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EVを巡る覇権争いに異変? 全固体電池で日本の自動車大手らが結集

EVを巡る覇権争いに異変? 全固体電池で日本の自動車大手らが結集

2018.06.20

全固体リチウムイオン電池(全固体LIB)でトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、パナソニックが手を組んだ。電気自動車(EV)普及の鍵を握る電池の領域では、各メーカーが独自の研究・開発を進めていて、密かな先手争いが熾烈を極めているものと思いきや、ライバルと目されていた3社が“日本連合”のような座組みで結集した格好だ。その理由とは。

各社が語った一枚岩になる意義

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクト第2期」の概要を発表した。

第1期(2013~2017年度)は全固体LIBを実現するための材料開発とその評価が中心だったが、この第2期(2018~2022年度)では一歩進んで、実用化を前提とした大型・大容量の全固体LIBを用いて、EVへの搭載の可否や量産技術への適合性を含めて評価し、その世界標準化を目指すとしている。

このため、参加する企業や団体が大幅に増えた。自動車・蓄電池・材料の各メーカー23社と大学・公的研究機関15法人が連携・協調し、全固体LIBの実現に向けた課題解決に乗り出したのである。実現へ向けた道筋として、2020年代の後半には第1世代の全固体LIBが主流となり、2030年代の前半から第2世代の全固体LIBへ移行するとの想定を示した。

プロジェクトの成果は、参加企業が「製品開発・ビジネスの加速に活用」できるとしている

第2期発足の発表会には、自動車メーカーや電機メーカーからも担当者が駆けつけた。トヨタ自動車 電池材料技術・研究部の射場英紀担当部長は、「長年、トヨタは全固体電池に取り組んでいるが、課題は山積している。こうした形で一枚岩となって開発に取り組めるのは心強く、ぜひとも実用化したい」と意気込みを述べた。

日産自動車 総合研究所研究企画部の森春仁部長は、「産官学での取り組みによって可能性が広がるので、安く、大量に、安定して製造するため、日本の英知を結集したい」と挨拶。本田技術研究所 常務執行役員(パワートレーン担当)の相田圭一氏は、「プラグインハイブリッド(PHV)やEVを拡大していく鍵は蓄電池であり、全固体LIBの潜在能力に期待している。ホンダでも独自の開発はしているが、オールジャパンで取り組むことにより、量産へ向け前進できるだろう」と語った。

電動車拡大の鍵を握るのが蓄電池だ

パナソニック テクノロジーイノベーション本部 資源・エネルギー研究所の藤井映志所長は「海外メーカーに負けられないので、産官学のオールジャパンでの取り組みに期待するとともに、製造プロセスの面で研究・開発を牽引し、実用化につながるよう取り組みたい」と協力領域を明確にしながら抱負を述べた。

リチウムイオン電池で先行する中国の存在

各社のこうした熱意の背景にあるのは、既存のリチウムイオン電池の量産で先行する、中国などの海外勢に対する危機感であると語るのは、プロジェクトリーダーを務めるNEDO 次世代電池・水素部 統括研究員兼蓄電池開発室長の細井敬氏だ。その上で、「全固体LIBが将来的にコモディティ化する前に、日本から実用化することで、新技術で世界をリードし、差別化した技術によりうまみのあるビジネスを展開したい。そのためのプロジェクトだ」と思惑を語るのであった。

では、国の機関であるNEDOと、日本の産業を牽引する大手メーカーが期待を寄せる全固体リウムイオン電池には、どのような利点があるのか。

EVの魅力向上につながる全固体LIBの特性

リチウムイオン電池は、これまでの他の電池(鉛酸やニッケル水素)と異なり、電極材料が化学変化することで電気を生むのではなく、正負極間をリチウムイオンが移動することにより電気を生むところを特徴とする。化学反応を伴わないため劣化が少ない。したがって、充放電を何度も繰り返すことができるという利点がある。また、1セル(正負極を持つ電池の最小単位)あたりの電圧が高いため、そもそもの容量を大きくできる潜在能力も備えている。

一方で、過充電をすると電極の結晶が壊れ、短絡(ショート)して発熱や発火を生じる場合があり、ことに携帯用モバイル機器やノート型パソコンなどで過去に事故が起きている。

現状のリチウムイオン電池は、イオンの移動を促す電解質がジェル状であるため、そのような事故につながる可能性が高くなっている。その点、全固体LIBになれば電解質が固体となるので、事故を起こしにくくしたり、容量をさらに高めたり、充放電が短時間で可能だったりといった数々の利点がある。

全固体LIBは電解質が固体であるため、リチウムイオン電池に比べ事故が起こりにくい、容量が大きい、短時間での充放電が可能といった利点がある

それらの利点により、車両への積載性が高まったり、大型トラック/バスなどへも重量増を抑えながら適用できたり、充放電時間を大幅に短くすることで長距離移動を楽にできたりといった、EVとしての魅力向上にもつながることが期待されている。

どこまで協力するかも問題に

では、全固体LIBの課題とは何か。たくさんあるが、そもそも電極材料に何が適しているのか、その電極は量産可能な組成であるのか、量産に際しての製造技術は既存のリチウムイオン電池と別のやり方が必要になるのかなどは、根本的に解決しなければならない宿題だ。そこで産官学が集まり、オールジャパンの英知で基礎部分の課題解決に乗り出したというのが、今回のプロジェクトである。

全固体LIBを量産できればいいことばかりのようだが……

とはいえ、共同開発しながら得た知見と、これまで各社が開発してきた独自の知見とは、どこまでを共有・公開するのかといった課題もある。自動車メーカーは互いに競合関係にあるのだから当然だ。

この点についてトヨタの射場部長は、「トヨタではオープンイノベーションと言っており、必要な特許は公開していきたい」と述べた。同時に、「全固体LIBと言っても一種類ではなく、その中の共通部分をこのプロジェクトで取り組む」との含みも持たせた。

すなわち、根本的な部分でまだ解決すべき課題が残されているということだ。その道のりは遠そうだ。

資源問題への対応は待ったなし

全固体LIBは純粋な技術開発として挑戦しがいのある対象であり、本来は競合関係にある私企業が一致団結し、また大学や研究機関とも協力して、国のプロジェクトとして技術立国・日本の雌雄を決する取り組みで力を合わせるのは歓迎すべきことだと感じた。

一方で、現行のリチウムイオンバッテリーメーカーOBの言葉として、「ポストリチウムイオンはリチウムイオンだ。現状のリチウムイオンを舐め尽くすべき」との声もある。

また、現行のリチウムイオン電池と全固体LIBでは、リチウムを含む電極材料などは基本的に同じものを使うため、今回のプロジェクトで資源問題を解決できるわけではないとNEDOの細井氏は述べている。

したがって、全固体LIBが実用化したとしても、そのリユースやリサイクルなどは不可欠となる。このプロジェクトにおいても、3R(リデュース、リユース、リサイクル)への対応を視野に入れた低炭素社会のシナリオデザインを行うとしている。

このプロジェクトでは低炭素社会のシナリオデザインも行うとする

とはいえ、日産がEV「リーフ」の発売前に設立したフォーアールエナジーによって、この春にようやく中古電池のリユースを始めたことからも分かるように、EVとして使い終わったリチウムイオン電池を有効活用するには、その準備に長い年月を必要とする。先ごろ、トヨタとセブンイレブンが発表した、ハイブリッド車(HV)の中古ニッケル水素電池を用いた定置型蓄電池の実証においても、まだ日産のような1セルごとのレベリング技術は確立されていない。フォーアールエナジーの社長インタビューにもあるように、その点にはトヨタも、また全固体LIBを扱う各社もこれから苦労するだろう。

EVの市場投入で先行した日産も、使用済みバッテリーをリユースする仕組みづくりには苦労した(画像は充電中の日産「リーフ」)

大局観なしではガラパゴス化の危険も?

今回のプロジェクトで懸念されるのは、研究・開発そのもの以上に、2030年における社会や交通の在り方に対するグランドデザインがまったく語られず、現行のEVやリチウムイオンバッテリーに比べ、全固体LIBの性能がいかに高いかという点に終始したことだ。それでは、技術ができても社会に適応した交通政策と合致するかどうかは分からない。

それに対し、例えばドイツのアウディは、2030年に都市部に住む人の割合が世界人口の60%を超えるとする国際連合の推計を基に、どのような住環境が生まれ、そこに適合する交通手段はどのような姿であり、そこへ個人的な移動の自由を約束するEVがどう関わっていけるかといった視点で物事を語っている。単に技術的な優位性があるか無いかではなく、生活に役立つ技術とは何かを問うているのだ。

そこに先進技術が組み合わさることではじめて、日本が世界をリードすることができるのではないだろうか。技術だけが先行しても、現実の暮らしに根差した事業を進める諸外国の後塵を拝するのではないか。“ガラケー”ではないが、島国の閉鎖された中で、他国がやっていないから勝てるのではないかといったような、視野の狭い取り組みにならないことを期待したい。

電化する中国市場に挑むトヨタ・日産・ホンダ、打ち手は三者三様

電化する中国市場に挑むトヨタ・日産・ホンダ、打ち手は三者三様

2018.05.03

今や世界最大の自動車市場となった中国で、近く始まる「NEV規制」。電気自動車(EV)など新エネルギー車の販売を義務付ける政策だが、トヨタ自動車、日産自動車、ホンダの日本勢はどう対応するのか。前哨戦の北京モーターショーで各社は三者三様の戦略を披露した。

トヨタが北京モーターショーで発表した「カローラPHV」(画像提供:トヨタ自動車)

北京モーターショーで見えた日本勢の違い

日本ではゴールデンウィークだが、今や世界最大の自動車市場となった中国の首都・北京ではモーターショーの真っ最中だ。4月25日から5月4日までの期間中、自動車各社はEVなどの新エネルギー車(NEV:New Energy Vehicle)を巡って熱い戦いを繰り広げる。

トヨタ、日産、ホンダを中心とする日本勢も、プラグインハイブリッド車(PHV)やEVなど、電動の新型車に力を入れ、中国で先行して新商品や技術を投入する方向を前面に打ち出している。だが、北京モーターショーで公開されたトヨタ、日産、ホンダの電動車戦略は、それぞれ微妙な違いを見せた。

トヨタはPHVから、日産とホンダは?

トヨタは、中国では初となるPHVのセダン「カローラ」と小型車「レビン」の2車種を公開した。トヨタ初の海外生産PHVであり、中国の合弁先である一汽豊田汽車有限公司と広汽豊田有限公司で現地生産し、2019年から生産を始めて中国市場に投入する。

日産は日本で発売した新型「リーフ」とともに、「シルフィ ゼロ・エミッション」として新型EVを初公開した。このクルマは中国専用車両として2018年後半に市場投入する。Cセグメントセダンの「シルフィ」は中国で人気のモデルであり、2017年には約42万台を販売し、フォルクスワーゲン(VW)のセダン「ラヴィダ」に次ぐ第2位の販売となった。日産は人気車種をEV化して中国で攻勢をかける。

日産が北京モーターショーで発表した「シルフィ ゼロ・エミッション」(画像提供:日産自動車)

ホンダは「理念EVコンセプト」を初公開した。本田技研科技(中国)有限公司とホンダの合弁先である広汽本田汽車有限公司(広汽ホンダ)の共同開発で、中国市場専用車として初の量産EVとなる。ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」をベースとし、広汽ホンダの自主ブランドである「理念」のモデルとして2018年内に投入する。

ホンダが北京モーターショーで発表した「理念EVコンセプト」(画像提供:本田技研工業)

実用面で有利なPHVからEVへという戦略をとるトヨタに対し、一気にEV化を進める日産とホンダ。ただし、日産はCセグメントセダン、ホンダは需要が高まるSUVと車種が異なる。このようにトヨタ、日産、ホンダは、中国での電動化戦略を三者三様で進めていく動きを見せる。各社が中国で電動化に注力するのは、同国政府が2019年から導入する「NEV(新エネルギー車)規制」への対応が求められているからだ。

NEV規制とは何か

中国政府は2019年から、PHV、EV、燃料電池自動車(FCV)を一定比率生産・販売することをメーカーに義務付ける「NEV規制」を導入する。これに対応できないメーカーは、対応済みの競合メーカーの余剰分を「クレジット」として買い入れないと、ガソリン車の生産にも制限を受けることになる。

中国のNEVには、日本で人気のハイブリッド車(HV)が含まれないことから、日本車メーカーにとって中国でのNEV規制対応が急務となっている。中国市場は今や3,000万台に迫る圧倒的な世界最大市場。加えて、2017年に売れた計142万台のEVおよびPHVのうち、中国は5割強を占めてNEV市場でも先行している。

NEVにハイブリッド車は含まれない(画像はトヨタ「プリウス」)

中国政府は2019年からのNEV規制実施に加えて、自動車産業の外資規制を撤廃する方針も打ち出した。これは従来、中国で自動車メーカーを設立する場合、外資に対して出資上限を50%以下に定めていたものを、2022年までに全廃するものだ。まずは2018年中にNEV分野に関する制限を撤廃する。

この決定の背景には、国を挙げたEV振興策により、中国メーカーが世界を主導するEV強国としての地歩を固めようという狙いがありそうだ。

欧州勢も中国市場攻略に躍起

一方で、この世界最大市場で存在感を高めたい日・米・欧・韓の自動車各社は、NEV規制対応による販売拡大に意欲を示す。中国市場における日本勢の販売台数は日産、ホンダ、トヨタの順だが、その差は拮抗。2017年の中国市場で各社の勢力図を確認すると、首位はVW、2位がGMで、これを追う中国現地メーカーに日産、ホンダ、トヨタも混ざる構図となっている。

中国市場における電動車の販売台数は増えていく見通しで、2025年には2017年の10倍に近い700万台市場に成長するとの予測もある。この商機を求めて、日本車大手、海外大手、中国勢にEVベンチャーが加わった先手争いが激化しているのだ。

EVシフトで先行する欧州メーカーも、中国での生産・開発を強化している。中国でトップのVWは、2021年までに中国の6工場でEVなど電動車の生産を始める予定。同国では2022年までに、電動化やコネクテッド技術などに対する150億ユーロ(約2兆円)の投資を実施する方針も発表している。BMWはEVやPHVの「iシリーズ」からSUVの「iX3」を初公開し、2020年に中国で世界に先行して投入する計画だ。

BMWは「X3」(画像)をベースとするEV「iX3」を発表

中国・吉利集団の傘下企業となったスウェーデンのボルボも、2025年までに販売台数の半分をEVにすると発表している。モーターショーに「モデル3」を出展したテスラも、外資規制撤廃の波に乗って中国でのEV生産を実現する意向を強めているようだ。

日産にとって中国は米国以上の収益源に?

トヨタは北京モーターショーで「カローラ」と「レビン」のPHV2車種を公開し、2019年から現地生産で発売することを明らかにしたが、これとともに、自社開発のEVを中国で生産して2020年に発売する戦略を明示した。2020年までにPHVやEVなど、新たに電動車10車種を追加し、電動車の中核部品の現地生産も進めるとの考えも打ち出している。

「レビンPHV」(画像提供:トヨタ自動車)

トヨタとしては、中国のNEV規制に対し、まずはPHVを先行投入してEVにつなげていく戦略であり、トヨタEV戦略としてもグローバルで中国から先駆けていくことになる。

日産は、新しい中期経営計画「日産M.O.V.E to 2022」でも電動駆動車の拡充を大きなテーマとし、2022年までに新たに8車種のEVを市場投入する計画を打ち出していた。その第1弾として「シルフィ ゼロ・エミッション」を中国で2018年後半にも投入する。

「シルフィ ゼロ・エミッション」(画像提供:日産自動車)

日産の中国合弁先の東風汽車有限公司は、EV中心の電動車攻勢で2022年の中国総販売台数を2017年実績比7割増の260万台に引き上げる計画を打ち出している。日産としてはグローバル戦略で中国を米国以上の最大収益源としてとらえ、高級車ブランド「インフィニティ」も2025年までに全てを電動車に切り替える計画など、EV転換をいち早く打ち出していくことになる。

兄弟車戦略でコストダウンを図るホンダ

かつては「北米一本足打法」といわれたホンダも、最近では中国を最重点市場へと転換する姿勢が著しい。北京モーターショーでの「理念EVコンセプト」は、ホンダと現地合弁の共同開発によるSUV「ヴェゼル」をベースとし、広汽ホンダの自主ブランド「理念」のモデルとして年内に投入する。

「理念EVコンセプト」(画像提供:本田技研工業)

ホンダの八郷隆弘社長と倉石誠司副社長は、共に中国へ赴任していたこともあり、中国に精通する。同社が中国で採用する「兄弟車戦略」は、現地合弁の東風本田汽車と広汽本田汽車において、1つの車台を用いながら内外装を変えてクルマを作り、異なる顧客層に訴求する手法だ。これがコストダウンにつながる。また、中国のカーシェアリング企業「リーチスター」への出資を通じ、シェアEVとしての可能性も探るなど独自のEV戦略を展開する。

いずれにせよ、世界最大の自動車市場である中国でNEV規制が動き出すからには、自動車メーカー各社としては対応せざるを得ないのが現状だ。日本の大手3社が打ち出した微妙に色合いの異なる戦略からは、各社の思惑を感じ取ることができる。

「Z900RS」だけが原因? レトロデザインのバイクが増えている理由

「Z900RS」だけが原因? レトロデザインのバイクが増えている理由

2018.04.28

1960~70年代のデザインを今に蘇らせたような姿のバイクが、新型車として登場することが目立ってきた。なぜこうしたバイクが増えてきたのだろうか。この傾向はすべてのクラスについて言えることなのか。販売台数やユーザー層のデータを見ながら考えた。

なぜレトロなデザインのバイクが増えているのだろうか(画像はカワサキ「Z900RS CAFE」)

ガラリと変わった小型二輪の販売状況

全日本軽自動車協会連合会(全軽自協)が発表している二輪車の月別販売台数で、去年の暮れから数字が激変している。

我が国の二輪車は、50cc以下が原付一種、51~125ccが原付二種、126~250ccが軽二輪、251cc以上が小型二輪に分かれており、運転免許は原付一種が原付、原付二種は普通二輪小型限定、126~400ccが普通二輪、401cc以上が大型二輪になっている。微妙な違いがあるのは、免許は道路交通法、登録は道路運送車両法と異なる法律でルールが決まっているためだ。

前述の全軽自協が統計を取っているのは、このうち軽二輪と小型二輪だ。後者で昨年12月以降、状況がガラッと変わった。日本には本田技研工業(ホンダ)、ヤマハ発動機、スズキ、川崎重工業(カワサキ)の4メーカーがあり、このクラスではホンダが1位になることが多い。ところが昨年12月以降は、カワサキがトップをキープしている。

カワサキの人気上昇を牽引する「Z900RS」

最も驚くのは前年同月比の数字で、昨年12月以降、カワサキの伸び率は軒並み200%を超えている。つまり、昨年の倍以上を売っているのだ。おかげで2017年度は、小型二輪全体でもこの5年間で最高の販売台数を記録した。伸び率のトップはもちろんカワサキで136%をマークした。

なぜここまで変わったのか。かつての名車「Z1」を彷彿とさせるカワサキ「Z900RS」が昨年の東京モーターショーで発表された効果だろう。

「Z900RS」の登場でカワサキの状況は変わった

カワサキは1989年にも「Z1」を彷彿とさせるスタイリングの「ゼファー」シリーズ、5年後には“ローソンレプリカ”の愛称を持つ「Z1000R」のイメージを継承した「ZRX」シリーズを登場させ、1998年には60~70年代の名車「W」シリーズの復刻版と言える「W650」を発表するなど、往年の名車のエッセンスを今に蘇らせた車種を送り出しヒットにつなげてきた。でも、「Z900RS」ほどの人気ではなかったという記憶がある。

懐かしさだけではない「Z900RS」人気の理由

なぜ「Z900RS」の人気がここまで高まっているのか。理由を自分なりに考えれば、アドベンチャーツアラーの記事でも書いたように、まず背景として、大型バイクのライダーは高齢化し、マシン選びはスピードよりも乗りやすさ重視に変わりつつある。そんな中、彼らが若い頃に憧れたマシンに乗りたいと考えたとしても、近年「Z1」の中古車価格は高騰しており、程度の良い個体だと200万円以上の値がつく状況にある。そこに登場した「Z900RS」にライダー達が注目したのではないだろうか。

しかも「Z900RS」、見た目は懐かしさを感じるけれど中身は最新だ。エンジンは「Z1」や「ゼファー」のような空冷ではなく、モダンなロードスポーツ「Z900」と基本的には共通の水冷並列4気筒を搭載する。電子制御による安全装備も、ABSとトラクションコントロールを備えており平均以上と言ってよい。旧車のような不安感はなく、逆に安心感を抱かせる内容だ。

見た目はレトロでも「Z900RS」の中身は最新だ

もうひとつ、レトロなデザインの新型車が登場しているのは外国車が作った流れでもあり、ベテランライダーたちが気になっていたところにカワサキから「Z900RS」が登場し、決断に至ったというケースもありそうだ。

欧米のレトロデザインバイクも選択肢が充実

バイク人気について書いた記事の中で、二輪車の世界は日本メーカーが主役であり、欧米のブランドは昔から使っているエンジン型式を核とした、味で勝負する車種が中心になっていると書いた。

米国のハーレーダビッドソンはその代表だろう。懐かしさを感じるデザインに、大排気量のV型2気筒エンジンを組み合わせ、ゆっくり走っても満足できる車種が中心となっている。

ハーレーダビッドソンの「ロードキングスペシャル」

英国のトライアンフも、モダンな車種と並行して、1959年にデビューした空冷並列2気筒「ボンネビル」の復刻版を2001年に発表。水冷化された近年はモダンクラシックシリーズとしてバリエーションを増やしている。

トライアンフのモダンクラシックシリーズ

さらに2013年には、ドイツのBMWが1970年代の高性能車「R90S」に範を取った「R nineT(ナインティ)」シリーズを登場させた。イタリアのドゥカティも、1960年代に米国で人気を博したオフロードも走行可能なスタイルを、2015年に昔と同じ「スクランブラー」の名前で復活させた。

左がBMW「R nineT」、右がドゥカティ「スクランブラー」

アドベンチャーツアラーについて書いた記事では、ライダーの高齢化が日本だけでなく欧州でも進んでいることにも触れた。昔から変わらぬスタイルを貫いているハーレーやトライアンフはともかく、近年、BMWやドゥカティがレトロデザインのモデルを送り出したのは、現地の事情も関係しているだろう。

様相を異にする軽二輪カテゴリー

しかし、このレトロデザインブーム、カテゴリー別では小型二輪に限った現象だと思っている。同じバイクでも軽二輪のカテゴリーは、やはり前年度比で販売台数を伸ばしているものの、レトロデザインはほとんどないからだ。

メーカー別に前年度比の販売台数を見ると、ホンダの149%、スズキの169%が目立つ。スズキは150ccの「ジクサー」など、安価な車種をいくつか送り出したことが効いているようだ。一方のホンダは、クラストップの38psエンジンを積み、価格も75.6万円と飛び抜けた「CBR250RR」が注目されている。

スズキの「ジクサー」

ホンダによれば、この「CBR250RR」の購入者の約半数は、驚くことに20~30歳代だという。ライバルのヤマハ「YZF25R」も若いライダーが多いそうだ。

ユーザー別の商品開発が可能な小型二輪と軽二輪

日本自動車工業会が4月に公表した2017年度二輪車市場動向調査によると、原付を含めたバイクの購入理由として多く挙がったのは、「身軽に動ける」「移動の時間が短縮できる」「自転車より楽」「燃費が良い」などだった。

昔はバイクに乗りたい理由として、スピードや爽快感という理由が多かったという記憶があるけれど、現在は機動的かつ経済的という、自転車に近い理由で選ぶ人が多くなったということになる。

ホンダの「CBR250RR」

いずれにしても軽二輪と小型二輪とでは、ユーザー層が異なるようだ。ただ、車検がないなど維持費が安い軽二輪が若者向け、輸入車の選択肢も多い小型二輪がベテラン向けというのは理にかなっていると思うし、ユーザーの好みに特化したものづくりができるので好ましいのではないかという気もする。

警察庁は最近、原付二種AT車の教習所での技能教習を最短3日間から2日間に短縮する検討を進めるとともに、二輪車用駐車場の整備を働きかけ、道路状況によっては駐車禁止規制を緩和していくとの姿勢を示している。今までがバイクに対して厳しすぎた反動とも取れるけれど、これらも若者をバイクの世界に呼び込むきっかけになりそうだ。