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もはや王者Microsoftの脅威に? 急成長する「Slack」の現在地

もはや王者Microsoftの脅威に? 急成長する「Slack」の現在地

2018.09.12

熾烈な覇権争いが続くビジネスチャット市場

Slackの機能拡張ロードマップに注目

Slackユーザー増加でOffice 365契約者が減少?

Slack Technologiesは、9月5日~9月6日の2日間にわたり、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンフランシスコ市において、自社イベント「Frontier」を開催した。同イベントにおいてSlackは、ユーザー自前の暗号鍵でデータを暗号化できる「EKM」(Enterprise Key Management)の導入など、同社の主要ターゲットである法人ユーザー向けの機能拡張ロードマップを公開して注目を集めた。

同社が機能拡張に尽力する背景には、ビジネスチャットツール市場における競争の激化がある。2018年7月には、従来からの競合である「ChatWork」、「Workplace by Facebook」、「LINE WORKS」に加えて、法人向けITソリューションの王者であるMicrosoftが無償版の「Teams」を提供することを発表している。

最新バージョン登場から4年。ユーザー数は800万人に

Slackは創業から9年のベンチャー企業。創業者は、最終的に米Yahoo! に買収された写真共有サービス「Flickr」を共同で創業したことでも知られる現CEOのスチュワート・バターフィールド氏。同氏率いるSlackは、2014年に新しい形のビジネスチャットツール「Slack」を公開し、それから4年足らずでグローバルに800万ユーザーを集めるほどに急速に成長させてきた。

Slack Technologies 創業者 兼 CEO スチュワート・バターフィールド氏

株式は現時点では非公開のため、企業規模などは不明だが、ソフトバンクなどが参加している投資コンソーシアム「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」が投資することを2017年に発表するなど、投資家からも大きな注目を集めている。

カリフォルニア州サンフランシスコ市にあるSlack社の本社

現在はグローバルに1200人の社員を抱えており、本社は今年4月に新たに移転したサンフランシスコ市の新本社社屋にある。日本法人「Slack Japan」も設立済みで、同社によれば日本市場はSlackにとって米国に次ぎ2番目にユーザー数を抱える重要な市場となっている。

「柔軟な使い勝手×クラウドサービスとの統合性」に強み

そもそもSlackを使ったことがないという方にその機能を説明するならば、”組織内の構成員、および外部ユーザーとのコミュニケーションを促進するツール”と言えばよいだろうか。Slackはワークスペース>チャネルと階層化されており、ワークスペースが組織全体、チャネルが部門のようなものとして機能すると考えるとわかりやすい。使い勝手としてはLINEと近く、もちろん個人間でもメッセージのやり取りが可能だ。

ユーザーはワークスペースおよび、チャネルなどに所属してメッセージのやりとりが可能。特徴的なのは、1つのユーザーIDが複数のワークスペースやチャネルに所属できることによって、組織を横断しているプロジェクト、社外のフリーランサーなども参加させるプロジェクトなどでも柔軟にコミュニケーションをすることが可能な点が評価されている。

さらに、同一プロジェクト上にサードパーティのアプリケーションを容易に機能統合出来ることも特徴。例えば、Slackそのものは電子メールの機能は持っていないが、外部の電子メールサービス(例えばGmailなど)を統合することで、電子メールすら飲み込んで、コミュニケーションすることができる。

他にも、例えば営業支援ツールとして「Salesforce」を使っている企業や、Twitter、Facebook、InstagramなどのSNSを使っている企業は、接続ツールを使うことで、Slackプラットフォーム上から各種サービスを活用することができる。(接続ツールは最初からSlackに用意されている場合もあれば、ユーザーが自ら開発する場合もある)

「まずは無償版から」ハードルを下げ、導入数増加へ

Slackのもう1つの特徴は、機能制限はあるものの、とりあえずスタートは無償で始められることだ。実際日本のユーザーでも、まずは無償版からという法人も少なくない。導入する側にとっては、クラウドベースでかつ無償プランで始められるSlackは導入のハードルが低く、これがSlack躍進の1つの理由になっている。

しかし、無償プランのユーザーばかりが増えても、それでは収益が望めない。今後も安定して成長していくためには、有償プランの利用ユーザーを増やしていく必要がある。このため、今回のイベントでは有償プランのメインターゲットになる法人ユーザー向けの機能説明に多くの時間が使われた。

今回発表されたのは、EKM、Gridのシェーアドグリッド機能、リ・オーガナイズ・アウェア機能、Admin APIの導入など。特にEKMにより、自前の暗号化鍵を利用してSlack上に流れるデータの暗号化を行なうことが可能になったことは、セキュリティの担保に関心がある法人ユーザーにとっては注目のアップデート内容と言える。

こうした法人向けの新機能を拡張していくことで、有償プランの契約を増やしていく、というのがSlackの狙いだ。

意識し合うMicrosoftとSlack

急速に成長しつつあるSlackであるが、その勢いに負けじと他社もビジネスチャットツールの普及に積極的になっている。その代表がMicrosoftだ。Slackを導入した企業で、かつて社内SNSに「Yammer」、社内の音声連絡ツールに「Skype for Business」などを使っていたという企業は少なくない。

いずれも、Microsoftの現在の主力製品である「Office 365」の一部として利用されていたサービスで、そこをSlackに代替されると将来的にOffice 365の契約者の減少につながる可能性がある。

そこでMicrosoftは、Office 365にTeamsという新しいツールを導入してSlackを追い上げにかかっている。7月にはその無償版を投入することを明らかにしており、これは、Slackの特徴である”無償版を試して有償版へ移行”という特徴に対抗してきているものと見てとれる。

Teamsの特徴は、特に日本において導入が進んでいる”Office 365に含まれている”点にあり、Slackにとっては、ユーザー数でいうと第2位の市場となる日本における脅威となる。今後Slackとしては、日本で根強い需要があるOffice 365との接続性を高めるなどの方策をとる必要に迫られている。同社が今回、法人向けの機能を強化するロードマップを発表したのもその延長線上にあるということができるだろう。

先端技術からビジネスシーンへ移った「HoloLensの今」--小柳建設社長インタビュー

阿久津良和のITビジネス超前線 第4回

先端技術からビジネスシーンへ移った「HoloLensの今」--小柳建設社長インタビュー

2017.11.16

日本マイクロソフトのMR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)」が、ビジネスシーンを塗り替えようとしている。同デバイスは2016年12月2日から予約受付を開始し、2017年1月18日より順次提供を開始し、そろそろ1年を迎えつつあるHoloLensの歴史を振り返ってみたい。

先端技術として注目を集めたHoloLens

日本国内でHoloLensを披露したのは2016年4月18日に開催した日本航空(JAL)の発表会だった。同社はMicrosoftと提携し、ボーイング787型用エンジン整備士訓練生向けツール、そしてボーイング737-800型機運航乗務員訓練生用トレーニングツールを発表。VR(仮想現実)デバイスではなくMRデバイスを選択した理由として、日本マイクロソフトの関係者は「パイロットの訓練は視覚だけはなく触覚で覚えることが必要。さらに目の前に自身の手が動く様が大事。エンジンの内部構造を目の前にすると、(環境情報を遮断する)VRデバイスでは移動時に恐怖を覚えてしまう」と説明している。

また、別の発表会ではMRデバイス及びアプリケーションの導入背景として、航空機が安定することで修理機会は減り、保守点検期間も広がる傾向があると述べていた。もちろん経営観点から見れば望ましい結果だが、整備士は目の前の航空機に触れて知識が血肉となる。訓練用航空機の確保も困難になるため、アプリケーションの開発に至ったと言う。「航空機・エンジン企業の協力を得ないまま、撮影した写真を3D化して開発に至った」(日本航空 整備本部部長 兼 JALエンジニアリング 人財開発部長 海老名巌氏)と関係者は当時の苦労を吐露していた。

日本マイクロソフトで開催した日本航空の発表会。HoloLensを手にするJALの現役パイロットと整備士、中央はMicrosoft HoloLens担当General ManagerのScott Erickson氏

HoloLensの存在は、2015年4月末から米国で開催した開発者向けカンファレンス「Build 2015」で明らかにしていたが、前述の発表会が日本初上陸と相まって、多くの報道関係者が会見場に詰め寄っていった。筆者もHoloLensを始めて体験した際は、エアタップ(人差し指を立てて、まっすぐ下に倒すジェスチャー)で3Dホログラム化したエンジンを、あらゆる角度から見て回った感動は今でも思い出せる。

前述のように日本マイクロソフトは2016年12月から予約受付を開始しているが、その前に世界各国にある海外拠点のグローバルセールス及びマーケティングサービスを統括するMicrosoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏を招いて、HoloLensを中核とした展開について説明した。「航空機を(デジタル空間に)持ち込むコンセプト」と、JALとの協業結果を説明し、Courtois氏は日本マイクロソフトを含めたグローバルで支援することを表明している。

HoloLensを手にするMicrosoft EVP兼President Global Sales Marketing&OperatioのJean-Philippe Courtois氏

日本マイクロソフトのHoloLensに対する注力具合は、これまでの製品・サービスの中でも群を抜くものだった。HoloLens出荷日に合わせて開催した2017年度下期の方向性を説明する記者説明会では、同社代表取締役 社長 平野拓也氏が、「デジタルトランスフォーメーション(変革)を推進する上で(HoloLernsは)鍵となる技術。初動実績も他国(西欧など6カ国)の合計数を3倍にあたる予約を頂き、驚いている。建設業界や製造業、ヘルスケア、そして教育現場。この4分野での展開に注力したい」と説明した。なお、HoloLernsは法人向けのCommercial Suite(税込み参考価格55万5,800円)と開発者向けのDevelopment Edition(税込み参考価格33万3,800円)の2種類を用意しているが、圧倒的に開発者向けが多く、「日本人がデジタルに対する親和性の高さや、ビジネスモデルの可能性に対する期待値、関心の高さを感じられる」(平野氏)好例と言えよう。

日本マイクロソフト品川本社ロビーでは、出荷開始日に合わせてHoloLensを披露していた

平野氏の説明どおり2017年4月20日には、建設業界におけるHoloLernsの展開として日本マイクロソフトは、小柳建設とHoloLernsを活用した連携を行うことを発表した。小柳建設はHoloLensを用いて業務の透明化や、近未来のBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)/CIM(コンストラクションインフォメーションモデリング)データの活用、建設現場や施工主を含めたコミュニケーションを実現する「Holostruction」プロジェクトを推進している。HoloLensを採用した理由として、小柳建設は「政府のデジタル化推進(国土交通省が推進するi-Constructionなど)や建設業界の迷いに一石投じたいという思いがあり、HoloLensが直感的に『来る』と感じた」(小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏)と説明し、小柳建設もMicrosoft及び日本マイクロソフトの3社連携で取り組むと説明した。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏(左)と、小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏(右)

拡充するHoloLensのB2B/B2Cビジネス

このように増加傾向にあるHoloLensのビジネス利用だが、日本マイクロソフトの普及活動が実を結び、同社が音頭を取らなくてもビジネスとして成立しつつあると感じたのが、2017年11月8日に開催した「Tech Summit Japan 2017」では、「Microsoft Mixed Realityパートナープログラム」参加企業によるHoloLensアプリケーションの体験コーナーを設けていたが、前述した建設業に留まらず、新築マンション販売コンテンツや仮想マネキンよる試着体験、脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーなど多くのコンテンツを用意していた。

2017年5月23日に開催した「de:code 2017」の基調講演には、HoloLensの父であるMicrosoft Windows and Devices Group Technical Fellow, Alex Kipman氏も登壇した

例えば「ホログラフィック・マンションビューアー」を展開するネクストスケープは、「デベロッパー所有のデータを3Dデータ化し、HoloLensで閲覧できるように加工している。室内まで見えるとさらに価値は高まるが、HoloLensを装着した状態で歩くことは空間スペース的に難しく、ジェスチャー操作で仮想空間内を移動しても体験的に面白くなかった」(ネクストスケープ クラウド事業本部 クラウドレンダリング事業開発部 部長 岩本義智氏)と語る。業界初を目指すため2017年4月上旬に着手し、ほぼ1カ月で基本システムを完成させた同社だが、背景には「都庁周辺のビル群を3Dモデル化するテストモデルを事前に作成し、実空間に投影しても正しく設置できることを検証してから、本プロジェクトに取り組んだ」(同氏)経緯があるため、アジャイル的な取り組みを実現できた。

「Tech Summit 2017」に設けたHoloLens体験コーナー。写真だけでは分かりにくいが、ディスプレイの先には3Dモデルが現実世界と融合し、さまざまな世界を実現している

試着体験をHoloLensで変えると意気込むハニカムラボは、未来の試着環境を作り上げようとしている。取り組みを始めた理由として同社は、DMM.makeと共同事業を行い、「バーチャルフィッティング事業に対する最新プロトタイプで、オンラインショッピングの可能性を広げるのが目的。当初は『オンラインだと洋服が自分に似合うのかなど(実店舗と比べると)不明確な点が多い』という意見が多く、既にある3Dモデル化の技術を使って取り組んだ」(ハニカムラボ 代表取締役/ソフトウェアエンジニア/クリエイティブディレクター 河原田清和氏)と理由を説明した。現時点では具体的なビジネスモデルに至っていないが、現在いくつかの案件が稼働中だと言う。当初は先端技術に位置していたMRだが、気付けば我々のビジネスシーンにも点在し、既存のソリューションを変えようとしている。

脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーと、共有可能な音声アノテーションコンテンツに取り組むホロラボは、既に稲波脊椎・関節病院と共同開発を続けてきた。「(遠隔地から会議などに参加し、距離を問わずに共同作業を行う)機能にいち早く実装した」(ホロラボ 創業者兼CEO 中村薫氏)ことで、他局や別の病院にいる医療関係者が知見を述べるなど、これまでの治療と一線を画するソリューションを実現する。また、同社はHoloLensに限らず、Windows Mixed Realityデバイスや同モーションコントローラーを利用するソリューションも合わせて用意した。「細かい操作を行う際は(HoloLensの視点移動やジェスチャー操作だけでは)不慣れな方は使いづらい。(今後実装予定の)編集機能でもWindows Mixed Realityモーションコントローラーの方が使いやすく、視野角も広い」(同氏)と言う。

一連のアプリケーションで注目すべきは、一般消費者がMRの恩恵を得られるという点だ。新築マンションや仮想試着は説明するまでもなく、CTスキャンビューアーも医療現場に導入されれば、患者がHoloLensを装着して視覚的に自身の患部を把握しやすくなるだろう。

会場裏側に設置したホロラボのリモートシステム。遠隔地にいる医療関係者の視点をシミュレーションし、音声による相互コミュニケーションも実現する

そして、2017年11月14日にエアバスは、JAL及びJALエンジニアリングの協力によって、HoloLensを用いたA350 XWB向け訓練アプリケーションの試作品を開発したと発表した。「アプリケーションの実現には、航空機の3DデータとIT技術の進化に対応する人材」(海老名氏)という2つの課題があった。JAL及びJALエンジニアリングが独自に人材を抱えるのは現実的ではないため、今回はオブザーバーとしてエアバスの開発に参画し、エアバス本社はプロジェクトチームや社内トレーニング専門部署を設け、本アプリケーションの開発に取り組んでいる。

こちらのアプリケーションも体験する機会を得たが、コックピットや航空機のデータを持つ企業自身が開発しているため、その現実感は非常に高い。筆者はコックピットでエンジンを作動させるまでの手順トレースを10分ほど試してみたが、操作もしくは確認すべき計器やスイッチに視点を合わせるだけで操作でき、1年前のJAL製アプリケーションと比べて、ユーザー体験的も大きく向上しているように感じた。

エアバスによるA350 XWB向け訓練アプリケーションの試作品。今後改良を重ねつつ、実稼働を目指す

エアバスの発表会に参加していた日本マイクロソフト関係者は、「我々は技術支援を行う立場で、エアバスさんとJALさんによるビジネスソリューション」だと今回のアプリケーションを説明している。つまり、HoloLensは日本マイクロソフトが注力してきた市場開拓に成功し、MRの可能性に気付いた他企業同士が意思決定の迅速化や生産性能の改善など既存ビジネスソリューションを書き換えようとしているのが現在の状況だ。

IT技術で建設業界を牽引する存在を目指す小柳建設

さて、小柳建設は早期からMicrosoft及び日本マイクロソフトと連携しながら、建設業における計画・工事・検査の効率化と、アフターメンテナンスの履歴管理を可視化する「Holostruction」プロジェクトを続けてきた。現在の進捗として遠隔地からの建設情報の確認や、問題の共有などが現実化しつつある。このように建設業界の変革にチャレンジする小柳建設だが、同社代表取締役社長 小柳卓蔵氏に話を伺う機会を得たので、その内容をお届けしたい。

小柳建設 代表取締役社長 小柳卓蔵氏

--2017年4月からの現在までの進捗状況は

リモートコミュニケーションの実装です。事前の実証実験としてシアトル・日本間で同機能を検証しましたが、感動の一言に尽きます。アバターのデザインは(日本マイクロソフトに)お任せしましたが、相手が前かがみして首を動かすなど、さまざまな動きが再現されます。

また、音響効果も現実性を高める要素でした。例えば相手が左から話しかければ、(HoloLensのスピーカーを通じて)左方向から声が聞こえてきます。まるで相手が存在するかのような臨場感がありました。確かにコミュニケーション自体はSkypeのビデオ通話でも可能です。しかし、(HoloLensは)相手の顔こそ見えませんが、「直感的に五感で相手を認識できる」体験を得られます。

このリモートコミュニケーションを実装することで、遠隔地の作業員や関係者がアバターとして仮想空間に参加し、同じ物体を見ながらコミュニケーションを実現するアバターの視点や動作、物理的距離を超えて同じ空間を共有することを実現できたのは、(Holostructionをビジネスソリューション化する上で)もっとも大切なことでした。

--次に実装する機能は予定済みか

その点は私(日本マイクロソフト エンタープライズサービス部門 エンタープライズサービス営業統括本部 ソリューションスペシャリスト 鈴木保夫氏)からお答えします。2017年4月の時点でHolostructionの開発に必要な課題項目を列挙しており、日本マイクロソフトは継続的支援を行ってきました。現在取り組んでいるのは、橋梁などホログラフィックデータを建設現場に投入する際に必要な施工図をインポートする機能です。これにより、3Dモデルなど対象物の自由度が大きく高まります。

HoloLens体験コーナーでは、遠隔地にいる関係者と会話を交わしながら工程表の問題点を話し合うなど、リモート会議を経験できた

--Holostructionは現場で稼働しているのか

2017年9月から1件稼働させています。まだデータ入力を開始したところですが、鈴木さんのご説明にもあったように、どのような建設物でも、すべてホログラフィックに投影できる状態を目指しています。現状では今後1年に3~4現場で(Holostructionの利用に)チャレンジする予定です。

「Holostruction」のイメージ図。実際にHoloLensを装着すると、工程表を元に音声でコミュニケーションを取りながら、進捗状況を複数の参加者で確認し合うことが可能だった

--2Dの施工図を3D化する苦労は

大手建設企業などは施工図の3D CAD化に取り組んでいますが、地方の中小建設企業では未着手というのが現状です。その要因の1つは「難しそう」というイメージと、「3Dで書いて何の意味がある?」という意見が少なくなりません。年配の熟練技術者は頭の中で施工図から立体的なイメージを作り出すため、(3D CADの)必要性を感じていません。「2Dの図面を見て3D化できれば、ようやく一人前になった証し」と、建設業界に入る若者に対しても同じプロセスを提示するため、障壁となっています。ベトナムなど東南アジアでは、日本人が現地でBIMデザイナーを育てるという企業も出てきました。人材不足については海外からの流入に頼る部分も今後は出てくるかも知れません。

--HoloLens活用で他社の追従を感じるか

他の建設企業が我々にライバル心を持って頂かなければ、業界自体がデジタル変革を起こせません。新潟という地方の中堅中小企業である我々が、IT技術を活用した建設ソリューションを作り上げようとしています。だからこそ危機感ではなく、むしろ我々が「(IT技術+建設業界を)牽引する存在」を目指したいと考えています。

大手総合建設企業さんが取り組んだVR(仮想現実)ビューアーなどを目にしても、施工プロセスの部分的なところを切り出しているように見受けられます。さらに開発しているのがシステム部門と思われるため、現場の整合性や利便性を考慮していないものもありました。あくまでも推察の域を超えませんが、Goサインを出す上層部の方々が年配層でIT技術に理解がなく、食い違いや取り組みの遅延が発生しているように感じます。

ただ、我々がHolostructionに取り組めたのもタイミングによるところが大きいです。3年前に金融業界にいた自分が社長となりましたが、先端技術の重要性に気付ける若さと、チャレンジ精神を備えていたこと。そして鈴木さんを始めとする日本マイクロソフトさんとの出会いも重なって、始めて構築できました。価値に気付くのは年齢だけではありませんが、足の遅さが障壁となっているように見受けられます。

--Holostructionのロードマップは何合目

5合目に達していないか、という状態です。政府関係者にはHolostructionのデモンストレーションをご覧になって頂き、大変興味を持ってもらいましたが、いまだに建設業界全体は変化していません。皆がパラダイムシフトを起こして変革するタイミングを5合目と捉えています。この5合目は断崖絶壁と言えるほど厳しい部分ですが、垂直登攀(とうはん)で5合目を越え、業界関係者がHolostructionを使うようになれば、頂上に達したと初めて言えます。

--本日はありがとうございました。

阿久津良和(Cactus)

データビジネスの責任者「CDO」とは

Web担当者が経営層に参画する時代

「CDO」という言葉をご存じだろうか。「Chief Data Officer(チーフデータオフィサー)」の略称だが、日本語では"最高データ責任者"となる。Chief Development Officer(最高開発責任者)やChief Digital Officer(最高デジタル責任者)の略として用いられることもあるが、データオフィサーとデジタルオフィサーの明確な相違点として、前者は企業が得るべき情報を選択・保持し、どのような目的に利用するか決定する役割。後者はビジネス上の責任というよりも、格納データの処理に対するシステムの責任を負う。このあたりの定義はいまだ曖昧ながらも、ビッグデータを元に分析や発掘によって洞察を得るために、多くの企業が注目している。

PwCコンサルティングが、グローバルの大手上場企業(2015年までは上位1,500社。2016年からは2,500社。なお、2016年は7月1日まで)を対象に、CDO(ここではデジタルオフィサーと定義)の就任年を調査したところ、2012年就任は27名、2013年は47名、2014年は75名、2015年は145名、2016年は半年で138名と加速度的に増加している。日本に目を向けると三菱ケミカルホールディングスなど、CDOを設ける企業が少しずつ増え始め、同調査では88%の企業がデジタル化を推進していると回答(従業員500人以上2,056件回答)。CDOの波は確実に日本へ打ち寄せている。

ビジネス・フォーラム事務局が2017年7月14日に開催した「CDO(Chief Digital/Data Officer)フォーラム2017~デジタル変革に挑み、企業競争力に変える」に登壇したCDO Club CEOのDavid Mathison氏は、CDOについて「CDOを経てCEOになる人材が増えている。我々の調査によれば100人を超えた」と述べつつ、CDOという役割の重要性を強調した。CDO ClubのHall of Fameを見ると、MTV PresidentのSean Atkins氏(2015年)やBBC Global NewsのNED(非執行役員)を務めるJonathan Miller氏(2013年)など、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。一昔前はWebなど担当していたデジタル担当が経営層に参加する道筋は皆無だったが、現在ではこのようなキャリアパスが現実に存在するのである。

CDO Club CEO David Mathison氏

周辺環境から得たデータをビジネス活用へ

他方でデータの重要性に違う角度から迫るのは、日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者の榊原彰氏。2017年5月に同社が開催した開発者向けカンファレンス「de:code 2017」のセッションで、「現代のビジネスは『データコレクションゲーム』である。アンビエント(周囲)環境は無限のデータ収集環境であると同時に、フィードバック環境だ」と定義し、より実践的なデータビジネスについて言及した。昨今増えつつあるAIスマートスピーカーで実現する「音声インタフェース」が次世代の重要な鍵となると述べながら、各家庭から得られるデータエントリーはデータコレクションの入り口となるため、多くの企業が注目していると説明する。

日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者 榊原彰氏

一例として「コンピューターに利用者の生活行動を認識させることで、帰宅時間にエアコンの電源を入れて部屋を冷やすなど、行動を先回りすることが可能になる」(榊原氏)と説明。このソリューションを実現するには、データ収集と学習、そして利用者などからのフィードバックを元にしたライフサイクルが欠かせないという。その上で利用者の意図を先回りするパーソナルアシスタントシステムと共にデータ収集が可能になると述べていた。同セッションは開発者を対象にしているため、システム開発の現場に焦点を当てたものだが、榊原氏は開発(Development)と運用(Operations)を組み合わせた混成語を元にした造語「DataDevOps」を提唱。企業は明確なデータ戦略を明確にしないと収集した「データが宝の山とならない」(榊原氏)。IoTや自動運転車など溢れんばかりのデータを効率的に活用するビジョンと施策が必要になるのだろう。

日本におけるデジタル活用は世界最下位

前述のとおりデータ活用は分析や発掘によって得た洞察を、既存ビジネスの改善や新たなビジネスチャンスに活かすというものだが、その取り組みは「欧米諸国に比べると日本は導入が遅れている」と、日本テラデータ 執行役員 Think Big アナリティクス・ビジネス・コンサルティング・プラクティス 森英人氏は語る。同米国本社が日欧米など9カ国の経営層900名を対象に調査したところ、「98%の経営者がデータアナリティクスを将来的な成長の鍵と捉え、37%の経営者はデータ活用を全社的な戦略と位置付け、推進を目指している」。だが、自社のデータ管理やビッグデータ導入といった個別要素に対する回答になるの、日本企業は世界最下位。データウェアハウス活用は最下位から2番目という有様だ。

日本テラデータ 執行役員 Think Big アナリティクス・ビジネス・コンサルティング・プラクティス 森英人氏

日本テラデータはアナリティクスに焦点を当てた企業だが、森氏はとある事例としてクラウド活用した分析業務フローを次のように説明した。「従来と異なるのはデータサイエンティストが加わったことで、試行錯誤が容易になった」(森氏)という。下図は同社が示したスライドだが、「BS(ビジネスコンサルティスト)が仮説を元にDS(データサイエンティスト)に分析を依頼」「DSはプライベートクラウドで検証を行う」「BSへフィードバック」「BSが示す説明変数を変更して再度DSが検証」「確認を経てDE(データエンジニア)に開発を依頼」「検証を経て本番環境への展開を行う」という流れを説明している。とある企業ではKPI(重要業績評価指標)を90%以上の精度で改善したという。もちろん試行錯誤の結果として使えないケースも散見されるが、「ダメならすぐ捨てられる」(森氏)というクラウドが持つ柔軟性を活かすことがポイントだと述べていた。

データアナリストとクラウド活用で変化するビジネスコンサルティング

自社の強みとして日本テラデータは、「クラウドプラットフォームを保持していない」(森氏)点を強調する。森氏の説明によれば、多くのクラウドベンダーはビジネスにおいてコモディティ化しており、IBMならWatsonやBluemix、AWS(Amazon Web Services)ならRedshiftなど、自社クラウドを利用させるような紐付けを用意し、顧客をロックインしているという。だが、同社はオープンソースや自社製品であるEverywhereシリーズはどのクラウドでも構築できるため、ベンダーのロックオンを阻止できる自由度を供える。

各社を取材して共通しているのが、データ活用の重要性を強く強調している点だ。2011年に世界経済フォーラムがまとめたレポートでは「パーソナルデータは新しいオイル、21世紀の価値ある石油」と指摘したが、その予見どおり多くの企業がビッグデータの取得や、非構造データの格納先となるデータレイクの確保、そして分析を行う様になった。今、世界のデータビジネスは過渡期に突入しつつある。

阿久津良和(Cactus)