「フォルクスワーゲン」の記事

EVシフトの反動? なぜ自動車メーカーがエンジンを語り始めたのか

EVシフトの反動? なぜ自動車メーカーがエンジンを語り始めたのか

2018.03.26

ここ最近、自動車メーカーからクルマのエンジンに関する発表が相次いでいる。トヨタ自動車は「パワートレーン技術説明会」と題して新しいエンジンについて語り、メルセデス・ベンツは3月に新開発のエンジンを発表。フォルクスワーゲンは20年ぶりに日本市場でディーゼルエンジンを復活させるとし、その技術について詳細な説明を行った。

クルマは遅かれ早かれ電動化していくとの見方がある中で、各社が今、エンジンについて語り始めたのはなぜなのか。新開発のエンジンを積んだメルセデス・ベンツ「S450」に乗る機会があったので考えてみた。

新開発のエンジンを積んだメルセデス・ベンツ「S450」に試乗

クルマの電動化は進むのか、エンジン復権か

2017年は、世界の自動車メーカーが電動化へ大きく舵を切る決断を行った年だった。いつ新しい電気自動車(EV)が登場してくるのかと期待は高まる。

一方で、今年2月に入って以降、まずフォルクスワーゲンが最新のディーゼル技術を投入した「パサートTDI」を日本市場に導入した。またトヨタも、パワートレーン技術説明会と称し、エンジンや無段変速機(CVT)の技術発表を行っている。3月には、メルセデス・ベンツ日本が新技術説明会と銘打ち、新開発のエンジンを紹介した。

エンジンに関する発表が相次いだことから、クルマは電動化するのか、それともエンジンの復活かと疑問が頭に渦巻いた人もあったかもしれない。

メルセデス・ベンツ日本は「S450」のデビューにあわせて新開発エンジンについて詳しく説明した

しかし、クルマの電動化はもう後戻りしない。世界的にCO2(二酸化炭素)排出規制は強まる方向にあり、自動車の市場動向と関係なく、各国の政策にも対策が織り込まれている。気候変動の影響も顕在化し、海水温度が上昇することで世界の気象が異常な状況になっている。

ただし、EVへと全面的に移行するまでには、時間を要する。なぜなら、EVの車種がすぐには出そろわないという選択肢の不足だけでなく、顧客の意識の問題もあるからだ。

EVの航続距離についてドイツの考えは

例えばドイツの場合、速度無制限区間のあるアウトバーンが整備されていることにより、200キロの距離を1時間で移動できてしまう交通環境がある。1時間の移動なら、日本でも電車通勤している人が当たり前に費やしている時間ではないだろうか。そういう日常の時間感覚のなかで、片道200キロを日帰りで往復すれば、400キロの行程をドイツではクルマでこなすことができ、途中で寄り道をすることもあるなら、500キロは走れる余裕が欲しくなるだろう。

例えば電気自動車(EV)のBMW「i3」(画像)は、充電1回あたりの航続距離の目安として390キロという数値を提示している。これだけ走れば街中で乗るには十分だし、遠出も可能のように思えるが、日本と異なる交通環境のドイツでは、また別の考え方があるのかもしれない

米テスラのEV「モデルS」は、1回の充電で500キロ以上の走行性能を備えるが、ドイツ人の中には、500キロを1日で走ってしまう人もいる。そういった人達は、予定外の移動も視野に入れて、1,000キロは走れる能力を欲しがる傾向が強いようだ。だが、それに対処できるEVはまだ存在しない。航続距離を倍増させるためにはバッテリー搭載量を2倍にすればよいかというと、バッテリー重量が増えれば航続距離も減ってしまうので、そう単純な話でもない。

EVの選択肢が増え、消費者がEVを志向するようになるまでには、やはり時間がかかる。その間、自動車メーカーは、電動化とエンジン存続の両方を行わなければならない辛さがある。なおかつ、燃費向上によるCO2排出量削減は待ったなしだ。さらに、自動車メーカーにはエンジン生産設備があり、エンジン開発や生産に携わる従業員がいるので、新興のEVメーカーのように、今日から全面EV化というわけにもいかないのである。

EV時代へ徐々に軟着陸させるにはどうしたらいいか。自動車メーカーの苦悩がうかがえる。

直列6気筒エンジンが復活

そうした中で、メルセデス・ベンツが発表した新エンジン技術からは、トヨタやフォルクスワーゲンが語るエンジンの効率化だけでない、パワーユニットをシステムで構築する新たな構想を見てとることができる。

メルセデス・ベンツの新エンジンは、直列6気筒の基本骨格を採用する。直列6気筒とは6つのシリンダーが直線的に並んだ形式で、エンジンの中では最もバランスが良く、振動が少なく、また高回転まで滑らかに回るエンジンとして知られている。かつて1960年代から70年代頃の日産「スカイラインGT」や「GT-R」、「フェアレディZ」、トヨタ「2000GT」など、往年のGTカーやスポーツカーはいずれも、直列6気筒エンジンを採用してきた歴史がある。

「S450」のエンジンは直列6気筒だ

海外ではBMWが直列6気筒エンジンにこだわり、英国のジャガーも直列6気筒や、それをV字に組み合わせたV型12気筒エンジンを使ってきた。そのように、高性能車や高級車の証ともいえるのが、直列6気筒エンジンであった。「シルキーシックス」とも呼ばれるこのエンジンは、絹のような滑らかさで回転すると称えられてきた。もちろん、メルセデス・ベンツも直列6気筒を主流としていた。

ところが、1990年代以降は衝突安全性能の向上が求められ、ことに前面衝突において、フロントバンパーと客室の間に衝撃の緩衝部分として十分な空間が必要になった。エンジンは硬い金属の塊であるため、エンジンルーム内でできるだけ小さい寸法であることが空間の確保には望ましい。そこで、同じ6気筒エンジンでもV型にしてエンジン全長を短くすることが行われ、メルセデス・ベンツからも、1997年で直列6気筒エンジンは姿を消している。

1度は姿を消した“直6”を復活させたメルセデス・ベンツ

将来的に生き残り可能な多気筒エンジンを

ダイムラーは直列6気筒エンジンを採用するにあたり、電動技術を追加した。モーター機能付き発電機の意味を持つ「ISG」(Integrated Starter Generator)という仕組みだ。ISGはエンジン始動、アイドリングストップからの再始動、加速の補助力として働くほか、減速時の回生も担う。

「S450」の運転席(左ハンドル)

新エンジン開発の目標について、メルセデス・ベンツ日本の広報は、将来的に生き残ることが可能な多気筒エンジンを目指すこと、そしてエンジンの欠点であるトルク(回転力)の立ち上がりの遅れや振動を補うことの2点を示した。

エンジンとモーターの融合

将来的に生き残ることが可能な多気筒エンジンを目指すという目標を達成するには、新しい発想が求められる。20世紀の設計のままでは、馬力は出せても燃費を両立させるのが難しい。生き残るためには、馬力と燃費の両立が欠かせないのだ。

多気筒エンジンの生き残りを図るため、設計の見直しは不可欠だった(画像は「S450」)

では、トルクの立ち上がりの遅れや振動を補うとはどういうことか。まずエンジンは、アクセルペダルを踏み込んでから力が出るまでに、ある程度まで回転が上がらないと威力を発揮できない。ことに低回転からの発進加速では、エンジンの振動が車体に伝わりやすく、アイドリング時にはブルブルと振動が出る。対するモーターは、アクセルペダルを踏み込んですぐに大きな力を出せるのが特徴で、スタートダッシュが効く上、振動はほとんどない。高性能車や高級車の条件として、エンジンよりモーターの方が圧倒的に優れているのだ。

エンジンの中ではバランスが良く、振動の少ない直列6気筒エンジンと、モーター技術を使うISGを組み合わせることにより、高度なシステムとして設計されたのが、メルセデス・ベンツの新しいエンジンなのである。

直列6気筒と「ISG」の組み合わせで新たなエンジンが生まれた

なおかつ、アウトバーンを時速200キロ以上で安定して走れて、そこからの追い越しでも力溢れる加速を実現するため、排気を利用する過給機のターボチャージャーも、このエンジンは装備する。またターボチャージャーは、燃焼を終えたガスが十分に排気されてからでないと過給が機能しないため、エンジン回転数に関わりなく、吸気を過給できる電動スーパーチャージャーも装備した。

低燃費だけではないハイブリッドの捉え方

あらゆる技術を総動員し、それらの長所をつなぎあわせ、高性能かつ高効率で燃費が良く、さらに静かで振動の少ない総合システムとしてメルセデス・ベンツが開発したのが、この新エンジンなのである。いうなればハイブリッドなのだが、これまでのハイブリッドは燃費重視で開発される傾向にあった。ターボチャージャーや電動スーパーチャージャーを加えた高性能なハイブリッドとしたところに、総合システムとしてのメルセデス・ベンツの狙いがある。

このエンジンのシリーズ名は「EQブースト」という。EQとはメルセデス・ベンツの電動化技術を表す象徴的なアルファベットであり、「Electric Intelligence」を意味する。今回の動きが、単に新しいエンジンの登場ではなく、あくまで電動化の一環であることを示している。

新エンジンの誕生も電動化の一環と見ることができる(画像は「S450」)

「最善か無か」で開発した新エンジン

クルマの電気系は、従来ずっと12ボルト(V)のバッテリーを使う電源に頼ってきた。また、エンジン冷却のウォーターポンプや、空調(エアコンディショナー)のコンプレッサー、過給のスーパーチャージャーなどは、エンジン回転から動力を得て駆動してきた。

それらに対し新エンジンは、バッテリー電圧を高めること、および補器類を電動化することにより、ベルト駆動をなくし、全長の短縮を行っている。既成概念であった12V電源や、補器の駆動はベルトによるといった考え方を取り払い、どういう仕組みが目的に対して最適かと考えた開発姿勢を見ることができる。

電動化によりベルトレスなエンジンを作った

ダイムラー(メルセデス・ベンツを製造する会社)の起業哲学に、「最善か無か」の言葉がある。開発する新車や新技術が、最善策で作られているかを問う言葉だ。例えば原価低減のため、目的通りの性能を追求できないとしたら、それは最善ではないので、同社にとって無に等しいという意味だ。

そうした厳しい企業姿勢が、EV普及までの時代をつなぐ最善策としてのエンジン開発に向かわせたのだろう。もちろん、最善を求める設計思想は、メルセデス・ベンツのようなプレミアムブランドの高額商品でなければ、企業活動の採算に合わなくなる可能性がある。しかしそれも、歴史に裏打ちされた永年のブランディングの成果であるといえるのではないか。

ガソリンエンジン車を生み出した自動車メーカーとして

もう1つ、今回の開発で興味深いのは、責任者が元F1のエンジン開発者であったという経歴である。

量産市販車でエンジンは心臓部と言われ、主役となる重要部品である。しかし、F1を含むレースの世界では、軽量な車体や空力性能の優先順位が高く、その条件に合わせるため、エンジンは徹底的な小型化が求められる。とはいえ、馬力が足りなくては勝負にならない。

「S450」が積む新エンジンにはF1のノウハウも生かされている

制約の中で、いかに競争相手に勝てる高性能なエンジンを開発できるか。そうした経験が、あらゆる既存技術をゼロから検証し、長所を最大限に生かして小さく作るという、今回のエンジン開発に役立ったのではないかと思われる。実際、メルセデス・ベンツ「S450」に搭載されたエンジンは見るからに全長が短く、衝突安全のための空間がエンジンルーム内にしっかり確保されていた。衝突安全性能という弱点のため数を減らしていった直列6気筒エンジンを、メルセデス・ベンツが復活させられた理由だ。

エンジン単体の効率を高めたり、変速機の効率を高めたりする要素ごとの進化ではなく、システムとして総合性能を極める21世紀型の開発の仕方に、さすがガソリンエンジン車を世界で初めて生み出したメルセデス・ベンツだと同社の誇りを感じるのである。

「S450」は衝突安全のための空間をエンジンルーム内に確保している

なおかつ昨年、フランスや英国の政府が表明した、2040年にエンジン車の販売を禁止する政策を視野に、この先20年は持ちこたえる動力としての素養を満たした最後の高性能エンジンとの印象も受ける。20年という年月を考えれば、ゼロから発想したというエンジンの開発費も、十分に採算が合うはずだ。

フォルクスワーゲンが新型「ポロ」発売、イメージ刷新は誰のため?

フォルクスワーゲンが新型「ポロ」発売、イメージ刷新は誰のため?

2018.03.21

フォルクスワーゲン グループ ジャパン(VGJ)が新型「ポロ」を発売した。6代目となる今回のモデルでフォルクスワーゲンが強調するのは、シャープで力強いデザインや広い室内空間。全長も65mm大きくなったというから、これまでとは違った客層にも響く商品になっているのかもしれない。

新型「ポロ」が発売となった

共通プラットフォーム採用で変身した「ポロ」

新型「ポロ」の発表会に登壇したVGJのティル・シェア社長が、まず初めに提示したのは「ベストセラーの進化」というメッセージだ。進化とは「長い伝統の上に新たな時代の要請への答えを積み重ねていくこと」と定義した。ポロは1975年の誕生以来、世界で累計1,400万台の販売実績を持つフォルクスワーゲン(VW)の人気商品だが、日本では1996年に本格導入が始まり、これまでに25万台以上が売れているという。

40年を超える歴史を持つポロだが、今回の新型で注目すべき進化のポイントは、VWが展開する「MQB」というモジュラー戦略を採用したことだ。設計の基本となるプラットフォームをVWの他の車種と共有することで、上級モデルの「アルテオン」などと共通の技術や品質をコンパクトカーであるポロにも落としこめるようになった。

グレードは3つ。価格は税込みで209.8万円~265万円からだ

「ゴルフ」「パサート」「ティグアン」「アルテオン」といった、大きさも価格も違うクルマでVWが共有するMQBは、サイズをモデルによって柔軟に変えられることを特徴とする。ポロが全長4,060mmであるのに対し、VWの最上級モデルであるアルテオンの全長は4,865mmだ。ただ、先代と比べるとポロの全長は65mmも伸びていて、ホイールベース(前輪と後輪の中心を結んだ距離)に至っては80mmも長くなっているそうだ。

イメチェンで女性人気に影響は?

シェア社長によると、現行ポロのユーザーは48%が女性であるとのこと。女性に支持された理由としては、取り回しの良さ、安全性能の充実ぶり、日本に適したサイズ感といったポイントを挙げた。だが、新型ポロからは、もう少し男性客にも訴求したいというVWの思惑が見てとれる。

女性にも支持されている「ポロ」だが、新型は少しイメージが変わった

まずデザインを見ると、フロントマスクは横に長く位置の低い水平方向のラインで「ワイド・アンド・ロー」な雰囲気をかもし出しているし、ボンネットにはV字ラインを入れてシャープさを演出している。サイドから見ても、ウィンドウの下部を斜めに横切るキャラクターラインが鋭い印象だ。新型ポロの販売開始と同時に公開となったスペシャルムービーでは、「カワイイだけで、生き残れる時代じゃないから。」とのメッセージを明確に打ち出してもいる。

横に長い線を使ったフロントマスクと、鋭いキャラクターラインが入るサイドシルエット

新型ポロのターゲット層は、20~40代で単身あるいは若いファミリー層に設定しているとのこと。荷室容量は先代から71リットルも増えて351リットルとなり、使い勝手は向上しているとシェア社長は強調した。先行受注は3月2日に開始しており、これまでに1,000件を超える注文を得ているという。

小さくてかわいいクルマから「大人になった」(シェア社長)ポロ。VWとは最も距離が遠そうな若い女性客のため、ポロではイメージをキープしていくという戦略もありだったのではないかとも思えるが、より間口の広くなった新型ポロには、「これまでのモデルを超える販売台数を」とシェア社長は期待を込めた。

スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

2018.03.05

クルマの電動化はスポーツカーの世界にも及ぼうとしているが、ポルシェも例外ではない。それどころか、同社は巨額の投資を行い、電化を急いでいる側面もある。そこで気になるのは、“電動ポルシェ”がポルシェらしいのかどうかだ。その辺りを含め、ポルシェの電動化についてポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長に話を聞いた。

ポルシェは独特の乗り味を持つクルマだが、電動化するとポルシェらしさは減るのか、増えるのか(画像は「911 タルガ 4 GTS」)

スポーツカーに電化の波、ポルシェ「ミッションE」の衝撃

スポーツカーの世界では、すでにハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)で市販されている車種もある。例えばポルシェは、2010年にSUVの「カイエン S ハイブリッド」を、また同様のシステムで2011年には「パナメーラ S ハイブリッド」を発売している。BMWは電動車の新しいブランドである「i」を立ち上げ、2013年にPHVスポーツカーの「i8」を発売した。

イタリアのフェラーリは、「ラ フェラーリ」(LaFerrari)というHVを世界限定499台で2013年に発売。このクルマには、F1のレースカーで当時採用していたエネルギー回生システムを応用した機構を用いているといわれる。

中でも、スポーツカーメーカーであるポルシェが、クーペボディの4ドア電気自動車(EV)「ミッションE」(Mission E)を2015年に発表し、2019年にも発売を開始する予定であると宣言したのは、かなり衝撃的な出来事だったといえるだろう。

2015年のフランクフルトモーターショーで発表された「ミッションE」のコンセプトカー(画像提供:ポルシェ ジャパン)

電動ポルシェに乗ってみた感想は?

その試作車に同乗したという、ポルシェ ジャパンの七五三木社長は、「まぎれもなくポルシェだった」(以下、発言は七五三木社長)と感動的に語る。では、「まぎれもないポルシェ」とは、どういう意味なのだろうか。

「コンピュータで操縦特性を変えられたり、エンジン車以上に駆動輪の制御が緻密な感じがしたりしましたが、ポルシェの開発者たちは、(電動化は)自動運転のようにクルマが走りを制御するのではなく、あくまで運転者を助けるための技術だと言います。運転者はハンドルから手を離すことなく、走る、曲がる、止まるの動きを、EVでもエンジン車と同じように感じられなければならないと考え、開発しているようです。制御装置の凄さではなく、人馬一体感が根幹となるスポーツカーでなければならないとの定義が、ポルシェAG(ドイツ本社)の中にはあります」

話を聞いたポルシェ ジャパンの七五三木社長

「EV化をしても、これまでと全く変わらないのが理想でしょう。ミッションEが目指すのは、加減速を何度繰り返しても、バッテリーの充電残量が減ることによる性能低下を覚えさせないこととのリリースも発表しています」

2017年7月、フランス政府と英国政府は相次いで、2040年にはエンジン車の販売を禁止するとの声明を出した。それ以降、自動車業界は電動化へと大きく舵を切り始めた。だが、ポルシェも同じように慌てて電動化へ移行したのではなく、あくまで電動化してもポルシェはポルシェという、スポーツカーの乗り味を実現できるから取り組むのだと、七五三木社長は力強く答えた。

ポルシェの始まりは電気自動車だった

そもそも、ポルシェの創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマは、EVの「ローナーポルシェ」だった。19世紀末のエンジンは未熟で、電動のモーターの方が動力として有望であった。

フェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマであるEVの「ローナーポルシェ」(画像提供:ポルシェ ジャパン)

ポルシェの電動化を支えるのが、ポルシェAGが発表した60億ユーロ(約8,000億円)を超える「E-モビリティ」(電動化車両などのこと)への投資だ。七五三木社長は次のように語る。

「主力工場のあるツッフェンハウゼンでは、それまで駐車場に使っていた土地にミッションEを作る工場を建てました。また、ドイツの雑誌には、2023~2024年の間に、50%を超える電動車比率にするとルッツ・メシュケCFOが語った記事が掲載されました」

「ミッションE」(画像はコンセプトカー)の試作車がすでに誕生している(画像提供:ポルシェ ジャパン)

「2015年のミッションEの公表に始まり、2017年には具体的な電動化車両の数値をCFOが語り、そのため60億ユーロを超える大きな投資を行うという、電動化へ向けた3つの大事な発表をポルシェAGは行っています」

あわせてポルシェAGは、同じフォルクスワーゲン(VW)グループのアウディと、EVのプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)の開発を共同で行うと発表している。これにより、開発速度を早めることができ、各社の投資額も抑制することが可能だとする内容だ。ただし、この点について七五三木社長は、現在コメントできる内容はないとした。

日本でも増え始めた「パナメーラ」のPHV

では、ポルシェの電動化の動きは、日本市場にどのような影響や、状況を生み出すのだろうか。

カイエンやパナメーラではPHVの販売が日本でも開始されているが、パナメーラの例でいえば、「2015年に販売の15%であったPHV比率が、新型パナメーラでは25%に増えています。そのような市場の変化の中で私が驚いたのは、『ポルシェカップ』というポルシェのワンメイクレースに出場していた方が、パナメーラのPHVをお求めになり、大変満足していらっしゃることです」と七五三木社長は語る。

「パナメーラ ターボ S E ハイブリッド」(画像提供:ポルシェ ジャパン)

ちなみにフランス市場では、2016年にパナメーラのPHV比率が10%ほどであり、ディーゼルエンジン比率がガソリンよりも高かった状況であったのが、翌2017年にはPHV比率が一気に65%まで高まったという。逆に、ディーゼルエンジン比率が激減し、エンジン車ではガソリンが上回る結果になっているとのことだ。

フランスは、全般的にディーゼル車の比率がもともと高かった。だが、昨年のフランス政府の発表より前の2014年に、パリのアンヌ・イダルゴ市長が、パリ市内へのディーゼル車乗り入れ禁止を打ち出した影響もあるだろう。

日本の充電インフラ整備にも目を向けるポルシェ

ミッションEの日本導入は、東京オリンピックの2020年前後あたりか、しばらく先となるようだ。導入までには電動車の受け入れ態勢を整えたいと七五三木社長は語る。

「テスラの例を耳にしたのですが、お客様の4割ほどは自宅に充電設備を持っていないとのことです。したがって、充電インフラの整備が重要であると思っています。ただし、それを1社でやるのは大変ですから、フォルクスワーゲングループとして充実させていければと考えています」

具体的には、ディーラーやサービス拠点に充電器の設置を進めるという。

日本で電動車の受け入れ態勢を整えたいと語った七五三木社長

充電設備の設置に日本独特の課題も

日本は、高級車や高性能スポーツカーを所有する富裕層も、マンションなど集合住宅に住む例が都市部では多く、一方で、既存の集合住宅の駐車場への充電設備の設置は、管理組合の合意を得なければ難しい状況にある。また、充電設備を利用した人に対する料金の徴収に認証機能などが必要となるため、急速ではない200Vの普通充電においても、高額の充電器を設置する必要がある。

戸建て住宅であれば、数千円の200Vコンセントに加え、配電盤からの配線工事であれば数万円から10万円程度で充電設備を設置できる。ところが、集合住宅では設置する上で課題があり、EV所有者が自宅に充電設備を設置できない比率が高い。

この状況を打破するため東京都は、集合住宅への充電器設置の費用と、管理組合などでの合意形成の支援を都として行うと、2018年の初めに表明した。

「まぎれもないポルシェ」の乗り味を提供できるか

ポルシェの電動車導入の件でもう1つ、七五三木社長は「できるだけ早くEVを導入し、お客様に体験していただくことも大切だと考えています」と話す。

日本ではなお、EVは走行距離が心配だとか、走りがよくないのではないかといった先入観を持つ人が多い。なおかつ、多くの人がモーターの走りを経験していないため、電動化したポルシェが、どのようなポルシェらしさを発揮しうるのか、想像できないというのが正直なところだろう。

「911 タルガ 4 GTS」(画像左)をオープントップにして走ると顕著に感じられるのだが、ポルシェはエンジン音にも独特の魅力がある。走りの静けさを特徴とするEVの「ミッションE」(画像右、提供:ポルシェ ジャパン)で、音はどうするのか。七五三木社長に聞いてみると「秘密」とのことだったので、何か工夫があるのかもしれない

ちなみに、600馬力のモーター出力を持つミッションEは、静止状態から時速100キロまでの加速をわずか3.5秒でやってのけると公表されているが、実はテスラの4ドアセダンである「モデルS」は同2.7秒だ。単に数値を比較するだけなら、スポーツカーより4ドアセダンの方が速いということがEVでは起こりうる。

記事の冒頭で七五三木社長が「まぎれもなくポルシェだった」と感想を述べたような乗り味を実体験することは、EVにとって何より重要であり、また何よりポルシェファンも安心するに違いない。

PHVの導入においても、環境性能を無視するわけではないものの、ポルシェはあくまで、パフォーマンスに重点を置いている。新型パナメーラのPHVは、最上級車種として位置づけられているくらいだ。つまりポルシェは、電気の力をクルマの走りに活用している。まずはポルシェの最新PHVが、どのようなポルシェらしさを携えているのかが気になるところだが、いずれ報告できる機会があるかもしれない。