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印ベンチャーOYOが手がけるスマホ完結「賃貸サービス」、日本上陸で見えた課題

印ベンチャーOYOが手がけるスマホ完結「賃貸サービス」、日本上陸で見えた課題

2019.04.01

インド発ユニコーン「OYO」が日本でのサービスを開始

スマホ一台での賃貸契約、3日間の試し住みが可能

ホテル評論家の目に映る課題とは?

日本初の「スマホひとつで“旅するように暮らす”アパートメントサービス」をうたうOYO LIFE(オヨライフ)が、3月28日にサービスをスタートした。

サービスを運営するOYOはインドのホテルベンチャーで、ヤフーと合弁会社をつくって日本の賃貸住宅事業に参入する。同日開催されたメディア向けの説明会ではOYO CEOのリテシュ・アガルワル氏、OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN CEOの勝瀬博則氏、ヤフー株式会社代表取締役CEOの川邊健太郎氏が登壇、日本攻略の展望を豪華なプレゼンで力説した。

OYO CEO リテシュ・アガルワル氏
OYO TECHNOLIGY&HOSPITALITY JAPAN CEO 勝瀬博則氏

既存の業界を大きく変えるOYOはまさに「黒船」だ

まさに華々しい船出ともいえるOYO LIFEであるが、まずOYOとは何なのかを簡単に説明しておこう。OYOはインドのホテルベンチャーとして知られており、10カ国500以上の都市で約18,000軒のホテル・住居などの運営、リース、フランチャイズを業とする。ホテルブランドの規模でいうと世界で7番目の規模で、業界では知られた存在だ。

そのOYOが日本へ進出、ただしホテル業ではなく、ヤフー株式会社と合弁会社を設立、賃貸住宅事業に本格参入するという。OYO LIFEのサービスを展開する主体となるのが、今回新たに合弁会社として設立される「OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY」だ。

ヤフー株式会社代表取締役CEO 川邊健太郎氏

OYO LIFEのサービスで特徴的なのは、スマートフォンひとつで契約が可能な点だ。敷金・礼金や仲介手数料はかからず、家具・家電付き、Wi-Fi通信費等の料金も込み。スマートフォンで物件探しから入居まで、さらに退去の際は書面での通知も不要という(賃貸期間などによって例外もあり)。高い初期費用や不明瞭な料金体系をはじめ、手間のかかる入居手続きといった通常の賃貸借契約と対極をなすシステムだ。

黒船襲来か!?

さらに3日間の“住み試し”も可能といい、実際に住んでから契約の検討ができるというのも斬新。まさに“ホテルのように部屋を選ぶだけ”である。まずは東京都23区を中心にサービス提供を開始するというが、料金は賃貸住宅相場と比較して割高な印象だ。ただし、通常の賃貸借契約で負担する初期費用から勘案すると、1年半までの入居であれば割安になる目安で賃料設定しているという。アナログな日本の賃貸物件事情に警鐘を鳴らす存在とも言えそうだ。

通常、日本で賃貸物件を借りようとする場合にはまず物件探しから始まる。賃貸情報サイトなどで情報収集し不動産会社を訪れるのが一般的だろうか。実際の契約には連帯保証人が求められ、さらに多くの公的書類を揃える。家主や管理会社の審査を経て、敷金、礼金、仲介手数料、保険料なども支払う。昨今では保証会社との契約(保証料の支払い)が必要なケースも多い。実際の引っ越しまでに1ヶ月ほどは要するだろうか。そのようなある種“アナログ”な業界にとってOYO LIFEは黒船襲来ともいえる。

アナログな日本の賃貸物件事情との差別化をはかる

OYO LIFEの抱えるリスクとは?

筆者はホテル評論家を生業とするが、不動産分野の話題にもかかわらずインドの“ホテルベンチャー”ということもあってか、OYO LIFEの正式なリリース前にラジオ番組を皮切りにいくつかのメディアから執筆の依頼もいただいた。

幸運だったのは、ホテル評論家になる以前に、賃貸専門をはじめ不動産管理会社の顧問を務めていた経験もあり、賃貸住宅のリアルな現場を経験していたことだった。直近の寄稿ではOYO LIFEについて“与信”と“サブリース”という点からのリスクについて問題提起した。

不動産賃貸管理の現場における代表的なリスクは家賃滞納だ。家賃滞納自体も問題であるが実際の回収には相当な労力を要す。保証会社の利用が必須という契約も増えているが、滞納賃料の回収に加えて物件の明け渡しも難題。滞納を続けた上、物件に“居座る”ケースは深刻だ。実際に現場を訪問すると契約上の賃借人と異なる人物が居住している場合もあるし、それが反社の人物であったり、組織犯罪のアジトだったこともある。ゆえに入居申込者に対する与信は非常に重要だ。

鍵を交換してしまえばいいという発想もあるが、それは違法であり逆に損害賠償を請求される場合もある。そもそも、賃貸人ではない不動産管理会社による滞納賃料回収や明け渡し交渉は弁護士法に抵触する恐れがある。

OYO LIFEは後述のとおり賃貸人なので直接交渉できるが、一般的にはこのような居座りケースは、明け渡し訴訟から強制執行という法的手続きによる解決となるだろう。費用も期間もバカにならない。同時に未払い賃料の請求訴訟も提起することになるが、判決は得られても財産や給料の差し押さえは困難なケースがほとんどだ。連帯保証人も然り。そもそも連帯保証人に支払い能力があれば訴訟までには至らないだろう。

話を戻して、OYO LIFEはスマートフォンひとつで全てコト足る利便性をうたうが、通常の賃貸物件の契約で、前述したような多くの公的書類が求められたりアナログで煩雑な手続きが伴うのは与信という側面もある。住民票や源泉徴収票・納税証明などの提出は、本人の素性、収入や勤務先の確認といった役割も兼ねている。更に連帯保証人を付することで様々なリスクを回避している。このように、不動産賃貸業界がアナログなのにはそれなりの理由もあるのだろう。

頭書の説明会ではこれらリスクについての説明がなかった。質疑応答の時間でも日本進出の経緯やビジネスモデルなどの質問が相次ぐ中、時間オーバーで打ち切られ、筆者が質問できる機会は得られなかったものの、OYO LIFE Head of Revenueの山口公大氏に質問する機会をいただいた。

「簡単すぎる」がゆえの懸念点はあるも、今後に期待

まず、具体的に「与信」についての質問に「OYO LIFEではクレジットカード決済によりリスクを回避している」という。悪意ある転貸やクレジットカードそのものの利用停止、居座りといった再質問に対しては「実際の事業を進めていく中で解決法を模索していく」と語るにとどまった。

通常の建物賃貸借契約であれば仲介業者を通すのが一般的であることは前述したが、実際の契約に際しては法令の要請で有資格者立ち会いによる重要事項説明がなされる。OYO LIFEがそのような面会を経ずして、スマートフォンひとつで入居から退去まで可能にしているのは、物件のオーナーから借り上げ転貸するサブリースの方式をとっているからだ。すなわちOYO LIFEは仲介業者ではなく賃貸人そのものなのである。

サブリースについては、物件オーナーへの賃料保証が重要なテーマだろう。瑕疵(かし)ある物件でニュースとなった“賃貸アパート経営”の問題では、サブリースに関連し物件オーナーへの賃料保証をうたいながら、事情が変更になったからと契約を反故にした実態も報道された。サブリースの賃料保証について前出の山口氏は「契約期間内の保証は確実に履行していく」とOYO LIFE におけるサブリース契約の安全性について説明した。

諸々懸念について述べてきたが、そもそも日本の賃貸住宅事情を一変させるような革新的なビジネスモデルだけに、OYO LIFEが大いなる可能性を秘めていることは間違いない。ITを駆使した最先端のシステムを掲げるだけに、筆者のような懸念を払拭する革新的システムが導入されることも期待したい。

収支や入居率などをスマホ一つで確認できるような、オーナー向け管理システムのようなサービス提供や、申込者の与信についてもいまの常識では想像がつかないような斬新なシステムが今後開発されるのかもしれない。いずれにせよ、住居だけに安心・安全の担保といった点からもOYO LIFEの展開は注目すべきだろう。

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

まるわかり! Credit Tech 最前線 第2回

クレジットテックで“新しい”信用情報が果たす役割

2018.11.21

テクノロジーの進化によって誕生した新しい信用情報

サービス提供者と利用者、双方にメリットが生まれる可能性がある

金融サービスだけでなく、シェアリングエコノミーでの活用も

連載の第1回では、Credit Tech(クレジットテック)が盛り上がりを見せる背景について紹介した。第2回では、テクノロジーによって可視化されてきた“新しい”信用情報について、具体的な内容を紹介するとともに、クレジットテックが果たす役割について俯瞰してみたい。

クレジットテックにおける“新しい”信用情報とは

新しい信用情報を紹介するにあたり、まずは、社会信用システムが発展している中国において、信用スコア算出の事例としてよく登場する「芝麻(ジーマ)信用」を見てみよう。

芝麻信用とは、中国アリババグループのアント・フィナンシャルサービスグループが開発した個人信用評価システム。「身分特質」「履約能力」「信用歴史」「人脈関係」「行為偏好」という5つのパラメーターを用いて、個人に350~950点の信用スコアを付与する。

芝麻(ジーマ)信用のイメージ。アント・フィナンシャルサービスのHPより

この5つのうち、「身分特質」「履約能力」「信用歴史」は“従来の”信用情報に該当する項目、「人脈関係」「行為偏好」は新しい信用情報に該当する項目だと私は考えている。

従来の信用情報とは、行政・銀行・信用情報機関といった信用の担い手が、以前から保有/利活用してきた信用情報のこと。例えば、預金や借り入れの状況、クレジットカードの利用履歴、居住地、職業、学歴などが該当する。

そして、新しい信用情報とは、テクノロジーの発展した現在において民間企業が担い手となって、生まれた信用情報である。例えば、どんな人とコミュニケーションをとっているのかといった「SNS上のつながり」だ。日本ではLINE、中国ではWeChat、世界的に見ればフェイスブックなどが、この情報を保有している。

また、一般消費における現金の動きも新しい信用情報にあたる。これまで、匿名性が高く、移動の履歴が残りにくいため、現金は精緻な利用状況が取得できなかった。しかし、キャッシュレス決済の登場によって、個人に紐付いた現金の移動を記録して追うことができるようになったのだ。2017年の中国の実績では、約1,362兆元(約22,901兆円)ものモバイル決済取引が行われている。

信用情報が多面化するイメージ

新しい信用情報がもたらす3つの価値

では、こうした新しい信用情報の出現により、どんなことが起きるのか。1つは、機会損失の解消だ。従来の信用情報のみに依拠していると、そうした情報を持たない、もしくは開示していない個人は、サービスを享受しにくい状況が発生していた。例えば、本当は支払能力があるにも関わらず、クレジットカード支払いの遅延歴があったために、住宅ローンを組めないというケースなどだ。ここに新しい信用情報が加わるとどうなるか。

ソフトバンクがみずほ銀行と合弁で立ち上げた、デジタルレンディング企業「j.score」を例に説明しよう。同社のサービスではまず、ユーザーは従来の信用情報に該当する項目に加え、普段の生活習慣など、複数の新しい信用情報を回答する。その結果、導き出された信用スコアに応じた条件で、融資を受けることができるようになるのだ。

これにより、従来であれば金融サービスを享受できなかった個人でも、サービスを受けられる可能性が出てくる。よりマクロな視点でみれば、金融包摂の文脈に該当する利点と言えよう。

J.Scoreの「AIスコア・レンディング」紹介動画

もう1つは、これまで以上に高付加価値のサービス提供が可能になることだ。従来の信用情報のみでは、年収の低い個人や、過去の売上データが芳しくない法人は、融資を受けられたとしても高金利にならざるをえなかった。しかし、住信SBIが提供する「レンディングワン」などのトランザクションレンディングサービスでは、企業の売上状況を新しい信用情報として参照することで、即日で最大1億円までの融資を低金利で可能にしている。

ほかにもメルカリでは、サービスの利用状況や評価の高さといった新しい信用情報を取得できるユーザーに対して、「メルカリ月イチ払い」という後払い決済サービスを提供している。

お金の貸し手が新しい信用情報を活用することで、借り手の信用をより精緻に推し量ることができるようになったからこそ、双方にとって、低コスト低リスクかつスムーズな取引ができるようになったのだ。

そして最後に、新しい信用情報は、その可能性を金融以外の領域に派生していけることにも価値がある。個人の嗜好性や行動の結果や人脈といったよりパーソナルな情報を精緻に可視化することから、金融に限らずとも、いわゆる信用によって成立するさまざまな領域で、商取引を活性化することができるのだ。

最たる例は、シェアリングエコノミーに代表されるCtoCサービス。貸し手、借り手ともに信用が重要なこの領域では、双方が安心して利用できるサービスを目指し、早期からSNSなどの情報が活用されていた。人材のマッチングにおいても、求職者のパーソナリティを推し量る多面的な指標として、キャリア以外の観点で新しい信用情報が活用されるようになるかもしれない。そのほか、当然マーケティングデータとしての活用も可能。電通やUFJ信託銀行の「DPRIME(ディープライム)」といった情報データ銀行の登場は、個人のパーソナルな信用情報をマーケティングに活用する動きを加速するものだと思われる。

信用情報の利活用に向けた各国の状況

個人の信用情報をどの主体がどう蓄積するかは、国や地域によっても扱いが異なる。中国では、行政や一部の企業が「社会信用システムの構築のため」として、個人の信用情報を中央集権的に掌握、管理している。これにより、急速なスピードで信用情報や信用スコアの活用が進んだが、スコアが低いために社会の利便性が極度に低下し、不利益を被る個人も一部出てきており、ディストピアと称されることもあるのだ。

一方、欧州ではGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、個人が自分の情報を「どの企業にどこまで渡すか」を意思決定できる状態になっていることから、中央集権的な管理ではなく個人に強く帰着される傾向にある。

個人データの蓄積方法や主体に違いはあれど、中国、欧州どちらも、個人データを利活用する土台が整備されてきていると言える。

今後、日本でも、個人の信用情報は、信用スコアの算定とそれに基づくサービスとして利活用されていくだろう。信用スコアに関する事業としては、ソフトバンクとみずほ銀行の合弁会社であるJ.scoreを端緒とし、すでにドコモも参入を公表している。

しかし現状の日本では、行政や企業が個人の信用情報を個別に保有しており、今年5月に改定された個人情報保護法の範疇では、匿名データにマスキングした形でしか、個人データの受け渡しや企業間の利活用はできない状況だ。今後、信用情報の利活用領域に対して、日本でもさらなる法整備を実施していくことが想定されるが、中国型、欧州型のどちらの発想になるかにより、サービスや受け入れられ方に大きな差異が生じることは間違いない。