パナソニックが描く未来のクルマ像 --車内空間の進化で移動と生活は融合する

パナソニックが描く未来のクルマ像 --車内空間の進化で移動と生活は融合する

2018.11.02

パナソニック、最新クルマ技術による暮らしの変化をテーマにセッション

これからのクルマは通信が前提になり、車内空間が格段に快適になる

地方創生にもつながる未来のモビリティ、パナ独自のノウハウに期待

パナソニックが、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。その中で、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長らが、「変革するモビリティ~ミライのクルマ、街、くらし~」をテーマにしたビジネスセッションを行った。

セッションにパナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長、同 柴田雅久上席副社長のほか、慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏、モータージャーナリストの岡崎五朗氏、ファッションモデルの蛯原友里さん、モデレータとして三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員が参加

オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、パナソニックの車載関連事業を中心とした社内カンパニーだが、セッションの話題はクルマだけに留まらず、人々の生活全体に対して、自動運転などの最新技術が与える影響を探っていく内容になった。

パナソニックが完全自動運転時代にできること

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長

伊藤社長は冒頭、パナソニックが目指すモビリティ社会について以下のように説明した。

「クルマを取り巻く環境には、『コネクティッド(Connected)』、『自動運転(Autonomous)』、『電動化(Electric)』、そしてクルマの『シェア(Sharing)』といった、『CASE』と呼ばれる変化が起きている。これらの変化の対応には、パソナニックがテレビやデジカメなど、家電で培ってきた技術が貢献できる。デジタルAVC技術や画像処理技術、電池、電源技術を活かして、コックピット、ADAS、自動運転、電動化の分野で、クルマの進化に貢献したい」

また、将来的に完全自動運転が実現した世界での“挑戦”にも言及。「ドライバーが運転から解放されると、移動時間の過ごし方が大きく変わる。パナソニックは創業以来、家電と住宅設備で、よりよい暮らしのための住空間を提供してきた。この住空間の技術やノウハウとコックピットシステムを融合させ、新たなコンセプトの移動空間を作る」と語る。

「新たな移動空間としての次世代キャビンは、乗っている人の状態をセンシングすることで、その人に最適な空間を提供する。人の体温にあわせて空調をコントロールしたり、用途にあわせて照明や音響をコントロールしたりすることで、リビングのような空間を作り出すことができる」と、将来的な展望も付け加えた。

「あわせて、未来のモビリティにも挑戦する。パナソニックは、藤沢と綱島で、スマートタウンをオープンした。エコで快適、安心、安全のインフラを提供している。ここでは、小型EVモビリティが街のなかを行き交い、子供たちの送迎に利用されるなど、地域の移動を支えていくことになる。街の活気を高めるモビリティサービスを提供したい」

これからのクルマは「つながる」

これら伊藤社長の話を受け、三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員をモデレータに、伊藤社長のほか、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の柴田雅久上席副社長、慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏、モータージャーナリストの岡崎五朗氏、ファッションモデルの蛯原友里さんが参加してパネルディスカッションが行われた。

慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏

慶應の村井教授は、日本におけるインターネットの父と呼ばれる存在。「インターネットの前と後では生活が大きく変わった。いま普通のことが、インターネット以前にはどうやっていたのだろうと思うほどだ。最初はコンピュータが有線でつながっていることが、”つながっている”ことの証であり、それが格好いいとされた。当時のインターネットの世界をリードした雑誌の名前がWiredだったのもそれが理由だ」と前置きた。その有線接続が主流だった黎明期の当時から、「コンピュータをクルマに組み込むと、人と一緒に動くことができると考え、クルマへの搭載を進め、それから持ち運べるようなものを作ろうとした。そこからビジョンを考えて続けて、いまに至っている」と、インターネットが登場した早い段階から既に、クルマをベースにした研究が始まっていたことを示した。

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の柴田雅久上席副社長

これを受けて、パナソニックの柴田氏は「これからのクルマは、通信が前提になってくる。次世代通信規格の5G、準天頂衛星のみちびきによるGPSの進化、V2Xと呼ばれるクルマとクルマ、クルマと人、クルマとインフラがつながることで、さらにクルマは進化することになる。自動運転が発展し、運転をすることよりも、移動が主になる」とし、それにより、「クルマにはさらに車内空間の快適性が求められるようになる。パナソニックが培った技術を車内空間に生かすことができる」と話した。

三菱総研の杉浦氏は「快適なリビングやホテルのような車内空間になると、もっとクルマは便利になる」と指摘。岡崎氏も、「これまでのクルマは、走る、曲がる、止まるという3つの要素があり、そこにデザインがすばらしければ、いいクルマと言われた。この考え方が100年間続いてきた。だが、これからは、ここに、つながるという要素が加わることになる。つながることが、我々をワクワクさせている」と期待を寄せる。

三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員
モータージャーナリストの岡崎五朗氏

一方、村井教授は「これまでのクルマ移動は、”運転”する必要から、子供の世話ができない、仕事ができないという状況になっていた。生活と移動が乖離していた。だが、コネクティッドオートモバイルでは、移動している間も、生活と同じことができる環境が実現する。生活のなかに、移動を溶け込ませることができる」と指摘。これに対し子育てと仕事を両立中の蛯原友里さんは、「運転で最もストレスなのが駐車するとき」で、「運転中に、後席のチャイルドシートで子供が急に泣きだし、なにもできないということがある。運転中も子供の相手ができる時間がつくれたらいいと思っている」と、実体験をもとに語る。

ファッションモデルの蛯原友里さん

柴田氏は「全周囲カメラで障害物を検知する機能で、駐車のストレスを軽減できる。さらに次のステップでは、クルマが自動で駐車してくれる。その次にはショッピングモールの店の入口で降ろしてくれて、あとはスマホ操作でクルマが自動的に駐車スペースを探して駐車してくれるようになる。また、ドライバーの眠気発生時などに注意を促すシステムを開発しているが、この技術を応用し、後席のお子さんが泣かないように対話してくれるといったシステムも可能になるだろう」とした。

伊藤氏は「技術的に難しいものでも、使いやすいことが大切。技術者視点で作ってしまうと使いにくいものができてしまう可能性がある。パナソニックは、白物家電を長年やってきた。その上で、スイッチの場所、表示方法などを含めた使いやすさを追求してきた。この点でもパナソニックが貢献できる」と付け加える。

また今後は、カーシェアリングの仕組みにより、使いたいとき、必要なサイズのクルマを利用するスタイルが広がるという指摘があがる。柴田氏はそれに同調しながら、「とくに女性から、前の利用者のたばこ臭やポテトチップのニオイが気になるという声がある。前の利用者がインフルエンザや風邪だったということも想定できる」とし、蛯原さんも「子供を病院に連れていく際、逆に風邪がうつるかもしれない」と心配する。柴田氏は「パナソニックのナノイー技術で車内の空気をきれいにできる。シェアリング車に乗るだけで、髪や肌に潤いを与えるということにも使える」とし、さらに村井教授は「病院に行かなくても、クルマのなかで移動中に診療が受けられたり、診療したりできる時代がやってくる」と展望を話した。

モビリティは地方創生にも貢献できる

セッションでは、地方都市におけるクルマの必要性についても議論があった。地方ではクルマが必要不可欠な移動手段であるものの、高齢化で、住民の免許返納も進んでいかざるを得ないという問題が生まれている。

参加者たちは、自動運転の実現が、こうした地方の移動の問題を解決したり、ドライバー不足を解決する手段になると話しあう。また自動運転車が、地方都市を訪れる外国人観光客に対しても、新たに有力な移動手段のひとつになり、地方創生にもつながっていくことなどが話された。杉浦氏は「モビリティは、地方のインフラを活性化することができる。地方創生において、これからはモビリティによる社会を作る必要がある」と結論づけた。

最後に、モータージャーナリストの岡崎氏は「移動の自由度を高め、快適性を高め、安全性を高め、これを安価に利用できることが求められている。今後のモビリティに期待したい」と述べる。蛯原さんは「自動運転によって子育てにもいい影響をもたらし、みんなが笑顔になれるクルマが登場してほしい」と発言した。村井教授は「パナソニックには、人の周りにあるものを使いやすくするという知見が蓄積されている。自転車、車椅子、小型EV、自動車など、様々な移動手段において、これらのノウハウが生かされることに期待したい」と述べ、セッションを締めくくった。

日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

2018.10.31

パナソニックに出戻った異色のリーダー 樋口泰行のビジネスセッション

日本の優秀だが活かされない人材と、いいものを高く売れない経営者

まずはアマゾン、グーグル、アリババに追いつけない現実を直視

パナソニックは、創業100周年を記念した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018(CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018)」を、10月30日~11月3日まで、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している。同社・津賀一宏社長をはじめ、各カンパニー社長の基調講演、各界有識者による特別講演などのシンポジウムに加え、パナソニックが描く近未来の世界を紹介する展示を行う。

開催初日に行われたパナソニックの津賀一宏社長による基調講演のテーマは、「次の100年の『くらし』をつくる~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~」。今後のパナソニックの役割を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

そして翌日には、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長による「日本企業の復活―次なる成長に向けた変革へのチャレンジ―」と題したビジネスセッションが行われた。

ここでは、サントリーホールディングスの新浪剛史社長と、大学院大学至善館の野田智義理事長をゲストに迎え、国際競争力が急速に低下し、労働生産性も先進国で最低水準が続く日本が、「再び世界で勝つためには何が必要なのか」といった観点から、日本企業共通の課題を浮き彫りにし、新たな時代を見据えた戦略変換や、かつて日本の強みを支えた企業文化からのマインドチェンジなど、次なる成長に向けた変革の方向性について議論した。

3氏は米ハーバード・ビジネススクールでともに学んだ仲であり、お互いに冗談を言い合うシーンがみられるなど、セッションは和んだ雰囲気のなかで進められた。話の脱線ぶりに、ファシリテータを務めた至善館の野田智義理事長は、「10分間やってみたが、予定調和の話にはならないと思った。用意したシナリオはなしで進める」と宣言したほどだった。

サントリーホールディングスの新浪剛史代表取締役社長
大学院大学至善館 創設者・理事長の野田智義氏

外を見ず一生懸命な社員と、逃げ切りモードのリーダー

今回のビジネスセッションでは、樋口社長と新浪社長が、テーマにあわせて絵や写真を用意し、その意図などを説明する形で進行した。

最初のテーマは、「日本企業の現状と課題、ポテンシャル」である。

樋口社長は、1枚の絵をスライドに映し出した。

「日本人は世界で一番優秀で、勤勉であり、人間的にも優れた国民性を持ち、パートナーを組むにも信頼性が高い。頑張れば失敗しないはずだが、なかなかそうはなっていない」とし、「日本企業丸」と書かれた船に、日本人が乗った絵を見せた。

「周りが大変な荒波になっていて、しかも、船底には穴が開いて、沈み始めているのに、それが見えておらず、優秀な人たちが目の前のPCに向かって、社内の仕事を一生懸命やっている。外を見ていないから危機感がない。沈んでいくことになにも対策ができない」

「一方で、リーダー(社長)は、そんなに長くやるわけでもなく、タイミングが来たら、近くまで助けに来ているヘリコプターの梯子に飛び移ろうとしている。東京オリンピックまでは、景気はなんとかなるだろうという気持ちもあるのだろう。そして、社長にすりよる側近は、『ちゃんとヘリコプターで脱出できます』ということを進言している」と、その様子を紹介する。

的を射た指摘に、会場からは笑いが起きた。

これを見た新浪社長は、「その通りである。日本人はみんなでなにかをやるのはうまいが、出る杭は打たれる文化がある。そして、企業が大きくなればなるほど、外を見ようとすることが少なくなる傾向にある」と前置きし、「バブル崩壊以降、日本の企業は、人材の育成やリーダー育成を忘れてしまった。また、挑戦する意識も欠けている。これを変えていかなくてはいけない。私は、30代から社長を経験してきたが、小さい組織やユニットでもいいから、自分で意思決定をするといったことを、30代半ばまでに経験したほうがいい」と提言。樋口社長も、「一番の人材育成は、修羅場を経験することだという話を聞いたことがある」などと応じた。

新浪社長が示したのは、「コーヒーマシン」の写真だった。ここでは、日本企業の復活に向けたポテンシャルを示したという。

「私が某企業の社長(編集部注・ローソンの社長)のときに、コーヒーマシンをスイスの企業から調達しようと商談を行った。最初の調達でも1万5,000台規模の商談になった。価格は1台100万円。ボリュームディスカウントをしてほしいと提案したが、一切まけてくれない。相手は大きな会社ではなかったが、それでも、我々の商品は、これだけいいものであるからまけられないという。結局、その価格で購入した。これは、日本の企業でも同様である。自分が強みを発揮できる製品を作り続け、それによって顧客への価値を提供する。経営も価値をしっかりと認め、人材を育成し、末端までそれが浸透している会社は素晴らしい」と指摘。野田理事長は、「ある経営者から、いいものを高く売れないのは経営ではない、と言われたことがあった」と語った。

日本の企業はまだ行ける、という議論は無駄

もうひとつのテーマは、「実現のための3つのキーワード」。日本の企業が重視すべきポイントを、2人が、それぞれ3枚の絵や写真で示した。

樋口社長は、人が森を見たり、山頂から遠くを見たりしている絵を1枚目に示し、「木を見て、森を見ずと言われるが、さらに森の上にある山から遠くを見なくてはならない。世界の景色を見ないことには正しい戦略が立てられない」と話す。

そして、「電機の世界はデジタルとインターネットで様々なものがディスラプトされている。クラウドひとつを取ってみても、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アリハバに追いつくことは、もはやできない。一方で、中国の企業は、ハードウェアをコモディティ化することに長けている。こうした現実を見ないで、日本の企業はまだ行けるぞ、という議論をしていても無駄である。海外の企業とのベンチマーキングを怠っていたツケがいまにつながっている」と発言。

野田理事長は、「一度、ビッグピクチャーを見たことがある人は、風景が違うということがわかるが、ふもとにいる人は、高いところから見た景色がわからないという課題がある」と指摘した。それに対して樋口社長は、「あまり高いところからばかり見ていても、現場のことがわからないという問題が発生することになる」という別の課題も提起した。

2枚目は、フォーマリティを示したものであり、「日本は、儀式的なものをそのまま行う文化や、硬い文化がある。年齢、性別、役職に関係なく、会社を良くするために、正しいことをやるという仕組みがないと、世界の景色を社内に響き渡らせたり、現場の問題点を経営層に指摘したりといったことができない」とした。

そして、3枚目の絵は、ダイバーシティを示したものだという。「同質のものが、同じ方向を向いていては、後ろから鉄砲で責められても、それに気がつかずに、イチコロでやられてしまう。バラバラではいけないが、それぞれが持つ個性がひとつになることが強みになる」とした。ここでは、サッカー日本代表を例に取り、「世界で活躍する選手は、個性むき出しで活躍している選手ばかり。だが、それらの個性がひとつになって、日本代表が強くなっている。これは企業でも同じ。以前は、ひとつの会社で勤め上げるのが優秀な人材と言われたが、いまは多くの経験をすることが重視されている」と指摘した。

同質のものが同じ方向を向いていては、やられてしまう。個性がひとつになることが強みになる

野田理事長は、「パナソニックに入社して、その後、ダイエーや日本マイクロソフトを経験して、パソナニックに戻ったというのはまさに象徴的である」と樋口社長の経歴について触れてみせた。

元マイクロソフトの社長はパナソニックで何をするのか

ここで、樋口社長は、前職であったマイクロソフトの変化について語る。野田理事長が、「20年前の世界の時価総額ランキングのトップ20のなかで、いまでも20位以内に残っているのは、唯一、マイクロソフトだけである」との話を受けて回答したもので、「いまのCEOであるサティア・ナデラ氏は、IQもEQも素晴らしい。かつてのCEOは、iPadが世に出たとき、『こんなものは売れない』と言った。そして、マイクロソフトが他社とパートナーを組むこともしなかった。しかし、ナデラCEOは、アップルやAndroidと協調してビジネスをはじめたり、クラウドに対して迅速に多くの投資をしたりして、電気、ガス、水道のように、蛇口をひねったらソフトウェアが利用できるという世界に踏み出していった。傲慢な態度もなくなった。近くでそのトランスフォーメーションを見たが、激しいものがあった」と振り返った。

そして、「こうした経験を生かして、パナソニックでは、ライトカルチャーにすることに取り組んでいる。また、外資系はガバナンスが効いており、赤提灯で会社の悪口を言っているのならば辞めた方がいいと言われるが、日本の企業はそうはいかない。日本の企業にとって大切なのは、やることに対して、腹落ちするということである。また、ある程度、ガバナンスを効かせた上で、やってみたらよかったと感じてもらうことも大切である。こういうことを、バランスを取りながらやっていくことになる」と述べた。

また、これまでの経験を振り返りながら、「新たな会社に行くと、やれるものならやってみろ、お手並み拝見と、顔に書いてあるような人がたくさんいる。最初は好感度アップ大作戦しか手がない。私は、私利私欲はなく、みなさんのためにやっています、ということを示すことから始まる」と語って会場を笑わすと、新浪社長も、「私も、悪い人ではないというところから始まる」と語って同調する。

新浪社長が、樋口社長の立場でパナソニックに入ったらどうするかという質問に対しては、「サントリーでもそうだったが、まずは創業者の考えに戻ろうというところから始める。創業精神は重要であり、価値があるものだが、何年もいると、あまり意識をしなくなってしまう。そこを改めて知ってもらうとともに、外から入ってきた人間であっても、そこに対しては同じ意識を持っているというところから始める。いいところは残して、悪いところは変えていく」とした。

これに対して、「新浪さんは、サントリーに入ってから丸くなった」と樋口社長が指摘。新浪社長は、「同じ人格でも、会社によって、やることは違う。前の会社はレガシーを壊さなくてはならないという立場にあった」などと反論した。

100年続く企業として、「正しい」こと取り組む

一方で、新浪社長が示した最初の絵は、スタートダッシュをしようとしている人の写真だ。「大切なのはスピードである。かつては、過去からの積み上げによる改善ができた。だが、いまはやってから考えることが大切であり、スピーディに走りだすことが求められる。サントリーには、『やってみなはれ』という言葉があるが、ここには、決めたら、やり抜くという意味が込められている。その途中には失敗がたくさんある。それを許容できる経営でなくてはならない」とした。

次の絵は、「実るほど 頭を垂れる稲穂かな」という言葉と、開高健氏による「悠々として 急げ」という言葉。「右(実るほど 頭を垂れる稲穂かな)は、私のことを指している」と、新浪社長がいうと、「ようやく最近、頭を垂れ始めた」と樋口社長。野田理事長も、「新浪君が、頭を垂れ始めて、驚いている」と指摘。新浪社長は、「私はずっと頭を下げている」と言って会場の笑いを誘っていた。

また、開高健氏の言葉については、「急いでやらなくてはならないが、気持ちが焦るのではなく、上からしっかりと物事を見なくてはならないということ。経営をやっていく上で、急がなくてはならないが、そこでぐっと止まって、大丈夫か、ということを考えることが大切である。経営はサイエンスではなく、アートである。外から自分を見ることができるようになるべきだ」などとした。

新浪社長の最後の1枚は、清流が流れる自然の写真であった。「日本の企業が、この光景をいつまで維持できるのか。次の世代に何を残せるかを考えなくてはいけない。何のために事業をやっているのかというパーパス(存在価値)を重視すべきだ。サントリーは、水と生きるということを大切にしている。そこに向けて取り組んでいる」と語った。

最後に、新浪社長は、樋口社長に対する期待として、「パナソニックは、これからも100年続く企業として、社会に対してどんな価値を提供できるのかを、わかりやすく発信してほしい。世界各地で、パナソニックという会社があって良かったといってもらえるようになってほしい」と語り、「当時は、ハーバードに受かって良かったとみんなが喜んでいたのに、樋口さんだけが、MITに行きたかったと言っていた。樋口さんのおとぼけキャラはなかなかいい。とにかく明るい。ぜひ、みなさんで支えてほしい」と呼びかけた。

これを受けて、野田理事長は、「私たちは、『明るいナショナル』で育ってきた。世界の『明るいパナソニック』を作ってほしい」と提案した。

樋口社長は、「会社は、社会のため、お客様のため、社員のため、株主のために存在するといわれるが、激しい競争のなかで、盲目的に社会のためということを目指すわけにはいかない。株主価値の向上や社員の人材育成などのバランスを取ることも必要である。そして、今日の議論を通じて、ヒントももらい、共通の課題も浮き彫りになった。正しいことをまっしぐらに取り組んでいく」と述べた。

決済端末で国内トップ、キャッシュレス社会のカギ握るパナソニック佐賀工場

決済端末で国内トップ、キャッシュレス社会のカギ握るパナソニック佐賀工場

2018.10.22

圧倒的シェアを誇る決済端末はパナソニック佐賀工場で生産

パナソニックは事業の垣根を越えノウハウの活用を始めた

グローバルの流れ読みキャッシュレス社会の実現を支援

クレジット決済端末やICカードリーダーなどを生産する、佐賀県鳥栖市のパナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場が、このほど報道関係者に公開された。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場は、1964年に、九州松下電器の佐賀事業部の工場として発足。6万1000平方メートルの敷地に4万3000平方メートルの建物面積を持ち、約230人が勤務。同じ敷地内にあるパナソニック補聴器社や品質革新本部などにいる人を含めて、グループの佐賀拠点全体では約400人が在勤している。

佐賀工場では、同社が取り扱う国内シェアナンバーワンのICカードライターや決済端末のほか、ネットワークカメラ、ネットワークディスクレコーダー、液体冷却機器などを生産。加えてマイクや受信機などの音響機器、スキャナーなどのドキュメント機器、非常放送設備、多言語翻訳用スピーカーマイクやメガホンヤク、光IDソリューション、さらには、パナソニック アプライアンス社が取り扱っているグローバルシェアナンバーワンのコードレス電話機の生産も、この佐賀工場が担う。

佐賀工場で生産されている決算端末
補聴器も佐賀工場で生産されている
POS接続型マルチ決済端末では、ユニット型のJT-R600CRシリーズを生産している
各種クレジットカードの決済に利用
メガホンを兼ねた翻訳機のメガホンヤクも佐賀工場で生産
グローバルでトップシェアのコードレス電話

生産の実証実験を行う場にもなっている佐賀工場

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場の高橋俊也工場長は、「パナソニックには、事業部ごとに生産を行う商品特化の工場が多いなか、佐賀工場は2カンパニー、6事業、17カテゴリーに渡る商品を生産する特殊な工場である。そして事業部直轄工場ではなく、コネクティッドソリューションズ社直轄工場だ」と紹介する。この背景には、直近10年間で生産集約を繰り返し、様々なノウハウが入り交じった拠点として発展してきた経緯がある。事業部が持つ生産ノウハウを、別の事業部の商品に生かすといったことが頻繁に行われている。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社佐賀工場の高橋俊也工場長

また、「老朽化した棟を、2012年に建て直したⅠ棟は、パナソニックの国内製造拠点としては最新のものになっている。1フロアでの一貫生産体制を取り、導線を短くしている。年間生産機種の半分は年3回以下の生産品目であり、100台以下の生産品目が70%を占める異品種少量生産に対応できる拠点でもある。10年前の商品を1台だけでも生産する『お久しぶり生産』と呼ぶ取り組みも行っている。顧客の要望にあわせたカスタマイズ対応、セキュアなモノづくりも実現した、BtoBの生産に最適化した生産拠点であり、日本生産ならではの品質にこだわり、そのノウハウを生かして、様々な商品を生産している」(高橋工場長)という特徴も説明する。

360度カメラで作業者の手元まで映し出すデジドン(デジタルアンドン)の採用などにより、生産活動での工程状態をリアルタイムに可視化。工程パソコンや作業者入力、梱包最終チェックでのデータを収集するなど、パナソニクッグループのなかではいち早くトレーサビリティの仕組みを採用したのも特徴だ。これらのデータを活用して、これまでに蓄積した6億3000万件のデータから、必要なレポートを簡単に作成し、生産活動に反映させているという。

さらに、ロボットの手前ともいえる、自動化を活用したローコストオペレーションにも取り組んでいる。高橋工場長は、「組立の自動化による工数削減や、検査設備のロボット化で省人化と確実な品質確認を実現している。また、音声による保守作業のアシストや、作業者の身体データの活用、深度カメラを利用した動作の定量化、設備の予兆管理など、様々な新規要素やソリューション案の実証実験を工場内で実施している」と説明する。

これらの現場カイゼンとテストベッドの組み合わせによって、体験の場を提供することも可能だ。顧客の困り事を解決できるコア商材をパッケージ化するとともに、パナソニックグループ以外の顧客とつながり、カイゼン活動などのコンサルティングを中心として提案、それを実現するデバイスの販売に貢献するショールーム工場でもある。「顧客の現場に近づき、お役立ちするインテグレーターを目指す」という。

音声による保守作業のアシスト。チェックシートが不要でハンズフリーで点検ができる。時間短縮のほか、記入ミス、検査ミスをなくすことに成功
天井に設置したモーションセンサーを活用して作業者の手順をチェックし、人的ミスの防止につなげる取り組み
USBカメラを利用した検査設備のロボット化で、省人化と品質を確保
HG-PLCを活用した電力線通信技術の検証も行っている

事業の垣根を越えノウハウ活用を始めたパナソニック

佐賀工場は、これまでの生い立ちから、様々な事業部の商品を生産するユニークな製造拠点であるが、こうした事業部やカンパニーをまたいだ形で、お互いのノウハウを活用する取り組みは、佐賀工場に限らずパナソニックグループ全体で始まっているという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モノづくりイノベーション推進室の一力知一課長は、「パナソニックには、グローバルに327の生産拠点があり、これらの工場は1つの指標で管理される一方で、それぞれが持つ文化、テクノロジー、ノウハウという3つの要素を共有する取り組みを進めている」と話す。

たとえば、家電製品は誰もが使えることを前提に開発されるが、そうしたノウハウを工場の生産設備にも応用するといった考え方は、家電メーカーであるパナソニックならではのものだ。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モノづくりイノベーション推進室の一力知一課長

また、製造現場では、通常作業者と熟練者とでは設備の稼働率に差があることをデータから導きだし、その動線の特徴を可視化することで、ノウハウを共有化している。梱包材の設計の際も、シミュレーションデータを元にして、人に負荷がかからないように箱の上半分に手をかけられるようにデザインし、腰部への負担を軽減するといった工夫が凝らされ、これが共有されている。

「基板製造ラインにおいては、検査画像やカメラ映像、設備データを含めて約3TBのデータが発生しているが、このうち記録できているデータは100分の1となる26GB程度。しかも、それから活用されているデータは、300分の1となる0.8GB程度に留まる。こうした多くのデータを活用して、意味があるものや、価値があるものに、どう変えるかを考えていかなくてはならない」とデータ活用の現状を説明する。

こうした生産現場で蓄積したノウハウは、今後、パナソニッグループでの活用だけでなく、パナソニックグループ以外にも提供していくことになるという。

「約60年に渡るパナソニックのカイゼンノウハウと、社内で培った豊富な経営効果実績に基づき、経営課題の抽出や課題解決に貢献したい」と展望を語った。

国内で圧倒的シェアだがガラパゴス事業にしたくない

佐賀工場で生産しているパナソニックの決済端末は、国内シェア7割という高い実績を持つ。

パナソニックでは、1974年に磁気式カードリーダーの生産を開始。小売店などで利用するクレジット決済端末は、1986年の発売以来、188万台を出荷。SuiCaやおサイフケータイなどに対応した非接触型ICカードリーダーは、2003年の発売から累計で155万台の出荷実績を持つという。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター法人営業3部総括の田中康仁氏は、「パナソニックはこの分野では老舗企業の1つであり、30年以上の歴史を持つ。自販機、外食、流通、物流のほか、鉄道やタクシーなどの交通、ガソリンスタンドなどのエネルギー分野などにも幅広く導入されており、キャッシュレュ社会の実現に向けて、クレジット決済端末、非接触ICカードリーダー/ライターを提供している」と話す。

コネクティッドソリューションズ社モバイルソリューションズ事業部マーケティングセンター法人営業3部総括の田中康仁氏

歴史があるというだけではなく、市場の変化やグローバルの流れを捉え、Apple Payなどの新たなサービスにもいち早く対応しているという。「国内市場が中心のビジネスであるが、技術面では、決して、ガラパゴスの事業ではない」と技術の対応力の高さを説明する。

Apple Watchを使って、交通系カードやApple Payでも利用できる

決済システムは、セキュリティの強化とともに、オムニチャネルにおける連携、セルフチェックアウト、無人店舗といったように利用現場の変化や進化に対応する必要がある。

パナソニックでは、そうした新たなニーズに対応するために、国際ブランドの非接触IC決済に対応した「決済端末のICカード対応」や、国際基準であるPCI PTSのセキュリティ要件「SRED」に対応した「POS接続型マルチ決済端末」の提案に力を注ぐ姿勢を示し、具体的な製品として、POS接続型マルチ決済端末では、ユニット型の「JT-R600CRシリーズ」を投入した。さらに、組み込み型の「JT-R610CRシリーズ」を戦略製品として、力を注ぐという。

また、「多様な決済ニーズへの対応とともに、スマホ設計で培った技術や、組み込み技術、アナログ技術などの特徴を生かすこともできる。スキャンする距離を長く取って、確実に読みとれるようにしたり、スピーカーを大きな音で鳴らしたりといったことも、家電で培ったノウハウなどを活用している」と強みを語る。

「佐賀工場では、PCI P2PEで求められる高度なセキュリティ要件に対応した専用設備、運用が可能になっている。この設備を持っていることも差別化になる」と付け加えた。

キャッシュレス社会の早期実現に積極関与へ

現在、国内のキャッシュレス決済の比率は約20%。今後、これは40%にまで引き上げられるとの見通しもある。政府の方針や外国人観光客の増加とともに、キャッショレス化の進展は加速していくだろう。

田中氏は、「多彩な決済手段に対応した次世代プラットフォームを採用した商品、サービスを順次展開することで、キャッシュレス社会の早期実現を支援する」と話す。

パナソニックでは、クレジット決済端末で2020年度に累計出荷200万台、非接触型ICカードリーダー/ライターも同様に2020年度に累計出荷200万台を目標にしているというが、「今後はこれら製品の融合も進んでいくことになる」と田中氏が展望を語る。

決済端末やICカードリーダーは、組み込み型で提供されたり、POSの横に設置されたりすることが多いため、パナソニックブランドの強い勢力が目立ちにくい製品だ。しかし、パナソニックは現状で国内シェア7割という圧倒的シェアを持ち、その上に、これから新たな決済方式への対応などを背景に、市場は2桁成長が見込まれている。

目には見えにくいが注目しておくべき、パナソニックの隠れた有力事業の1つだといえる。