「ベンチャー」の記事

Airbnbが今、「体験」サービスに注力するワケ

Airbnbが今、「体験」サービスに注力するワケ

2018.08.10

Airbnbが「体験」サービスの提供範囲を拡大すると発表

同社日本法人の田邉代表取締役に経緯を聞いた

民泊新法への見解や今後の事業戦略についても言及

7月30日、Airbnbがこれまで関東、関西、福岡、沖縄で提供していた「体験」サービスの範囲を、日本の全地域に拡大すると発表した。

弊誌ではこれまでカヤックの体験イベントや、建築家の隈研吾氏と新国立競技場を歩く特別イベントなどを取り上げてきたが、ようやくこれまで一部観光地でしか出来なかったAirbnbの「体験」サービスを、全国で味わえるようになったわけだ。Airbnbの田邉泰之 代表取締役に今回の発表の経緯を聞いた。

7月31日に行われた特別イベントの様子。建築家の隈研吾氏がホストとなり、同氏が設計を手掛ける新国立競技場、南青山のサニーヒルズ(微熱山丘)、さらには非公開の事務所内までをも”本人の解説付き”で見学できる、1日限りの特別ツアーに参加した

 サービス範囲拡大のワケは、「想像以上の需要」

「『体験』サービスの利用者が急激に増えていることが、サービス範囲の拡大に至った理由です。2017年には、グローバルで昨年比25倍、日本では8倍ユーザー数が増加しました。これは当社が行っている宿泊事業(民泊や旅館なども含む)とは比にならないスピードで成長しています」と田邉氏は語る。その成長スピードはAirbnbにとっても予想以上であったそうだ。

Airbnb Japanの田邉泰之 代表取締役。94年に米国の大学を卒業後、ミズノ、マイクロソフト勤務などを経て、13年にAirbnbのシンガポール法人に入社し、日本法人設立に参加。14年5月のAirbnb Japan設立と同時に代表取締役に就任。02年米ジョージタウン大学院経営学修士(MBA)取得。大阪府出身

同社の「体験」サービスのマーケットにおいて、日本は世界2位の予約数を誇っているという。特に人気が多い都市のは東京・大阪で、予約数はグローバルの都市でもトップクラスだ。このように日本で体験サービスのマーケットが成長している要因は、「文化の奥深さ」にあると同氏は説明する。

「海外の人が旅先の国の文化に触れようとしたとき、自分で一生懸命文化について学ぶよりも、地元で文化に造詣が深い人に聞いた方がより理解を深めることが出来ます。特に日本には神社や仏閣、食などといった奥深い文化が多くあるため、旅先で地元の人から詳しく説明をしてもらうことの出来る『体験』サービスが人気を集めています」

「宿泊」と「体験」で「旅のワンストップサポート」へ

同社が運営している宿泊事業よりもまだ知名度が低いように思う「体験」サービスであるが、そもそも同社がこのようなサービスを展開しているのは、「旅をワンストップでサービス出来るプラットフォーム」を目指しているためだという。

「宿泊は旅のサポートの最初の入り口。『体験』はその次のステップとして位置づけています。決して事業の軸をシフトするというわけではなく、どちらも創業当初から力を入れいていこうと考えていたもの。今後もどちらも並行して進めていく予定です」

日本で人気の「体験」の1つ、『京町家で楽しむ茶道』(京都)。美しく装飾が施されたお茶屋で、ただお茶をたてるという技術だけではなく、茶道の精神も学ぶことが出来る (画像はAirbnbプレスルームより)

建築家・隈研吾と組んだワケ

サービスを複数軸で展開し、旅の可能性を広げるAirbnb。冒頭にも書いた、「隈研吾氏と新国立競技場を歩くことの出来る体験イベント」を開催した目的は、Airbnbユーザーに「究極の旅体験」をしてもらうためだという。

「Airbnbには、グローバルで3億人ものユーザーがいます。ユーザーに『こんな体験が出来るのか!』と思ってもらえるように、先日の(隈研吾氏の)体験イベントを実施しました。また日本においては以前、(同種の試みとして)『東京タワーに宿泊する』という特別企画も行いましたね」

さらに、「私たちが提供するのは、まだまだ新しい旅のスタイル。これからは、早い段階でサービスを利用してくれているアーリーアダプター層の先の人々にアプローチしていきたい」とする。Airbnbが展開する特別イベントは、新たなユーザーを呼び込むための1つの広告手段でもあるのだろう。

ビジネスチャンスを生む「働き方、住み方、旅の仕方」改革

「体験」サービスの特徴は、”観光地から一歩外れた場所”にも人気が集まる点にある。例えば「築地市場の中でも、一般の観光客がなかなか入れないエリアで市場の雰囲気を味わうことの出来る体験」が人気だそう。今回「体験」サービスが全国で展開されることになったことで、主要の観光地から一歩外れた地で、これまで眠っていた観光資源に人が集まるようになることが期待される。

「人の動きが変われば、そこに新たなビジネスチャンスが生まれます。例えば、多くの人が観光に来るようになったため、そこでカフェを運営すれば収益を立てられるかもしれません。また、これまで空き家だった物件が宿になり、クリーニングサービスやリネン交換といった新たな仕事も増えます。案内をする人も必要ですよね。さらにはその地を気に入って移住を検討する人もいるかもしれません。『働き方改革』『住み方改革』『旅の仕方改革』が組み合わさり、新たなビジネスの種がいくつも生まれています」

「民泊新法」はファーストステップとして必要だった

ここまで同社の体験サービスについての話を聞いたが、それとは別に気になる点があった。2018年6月15日より施行された「民泊新法」についての話である。施行からは2か月が経とうとしている今、改めて田邉氏が新法をどう捉えているかを聞いてみたところ、「民泊新法は、日本において民泊市場を広げるためのファーストステップとしては決して悪いものではなかったと思っています」と同氏。

営業日数が180日と限られてしまったことを踏まえても、「それだけの日数で問題がないというホストも多い」「現状の法律の中でも十分市場は大きい」と前向きだ。「本格的に市場を育てていこうとなったときに、一気にドアを広げてしまったら、もし問題が起きたときに、固く締めざるを得ませんからね」と続ける。

また「直近の課題は、この新法の中で安心と安全を確保すること。いきなり家の近くに外国人が泊まることだって、抵抗がある人がいますからね。受け入れ態勢を整えるためには、まだまだあと数年かかると思っています」とも語った。

ひとまずは「ラグビーW杯」と「東京五輪」を目標に

なお同社の今後の事業戦略を聞くと「『体験』のマーケットは成長が速すぎて、予測するのが難しい状況です。一方の民泊においては、ひとまず2019年に日本で開催される『ラグビーW杯』、そして2020年の『東京五輪』での宿泊所の提供の手伝いが出来れば、と思っています」と同氏。

来たる2020年、国の政策通りに4000万人以上の外国客が日本に訪れるとしたら、宿泊所の提供はもちろんのこと、「日本ならではの体験」をしてもらうことによって、日本を好きになってもらい、「また来たい」と思わせることが、2021年以降のインバウンド市場の盛り上がりにつながる。今回のAirbnbによる「体験」サービス範囲の拡大は、全国に眠っている観光資源を掘り起こし、観光国としての日本の価値をさらに高めることにつながりそうだ。

 

民泊新法施行後、逆風の中で見えてきた「チャンス」とは

民泊新法施行後、逆風の中で見えてきた「チャンス」とは

2018.08.09

民泊新法施行後、メインプレイヤーは個人から法人へ

不動産会社、旅館・ホテルが民泊市場へ次々と参入

エボラブルアジアは民泊サポート事業の拠点を全国に広げていく考え

2018年6月15日、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行された。これを機に、民泊仲介大手Airbnbのサイトから多くの掲載物件が削除され、かつて約6万件あった掲載物件数は一時、約1万数千件にまで減少した。その後徐々に掲載件数を増やしつつあるが、手続きの煩雑が原因となり、既存の民泊ホストの撤退が相次いでいるのが現状だ。

Airbnbの公式パートナーであり、ワンストップでのホストの民泊代行サービス「エアトリステイ」を展開するエボラブルアジアは、民泊新法施行後の民泊業界の動向についてどう捉え、サービスを展開していく予定なのか。

エボラブルアジアが2018年2月に発表した「エアトリステイ」は、民泊を始めたい人・企業に、収益シミュレーションから行政登録を始めとした各種手続き、家具・家電の準備、さらには運営代行までを「ワンストップ」でサポートするサービス。ソフトバンクやビックカメラ、損保ジャパン日本興亜などの関連企業とともに、民泊運営で求められるすべてのサービスを提供できる体制を整えていることが特徴

個人事業者に大打撃。民泊新法が与えた影響

エボラブルアジアの吉村英毅 代表取締役社長は、「民泊新法は思っていた以上に厳しい内容だった」と語る。

エボラブルアジアの吉村英毅 代表取締役社長。東京大学 経済学部経営学科卒業。大学在学中にValcom(2009年10月旅キャピタルに吸収合併)を創業。2007年、旅キャピタルを共同創業し、エボラブルアジア代表取締役社長に就任。2018年、エアトリ(旧:DeNAトラベル)代表取締役社長に就任

ホストが新法に則って民泊サービスを提供するためには、難解な手続きに加え、自治体ごとの独自ルールや高い防災基準に対応する必要がある。加えて「営業日数は180日まで」という制限もあるために、収益化が難しい。特にこれまで個人で民泊を運営していた事業者は、そのほとんどが撤退を余儀なくされているという。

不動産会社にとって「今がチャンス」なワケ

その一方で光明もある。「個人でホストをする方が減少したのとは反対に、不動産会社 や旅館・ホテル業者で新たに民泊に参入を検討するケースが増えている」と吉村氏。民泊新法によって民泊市場に新たな秩序が生まれたことによって、これまで参入を見送っていた事業者からの引き合いが増えているのだという。

例えば、空き部屋を持つ不動産会社 は、借り手が見つかるまでの期間に部屋をAirbnbに掲載することによって収益を生み出すことが出来る。旅館・ホテルにおいても、じゃらんなどのOTA(Online Travel Agent )に掲載するのと同時にAirbnbに掲載することによって、宿泊客の目に止まる機会が増えるというメリットがある。

「日本の民泊市場は、需要が急増している一方で供給が不足している状況にあります。日本政府観光局(JNTO)によると、2017年の訪日外国人の数は、前年比19.3% 増の2869万人で過去最高を更新しました。またそのうちの580万人がAirbnbを利用しており、訪日外国人の数、Airbnbの利用率ともに増加している状況にあります。

また国が『2020年、4000万人の訪日外国客を呼び込む』ことを目標としていることからも、民泊の需要が増えていくことは間違いないでしょう。6月を機にAirbnbへの掲載物件数が減少してしまいましたが、これは見方を変えれば『チャンス』だと言えます。現在Airbnbに新たに物件 を掲載すれば、稼働率は確実に上がることとなりますので」(吉村氏)。

現在の民泊市場を「チャンス」と捉える吉村氏

需給のバランスが崩れている今、新たに不動産会社、旅館・ホテルといったプレイヤーの民泊参入は大きなチャンスであるというわけだ。

「簡易宿所」と「国家戦略特区」での民泊が増加

では、これらの事業者が新規参入するためのハードルをどう乗り越えていくのか? というと、民泊新法の施行から間もない現段階においては、ハードルを”避けて通る”という表現が近い。

「今回民泊法は変わりましたが、Airbnbで宿泊所を提供するためには民泊新法のほかに、旅館業法の『簡易宿所営業』の認可を受けるという方法もあります。この方法では『貸し出し日数は180日まで』という制限に囚われることがないため、簡易宿所として認可を取る企業が多いです。

また自治体の問題に関しては、『国家戦略特区』である大阪府の一部や東京都・大田区などの地域をターゲットとすることによって、こちらも営業日数の制限を避けることが出来ます」(吉村氏)。

現に、マンスリーマンションでの貸し出しを開始する、もしくは戦略特区に新たに物件を建築するといった予定の事業者も出てきているそうだ。ではこのような市場の動向を踏まえてエボラブルアジアは、Airbnb向けのワンストップサービスをどのように展開していく予定であるのか。

メインターゲットは法人事業者。全国展開も視野

そもそもエボラブルアジアが民泊代行サービスを発表したのは2018年2月。同年1月の旅館業法改訂に伴う関係政令、同年3月の建築基準法案が改訂などが民泊への新規参入を後押しし、かつ6月15日の新法施行を控え、民泊市場が順調に拡大している最中のことであった。

その後、Airbnbサイトへの掲載物件数が急激に減少してしまったことから、同サービスは二の足を踏んでいることかと思ったが、同社ではこの状況を前向きに捉えている模様。エアトリステイの西島博文 取締役は今後の展望に関して「法人事業者へ積極的にエアトリステイのセールス展開をしていく」と語る。

西嶋博文氏(エボラブルアジア グローバル展開事業部 民泊事業担当グループ グループ長・兼 エアトリステイ 取締役)

なお同時並行で個人事業者の代行サービスも行っていくが、メインのアプローチ先は法人事業者になるとのこと。

Airbnbに特化した民泊代行サービスを提供する企業は各社あるが、その中でAirbnbの公式パートナーとされているのはエアトリステイのみとなる。そのエアトリステイが法人事業者へのアプローチを増やしていくとなると、民泊市場におけるプレイヤー層が今後変化していくことが予測される。

同社では現在民泊におけるVR内見や、コンビニでの鍵の受け渡しなどといったサービスも各社と連携して提供しており、徐々にゲスト・ホスト側の負担軽減を図っている。このコンソーシアム型の枠組みが、大手企業の民泊市場への参入の一助となっていることは確かだろう。

さらに西島氏は「現在、インバウンド主要6都市(東京・大阪・京都・那覇・福岡・札幌)を拠点として展開しているサービスを、今後は全国に広げていきたいと考えています」と続ける。

民泊に関する法律が整備され、大手企業各社によるサポート体制が整ってきたことで、高まるインバウド需要に対応するための仕組みができてきた。日本を「観光大国」にするための重要な要素である民泊が、今後どのように普及していくのか。まだまだ様子を見る必要がありそうだ。

ドイツの見本市CEBITが「Tシャツ」の来場者を呼び込む理由とは?

ドイツの見本市CEBITが「Tシャツ」の来場者を呼び込む理由とは?

2018.08.08

「CEBIT」は1970年から続く歴史のあるIT見本市

JETROが設置したジャパンパビリオンには20社以上が出展

2018年からは「Tシャツ」の力を借りて見本市全体の若返りを図る

ドイツ・ハノーバーで毎年開催されるIT見本市「CEBIT」は、2017年に安倍晋三首相が参加するなど大きく盛り上がった。だが2018年は、会期やロゴを変更する大幅リニューアルを敢行した。

少し遅くなったが、「CEBIT」の一部をレポートしよう。

大幅リニューアルした「CEBIT 2018」の会場

それまでCEBITはドイツテレコムなどの大企業が中心の見本市で、出展者も来場者もスーツ姿が大半を占めていた。だが近年、Tシャツ姿の出展者が増えてきた。人工知能(AI)やブロックチェーンなど新技術の登場により、Tシャツ姿でテクノロジーを扱うベンチャーやスタートアップとの連携が必要になってきたことが背景にある。

大幅リニューアルを敢行した「CEBIT 2018」

CEBITの発祥は1970年にまで遡る、歴史ある見本市だ。直近のリニューアルでは、2014年にB2B路線への転換を打ち出した。その集大成となった2017年には、日本をパートナーカントリーに迎え、政府の全面協力もあり大きな成功を収めた。

これに対して2018年からは、会期を3月から6月に変更。緯度の高いドイツは、6月ともなれば21時を過ぎてもまだ明るい。この日照時間の長さを生かし、ホール展示を18時に終了した後も、夜遅くまでライブ演奏や屋台のフードを楽しめる趣向を盛り込んだ。

CEBIT 2018の目玉となった屋外展示「d!campus」

2017年に深まった、日本との協力関係も継続している。日本貿易振興機構(JETRO)が設置したジャパンパビリオンには、20社以上が出展した。経済産業省の後押しで大企業が軒を並べた2017年より規模は縮小したが、海外の見本市に初出展する企業を含め、意欲の高い中小企業が集まったといえる。

CEBIT 2018のジャパンパビリオン

日独の取り組みとして、業界の垣根を越えて工場の無線化を推進する「フレキシブルファクトリパートナーアライアンス(FFPA)」が今後のロードマップを発表。5G時代に向けて、製造業に強みを持つ両国が規格統一に向けて協力していくことを発表した。

日独が協力し、製造現場における無線通信技術の整備を進める

ITが社会を変える時代、見本市も変革を

全体を振り返ってみると、リニューアル1年目ということもあり、こなれない部分もあった。毎年出展していた大企業の一部は出展を見送り、ある程度決まっていたブースの位置がシャッフルされたこともあり、来場者もどことなく戸惑っていた印象だ。

なぜ、ここまで大きく変える必要があったのか。その背景には、ITを取り巻く環境の変化がある。

これまで企業におけるIT活用といえば、パソコンやスマートフォンを導入することだった。紙の書類や電話を駆使する代わりに、デジタル機器やソフトウェアを活用して効率化を図る。こうした取り組みは現在も続いている。

一方で、フィンテックや不動産テックといった言葉が出てきたように、ITはビジネスのあり方そのものを変えるようになってきた。最近ではUberやAirbnbのように、ITの存在を前提に登場した新興企業が、既存産業を脅かす事例も珍しくない。

こうしたトレンドの変化に、大企業はすぐには対応できない。「スーツ」の集団で解決できないなら、「Tシャツ」の力を借りてはどうか。そこでベンチャーやスタートアップとの連携が重要になってきたというわけだ。

CEBIT 2018のスタートアップ展示エリア「Scale 11」にも、欧州を中心に多数の新興企業が出展した。その中には、ドイツ鉄道やフォルクスワーゲンなど、ドイツの大企業から支援を受けた企業も少なくない。

スタートアップ展示エリア「Scale 11」

こうした背景のもと、CEBITは米国で成功した「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」などの事例を参考に、屋外展示や音楽イベントを採り入れることで、見本市全体の若返りを図ったというわけだ。

社会の中でITが果たす役割が変わっていくならば、それを取り扱う見本市自体も変革が求められる。2018年のCEBITはこの課題に真正面から挑んだといえるだろう。