「レジャー」の記事

“脱カラオケ”に舵を切った「シダックス」の多事業戦略

“脱カラオケ”に舵を切った「シダックス」の多事業戦略

2018.12.25

シダックスが閉塞感にじみ出るカラオケ事業から撤退

中伊豆を総合リゾート&ワインの一大生産地にして集客

「500の仕事。」をかけ声に多岐にわたる事業展開を目指す

昭和期から現在にかけて、多くの人に親しまれているカラオケ。ただ、底堅い人気のレジャーではあるものの、閉塞感が漂い始めている。それは、カラオケ参加人口(以下、カラオケ人口)やカラオケボックスルーム数が微減、もしくは横ばいとなって久しいからだ。

一般社団法人全国カラオケ事業者協会がまとめた「カラオケ白書2018」によると、1995~1996年頃、カラオケ人口は約6,000万人だったが、2017年は約4,700万人にまで減少。カラオケボックスルーム数も全盛期は16万件を超えていたが、2017年には13万件ほどにまで減っている。

折れ線グラフが店舗数、棒グラフが参加人口。急激な落ち込みではないが、微減傾向だ(一般社団法人全国カラオケ事業者協会「カラオケ白書2018」より)

この最大の原因はバブル崩壊だが、それでもレジャーとしては健闘しているといえる。たとえばスキーと比べてみる。スキー人口は一時期2,000万人を超えていたといわれるが、今ではスキー・スノボ合わせても約700万人ほどまで減っている。釣りに関しても、2,000万人ほどの需要があったが、こちらも約700万人まで減少したそうだ。ともに全盛期の1/3ぐらいまで需要は減ったが、カラオケ人口は全盛期の約75~80%ほどで抑えている。冒頭で「底堅い人気」と記したのは、“落ち込みがほかのレジャーほどではない”という印象を受けたからだ。

とはいえ、不安材料がないわけではない。真っ先に思いつくのが「人口の減少」。これはすべてのレジャーに当てはまることだが、将来的にレジャー需要が下がるのは容易に予想できる。そして、カラオケの“お供”ともいってもよいお酒需要が減少していることも不安材料だ。特に“若者のお酒離れ”といわれて久しく、なかでもビール人気が落ち込んでいる。さらに、国民的な大ヒット曲が生じにくくなっているという背景も、カラオケ需要の減少を後押しする可能性があるだろう。

こうした状況に対し、カラオケ産業に関わる企業は、新たな収益源を模索している。なかでも積極的な姿勢をみせているのがシダックスだ。シダックスといえば、カラオケの大手企業と思われがちだが、2018年5月にカラオケ事業からの撤退を発表している。カラオケ事業を行っている子会社、シダックス・コミュニティの株式をカラオケ館を運営するB&Vに譲渡し、今後は“食の仕事”を収益の柱にしていく。

カラオケ事業を切り離し本来の姿に回帰

そもそもシダックスは、給食や食堂などの受託運営が本業で、レストランやホテル、コンビニ、エステ、道の駅などを手がけている。もとはカラオケ事業もこうした食の仕事の派生で、外食産業のノウハウを生かした「レストランカラオケ」という分野を築いた。だが、カラオケのイメージが消費者に強く浸透したため、シダックス広報担当者によると「外食ではなくカラオケ専門企業」という印象を持つ人がほとんどだそうだ。実は筆者もカラオケの企業だと信じ切っていた。

そんなシダックスが力を入れているのが、中伊豆での総合リゾート業。首都圏からアクセスしやすく、伊豆の名瀑「萬城の滝」「浄蓮の滝」や「天城山」といった見所もある。そしてワサビ田に代表されるように、山の幸・海の幸が豊富で、何よりも名湯が集まっているところだ。そして天気がよければ、富士山を眺められるロケーションであることもポイントだろう。何よりもシダックス創業者・志太勤氏が生まれ育った地で、伊豆に対しての思い入れが深かったことが、「中伊豆に総合リゾート業を!」という原動力になったのかもしれない。

首都圏から約2時間ほどで修善寺駅へ。そこからシャトルバスで20~30分で、シダックスのリゾートにアクセスできる。写真は伊豆箱根鉄道駿豆線・修善寺駅
天気がよければ富士山を眺められる。富士山に近いロケーションなので、首都圏から眺めるよりも迫力のある光景が楽しめる
伊豆箱根鉄道線沿いには史跡も豊富。左は国指定史跡「韮山反射炉」。右は重要文化財の「江川邸」。反射炉建設や幕末の海防政策で活躍した江川英龍の屋敷だ

この地をリゾートの一大拠点にしたいシダックスの考えに、地元観光協会も期待を寄せており、伊豆市観光協会 中伊豆支部 支部長 内田幸利氏は「今後、オリンピックの影響などで、インバウンドの需要が増すと思う。シダックスには中心となっていただき、中伊豆の観光活性化を引っ張ってもらいたい」と話す。

中伊豆を総合リゾート&一大ワイン生産地へ

中伊豆の観光資源について軽く触れたが、特筆したいのがシダックスのワインへの積極的な取り組みだ。同社は「中伊豆ワイナリーヒルズ」を2016年にリニューアルしたが、ここには「ヴィンヤード」(ブドウ農園)のほか、本格ワイナリー「中伊豆ワイナリー シャトーT.S」、温泉を備えたホテル「ホテルワイナリーヒル」といった施設が集まっている。そのほか、野球場やサッカー場、テニスコート、チャペル・式場、さらには乗馬コースなども用意され、総合リゾートとしての存在感を示している。

「中伊豆ワイナリーヒルズ」の中心的建物「中伊豆ワイナリー シャトーT.S」。周囲には約10ヘクタールのブドウ農園が広がり、9種・約30,000本のブドウが栽培されている
ブドウ農園の近くに乗馬コースがあり、乗馬体験が可能
シャトーにはワインコレクションセラーがあり、貴重なボトルが保管されている
シャトーにはレストラン「ナパ・バレー」が併設されている。ブドウ農園見学だけでなく、アクティビティや食事ができる総合リゾートとして、意識していることが伝わってくる

ここが、ほかのワイン産地と差別化できるところといってよい。一般的にワイン用ブドウというと、山梨県や長野県などがおもな産地。というのも、ワイン用ブドウの栽培地は、降雨量が少なく寒暖の差が大きいところが選ばれるので、標高数百メートルの山腹にヴィンヤードが造成されることが多い。そのため、総合リゾート施設とヴィンヤード・ワイナリーの併設は難しい。だが、中伊豆ワイナリーヒルズは急激に傾斜している山腹ではなく、高原の広々とした場所にある。そのため、グラウンドなどを併設可能で、日中にワイナリー見学や球技、乗馬を楽しみ、食事やワインが味わえ、そして温泉で疲れを癒やせる施設になっているのだ。

シャトーから歩いて10分ほどのところにある「ホテルワイナリーヒル」。サッカー場や野球場、テニスコートやプールもあり、スポーツの合宿所としても利用できる
宿泊客にはワインが1本サービスとなる。サービスウォーターはよくあるが、サービスワインは珍しい
露天風呂を備えた大浴場。日帰り温泉としても利用されている

さて、シダックスはあるスローガンを掲げている。それは「500の仕事、シダックス。」というもの。これは文字通り、500の事業を展開することを目標にしたものだ。前述した総合リゾートのほかに、多岐にわたる事業を行っている。外食産業もレストランのほか社員食堂、寮、研究所などの食事提供、医療・高齢者施設向け給食、カフェ、ケータリングなど多岐にわたる。そのほかにも食材や冷凍総菜の販売なども手がけている。

これら以外にも食器用洗剤、洗濯用洗剤、アルコール除菌ジェルといった衛生製品の販売、役員車の運行管理、路線バス、貸し切りバスといった交通業務、秘書、受付、案内業務といった企業サポートも行っている。

すべての事業の紹介はできないが、“500の仕事”というかけ声は、あながちウソとはいえない。シダックスのカラオケ店舗名は、しばらくは残るということだが、いずれは消えることが考えられる。ただ、撤退を発表したカラオケは、シダックスにとって事業の一部でしかなく、今後は“食”を中心にしたビジネスで存在感を示すだろう。

ソースネクストの時価総額を3倍にした翻訳機市場、競争激化は必至か

ソースネクストの時価総額を3倍にした翻訳機市場、競争激化は必至か

2018.08.16

過去最高を更新し続けるインバウンド需要取り込みに必須

ホテル・空港・飲食店といったサービス業に広まり始める

先行というアドバンテージを維持するため自社開発後継機

ソースネクストの翻訳機「POCKETALK(ポケトーク)」がヒットしている。訪日外国人の増加を背景に、ホテルや飲食、空港などで相次いで採用されており、発表から1年でソースネクストの時価総額は約3.3倍に膨らんだという。

ソースネクストが翻訳機の新モデルを発表

7月26日には、新モデルとして「POCKETALK W(ポケトークW)」を発表した。わずか1年という短期間でモデルチェンジした狙いはどこにあるのか。

訪日需要に伴い、ソースネクストの時価総額も急増

ポケトークのような音声翻訳デバイスが注目される背景には、訪日外国人の増加がある。政府は2020年に4000万人、2030年には6000万人の訪日客を見込んでおり、さらに日本に在住する外国人も東京を中心に増えている。

実際、東京だけでなく地方の観光地でも訪日客の姿を見かける機会は増えている。先日、筆者が訪れた福岡では、中州や天神の屋台に多数の外国人が押し寄せていた。英語だけでなく、中国語や韓国語などへの多言語対応も必要となれば、翻訳機の需要が高くなるのも当然だ。

2017年10月に最初のポケトークを発表したソースネクストの時価総額は、179億円から今年の7月25日時点で585億円へと約3.3倍に増加した。法人の導入事例として、小田急百貨店では免税手続きにポケトークを活用。かんぽの宿では料理の説明に使うなど、日本の「おもてなし」に欠かせないデバイスになっているという。もちろん、単におもてなしというだけでなく、旺盛なインバウンド需要を取り込み、業績向上につなげたいというのが本音だろう。

ホテルや飲食、空港など多数の導入事例も増えてきた

基本的な使い方は、ポケトークのボタンを押しながら話しかけることで、翻訳結果が音声で読み上げられ、画面にもテキストが表示される。端末上ではなくクラウドに音声データを送って翻訳するため、動作には通信環境が必要となる。

問題は、個人が海外旅行に持ち出して利用する際の通信環境だ。そこでソースネクストはIoT向け通信サービスで知られるソラコムと提携し、「グローバルSIM」とのセット販売を提供した。日本だけでなく海外でも本体だけでデータ通信ができるのはユニークだ。

新モデルは自社開発、翻訳精度や通信機能が向上

9月に発売する新モデル「ポケトークW」の特徴は、ソースネクストが企画した自社開発モデルという点だ。初代モデルはオランダのTravisと共同開発していたが、新モデルは翻訳エンジンのひとつとして日本の情報通信研究機構(NICT)の技術を採用するなど、独自に進化している。

新旧モデルを合わせたポケトークの販売目標として、ソースネクストは2020年までに50万台との数字を掲げているが、新モデルの具体的な目標台数は公表していない。ただ、新モデルの自社開発に踏み切ったということは、初代モデルで手応えをつかんだということだろう。そしてもう1点、ライバル企業が翻訳機市場で手をこまねいているワケではない。少しでも競争力を維持するためにも自社開発の新モデル投入が必要だったのは、想像に難くない。

新モデルでは画面がタッチに対応し、ボタン操作も使いやすくなった。アジア言語を中心に翻訳精度が向上、通信機能は3Gに加えてLTEにも対応した。首から提げて使うことを想定したストラップホールなど、細かな使い勝手も見直されている。

新モデルは画面タッチに対応し、使い勝手が向上した

自社開発になったことで、販売地域も拡大しそうだ。初代モデルでソースネクストは日本、米国、カナダでの独占販売権を持っていた。だがポケトークWはさらにグローバルに展開できるため、海外の展示会などにも出展していくという。

イメージキャラクターにはタレントの明石家さんまさんを起用するなど、プロモーションも強化。新モデルの発表後はJTBグループが取り扱いを発表し、ベルギーのサッカーチームや東京ミッドタウン日比谷も採用するなど、導入が相次いでいる。

これまで小型翻訳機シェアの大部分を占めてきたというポケトークだが、7月31日にはロクバーがiliシリーズの新モデル「ili PRO」を発表するなど、競争は激化している。

対するソースネクストは、新モデルの投入とプロモーションによりポケトークのブランドを浸透させ、ライバルとの差別化を図るのが当面の戦略になりそうだ。

星野リゾートの新施設「界 仙石原」、「アート」を柱にした意図とは

星野リゾートの新施設「界 仙石原」、「アート」を柱にした意図とは

2018.08.09

星野リゾートの温泉宿泊施設「界 仙石原」がオープン

「アート」を柱にした“アトリエ温泉旅館“

アーティストとの協業に特色、今後の展開は?

星野リゾートが2018年7月に開業した、神奈川県・箱根町の「界 仙石原」。温泉旅館ブランド「界」としては15カ所目となる同施設の特色は、施設の柱となるテーマに「アート」を据えたところにある。

また、開業前にアーティストと協業し、客室ごとに作品を設置するなど、「界」の既存の施設とはやや異なるアプローチであるように映る。このテーマ設定の狙いと、開業前に行われたアーティストとの協業について、内覧会の様子を中心にお届けする。

温泉旅館を、訪れた人の「アトリエ」に

「界」では、各地の伝統文化などに親しむ体験を提供する「ご当地楽」、そして地域文化を表現した「ご当地部屋」によって、立地に応じた個性を出している。箱根エリアにはすでに「界 箱根」があり、「界 仙石原」は同一エリアで2カ所目の施設だ。

説明するまでもなく、箱根は日本有数の観光地。2015年の噴火で一時客足が遠のいてしまったものの、昨今のインバウンド効果などもあり、2017年には噴火前の水準(約470万人)にまで戻っている。

箱根町宿泊者数推移のグラフ

同じエリアでの第2の施設ということで、開業にあたって、界 箱根の「宿場町」とは異なる土地の「個性」を探したという。ポーラ美術館、箱根ガラスの森美術館など、「界 仙石原」周辺には数多くの美術館があるが、ひとつのエリアにこれだけの美術館が集まっているのは世界有数である、と、池上総支配人は語る。そうした土地の個性から、同施設を「アトリエ温泉旅館」と銘打った。

アトリエとしての側面を象徴するスペースには、筆や画材などが並ぶ

アートを「見る」のではなく、「体験」する

あえて「アトリエ」と枕につけたのは、「見る」イメージの強いアートを、宿泊者が実際に「体験」してほしいという思いが込められているため。

「単にアートを鑑賞するだけなら、周囲に良質な美術館がたくさんあります」(池上総支配人)

宿泊客だけでなくスタッフを含めた人々がアートに触れあうためのアトリエとしての魅力を提案していく。「ご当地楽」として手ぬぐいの着彩体験を提供し、週末・日曜の朝には、アーティストを講師としたアクティビティを複数展開する。

手ぬぐいの着彩体験を行うロビー付近のエリアは、絵筆や絵の具、顔料などが展示されており、「描く」行為を想起させるインテリアが置かれている
手ぬぐいは型染作家・小倉充子氏の線画を用いた塗り絵

筆者も手ぬぐいの着彩を体験したが、言われてみれば、絵をみずから描いたのは学校での授業が最後だった。絵の完成度もあって、素人でも色をつければそれなりに見られるものになるのも嬉しいし、手ぬぐいであればよいお土産になる。「アート」と言えば美術館で見る側という意識が強かったが、この体験を経て「アート」の楽しみを再発見させられた。

館内入り口には、隈研吾氏が信頼を置く左官職人としても知られる久住有生氏の作品が。
温泉旅館としての魅力は、大涌谷温泉から引いた酸性泉を大浴場と客室露天風呂の2カ所で提供している点。大浴場では、酸性泉と、肌を休める為のぬる湯が分けて用意されている

アーティストの「滞在」を「作品」に昇華

もちろん、「アート体験」だけが同施設のウリではない。「アトリエ温泉旅館」を標榜する同施設の成立には、生業として作品を生み出すアーティストの存在があった。開業前にアーティストが同施設に宿泊して作品を制作する「アーティストインレジデンス」(以下、AIR)が実施されたのだ。

「AIR」は、一定期間の滞在を経て、その土地の風土を感じながら作品制作するプロジェクトを指す言葉。日本でも行われてはいるが、越後妻有トリエンナーレなどに代表される地域型芸術祭と比べると、知名度は低いかもしれない。

今回のAIRは「アーティスト イン レジデンス 箱根仙石原」と銘打ち、すどう美術館、そしてアーティスト・朝比奈賢氏が率いる湘南アートベースが主催したもので、星野リゾートは共催という立場。また、星野リゾートが宿泊・食事の提供と、一部画材の補助を行った。

参加アーティストの面々。 国内外より12名のアーティストが仙石原へ集結した

アーティストは、原則として滞在した部屋に自身の作品を飾ることを念頭に置いて制作を実施。開業後は、客室「仙石原アトリエの間」として、1室ずつ異なる個性のある空間として提供されている。作品を通じ、アーティストがこの土地をどう感じたか実感してほしいとの意図が込められた。

ドイツからやってきたジュリア チーグラー氏が制作したアート。キャンバスに神社の紙垂(しで)のかたちにマスキングテープを貼り付けた後、ひとつのキャンバスの上に富士山、大涌谷など訪れた場所の印象を重ねて描き、最後にテープを剥がしたことで、同氏が神社で感じたリラックス感を表した
国内から参加したアーティスト・田中紗樹氏が手がけた作品を展示。芦ノ湖の遊覧船に乗ったとき感じた風のイメージをキャンバスに描きとめた。静かな部屋の中に風が吹くような、ダイナミックな動きを表現した。
「界 仙石原」池上総支配人。制服の花柄は、当地の植物をモチーフにしている。

日本におけるAIRは自治体主導で、地方創生の意味合いが強いものが多い。その一方で、星野リゾートのような勢いのある企業が、自社施設のコンセプト実現のため、アーティストの力を借りるためにAIRが行われたのは非常に興味深い。池上総支配人に、今後、AIRあるいはそれに準ずるようなイベントを行う予定はあるか、問いかけた。

「現段階で具体的な予定はありませんが、今回の取り組みで得た経験値はノウハウとして社内に還元いたします。また、今後もアーティストの皆様とは継続して関わりを持ち続けていきたいと考えております」(池上総支配人)

AIRなのか、その他の形になるかは未知数だが、「界 仙石原」でのアート体験が実を結ぶごとに、次の展開が近づくに違いない。温泉とアートを楽しめる同施設の今後に期待したい。