「メルセデス・ベンツ」の記事

“ワニ”と共通点? メルセデスの新型「Gクラス」は進化したか

“ワニ”と共通点? メルセデスの新型「Gクラス」は進化したか

2018.06.07

メルセデス・ベンツのSUV「Gクラス」が新型になる。現行型と新型で共通する部品は数点とのことで、中身は大きく変わっているとおぼしきGクラスだが、見た感じは依然として、あの独特な箱型のSUVであり続けている。このクルマ、変わらない所にも価値があるようだ。

メルセデス・ベンツの新型「Gクラス」。「G」は「ゲレンデヴァーゲン」の頭文字だ

ワニと「Gクラス」が経てきた適者生存の歴史

1979年に誕生したGクラスは、これまでに一度もフルモデルチェンジを受けたことのない特殊な存在だ。国境警備などに使用されていたクルマを乗用車に改造したのが始まりで、そのスクエアなデザインとオフロード性能の高さという個性を一貫して堅持し続けてきた。今回の新型についても、メルセデス・ベンツでは「フルモデルチェンジを施した」とは表現していない。

世界で累計30万台以上が売れているGクラスだが、日本にもファンが多いとメルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は話す。確かに、滅多にデコボコ道を走る機会のない東京でも割と見かけるし、コアなファンが多そうなクルマだ。

ブームを背景に街で見かける機会の増えたSUVだが、「Gクラス」は他のクルマと見間違えようがない

基本の部分は変わらないが、Gクラスは時代の要求や技術の進化に合わせて絶えず改良を繰り返してきたそうだ。このクルマの商品企画責任者を務めるダイムラーのミヒャエル・ベルンハルト氏は、「新型Gクラスは、個性的なデザインや比類ないオフロード性能など、祖先の強力な遺伝子を受け継いでいる」とした上で、ダーウィンの進化論を引きつつ、Gクラスの経てきた適者生存の歴史を“ワニ”になぞらえて説明した。

「ダーウィンは『種の成功は強い遺伝子だけでなく、周囲の環境に適応あるいは順応する能力にも依存する』と言ったが、その代表例は“ワニ”だ。ワニは何百万年もの間、周囲の環境に適応しつつ、基本のデザインをほぼ変えずに生き続けてきた。Gクラスも同じだ」

新型「Gクラス」発表会に登壇したダイムラーのベルンハルト氏(左)とメルセデス・ベンツ日本の上野社長

中身は大幅に刷新

ワニと同じでデザインは大きく変えていない新型Gクラスだが、現行型と比べれば、走行性能や快適性などが格段に進化していると上野氏とベルンハルト氏は口をそろえる。

例えば、悪路走破性を自慢とするGクラスにとって屋台骨ともいえる「ラダーフレーム」は新設計となっているし、サスペンションも新たに開発した。現行型では「少し重い」(ベルンハルト氏)というステアリングも、従来の「ボール&ナット形式」から「電動機械式ラック&ピニオン式」に変わったことで「より精密で、反応も良くなった」(同氏)そうだ。

その姿も大きく変わっていないようでいて、サイズが全長4,817mmで+53mm、全幅が1,931mmで+64mmとさらに立派になっている。細かい部分だが、アプローチアングル(クルマ先端の最下部と前輪の設地面が作る角度のことで、悪路走破性の高さに影響する)とデパーチャーアングル(クルマ後端の最下部と後輪の設地面が作る角度)は、ともに1度広がっていたりする。

発表会ではエクストリームな状況での走行デモを披露した新型「Gクラス」。あいにくの雨だったが、そんな中で無理な注文を難なくさばく姿からは、高い悪路走破性が見てとれた

この他にも、ボディが約170キロ軽くなっていたり、歩行者検知機能の付いた「アクティブブレーキアシスト」など最新の安全運転支援システムが標準装備になっていたりと、進化した部分はたくさんある。

今回の新型は、「Gクラス」の長い歴史の中で最も大幅な改良を受けたそうだ

新・旧併売の日本、2台持ち狙いのつわものも出現

メルセデス・ベンツ日本は新型Gクラスの受注をすでに開始している。ラインアップは2種類で、価格は「G550」が税込み1,562万円、「AMG G 63」が同2,035万円。どちらも4リッターのV8直噴ツインターボエンジンを搭載する。納車は8月下旬以降の予定だ。

ユニークなのは、新型発表後もしばらくは現行型との併売となること。上野社長によると現行型も販売台数は堅調で、新型登場を見越して現行型の確保に動く購入者もいるそうだ。現行型オーナーの中には、新型も購入してGクラスの2台持ちに手を染めようとするつわものもいるという。

こういうクルマを2台持ちしようというのは、一体どんな人なのだろうか

新・旧Gクラスの併売を決めた理由について上野社長は、「新型と、39年前に誕生したゲレンデ(Gクラスのこと)の面影を色濃く残す現行型は、良いとか悪いではなく、テイストが違うと考えている。お客様がGクラスに求めるイメージに沿うものを選べるようにしたかった」と説明した。駐車場の大きさや住居周辺の道幅などを考慮して、新・旧のGクラスから自分に適したモデルを選べるのも併売の利点だろう。

高級車の概念を変える? メルセデス・ベンツ新型「Aクラス」に試乗

高級車の概念を変える? メルセデス・ベンツ新型「Aクラス」に試乗

2018.05.31

メルセデスブランドのエントリーモデルである「Aクラス」がフルモデルチェンジした。すでにジュネーブショーで発表されているが、改良したボディと「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というユーザーインターフェースが新技術として注目されている。先頃、アドリア海に面したのどかなクロアチアのリゾート地で国際試乗会に参加したので、新型Aクラスのインプレッションをレポートする。

メルセデス・ベンツのコンパクトカー「Aクラス」の新型にクロアチアで試乗した(全ての画像:メルセデス・ベンツ日本)

高級車メーカーがコンパクトカーに踏み込んだ理由

そもそも、「Aクラス」とはどんなクルマなのだろうか。高級車メーカーとして知られるメルセデス・ベンツがコンパクトカーの路線に踏み込んだのは1997年頃のこと。ほぼ同じ時期に全長3.6mのAクラスと全長2.6mの「スマート」(2人乗り)を発表した。

初代Aクラスは1993年のフランクフルトモーターショーに出展された「Vision 93 A」の量産モデルだ。メルセデスが「カローラ」クラスのクルマを作るということで日本メーカーも驚いたが、もっとも驚異を感じたのは同じドイツのフォルクスワーゲン(VW)だった。高級車メーカーがコンパクトカーを開発する背景には、どんな考えがあったのだろうか。

なぜ高級車メーカーのメルセデスがコンパクトカーに参入したのか

メルセデスは1980年代に“小ベンツ”と呼ばれた「190E」をリリースした。オイルショックや環境問題などを考えると、大きな高級車だけを作り続けることに限界を感じていたのかもしれない。

米国や英国における自動車の歴史を見ると分かるように、大きな高級車メーカーには恐竜のように絶滅のリスクがつきまとう。環境と安全問題、エネルギーと資源問題などを考え合わせると、大きなクルマだけを作っていては、未来も事業を続けていけるとは限らないのだ。その意味で、高級ブランドのメルセデスではあるが、プレミアムなコンパクトカーを開発することには、30年くらい前からの強い信念があった。

更に大きくなった5ドアハッチバック

1997年に誕生したAクラスは、エンジンを水平15度に寝かせるという発想で、衝突時にエンジンがサンドイッチ構造の床下に落ちることで、そのエネルギー吸収を高めていた。ちなみに、全長2.6mのスマートはエンジンをリヤに搭載していた。Aクラスと同じ考えだったのだ。

今回でAクラスは4代目となるが、3代目からはモノコックボディとなり、全長4mを超えるCセグメントに移行した。メルセデスのラインアップ的には、Bセグメントは「スマート フォーフォー」(4人乗り)、Aセグメントは「スマート フォーツー」(2人乗り)となる。

4代目の新型Aクラスは、先代Aクラスよりも全長が120mm伸びて4,419mmとなっている。幅は+16mm、ホイールベースは+30mmということで、更に立派に見えるようになった5ドアハッチバックだが、来年にはセダンタイプも登場する。先代のプラットフォームを大幅に改良しているが、主な変更点は車体剛性の強化と音振動対策だ。さらに、空力特性も見直して、空気抵抗係数(Cd値)ではクラストップの0.25を実現。速度の高いアウトバーンでは燃費改善に大きく利きそうだ。

さらに大きくなった新型「Aクラス」

「高級車といえばFR」は通用しなくなる

エンジンはルノー・日産製の1.4リッターを大幅改良したものとメルセデスオリジナルの2リッターターボを用意。欧州では1.5リッターのディーゼルが搭載されるが、近い将来にプラグインハイブリッド車(PHEV)が登場することは間違いないだろう。

ギアボックスは7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を使うが、実際に乗ってみると発進時のスムースネスが進化している。2リッターターボの「A250」は、350Nm前後のトルクを発生するかなりの俊足ぶり。1.4リッターターボの「A200」も250Nmのトルクを発揮するので、これでも十分なパフォーマンスだ。

走行性能も満足のいくものだった

驚いたのはエンジンではなく、Cセグメントとしての完成度の高さと高級感だ。FF(前方にエンジンを積み、前輪で駆動)とは思えないほど、NVH(自動車の乗り心地を測る基準、「N」はノイズ、「V」は振動、「H」はハーシュネス=荒れた路面を走行する際の揺れや音)性能が高かった。

FFはフロントタイヤで駆動するので、サスペンションのブッシュ(サスペンションの連結部に装着する部品、基本はゴム製)などを固くする必要があるし、エンジンの振動もハンドルに伝わりやすい一方で、全長を大きくせずキャビンを広く使えるので、ファミリカー(大衆車)として発展した。それに対し、FR(前方にエンジンを積み、後輪で駆動)は高級車というのが従来の図式だった。だが、メルセデスが20年もかけて開発してきた新型Aクラスは静かでしなやかで、FRかFFか分からないほど、質感の高い走りが実現している。

FFとは思えないほど走りの質感が高かった新型「Aクラス」

リヤサスペンションは「A250」がマルチリンクを使うが、17インチタイヤの「A200」にはトーションビームを採用する。その狙いは、すでに述べているようにPHEV対応だ。バッテリーのスペースを確保するのが、その最大の理由。マルチリンクは4MATIC(AWD、四輪駆動)にも対応可能なので、更に高性能な「A45 AMG」の展開も視野に入っているだろう。

ということで、新型AクラスはFFの常識を打ち破るほど静かで乗り心地がよかった。エンジンに関しては可もなく不可もなく、という感じだが、気になるのはPHEVの出来栄え。きっと「EQパワー+」(EQ Power +)の名前で登場するはずだ。

インテリアは高級車「Sクラス」を思わせるほど先進的で、メーターは横長の大型液晶パネルに映し出される。今回、メルセデスがこだわったのは「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というユーザーインターフェースだ。デジタル技術を駆使した操作系だけでなく、AIを使った音声認識も実用化している。

インテリアは「Sクラス」を思わせるほど先進的

「AI」はバズワード化し、言葉の意味があいまいになっている側面もあるが、メルセデスの場合はドライビング中に必要な用途に特化している。音声認識は全世界の23カ国語に対応。もちろん日本語で話しかけても大丈夫だ。試乗では実際にMBUXを使ってみた。

AI搭載のMUBX、協力サプライヤーも多彩

「ヘイ、メルセデス」と語りかけることからMBUXは始まる。従来の認識とは異なり、AIが搭載されているので使い方はロボットのよう。例えば「明日どこどこに行くけど傘は必要?」と聞けば、天気予報を調べて「傘は要りませんよ」と答えてくれる。あるいは渋滞に巻き込まれたとき、「会議に送れるのでボスにメールして」と指示すると、MBUXはメールを作成し、送信してくれる。まるで夢のようなことが可能となる。

MBUXは交通や運転環境に特化したデータベースを持つので日常的な会話はできないが、ドライバーのアシスタントとしては良きパートナーになりそうだと思った。そんな素敵なシステムが、メルセデスのエントリーモデルから実用化されたわけだ。

AI搭載のMUBXはドライバーの良きパートナーとなりそうだ

MBUXが使う音声認識技術は米国のニュアンス(Nuance)という企業が提供している。カーナビはドイツのヒア(HERE)、天気(米国)のソースは「Foreca」「Autonavi」を使うが、データベースはIBMを使用している。 インフォテイメントのOSはリナックス(Linux)、車載用コンピュータはエヌビディア(NVIDIA)と多彩なサプライヤーが協力している。

このように、車内での体験にも新味のあるメルセデス・ベンツの新型Aクラス。日本上陸は秋以降になりそうだが、高級車はFRという固定概念は捨てたほうがよいかもしれない。

同じクルマでもバッジが違う? なぜ複雑な「OEM」供給が増えたのか

同じクルマでもバッジが違う? なぜ複雑な「OEM」供給が増えたのか

2018.05.10

そのクルマを作ったのが誰なのかは、バッジを見ただけでは分からない場合がある。なぜなら自動車業界では、「A」というメーカーが作ったクルマに「B」というメーカーのバッジが付いているケースがよくあるからだ。例えば、日産自動車が作っている「セレナ」をスズキが「ランディ」として売っていたりする。

日産「セレナ」
スズキ「ランディ」(画像提供:スズキ)

このような関係を「OEM」(original equipment manufacturer、相手先ブランド名製造)供給と呼ぶが、その相関図は複数のメーカーが絡むこともあり複雑に入り組む。なぜこういった状況となっているのか。モータージャーナリストの清水和夫さんに以下で解説してもらう。

メルセデス・ベンツ「スマート」の複雑な構成

以前の記事で解説した多品種生産にも関係するが、モデルの多様化はクルマの生産コスト増加につながるので、あるメーカーが他ブランドと部品やプラットフォーム、エンジンなどを共有する「OEM」供給が流行っている。それでは、そのクルマを誰が作ったと考えるべきかといえば、そのブランドのバッジが製造者を表しているのである。

面白いOEMの協業はメルセデス・ベンツの「スマート」とルノーの「トゥインゴ」だ。

2人乗りの「スマートフォーツー」はメルセデスにしかないが、自然吸気のエンジンは昔の三菱自動車製をベースにしているし、900ccの3気筒ターボはルノーから供給を受けている。だが、4人乗りの「スマートフォーフォー」はルノー「トゥインゴ」とプラットフォームおよびエンジンを共用する。プラットフォームはメルセデスが設計・生産するが、エンジンはルノー製だ。

左が「スマートフォーフォー」(画像提供:メルセデス・ベンツ日本)、右がルノー「トゥインゴ」

日本では4人乗りの「スマートフォーフォー」とルノー「トゥインゴ」が市販されているが、ブランドにこだわらないなら、ルノーのほうが安いし乗り心地もよいのだ。このような関係性にある2台のクルマを「どこで差別化するか」は、これからのブランドビジネスの難しいところだろう。