パナソニックが全家電「知能化」宣言 --アプライアンス社 本間社長の真意

パナソニックが全家電「知能化」宣言 --アプライアンス社 本間社長の真意

2018.11.05

「売ったら終わりの家電に未来はない」パナが変革へ

住宅用のIoTサービス「Home X」が本格始動

多様なニーズをスピーディに価値へとつなげる

パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長

パナソニックが、創業100周年を記念して、東京・有楽町の東京国際フォーラムで「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」を開始した。

その中で、家電事業などを担当するパナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長が登壇し、「『家電』から『KURASHI』へ。~次の100年に向けたアプライアンス社の挑戦~」と題して講演を行った。くらしを、あえてKURASHIと表記しているのは、同社が国内のみならず、多様なくらしの形を持つ世界中の新しい家族と向き合う決意を表現したものだという。

その講演で本間社長は、「2021年までに、開発する全カテゴリーの家電を知能化する」と宣言した。

パナソニックは全ての家電を”知能化”する

ここで言う「知能化」とは、家電製品単体に搭載する知能とは別のものを指す。家電のインターネット接続を前提に、膨大なデータを収集しクラウドに蓄積しながら、それを分析することで知能化する。これにより家電機器は賢く進化を続け、人に寄り添った生活を形成したり、新たなアプローチを開始したりできるようになる。

知能化により機器の機能は常にアップデート。大幅な機能向上の際は有償の場合もありえるが、基本的には無償でサービスを提供する見通しだ。

知能化はテレビ、冷蔵庫、洗濯機などの同社「全ての」製品カテゴリーを対象としている。本間社長は、「知能をつけた方がいいと思える製品については、付けられるように準備をしていく。津賀(パナソニック代表取締役社長 津賀一宏氏)からは、家電事業には『頭』が必要と、3年間言われて続けてきた。家電製品にどうやって『頭』をつけるのかを悩んできたが、スタンドアロンで賢くするのでなく、接続することで賢くなったり、横に広がることで賢くなったりといった『知能化』で実現する。知能化によって、一人ひとりに提供できる新しい価値を模索していく」と話す。

パナソニックは全ての家電を”知能化”する

売ったら終わりの終焉、いままで通りの家電に未来はない

セッションで本間社長は、この知能化の戦略を軸に、アプライアンス社の将来に向けた基本姿勢についても説明した。

本間社長は喫緊の課題として、「くらし方の変化や豊かさの多様化によって、モノの進化によるくらしのイノベーションが起きにくくなっている。パナソニックは家電の進化に取り組んできたが、これまでの、モノをより良くすることと、現在のお客様が感じる豊かさの間には、ギャップが生まれているのではないかと思っている」という認識を示す。

そして将来に向け、「いままでと同じでは、未来はない。そのような状況のなかで、パナソニックがこれまでと変わらない“お役立ち”をどう実現していけばいいのか考えた結果、まずは我々の考える“ホーム”の定義を見直すところからスタート。家のなかだけでなく、場所や時間に捉われず、心が安らぎ、大切な人と過ごすことができる場所、一人ひとりが活躍できる場所がホームであるという結論に至った」と社内での取り組みを紹介し、「パナソニックでは、多くのお客様をひと括りとして捉えるのではなく、一人ひとりのくらしや体験を一つひとつ見つめていき、より豊かな体験を届ける『一つひとつのくらしアップデート』を目指す」とビジョンを提示した。

パナソニックは「一つひとつのくらしアップデート」を目指す

この「一つひとつのくらしアップデート」を、「知能化」によって推し進める。将来の家電は、「日々、アップデートを続け、製品とサービスを組み合わせることで成長する、そっとくらしに寄り添うパートナーのような存在」になるという。

本間社長は、世界各国でばらばらに過ごす家族が、製品とサービスの組み合わせによって、バーチャル空間で一緒に団らんを楽しみ、匂いなども共有し、食卓を囲む「ボーダーレスダイニング」という例を挙げた。

「家電を売ったら、そこで終わりではない。また、機能アップだけにも留まらず、これまでに生み出した価値の提供だけにも留まらない。一つひとつの家庭が、よりくらしやすくすることを目指す。”人”起点から、くらし全体を見渡せる、”くらし”起点に家電が変化する」と話す。

くらしの総合プラットフォーム「Home X」を本格展開へ

くらしのかたちは人にとって千差万別だ。こうした「一人ひとつのくらしアップデート」を実現するためには、製品とサービスの融合が不可欠であり、そのための「IoT化した家電に、最先端のAIによる頭脳を持たせる知能化」が必要というわけだ。

「一人ひとつのくらしアップデート」の実現に向けて、パナソニックはIoT家電の新たなサービス基盤、「Home X」の構築に取り組む。

Home Xは、「お客様とくらしをデジタルにつなぎ、くらしのエコシステムによる家電やサービスを通じて、毎日がアップデートするくらしを実現する、『くらしの総合プラットフォーム』」という、住宅向けIoT家電導入を包括的に提供する新ビジネスだ。

Home Xでは、3つのチャレンジとして、「お客様に寄り添い続ける挑戦」、「お客様に新たな文化を提案し続ける挑戦」、「お客様のくらしから社会を変える挑戦」するという姿勢を示す。

住宅向けIoT基盤「Home X」のチャレンジ

寄り添い続ける挑戦では、「くらしにとけこむデザイン」、「家電のネットワーク化」、「民生技術のB2B展開」という3つの重点ポイントを挙げた。

本間社長は、「知能化した家電を、スピーディに世の中に送り出すためには、モノづくりの仕組みの変革が必要である。ポイントはオープンイノベーションと、アジャイル開発プロセスを積極的に取り入れることである」とし、ゲストとして、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターの古田貴之所長を紹介した。

千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターの古田貴之所長

古田所長は、ロボット掃除機が人の後を追いかけて移動するデモストレーションを行いながら登場。このロボット掃除機は開発中のコンセプトモデルで、「360°レーザーセンサーシステムの採用により、人の動きを認識し、人の動きを予測する技術によって(デモで見せた動きが)成り立っている。人とロボットが一緒に楽しく掃除することができる」と説明する。

古田所長は、「既存技術の組み合わせだけでは、知能化とはいえない。それではつまらなすぎるし、センサーをたくさんつけても美しくない。そこで私たちは、最先端のロボット技術や人工知能、自動操縦技術を取り入れて、ソフトウェアとハードウェアを両方同時に開発することにした。しかも、昨年、今年と、ロボット学会で論文賞をとったばかりのホヤホヤの技術を採用している。そして、それをわずか3カ月の期間で完成をさせた。時間が経てば、技術はすぐに陳腐化する。これができてこそ、知能化である」と開発過程にも変革があったことを説明する。これは、本間社長の直轄プロジェクトとして推進したものであり、「モノづくりの仕組みを変えるチャレンジでもあった」という。

”知能化”したロボット掃除機のコンセプトモデルを紹介

本間社長は、「このコンセプトモデルは一例にすぎない。最先端技術を搭載した家電が、くらしのなかに当たり前にあるといった状況を作りたい」と展望を述べた。

なお、このロボット掃除機は1年以内に発売するという。

ニーズを発見することではなく、生み出すことが重要

新たな文化を提案し続ける挑戦では、「イメージング文化」、「食文化」、「新たな映像文化」をあげた。

本間社長は、「家電を売って終わりではなく、つながりながら新たなサービスを提供する。そのために家電があるという発想が基本になる。ニーズを発見しながら作るのではなく、自らニーズを生み出すことが重要である。最初は小さな市場であるが、それを育てていくことで、いままでになかった文化が生まれる」と考えを述べる。そのためには、事業開発プロセスの変革が必要であるとし、「ニーズの発見からアイデアの事業化までを、スピーディにもっていく」という方針を示した。

BeeEdgeの春田真代表取締役社長

ここでは、BeeEdgeの春田真代表取締役社長が、ゲストとして登壇した。

BeeEdgeは、米サンフランシスコをベースに、シリコンバレーのベンチャー企業などに出資するスクラムベンチャーズとパナソニックが共同出資し設立した企業。有望なパナソニック社内のアイデアを社外に切り出し、新規事業を創出することが使命だ。2018年3月から活動しており、このほど、産業革新機構からの、総額10億円の出資も決定した。なお春田社長は、DeNAの会長や、横浜DeNAベイスターズのオーナーも務めていた。

当日は壇上で、同社の第1号案件として、チョコレードトリンク事業を行うミツバチプロダクツを発足したことを発表した。調理家電を通じて、「チョコレートを飲む」という新たな食文化の発信を狙うという。

チョコレードトリンク事業を行うミツバチプロダクツを発足

また、BeeEdgeは、「サ高電(サービス付き高付加価値家電)」、「スピード」、「文化をつくる」という3つのポイントを重視すると説明。春田社長は、「新たな事業を作るには、モノからでなくサービスから発想していく視点が大切である。サービスから発想して、ストーリーをつけて、そこに特化した機能をつけて製品化することになり、モノは最後である。大企業では、商品を世の中に出すまでに多くのプロセスを必要とする。そのため、作る側のスピード感と市場が求めるスピード感にギャップが生まれ、うかうかしているとタイミングを逃してしまう」と語る。

そして春田社長は、そして春田社長は、「市場を作るというのは文化を作ることであり、まずはその市場を育てていくことが大切である」と市場育成の重要性を説明した。

ここで本間社長は、「私が入社して定期配属されたのは昭和最後の年。VHSビデオの輝ける栄光の時代であり、その熱気に押されながら、市場は希望に満ちていた。VHSは、新たな文化を作り上げたものである。ビデオ店から見たいビデオを借りたり、テレビ放送を録画して見たい時間に見られるようにしりした。だが、その後のくらしに文化が提案できなかった反省がある」と振り返った。

パナには、くらしから社会課題の解決する責務がある

最後に、くらしから社会を変える挑戦では、「食品流通ソリューション」、「街の環境ソリューション」、「エネルギーソリューション」をあげた。

本間社長は、「一つひとつのくらしから、社会課題の解決につなげる取り組みは、『社会の公器』としてのパナソニックの責務である。新エネルギーとして水素技術を活用した取り組みや自然冷媒の使用など、環境負荷を減らす技術を家庭に届け、くらしから変える。その積み重ねによって、社会を変えていく挑戦をしたい」と述べた。

そして最後に本間社長は、「アプライアンス社の挑戦は始まったばかり。一つひとつのくらしアップデートを実現するために、家電からホームへ、そして、くらし全体へと領域を広げる。多様なくらしの形を持つ世界中の新しい家族に向き合い、くらし全体にお役立ちをしていく。一人ひとりに寄り添いながら、豊かで創造的なくらし、新しい文化を、(日本だけでなく)世界のみなさんに提案しつづける。これからの100年、アブライアンス社はこれに取り組む。期待してほしい」と、講演を締めくくった。

パナソニックが描く未来のクルマ像 --車内空間の進化で移動と生活は融合する

パナソニックが描く未来のクルマ像 --車内空間の進化で移動と生活は融合する

2018.11.02

パナソニック、最新クルマ技術による暮らしの変化をテーマにセッション

これからのクルマは通信が前提になり、車内空間が格段に快適になる

地方創生にもつながる未来のモビリティ、パナ独自のノウハウに期待

パナソニックが、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。その中で、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長らが、「変革するモビリティ~ミライのクルマ、街、くらし~」をテーマにしたビジネスセッションを行った。

セッションにパナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長、同 柴田雅久上席副社長のほか、慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏、モータージャーナリストの岡崎五朗氏、ファッションモデルの蛯原友里さん、モデレータとして三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員が参加

オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社は、パナソニックの車載関連事業を中心とした社内カンパニーだが、セッションの話題はクルマだけに留まらず、人々の生活全体に対して、自動運転などの最新技術が与える影響を探っていく内容になった。

パナソニックが完全自動運転時代にできること

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の伊藤好生社長

伊藤社長は冒頭、パナソニックが目指すモビリティ社会について以下のように説明した。

「クルマを取り巻く環境には、『コネクティッド(Connected)』、『自動運転(Autonomous)』、『電動化(Electric)』、そしてクルマの『シェア(Sharing)』といった、『CASE』と呼ばれる変化が起きている。これらの変化の対応には、パソナニックがテレビやデジカメなど、家電で培ってきた技術が貢献できる。デジタルAVC技術や画像処理技術、電池、電源技術を活かして、コックピット、ADAS、自動運転、電動化の分野で、クルマの進化に貢献したい」

また、将来的に完全自動運転が実現した世界での“挑戦”にも言及。「ドライバーが運転から解放されると、移動時間の過ごし方が大きく変わる。パナソニックは創業以来、家電と住宅設備で、よりよい暮らしのための住空間を提供してきた。この住空間の技術やノウハウとコックピットシステムを融合させ、新たなコンセプトの移動空間を作る」と語る。

「新たな移動空間としての次世代キャビンは、乗っている人の状態をセンシングすることで、その人に最適な空間を提供する。人の体温にあわせて空調をコントロールしたり、用途にあわせて照明や音響をコントロールしたりすることで、リビングのような空間を作り出すことができる」と、将来的な展望も付け加えた。

「あわせて、未来のモビリティにも挑戦する。パナソニックは、藤沢と綱島で、スマートタウンをオープンした。エコで快適、安心、安全のインフラを提供している。ここでは、小型EVモビリティが街のなかを行き交い、子供たちの送迎に利用されるなど、地域の移動を支えていくことになる。街の活気を高めるモビリティサービスを提供したい」

これからのクルマは「つながる」

これら伊藤社長の話を受け、三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員をモデレータに、伊藤社長のほか、パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の柴田雅久上席副社長、慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏、モータージャーナリストの岡崎五朗氏、ファッションモデルの蛯原友里さんが参加してパネルディスカッションが行われた。

慶應義塾大学 環境情報学部教授 政策・メディア研究科委員長の村井純氏

慶應の村井教授は、日本におけるインターネットの父と呼ばれる存在。「インターネットの前と後では生活が大きく変わった。いま普通のことが、インターネット以前にはどうやっていたのだろうと思うほどだ。最初はコンピュータが有線でつながっていることが、”つながっている”ことの証であり、それが格好いいとされた。当時のインターネットの世界をリードした雑誌の名前がWiredだったのもそれが理由だ」と前置きた。その有線接続が主流だった黎明期の当時から、「コンピュータをクルマに組み込むと、人と一緒に動くことができると考え、クルマへの搭載を進め、それから持ち運べるようなものを作ろうとした。そこからビジョンを考えて続けて、いまに至っている」と、インターネットが登場した早い段階から既に、クルマをベースにした研究が始まっていたことを示した。

パナソニック オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社の柴田雅久上席副社長

これを受けて、パナソニックの柴田氏は「これからのクルマは、通信が前提になってくる。次世代通信規格の5G、準天頂衛星のみちびきによるGPSの進化、V2Xと呼ばれるクルマとクルマ、クルマと人、クルマとインフラがつながることで、さらにクルマは進化することになる。自動運転が発展し、運転をすることよりも、移動が主になる」とし、それにより、「クルマにはさらに車内空間の快適性が求められるようになる。パナソニックが培った技術を車内空間に生かすことができる」と話した。

三菱総研の杉浦氏は「快適なリビングやホテルのような車内空間になると、もっとクルマは便利になる」と指摘。岡崎氏も、「これまでのクルマは、走る、曲がる、止まるという3つの要素があり、そこにデザインがすばらしければ、いいクルマと言われた。この考え方が100年間続いてきた。だが、これからは、ここに、つながるという要素が加わることになる。つながることが、我々をワクワクさせている」と期待を寄せる。

三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員
モータージャーナリストの岡崎五朗氏

一方、村井教授は「これまでのクルマ移動は、”運転”する必要から、子供の世話ができない、仕事ができないという状況になっていた。生活と移動が乖離していた。だが、コネクティッドオートモバイルでは、移動している間も、生活と同じことができる環境が実現する。生活のなかに、移動を溶け込ませることができる」と指摘。これに対し子育てと仕事を両立中の蛯原友里さんは、「運転で最もストレスなのが駐車するとき」で、「運転中に、後席のチャイルドシートで子供が急に泣きだし、なにもできないということがある。運転中も子供の相手ができる時間がつくれたらいいと思っている」と、実体験をもとに語る。

ファッションモデルの蛯原友里さん

柴田氏は「全周囲カメラで障害物を検知する機能で、駐車のストレスを軽減できる。さらに次のステップでは、クルマが自動で駐車してくれる。その次にはショッピングモールの店の入口で降ろしてくれて、あとはスマホ操作でクルマが自動的に駐車スペースを探して駐車してくれるようになる。また、ドライバーの眠気発生時などに注意を促すシステムを開発しているが、この技術を応用し、後席のお子さんが泣かないように対話してくれるといったシステムも可能になるだろう」とした。

伊藤氏は「技術的に難しいものでも、使いやすいことが大切。技術者視点で作ってしまうと使いにくいものができてしまう可能性がある。パナソニックは、白物家電を長年やってきた。その上で、スイッチの場所、表示方法などを含めた使いやすさを追求してきた。この点でもパナソニックが貢献できる」と付け加える。

また今後は、カーシェアリングの仕組みにより、使いたいとき、必要なサイズのクルマを利用するスタイルが広がるという指摘があがる。柴田氏はそれに同調しながら、「とくに女性から、前の利用者のたばこ臭やポテトチップのニオイが気になるという声がある。前の利用者がインフルエンザや風邪だったということも想定できる」とし、蛯原さんも「子供を病院に連れていく際、逆に風邪がうつるかもしれない」と心配する。柴田氏は「パナソニックのナノイー技術で車内の空気をきれいにできる。シェアリング車に乗るだけで、髪や肌に潤いを与えるということにも使える」とし、さらに村井教授は「病院に行かなくても、クルマのなかで移動中に診療が受けられたり、診療したりできる時代がやってくる」と展望を話した。

モビリティは地方創生にも貢献できる

セッションでは、地方都市におけるクルマの必要性についても議論があった。地方ではクルマが必要不可欠な移動手段であるものの、高齢化で、住民の免許返納も進んでいかざるを得ないという問題が生まれている。

参加者たちは、自動運転の実現が、こうした地方の移動の問題を解決したり、ドライバー不足を解決する手段になると話しあう。また自動運転車が、地方都市を訪れる外国人観光客に対しても、新たに有力な移動手段のひとつになり、地方創生にもつながっていくことなどが話された。杉浦氏は「モビリティは、地方のインフラを活性化することができる。地方創生において、これからはモビリティによる社会を作る必要がある」と結論づけた。

最後に、モータージャーナリストの岡崎氏は「移動の自由度を高め、快適性を高め、安全性を高め、これを安価に利用できることが求められている。今後のモビリティに期待したい」と述べる。蛯原さんは「自動運転によって子育てにもいい影響をもたらし、みんなが笑顔になれるクルマが登場してほしい」と発言した。村井教授は「パナソニックには、人の周りにあるものを使いやすくするという知見が蓄積されている。自転車、車椅子、小型EV、自動車など、様々な移動手段において、これらのノウハウが生かされることに期待したい」と述べ、セッションを締めくくった。

日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

日本企業は再び世界で戦える? パナソニックの異色リーダーが語った課題とは

2018.10.31

パナソニックに出戻った異色のリーダー 樋口泰行のビジネスセッション

日本の優秀だが活かされない人材と、いいものを高く売れない経営者

まずはアマゾン、グーグル、アリババに追いつけない現実を直視

パナソニックは、創業100周年を記念した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018(CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018)」を、10月30日~11月3日まで、東京・有楽町の東京国際フォーラムで開催している。同社・津賀一宏社長をはじめ、各カンパニー社長の基調講演、各界有識者による特別講演などのシンポジウムに加え、パナソニックが描く近未来の世界を紹介する展示を行う。

開催初日に行われたパナソニックの津賀一宏社長による基調講演のテーマは、「次の100年の『くらし』をつくる~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~」。今後のパナソニックの役割を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長

そして翌日には、パナソニック コネクティッドソリューションズ社の樋口泰行社長による「日本企業の復活―次なる成長に向けた変革へのチャレンジ―」と題したビジネスセッションが行われた。

ここでは、サントリーホールディングスの新浪剛史社長と、大学院大学至善館の野田智義理事長をゲストに迎え、国際競争力が急速に低下し、労働生産性も先進国で最低水準が続く日本が、「再び世界で勝つためには何が必要なのか」といった観点から、日本企業共通の課題を浮き彫りにし、新たな時代を見据えた戦略変換や、かつて日本の強みを支えた企業文化からのマインドチェンジなど、次なる成長に向けた変革の方向性について議論した。

3氏は米ハーバード・ビジネススクールでともに学んだ仲であり、お互いに冗談を言い合うシーンがみられるなど、セッションは和んだ雰囲気のなかで進められた。話の脱線ぶりに、ファシリテータを務めた至善館の野田智義理事長は、「10分間やってみたが、予定調和の話にはならないと思った。用意したシナリオはなしで進める」と宣言したほどだった。

サントリーホールディングスの新浪剛史代表取締役社長
大学院大学至善館 創設者・理事長の野田智義氏

外を見ず一生懸命な社員と、逃げ切りモードのリーダー

今回のビジネスセッションでは、樋口社長と新浪社長が、テーマにあわせて絵や写真を用意し、その意図などを説明する形で進行した。

最初のテーマは、「日本企業の現状と課題、ポテンシャル」である。

樋口社長は、1枚の絵をスライドに映し出した。

「日本人は世界で一番優秀で、勤勉であり、人間的にも優れた国民性を持ち、パートナーを組むにも信頼性が高い。頑張れば失敗しないはずだが、なかなかそうはなっていない」とし、「日本企業丸」と書かれた船に、日本人が乗った絵を見せた。

「周りが大変な荒波になっていて、しかも、船底には穴が開いて、沈み始めているのに、それが見えておらず、優秀な人たちが目の前のPCに向かって、社内の仕事を一生懸命やっている。外を見ていないから危機感がない。沈んでいくことになにも対策ができない」

「一方で、リーダー(社長)は、そんなに長くやるわけでもなく、タイミングが来たら、近くまで助けに来ているヘリコプターの梯子に飛び移ろうとしている。東京オリンピックまでは、景気はなんとかなるだろうという気持ちもあるのだろう。そして、社長にすりよる側近は、『ちゃんとヘリコプターで脱出できます』ということを進言している」と、その様子を紹介する。

的を射た指摘に、会場からは笑いが起きた。

これを見た新浪社長は、「その通りである。日本人はみんなでなにかをやるのはうまいが、出る杭は打たれる文化がある。そして、企業が大きくなればなるほど、外を見ようとすることが少なくなる傾向にある」と前置きし、「バブル崩壊以降、日本の企業は、人材の育成やリーダー育成を忘れてしまった。また、挑戦する意識も欠けている。これを変えていかなくてはいけない。私は、30代から社長を経験してきたが、小さい組織やユニットでもいいから、自分で意思決定をするといったことを、30代半ばまでに経験したほうがいい」と提言。樋口社長も、「一番の人材育成は、修羅場を経験することだという話を聞いたことがある」などと応じた。

新浪社長が示したのは、「コーヒーマシン」の写真だった。ここでは、日本企業の復活に向けたポテンシャルを示したという。

「私が某企業の社長(編集部注・ローソンの社長)のときに、コーヒーマシンをスイスの企業から調達しようと商談を行った。最初の調達でも1万5,000台規模の商談になった。価格は1台100万円。ボリュームディスカウントをしてほしいと提案したが、一切まけてくれない。相手は大きな会社ではなかったが、それでも、我々の商品は、これだけいいものであるからまけられないという。結局、その価格で購入した。これは、日本の企業でも同様である。自分が強みを発揮できる製品を作り続け、それによって顧客への価値を提供する。経営も価値をしっかりと認め、人材を育成し、末端までそれが浸透している会社は素晴らしい」と指摘。野田理事長は、「ある経営者から、いいものを高く売れないのは経営ではない、と言われたことがあった」と語った。

日本の企業はまだ行ける、という議論は無駄

もうひとつのテーマは、「実現のための3つのキーワード」。日本の企業が重視すべきポイントを、2人が、それぞれ3枚の絵や写真で示した。

樋口社長は、人が森を見たり、山頂から遠くを見たりしている絵を1枚目に示し、「木を見て、森を見ずと言われるが、さらに森の上にある山から遠くを見なくてはならない。世界の景色を見ないことには正しい戦略が立てられない」と話す。

そして、「電機の世界はデジタルとインターネットで様々なものがディスラプトされている。クラウドひとつを取ってみても、マイクロソフト、アマゾン、グーグル、アリハバに追いつくことは、もはやできない。一方で、中国の企業は、ハードウェアをコモディティ化することに長けている。こうした現実を見ないで、日本の企業はまだ行けるぞ、という議論をしていても無駄である。海外の企業とのベンチマーキングを怠っていたツケがいまにつながっている」と発言。

野田理事長は、「一度、ビッグピクチャーを見たことがある人は、風景が違うということがわかるが、ふもとにいる人は、高いところから見た景色がわからないという課題がある」と指摘した。それに対して樋口社長は、「あまり高いところからばかり見ていても、現場のことがわからないという問題が発生することになる」という別の課題も提起した。

2枚目は、フォーマリティを示したものであり、「日本は、儀式的なものをそのまま行う文化や、硬い文化がある。年齢、性別、役職に関係なく、会社を良くするために、正しいことをやるという仕組みがないと、世界の景色を社内に響き渡らせたり、現場の問題点を経営層に指摘したりといったことができない」とした。

そして、3枚目の絵は、ダイバーシティを示したものだという。「同質のものが、同じ方向を向いていては、後ろから鉄砲で責められても、それに気がつかずに、イチコロでやられてしまう。バラバラではいけないが、それぞれが持つ個性がひとつになることが強みになる」とした。ここでは、サッカー日本代表を例に取り、「世界で活躍する選手は、個性むき出しで活躍している選手ばかり。だが、それらの個性がひとつになって、日本代表が強くなっている。これは企業でも同じ。以前は、ひとつの会社で勤め上げるのが優秀な人材と言われたが、いまは多くの経験をすることが重視されている」と指摘した。

同質のものが同じ方向を向いていては、やられてしまう。個性がひとつになることが強みになる

野田理事長は、「パナソニックに入社して、その後、ダイエーや日本マイクロソフトを経験して、パソナニックに戻ったというのはまさに象徴的である」と樋口社長の経歴について触れてみせた。

元マイクロソフトの社長はパナソニックで何をするのか

ここで、樋口社長は、前職であったマイクロソフトの変化について語る。野田理事長が、「20年前の世界の時価総額ランキングのトップ20のなかで、いまでも20位以内に残っているのは、唯一、マイクロソフトだけである」との話を受けて回答したもので、「いまのCEOであるサティア・ナデラ氏は、IQもEQも素晴らしい。かつてのCEOは、iPadが世に出たとき、『こんなものは売れない』と言った。そして、マイクロソフトが他社とパートナーを組むこともしなかった。しかし、ナデラCEOは、アップルやAndroidと協調してビジネスをはじめたり、クラウドに対して迅速に多くの投資をしたりして、電気、ガス、水道のように、蛇口をひねったらソフトウェアが利用できるという世界に踏み出していった。傲慢な態度もなくなった。近くでそのトランスフォーメーションを見たが、激しいものがあった」と振り返った。

そして、「こうした経験を生かして、パナソニックでは、ライトカルチャーにすることに取り組んでいる。また、外資系はガバナンスが効いており、赤提灯で会社の悪口を言っているのならば辞めた方がいいと言われるが、日本の企業はそうはいかない。日本の企業にとって大切なのは、やることに対して、腹落ちするということである。また、ある程度、ガバナンスを効かせた上で、やってみたらよかったと感じてもらうことも大切である。こういうことを、バランスを取りながらやっていくことになる」と述べた。

また、これまでの経験を振り返りながら、「新たな会社に行くと、やれるものならやってみろ、お手並み拝見と、顔に書いてあるような人がたくさんいる。最初は好感度アップ大作戦しか手がない。私は、私利私欲はなく、みなさんのためにやっています、ということを示すことから始まる」と語って会場を笑わすと、新浪社長も、「私も、悪い人ではないというところから始まる」と語って同調する。

新浪社長が、樋口社長の立場でパナソニックに入ったらどうするかという質問に対しては、「サントリーでもそうだったが、まずは創業者の考えに戻ろうというところから始める。創業精神は重要であり、価値があるものだが、何年もいると、あまり意識をしなくなってしまう。そこを改めて知ってもらうとともに、外から入ってきた人間であっても、そこに対しては同じ意識を持っているというところから始める。いいところは残して、悪いところは変えていく」とした。

これに対して、「新浪さんは、サントリーに入ってから丸くなった」と樋口社長が指摘。新浪社長は、「同じ人格でも、会社によって、やることは違う。前の会社はレガシーを壊さなくてはならないという立場にあった」などと反論した。

100年続く企業として、「正しい」こと取り組む

一方で、新浪社長が示した最初の絵は、スタートダッシュをしようとしている人の写真だ。「大切なのはスピードである。かつては、過去からの積み上げによる改善ができた。だが、いまはやってから考えることが大切であり、スピーディに走りだすことが求められる。サントリーには、『やってみなはれ』という言葉があるが、ここには、決めたら、やり抜くという意味が込められている。その途中には失敗がたくさんある。それを許容できる経営でなくてはならない」とした。

次の絵は、「実るほど 頭を垂れる稲穂かな」という言葉と、開高健氏による「悠々として 急げ」という言葉。「右(実るほど 頭を垂れる稲穂かな)は、私のことを指している」と、新浪社長がいうと、「ようやく最近、頭を垂れ始めた」と樋口社長。野田理事長も、「新浪君が、頭を垂れ始めて、驚いている」と指摘。新浪社長は、「私はずっと頭を下げている」と言って会場の笑いを誘っていた。

また、開高健氏の言葉については、「急いでやらなくてはならないが、気持ちが焦るのではなく、上からしっかりと物事を見なくてはならないということ。経営をやっていく上で、急がなくてはならないが、そこでぐっと止まって、大丈夫か、ということを考えることが大切である。経営はサイエンスではなく、アートである。外から自分を見ることができるようになるべきだ」などとした。

新浪社長の最後の1枚は、清流が流れる自然の写真であった。「日本の企業が、この光景をいつまで維持できるのか。次の世代に何を残せるかを考えなくてはいけない。何のために事業をやっているのかというパーパス(存在価値)を重視すべきだ。サントリーは、水と生きるということを大切にしている。そこに向けて取り組んでいる」と語った。

最後に、新浪社長は、樋口社長に対する期待として、「パナソニックは、これからも100年続く企業として、社会に対してどんな価値を提供できるのかを、わかりやすく発信してほしい。世界各地で、パナソニックという会社があって良かったといってもらえるようになってほしい」と語り、「当時は、ハーバードに受かって良かったとみんなが喜んでいたのに、樋口さんだけが、MITに行きたかったと言っていた。樋口さんのおとぼけキャラはなかなかいい。とにかく明るい。ぜひ、みなさんで支えてほしい」と呼びかけた。

これを受けて、野田理事長は、「私たちは、『明るいナショナル』で育ってきた。世界の『明るいパナソニック』を作ってほしい」と提案した。

樋口社長は、「会社は、社会のため、お客様のため、社員のため、株主のために存在するといわれるが、激しい競争のなかで、盲目的に社会のためということを目指すわけにはいかない。株主価値の向上や社員の人材育成などのバランスを取ることも必要である。そして、今日の議論を通じて、ヒントももらい、共通の課題も浮き彫りになった。正しいことをまっしぐらに取り組んでいく」と述べた。