首相官邸の屋上にドローンが落下し、ニュースとして大きく取り上げられたのは2015年4月。あれから3年、ドローンの話題はあまり聞かなくなったが、一方で産業用途ではその存在感が増している。老朽化が進む社会インフラの保守・管理や、人が立ち入りづらい場所の遠隔監視、工事現場における3Dマップの作成など、一般消費者があまり意識しづらい場面では既に実践配備されているケースも少なくない。

例えば、建機大手のコマツは、スマートコンストラクション構想の一部でドローンを活用している。三菱地所は、実証実験ではあるが、現在のドローンの多くがGPS測位による安定飛行を実現している中で、自律飛行ドローンを用いて大手町の地下を通る洞道(トンネル)の点検作業を行った。

また、積極的な動きを見せるのは携帯キャリアだ。現状のドローンの多くは専用無線かWi-Fiを用いる方法が一般的だが、産業用途では当然ながら航行距離を伸ばすニーズの増大が見込まれる。となれば、Wi-Fiの力不足は明らかで、現在の4Gや将来的には5Gを搭載したドローンがメインストリームになる可能性が高い。

例えば、NTTドコモは"ドローン特区"の千葉県千葉市や、国家戦略特区の福岡県福岡市などで、楽天やエアロセンスといった企業とドローンを用いた実証実験を重ねており、2月にはドローン運用のサポートサービス「ドローンプラットフォーム docomo sky」を発表している。また、3月14日には、エアロセンスとともに垂直離着陸機(VTOL)によるLTEを用いた広域リアルタイム映像伝送に成功している。

一方でKDDIはより大規模にドローンビジネスを展開している。2016年12月にスマートドローン構想を発表し、「KDDIドローンプラットフォーム」と題して、ドローンメーカー「プロドローン」や運行管理システムの「テラドローン」、気象データの「ウェザーニューズ」、3次元マップの「ゼンリン」などと協力してドローン関連サービスのB2B基盤を整備している。

企業の導入支援としては、ドコモに先んじて2017年10月に「KDDI IoTクラウド ~ドローンパッケージ~」の提供を開始し、ケースによってはLTE通信の実用化無線局申請による実用化に向けた取り組みを進めている。LTEを活用したドローンでは、ほかにも災害時における臨時基地局の展開なども行っている

LTEドローンは実用レベル?

そして3月15日には、KDDIとテラドローン、セコム、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の4者が「世界初」として、4G LTEで自律飛行する複数ドローンを活用した広域警備に成功したと発表した。この実証実験は、NEDOが2017年度からの5年間に渡り行うプロジェクト「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト(DRESSプロジェクト)」に基づき行われた。

LTEを用いたドローンの自律飛行では、2017年5月に「完全自律飛行」に成功しており、11月には3次元マップを活用した自律飛行にも成功していた。今回のケースでは、複数機体の同時運用を4G LTE経由で自律飛行させたもので、3次元マップも利用している。

DRESSプロジェクトは、2017年度だけで33億円の予算を組んでおり、政府自体も積極的にドローンの社会普及を目指している姿勢が伺える。現在は4G LTEを活用したスマートドローンの利用には前述の通り、試験運用のための無線局申請が必要となるが、飛行レベル3の「無人地帯における目視外飛行」が2018年度以降、レベル4の「有人地帯における目視外飛行」が2020年度以降に想定されており、目視外飛行には4G/5Gが必要となることから、遠くない将来に規制緩和される可能性が高い。

実際にNEDO ロボット・AI部 部長の弓取 修二氏は、「2020年までに、人口密集地域におけるドローン物流活用を目指したい」と話す。DRESSプロジェクトは、この壁を超えるために進められているものだが、主に「機体開発」「システム開発」「国際標準化」のくくりで中期計画が進んでいる。今回の実証実験は、システム開発の「無人航空機の運行管理システム及び衝突回避技術の開発」にあたるもので、3年間の期間の1年目の成果として発表されたものだ。

NEDO ロボット・AI部 部長 弓取 修二氏

全体を俯瞰・監視する俯瞰ドローンと、俯瞰ドローンが見つけた不審者などを追尾する巡回ドローンの組み合わせで監視を実現するものだが、ある関係者によれば「1年目の成果としては上々で、NEDOがぜひ大きく発表したい」として発表会が行われた。通信環境の不具合によって、一度失敗する場面も見られたが、実験場所のWi-Fi環境の不具合による失敗であり、4G LTEによる運行管理に問題があったわけではなかった。デモンストレーションでは、リアルタイムで自律飛行するドローンからの映像を確認でき、不審者を発見したセコムの監視要員による手動切り替え、ドローンによる不審者への警告などが行われた。

セコムの監視員がさまざまなデータをもとにドローンによる監視を行う
実際に巡回するドローン
広大な敷地を、俯瞰ドローン2台と巡回ドローン2台の計4台で監視する
実証の1年目ということもあり、当初はセコム監視員による目視で不審者に対して警告を行うが、いずれは画像認識技術による警告作業の自動化を目指す
自律飛行エリアと各ドローンの視点の混合表示も可能
警戒するエリアは、自律飛行するために事前にドローンを飛ばして3Dマップを作成する
実証実験に利用されたドローン
キヤノンの高感度カメラで、夜間でも不審者や不審火などの検知を行う
報道陣向けにセコム警備員が飛ばすデモンストレーションも行われた

セコムはこれまでも「セコムドローン」を実際にサービスとして提供しており、企業の物流拠点の監視などを実際に受託して提供している。セコムドローンはWi-Fiを活用した映像伝送であり、現状は「倉庫の各所にWi-Fi環境を整備しなければならない。それだけで数百万円のコストがかかるため、顧客がそういった面で渋るケースもある」(セコム関係者)という。

すでにサービスとして提供しているセコムドローン

一方の実運用では、通常の警備体制と同じく、社員が警備のシステム解除を忘れて現場に入り、ドローンが出動するというケースがあるという。「それで改めて顧客が『こうやって稼働するのか』と納得していただくケースもある。同時に、対処員も出動しなければならないので私たちとしては大変な面もあるが」(同)と苦笑いしつつ、実用性もアピールする。

今回の実証実験については、4G LTEの広範なエリア性について評価しつつ「実際に利用するとなると、法整備が必要(現状はLTEを利用できない)だし、実験機も積めるものをとりあえず積んだだけの状態」(同)と話す。ただ、「ある意味で、すぐに実利用できる下地は出来ていると感じた。特に複数機の運用は私たちも目指したいところだし、警備の高度化も果たせる」(同)と期待感を示す。セコムとしては2020年の東京オリンピックもあるため、それに合わせたい思惑もあるだろう。

KDDI 商品・CS統括本部 商品戦略部 商品1グループ 課長補佐の杉田 博司氏は、「スマートドローンは4G LTEであっても十分力を発揮する」と語る。今回の実験では、2Mbpsのスループットで動画を運行管理システムに送信したが、カメラ機材は4Kの動画撮影が当たり前になりつつあり、2020年には8Kも視野に入る。

KDDIは5Gを、2020年に商用スタートする見込みだが、それに合わせたスマートドローンの高度化も以前から強く打ち出している。5Gが実現する「大容量」「低遅延」「多接続」という三大メリットは、いずれもドローンを運用する上で重要な鍵だ。ではなぜ4Gでもと杉田氏は語るのか。

3月8日に行われた防災訓練でも、5Gの特徴を活かした災害時のスマートドローンの未来を提案していた

当然ながら、これまで3Gや4G LTEが歩んできた道と同じく、5Gはそのエリア整備に時間がかかる。2012年にスタートした4G LTEであれば、そのエリア性を存分に活かせるし、高解像度やリアルタイム性が求められない現場であれば、「監視環境を用意する」という大前提さえクリアできれば実用に耐えるというイメージだろう。

むしろドローンに足りない要素はバッテリーだ。この日の実証実験では、「十分にデモンストレーションできる時間」として10分飛行できる機体で臨んだ。落下の恐れがないように、40%の残量を残してということだが、産業用ドローンの多くは現状で長くても30分が限度の機体が多い。

「今回のような複数機運用を実際に行う場合、例えば数万m2の敷地であれば1機の俯瞰ドローンと4機の巡回ドローンの5機×2セットの10機といった運用が考えられる」(セコム関係者)というように、しばらくはバッテリー問題が残る見込み。電気自動車でも、パナソニックとトヨタが車載電池開発で協業するように、ドローン分野でも電池のブレイクスルーが求められそうだ。