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復活のテクニクス、世界待望のDJターンテーブル「SL-1200 MK7」投入の真意

復活のテクニクス、世界待望のDJターンテーブル「SL-1200 MK7」投入の真意

2019.01.11

みんなが待ってた「SL-1200 MK7」を今夏に製品化

より多くの音楽を愛する人へ、テクニクスの取り組み

2019年はパナソニックそのものが変わる節目になる

パナソニックは、「テクニクス」ブランドの新製品として、DJなどを対象にした「SL-1200 Mark7 ダイレクトドライブターンテーブル」を発表した。2014年にテクニクスが復活して以来、登場が期待されていたDJ向け製品だ。これによって、テクニクスの事業が新たなフェーズに入ったことを示すことになった。

DJ向けに発売する「SL-1200 Mark7 ダイレクトドライブターンテーブル」

あわせて、Grand Classのネットワーク&スーパーオーディオCDプレイヤー「SL-G700」、Premium Classのダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1500C」も投入する。これによりテクニクスブランドの製品は23機種にまで広がり、より多様なユーザーに音楽を楽しむ環境を提案できるようになる。

ネットワーク&スーパーオーディオCDプレイヤー「SL-G700」
ダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1500C」

これらの新製品の発表の場となった家電見本市「CES 2019」(米ラスベガス 1月8日~11日開催)の会場で、テクニクス事業を統括する小川理子執行役員と、パナソニック アプライアンス社 テクニクス CTOの井谷哲也氏に、新製品と事業展望について聞いた。

SL-1200 MK6生産終了から8年、MK7が登場

――2018年は、テクニクスにとってどんな1年でしたか

小川:2018年春に発売した、リファレンスクラスのターンテーブル「SL-1000R」が大きな話題を集めたことがトピックでした。SL-1000Rで実現する音に関しては、技術や企画、デザイン、マーケティングなど、テクニクスに関わるすべての人たちが自信を持って、市場投入したものであり、「この音が、テクニクスの音である」ということを明確に示すことができたといえます。

テクニクスの復活を主導したパナソニックの小川理子執行役員。ジャズピアニストでもある

実際、SL-1000Rは計画の3倍という売れ行きを示しました。アナログの音を最高の環境で楽しみたいというユーザーが多かったことを感じました。最上位のアナログオーディオを実現したことで、「いままでに体験したことのない音が聴こえる」、「アナログの概念を超えた」といった声を、ユーザーの方々やディーラーの方々からいただきました。この製品に象徴されるように、2018年は、テクニクスの取り組みの蓄積がいよいよ実ったといえる1年でした。

――2018年のテクニクス事業全体を振り返って自己採点すると何点になりますか

小川:100点満点で、85点ですね。昨年からは5点ほどあがった感じです(笑)。

2018年は、SL-1000Rによって、テクニクスの音はこういうものだということを定義できましたし、自信をもってお勧めできるものが完成しました。「まずは、ここまでやりたいな」と思った音が実現できました。ただ、やることはまだまだありますから、そのあたりが15点のマイナスになります。

――今回、新たにDJ向けのダイレクトドライブターンテーブル「SL-1200 Mark7」を、2019年夏に発売すると発表しました。この製品はテクニクスにとって、どんな意味を持ちますか

小川:2014年にテクニクスの復活を発表したときに、DJの方々から嘆願書をいただくなど、登場が期待されていたのがDJ向けのダイレクトドライブターンテーブルでした。私たちも、「いつかは製品化したい」と考えていました。その「いつか」というタイミングが、いま訪れたというわけです。このSL-1200 MK7の開発をスタートしたのは2018年1月頃でしたが、このタイミングで様々な要素が揃って、今ならばDJにとって一番いいターンテーブルが投入できると判断し、製品化しました。

ダイレクトドライブのモーターを新たに開発したり、DJ向け製品として搭載する新機能を追加できたりしたことに加え、コストダウンした上でもテクニクスの音を出せるようになったことが大きな要素です。

CES 2019のテクニクス プレスカンファレンスでは、レジデントDJであるSkratch Bastid氏によるデモプレイも披露

テクニクスの再参入当初は、マーケティングの観点から、Hi-Fiオーディオとしてのブランドを確立することを優先し、DJ向け製品の投入は先送りしてきた経緯があります。しかし、この3年間の取り組みを通じて、アナログに対する揺るぎない自信ができたこと、Hi-Fiオーディオとしてのモノづくりをしっかりとやってきたからこその技術やノウハウが確立できました。

そして日本国内のDJを中心に、カナダや英国など世界中のDJの意見も聞き、操作という点での心地よさを追求し、使いやすいものを開発できる環境が整いました。加えて、新たにマレーシアの製造拠点で生産できる体制を敷いたことで、1,200ドル以下という購入しやすい価格の実現にもめどがたちました。さらに楽器店などの新たな販売ルート開拓の体制もできつつあり、DJ向けダイレクトターンテーブルを市場投入するための土壌を、あらゆる観点から整えられたことが背景にあります。

――DJ向けダイレクトドライブターンテーブルは、Hi-Fiオーディオとはモノづくりの手法が異なるのですか

小川:ターンテーブルの技術者は一緒です。そして、SL-1200 MK6の開発者も、今回の新製品の開発に携わっています。ただ、私が開発チームに言っていたのは、これは「楽器」であるということでした。楽器を使う人の声を聞くことが大切であり、それをもとに、楽器として、どんなモノづくりをすればいいのかを追求してほしいといいました。私を含めて、テクニクスの開発メンバーには楽器をやる人が多く、楽器とはどういうものかを知っていますから、この言葉の意味することについては、理解が早かったですね。

井谷:2014年のテクニクスの復活以降、ラインアップしてきたターンテーブルは16ビットのCPUを採用していましたが、今回のSL-1200 MK7では32ビットのCPUを採用しました。また、トルク・ブレーキスピードの調整機能や逆回転再生など、パフォーマンスの可能性を広げる新たな機能も搭載しています。

一方で、新生テクニクスとしての3年間に渡る蓄積も生かされています。2016年に製品化したSL-1200Gをはじめ、アナログオーディオで培ってきた技術を用いて音質を高めています。そしてボタンレイアウトやプラッターの慣性質量など、DJパフォーマンスに影響する仕様についてはSL-1200 MK6を踏襲しているので、過去の製品を使い慣れているDJでも、同様の操作感で使ってもらえます。「楽器」という位置づけですから、手触り感や使い勝手といった点はとてもこだわりました。

2010年に生産終了となったSL-1200 MK6までのシリーズ累計の販売台数は350万台を超えており、いまでも多くのDJに愛用されていますが、そうした方々にSL-1200 MK7を使ってもらったところ、「MK5やMK6に比べて音質がかなり良くなっている」という声をいただけました。

小川:製品化の経緯のなかで、型番に「DJ」と名称をつけようという話もあったのですが、最終的には、これまでの継承性を感じていただけるMK7の型番としました。DJの方々にとって、いままで使っていたものと操作が変わっては使いにくくなってしまうので、その点は継承し、そこに、テクニクスとして新たな機能を搭載しました。継承はしているが、進化をしているというのが、SL-1200 MK7です。

CES 2019の会期中、テクニクスはホテル「ベラッジオ」のナイトクラブを貸し切って「Technics 7th イベント」を開催。多くの招待客で賑わった

2019年は、音楽を愛する多くの人をファンに

――2019年は、テクニクスの復活から5年目を迎えます。どんな1年になりますか

小川:もっと裾野を広げたいですね。昨年後半には、ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「EAH-F70N」や、ワイヤレスヘッドフォン「EAH-F50B」を投入し、ヘッドフォンのラインアップも増やしました。より多くの人にいい音で、音楽を聴いていただきたいという狙いからです。また、今回のCES 2019にあわせて、Premium Classのダイレクトドライブターンテーブルシステム「SL-1500C」と、Grand Classのネットワーク&スーパーオーディオCDプレイヤー「SL-G700」を発表し、ラインアップを拡充しました。

ワイヤレスノイズキャンセリングヘッドホン「EAH-F70N」

テクニクスは、特定の人たちだけにいい音楽を楽しんでもらうのではなく、まさに、「くらしにもっと音楽を」という考え方で製品を投入していきます。現在、23機種のラインアップを、29カ国で展開しています。これをベースに、いままで以上に多くの人にテクニクス製品を届け、ファンになってもらいたいと考えています。

井谷:SL-1500Cには、コアレスダイレクトドライブモーターや高感度トーンアームなど、テクニクス独自の技術を数多く搭載しています。さらに、フォノイコライザーアンプを内蔵するとともに、Ortofon 2M Redフォノカートリッジも付属し、それでいながら、コストを抑えることにも成功しました。

フォノイコライザーを内蔵することで、配線を短くできるというメリットがありますが、一方で、回路が集中することで発生する課題を解決しなくてはならないという難しさがあります。そこで、フォノイコライザー用の専用電源については、ノイズの影響を軽減するためにモーターや制御回路用の電源から絶縁し、さらに、シールド構造により、外来ノイズの影響を抑制しています。「内蔵でありながら、こういう音まで出せるんだ」ということを言ってもらえるほど、追いこんだ作りになっています。これは大きな挑戦ではありましたが、自信を持ってお勧めできる性能を実現しました。

しかもカートリッジもついていますし、フォノ入力端子のないオーディオ機器につなげても、すぐに聴いてもらえます。これによって、アナログレコードを簡単に楽しんでもらうという新たな提案ができるようになります。

――テクニクスは、2014年に、「Rediscover Music」をメッセージに掲げ、「音楽を愛する人たちに向けたHi-Fiオーディオの実現」を目指してきました。今回のDJ向けダイレクトドライブターンテーブルの投入によって、ユーザーターゲットが広がります。このメッセージも刷新となるのでしょうか

小川:それは変わりません。DJ向けダイレクトターンテーブルも音楽を愛する人に向けた製品のひとつです。むしろ、多くの人に音楽を楽しんでもらう方法はまだまだあると考えています。

次のステップでは、パナソニックのアプライアンス社全体で取り組んでいるスマートホームとの連携などを通じて、「くらし」のなかでさりげなく音楽を楽しんでもらう取り組みや、クルマと家をつなぐなどし、様々な空間にテクニクスの世界観を広げていくことも考えたいですね。クルマは、電動化が進んでいますが、それに伴い、軽量化が課題になっています。車内に重たいスピーカーを10個搭載して高音質を実現するのではなく、音場制御をはじめとしたデジタル技術を活用することで、軽いシンプルな構成で、いい音を鳴らすといったこともできるでしょう。そこにはテクニクス独自のLAPC(Load Adaptive Phase Calibration)の利用も有効だと思っています。

私はテクニクスを復活させてから、毎年のように、「飛躍の年にしたい」と言い続けてきました。2019年も、さらに飛躍する1年にしたいですね。これまでにも、私たちなりには飛躍をしてきたつもりですが、外からみると、小さな飛躍にしかみえないかもしれません。外から見ても、大きく飛び始めたといえるように、さらに大きな飛躍をしたいと思っています。

パナソニック全社が次の100年に向かう節目

――小川執行役員は、2018年1月から、パナソニック アプライアンス社の技術担当副社長および技術本部長も兼務しています。この1年の成果はどうですか

小川:2018年は、パナソニックが会社として100周年を迎え、様々な取り組みが行われた1年でした。「くらしアップデート業」や「知能化」といった新たなキーワードも出しました。そうした節目において、技術本部では、これまで100年の家電のモノづくりを、次の100年のモノづくりにどうつなげていくかということを考えはじめました。

くらしに貢献する技術や製品、サービスのすべてが変換点を迎えていますが、最終製品が変化するためには、まずは技術から変わらなくてはいけません。しかし、100年に渡るモノづくりのプロセスを変えるのには、ものすごい力が必要になるのも確かです。

私たちは、この変化に挑戦していきます。技術本部のなかでは、変えなくてはならないという共通認識ができています。そして、変化をドライブするために開発体制も変更しました。現在、技術本部のなかに、エアコン・コールドチェーン開発センター、ホームアプライアンス開発センター、イノベーティブ・エンターテインメント開発センター、R&Dプランニングセンターの4つの開発センターを設置し、デジタルトランスフォーメーションを推進したり、ソフトウェア技術やネットワーク技術に明るい黒物家電の技術者に、白物家電の開発に取り組んでもらったりといったことをしています。

これまでは、ひとつひとつの商品に向き合って開発してきた人たちが、IoTや知能化、くらしという文脈から、横につながったり、サービスとつながったり、あるいはプラットフォームを活用した新たな開発に取り組むといったことをはじめています。

パナソニックの100周年という節目は、技術者の意識を変えるにはいいタイミングでした。そのきっかけによって、次の100周年に向けて、変革をしていくという意識が共通認識として浸透しはじめています。

――パナソニック アプライアンス社では、2021年までに、家電製品の”すべて”のカテゴリーにおいて、知能化した製品を投入する姿勢を明らかにしています

小川:もはや、ハードウェア単品での性能向上や機能強化には、限界があります。ハードのなかに詰め込もうとしていた機能、性能を、クラウドとつないでソフトウェアでアップデートし、ハードウェアを買い換えることなく、くらしに寄り添った家電へと進化させる必要があります。

家電の「知能化」においてはネット接続が前提となり、人の気持ちを察して、ちょうどいいアップデートをしていかなくてはなりません。これをすべてのカテゴリーで展開していきます。また、地域ごとに見ても差がありますから、地域×商品のマトリクスで「知能化」をする必要があります。優先度を考えながら、「知能化」に取り組んでいきます。

パナソニックが、家電業から「くらしアップデート業」に変わって行くには、「100年続いた家電をどう変えていくのか」という意識を全員が持つ必要があります。そして、世界の技術の変化の激しさや、スピードに追随しなくてはなりません。その点では、まだまだ足りないことばかりです。ダイナミックさも足りていません。世界という観点でみると、もっと変えないと変化にキャッチアップできない。今年は、よりダイナミックに、よりスピード感をもって変えていきます。

「家電のパナソニック」に悩み続けた津賀社長、企業価値の核心を刷新する一部始終

「家電のパナソニック」に悩み続けた津賀社長、企業価値の核心を刷新する一部始終

2018.11.20

「家電のパナソニック」とは? 自問自答を続けた津賀一宏社長

「家電業」から「くらしアップデート業」へ、この転換がパナの答え

家電が壁にぶつかった時代だからこそ、チャンスがあると自信

10月末から11月はじめにかけ、東京・有楽町の東京国際フォーラムで、パナソニックが創業100周年を記念して開催した「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」。その開幕の基調講演に登壇したパナソニックの津賀一宏社長は、晴れやかな顔をしていた。

津賀社長は、この日を迎えるまでのしばらくの間、ある悩みを抱えていた。笑顔の理由は、その悩みを解決できたからだ。

「家電のパナソニック」に悩み続けた

晴れやかな顔で講演する津賀社長

津賀社長が悩み続けてきたのは、「パナソニックはなんの会社を目指すのか」ということであった。ずっと、それを自問自答し続けてきたという。

実際、今年がはじまったばかりの1月、業界が新年を迎えるイベントとして毎年恒例となった「CES 2018」(CESは米ラスベガスで開かれる世界最大の家電見本市)の会場で、筆者は「パナソニックはなんの会社を目指すのか」と質問したことがあった。津賀社長はその時、「いま、それを自問自答している」と話していた。

今回の基調講演でも、「私が社長に就任して6年が経過したが、実は、ここしばらくの間、パナソニックという会社がいったい何者なのか、私自身が見えなくなり、自問自答する日々を過ごしていた」と振り返っている。

この日の基調講演のテーマは、『次の100年の「くらし」をつくる ~パナソニックは家電の会社から、何の会社になるのか~』であった。まさに、この時この場所で、その答えを示す決意があったのだ。

パナソニックは「家電のパナソニック」ではない?

津賀社長はなぜ、「何の会社になるのか」という自問自答を続けてきたのだろうか。

「家電のパナソニックという時代は分かりやすかった。しかし、いまのパナソニックは、自動車の車載電池や車載エレクトロニクスにも進出した。さらに、他社の工場ラインにもソリューションを提供し、様々な場面に事業を展開している。気がつくと、パナソニックが何者なのかが見えなくなっていた」(津賀社長)

パナソニックの2017年度業績を見ると、全社の売上高は7兆9,822億円。このうち、家電事業を担当するアプライアンス社の売上高は2兆5,884億円で、売上構成比は32.4%だ。

この全社売上には社内カンパニー制による、各カンパニー間の内部調整等も加味されている。単純に調整前の各カンパニー合計の売上高は、8兆8,106億円と計算できる。ここから逆算すると、アプライアンス社の売上構成比は29.0%で、3割を切る水準になる。車載関連や住宅関連、BtoBソリューションが7割を占める事業体であることからみれば、家電メーカーのパナソニックという表現は、会社の姿を正しく表しているものではない。

全社の売上高は7兆9,822億円。調整前の各カンパニー合計の売上高だと8兆8,106億円。家電のパナソニックにおいて、家電事業を担当するアプライアンス社の売上構成比は30%前後という水準

津賀社長は、「家電という製品が、ひとつの壁にぶつかっているのも事実。この壁をどう乗り越えていくのか。かつて、家電が登場したときには、それによって、生活がぐっとアップデートされた。しかし、世の中に家電が数多く供給され、余った時間が生まれ、その余った時間をどう過ごすのかというところで、テレビやビデオ、ゲームといった、コンテンツを楽しむための家電という時代に入ってきた。では、その次はどうなるのか。自問自答してみると、家電を使っているお客様との距離が開いてきたのではないかと感じた」と話す。

家電自体の在り方が変わり、パナソニックはそこに距離感を感じていたというわけだ。

「家電業」から「くらしアップデート業」へ

こうした背景で自問自答の答えを求めるにあたって、津賀社長は次のような考えに至ったという。

「事業として上手く行っているから良いということではなく、パナソニックという会社が、社会において何の役に立てるのかが大切。私が考え続けたのは、パナソニックという会社が、この世の中に存在している意義とは何なのかということ。その結果、わかったのは、今日よりも明日、明日よりも明後日、一人ひとりのくらしを少しでもより良くしていくこと、少しでもよりくらしやすい社会をつくりあげていくことが、パナソニックの存在意義ということだった」

津賀社長は、「この存在意義は、創業当時も、いまも、これから先の未来も決して変わることはない」と断言する。

その結果として、津賀社長はパナソニックの今後の目指す姿を、「くらしアップデート業」という言葉で表現してみせた。

そして、「100周年というこのタイミングで、私が自問自答に陥ったことは、決して偶然ではないと感じている。いまは、この自問自答のトンネルを完全に抜けることができた」と言い切った。そして、「パナソニックは、もうブレない。『くらしアップデート業』という存在意義を全うするために、強い意志と信念を持って、これから先の100年という未来に向けて、これまで以上に熱く、希望を持って、大胆に事業を展開していく」と宣言した。

「くらしアップデート業」で「くらし」が変わる

パナソニックが目指す「くらしアップデート業」とはなにか。津賀社長の言葉から、その意味を考えてみたい。

従来の家電は、使えば使うほど性能や機能が世代遅れになっていくし、性能や機能が高すぎると、使いこなすのが難しくなっていく。くらしアップデートは、使えば使うほど理想のくらしに近づく?

前提にあるのが、これまでの家電業のように、完成品を提供する時代ではなくなったということだ。

これまでの家電づくりは、生活者をマスとして捉えて、より機能性の高い製品を提供するというものだった。細部に至り完璧とも言えるレベルまで製品で仕上げ切ってから、世の中に提供していた。4つの機能がついた家電よりも、5つの機能がついた家電の方が求められていたりもした。

「機能をたくさんつけることは、技術的にはこれからも可能だ。それによって、価値をあげていくことができる。だが、その一方で、複雑すぎて、多くの機能を使いこなせないといわれる。そこで、もっとシンプルに操作できたり、機能を理解できたりする製品をつくろうとすると、付加価値がない安物家電を作るという間違いを起こすことになる。それは、我々が目指しているものではない。こうしたことをこれまでに繰り返してきた」(津賀社長)

一方で時代は変化し、いまでは、テクノロジーの進化にともなって一人ひとりの価値観が重要視され、一人ひとりに快適なものを提供することも可能になる時代に入った。

「一人ひとりが求めるものが異なる。そして、一人の人でも、昨日と今日では求めるものが異なる。昨日聞きたかった音楽と、今日聞きたい音楽は違う。これまでは多様性といったものに対応することができなかったが、これからは多様性に対応でき、今日という日に合わせて、更新し続けることができる。そこに新たな役割がある」(津賀社長)

言葉としての「くらし」も再定義する。これまでの家電が指していた、家の中でのくらしを指すのではなく、「人が過ごしている、あらゆる時間」を「くらし」と定義する。「くらしアップデート業」が対象とする領域は家電よりも幅広い。住宅関連事業で取り組む住空間全体や、車載事業で関わりがある移動する環境、工場やオフィスなどの働く環境を含めた時間のすべてが、パナソニックの「くらし」となる。

くらしアップデートを実現する「Home X」

そして、先にも触れたように、完成品を提供する時代ではなくなるという点が重要だ。

「アップデートが求められるこれからの時代は、安全面などをクリアできてさえいれば、『あえての未完成品』とも言える段階で世の中に出していくべきだ。これは、不良品ではなく、使ってくれる人の手に渡ってからも、その人向けに成長する余白を持たせた状態のものを指す」(津賀社長)

「あえての未完成品」とは?

その具体例としてあげられるのが、先般パナソニックが発表した「Home X」である。

Home Xは、家そのものをインテリジェントなもう一人の「家族」とし、日々の新しい体験を提供し、より自分らしい生活を創るというコンセプトを掲げる住宅向けソリューション・プラットフォームだ。人それぞれの生活スタイルに合わせて、家電や住宅設備の機能をHome Xに統合することで、一人ひとりに寄り添ったきめ細やかな生活提案を行う。

■ 参考動画:Home Xがあるくらし (パナソニック提供 4分33秒)

そのHome Xのコンセプトによる製品の第一弾が、「Home Display」である。

Home Displayは、無線LANやセンサを搭載したHome Xプラットフォームに対応したタッチスクリーン型ディスプレイだ。家族が集まる場所に配置し、Home X対応機器と連携して、家(=Home X)が家族を理解しながら、住めば住むほど新しい機能が利用できるようになり、一人ひとりのライフスタイルに合わせて、「くらし」をアップデートする。

リビングなどにタッチスクリーン型ディスプレイを配置する「Home Display」

例えば洗濯機と連携し、家族の会話から、泥汚れの子供が帰ってきたことを知ったHome Xが、泥汚れはもみ洗いをしてから洗濯機に入れるといいことや、泥汚れに最適な洗剤はどれなのかを提案したりする。またテレビと連携し、家族がどんなスポーツが好みなのかを知ったHome Xは、そのスポーツの番組放送がまもなく開始という時に、放送が始まることを知らせてくれたりする。電動の雨戸シャッターや蓄電池システムと連携すれば、台風の接近にあわせて、自動でシャッターを閉めて風雨や飛来物に備え、さらに蓄電池への充電を開始し停電に備えてくれたりする。

家や家電が、「それを使っている人に合わせるように進化していく時代になる。サービスも、それを活用している人に合わせて、更新され続けるようになる」というわけだ。

津賀社長は、くらしアップデートが求められる時代が到来することで、「人の気持ちや嗜好性と、そのタイミングとを掛け合わせることで、これまでにない新たな体験価値を提供することができるようになる」と話し、顧客のニーズのあり方の変化が、提供する企業側にとって危機ではなくチャンスであるという認識を示す。また、「せっかく最新の家電を手にしても、新製品が出た途端に、その家電が古くなる。そんな時代は終えなければならない」とも語る。

「家電」の考え方そのものを、パナソニック自らが変えていくことになる。

体験で得られる価値が、パナソニックの本質的価値に

津賀社長は「『くらしアップデート業』という営みこそが、パナソニックの核心に存在する、世の中への”お役立ち”の本質なのだと確信している」と語り、「持てる価値を機能や性能だけでなく、お客様が体験して得られる価値を高めたい。これを実現するためには、もっとお客様にくらしに寄り添う、お客様のくらしと対話するといったことが必要だ。パナソニックは、お客様の理想のくらしに一歩近づけるように、こういう方向性でこれから事業や開発を進めたい」と続ける。パナソニックのこれからは、これまでとは価値の置く場所から大きく変わっていく。

最後に津賀社長は、「人の幸福から離れて、生き残る会社はない」と述べ、次のように語る。

「パナソニックは、その時代に生きる人々にとって、いま、求められていることは何なのか、この先に、必要とされることは何なのかを徹底的に考え、人々のくらしをほんの少しでも良くしたいと心から願ってきた企業である。”ものづくりをしたかった”というより、”人々のくらしを良くしたい”という想いが先にあり、この想いを実現させるために必要だったのが、ものづくりだった」

しかし、家電をつくるだけでくらしを豊かにすることに限界が見えたのが、いまの時代だ。そこに「くらしアップデート業」というパナソニックが目指す新たな姿があった。

くらしアップデート業への第一歩を踏み出したバナソニックから登場する「家電」は、これまでの「家電」とは大きく変わっていくことになりそうだ。

かつてのパナソニック電工が挑む「くらし」のデジタル化

かつてのパナソニック電工が挑む「くらし」のデジタル化

2018.11.06

グループ名門企業が挑む次の100年の姿

住宅の先行き不透明な中、デジタルが重要な役割

未知のニーズを如何にかたちにできるか

パナソニックは、東京・有楽町の東京国際フォーラムで創業100周年記念イベント「クロスバリューイノベーションフォーラム2018」を開催した。この中で、パナソニック エコソリューションズ社の北野亮社長が、「次の100年における人々の『くらし』の変化とパナソニックのお役立ち」と題したビジネスセッションを行った。

パナソニック エコソリューションズ社の北野亮社長

「アタッチメントプラグ」を手掛けるエコソリューションズ社

エコソリューションズ社は、かつてのパナソニック電工(旧松下電工)の流れを汲み住宅関連事業を手がける、パナソニックの社内カンパニーだ。ちなみに、パナソニックの創業商品として有名なアタッチメントプラグは同社が担当しており、現在でも漁船向けや屋台向けなど、年間10万個の出荷実績があるという。

アタッチメントプラグ」は1918年の松下創設時の商品

北野社長はエコソリューションズ社について、「練り物樹脂の製造技術をコアにスタートした配線器具や照明器具などの電設資材や、雨樋でスタートした住設機器のほか、空気質設備、ソーラー、蓄電池など、住宅分野および非住宅分野にひろく事業を展開している。近年は高齢者向け介護サービス事業、自転車によるモビリティに加えて、さらに街づくりにまで事業を広げている」と説明。同社を「24時間、人々が生活しているあらゆる場面で役に立てるカンパニーだ」と位置づける。

セッションには北野社長のほか、小学館 サライ編集室の小坂眞吾編集長、スキーマ建築計画の長坂常代表、東京大学大学院 工学系研究科 先端学際工学専攻の森川博之教授が参加し、人々の「くらし」の変化についてのパネルディスカッションを行った。このモデレータを務めたのは、フリーキャスターであり千葉大学の客員教授でもある木場弘子氏だ。

フリーキャスターの木場弘子氏

今後の住宅ビジネス、デジタルで成長させたい

まず北野社長は、「住宅着工件数をみると、先行きは明るくない」という見通しを示す。パナソニックは、住宅着工数が上昇し続けていた数十年前の成長期には、豊かなくらしを実現するためとして『電気の1、2、3運動』を展開し、1部屋に2つの灯りと3つのコンセントを提案するなどしてきた。その後も省エネで明るいインバーター技術や、LEDの普及にも力を注ぎ、人々のくらしを変えてきた。そして、「これからはデジタルが重要な役割を果たすことになる」と展望を述べる。

40年ほど前、住宅着工数が減ってきた時期には、増改築キャンペーンを展開し、既存住宅向けの新ビジネスとして増改築需要を掘り起こしたことも

北野社長はパナソニックの強みを、「リアルなくらしのタッチポイントを持っている」ことだと話す。その強みを活かし、「デジタルが、さりげなくより良いくらしやより良い社会をサポートしてくれることに期待している。デジタルを活用することで、掃除、洗濯中であったり、午後からはホームパーティーを開いていたであったり、一日の中でその時間に何をしていたのかといった、これまではわからなかった、その人のくらしぶりがわかるようになる。実際のくらしぶりにあわせて、本人すら気がつかなかった新たな価値やサービスを提供できるようになる」と今後を語る。

パナソニックは直近、住宅向けIoT家電導入を包括的に提供する新ビジネス「Home X」を発表している。北野社長はHome Xを、利用者とくらしをデジタルでつなぐ「くらしの総合プラットフォーム」だといい、「Home Xでは、賢くて押しつけがましくない奥ゆかしいサービスを、さりげなく提供する」と説明した。

エコソリューションズ社の方針は今後も変わらず、「家、街、社会を、人起点で、より良く、快適にすることだ」と話す。ただし、「やり方は、いま流のやり方になる」という。変えるべきは変え、「IoTとAIを組み合わせた家電の知能化によるくらしのアップデートを通じて、人に寄り添った変化を提供したい。より良いくらし・社会のために、果敢に取り組み、変わり続けるカンパニーでありたい」と述べる。

未知のニーズを如何にかたちにできるか

スキーマ建築計画の長坂常代表

ここで、スキーマ建築計画の代表で建築家でもある長坂常氏が、京都・南禅寺のブルーボトルや、東京・表参道のHAY TOKYOなど、自らが設計した店舗での経験をもとに、「ブルーボトルの店舗は京町家を改装したものであり、景観を守りながら、和の様式のなかに洋を取り入れた。また、HAY TOKYOでは、一晩で、すべての什器を取り外すことができる仕組みとなっている。パリでは、午前中にはマルシェだったところが、午後は通路になったり、広場になったりし、道にある緑もリフターで動かすことができる。散々、建物を作ったなかで、人がアクティビティになっていないという課題に気づいた。いまは、ある程度、街のなかに建物が整ってきて、そのなかをどうしていくかということが重要になっている。これからはリノベーションが重要になる」という気づきを語る。

長坂代表はさらに、「今後は、建物や部屋を所有するというだけでなく、時間単位で空間をシェアするようなことが増える」という見解を示す。そして、「空間を作る上でデジタル技術は必要になる。それによって、もっと豊かな空間を作れるだろう」と、デジタル技術とくらしが繋がることへの期待を語った。

東京大学 大学院工学系研究科先端学際工学専攻の森川博之教授

東京大学 大学院の森川教授は、「隠れた顧客のニーズを探し出すことが大切であり、これを実現するのがデジタルである」と発言する。過去の例としてハードディスクレコーダーの登場を挙げ、「ハードディスクレコーダーにすべての番組を録画しておき、見ないものは消すという、それまでにないTV体験を実現した。こうしたものを探さなくてはならない」と、発言の背景を説明する。

今後さらに期待することとして、「AIやIoT、ビッグデータを使ったデジタルが、さりげなく裏側に入って使われる世界を期待している。たとえば、建物や地面などにセンサーを埋めることで、事前に地滑りなどの危険を検知するといった使い方が可能であり、命を救うことにつながる。こうした活動が地道に行われ、私たちをさりげなく守ってくれる世界が訪れてほしい」と、新しいデジタル活用の可能性を語った。

ハードディスクレコーダーの全録で、テレビの視聴スタイルが大きく変わったという人は多いはず
小学館 サライ編集室の小坂眞吾編集長

サライの小坂編集長は、家電を取り巻く現状を、「便利な家電が世の中に数多く溢れていても、デジタルが進み、すぐにそれ以上に便利な家電が生まれる。これが今後もずっと繰り返えされるだろう。一方で、モノを買っても、すぐ売ったりシェアリングしたりするような若い世代が増えている」と分析する。そして、「全体がこうした(若い世代の変化の)流れに対応していく必要がある」と語る。「モノとモノがつながるだけでなく、人と人がつながるものを出してもらいたい」と、パナソニックのデジタル活用への期待を寄せて締めくくった。