。わずか1年という短期間でモデルチェンジした狙いはどこにあるのか。

訪日需要に伴い、ソースネクストの時価総額も急増

ポケトークのような音声翻訳デバイスが注目される背景には、訪日外国人の増加がある。政府は2020年に4000万人、2030年には6000万人の訪日客を見込んでおり、さらに日本に在住する外国人も東京を中心に増えている。

実際、東京だけでなく地方の観光地でも訪日客の姿を見かける機会は増えている。先日、筆者が訪れた福岡では、中州や天神の屋台に多数の外国人が押し寄せていた。英語だけでなく、中国語や韓国語などへの多言語対応も必要となれば、翻訳機の需要が高くなるのも当然だ。

2017年10月に最初のポケトークを発表したソースネクストの時価総額は、179億円から今年の7月25日時点で585億円へと約3.3倍に増加した。法人の導入事例として、小田急百貨店では免税手続きにポケトークを活用。かんぽの宿では料理の説明に使うなど、日本の「おもてなし」に欠かせないデバイスになっているという。もちろん、単におもてなしというだけでなく、旺盛なインバウンド需要を取り込み、業績向上につなげたいというのが本音だろう。

ホテルや飲食、空港など多数の導入事例も増えてきた

基本的な使い方は、ポケトークのボタンを押しながら話しかけることで、翻訳結果が音声で読み上げられ、画面にもテキストが表示される。端末上ではなくクラウドに音声データを送って翻訳するため、動作には通信環境が必要となる。

問題は、個人が海外旅行に持ち出して利用する際の通信環境だ。そこでソースネクストはIoT向け通信サービスで知られるソラコムと提携し、「グローバルSIM」とのセット販売を提供した。日本だけでなく海外でも本体だけでデータ通信ができるのはユニークだ。

新モデルは自社開発、翻訳精度や通信機能が向上

9月に発売する新モデル「ポケトークW」の特徴は、ソースネクストが企画した自社開発モデルという点だ。初代モデルはオランダのTravisと共同開発していたが、新モデルは翻訳エンジンのひとつとして日本の情報通信研究機構(NICT)の技術を採用するなど、独自に進化している。

新旧モデルを合わせたポケトークの販売目標として、ソースネクストは2020年までに50万台との数字を掲げているが、新モデルの具体的な目標台数は公表していない。ただ、新モデルの自社開発に踏み切ったということは、初代モデルで手応えをつかんだということだろう。そしてもう1点、ライバル企業が翻訳機市場で手をこまねいているワケではない。少しでも競争力を維持するためにも自社開発の新モデル投入が必要だったのは、想像に難くない。

新モデルでは画面がタッチに対応し、ボタン操作も使いやすくなった。アジア言語を中心に翻訳精度が向上、通信機能は3Gに加えてLTEにも対応した。首から提げて使うことを想定したストラップホールなど、細かな使い勝手も見直されている。

新モデルは画面タッチに対応し、使い勝手が向上した

自社開発になったことで、販売地域も拡大しそうだ。初代モデルでソースネクストは日本、米国、カナダでの独占販売権を持っていた。だがポケトークWはさらにグローバルに展開できるため、海外の展示会などにも出展していくという。

イメージキャラクターにはタレントの明石家さんまさんを起用するなど、プロモーションも強化。新モデルの発表後はJTBグループが取り扱いを発表し、ベルギーのサッカーチームや東京ミッドタウン日比谷も採用するなど、導入が相次いでいる。

これまで小型翻訳機シェアの大部分を占めてきたというポケトークだが、7月31日にはロクバーがiliシリーズの新モデル「ili PRO」を発表するなど、競争は激化している。

対するソースネクストは、新モデルの投入とプロモーションによりポケトークのブランドを浸透させ、ライバルとの差別化を図るのが当面の戦略になりそうだ。

星野リゾートの新施設「界 仙石原」、「アート」を柱にした意図とは

星野リゾートの新施設「界 仙石原」、「アート」を柱にした意図とは

2018.08.09

星野リゾートの温泉宿泊施設「界 仙石原」がオープン

「アート」を柱にした“アトリエ温泉旅館“

アーティストとの協業に特色、今後の展開は?

星野リゾートが2018年7月に開業した、神奈川県・箱根町の「界 仙石原」。温泉旅館ブランド「界」としては15カ所目となる同施設の特色は、施設の柱となるテーマに「アート」を据えたところにある。

また、開業前にアーティストと協業し、客室ごとに作品を設置するなど、「界」の既存の施設とはやや異なるアプローチであるように映る。このテーマ設定の狙いと、開業前に行われたアーティストとの協業について、内覧会の様子を中心にお届けする。

温泉旅館を、訪れた人の「アトリエ」に

「界」では、各地の伝統文化などに親しむ体験を提供する「ご当地楽」、そして地域文化を表現した「ご当地部屋」によって、立地に応じた個性を出している。箱根エリアにはすでに「界 箱根」があり、「界 仙石原」は同一エリアで2カ所目の施設だ。

説明するまでもなく、箱根は日本有数の観光地。2015年の噴火で一時客足が遠のいてしまったものの、昨今のインバウンド効果などもあり、2017年には噴火前の水準(約470万人)にまで戻っている。

箱根町宿泊者数推移のグラフ

同じエリアでの第2の施設ということで、開業にあたって、界 箱根の「宿場町」とは異なる土地の「個性」を探したという。ポーラ美術館、箱根ガラスの森美術館など、「界 仙石原」周辺には数多くの美術館があるが、ひとつのエリアにこれだけの美術館が集まっているのは世界有数である、と、池上総支配人は語る。そうした土地の個性から、同施設を「アトリエ温泉旅館」と銘打った。

アトリエとしての側面を象徴するスペースには、筆や画材などが並ぶ

アートを「見る」のではなく、「体験」する

あえて「アトリエ」と枕につけたのは、「見る」イメージの強いアートを、宿泊者が実際に「体験」してほしいという思いが込められているため。

「単にアートを鑑賞するだけなら、周囲に良質な美術館がたくさんあります」(池上総支配人)

宿泊客だけでなくスタッフを含めた人々がアートに触れあうためのアトリエとしての魅力を提案していく。「ご当地楽」として手ぬぐいの着彩体験を提供し、週末・日曜の朝には、アーティストを講師としたアクティビティを複数展開する。

手ぬぐいの着彩体験を行うロビー付近のエリアは、絵筆や絵の具、顔料などが展示されており、「描く」行為を想起させるインテリアが置かれている
手ぬぐいは型染作家・小倉充子氏の線画を用いた塗り絵

筆者も手ぬぐいの着彩を体験したが、言われてみれば、絵をみずから描いたのは学校での授業が最後だった。絵の完成度もあって、素人でも色をつければそれなりに見られるものになるのも嬉しいし、手ぬぐいであればよいお土産になる。「アート」と言えば美術館で見る側という意識が強かったが、この体験を経て「アート」の楽しみを再発見させられた。

館内入り口には、隈研吾氏が信頼を置く左官職人としても知られる久住有生氏の作品が。
温泉旅館としての魅力は、大涌谷温泉から引いた酸性泉を大浴場と客室露天風呂の2カ所で提供している点。大浴場では、酸性泉と、肌を休める為のぬる湯が分けて用意されている

アーティストの「滞在」を「作品」に昇華

もちろん、「アート体験」だけが同施設のウリではない。「アトリエ温泉旅館」を標榜する同施設の成立には、生業として作品を生み出すアーティストの存在があった。開業前にアーティストが同施設に宿泊して作品を制作する「アーティストインレジデンス」(以下、AIR)が実施されたのだ。

「AIR」は、一定期間の滞在を経て、その土地の風土を感じながら作品制作するプロジェクトを指す言葉。日本でも行われてはいるが、越後妻有トリエンナーレなどに代表される地域型芸術祭と比べると、知名度は低いかもしれない。

今回のAIRは「アーティスト イン レジデンス 箱根仙石原」と銘打ち、すどう美術館、そしてアーティスト・朝比奈賢氏が率いる湘南アートベースが主催したもので、星野リゾートは共催という立場。また、星野リゾートが宿泊・食事の提供と、一部画材の補助を行った。

参加アーティストの面々。 国内外より12名のアーティストが仙石原へ集結した

アーティストは、原則として滞在した部屋に自身の作品を飾ることを念頭に置いて制作を実施。開業後は、客室「仙石原アトリエの間」として、1室ずつ異なる個性のある空間として提供されている。作品を通じ、アーティストがこの土地をどう感じたか実感してほしいとの意図が込められた。

ドイツからやってきたジュリア チーグラー氏が制作したアート。キャンバスに神社の紙垂(しで)のかたちにマスキングテープを貼り付けた後、ひとつのキャンバスの上に富士山、大涌谷など訪れた場所の印象を重ねて描き、最後にテープを剥がしたことで、同氏が神社で感じたリラックス感を表した
国内から参加したアーティスト・田中紗樹氏が手がけた作品を展示。芦ノ湖の遊覧船に乗ったとき感じた風のイメージをキャンバスに描きとめた。静かな部屋の中に風が吹くような、ダイナミックな動きを表現した。
「界 仙石原」池上総支配人。制服の花柄は、当地の植物をモチーフにしている。

日本におけるAIRは自治体主導で、地方創生の意味合いが強いものが多い。その一方で、星野リゾートのような勢いのある企業が、自社施設のコンセプト実現のため、アーティストの力を借りるためにAIRが行われたのは非常に興味深い。池上総支配人に、今後、AIRあるいはそれに準ずるようなイベントを行う予定はあるか、問いかけた。

「現段階で具体的な予定はありませんが、今回の取り組みで得た経験値はノウハウとして社内に還元いたします。また、今後もアーティストの皆様とは継続して関わりを持ち続けていきたいと考えております」(池上総支配人)

AIRなのか、その他の形になるかは未知数だが、「界 仙石原」でのアート体験が実を結ぶごとに、次の展開が近づくに違いない。温泉とアートを楽しめる同施設の今後に期待したい。

鳴り物入りで登場した「京王ライナー」のその後

鳴り物入りで登場した「京王ライナー」のその後

2018.06.18

京王ライナーには最新型の5000系を充当。車体の基本的な構造は、ほかの通勤型電車とほぼ同じだ

座席指定制列車「京王ライナー」は、2018年2月22日にデビューしてから、早くも4カ月近くが経過した。東武東上線の「TJライナー」に始まり、西武鉄道・東京メトロ・東急東横線などを直通する「S-TRAIN」。同じく西武鉄道で、西武新宿~拝島間を走る「拝島ライナー」など、前向き2人掛けのクロスシートと、横向きのロングシートを転換できる車両を使った同種の列車は、昨今、次々にお目見えしており、花盛りだ。

「若干の追加料金を支払えば座って通勤できる」と、座席指定制の列車は帰宅する通勤客の間で人気が高いという。鉄道会社側も沿線価値の向上を狙って、積極的に導入を図っており、東急電鉄も、2018年冬に大井町線~田園都市線直通急行へ導入することを発表している。

京王ライナーの現状は?

では、京王ライナーの実態はどうであろうか。この列車は、京王線の主力運転系統である、新宿発京王八王子行きと新宿発橋本行きに対してそれぞれ、夕方~夜間に設定されており、運転本数も各5本。1時間間隔で走る。平日は20時台~0時台、土休日は17時台~21時台と、旅客の流動を睨んだきめ細かい設定にもなっている。

週末を控えたある金曜日。まずは新宿発20時台の京王ライナーを観察、試乗してみた。

19時台の京王新宿駅は、帰宅ラッシュ時間帯とあってたいへん混雑している。発車する特急や準特急は、到着して乗車側の扉が開くやいなや、すぐに席が埋まる。発車時には乗車率も100%を超え、吊り革をつかめない人もいようかという状態だ。もし座席を確保したければ、列車を1本落として待たねばならない。

当然ながら大きな荷物を抱えている人、小さな子供を連れた人や、高齢者などは、こうした満員電車を待ち、乗り込んで帰宅するには辛い。ただ「残業で疲れた……」というだけのビジネスパーソンであっても、座れずに人混みに揉まれるのは厳しいだろう。

危惧や批判は杞憂

明大前を通過する橋本行き。橋本行きは京王永山まで、京王八王子行きは府中まで途中駅には停まらない

京王ライナーに対しても、全区間乗っても30分前後なのに、400円の追加料金を払って乗る利用客がいるのか。ガラガラに違いないなどという机上論が、運転開始前にはささやかれた。新宿~京王八王子間の運賃は360円(ICカード利用)、新宿~橋本間420円(同)の普通運賃に対して、総額では倍前後になる座席指定制列車への危惧だ。

しかし、それはラッシュ時間帯の利用客の心理を知らない論だと思う。「400円払ってでも、並ばず、座って帰りたい」という需要は、10両編成1本あたり438席という座席定員を埋めるには十分だった。首都圏では、一般の列車も含めた通勤需要自体が極めて大きいため、座席指定制列車への需要はその一部にすぎなくても、絶対数が多くなるのは当然だろう。

毎日は難しいが、時には座席指定制列車への投資もいいだろうという欲求は、誰の中にも生まれるはずである。「楽して帰りたい」と思う通勤客の気持ちは、極めて強い。その需要動向をつかみ、新車を投入してでも新しいタイプの列車の設定する鉄道会社の見通しは的確であった。

私が実見した範囲であるが、京王ライナーへの出足は相当に早い。新宿駅で観察していると、発車時刻の1時間前には、自動券売機で座席指定券購入をする利用客が次々に現れる。

想像してみるに、新宿は東京随一の商業エリアである。京王新宿駅の真上には京王百貨店もある。座席指定券を確保しておけば、安心して発車時刻まで買い物、あるいは食事などをすることができる。そのせいか、券売機に列を作る客層には、女性客や若者が目立つ。 20時発の京王八王子行きは、発車5分前には満席の旨、放送が流れた。乗り込んだ客にはビジネスパーソン風も多い。彼ら彼女らは、退社時刻が見えれば、職場からスマートフォンなどを使って、すぐネット予約していることだろう。

左:新宿駅に入線してきた、京王八王子行き京王ライナー。右:京王ライナーの人気は高く、発車間際には満席になることが多い

完全に利用客の間で定着

続く、20時30分発の橋本行きに試乗してみた。乗車ホームには、直近の発車列車のみ座席指定券が買える自動券売機もあるが、20時17分にはもう「満席となりました」との表示が出た。

乗車する時も、まだ若干の混乱は見られるものの、ほとんどの人が自分の座席を確認し、座る手順はスムーズ。それも「慣れ」の表れである。

心配するほどのことはなく、わずか数カ月で、京王ライナーは京王利用客の間で順調に定着した様子が、十分にうかがえた。寝込んでしまった、まだ小さなわが子を抱き、スマートフォンの画面をちらりと確認しながら自席に座った若い父親の姿が、象徴的だった。

京王ライナーへの乗車は1両2カ所に限られる。ホームドアも対応する位置のみ開く

一方、土曜日の夕方、18時発の京王八王子行きにも試乗してみると、客層の違いが明らかであった。ホームでの整列位置を探して右往左往する客や、「これに乗るにはどうすればいいのか?」と車掌に尋ねる客もいる。発車直前には「座席指定券がないと乗車できない」旨の放送も流れ、土休日の利用客には「一見」が多いことがうかがえる。その一方で、あまり目立たない位置にある電源コンセントへ、まったく迷うことなくスマートフォンの充電コードを差し込む若い女性もいる。

橋本行きは、停車駅が多摩ニュータウン内の駅と終点に限られるため、京王多摩センターなどで利用客が一斉に降りる様子が見られるが、京王八王子行きは府中から終点まで停車駅が分散している。見ていると、いちばん下車客が多かったのが聖蹟桜ヶ丘。続いては、高尾線に接続する北野だった。

京王八王子まで乗った客は、途中駅からの乗車も含めて、1両10人ほど。これからは、並行して走り混雑が激しいJR中央線から、どれだけ利用客を京王ライナーへ誘えるかが、焦点となるだろう。

今後の展開に期待

京王ライナーは平日、深夜の時間帯まで運転されていることもアピールポイント

京王ライナーの需要の大きさを見ていると、インバウンド客にも人気が高い、高尾山方面への座席指定制列車の設定も、今後は期待できるのではないか。土休日朝の高尾山口行きは、かなりの混雑になるからだ。

シートがリクライニングしないといった、居住性の難点は、景色が見えない夜間の、30分前後の乗車なら特に気にはならない。ただ、車両自体が片側4ヶ所に扉がある通勤兼用型だけに、乗降扉部分の立席スペースが無駄にも思えてくる。JRの在来線特急だと、トイレ・洗面所が車内にあっても、1両あたりの座席は60席以上あるのがふつうだ。それに対し京王ライナーは40席強。需要の大きさに対して、効率の面からもったいないという気もする。

京王電鉄がどう需要を把握、喚起し、展開を図っていくか。まだまだ注目していきたい。