「ポルシェ」の記事

70周年のポルシェに変化の兆し? 時代に対応するスポーツカーメーカー

70周年のポルシェに変化の兆し? 時代に対応するスポーツカーメーカー

2018.06.04

1948年6月8日に、ドイツでポルシェというスポーツカーが誕生してから70周年を祝う記者会見が開かれた。その舞台に飾られていたのは「356」でも「911」でもなく、次期型「カイエン」であった。この舞台設定に、スポーツカーメーカーにおける時代の変化を感じた。

東京都渋谷区のTRUNK (HOTEL)で開催されたポルシェ70周年記念記者会見では、舞台に「カイエン」が飾られていた

スポーツカー以外の販売台数が増えるポルシェ

ポルシェの名を冠した最初のスポーツカーである「356」は、フェルディナント・ポルシェ博士の息子らが開発した。今日、ポルシェは「911」や「ボクスター」、「ケイマン」だけでなく、2002年に発売したSUVの「カイエン」や2009年の「パナメーラ」、そして2014年の「マカン」など、いわゆるスポーツカー以外の車種が大きく売り上げに貢献している。とはいえ、ひとつの節目となる70周年を代表する車種として、カイエンが主役となったことは何かを示唆するものといえた。

日本で発売が近いことが新型「カイエン」展示の理由だろうが、その光景は示唆に富んでいると感じた

スポーツカーやGTカーといえば、何より速さと走行性能の高さが売りであり、従来は消費される燃料のエネルギー効率が顧みられることはあまりなかった。少なくとも、それらを愛用する顧客が燃費を意識することはほぼなかったといえるだろう。

だが、世界は今、環境問題が全てにおいて優先され、衣食住の全てにおいて効率が高く、無駄を省いた生活の実現に向かっている。移動手段としては、クルマはもとより鉄道やバスにおいても省エネルギーであることが求められる時代だ。スポーツカーやGTカーも、この流れと無関係ではいられない。

スポーツカーも世の中の流れと無関係ではいられない(画像は「911 タルガ 4 GTS」)

クルマの技術挑戦の場としても捉えられるモータースポーツの世界においても、燃料使用量の規制が1990年代から始まっていた。F1やル・マン24時間レースでは、スタートからゴールまでに使える燃料が制限されてきた。あるいは、減速時のエネルギー回生やハイブリッド(HV)技術がレーシングカーの動力に組み込まれたのである。

ポルシェの電動化も待ったなし

ポルシェも、すでにプラグインハイブリッド(PHV)車の販売をカイエンやパナメーラで始めており、今日、例えばパナメーラのEU域内での販売は、60%(2018年第1四半期)がPHVであるという。

2015年には、「ミッションE」と呼ぶEVを開発中であることを表明していたポルシェ。このクルマは2019年に欧州で発売する。七五三木(しめぎ)敏幸ポルシェ ジャパン社長は今回の記者会見で、ミッションEを2020年の早い時期に日本市場に導入すると公式に明らかにした。

ポルシェは、中期戦略『ストラテジー2025』において、2025年に販売する新車の50%をEVまたはPHVとすると公約している。

もちろんスポーツカーメーカーである以上、速さや動力性能、走行性能の高さは第一の要件であるとはいえ、それを損なうことのない形での電動化が着実に進行している。またクルマだけでなく、生産を行う工場においてもポルシェは、自然エネルギーの導入を進め、社会的責任を持った事業化を推進中であると七五三木社長は付け加えた。

ポルシェ ジャパンの七五三木社長

世界最大の折り込み広告を展開

ポルシェ ジャパンとしては、70周年記者会見を行った5月から7月にかけて、「スポーツカー・トゥギャザー」の概念に基づき、様々な施策を講じていくと記者会見の中で執行役員の山崎香織マーケティング部長は語った。

まず朝日新聞に、ギネス登録されることになった世界最大の折り込み広告を展開した。その他にも、70周年記念の特別WEBサイトを立ち上げ、投稿写真によるモザイクアート「#ポルシェ70」を始める。また、スマートフォン向けとして、ドライブルートを画面で確認できる「ザ・ローズ・バイ・ポルシェジャパン」を展開する。これは自分がドライブした道のりを後で辿れるだけでなく、他の人が走った道も知ることができるアプリだ。

ポルシェ ジャパンが朝日新聞に展開した折り込み広告は、約3.55㎡の広告面面積でギネスから世界最大の認定を受けた。会見にはギネス世界記録公式認定員も駆けつけた

6月には正規販売店での催し、また富士スピードウェイでのパレードや展示・試乗会を実施し、神奈川県の箱根ターンパイクにおいては、ル・マン24時間レースを制覇したマシンをEV化した「919EV」による同乗走行などが行われる。7月にはグランピングの体験と試乗会を実施する。これらのイベントについて山崎マーケティング部長は、「ポルシェオーナーはもちろん、ポルシェに興味のある方々にもぜひ参加していただきたい」と熱く語っていた。

ポルシェ ジャパンの山崎マーケティング部長

そして、その7月には、記者会見当日の舞台を飾った新型「カイエン」が発売を迎えることになる。

日本に販売台数増加の余地あり

昨年ポルシェは、世界で24万6,000台余りを出荷した。これは、世界で販売される新車の0.3%であるという。日本の状況はというと、2017年の国内新車販売は軽自動車を含め523万台強であったのに対し、ポルシェは過去最大の販売台数を記録したとはいえ6,923台であった。この国内の状況に0.3%の市場占有率をあてはめてみると、1万5,000台規模を目指す必要がある。軽自動車分を除いた339万台の登録車市場においても、1万台が目標と試算できる。

「911」などのスポーツカー系だけでなく、「カイエン」「パナメーラ」「マカン」を含めたSUVあるいは乗用スポーツカーの車種をさらに強化し、台数を積み重ねていく上で、必ずしもスポーツカー志向ではない見込み客へ向け、ソーシャルメディアやイベント活動が強化されていく。それを示したのが、今回の70周年記者会見であったといえそうだ。

ポルシェらしからぬ静かな室内空間

社会的な要求性能である環境適合性とスポーツカーの醍醐味の両立、また中核の「911」などスポーツカー以外の車種での商品性強化の一面を探るため、最新の「パナメーラ ターボ S E ハイブリッド」(PHV)に先頃、試乗してきた。「ポルシェである以上、単なるエコカーではない運転の楽しさを味わってください」との言葉に送られ、ガレージを出発した。

「パナメーラ」のPHVに試乗してきた

搭載されるリチウムイオンバッテリーにあらかじめ充電がされていれば、通常の走行はモーター駆動のみで十分だ。エアコンディショナーの効いた室内は、モーター走行による静かで快適な空間に保たれ、このクルマがポルシェであることを忘れそうな感覚だった。高速道路へ向かい速度を上げていっても、電力が残されていればモーター走行は続く。このモーター走行が、イグニッションを入れた際の標準設定となる。

ハイブリッド走行に切り替わっても、走行感覚は決して猛々しくない。ドイツの高級乗用車に乗っている感触だ。そこから、アクセルペダルをやや深く踏み込んでスポーツカーの顔をのぞかせてみた。

ドイツの高級乗用車といった感触の「パナメーラ」。スポーツカーとしての顔も見てみたくなった

そうはいってもポルシェはポルシェ

パナメーラの上級車種として、550馬力のV型8気筒ガソリンターボエンジンと100kWのモーターを搭載することにより、最高速度が時速310キロという超高性能車であるから、装着されるタイヤは超偏平で接地幅が広い。ことに後輪用は、接地幅が32.5センチメートルもある。速度を上げていったとき、太いタイヤが路面に適切に密着し、直進安定性はもちろん、カーブにおいてもハンドル操作に対し的確な進路を定める抜群の安定性と安心をもたらした。

スピードを上げた時の安心感はポルシェそのもの

ドイツでは、速度無制限区間のあるアウトバーンで時速200キロ以上の速度を維持しながら、長距離移動をすることが日常的である。いくら高い速度が出せたとしても、そこに安定性に基づく安心が無ければ、とても長時間運転を続けることはできない。

ポルシェが、瞬間の速さを楽しむスポーツカーの魅力だけでなく、グランドツーリングカー(GT)として、高速での長距離移動を快適に提供するクルマであるという独自性を、このパナメーラPHVでも体感することができた。その上で、走行モードを切り替えると、その瞬間から勇ましい排気音を轟かせる演出も備えていた。

ポルシェでありながら、イグニッションを入れた際にエンジン音が響かないのは不思議な感じだったが、走行中にモードを切り替えると勇ましい排気音を聞かせてくれた

1年半後には、EVの「ミッションE」が日本にも導入される。それも、単なるEVスポーツではなく、ポルシェのEVであることを体感させてくれるだろう。そんな期待が高まった。

ロールス、ポルシェ、テスラに乗って考えたクルマの無個性化問題

ロールス、ポルシェ、テスラに乗って考えたクルマの無個性化問題

2018.03.21

日本自動車輸入組合(JAIA)の試乗会でロールス・ロイス「ファントム」、ポルシェ「911 タルガ 4 GTS」、テスラ「モデルX」の3台に乗る機会を得た。いずれも個性的なクルマだ。電動化や自動化など、自動車業界で急速に進む技術革新は、ともすれば各社が同じ方向に向かうものと捉えられがちで、クルマのコモディティー化を不安視する声も聞かれる。大変革の自動車業界にあっては、個性的なクルマであっても差別化が難しくなっていくのだろうか。

輸入車一気乗りでクルマの個性について考えた(画像はテスラ「モデルX」)

尖った個性を持つ3台のクルマに試乗

毎年2月初旬をめどに、JAIAは媒体やフリーランスのジャーナリスト向けに試乗会を開催している。JAIAとは、海外の自動車メーカーと直接日本への輸入契約を結ぶ輸入業者の団体で、その設立は1965年にさかのぼる。試乗会は今年で38回目となった。

今年のJAIA試乗会には、23ブランドから77台のクルマが集まった。輸入車は、それぞれに個性豊かであり、それがブランドとなって経営を牽引しているが、今後は電動化が進む情勢であることから、クルマのコモディディー化(差別化の難しさ)を心配する声も聞かれる。

今回のJAIA試乗会では、高級車の象徴といえる英ロールス・ロイスの「ファントム」、スポーツカーの代名詞の1つである独ポルシェの「911 タルガ 4 GTS」、電気自動車(EV)の寵児といえる米テスラのSUV「モデルX」に試乗し、電動化における個性やブランドの行方を模索した。

電動化するとクルマの個性はどうなるのか(画像はポルシェ「911 タルガ 4 GTS」)

英国流で作りこんだロールス・ロイス「ファントム」

現在は独BMWの傘下にあるロールス・ロイスだが、クルマづくりは英国中心で進めている。使われる要素部品の中にはBMWと共通のものもあるが、個性はあくまで英国流で作り込まれる。ロールス・ロイスの中でも、「ファントム」は最上級車種に位置づけられる。今回の試乗はドライバーが運転し、その後席にVIPのごとく座っての同乗試乗だった。

ロールス・ロイス「ファントム」はドライバーが運転。後席でVIP気分を味わった

「ファントム」は1906年に創業したロールス・ロイスの「シルバーゴースト」の後継車であり、シルバーゴースト同様、あたかもエンジンが回っていないかのように振動もなく、静粛性に優れた高級車を目指したクルマである。

ガソリンエンジンの自動車は、1886年にドイツのカール・ベンツによって発明されたが、当時のエンジンはまだ未成熟で、振動も排気音も大きかった。ロールス・ロイスは、そうしたエンジンを精密に組み上げることにより、上質な原動機へと発展させることを行った自動車メーカーである。

エンジン自動車誕生の前にEVがすでに世の中にはあり、米国のフォードを創業したヘンリー・フォードの夫人クララ・ブライアントも、静かで上品なEV愛好者の1人であった。このことからも、ロールス・ロイスはモーターのように静かでなめらかなエンジンを目指したのだろうと想像できる。

「ファントム」の後席では世界最高レベルともいわれる静粛性を感じられた

最新のファントムも、エンジンとしてはもっとも調和が良いとされるV型12気筒エンジンを搭載し、アルミニウム製の軽量な車体に十分な防振・防音を備えることにより、圧倒的な加速と、上質な乗り心地をもたらしている。国内の速度規制に従いゆったりと走りながら、後席に座っていても571馬力の圧倒的出力による底力を感じさせるゆとりを覚えさせた。もし、全力加速をしたなら、猛然たる速度をもたらすであろう潜在能力を伝えてくるクルマだった。

全力加速をすればV12エンジンが猛然たる力を発揮するはずだ

後席優先の室内は前席との距離が離れているにもかかわらず、前席に座るロールス・ロイス広報担当者との会話は普通の声でできるほど静粛性に優れていた。高級な本革座席の座り心地の豪華さに加え、最新のデジタル機能を生かしたオーディオビジュアルの提供や、程よく冷やされたシャンパンが収納された小型冷蔵庫を備える様子など、上流社会の一端に触れた気にさせてくれた。彼らにとっては、これが日常なのであろう。

日常もサーキットもこなすポルシェのクルマ

ポルシェの「911 タルガ 4 GTS」は、911シリーズの中でも自然吸気エンジンで高性能な位置づけの車種であり、水平対向6気筒エンジンは450馬力に達する。911の特徴としてエンジンは車体後部に搭載されるが、GTSの車名に付く「4」の数字は4輪駆動であることを示している。試乗車の変速機は7速の「PDK」で、これは2つのクラッチを交互に使うことで自動変速を可能にするシステムだ。最高速度は時速306キロに達し、発進から時速100キロまでの加速はたった3.7秒である。

屋根が開くのも特徴の「911 タルガ 4 GTS」

超高性能な「911 タルガ 4 GTS」ではあるが、日常的な運転では実に操作がしやすく、簡単にいえば乗用車と変わらない気軽さがある。昔からポルシェは、日々の足としても、サーキット走行も、両方をこなせるGTカーと価値づけられてきた。

今日でこそ、フェラーリなどのスポーツカーも運転しやすくなってきているが、ポルシェは昔から日常性を備えており、それはスポーツカーとGTカーの意味の違いによるところである。

ポルシェもフェラーリも日本ではスポーツカーと呼ばれるが、スポーツカーは運転を楽しむためのクルマであり、GTカーは「Grand Touring」(長距離移動)するためのクルマである。ただし、のんびりと旅をするだけでなく、高速で短時間に目的地を目指す高い性能を備えていることがGTカーの証だ。

長距離移動もこなせるのがGTカーの証だ

速度無制限区間のあるドイツでは、目的地に早く到着できるか、あるいは到着時間を正確に予測できるかが生活の基盤となっている。そのために最適なクルマがポルシェというわけだ。もちろん、メルセデス・ベンツもBMWも同様の価値を共有する。

リアエンジン・リアドライブの乗り味は唯一無二

ポルシェ911は1964年の誕生以来、車体の後にエンジンを搭載し、後輪で駆動することを基本に設計・開発されてきた。時代とともに高性能化しながら、速さと同時に安定して高速走行を維持できる操縦性も磨いてきた。そうした中で、今日のポルシェ911を運転してなお変わらない特色は、他のドイツ車のようにがっちりとした車体剛性ではなく、どこか力をいなすような柔軟性に富んだ運転感覚を伝えてくるところにある。

ポルシェを運転して感じるのは、力をいなすような柔軟性だ

それは、マシンを操作しているというより、馬を操っているような生き物同士の絆を覚えさせるのである。この部分は、他のスポーツカーと異なる。その訳は、何百馬力ものエンジンを車体後部に搭載し、基本的に後輪で駆動する独特な機構によるだろう。

ポルシェ911が誕生した50年以上も前の時代、アウトバーンにおいて時速200キロ以上で走行し続けるには、当時の貧弱なタイヤ性能をカバーしたり、空気抵抗を低減したりするため、車体の後部にエンジンを積むことでタイヤを強く接地させ、車体前側は流線形を描けるよう、薄い造形であることが必要であったはずだ。しかし、その配置は前後重量配分の悪さを生み出す。後部が重すぎるのだ。そのままエンジンを高性能化していけば、後輪に必要以上の負担がかかり、運転が難しくなる。

前方のボンネットはトランクになっている

それを穏やかに、運転しやすくするためには、硬すぎる車体剛性は不適当であり、余分な力をいなすしなやかさが求められる。それがポルシェ911ならではの乗り味になっているのである。この運転感覚を求めるなら、ポルシェでなければならない。

加速でエンジン車を凌駕するテスラ「モデルS」

テスラ「モデルX」は、2003年に創業したまだ歴史の浅いEV専門メーカーの3台目の商品である。1台目が2008年の「ロードスター」で2台目は4ドアセダンの「モデルS」、そしてSUVの「モデルX」となる。

テスラのSUV「モデルX」

初代「ロードスター」は、英国のロータス「エリーゼ」を基にEVへと改造した車種だが、「モデルS」以降は、テスラが独自に設計・開発したEV専用車となっている。

まだ歴史の浅いテスラとはいえ、トヨタやダイムラーとの提携や、自動車技術者の採用などにより、独自開発の「モデルS」や「モデルX」も品質の高いEVに仕上がっている。また、バッテリーもパナソニックとの提携により、高性能かつ安定した性能で高い信頼性を備えている。

高付加価値の4ドアセダン(モデルS)やSUV(モデルX)から発売をはじめ、今後は、より廉価で量販・普及の可能性をもつ「モデル3」が日本国内へも導入される予定となっている。

「ファルコンウィングドア」はインパクト抜群だ

高付加価値の車種から導入することにより、走行性能の高さも証明した。「モデルS」の最上級車種では、発進から時速100キロまでの加速がわずか2.7秒だ。これは今回試乗したポルシェ「911 タルガ 4 GTS」より速い。そして「モデルX」でも3.1秒と、猛然たる加速で速さを誇示してきたGTカーやスポーツカーに勝るとも劣らない加速を誇るのである。

こうなると、単に数値で示される速さがGTカーやスポーツカーの証とは言えなくなってくる。

モーター駆動の時代に求められる個性とは

また、静粛性や走行の滑らかさにおいては、そもそも排気音のような騒音を出さず、ピストンが上下するような振動もなく回転するモーターが、エンジンより優れているのは間違いない。となると、ロールス・ロイスがV型12気筒エンジンで目指した静粛性や滑らかさは、いったい何であったのか。単なるエンジンへの郷愁でしかないとさえ思えてくる。

すなわち、エンジン車であるがゆえに馬力という数値がものを言ったり、精緻な作り込みによる滑らかさや、防音などによる静粛性が個性となり得たりしたが、モーターで走るEVともなれば、数値比較が全く意味をなさなくなるのである。

モーター駆動が一般化した時、エンジンの作り込みで語られてきたクルマの個性は意味をなさなくなるかもしれない

数値比較や職人技ともいえる精緻な作り込みで商品性を最も訴えかけてきたのは、実は日本の自動車メーカーであった。象徴的なのが、技術の内製化を進めてきたことだ。個別の独創技術を生み出すことで差別化をはかる手法である。一方、欧米の自動車メーカーもある部分では数値や緻密さが独自性を作ってきたかもしれないが、多くのクルマは共通の部品メーカーからの同じ部品を使いながら、メルセデス・ベンツやBMWであるといった絶対的個性を生み出してきた。味わいの開発は、もともと欧米に利がある。

ロールス・ロイスからは、10年後までにはなんらかのEVが誕生するかもしれないし、誕生しないかもしれないということだが、「ファントム」のV型12気筒エンジンと同様にBMWと部品の共用を行えば、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)を作ることは可能だろう。ポルシェは「ミッションE」と呼ぶEVを間もなく発売に移す。ポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長インタビューでも、二酸化炭素(CO2)の排出規制によってやむを得ずEVを開発しているのではないとの答えであった。

ポルシェは「ミッションE」というEVを準備中だ(画像提供:ポルシェ ジャパン)

どういうクルマであれば“らしさ”、すなわち個性を発揮できるのか。そこが明快であれば、エンジンでもモーターでもかまわないという物づくりができない自動車メーカーは、電動化時代を迎えると淘汰されていくことになるだろう。その意味で、電動化によるコモディティー化は懸念材料だが、味わいを作れる自動車メーカーには問題ないはずだ。

さらには、テスラのように新規参入メーカーであっても、情報社会の日常性を取り入れ、先進の自動運転を積極的に生かし、なおかつ情報端末のアプリケーションのように新しい機能をダウンロードすることで常に最新の仕様にできたり、整備項目が減るEVならではの保守管理の仕方を取り入れたりするなど、顧客と向き合い、日々の生活感覚に密着した価値を提供できれば、EVでも個性を発揮できるはずだ。実際、テスラは歴史が浅くともEVメーカーとしてのブランドを確立している。

スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

2018.03.05

クルマの電動化はスポーツカーの世界にも及ぼうとしているが、ポルシェも例外ではない。それどころか、同社は巨額の投資を行い、電化を急いでいる側面もある。そこで気になるのは、“電動ポルシェ”がポルシェらしいのかどうかだ。その辺りを含め、ポルシェの電動化についてポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長に話を聞いた。

ポルシェは独特の乗り味を持つクルマだが、電動化するとポルシェらしさは減るのか、増えるのか(画像は「911 タルガ 4 GTS」)

スポーツカーに電化の波、ポルシェ「ミッションE」の衝撃

スポーツカーの世界では、すでにハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)で市販されている車種もある。例えばポルシェは、2010年にSUVの「カイエン S ハイブリッド」を、また同様のシステムで2011年には「パナメーラ S ハイブリッド」を発売している。BMWは電動車の新しいブランドである「i」を立ち上げ、2013年にPHVスポーツカーの「i8」を発売した。

イタリアのフェラーリは、「ラ フェラーリ」(LaFerrari)というHVを世界限定499台で2013年に発売。このクルマには、F1のレースカーで当時採用していたエネルギー回生システムを応用した機構を用いているといわれる。

中でも、スポーツカーメーカーであるポルシェが、クーペボディの4ドア電気自動車(EV)「ミッションE」(Mission E)を2015年に発表し、2019年にも発売を開始する予定であると宣言したのは、かなり衝撃的な出来事だったといえるだろう。

2015年のフランクフルトモーターショーで発表された「ミッションE」のコンセプトカー(画像提供:ポルシェ ジャパン)

電動ポルシェに乗ってみた感想は?

その試作車に同乗したという、ポルシェ ジャパンの七五三木社長は、「まぎれもなくポルシェだった」(以下、発言は七五三木社長)と感動的に語る。では、「まぎれもないポルシェ」とは、どういう意味なのだろうか。

「コンピュータで操縦特性を変えられたり、エンジン車以上に駆動輪の制御が緻密な感じがしたりしましたが、ポルシェの開発者たちは、(電動化は)自動運転のようにクルマが走りを制御するのではなく、あくまで運転者を助けるための技術だと言います。運転者はハンドルから手を離すことなく、走る、曲がる、止まるの動きを、EVでもエンジン車と同じように感じられなければならないと考え、開発しているようです。制御装置の凄さではなく、人馬一体感が根幹となるスポーツカーでなければならないとの定義が、ポルシェAG(ドイツ本社)の中にはあります」

話を聞いたポルシェ ジャパンの七五三木社長

「EV化をしても、これまでと全く変わらないのが理想でしょう。ミッションEが目指すのは、加減速を何度繰り返しても、バッテリーの充電残量が減ることによる性能低下を覚えさせないこととのリリースも発表しています」

2017年7月、フランス政府と英国政府は相次いで、2040年にはエンジン車の販売を禁止するとの声明を出した。それ以降、自動車業界は電動化へと大きく舵を切り始めた。だが、ポルシェも同じように慌てて電動化へ移行したのではなく、あくまで電動化してもポルシェはポルシェという、スポーツカーの乗り味を実現できるから取り組むのだと、七五三木社長は力強く答えた。

ポルシェの始まりは電気自動車だった

そもそも、ポルシェの創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマは、EVの「ローナーポルシェ」だった。19世紀末のエンジンは未熟で、電動のモーターの方が動力として有望であった。

フェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマであるEVの「ローナーポルシェ」(画像提供:ポルシェ ジャパン)

ポルシェの電動化を支えるのが、ポルシェAGが発表した60億ユーロ(約8,000億円)を超える「E-モビリティ」(電動化車両などのこと)への投資だ。七五三木社長は次のように語る。

「主力工場のあるツッフェンハウゼンでは、それまで駐車場に使っていた土地にミッションEを作る工場を建てました。また、ドイツの雑誌には、2023~2024年の間に、50%を超える電動車比率にするとルッツ・メシュケCFOが語った記事が掲載されました」

「ミッションE」(画像はコンセプトカー)の試作車がすでに誕生している(画像提供:ポルシェ ジャパン)

「2015年のミッションEの公表に始まり、2017年には具体的な電動化車両の数値をCFOが語り、そのため60億ユーロを超える大きな投資を行うという、電動化へ向けた3つの大事な発表をポルシェAGは行っています」

あわせてポルシェAGは、同じフォルクスワーゲン(VW)グループのアウディと、EVのプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)の開発を共同で行うと発表している。これにより、開発速度を早めることができ、各社の投資額も抑制することが可能だとする内容だ。ただし、この点について七五三木社長は、現在コメントできる内容はないとした。

日本でも増え始めた「パナメーラ」のPHV

では、ポルシェの電動化の動きは、日本市場にどのような影響や、状況を生み出すのだろうか。

カイエンやパナメーラではPHVの販売が日本でも開始されているが、パナメーラの例でいえば、「2015年に販売の15%であったPHV比率が、新型パナメーラでは25%に増えています。そのような市場の変化の中で私が驚いたのは、『ポルシェカップ』というポルシェのワンメイクレースに出場していた方が、パナメーラのPHVをお求めになり、大変満足していらっしゃることです」と七五三木社長は語る。

「パナメーラ ターボ S E ハイブリッド」(画像提供:ポルシェ ジャパン)

ちなみにフランス市場では、2016年にパナメーラのPHV比率が10%ほどであり、ディーゼルエンジン比率がガソリンよりも高かった状況であったのが、翌2017年にはPHV比率が一気に65%まで高まったという。逆に、ディーゼルエンジン比率が激減し、エンジン車ではガソリンが上回る結果になっているとのことだ。

フランスは、全般的にディーゼル車の比率がもともと高かった。だが、昨年のフランス政府の発表より前の2014年に、パリのアンヌ・イダルゴ市長が、パリ市内へのディーゼル車乗り入れ禁止を打ち出した影響もあるだろう。

日本の充電インフラ整備にも目を向けるポルシェ

ミッションEの日本導入は、東京オリンピックの2020年前後あたりか、しばらく先となるようだ。導入までには電動車の受け入れ態勢を整えたいと七五三木社長は語る。

「テスラの例を耳にしたのですが、お客様の4割ほどは自宅に充電設備を持っていないとのことです。したがって、充電インフラの整備が重要であると思っています。ただし、それを1社でやるのは大変ですから、フォルクスワーゲングループとして充実させていければと考えています」

具体的には、ディーラーやサービス拠点に充電器の設置を進めるという。

日本で電動車の受け入れ態勢を整えたいと語った七五三木社長

充電設備の設置に日本独特の課題も

日本は、高級車や高性能スポーツカーを所有する富裕層も、マンションなど集合住宅に住む例が都市部では多く、一方で、既存の集合住宅の駐車場への充電設備の設置は、管理組合の合意を得なければ難しい状況にある。また、充電設備を利用した人に対する料金の徴収に認証機能などが必要となるため、急速ではない200Vの普通充電においても、高額の充電器を設置する必要がある。

戸建て住宅であれば、数千円の200Vコンセントに加え、配電盤からの配線工事であれば数万円から10万円程度で充電設備を設置できる。ところが、集合住宅では設置する上で課題があり、EV所有者が自宅に充電設備を設置できない比率が高い。

この状況を打破するため東京都は、集合住宅への充電器設置の費用と、管理組合などでの合意形成の支援を都として行うと、2018年の初めに表明した。

「まぎれもないポルシェ」の乗り味を提供できるか

ポルシェの電動車導入の件でもう1つ、七五三木社長は「できるだけ早くEVを導入し、お客様に体験していただくことも大切だと考えています」と話す。

日本ではなお、EVは走行距離が心配だとか、走りがよくないのではないかといった先入観を持つ人が多い。なおかつ、多くの人がモーターの走りを経験していないため、電動化したポルシェが、どのようなポルシェらしさを発揮しうるのか、想像できないというのが正直なところだろう。

「911 タルガ 4 GTS」(画像左)をオープントップにして走ると顕著に感じられるのだが、ポルシェはエンジン音にも独特の魅力がある。走りの静けさを特徴とするEVの「ミッションE」(画像右、提供:ポルシェ ジャパン)で、音はどうするのか。七五三木社長に聞いてみると「秘密」とのことだったので、何か工夫があるのかもしれない

ちなみに、600馬力のモーター出力を持つミッションEは、静止状態から時速100キロまでの加速をわずか3.5秒でやってのけると公表されているが、実はテスラの4ドアセダンである「モデルS」は同2.7秒だ。単に数値を比較するだけなら、スポーツカーより4ドアセダンの方が速いということがEVでは起こりうる。

記事の冒頭で七五三木社長が「まぎれもなくポルシェだった」と感想を述べたような乗り味を実体験することは、EVにとって何より重要であり、また何よりポルシェファンも安心するに違いない。

PHVの導入においても、環境性能を無視するわけではないものの、ポルシェはあくまで、パフォーマンスに重点を置いている。新型パナメーラのPHVは、最上級車種として位置づけられているくらいだ。つまりポルシェは、電気の力をクルマの走りに活用している。まずはポルシェの最新PHVが、どのようなポルシェらしさを携えているのかが気になるところだが、いずれ報告できる機会があるかもしれない。