主要各社の「8K」戦略、日本の3メーカーは姿勢が大きく分かれる

主要各社の「8K」戦略、日本の3メーカーは姿勢が大きく分かれる

2019.01.15

シャープ、ソニー、パナソニック、大きく異なる8K戦略

オリンピックせまるも、8K家庭普及の見通しに温度差

米ラスベガスで開催された家電見本市「CES 2019」では、主要各社から「8K」テレビが展示されたが、日系メーカー3社の8K戦略には大きな差が出た。

個人向け8Kビデオカメラも投入し、積極的なシャープ

世界初の8Kテレビを2018年11月から日本で発売しているシャープは、CES 2019の展示においても、自らが8K分野のリーディングカンパニーであると改めて訴求する。

8Kディスプレイを一堂に展示したシャープブースの様子
シャープは8Kエコシステムを前面に打ち出した
シャープの石田佳久副社長

4年ぶりにCESのメイン会場であるセントラルホールに出展したシャープの石田佳久副社長は、当日の会見で「シャープは、中期経営計画において、『8KとAIoTで世界を変える』ことを掲げている」と話す。ブース内に数多くのBtoB向け8Kディスプレイを並べた一方、5Gによる8K画像の配信提案や、サードパーティーによる8Kデータ管理サーバーなども展示。ほかにも、8Kテレビの心臓部となるイメージプロセッシングSoCも参考展示していた。8Kの技術や製品、パートナーシップにおいても先行していると強調した内容だ。

8Kテレビの心臓部となるイメージプロセッシングSoCも参考展示
シャープがパートナーシップ戦略のもとに展示した8Kデータ管理サーバー

中でも特に注目を集めたのが、参考展示したコンシューマ向け8Kビデオカメラである。

「8Kの映像を手軽に撮影する提案が重要になる。今回、プロフェッショナル用の8Kカメラに加えて、プロシューマ向けのカメラを新たに用意した」とする。形状はデジカメのようだが、8K動画の撮影に対応。2019年上期には発売する予定だという。価格は3,000~4,000ドル程度を想定している。

石田副社長は、「将来的には、8K映像もスマホで撮影するようになり、そこまでくれば、8Kが幅広く認知されることになる。だが、そこに至るまでにはまだ時間がかかる。シャープは、8Kを普及させるために、8Kに関して、様々な製品を用意して行く考えであり、今回の8Kビデオカメラもそのひとつ。多くの人に使ってもらいたい」と説明する。

シャープが参考展示した8Kビデオカメラ

また同氏は、「シャープは8Kにおけるリーダーとして、8Kディスプレイテクノロジーによりデジタルエクスペリエンスを向上させ、エンターテインメント、放送、教育、ヘルスケア、セキュリティ、製造業など、広範に8Kの価値を提供することになる。8Kエコシステムを通じて、パートナーとともに8Kの価値を十分に引き出した提案を行っていきたい」と述べた。

シャープはCES 2019会期中の1月11日(現地時間)に、マレーシアでASEAN市場初のコンシューマ向け8Kテレビも発表している。画面サイズが大きめの60型、70型、80型の3つの製品を投入し、マレーシアで行われた会見では、「ASEAN市場においても、AQUOS 8Kワールドの幕開けを宣言する」とコメントした。

ただ、主力となる北米市場における8Kテレビ戦略には懸念材料がある。シャープは鴻海グループ傘下に入る前に、北米市場におけるシャープブランドのコンシューマ向け液晶テレビの販売に関して、中国ハイセンスにライセンスを供与している。シャープは、北米でAQUOSブランドのテレビを販売できない。

石田副社長は、「北米には8Kテレビの市場ポテンシャルがあると考えている。いい技術といい製品が完成している。これを米国で販売できないのは残念。できるだけ早く販売を再開したい」と話している。北米市場での今後の協議の行方は注目だろう。

大画面に絞り、8Kテレビを初めて投入するソニー

ソニーはCES 2019において、同社初となる8Kテレビ「Z9Gシリーズ」を出展してみせた。販売地域や価格については追って今春に発表する予定だという。

ソニーの8Kテレビ「8Kテレビ「Z9Gシリーズ」
ソニーの高木一郎専務

ソニーのホームエンタテインメント&サウンド事業担当の高木一郎専務は、このタイミングでの8Kテレビ投入を、「ソニーは、顧客に対する”感動価値”を感じてもらえる製品ができあがったら、8Kテレビをしっかり提案すると話してきた。他社が発売しているような8Kテレビのレベルでは、感動価値を与えられず、製品として出せないと考えていた。今回、ソニーのBRAVIAとして発売できる水準まで到達した」と説明する。

日本では、NHKが8Kの衛星放送を開始しているが、まだまだ8Kコンテンツは少ないのが現状だ。だが、そこにソニーがいう感動価値を提案できるという言葉の背景がある。

「8Kのコンテンツがないという現状で、8Kの感動価値を実現するには、4Kや2Kを8Kにアップスケールできる技術が肝になってくる。それを実現するアルゴリズムとデジタルプロセッシングが完成したことで、他社には実現できない感動価値を提供できることができた」(高木専務)とする。

Z9Gシリーズでは、次世代の高画質プロセッサ「X1 Ultimate」に、8K超解像アルゴリズム用の専用データベースを内蔵する。これにより、あらゆるコンテンツを8K解像度にアップコンバートする「8K X-Reality PRO」を実現できたという。

また、8Kテレビの画面サイズを98型および85型の大型モデルに絞った。高木専務は「8Kテレビは、大画面こそが魅力を発揮すると考えている。北米や中国では、大画面の価値が高まっており、そこに8Kテレビを訴求していくことになる」と話す。

技術の有用性は認めるも、パナソニックは8Kに慎重

一方、パナソニックは、8Kテレビの投入には慎重な姿勢をみせる。

パナソニックの津賀一宏社長

パナソニックの津賀一宏社長は、CES 2019で行った会見で、「8Kテレビは、パネルを買ってきて、回路をつければ製品化できる。だが、放送のソースが限られているなかで、そのソースだけで商売をすることはできない。いまは意味がないと考えており、様子見である」とする。

また、「チューナーを搭載しない8Kモニターは、プロフェッショナル向けやBtoB向けにマーケットが存在するが、ここはニッチなマーケットであり、パナソニックが直接それをやることはない」と、この分野においても、製品投入の可能性を否定する。

しかし津賀社長は、「8Kそのものは使い方によっては、いい技術になると考えている」と話しており、「8Kは、大画面で、多くの人が見られる点にメリットがあると考えている。ここにおけるパナソニックの強みは、高輝度プロジェクターである。高輝度プロジェクターを8K対応していくことは重要視している。東京オリンピック/パラリンピックのパブリックビューイングなどでの活用が想定され、パナソニックは、そこを、がんばる領域に位置づけている」とする。

自らパネルを生産し、8Kの世界を積極的に広げようとしているシャープ。今回のCES 2019では、「クリエイティブエンタテインメントカンパニー」という新たなメッセージを打ち出し、ソニー・ピクチャーズなどが持つコンテンツを最大限に楽しむことを目的に8K戦略を推進するソニー。そして、テレビやモニターでの8Kビジネスには消極的だが、プロジェクターによるBtoB提案に活路を見いだそうとするパナソニック。CES 2019で見せた8K戦略は、三者三様となった。

ワンピースに学べ! 「官民ファンド役員辞任騒動」で報道すべきだった、真の論点

藤田朋宏の必殺仕分け人 第3回

ワンピースに学べ! 「官民ファンド役員辞任騒動」で報道すべきだった、真の論点

2019.01.09

ちとせグループCEOの藤田朋宏氏による連載

第3回は、「産業革新投資機構の騒動」について

何事も「正義と悪」で語りがちなマスコミの報道に思うこと

「なんだか勿体ない報道だなぁ」

産業革新投資機構(JIC)の経営者の方々と経済産業省に関する報道を見て、そんなことを感じました。官民ファンドであるJICの役員が報酬水準をめぐって所管の経産省ともめ、田中正明社長をはじめとする民間出身の取締役が全員辞任するという出来事でした。

僕が勿体ないと感じた原因は、マスコミの多くが勝手に「偉いおじさんは悪い」という前提を設定したストーリーばかりで報道していたことです。こうした報道は、本来の報道のあるべき姿を逸脱しているのではないか、と僕は思うのです。

産業革新機構の田中正明社長は、経産省との対立が原因で、社外取締役ら民間出身の9人の取締役が全員辞任し、新規投資を凍結すると発表した(画像は経産省外観)

前時代的な「わかりやすい悪人」がいるストーリー

僕が子供のころは、子供が見る番組は味方と敵の関係が単純な作品ばかりでした(ちなみに僕は人口ピラミッドで一番多い45歳)。当時は、顔が青くて感情が無さそうな宇宙人や、見るからに悪そうな顔で悪そうな喋り方をする怪人が地球征服を企んでいるような作品ばかり。大して悪いこともしていない敵を爆破して、みんなで勝利を喜ぶという単純なストーリー展開が、敵役が可哀そうでどうにも好きになれない子供でした。

僕と同じように感じる子供も多かったのか、それとも作っている側の大人が飽きたのか、恐らく初代のガンダムくらいから、子供向きの作品にも、「主人公にも敵役にもそれぞれの正義が存在する」という価値観の作品が増えたように思います。

それから数十年が経ち、今や国民的作品であるワンピースに至っては、敵役の海軍の背中にデカデカと「正義」と書いてあります。子供向け作品でさえ、「どっちが正しいか」という子供じみた議論はせず、「正義vs正義」の構図で話が進んでいきます。平成に入って、「価値観なんてもんは人の数だけあるんだ」っていう当たり前の事実を子供でも知っている国になったわけです。

にも関わらず、何かあるたびに日本のマスコミの多くは、誰か悪役を仕立てないと報道できないルールでもあるかのように、単純なストーリーの報道ばかりしています。

正義を一つに絞らないと視聴者が理解できないと思っているのか、はたまた報道の形を取りながら自分の考える正義で日本を染めたいと思っているのか。どちらが理由なのかはわかりませんが、こういった人による価値観の差異を雑に扱うスタンスで届けられる報道を見るたびに、「このテレビ局の人たちは視聴者を子供以下の理解力の持ち主ばっかりだと思っているんだろうな」なんてことを感じるのです。

もう平成も終わるわけですが、いつになったら彼らは、怪人を爆破して喜んでいた時代の価値観で報道をしていることに気づくのでしょうか。

そこには本当に「悪役」がいるのか

そもそも、JICの経営陣は彼らが考えるあるべき姿と何が違かったのかを自分たちの言葉で発表していましたし、経産省も世耕大臣が代表して自分の考え方をしっかり述べていました。

登場人物が、それぞれの価値観でそれぞれの言葉で「日本をより良くするためにはどうしたらいいか」という意見を言っていたのです。これはとても立派な態度と行動だったと思います。

僕は、こうした健全で建設的な議論から逃げないことが、今の日本にとって最も大事なことだと考えています。しかし、世の中ではこういった議論がオープンになされたことそのものを問題視して、監督官庁である経産省を責める声も多かったように感じます。

論点を明確に定義して、オープンに議論して、混乱を詫びた上で辞任するって素晴らしいことじゃないですか。国の中枢のところでああいったオープンな議論が行われる国って、素晴らしい国だと僕は思うんですよ。揉め事は有ってはいけないのではなく、健全で建設的な議論をしようと思ったら、揉め事を避けてはいけないと思うのです。

せっかく、経済界で名前の通った人たちが個人的なレピュテーションリスク(企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスク)を恐れず進退を賭けて問題提起してくれたのだから、短絡的にどっちが正しいとか、どっちが間違えているとかいう結論を出すことを目的としない、建設的な議論を続ける努力をするのが報道の役割だったのではないでしょうか。

しかし、実際のマスコミの報道を見ていると「なんだか偉い人がもっと給料くれって言って喧嘩している」的な、極めてクダラナイ議論に矮小化されて報道され、エリートが私欲で喧嘩している的なネタとして消費されてしまったことが、とても残念でした。

「正義と悪」を決めつける報道は、正義か悪か

ちなみに、同時期に話題になっていたニュースに、某自動車会社の有名な経営者が「莫大な社費を流用しているvsしていない」という報道もありました。テレビのワイドショー的にはこちらも「エリートが過剰に給料を多く欲しがっている話題」として一括りにされていましたが、こちらには建設的な論点は何もありません。

このような非建設的な話をダラダラと報道しみんなで議論しても、なんの意味もないと僕は思うのですが、こっちの件の方がマスコミ的「悪役」が設定しやすいからなのか、年が明けても未だに盛り上がってます。

なんだか「新たな国民の悪役」を皆が欲しがって消費している「残念な国」になっている傾向が、年々強まっているような気がしています。

ここで忘れてはならないのは、ワンピースが「正義vs悪」という対立軸を設定しないままでも、20年以上も国民の関心を引き続けているということです。少年ジャンプを読む小学生でも、あの何百人のキャラクターのそれぞれが有する価値観の差を理解できるのが、今の日本国民の認知レベルなんだと思います。

つまり、報道する側に尾田先生のような人物の価値観を魅力的に描き分ける技術があれば、JICの件でも視聴者を惹きつけるコンテンツは作れたはずなんです。

今回のように、対立する双方がそれぞれ建設的に意見を言っているコンテンツなんてそうはありません。前向きな議論やさまざまな立場の価値観を紹介するうちに、国民全体が日本経済をどうしていくべきかについて、一人一人が意見を持てる国に自然となっていくはずなのです。

毎月のように発掘されて、新たな国民の敵として設定されてしまう悪役に、毎日さらに新しい角度から悪口を見付けた人が頭が良く見えるような、そんな安易な報道コンテンツに逃げずに、いろいろな人の価値観を整理しそれぞれの価値観を魅力的に見せることが、優秀な人が高給をもらっているマスコミに期待すべき役割だと思うのですよ。

報道のストーリーメイク、4つの改善策

では、今回の件はどういうストーリーで報道すれば良かったのか、誰かに意見を言う時は「それじゃダメだ」に留めず「例えばこうしてみるとか」まで付け足すことをモットーに生きているので、勝手に4点考えてみました。

1点目:結論を出さないことを恐れない

報道の役割は「複雑な問題に、誰でも同意できるような短絡的な答えを提示すること」とかいう、おかしなプライドを持っているからコンテンツの魅力が減ってしまうのです。理解が難しい、しかし根源的に大切な問題は、短絡的な答えを出さず難しいまま放置しておく方がストーリーとしての魅力は増すのです。

ワンピースだって、「そもそもワンピースってなんぞや」「海賊王ってなんぞや」って根源的な命題には何ひとつ答えないまま、連載が続いているわけです。短絡的に答えを出す単純なコンテンツでは、もう子供でも楽しめないのです。

つまり、「官民ファンドってなんぞや」ってところがこの議論のラスボスであることは明示しつつも、「その説明は、どうやら登場人物によって理解が違うようだぞ」というままにする報道戦略であれば、このテーマはもっと人々の興味を引けたのではないか、と僕は思うのです。

2点目:論点は給料の「額」ではなく「出どころ」

官民ファンドとはなんぞやという本質をふんわりさせたままにしておく前提で、本件ステークホルダーの意見の相違の理由は、「ファンド運用者の給料は、元本から出されるのか、儲けから払われるのか」という点にあります。しかし、僕がみた限りの報道で、給料の出どころについての理解が違うことに言及した報道は一つもありませんでした。

具体的には「税金で用意した2兆円から給料を払うのだから一般的な公務員と合わせるべきだ派」と、「成功報酬は投資で儲けた額から払うのだから一般的な投資企業と合わせるべきだ派」に整理できたはずです。それから適切なタイミングで「給料の出どころは税金じゃないと思うけど、国で用意した2兆円がなければ投資成果も出せないんだから中庸が正解だ派」を登場させます。

それぞれの案に対して適切なキャラクターを設定できれば、サラリーマンの昼飯の話題だけでなく、高校生の部活の話題にまででき、それがあるべき日本経済のあり方を一人一人が意識するキッカケにまでできたはずです。この「そもそもどこから給料を払っているかの認識の差だよね」っていう整理をちゃんとしている報道、見かけましたか?

報道のポイントであった「給料」、その出どころについて多く語られた報道は少なかった

3点目:「2兆円なんてちっちゃい」という事実

そもそも「2兆円」という運用額の大小も重要です。無駄にデカイ数字が出てくると話が盛り上がる手法は少年ジャンプが発明した優れた手法ですが、これは小学生だけでなく、大人にも通用します。日本人は、「私はあなたより強いです」と言われるよりも「私の戦闘力は53万です」と言われるほうが、ストーリーに感情移入できるように調教されているのです。

ここで僕が皆さんと共有したいのは、国が運用するファンドとして、2兆円はかなり小さいということです。例えば、ソフトバンクビジョンファンドは10兆円規模、日本の15分の1のGDPしかないシンガポールの国営ファンドであるGICやテマセクは、それぞれ10兆円以上運用していると言われていますし、アメリカなんかでは二桁兆円のファンドなんてザラです。日本生命でも60兆円くらいは運用しているはずです。

「そうか、2兆円ってちっちゃいのか」って驚きが、この議論をより深めたはずなのです。

そうすれば、「あのおじさん達は、ちっちゃい規模のファンドなのに国のために頑張ろうとしていたのか」「ちっちゃいファンドだから成り手がいないのか」「ちっちゃいファンドなんだから給料安くていいんじゃない? 」「そもそも日本がそんなちっちゃいファンドサイズで恥ずかしくないのか」などなど、いろいろな議論が生まれたことでしょう。

ソフトバンクビジョンファンドの概要。(写真は2016年11月開催の決算説明会)

4点目:本当の登場人物はみんな魅力的

最後に、そもそもこのストーリーに出てくる人を、全員かっこよく描くべきでした。だって実際かっこいいんだから。本物以上にかっこよくしたらそれはエンターテイメントの範疇ですが、だからといって、本物よりかっこわるく報道する必要はないはずです。

僕は経産省と産業革新機構、どちらの組織とも一緒に仕事をする機会が多いです。ここで繰り返し声を大にして言いたいのは、こういった組織で働くみなさんは本当に、日本の国を良くするためにいつも一生懸命だということです。

価値観や正義感は人それぞれですが、若い人からベテランまでどの人も、本当に一生懸命働いています。大衆が虐めることで消費すべき対象ではなくて、国のために奮闘するかっこいい人達なんです。にもかかわらず、時代錯誤の「エリートってのは悪いことしているに違いない」という大前提での報道が目についたのが、今回の最も残念なところでした。

それぞれが足を引っ張るような報道ばかりしているから、日本はいつまでもデフレマインドから抜け出せないんだよ、と思うのです。

「大物おじさん=悪」と決めつけては勿体ない

また、今回辞任された皆様とは直接面識はないのですが、彼らと同じような経済界の大物のおじさんたちと話をさせていただく機会は、僕の日々の仕事でそれなりにあります。こういった、双六でいえばすでに「上がった」ような人たちこそ、日本をより良くするために、人生の残り時間で何ができるかと本気で考えている人が多いと感じています。

こういった(大物)おじさんたちって、そりゃあ一癖も二癖もある人ばかりですよ。でも基本的には一本筋の通った面白い方々であることが多いし、だいたいみんな愛嬌があります。そう言ったおじさん達を、マスコミが嵩にかかっていじめて何か建設的なことが起きるのでしょうか。

「大物おじさん=悪人」と定義して消費してしまうのは簡単です。しかし、こういった人たちを愛して、彼らが何を言っているのかを少しでも理解しようとし、「本来どうあるべきだったのか」という観点で前向きな議論をすることが、この記事をうっかり最後まで読んでしまった皆さん一人一人の生活を、さらに楽しいものすると信じています。

さらには、近年の日本でよく見られる報道の姿勢が「誰かを悪役に設定し、複雑な議論に短絡的な結論を出す」ものから、「一人一人の価値観を整理し、単純な悪役を設定しない」ものに変わったとしたら、この国はもっとずっと楽しくなるのになぁ、と思うのです。

双方が建設的な議論をしているときは、一旦、「どちらも正しい」と受け止め、理解しようと心がける姿勢が大事。というのが筆者の意見です

(藤田朋宏:ちとせグループ 創業者 兼 最高経営責任者)

連載バックナンバー

なぜTBSラジオは「スペシャルウィーク」をやめるのか

なぜTBSラジオは「スペシャルウィーク」をやめるのか

2018.12.17

聴取率争いに自ら終止符? TBSラジオの決断

ラジコの普及で重要性を増すリアルタイムの聴取者数

「ノンリスナーのリスナー化」がラジオ業界の至上命題

TBSラジオが「スペシャルウィーク」をやめる――。11月29日(木)深夜の「木曜JUNK おぎやはぎのメガネびいき」(毎週木曜深夜25時からTBSラジオで生放送)でこの件が話題になった時は、初耳だったので驚いた。なぜ、こういう決断に至ったのか。TBSラジオのスペシャルウィークは今後、どうなるのか。TBSラジオの三村孝成社長に聞いた話も交えてお伝えしたい。

TBSラジオは12月8日(土)、AM波を送信している戸田送信所(埼玉県戸田市)の使用電力を再生可能エネルギーに切り替え、「ナイツのちゃきちゃき大放送」(毎週土曜日、朝9時から午後1時までの生ワイド番組)内でセレモニーを実施。この機会を捉え、TBSラジオの三村社長(左端)に話を聞いた

ラジオの「スペシャルウィーク」とは何か

本題に入る前に、まず、ラジオのスペシャルウィークとは何かをおさらいしておきたい。

スペシャルウィークと密接に関係するのがラジオの「聴取率」だ。これはビデオリサーチという会社が調べているもので、調査は首都圏、関西圏、中京圏の3カ所でアンケートを実施して行う。

そのうち、首都圏の調査を取り上げて中身を詳しく見ていきたい。まず、調査の対象エリアは東京駅を中心とする半径35キロ圏内となっている。対象者は12歳~69歳の男女個人、標本数はおよそ3,000人。調査回数は1年に6回(偶数月)で、その調査月のうち1週間を「聴取率調査週間」に設定し、「その期間中にラジオを聴いたか」「どんな番組を聴いたか」といったことをアンケートで調べて聴取率を算出する。

つまり、ラジオの聴取率というのは、首都圏でいえば、年に6回の「聴取率調査週間」の間に、アンケート調査を受けた人が、ラジオを聴いていたかどうかによって決まる。1分ごとの数字をはじき出すテレビの「視聴率」とは、かなり性格の違う指標だということが分かる。

こういう調査方法であることから、ラジオ局は聴取率調査週間に合わせて、通常放送とは違う企画、通常放送とは違うパーソナリティーの起用、リスナーへのプレゼント企画、豪華ゲストの起用といった特別な施策を実施する。これがスペシャルウィークだ。

約150mのアンテナがそびえ立つTBSラジオ戸田送信所。1,900万戸にAM波を届けるTBSラジオの基幹送信所で、使用電力は月間11万キロワットだ。再生可能エネルギーは「みんな電力株式会社」が供給する。電力は新潟県上越市の小規模水力発電施設などから調達する

ラジオ局によって呼称は異なるかもしれないが、聴取率調査週間をスペシャルウィークと位置づけ、特別なキャンペーンを展開したり、番組の内容を変えたりする手法は業界では一般的だ。

そんな中、TBSラジオは、この調査期間をスペシャルウィークと呼称することをやめると宣言した。その期間中に、局を挙げて特別なキャンペーンを打つことも、今後はしないという。つまり、聴取率を上げるために調査週間を狙って特別企画を展開するのはやめて、今後は時期を自ら考えて特別な取り組みを行うという態度を鮮明にしたのだ。

なぜ、こういう決断をしたのか。TBSラジオは17年4カ月の間、聴取率で業界トップを走り続けているにも関わらずだ。

聴取率トップでも放送収入が上がらない現状

決断の背景として、まず注目したいのは、聴取率で業界トップのTBSラジオでさえ放送収入が上がっていないというラジオ業界の現状だ。業界全体で見ても、広告収入は25年間、ずっと下がり続けている。

それに、ラジオの聴取率も過去に比べれば低迷している。前述したビデオリサーチの調査によれば、2018年10月の首都圏の「全局個人聴取率」(12~69歳、男女、週平均)は5.2%。この数字、1990年代には9%くらいあったそうだ。

スペシャルウィークに注力した結果、聴取率で業界トップに輝いたとしても、収入は上がらないし、ラジオを聞く人も増えない。それならば、慣習に固執する必要もない。これがTBSラジオの判断なのだろう。

確かに、普段はラジオを聴かない人(ノンリスナー)が、スペシャルウィークをきっかけに聴くように(リスナーに)なるかどうかは疑問だ。

もとからのラジオリスナーであれば、何らかの特別企画やキャンペーンに興味を持った時、ラジオをつけるなり「ラジコ」(radiko、スマホアプリやPCでラジオが聴ける)を使うなりして、番組を聴くかもしれない。しかし、ノンリスナーであり、ラジオの受信デバイスすら持っていないような人たちが、これを機にラジオをわざわざ買うかどうかは微妙だ。ラジコならハードルは低そうだが、三村社長は「今の時代って、アプリをダウンロードしてもらうのもすごく大変じゃないですか」と話す。

キャンペーンは時期が大事! 今後のTBSラジオは独自展開

スペシャルウィークに他局と足並みをそろえ、聴取率争いのために力を使うのではなく、ノンリスナーをリスナー化するために知恵を絞りたい。それがTBSラジオの考えらしい。

ラジオ業界の至上命題は「ノンリスナーのリスナー化」と語ったTBSラジオの三村社長

特別なキャンペーンを展開するにしても、聴取率調査週間より効果的なタイミングは確かにあるかもしれない。三村社長の考えはこうだ。

「ラジオを聴かなくなる理由には、例えば引越しや転勤などがあります。住む場所が変わって好きな番組が聴けなくなったり、ライフスタイルが変わってしまったりして、聴かなくなるパターンです。例えば、大学生で時間に余裕のあった人が、社会人になるとか。引越しとかライフスタイルの変化が多い時期というのは、ある程度は決まっていますから、そういう時にこそ、キャンペーンを張るという方法はあるのかなと思っています」

つまり、聴取率調査週間を気にしなければ、キャンペーンや特別企画が流動的に実施できるということだ。例えば、3月は奇数月で聴取率調査はないが、ノンリスナーに訴求するには適した時期かもしれない。

また、特別企画や豪華ゲスト起用のタイミングは個別の番組で決めてもいい。「私も、企画をやっちゃいけないといっているわけではないんですよ(笑)。効果が出そうな時に、どんどん企画をやってもらいたい。それが、たまたま聴取率調査週間なのであれば、その時にやってもいいわけだし」というのが三村社長の考えだ。

TBSラジオは機を見て特別企画を仕掛ける流動性を手に入れた

TBSラジオはスペシャルウィークだけを特別視するのではなく、「毎日がスペシャル」の気持ちで通常放送に取り組みつつ、ノンリスナーをリスナー化するための施策を打ち出していく。そういう方針を明確にしたわけだ。

重視するのは「ラジコ」のリアルタイム情報

とはいえ、聴取率はラジオ局にとって、ほぼ唯一の指標だったはずだ。これからTBSラジオは、何を参考にして番組づくりに取り組むのか。三村社長はラジコのデータを重要視する。

「聴取率を調査する目的は2つあって、1つは番組編成を考えるのに使うマーケティングデータを得るためです。番組の編成が、ちゃんと効果を出しているかどうか、リスナーに受け入れられているかどうか、それぞれの番組の企画や演出が、リスナーに評価されているかどうか。それらを測る指標が聴取率でした」

「ただ、その点に関しては、マーケティングデータといいながら、52週(1年間)のうち6週間しか調査していない数字ですし、調査週から約1カ月遅れて結果が分かるというのが実情でした。一方、ラジコのデータは毎日、リアルタイムで確認することができます」

おそらく、世の中でラジオを聴いている人の割合でいえば、ラジコよりもラジオ受信機を使っている人の方がまだまだ多い。しかし、ラジコであればラジオ局側は、リアルタイムでリスナーの実数が把握できる。このデータの方が、マーケティングデータとしては有用だと判断したようだ。

「もう、ラジコも始まって9年目です。ラジコの数字が動けば、聴取率も動くというのは体感しています。ラジコの聴取人数が増えれば、基本的には聴取率も上がるんです」

ラジコで毎日、リアルタイムで聴取人数が把握できて、そのデータを重視するというのであれば、スペシャルウィークに的を絞った番組づくりをしていていいはずがない。通常放送がいかに面白く、リスナーをひきつけているかの方がはるかに重要になる。実際のところ、TBSラジオの番組製作陣も、すでにラジコの数字を参考にしているらしい。

ラジコの聴取人数と聴取率はほぼ連動しているというのがTBSラジオの読みだ

聴取率を測るもう1つの目的は、営業データとして利用するためだという。

「分かりやすくいうと、広告主が宣伝費を出しますよね、その費用対効果を測るために聴取率を使うんです。これはテレビの視聴率と似ています。この点については今後、今のままでいいのかどうか、業界で議論していこうと思ってます」

リスナーの奪い合いはもはや無意味?

スペシャルウィークをやめるというTBSラジオの決断には、賛否両論があるかもしれない。しかし、スペシャルウィークで各局がゲストの豪華さや企画の面白さを競い合い、ライバル局のリスナーを奪い合うという従来の構図だと、既存のラジオリスナーが各局の間を移動するだけで、新規リスナーの数は増えないのだとすれば、納得できる部分は大いにある。

また、ラジオ局同士が聴取率争いをする必然性は、ラジコで「タイムフリー」というサービスが始まった今、かなり薄れているような気もする。この機能を使うと、全てのラジオ番組を、放送後1週間以内であれば、後からさかのぼって聴くことができるからだ。

例えば、放送時間が重なっているTBSラジオの「JUNK」とニッポン放送の「オールナイトニッポン」を両方とも聴くことは、今となってはとても簡単なことだ。録音機材を用意する必要すらない。どちらかをリアルタイムで聴いて、もう一方を後からタイムフリーで聴いてもいいし、どちらもタイムフリーで後から聴いたって問題ないわけだ。この点を踏まえると、もはやラジオ業界には、「裏番組」という概念すらなくなっているようにも思えてくる。

なぜ業界トップのTBSラジオが率先して変わるのか

TBSラジオは長年の間、聴取率で業界トップを走ってきたリーディングカンパニーだ。そのTBSラジオが、「スペシャルウィークをやめる」「ナイター中継をやめ、同時間帯を通常の番組(新番組を含む)に充てる」「ポッドキャスト配信TBSラジオクラウドでの配信に切り替える」など、率先して新しいことに挑戦するのはなぜなのか。賛否両論があるのは分かりきっているにも関わらず、こういった決断をできる理由が知りたかったので、三村社長に聞いてみた。

「前任の入江(TBSラジオの前の社長で、現在は会長の入江清彦さん)の時から、数々の改革をスタートさせていました。改革といっても、単に変えればいいという話ではなくて、一番の目的は新規リスナーを獲得することであり、パイ(ラジオリスナー自体の数)を大きくすることです。そのためには、リーディングカンパニーが率先して変わらなければ、業界も変わらないと思うんです」

「(パイが大きくなった時に)TBSラジオだけを聞く人が増えるということはありません。ラジオ受信機もラジコも、コミュニティFMをのぞけば、NHKを含め全ての局が聴けるわけですから。ラジオメディアそのものとして、ノンリスナーをリスナー化するのが最も大事なことですし、メディアビジネスとしては、自分達だけ得をしようというのはありえません。ただ、パイが大きくなれば、シェアが変わらなかったとしても、結果としてTBSラジオリスナーは増えますよね」

ノンリスナーのリスナー化は難題だが、これを成し遂げられなければラジオ業界に明るい未来はない。これを成し遂げるため、TBSラジオは挑戦するし、変わってもいくということなのだろう。

賛否両論が予想される決断を率先して下すのは、TBSラジオにリーティングカンパニーとしての自負があるからだ

最後に、リスナーとして気になるのは、TBSラジオのスペシャルウィークで楽しみにしていた各番組の特別企画が、今後、聴けなくなる(あるいは、頻度が少なくなる)のではないか、という点だ。この懸念をぶつけてみると、TBSラジオ編成局の野上知弘さんからは「これまでもそうだったんですけど、いいゲストはいつでも入れればいいということなんです」との答えが返ってきた。年に6回かどうかは別にしても、特別な企画やゲストの起用は今後も続くとみて間違いなさそうだ。

ちなみに、2018年12月10日~16日までの聴取率調査週間で、他局がスペシャルウィークを展開する中、TBSラジオの各番組はどんな放送を行っていたのだろうか。自分が聴いた番組のごく一部を振り返ってみると、例えば「火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ」(毎週火曜日、深夜25時~27時)には漫才コンビのミキが、「水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論」(毎週水曜日、深夜25時~27時)には相方のしずちゃんがそれぞれ出演していた。これらの番組は、「スペシャルウィーク」という言葉こそ使っていなかったものの、普段とは一味違う内容になっていた。

「月曜JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力」(毎週月曜日、深夜25時~27時)は従来(少なくともここ10年くらいは)、スペシャルウィークでも通常放送(フリートークとレギュラーコーナー)を行うスタンスを貫いてきたが、今回の発表を受け、12月10日の放送では冒頭にラジオコントを放送。その後は2018年のフリートークを振り返る「特別企画」を実施した。なんとも伊集院さんらしい対応だ。番組の最後に伊集院さんは、スペシャルウィークをやめるというTBSラジオの決定について「基本的には賛成」との考えを示していた。

「メガネびいき」では従来、12月のスペシャルウィークに実施していた毎年恒例の企画「ダイナマイトエクスタシー」を12月20日(木)に放送すると発表している。こちらは、聴取率調査週間とは時期をずらして特別な企画を打つという点で、新しい取り組みだといえるだろう。

もちろん、これらのTBSラジオの番組は、放送後1週間以内であればラジコのタイムフリーで後からさかのぼって聴ける。世界の主要メディアも注目しているとか、していないとかいう噂のダイナマイトエクスタシーは、今週木曜日の深夜に開催の運びとなる。