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トヨタが新型「クラウン」で“コネクティッド”を強調した意味

トヨタが新型「クラウン」で“コネクティッド”を強調した意味

2018.07.03

トヨタ自動車は新型「クラウン」を「初代コネクティッドカー」として発表した。一昨年にコネクティッド戦略の説明会を開いたトヨタだが、今回のクラウンを同時発表の「カローラ スポーツ」とともに“初代”と位置付けるのはなぜなのか。多彩なサービス内容ともども解説していく。

なぜトヨタは新型「クラウン」を初代コネクティッドカーに位置づけたのか

「クラウン」と「カローラ」がコネクティッド?

6月26日に発表された、通算15代目になるトヨタの新型クラウン。その概要については先日、テストコースで試作車を試乗した様子をお伝えした。しかし発表の場では、試乗のときには聞かれなかった新しいメッセージが加わっていた。「初代コネクティッドカー」である。

同日、12代目「カローラ」の先陣をきるクルマとして発表された新型車「カローラ スポーツ」にもまた、トヨタは初代コネクティッドカーという名称を与えている。

新型「クラウン」と「カローラ スポーツ」の発表に合わせたイベントをトヨタは「THE CONNECTED DAY」と呼んだ(画像提供:トヨタ自動車)

これらのメッセージについて、「あれっ?」と思った人もいるようだ。トヨタの初代コネクティッドカーは「プリウスPHV」ではなかったのかと。

「プリウスPHV」との違いは

トヨタがコネクティッド戦略についての発表会を開催したのは2016年11月。この時は、発表間近となっていたプリウスPHVに言及し、スマートフォンのアプリで乗車前のエアコン設定やバッテリー状況の確認、充電ステーションの検索などができる「ポケットPHV」というサービスを提供予定とした。

翌年2月に発表されたプリウスPHVは、予告どおりスマホアプリを用意し、インテリアに11.6インチという巨大な縦長ディスプレイを備え、DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)を搭載して、「T-Connect」と呼ばれるテレマティクスサービスを準備していた。

コネクティッド機能に力が入っていた「プリウスPHV」

そこには、音声対話サービスの「エージェント」、専用アプリ、万一のときにアラーム通知や位置追跡を行うセキュリティサービス、定期点検などの案内をメールで送信するリモートメンテナンスサービス、事故や急病などの際に緊急通報を行うヘルプネットなどの用意もあった。

これだけの内容を備えていたプリウスPHVだが、トヨタが初代コネクティッドカーに位置づけなかったのは、ベースグレードにDCMを装備していなかったためかもしれない。新型クラウンやカローラ スポーツは、DCMが全車標準装備となっている。

つながる機能が若返りの切り札?

先進的なイメージを持つプリウスPHVがコネクティッドカーになるのは、自然な流れともいえる。逆に、クラウンやカローラはユーザーの高齢化に悩んでいた。若返りのためにクラウンではデザインを一新し、カローラでは久々のハッチバックを「スポーツ」という名前とともに送り出した。

トヨタとしては2台の若返り戦略の最後の一手として、初代コネクティッドカーという意外性のあるメッセージを加えたのだろう。とはいえ、プリウスPHVよりもはるかに幅広いユーザー層を狙っているクラウンと、価格をプリウス以下にしたいと考えていたカローラスポーツで、DCMを全車標準装備としたのは、英断ではないかとも思っている。

初代コネクティッドカーというメッセージは、若い世代にどのような印象を与えるのだろうか(画像は新型「クラウン」)

新型クラウンのインテリアデザインは前回紹介したとおりで、プリウスPHVのような縦長のディスプレイは採用していない。60年以上の歴史を持つクラウンのインパネにはなじまないという判断かもしれない。

しかしながら前述したように、車載通信機DCMは全車に標準搭載となっており、T-Connectサービスが3年間は無料で使える。4年目以降は1年につき1万6,000円(税抜)の利用料が必要となる。

「クラウン」のインパネに大型ディスプレイは合わないかも?(画像は新型「クラウン」)

インフラとの通信も増え始める

その内容は、まずドライバー向けでは「ヘルプネット」「eケア」といった安全・安心をサポートするサービスに加え、「オペレーターサービス」 「エージェント」など、カーライフを快適にするためのサービスも提供する。

これらはプリウスPHVなどでも展開しているが、新型クラウンでは「My TOYOTA for T-Connect」という名前を与えており、ドアロックやハザードランプ消灯などをスマホで操作できることに加え、現時点での航続可能距離やクルマの健康状態などが確認できたり、安全運転やエコな運転を診断する機能も追加となったりしている。

「My TOYOTA for T-Connect」のイメージ(画像提供:トヨタ自動車)

さらに新型クラウンでは、上記の「ドライバーとつながる」機能以外に、「街とつながる」「社会とつながる」という点もアピールしている。

このうち、街とつながる部分では、2015年からクラウンに搭載している「ITS Connect」を引き続き採用。ITS専用周波数(760MHz)を活用し、クルマに搭載したセンサーでは捉えきれない、見通しの悪い交差点などでの情報を、他のクルマやインフラと通信を行うことで、ドライバーに知らせて安全運転を支援する。

2015年時点では、インフラ側の通信システム対応交差点は全国で数カ所だったが、今回、記事を書くにあたりトヨタのウェブサイトを見たところ、東京23区内だけでも30カ所近くに増えていた。車両側では「プリウス/プリウスPHV」や「アルファード/ヴェルファイア」が加わっているので、効果を発揮するシーンは増えているのではないかと推測できる。

LINEで「クラウン」と“ともだち”に

社会とつながる部分では、2011年の東日本大震災で初めて提供し、先月の大阪北部地震でも展開した「通れた道マップ」がある。DCM搭載車両などから収集した情報に基づく通行実績をウェブサイトで無料公開したもので、直近約24時間の通行実績情報が1時間ごとに更新されるので、災害地域での移動に役立てることができる。

もうひとつ、クラウンのコネクティッドサービスで注目したいのは「LINEマイカーアカウント」だ。自分のクルマを“ともだち”として追加し、ナビの目的地登録やガソリンの残量、天気予報の確認などが可能になるというものだ。

プリウスPHVではLINEを含めたSNSに全く対応しておらず、残念に感じた記憶がある。今回も、家族や友人からのメッセージがディスプレイ上に表示されたりはしないようだ。ユーザーの若返りを目指しているのであれば、もちろん安全性は担保したうえで、より積極的な対応を望みたい。

LINEでクルマと“ともだち”になれるのは面白いが、更に踏み込んだサービス提供にも期待したい(画像提供:トヨタ自動車)

AI導入もオペレーターは残すトヨタの判断

一方で感心したのは、プリウスPHVの取材時に開発担当者から聞かれた「最後は人」というメッセージが、新型クラウンにも受け継がれていることだ。トヨタでも、他のブランドと同じ人工知能(AI)を用いた応答は「エージェント」として用意しているが、それだけでなく、オペレーターが対応するサービスも継承している。

新型クラウンが、依然として年齢層の高いドライバーを想定しているからではない。20~30歳代のユーザーを想定したというカローラスポーツでも、同じようなサービスを展開している。つまり、これがトヨタらしさなのではないかと筆者は感じた。今後、さまざまなブランドがコネクティッド分野を進化させていくだろう。その際にトヨタの「最後は人」という考え方は、強みになるのではないだろうか。

ユーザー平均は70歳? 若返りが急務の「カローラ」に新型車が登場

ユーザー平均は70歳? 若返りが急務の「カローラ」に新型車が登場

2018.06.26

トヨタ自動車が新型車「カローラ スポーツ」を発売した。誕生から52年を経たカローラだが、ハッチバックという新たなスタイルで登場する新型車が背負う使命は、ずばりユーザーの若返りだ。自動車業界共通の命題に挑む新型カローラとは、一体どんなクルマなのだろうか。事前説明会でチーフエンジニアに聞いた話も交えつつお伝えしたい。

トヨタが発売した新型車「カローラ スポーツ」

トヨタが若者に提案する新しい「カローラ」

カローラは1966年に誕生し、今度の新型で12代目となる。これまでの累計販売台数は4,600万台以上。現在は世界の16の工場で生産し、150カ国以上の国と地域で販売しているグローバルな大衆車だ。新型カローラの開発を担当したトヨタの小西良樹チーフエンジニア(CE)は、カローラの販売状況を「10秒に1台、お客様の手元に届く計算」(以下、発言は小西CE)と表現する。

「全ての人に移動の喜びを」をコンセプトとして1966年に誕生した初代「カローラ」

「『アクシオ』というセダンは70歳、ワゴンの『フィールダー』は60歳――」。説明会で会場がどよめいたのは、小西CEがカローラオーナーの平均年齢に言及した時だった。この数字は、長くカローラに乗り続けている人がいる証明だと考えれば立派だが、当然ながら若いユーザーを取り込めなければ販売台数は先細る一方だ。

ユーザーの平均年齢は、セダンタイプの「カローラ アクシオ」(左)が70歳、ワゴンタイプの「カローラ フィールダー」が60歳だという

新型カローラ開発にかける思いを「カローラを若い人たちに」とした小西CEは、カローラ スポーツを「次の50年に向けて最初に打ち出すクルマ。今のお客様も大事だが、次の50年に向けて若い人にも響く商品にしたい」と力を込めた。ターゲットユーザーは20~30代の男女、カップルなどの「新世代ベーシック層」と設定。そういった顧客に届くよう、「2つの軸」によるクルマづくりを行ったそうだ。その軸とは、「コネクティッド」と「クルマ本来の楽しさであるデザイン・走り」だとする。

フロントマスクに「C」のマーク

まずデザインについてだが、小西CEは「ワイド&ロー、スポーティーなクルマ」を目指したと話す。特徴として、フロントはボンネットをラウンディッシュな造形とし、ヘッドランプは薄型でシャープにしたとのこと。グリルには大型の台形を用いて低重心感を出したそうだ。フロントマスクで目を引くのは、新たに採用したという「C」のマーク。もちろんモチーフは車名の頭文字だ。リアからの見え方では、「ラグビーボールのようなカタマリ感」のある意匠を狙ったという。

「カローラ スポーツ」(左)には「C」マークが初採用となった。右は新型「クラウン」

室内は「シンプルで上質、開放的な空間を目指した」とのこと。例えばドアトリムからインパネにかけては、水平基調の造形を採用することで開放感を演出している。シートには「スポーツシート」と「スポーティーシート」があり、「スポーツ」の方はカローラ スポーツで新規開発し、初めて導入したものだ。「しっかりホールドして気持ちよく走れる、疲れないシートになっている」というのが小西CEの説明だ。

エクステリアカラーは8色

100万キロの走行試験を行ったグローバルカー

デザインと同じく軸となるのが走りの部分だが、小西CEが開発当初からチームで共有した理想は「ずっと走っていたくなるような気持ちの良い走り」というもの。世界5大陸で延べ100万キロの走行試験を実施し、走りを熟成させたという。8月にはマニュアルトランスミッションを搭載したモデルも発売する計画だ。

パワートレインは1.2Lターボと1.8Lハイブリッドから選べる

そしてコネクティッド機能だが、新型カローラおよび同時発売の新型「クラウン」は、トヨタにとってコネクティッドカーの「ファーストバッターとなる」とのこと。車載通信機「DCM」を全車で搭載し、例えば故障のときに警告灯が点灯したら自動的にコールセンターに接続し、故障の程度や走行可否についてアドバイスを受けられる「eケア走行アドバイス」であったり、AIを用いた音声対話サービス「エージェント」などの機能を使える。スマートフォンのアプリ「LINE」でクルマ自体を“友だち”登録し、マイカーと会話するような趣向のサービスも用意しているそうだ。

ハイブリッドであれば最高でリッター34.2キロの燃費(JC08モード)が得られる

こういった特徴を持つカローラ スポーツだが、説明会の後、小西CEと話をする機会があったので、気になることを質問してみた。

実は伸びているハッチバック市場

まず、カローラ店で販売するカローラ スポーツが、トヨタにとってどのような立ち位置になるかについては、「(カローラ店には)『アクア』『プリウス』があるが、その間を埋めるのがカローラのポジショニングだ。価格的にも、間を埋めるような商品になっていく」とする。ハッチバックなのでアクアとポジションが重なりそうだが、「アクアとはセグメントで立ち位置が違う。カローラはCセグメント、アクアはBセグメントだ。装備や使っている材料、タイヤの大きさなどにも違いがある」とのことだった。

「アクア」(画像)と「カローラ」はセグメントが違う

次に、ユーザーの若返りを図りたいというトヨタの願いが前面に出ているカローラ スポーツだが、既存の顧客層に対する気配りはどうなのか。この問いに対して小西CEは、このクルマが搭載している安全装備の充実ぶりに触れつつ、「自動ブレーキがちゃんと効く、長距離走行時にステアリングのサポートが受けられる」などのポイントを挙げ、年配のドライバーでも安心なクルマに仕立ててあることを強調した。ハッチバックに続いては、既存モデルと同じセダン、ワゴンの発売も計画しているという。

新型「カローラ」の開発を担当したトヨタ自動車 Mid-size Vehicle Company MS製品企画 ZE チーフエンジニアの小西良樹氏

そもそも、なぜハッチバックにしたのかについては、「ハッチバックというクルマの市場が少しずつ伸びている」ことも背景にあるとする。「顕著なのが米国。これまでの米国のイメージにはないクルマだが、ホンダさんの『シビック』はハッチバックがすごく売れていると聞く。国内でも例えば『アクセラ』(マツダ)などがある。流行のSUVよりはコンパクトだが、荷物がしっかり入って、取り回しがしやすく、価格も低いというクルマのニーズが出てきている」というのが小西CEの市場分析だ。もちろん、若々しいイメージを押し出すべく、あえてハッチバックから新型カローラをスタートさせた側面もある。

「次の50年」発言の真意は

最後に、小西CEのプレゼンテーションで気になった「次の50年」という言葉についても、真意を聞いてみた。豊田章男トヨタ社長が言っていたことだが、自動車業界では100年に一度の大変革が起きている。自動化や電動化が、どのくらいの早さで進むかは誰にも分からない中で、次の50年を見越した新車を開発することなど可能なのだろうか。

「正直、クルマが50年先にどうなっているかは私にも分からないが、カローラはこれまで、安全・安心、信頼性が高い、使い勝手がよいという、『ベースのところ』をどの時代にもキープしてきた。そのベースをキープした上で、お客様と社会が求める、その時代にあった価値を、姿かたちを変えつつ提供してきたのがカローラの歴史だ。モビリティである以上、50年後も信頼性などの大切さは変わらない。その時代にニーズのあるものを、将来のチーフエンジニアが付与していくことになる」

安全・安心、信頼性、使い勝手という初代以来の伝統を引き継ぐ新型「カローラ スポーツ」

つまり、時代に即した変化を遂げつつも、ベースの部分は不変というのがカローラの本質ということだ。そういうクルマであるだけに、10年後のカローラが自動運転になっていたり、次のカローラが電気自動車になっていたりしても不思議ではない。実際のところトヨタは、中国でカローラのプラグインハイブリッド車(PHV)を発表していたりする。

「トレノ」と「レビン」のベースとなったクルマと聞けば、若々しさやスポーティーといった印象とは無縁でないと思われるカローラだが、今では「カローラという名前自体を知らない人も20~30代には多い」と小西CEは率直に認める。今回のハッチバックで、次の50年も乗り継いでくれるような新しい顧客と出会えるかどうかは見ものだ。

EVを巡る覇権争いに異変? 全固体電池で日本の自動車大手らが結集

EVを巡る覇権争いに異変? 全固体電池で日本の自動車大手らが結集

2018.06.20

全固体リチウムイオン電池(全固体LIB)でトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、パナソニックが手を組んだ。電気自動車(EV)普及の鍵を握る電池の領域では、各メーカーが独自の研究・開発を進めていて、密かな先手争いが熾烈を極めているものと思いきや、ライバルと目されていた3社が“日本連合”のような座組みで結集した格好だ。その理由とは。

各社が語った一枚岩になる意義

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「全固体リチウムイオン電池の研究開発プロジェクト第2期」の概要を発表した。

第1期(2013~2017年度)は全固体LIBを実現するための材料開発とその評価が中心だったが、この第2期(2018~2022年度)では一歩進んで、実用化を前提とした大型・大容量の全固体LIBを用いて、EVへの搭載の可否や量産技術への適合性を含めて評価し、その世界標準化を目指すとしている。

このため、参加する企業や団体が大幅に増えた。自動車・蓄電池・材料の各メーカー23社と大学・公的研究機関15法人が連携・協調し、全固体LIBの実現に向けた課題解決に乗り出したのである。実現へ向けた道筋として、2020年代の後半には第1世代の全固体LIBが主流となり、2030年代の前半から第2世代の全固体LIBへ移行するとの想定を示した。

プロジェクトの成果は、参加企業が「製品開発・ビジネスの加速に活用」できるとしている

第2期発足の発表会には、自動車メーカーや電機メーカーからも担当者が駆けつけた。トヨタ自動車 電池材料技術・研究部の射場英紀担当部長は、「長年、トヨタは全固体電池に取り組んでいるが、課題は山積している。こうした形で一枚岩となって開発に取り組めるのは心強く、ぜひとも実用化したい」と意気込みを述べた。

日産自動車 総合研究所研究企画部の森春仁部長は、「産官学での取り組みによって可能性が広がるので、安く、大量に、安定して製造するため、日本の英知を結集したい」と挨拶。本田技術研究所 常務執行役員(パワートレーン担当)の相田圭一氏は、「プラグインハイブリッド(PHV)やEVを拡大していく鍵は蓄電池であり、全固体LIBの潜在能力に期待している。ホンダでも独自の開発はしているが、オールジャパンで取り組むことにより、量産へ向け前進できるだろう」と語った。

電動車拡大の鍵を握るのが蓄電池だ

パナソニック テクノロジーイノベーション本部 資源・エネルギー研究所の藤井映志所長は「海外メーカーに負けられないので、産官学のオールジャパンでの取り組みに期待するとともに、製造プロセスの面で研究・開発を牽引し、実用化につながるよう取り組みたい」と協力領域を明確にしながら抱負を述べた。

リチウムイオン電池で先行する中国の存在

各社のこうした熱意の背景にあるのは、既存のリチウムイオン電池の量産で先行する、中国などの海外勢に対する危機感であると語るのは、プロジェクトリーダーを務めるNEDO 次世代電池・水素部 統括研究員兼蓄電池開発室長の細井敬氏だ。その上で、「全固体LIBが将来的にコモディティ化する前に、日本から実用化することで、新技術で世界をリードし、差別化した技術によりうまみのあるビジネスを展開したい。そのためのプロジェクトだ」と思惑を語るのであった。

では、国の機関であるNEDOと、日本の産業を牽引する大手メーカーが期待を寄せる全固体リウムイオン電池には、どのような利点があるのか。

EVの魅力向上につながる全固体LIBの特性

リチウムイオン電池は、これまでの他の電池(鉛酸やニッケル水素)と異なり、電極材料が化学変化することで電気を生むのではなく、正負極間をリチウムイオンが移動することにより電気を生むところを特徴とする。化学反応を伴わないため劣化が少ない。したがって、充放電を何度も繰り返すことができるという利点がある。また、1セル(正負極を持つ電池の最小単位)あたりの電圧が高いため、そもそもの容量を大きくできる潜在能力も備えている。

一方で、過充電をすると電極の結晶が壊れ、短絡(ショート)して発熱や発火を生じる場合があり、ことに携帯用モバイル機器やノート型パソコンなどで過去に事故が起きている。

現状のリチウムイオン電池は、イオンの移動を促す電解質がジェル状であるため、そのような事故につながる可能性が高くなっている。その点、全固体LIBになれば電解質が固体となるので、事故を起こしにくくしたり、容量をさらに高めたり、充放電が短時間で可能だったりといった数々の利点がある。

全固体LIBは電解質が固体であるため、リチウムイオン電池に比べ事故が起こりにくい、容量が大きい、短時間での充放電が可能といった利点がある

それらの利点により、車両への積載性が高まったり、大型トラック/バスなどへも重量増を抑えながら適用できたり、充放電時間を大幅に短くすることで長距離移動を楽にできたりといった、EVとしての魅力向上にもつながることが期待されている。

どこまで協力するかも問題に

では、全固体LIBの課題とは何か。たくさんあるが、そもそも電極材料に何が適しているのか、その電極は量産可能な組成であるのか、量産に際しての製造技術は既存のリチウムイオン電池と別のやり方が必要になるのかなどは、根本的に解決しなければならない宿題だ。そこで産官学が集まり、オールジャパンの英知で基礎部分の課題解決に乗り出したというのが、今回のプロジェクトである。

全固体LIBを量産できればいいことばかりのようだが……

とはいえ、共同開発しながら得た知見と、これまで各社が開発してきた独自の知見とは、どこまでを共有・公開するのかといった課題もある。自動車メーカーは互いに競合関係にあるのだから当然だ。

この点についてトヨタの射場部長は、「トヨタではオープンイノベーションと言っており、必要な特許は公開していきたい」と述べた。同時に、「全固体LIBと言っても一種類ではなく、その中の共通部分をこのプロジェクトで取り組む」との含みも持たせた。

すなわち、根本的な部分でまだ解決すべき課題が残されているということだ。その道のりは遠そうだ。

資源問題への対応は待ったなし

全固体LIBは純粋な技術開発として挑戦しがいのある対象であり、本来は競合関係にある私企業が一致団結し、また大学や研究機関とも協力して、国のプロジェクトとして技術立国・日本の雌雄を決する取り組みで力を合わせるのは歓迎すべきことだと感じた。

一方で、現行のリチウムイオンバッテリーメーカーOBの言葉として、「ポストリチウムイオンはリチウムイオンだ。現状のリチウムイオンを舐め尽くすべき」との声もある。

また、現行のリチウムイオン電池と全固体LIBでは、リチウムを含む電極材料などは基本的に同じものを使うため、今回のプロジェクトで資源問題を解決できるわけではないとNEDOの細井氏は述べている。

したがって、全固体LIBが実用化したとしても、そのリユースやリサイクルなどは不可欠となる。このプロジェクトにおいても、3R(リデュース、リユース、リサイクル)への対応を視野に入れた低炭素社会のシナリオデザインを行うとしている。

このプロジェクトでは低炭素社会のシナリオデザインも行うとする

とはいえ、日産がEV「リーフ」の発売前に設立したフォーアールエナジーによって、この春にようやく中古電池のリユースを始めたことからも分かるように、EVとして使い終わったリチウムイオン電池を有効活用するには、その準備に長い年月を必要とする。先ごろ、トヨタとセブンイレブンが発表した、ハイブリッド車(HV)の中古ニッケル水素電池を用いた定置型蓄電池の実証においても、まだ日産のような1セルごとのレベリング技術は確立されていない。フォーアールエナジーの社長インタビューにもあるように、その点にはトヨタも、また全固体LIBを扱う各社もこれから苦労するだろう。

EVの市場投入で先行した日産も、使用済みバッテリーをリユースする仕組みづくりには苦労した(画像は充電中の日産「リーフ」)

大局観なしではガラパゴス化の危険も?

今回のプロジェクトで懸念されるのは、研究・開発そのもの以上に、2030年における社会や交通の在り方に対するグランドデザインがまったく語られず、現行のEVやリチウムイオンバッテリーに比べ、全固体LIBの性能がいかに高いかという点に終始したことだ。それでは、技術ができても社会に適応した交通政策と合致するかどうかは分からない。

それに対し、例えばドイツのアウディは、2030年に都市部に住む人の割合が世界人口の60%を超えるとする国際連合の推計を基に、どのような住環境が生まれ、そこに適合する交通手段はどのような姿であり、そこへ個人的な移動の自由を約束するEVがどう関わっていけるかといった視点で物事を語っている。単に技術的な優位性があるか無いかではなく、生活に役立つ技術とは何かを問うているのだ。

そこに先進技術が組み合わさることではじめて、日本が世界をリードすることができるのではないだろうか。技術だけが先行しても、現実の暮らしに根差した事業を進める諸外国の後塵を拝するのではないか。“ガラケー”ではないが、島国の閉鎖された中で、他国がやっていないから勝てるのではないかといったような、視野の狭い取り組みにならないことを期待したい。