ルノー・日産・三菱連合は新時代へ、「ポスト・ゴーン」をリードするのは誰か

ルノー・日産・三菱連合は新時代へ、「ポスト・ゴーン」をリードするのは誰か

2019.03.13

ルノー、日産、三菱自動車のトップが会見

複雑かつ微妙な資本構成、実力では日産がリード?

アライアンスは「ポスト・ゴーン」へ、リーダーは誰か

3月12日、ルノーのジャンドミニク・スナール会長、ティエリー・ボロレCEO、日産自動車の西川廣人社長、三菱自動車工業の益子修会長CEOは、そろって日産の横浜本社で記者会見し、4人で新合議体「アライアンス・オペレーティング・ボード」を設置して、3社連合の維持・発展を目指していくと発表した。

「ポスト・ゴーン」は合議制、アライアンスが再出発

ルノー、日産、三菱自の日仏3社連合を圧倒的なリーダーシップで引っ張ってきたカルロス・ゴーン元会長が逮捕されてから4カ月。ゴーン元会長が保釈されたばかりというこの時期に、ルノーでゴーン氏の後任を務めるスナール会長とボロレCEOが来日し、西川・益子両首脳と会見に臨んだ。この動きは、3社トップによる合議制に移行することで連合を継続・発展させていく姿勢を世間に知らしめたもので、「ポスト・ゴーン」に舵を切ったことを強く印象づけた。

しかし、資本構成で日産がルノーの子会社という位置づけにあることは変わらず、かつ、ルノーのバックにはフランス政府がいる。フランス側は両社の経営統合を望んでいるとも言われている。

そんな状況の中、フランス政府から送り込まれた形のスナール新会長は今回、3社の新合議体の議長には就くものの、「日産の会長になろうとは思っていない」と明言。資本関係の見直しに関しても「今回のポイントではない。フランス政府は株主として尊重するが、3社の将来に向けた検討に集中したい」とし、フランス側の圧力を当面は避けると強調した。

左からルノーのスナール会長、日産の西川取締役社長兼CEO、三菱自動車の益子取締役会長CEO

その背景には、世界の自動車産業が次世代をにらんで激しく揺れ動いているという現状がある。ルノー、日産、三菱自の3社は、国際連合の維持が各社の生き残り策として上策であると判断したのだろう。

3社連合の関係性は微妙かつ複雑だ。資本構成からいくとルノーの子会社が日産、日産の子会社が三菱自という構図だが、売上規模や技術力では日産が優位に立っていて、三菱自は日産主導による再建下にある。ルノーでは、日産の持ち分法利益が全体の業績に大きく寄与している。スナール会長は「力を結束し、3社連合の競争力を高めること」が最優先であるとし、資本構成や主導権などの課題は後回しにしてでも、連合を維持することが大切との考えを示したわけだ。

3社トップ会見の裏で「ゴーン会見」の情報も

日産横浜本社での記者会見は、スナール会長の「今日は、3社連合にとって特別な日だ」という言葉から始まった。明らかに、カルロス・ゴーン前会長の3社連合支配からの脱却を意識した発言という感じである。3社の会長を兼務し、なおかつ連合統括会社の会長にも就任することで、強いリーダーシップを発揮してきたゴーン会長の運営には、功罪相半ばするところがあった。強権・独断のゴーン流は、今回の逮捕につながる“私物化”の容認(?)ともなっていたのだ。

実は、この3社トップ会見と同じ12日に、ゴーン元会長が会見を“ぶつけて”くるとの情報が業界を駆け巡っていた。その日、弁護士事務所で弁護団と協議したゴーン氏は、夕刻にも会見を開き、一連の容疑に対する反論などを提示するのではないかと注目された。だが、結果としてゴーン氏の会見は日延べされた。

スナール会長のいう「特別な日」とは、そのゴーン氏による支配体制に別れを告げた日ということである。スナール会長が議長となり、ボロレ、西川、益子の各社CEOが参加する合議体を立ち上げ、3社連合を4トップによる集団指導体制に移行すると宣言したのだ。これにより、「アライアンスの効率化を進めて体制を再構築し、個々の力を高める。これはいわば、アライアンス発足当初の精神を取り戻すことでもある」とスナール会長は強調した。

会見ではゴーン氏について多くの質問を受けたスナール氏だったが、「推定無罪が私の信念」とし、多くは語らなかった

ちょうど20年前の1999年3月27日に、日産とルノーは資本提携を発表した。『日産とルノー、力強い成長のために』と書かれたボードを背景に行われた両トップの提携会見では、ルノーが日産の自主性を尊重し、両社の相乗効果(シナジー)創出を図る国際連合企業体とすることが強調された。

マスコミは「日産、ルノーに身売り」の見出しで本件を報道したものだが、当時の日産社長でルノーとの提携を決断した塙義一氏は、「日産、ルノーの基本認識は、日産のアイデンティティを従来のまま保つとともに、将来のために互いに利用し合うということ。だから、従来の合併とは異なる、新たな国際企業連合体なんです」と筆者の取材に答えてくれた。

「身売り」と報じられたルノー・日産連合だったが、20年を経過した今では、統合・合併とは異なる国際連合の成功例となり、そこに三菱自も加わった。ゴーン元会長は「世界覇権をとれる3社連合に躍進した」と豪語していたが、個別に見ると、日産565万台、ルノー388万台、三菱自122万台を足し合わせた販売台数(2018年実績)は、世界第2位の規模となっている。ただ、単なる台数の合計では、この激動のモビリティ新時代を生き抜いてはいけないという実態もある。

日産がリーダーに? ガバナンス刷新と業績回復がカギ

ルノーと日産、そして日産と三菱自。この3社連合は、資本構成でそれぞれ複雑に絡み合う。ルノーは日産に43%、対して日産はルノーに15%を出資しており、ルノーは1999年の資本提携以来、日産の筆頭大株主であり続けている。一方、日産はルノーの議決権を持たない。その日産は2016年10月、三菱自に34%を出資して傘下に収め、三菱自は日産主導による再生の途上にある。

その資本関係をベースとする3社連合は、プラットフォームの共用化や部品の購買・物流、研究開発、生産などの協業で相乗効果を追求している。3社のトップは「今の自動車業界ではスピードが重要。権限委譲と責任の明確化、アライアンスの効率化で競争力を高める」と口をそろえた。ポスト・ゴーンの3社連合は、自動車業界の大変革を生き抜くため、スピード感を持って事に当たり、各社の得意分野を活用して相乗効果を高めていくことで一致したということだ。

だが一方で、「ねじれ現象」とも言えるルノーと日産の“宿命的な資本関係”については手を触れず、先送りにした格好だ。今回の会見では、ゴーン元会長に代わり、ルノーから新しい会長が日産に送り込まれることはないということが分かった。西川社長は「従来のように、ルノーの会長が日産の会長になることを求められないのは大変ありがたい」とした。

日産としては、ゴーン長期体制による取締役会の機能不全など、ガバナンスの立て直しが急務であり、本業の業績が低下していることも大きな課題となっている。「今、私が抱えている課題は、アライアンスの安定、ガバナンスの刷新、業績安定の3つだ」というのが西川社長の現状認識だ。4月8日の臨時株主総会では、ゴーン元会長の取締役解任など経営陣の刷新を行う。

日産と三菱自の関係を見ると、日産主導による三菱自の再生は順調に進んでいる。3月14日には、両社トップ臨席のもと、三菱自・水島工場(岡山県倉敷市)で共同開発の新型軽自動車のラインオフ式を実施するとのこと。同28日には、日産の新型「デイズ」と三菱自の新型「ekワゴン」が発表される予定となっている。

ルノーと日産の提携から数えると、20周年を迎えるアライアンスは今、大きな転換点を迎えている。強力なリーダーシップを発揮してきたトップは退場したが、ポスト・ゴーンの3社連合をリードするのは日産であるべきだ。経営統合の道を進めば、日産はルノーに吸収合併されたという印象を拭えないだろう。自立して連合をリードする日産の姿を見たい。

日本は「5G」に出遅れた? 吉澤社長が語るNTTドコモの5G戦略とは

日本は「5G」に出遅れた? 吉澤社長が語るNTTドコモの5G戦略とは

2019.03.01

5Gで盛り上がる携帯業界、ドコモ社長に成長戦略を聞く

5Gは海外主導に見えるが、日本は本当に出遅れたのか

ドコモは5Gでスマホに依存しないビジネスを模索?

2019年2月25日よりスペイン・バルセロナで開催された携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2019」に、日本の携帯電話キャリアとして唯一出展したのがNTTドコモだ。現地では5Gが話題で、日本でも2020年に商用サービスが開始される。そんななか、ドコモは5Gでどのような成長戦略を描こうとしているのだろうか。代表取締役社長の吉澤和弘氏に話を聞いた。

5Gではパートナー企業との連携を重視

通信業界では今、次世代のモバイル通信規格「5G」が大きな盛り上がりを見せている。日本の携帯電話会社も2019年の9月頃からプレ商用サービスを開始し、東京五輪を迎える2020年には本格的な5Gの商用サービスを開始する予定だ。

そうした中で開催されたMWC 2019では、キャリアやネットワークベンダー、スマートフォンメーカーなど各社が5Gへの取り組みをアピールしているが、国内の携帯大手3社の中で唯一、ブースを出展して5Gに対する取り組みを発信しているのがNTTドコモだ。

MWC出展の狙いについて、吉澤氏は「パートナーと連携し、5Gをしっかり活用しながらユースケースを作ってきていることをPRしていきたい」と話す。単に5Gのネットワークを提供するというのでは意味がなく、それをどう活用して社会課題を解決できるかという、具体的な事例を見せることが出展の大きな狙いになっているそうだ。

NTTドコモ代表取締役社長の吉澤和弘氏

中でも吉澤氏が重視し、強調していたのがパートナーとの協力関係で、「ドコモだけでできることはほとんどない」と言い切る。遠隔医療やライブ中継など、5Gで実現される要素の多くは、それぞれの事業でノウハウを持つパートナーの協力が欠かせない。そのためNTTドコモとしてはパートナー、そしてNTTグループと密に連携を取りつつをしつつ、AIなどの最新技術を積極活用することで5Gに向けた取り組みを推し進める考えのようだ。

海外で先行する5G、日本は本当に遅れているのか

ただ5Gの動向を見る上で気になるのが、今年のMWCでは「日本は5Gで遅れている」という声が多く聞かれるようになったことだ。実は世界的には2019年が「5G元年」とされており、既にサービスを開始している米国のほか、中国や韓国、そして欧州などでも、2019年に5Gの商用サービス開始を予定するキャリアが増えているのだ。

一方で日本では、先に触れた通り2020年の商用サービス開始を予定しているため、電波の割り当てもこれからという状況だ。5Gの取り組みで諸外国と比べ1年ものブランクが発生してしまうことは、通信事業に関する国際競争を考える上で、非常に懸念されるところだ。

「MWC 2019」のNTTドコモブース。5Gを前面に打ち出しさまざまな取り組みをアピールしているが、商用サービス開始は諸外国より1年遅い2020年から

そうした日本の5Gに対する取り組みの遅れに対して、吉澤氏は「実際にお金を頂いて提供できるサービスがどこまでできるのか。5Gというネットワークを提供するだけでいいのならすぐできるが、それを活用したビジネスができていることの方が重要なのではないか」と話す。

単に5Gの“土管”を用意するのではなく、そのネットワーク上で収益を上げられるサービスとビジネスモデルを構築した上で、商用サービス化を推し進めたいというのがNTTドコモの考え方だと吉澤氏は説明する。テクノロジー面で後れを取っている訳ではないことから、”多少の遅れは気にしない”との考えのようだ。「世界2200のパートナーとサービスを作りこんでいるキャリアは他にいない」と、吉澤氏は5Gでの充実したサービスの実現に強い自信を示している。

5Gではスマートフォンに依存しないビジネスを構築

5Gの新たなサービスを披露する場として現在準備が進められているのが、2019年に日本での開催を予定しているラグビーW杯に合わせた、5Gプレ商用サービスだ。プレサービスということもあり、いくつかの制限はあるものの、商用と同じ5Gの電波を射出してサービスを体験してもらう場を提供する。

プレサービスでの具体的な取り組みとして、吉澤氏はこれまでの実証実験で取り組んできた「ARグラスを活用した多視点でラグビーの試合を楽しめるスタジアム上でのソリューション」を提供するとしているほか、遠隔で試合を楽しんでもらうパブリックビューイングなども計画しているとのこと。またエンタープライズ分野での取り組みとして、やはりこれまでの実証実験で取り組んできた遠隔医療や建設機械の遠隔操作などを、商用サービスに近い環境で実証していくことも明らかにしている。

だが5Gを普及していく上で大きな課題となるのが、特に一般消費者で顕著なのだが、”5Gならではのサービスをイメージしにくい”ことだ。4Gの時はスマートフォンの通信速度が速くなるという明確なメリットがあったが、5Gではそうした明確な進化を体験できる要素が薄い。吉澤氏も「5Gによるデジタルトランスフォーメーションが、企業には理解してもらいやすいのだが、消費者にはイメージしづらい。見える形にしないと伝わらないかもしれない」と話す。

一方で吉澤氏は、5Gだからこそできるサービスは「スマートフォンやタブレットだけでは表現しきれない」と話す。5Gでは4Gまでのように単にスマートフォンを販売し、その上でコンテンツやサービスを提供するというだけにとどまらず、VRやARなどの「xR」と呼ばれる技術や、ウェアラブルデバイスなどさまざまな技術を取り入れて、より臨場感のある音楽やスポーツのライブ体験を提供するなど、5G自体を直接コンテンツやサービスに結び付けたビジネスを展開していく考えを示している。

NTTグループやヤマハらと開発した、5Gの高速大容量や低遅延を生かした遠隔地での音楽セッションを可能にする「NETDUETTO」のデモ。ホログラフを活用しあたかも同じ場所にいるかのような形でライブを実現していることが注目を集めていた

スマートフォンを超えた5Gの体験を提供することで、5Gに対する消費者の理解を高めていきたいというのが、NTTドコモの考えのようだ。そのためにも吉澤氏は「技術でできることは限られてくる。コンテンツを提供する事業者とさらに連携した取り組みを推し進めていく」と話し、コンテンツホルダーとの連携を拡大していく考えを示している。

5Gといえば技術的な側面が注目されがちだが、吉澤氏の発言から、NTTドコモは技術そのものを前面に押し出すのではなく、技術を生かしたユーザー体験に注力することで5Gの普及を促そうとしている様子がうかがえる。

行政が分離プランの導入をキャリアに要求する緊急提言を打ち出し、NTTドコモも4月に分離プランを軸とした新料金プランの導入で対応するなど、スマートフォンを中心とした4Gまでのビジネスが大きな転換期を迎えている。NTTドコモは将来、5Gの時代にはスマートフォンに依存しないビジネスを開拓することで、次の成長を狙っているようだ。

あくまでプリンター中心に成長描くブラザー、2021年に向け再始動

あくまでプリンター中心に成長描くブラザー、2021年に向け再始動

2019.03.01

ブラザーが次の3年間に向け中期経営計画を発表

改めてプリンティング領域での勝ち残りを目指す

佐々木社長はブラザーらしさを強みとしたいと強調

ブラザーグループは、2021年度を最終年度とする中期経営戦略「CS B2021」を発表した。2021年度に、売上収益で7,500億円(新計画の為替レートを反映した2018年度見通しは6,650億円)、営業利益が750億円(同645億円)、営業利益率は10.0%(同9.7%)を計画する。また、今後3年間に500億円の成長投資枠を設定。産業用領域のさらなる拡大、新規事業の創出および育成などに投資する。

ブラザーグループが新中期経営戦略を発表した。会場になったのは愛知県名古屋市のブラザーミュージアム

中長期の計画、改めてプリンティング勝ち残りを打ち出す

ブラザー工業の佐々木一郎社長はCS B2021について、「会社の成長を中長期的に捉え、次の成長に向けた経営基盤に作り直すことが大切だと考えた。それが、今回の中期経営戦略の基本的な考え方になる」と説明する。「TOWARDS THE NEXT LEVEL(次なる成長に向けて)」をテーマに、まずは「プリンティング領域での勝ち残り」、そして「マシナリー・FA領域の成長加速」、「産業用印刷領域の成長基盤構築」、「スピード・コスト競争力のある事業運営基盤の構築」をあわせた計4項目に取り組むとした。

ブラザー工業 代表取締役社長の佐々木一郎氏

佐々木社長はCS B2021の計画にあたり、社員に「ブラザーの強みはなにか」と聞き取りをした。社員の答えは、「時代の変化に対応してきた柔軟性、きめ細かいニーズに対応する小回り力、コストパフォーマンスに優れた製品によるコスト競争力だという声が多かった」というが、一方で、「ブラザーの弱みはなにか」と聞くと、「スピードが落ちてきている。危機感が欠如している」という声があがったという。佐々木社長は、「これまでの強みが、弱みになっている。大企業ではないのに、社内に大企業病がはびこっている。もう一度、巻き直して、本来の強みを研ぎ澄まさないといけない」と危機感を感じたという。

そして、「あれもこれもやるのでなく、大事な課題に絞り、取り組んでいく」という決断をした。具体的には、「事業基盤の整備と、プリンティング事業での勝ち残り戦略をきちっとやっていく」ことを柱に据えた。そして、その先を見据え、「産業用領域を次世代の柱になるように伸ばしていく」ことを盛り込んだ計画とした。

CS B2021の骨子。計4項目に取り組む

プリンティング中心から複合事業企業への転換は?

ブラザーではかねてより、グループ全体に向けて「グローバルビジョン21(GV21)」という経営ビジョンを掲げており、その目標として、「グローバルマインドで優れた価値を提供する高収益体質の企業」、「傑出した固有技術によってたつモノ創り企業」、「“At your side.”な企業文化」の3つを掲げている。

今回発表した「CS B2021」は、同ビジョンの実現に向けたロードマップに位置づけられている。

CS B2021は、ブラザーの経営ビジョン「グローバルビジョン21」の実現に向けたロードマップの役割をはたす

このひとつ前の計画、2018年度を最終年としていた「CS B2018」では、プリンティング領域中心の事業構成から、複合事業企業体への変革を目指していた。それとともに、事業、業務、財務の3つの変革に取り組み、プリンティング領域での大幅な収益改善、産業用領域での売上げ成長を達成している。

CS B2018で掲げていた目標

だが佐々木社長は、「プリンティング事業領域では、デジタル化の進行によって、印刷機会が減少。これからもインク、トナーの純正率の減少が進む。また、所有から利用へと購買行動の変化、サービスニーズの多様化などが変化が見込まれる。産業用領域においても、省人化や自動化、トレーサビリティやカスタマイズ需要が高まっている。GV21の達成のためには、これまでに以上に踏み込んだ改革が不可欠であり、もっとスピードをあげて取り組み必要がある」と、事業環境の変化がいっそう著しいなかで、改革の手を緩める余裕は無いことを強調する。

顧客とつながるブラザーらしいビジネスモデルを提供

CS B2021における「プリンティング領域での勝ち残り」では、「ブラザーらしい新たなビジネスモデルへの転換を加速する」として、「売り切りではなく、顧客とつながるビジネスモデルモデルへの転換」を進めることで、ブラザーらしい価値を提供し続けながら勝ち残りの実現を目指すという。

個人およびSOHO向けには、大容量インク/トナーモデルや、消耗品のバンドルといったTCO(Total Cost of Ownership: 総所有コスト)に優れた製品提案により、本体収益を向上させる。消耗品を手軽に購入できるサービスを拡充することで、顧客が気をつかわずに済む自動発注サービスや、月額定額モデルの導入を推し進める。さらに、プリンターに連携するスマホアプリの充実など、新たな用途提案も行っていくという。

「ファーストタンク」搭載の大容量インクプリンター

また、中小企業向けには、チャネル・パートナーとの緊密な協業により、本体、サービス、消耗品を対象とした契約型ビジネスモデルを強化する。中小企業の顧客が求めるカジュアルなソリューションを提供することで、顧客とのつながりを強化するとした。佐々木社長は、「競合各社が強固な直販体制を敷いており、いまからそこで対抗していく必要はない」という考えから、「パートナーによる販売体制をさらに強化していく」と説明する。

上記のような新規ビジネスモデルによるプリンター販売台数の比率は、2018年度には15%ほどというが、これを3年間で倍増させて、2021年には30%に高める考えだ。

新ビジネスモデルの割合を倍増させる計画だ

そのほか、高付加価値を持った上位機種へのシフトも促す。A4が主力のプリンターメーカーというユニークなポジションを最大限に活用したOEM供給も拡大する。さらに、通信・電気配線用マーキングや製造業向けラベルプリンター事業の拡大など、特殊業務用途へのビジネスにも拡大の余地があるという。売上増加施策を出す一方で、事業コストを削減するため、生産設備の自動化を推進し製造原価を低減するとともに、生産拠点を最適化し、加えてバックオフィス業務の効率化にも取り組むとした。

ところで2021年度のプリンティング領域の売上収益は、計画では3,880億円を目指している。ただ2018年度の見通しが既に3,820億円であり、つまり売上規模では大きな成長を見込んでいない。これについて佐々木社長は、「いまのプリンティング事業は出来すぎている。プリントボリュームの減少や、互換インクの広がりを考えると、これ以上の増益は見込めない」と説明する。通信・プリンティング機器の市場が縮小するなか、売上規模は維持したい考えだ。ラベルプリンターなどの電子文具は、高いプリントボリュームの業務用途が見込まれることから「売上拡大を目指す」としている。

2021年度計画、プリンティング以外の3領域は?

「マシナリー・FA領域の成長加速」では、自動車や一般機械市場の強化による産業機器分野の大幅な成長と、省人化や自動化ニーズを捉えたFA領域の拡大を目指す。

「ボラタリティの高いIT市場では大きな成長を見込まず、自動車および一般機械市場で高い成長を見込む。ここでは、リソース増強や拠点拡充を計画している」(佐々木社長)という。

2018年度見通しでは550億円の売上収益を、2021年度には810億円に拡大させたい考えだ。

「産業用印刷領域の成長基盤構築」でも成長を再加速する。ブラザーはこの領域の事業に参入するため、ペットボトルやワインボトルなどのラベル印刷などに実績を持つ、産業用印刷の英国ドミノ社を買収、子会社化している。ドミノ社の製品およびサービスでの競合優位性を最大限生かし、新製品の投入と販売やサービスの強化、チャネル投資の強化を行い、大幅な成長を目指す。

英ドミノのインクジェットプリンター

特に、食品の賞味期限などを印刷するモノクロプリンティングのC&M(コーディング&マーキング)は、既存顧客とのつながりを基盤に、市場全体の成長を上回る伸びを目指す。物流分野でも、荷物に貼付するラベルを高速で印刷するといったニーズが広がっているほか、ダンボールへの直接印字や、印刷したラベルの自動貼付といった二次梱包領域でのニーズも生まれているという。

産業用印刷の市場規模は巨大で、成長にかける期待も大きい

一方で佐々木社長は、「ドミノでの開発が遅れているのが実態」という懸念もあるというが、「ブラザーとのシナジーによる開発体制の強化によって、開発スピードを向上させるほか、顧客のもとに出向いて、ニーズに則した開発を行うブラザーの手法も導入していく」と改善を目指す方針だ。

2018年度には680億円だったドミノ事業の売上収益は、2021年度には880億円を目指す。

そして最後に「スピード・コスト競争力のある事業運営基盤の構築」では、グループ全体の業務プロセスを抜本的に見直し、業務を効率化させるとした。RPAやAIの活用により、定型業務の自動化も進めるという。佐々木社長は、「より少ない人数で、短期間に、低コストで開発できるようにする。これにより人員を最適化し、新たな領域への人員を捻出していく。業務生産性を10%向上させ、総業務時間の10%にあたる約70万時間の創出を目標とする。これは原点回帰の取り組みとして重要なものになる」話している。

また、収益管理を強化し、きめ細やかにテコ入れや立て直し施策を実行していく姿勢もみせた。「利益が出ていないビジネスは、利益が出ているビジネスに隠れてしまって見えない。サブ事業単位で損益管理をすることで、不採算事業や低収益事業の収益改善につなげ、80億円の営業利益改善を目指す」とした。

ブラザーらしさへの原点回帰、成長につながるかに注目

2021年度の成長計画を発表する一方で、売上収益では約600億円の未達に終わった2018年度までのCS B2018を、佐々木社長は次のように総括する。

「600億円の未達は、為替影響でマイナス400億円、事業の落ち込みでマイナス150億円、会計制度の変更の影響でマイナス50億円という要因があった。プリンティング事業、産業機器事業、ドミノ事業は計画を上回ったが、他の事業により下回った」

「CS B2018では、できたこともあるが、積み残したこともある。積み残したことは、産業領域での成長加速、新規事業の仕込み、事業の選択と集中の徹底のほか、抜本的な業務プロセスの変革によるスヒード、コスト面での競争優位の確立だ。さらには、育成や成長機会の提供を通じたグループ全体での人材の底上げ、全社的な筋肉質化に向けた組織横断での最適人材体制の実現などもあげられる」

これらを新たな中期経営戦略のなかで解決していくことになる。

佐々木社長は、「新たな中期経営戦略は、成長を中長期的に考え、この3年間は、次の成長のために会社を強くしていく期間だと捉えている。そのためには、改革を、もっと早く、もっと踏み込んで進めていきたい」と意気込む。

ブラザーを取り巻く環境が厳しいのは確かだが、それを生き抜くためのCS B2021の中身は、ブラザーらしさへの原点回帰が柱だ。

基盤強化を前面に打ち出した中期経営戦略ではあるものの、売上収益および営業利益は3年間で2桁増を見込む、高い成長目標を組み込んだものになっている。果たして成長と基盤強化を同時に進めることができるかが、この3年間の注目点になりそうだ。