「ベンチャー」の記事

Slackの働き方は、意外にも「日本的」だった? 【経営者対談】

働き方革命!人生を豊かにする「選び方」 第2回

Slackの働き方は、意外にも「日本的」だった? 【経営者対談】

2019.04.12

Slack Japanカントリー・マネージャーに「働き方」について聞いた

Slackが社員に求める「ハードワーク」の考え方って?

人生を豊かにするための「働き方」のコツとは

ブランド価値プロデューサーの杉浦莉起さんが、「選択」と「働く」をテーマに、ビジネスの一線で働く方と対談する本連載。第2回目のお相手は、Slack Japanカントリー・マネージャーの佐々木聖治さんです。

グローバル化にダイバーシティ(働き方の多様性)、女性活躍、働き方改革――。働き方や生き方が自由に選択できる昨今、ワークライフバランスという言葉では足りない、「ワークとライフのカスタマイズ」が必要とされています。 

起業家と、外資企業の日本代表。それぞれの道を歩む2人は、現代の「働く」をどう捉えているのでしょうか。

キーワードは「選択」。2人の考え方を紐解いていくと、我々の人生を豊かにする働き方のヒントが見えてきました。

「Slackは世の中を変えると思った」

杉浦莉起さん(以下、杉浦)
はじめまして。Slack、いつも使わせてもらってます(笑)。Slackは、多くの人の「働き方」を変えるツールだと思っており、今回は是非佐々木さんの「働く」に対する考え方を聞きたくて伺いました。よろしくお願いします。

デリィス 代表取締役社長の杉浦莉起さん。上智大学卒後後、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループにて宣伝広報に従事。その後P&Gジャパンに転じ、SK-Ⅱ、パンパース、ブラウンジレットなどのブランドコミュニケーション戦略/PRに携わる。その後ブランド価値プロデューサーとして独立し、現職。著書に『いつでも「最良」を選べる人になる』など

佐々木聖治さん(以下、佐々木)
ありがとうございます。なんでも聞いてください。

Slack Japanカントリー・マネジャーの佐々木聖治さん。2018年2月よりSlack Japanのカントリー・マネジャーに就任し、日本の事業責任者としてSlack Technology Inc.の地域事業統括及び日本での拡大展開を指揮する。Slack入社以前は、米SuccessFactors Inc.の日本法人社長を経て、SAP Japanにて、人事人財ソリューション事業統括本部長としてSAP SuccessFactorsビジネスの日本市場における急成長を牽引した。また、米セールスフォース・ドット・コムの日本法人にて、エンタープライズビジネス部門の戦略アカウントマネジャーとして営業の経験も有する。米ワシントン大学にて国際経営学の学士号を取得

杉浦
Slackの日本代表になられたのは、昨年(2018年)の2月でしたよね。

佐々木
はい。それまではSAPでクラウド関連の事業をしていました。現在は、Slackの4つのビジネス領域(北米、ヨーロッパ、日本、アジア・パシフィック)の1つである、日本でのオペレーションの責任者をしています。

杉浦
ちなみに、Slackに移ったキッカケはなんだったんですか?

佐々木
「縁があったから」というのが一番でしょうか。ある日、前職のチームメンバーからSlackというツールを教えてもらったんですが、初めて使ったときに「これは世の中を変える! 」と、右脳的に感じて。ちょうどその頃Slackから声を掛けてもらったので、「これも巡り合わせかな」と思い、参画することにしたんです。

Slackが求める、社員の生き方・働き方って?

杉浦
この連載企画の第1回目で、フェイスブック ジャパンの方にも同じことを聞いたんですが、Slackでは社員にどういう「働き方」、もしくは「生き方」をして欲しいと考えているのでしょうか?

佐々木
それは、当社の「Playfulness(遊び心)」や「Solidarity(チームワーク)」などからなる「6つのコアバリュー」が示しています。それらの価値観をもとに、プロダクトを生み出し、提供する――。まずはそんな「働き方」をして欲しいと考えていますね。

もちろん、日本で事業を拡大するためには、これらをローカライズしていく必要があると思いますが、こういった価値観を会社全体で共有していくことで、社員の「自己実現」にもつなげていきたいと思っています。

Slackの6つのコアバリュー。「Empathy、Craftsmanship、Courtesy、Playfulness、Thriving、Solidarity(共感、匠の精神、思いやり、遊び⼼、向上⼼、チームワーク)」

杉浦
プロダクトの成長はもちろん、社員の自己実現も重要視しているんですね。

佐々木
はい。それに加えて、社員の評価指標として「4つのアトリビュート」というものも用意しております。それが、「Smart、Hardworking、Humble、Collaborative(賢く、勤勉で、控え目で、協力的)」というもの。

これら合計10の指標をもとにした「働き方」「生き方」をしてもらいたい、というのが当社の考えです。まだ5歳ほどの駆け出しの会社ではありますが、これらの価値観は、徐々に会社全体に浸透してきています。

Slackは意外にも「ハードワーク」推奨!?

杉浦
アトリビュートの1つに「Hardworking」があるのが意外です。ハードワークと聞くと、残業して遅くまで働くのが良し、という今の「働き方改革」の流れに逆行するような、マイナスなイメージが浮かぶ人も多いのでは? と思うのですが。

きっと、先進的IT企業でのハードワークの意味合いはそれとは違いますよね。ぜひ、その言葉の意図するところをもう少し詳しく教えてください。

佐々木
当社の考えるハードワークは、「残業をしろ」という意味ではありません。むしろその逆で、「Work Hard and Go Home(良い仕事をして、終わったらきちんと家に帰ろう)」という考え方なんです。

杉浦
なるほど。つまり「就業時間内にぎゅっと集中して生産性高く仕事して、定時になったら帰りなさい! 」ってことなんですね。

佐々木
その通りです。例えば、アメリカにあるSlack本社には社員が集まるカフェテリアがあるのですが、そこでは「食事に時間をかけるよりも、集中して短い時間で、成果を出そう、生産性にこだわろう」という考え方の基、あえて食事を出さない日もあるんですよ。

カリフォルニア州サンフランシスコ市にあるSlack本社

杉浦
え、それは意外です! アメリカのIT企業って、自由にいつでも好きなように飲食が楽しめる、リフレッシュ環境が充実しているイメージです。前回お話を伺ったFacebook社でも「軽食コーナーがあったり、夕方からはビールが飲めたり」といった感じでした。

佐々木
そうなんですよ。ほかにも、当社には社員全員にそれぞれ「固定のデスク」があることも特徴かと思います。

もちろんオープンスペースもありますが、フリーアドレスではなく、あえて固定席を用意しているんです。私も皆の隣に机を並べています。これは日本だけではなく、グローバルのSlackオフィスにも共通することで、本社の役員も全員、そういった環境で働いています。

杉浦
それも意外です……! さっきから「意外」しか言ってない気もしますが(笑)。

佐々木
よく当社のCEO兼共同創業者であるスチュワート・バターフィールドが言うんですが、Slackは、「高度経済成長期の日本」の働き方をヒントにしているんです。

日本の高度経済成長期、まるで”うなぎの寝床“のように、人が集まって狭い空間で仕事をして、そこでさまざまな情報が行き来していた――。インテル創業者の1人であるアンディ・グローブ氏は、自身の著書で「それが日本の強み」と分析していました。

つまり、固定の机があって、皆が横並びになって「なるべく顔を合わせて仕事する」ことが、良いチームビルディング、ひいては企業の成長につながると考えているんです。

Slack Technologies.Inc CEO 兼 共同創業者 スチュワート・バターフィールド氏

働き方は「受動的」から「能動的」に

杉浦
今、Slackを個人的に使っていて、プロジェクトマネジメントがしやすい! と感じています。外部の人とも1チームでコミュニケーションをとりやすく、スピードも上がり、プロジェクトが皆で回せる感覚があるのですが、その良さを使っていない人に伝えるのが難しくて。

導入を検討される企業も、まずは「メールやほかのコミュニケーションツールと何が違うの? 」と疑問を持つと思うんです。それに対して、どのようにお応えされているのでしょう?

Slackは個人とのやり取りをする「ダイレクトメッセージ」と、グループでやり取りをする「チャンネル」で分けられている (画像はSlackホームページより)

佐々木
コミュニケーションをスムーズに行えるようになるだけでなく、仕事を「能動的に」進められるようになることが、Slackを選んでいただいている理由の1つだと思います。

メールから始まる仕事って、基本「受け身」なんですよね。届いたメールに書かれている内容は、それを開かないと確認できません。そして、開くとタスクが生じ、さばかなければいけない。

でもSlackは、「複数のチャンネル」ごとにメッセージがやり取りされているため、優先度の高い仕事を選択して「仕事をしに行く」感覚で作業することができるんです。例えば、プロジェクト単位でチャンネルを作っていたら、そこではその仕事についてのやり取りしかなされていないわけです。

メールと同様にメッセージもたまっていくのですが、別に「埋もれている」という感覚がないのはSlackの特徴だと思います。私自身、かなりの量のメッセージが届くんですが、複数のプロジェクトがチャネル分けされているので、流れをつかみやすく、優先度の高いものから順に仕事をこなすことができます。

杉浦
なるほど。メールの文章を作るための"不要な時間”を減らすだけではなく、ユーザーが積極的に仕事に関わっていく姿勢によって「スピード感」が生まれるわけですね。

佐々木
そうですね、仕事に埋もれていく感覚で仕事をするよりも、オーナーシップをとって、能動的にチャレンジする環境を作れる。それによって生産性が向上する。これが、Slackが選ばれる理由だと思っています。

杉浦
まさに、「働き方改革」が実現できるツールですね。

Slackはコミュニケーションと「組織」を変える?

杉浦
最近、Slackを導入している日本企業も多くあるようです。具体的に「働き方が変わった」事例があれば、教えていただけますか?

佐々木
好例の1つが武蔵精密工業さんです。創業から80年の歴史の長い企業なんですが、経営陣は、組織の構造上「情報が途中で分断してしまう」「停滞してしまう」といったことに課題を感じていました。

そこで、それまで会議やメールで情報をトップダウン式に伝達・共有していたところを、「より情報共有スピードをあげ、もっと意見を言いやすい環境を作ろう」と、組織変革に乗り出したんです。その施策の1つとして、Slackを導入していただきました。

杉浦
Slackがただのコミュニケーションツールではなく、「組織変革」や「職場の風通しを良くする」という目的にも使われているんですね。

佐々木
そうですね。よく、「IT系の先進企業が多く利用している」と思われがちなSlackですが、歴史の長い製造業でも使われていますし、活用の場が幅広いことは多くの人に知ってもらいたいと思っています。

選択上手のコツは、「ブレないこと」

杉浦
Slackを使うようになって、そしてSlackで働くようになって、佐々木さん自身の働き方は変わりましたか?

佐々木
感覚的な話ですし、数値的な話はできませんが、仕事のスピード感は上がりましたね。仕事の総量は増えたはずですが、週末にやり残した作業をすることは減りました。

これは、Slackを用いることで効率よく働けるようになっただけでなく、意図的に「体力を温存するため」に行動するようになったこともあります。

夜は自分の時間を作れるようにしたり、朝早く起きてジムに行くようにしたり。そのために、仕事を効率よく終わらせることを意識しています。

杉浦
自分の時間を作るために、効率よく仕事をする。それが佐々木さんが働く上での「マイルール」なんですね。

最後に、この連載のテーマでもある「選択」についてお聞きします。自分の経験や、同僚の働き方を見て、なにかほかの人が真似できるような「人生を豊かにするための『選択上手』になるコツ」はありますか?

佐々木
そうですね、ザクっと言うと「ブレないこと」でしょうか。

もし、仕事をするうえで大きな選択をすべき時がきたら、その考え方が大事だと思っています。例えば僕の場合、Slack Japanからの誘いが来たときには、そのキャリア選択が、これまで自分が辿ってきた道から大きく外れていないか、ということを考えました。

また、日常の場面でも、何かを選択するにあたって、「自分がやってきたこと、考えていることとブレてないか? 」ということは意識するようにしています。僕は自分がこれまでやってきたこと、これからやろうとしていることを筋道立てて説明できるようにしていますし、Slackの社員にもそうなってほしいと思っていますね。

何か迷ったときには、歩んできた道を振り返りながら「自分の強み」を理解する。ブレずに、その方向で進んでいくことで、少しずつ、経験や強みを「積み上げていく」という姿勢を持っていくことが重要だと思っています。

杉浦
選択上手のコツは「ブレないこと」。未来のことは、これまで自分がやってきたことの延長上にある――、ということですね。非常に参考になりました。ありがとうございました!

選択上手のコツは、「ブレない」こと

【働き方革命!】連載バックナンバーはコチラ

中小企業の「後継者問題」は深刻、M&A仲介のストライクがビズリーチと新サービス

中小企業の「後継者問題」は深刻、M&A仲介のストライクがビズリーチと新サービス

2019.02.22

M&A仲介のストライクと人材サービスのビズリーチが連携

買収企業の経営幹部採用支援を目指す

「団塊世代」の退職に伴い、M&Aは年々拡大している

労働需給がひっ迫が、企業買収の世界でも課題になることが増えている。企業を買収しようとしても、その企業を運営していく人材を確保できずに買収を断念するというケースが目立つのだ。

そこで新たな取り組みとして、M&A(合併・買収)仲介サービスのストライクと人材サービスのビズリーチが連携し、買い手企業に対して、買収した会社の経営者や経営幹部の採用を支援するサービスを開始した。両社はM&Aと人材サービスの相乗効果により、より円滑な企業買収を促す。

ストライクは後継者不在に悩み引き取り手を探す企業経営者と、規模の拡大を目指し事業を獲得したい企業をマッチングするM&A仲介サービスを展開している。ビズリーチは経営幹部などハイクラス層に特化した人材サービスを手掛ける。両社の連携により、買い手企業は、その獲得事業の運営に必要な経営幹部を効率的に採用できる。

中小企業で深刻化する後継者不足問題に一石

両社の取り組みの背景には、中小企業の後継者不足問題がある。

経営者が親族に事業を引き継いでもらいたくても、子供は都会で会社勤めをしており、実家に戻って家業を継ぐ気がないといったケースは多い。今後本格化する、第一次ベビーブームの時期に生まれた「団塊世代」の大量退職も問題に拍車をかける。複数の要因が重なってしまう結果、中小企業では事業をどう次世代に伝えていくかが喫緊の課題となってしまっている。

経済産業省・中小企業庁らによれば、中小企業の経営者の年齢分布で最も多い層は2015年時のデータで66歳だ。これは20年前の47歳から大幅に上昇した。今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人が後継者未定とされている。

日本の企業数は約400万社といわれるので、127万人というのは実に全体の3分の1相当の企業が後継者問題を抱えることになるという計算だ。ある調査によれば、仮に現状を放置すると、2025年頃までの10年間の累計で約650万人の雇用、約22兆円の国内総生産(GDP)が失われる可能性があるともいわれる。

なお、ストライクが中小企業経営者の妻100人に「将来残されて困る資産」を調査したところ、最も多かった解答は「経営する会社の自社株」で、その解答割合は38%にものぼったという。近年はM&Aが中小企業の後継者不在問題の解決に向けた選択肢の1つになりつつあり、同市場は毎年2~3割拡大している。

月で藻を栽培せよ! JAXAとちとせ研究所が目指す「未来の宇宙食」

月で藻を栽培せよ! JAXAとちとせ研究所が目指す「未来の宇宙食」

2019.02.18

JAXAとちとせ研究所が共同研究を開始

将来の宇宙飛行士の食料は「藻」?

マット・デイモンに伝えたい、藻の無限の可能性

「マット・デイモンは、『藻』の可能性をわかっていませんでした」

とは、今回の取材中に思わず笑ってしまった言葉だ。火星に一人置き去りにされた宇宙飛行士の生存をかけた奮闘を描いた映画『オデッセイ』のワンシーンに対する言及であった。

劇中でマット・デイモン演じる植物学者のマーク・ワトニーは、火星の土とクルーの排泄物を使って食料となる「ジャガイモ」を栽培したが、彼が藻類学に明るければ、映画のストーリーは大きく変わっていたのかもしれない。

タベルモとJAXAが目指す、次世代の宇宙食

バイオベンチャー企業群のちとせ研究所は2018年9月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙探査イノベーションハブが実施した研究提案募集「穀物に頼らないコンパクトなタンパク質生産システム」に、同社の研究テーマが採択されたと発表した。

研究名は「食用藻類スピルリナを用いた省資源かつコンパクトなタンパク質生産システムの開発」。2018年10月より1年間、ちとせ研究所はJAXAと共同で、将来的な月面長期滞在を見据えた「藻」の月面生産システムの開発を手掛ける。

将来の月面・月周辺での活動風景イメージ:(C)宇宙航空研究開発機構(JAXA)

研究が順調に進み、実際に宇宙空間で藻の栽培が行われた暁には、宇宙飛行士が吐き出す二酸化炭素を吸収して酸素を供給し、かつ増えた藻は栄養源として食べることができる、という一石二鳥な結果が期待される。

スピルリナはスーパーフードの王様

同研究に用いられるスピルリナとは、タンパク質含有量が高く(乾燥重量ベースで60% ほど)、さらにビタミン、ミネラル、食物繊維などを豊富に含む藻だ。スピルリナ1gから得られる栄養分は、1kgのバランスのとれた野菜と果物の栄養素に相当するとされており、健康食品として海外を中心に人気を集めている。

こうした理由からスピルリナは、「スーパーフードの王様」と呼ばれている。

ECサイトでは、冷凍パックの生スピルリナや、ヨーグルト仕立てのアイスなどを販売している

共同研究には、ちとせ研究所のグループ会社であるタベルモやIHIエアロスペース、藤森工業も参加する。

タベルモはこのスピルリナにおいて、独自の培養技術と急速冷凍技術を武器に急成長しているスタートアップ企業だ。2018年に三菱商事と旧産業革新機構(現在の産業革新投資機構)から17億円の資金調達し、同年末には「NEXTユニコーン 推定企業価値ランキング」(日本経済新聞)新素材領域で4位(推定価値・27億円)にランクインした。

そんなちとせ研究所、およびタベルモの新たな挑戦が「未来の宇宙食」を作ることであるわけだが、そもそも宇宙空間で藻を栽培するなんて可能なのだろうか。

実は宇宙と接点の多い「藻」

研究の提案者である、ちとせ研究所 藻類活用本部 本部長 星野孝仁氏は、「昔から、宇宙空間での空気と食料の自給システムに藻を利用しようと、さまざまな研究が進められていました」と説明する。

ちとせ研究所 藻類活用本部 本部長 星野孝仁氏

そもそも「宇宙空間での藻の活用」を目指す動きは、今に始まった話ではないのだとか。

最近の成果では、ESA(欧州宇宙機関)が2017年12月、生きたスピルリナを宇宙ステーション(ISS)へと打ち上げている。実験を行った結果、スピルリナは地球上と同じ速度で育ち、酸素を生成することも確認された。

さらに2018年9月には、アメリカ航空宇宙局(NASA)もスピルリナをISSに打ち上げ、微小重力下での増殖能力があるかを確認するための試験を行ったそうだ。

これらの状況を踏まえて星野氏は、「この研究が描く未来は決して夢物語ではなく、むしろリアリティが高いと言えるでしょう」と続ける。

場所をとらない、コンパクトな生成システムの開発へ

今回の研究は、まずは地上で「宇宙でも使える可能性の高い装置」を作る所から始まる。肝になるのは、宇宙飛行士の作業工数や使用する水・酸素・二酸化炭素・電力などのリソースをどれだけ抑えられるか、という点だ。

突き詰めるべきは、「閉鎖的な環境において、藻の栽培に必要不可欠な水やガス、栄養素を効率的に循環させる方法を探ること」(星野氏)だ。

宇宙空間では、輸送費の都合もあり「コップ一杯の水」を持っていくだけで何十万円という費用がかかる。そのため、藻の生産に必要な水はできるだけ少量に抑えなければならない。

「映画『オデッセイ』を想像すればわかりやすいかと思いますが、宇宙空間で植物工場を作ろう、といった話もあります。しかし、野菜の栽培には大量の水が必要不可欠です。宇宙空間で水は大変貴重な存在。藻を上手く活用すれば、より少量の水で、より栄養価の高い食物を、高効率で得られるのです」(星野氏)

そこで考えたのが、単純な水槽のような形ではなく、「板状」の光源に湿ったシートを被せてその内側で藻を栽培する仕組み。まだ研究途上のため装置は完成していないものの、すでにプロトタイプはできている。

スピルリナ製造装置(プロトタイプ)。画像右のLEDライトに、画像左のように湿ったシートを被せて藻を栽培する

ひとまずは、同様の原理を用いた装置をより進化させていき「1日あたり、乾燥重量で6g/㎡」のスピルリナ栽培を目指す。

現時点では光合成のために必要な光には人工光源を使用しているが、将来的には光ファイバーやレンズを用いて太陽光を使用する考え。また、藻の成長に必要な栄養素やガス(二酸化炭素)には、宇宙飛行士の排泄物や呼気を利用する。

「マット・デイモンは、『藻』の可能性をわかっていませんでした。藻は、その培養のスピードや、成長に必要な栄養素などの点で野菜とは異なるメリットを持っています。ですが、まだまだ研究は道半ば。藻の持つポテンシャルを最大限に活かせるような装置を作り、将来の宇宙空間での実験につなげたいですね」(星野氏)

宇宙だけじゃない? 藻で「未来の牛乳」も目指す

さらに同社は、この「未来の宇宙食」を目指す技術を、別のビジネスにも応用する考えだ。それは、各家庭に置けるコンパクトな藻の生産装置によって作られる「未来の牛乳」。同社ではそれを「ミルク」を文字って「モルク」と名付けている。

毎朝、牛乳の代わりに飲むもの――。それがモルクという名前に付けたメッセージだ。同社はこれを、近未来の課題と言われる「食糧危機問題」への解決策としても見据えている。

「藻は水と太陽光があれば栽培が可能なので、現在の限られた農場とスペースを取り合いません。今回のJAXAとの共同研究で得られる、コンパクトな藻の栽培装置のノウハウを活用すれば、いずれは各家庭に置けるほどの大きさで十分に機能するようになることでしょう」(星野氏)

「藻」が将来の宇宙食になり、かつ朝食のお供になる――、とはなんともSFチックな話ではあるが、研究採択期間が終わる今年の秋頃までには何らかの成果が発表されるわけだ。こうしている今も、未来がどんどん近づいている。