「デジタル・トランスフォーメーション」の記事

日立製作所が新たな中期経営計画、最大2.5兆円の投資計画の中身とは

日立製作所が新たな中期経営計画、最大2.5兆円の投資計画の中身とは

2019.05.13

積極的な投資姿勢が明確になった日立の「2021 中期経営計画」発表

業績のV字回復を受け、日立の経営は次のステージを目指すことに

OT、IT、プロダクトの蓄積を強みに位置づけ、新たな価値創出に挑む

日立製作所が、2021年度を最終年度とする「2021 中期経営計画」を発表した。

2021年度までの経営指標として掲げたのは、売上収益における年平均成長率で3%以上、調整後営業利益率では10%以上、3年間累計の営業キャッシュフローが2兆5,000億円以上、ROIC(投資資本利益率)では10%以上、海外売上比率では60%以上というものだ。

日立が新たに発表した「2021 中期経営計画」の各目標数値

過去3年間の「2018 中期経営計画」では、売上収益10兆円、営業利益率8%といった形で、売上収益と営業利益の具体的な数値が示される格好だったが、今回の中期経営計画では、それが示されなかった。

日立製作所の東原敏昭社長兼CEOはこれについて、「売上げはあまり重要ではないと考えている。M&Aを行ったり、資本政策を行ったりする上では、売上げにこだわる必要はない。それよりも、SG&Aやグロスマージンの改善を重視したり、M&Aの対象となる領域での利益を意識すればいいと考えている」と説明した。

計算をすれば、2021年度の売上高は約10兆3,500億円、営業利益は1兆円強ということになるが、東原社長兼CEOは、「10兆円になればいいかな、ぐらいに思っているにすぎない」と語る。

いわば、市場環境の変化にあわせて、経営を柔軟に変えていく考え方をもとにした経営指標だといえる。

回復モードに終止符、最大2.5兆円の積極投資へ

日立製作所 代表執行役社長兼CEOの東原敏昭氏

その経営指標の背景には、日立の経営が、次の成長に向けた新たなフェーズに入ったことがあげられるだろう。

日立製作所の2018年度連結業績は、調整後営業利益が7,549億円となり、過去最高を達成し、営業利益率は8.0%になった。東原社長兼CEOはこの数字について、「日立は、2008年度に、7,873億円の赤字を計上した。それ以来、必死になってV字回復に取り組んできた。2018年度の業績を見ても、日立には、『稼ぐ力』がついてきた。とはいえ、ここで、V字回復モードに終止符を打ちたい」と話す。

その上で、「2021 中期経営計画では、新たなステージに立って、やっていくことになる」と宣言した。

回復から成長へと、明確に舵を切ったことの宣言であると同時に、成長路線において、日立の新たな姿を追求することを示したともいえる。

日立が新たなフェーズに入ったことは、今後3年間の積極的な投資戦略にも感じることができる。

2018 中期経営計画では、3年間で5,000億円の投資を行ったが、これを2021 中期経営計画では、3年間で2兆円~2兆5,000億円の投資へと大きく拡大する。

投資計画は一気に引き上げた

「積極投資を実行するために、財務レバレッジを活用し、資本コスト(WACC)を低減するとともに、KPIにROICを導入して資本効率を見ていく」(東原社長兼CEO)と、資本戦略も変更する。なかでも、「インダストリー」と「IT分野」に対して、重点投資をするとした。

事業を再編し、「Lumada」の役割を拡大

日立はこれまで、「電力・エネルギー」、「産業・流通・水」、「アーバン」、「金融・社会・ヘルスケア」という分野で分けて、ぞれぞれの事業を推進してきた。2021 中期経営計画においては、これを、

・ビルシステムおよび鉄道の「モビリティソリューション」
・生活・エコシステムやオートモティブシステム、ヘルスケアの「ライフソリューション」
・産業・流通、インダストリアルプロダクツの「インダストリーソリューション」
・原子力およびエネルギーの「エネルギーソリューション」
・金融、社会、サービス&プラットフォームの「ITソリューション」

の5つの分野に再編した。さらに、「社会価値の向上」、「環境価値の向上」、「経済価値の向上」の3つの価値を引き上げることで、人々のQoL(Quality of Life)の向上や、顧客企業の価値の向上を図ることを掲げた。

事業を5つの分野に再編する

そして、これらの5つの分野に横串を通すのが、日立の先進デジタル技術を活用したソリューション、サービス、テクノロジーの総称「Lumada」だ。Lumadaは、2016年5月に発表以降、すでに860の事例があり、関連する売上げは1兆円を超えているという。

モビリティソリューションでは、Lumadaの活用によって、人々に安全、快適な移動サービスを提供することを目指す。駅で待っている人の数をもとに運行ダイヤを作り、需要に応じた柔軟な運行を行うだけでなく、無人運転などを実現するダイナミックヘッドウェイなどを通じて「2021年度には、世界中で年間延べ185億人に対して、安全、安心、快適で、環境に配慮した鉄道サービスの提供」を目標に掲げる。

ライフソリューションでは、誰もが暮らしやすいまちづくりの実現を目指し、スマートシティやコネクテッドカー、コネクテッド家電の領域でLumadaを活用する。粒子線がん治療システムへの活用では、8万人のがん治療に貢献するという。

インダストリーソリューションでは、顧客の生産やサービス提供の効率化を実現する。上下水道システムや海水淡水化の技術により、世界中で延べ一日7,000万人に安全、安心な水環境を提供する。

エネルギーソリューションでは、安定的で、高効率なエネルギーの提供と管理によって、2021年度には、世界の25%の変電所をマネジメントし、18億人に安定したエネルギーを供給できるようする。

そして、ITソリューションでは、高度なITを活用することで、顧客のイノベーションを加速するとした。例えばベトナム郵便との協業で、公金受給者600万人の利便性向上に貢献する計画があるという。

社内変革にも「Lumada」、日立が目指す「次のステージ」

東原社長兼CEOはLumadaを、「日立が取り組む社会イノベーション事業を加速するドライバーであり、成長の中軸に据えるものになる」と位置づける。

公にした計画資料には、Lumada関連ビジネスの具体的な売上げ目標などは示さなかったが、東原社長兼CEOは、「2021年度のLumada関連ビジネスの売上げ目標は1兆6,000億円。だが、社内には、2018年度の2倍近い、2兆円を目指すように発破をかけている」と語る。

そして、Lumadaに対する過去3年間の投資が約1,000億円であったのに対して、今後3年間では、最低でも1,500億円の投資を行う姿勢も明らかにした。

海外展開の強化や、社内の経営基盤の強化にも、Lumadaを活用したデジタルトランスフォーメーションを行う考えを示した。

なお日立では、今後3年間の新たなスローガンとして、「Hitachi Social Innovation is POWERING GOOD(世界を輝かせよう)」を掲げる。「QoLの向上や、持続可能な社会の実現など、世界の人々が求めているものを、全力を尽くして実現するものになる」と東原社長兼CEOは説明する。

東原社長兼CEOは、2021 中期経営計画で日立がどのような会社になろうとしているのかについて、「社会イノベーション事業を通じて、持続可能な社会を実現する会社になりたい。社会イノベーション事業に求められるのは、デジタル空間の技術力と、リアルな社会での技術力。そして、デジタルとリアルを連携させた新たな価値を作りだし、イノベーションを実現する力。これは日立が得意とする分野である。日立は創業以来100年間に渡るOT(Operational Technology: 制御・運用技術)の実績と、50年に渡るITの実績があり、OTとIT、プロダクトの3つを提供できる企業は世界的にも少ない。この特徴を生かして、社会イノベーションを推進したい」と意気込みを語る。

そして最後に、「顧客がイノベーションを起こしたいと思ったとき、日立を想起してもらうポジションになることが重要である。それが、社会イノベーション事業における、グローバルリーダーとしての条件になる」と結んだ。

全業界に迫る「デジタル化」の波―― 救世主はAdobe?

全業界に迫る「デジタル化」の波―― 救世主はAdobe?

2019.03.27

ラスベガスで開催された「Adobe Summit」で語られたこと

なぜ今「デジタルマーケティング」の必要性が増しているのか

企業は「デジタルトランスフォーメーション」を避けられない

米Adobeは、米ネバダ州・ラスベガスで3月26日~28日(現地時間)の3日間に渡り、同社のデジタルマーケティングプラットフォーム「Adobe Experience Cloud」に関するプライベートイベント「Summit」を開催している。

「Summit」基調講演時の様子

開幕日の26日には、Adobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏による基調講演が行なわれ、「Adobe Experience Platform(AXP)」の一般提供を開始することを明らかにした。

AXPは、Adobe Experience Cloudを支える基盤であり、複数のサービス(Creative Cloud for Enterprise、Analytics Cloud、Advertising Cloud、Marketing Cloud、Document Cloud for Enterprise)間でユーザーIDやプロフィールやデータ、コンテンツなどを共有するための仕組み。

従来は同じAdobe Experience Cloudの傘の下で提供されてきたサービスであっても、別々のサービスとして独立していたが、AXPによって各サービスが本当の意味で1つに統合される。

基調講演の中でAdobeは、家電小売企業のBest Buy、およびSunTrust銀行の事例を紹介し、これまでデジタルマーケティングと無縁だった企業であっても、Adobe Experience Cloudを活用すれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成し遂げることができ、顧客に各種のデジタルサービスといった新しいユーザー体験を提供できるようになると強調した。

デジタルマーケティングの成長は加速する

Adobe Summitで講演するAdobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏

今、世界的に非常に熱いマーケティング手法として注目を集めているのが、インターネットを活用した「デジタルマーケティング」と呼ばれる手法だ。

CRM(顧客関係管理)、eコマース(電子商取引)、デジタルキャンペーン、ソーシャルメディアの利用など複数の手段を用いて、インターネットやクラウドを活用して顧客に対して各種のマーケティング活動を行うことで、企業の売り上げなどを伸ばす手法のことを指している。

例えば、電子メールアドレスに対してその電子メールの所有者が興味を持つような内容のメールを送って販売につなげたり、わかりやすいところではAmazonのようなECサイトで購入履歴からユーザーが欲しいと思われる商品をレコメンドしたりする。その裏側で動いているのがデジタルマーケティングの支援ソフトウェアということになる。

そうしたデジタルマーケティングは、IT系の企業で利用されてきた手法で、一般の企業ではあまり注目されてこなかった。しかし、この10年で状況は一変した。スマートフォンの普及率があがり、ほとんどの人がスマートフォンを持っているという状況が到来したのだ。今では、従来型の企業にとってもデジタルマーケティングは大きな効果があると考えられるようになってきている。

日本でもそれは同様で、IDC Japanによれば、2017年の日本でのデジタルマーケティングを支援するソフトウェアの市場規模は97億6,600万円。2017年~2022年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は5.5% になる見通しで、2022年には127憶7,700万円の市場規模に成長する見通しだという。

また、このうちクラウドサービスの形で提供されるものの成長率が高く、年間平均成長率24% で推移し、2022年の市場構成比43% に達すると予想されている。

Adobe Experience Cloudがもっと便利に

そうしたデジタルマーケティングのクラウドサービスは複数の企業から提供されている。その中でも代表的なのがSalesforceとAdobeだ。

CRMに強いSalesforceがデジタルマーケティング向けのツールへと発展するのは自然な流れだが、Adobeは元々、クリエイター向けツールをリリースする企業だった。そのAdobeがこうしたデジタルマーケティングの市場へと参入するのは意外に思われるかもしれない。

その背景には、デジタルマーケティング向けに利用するアセット(静止画や動画など)を編集するツールとして、AdobeのCreative Cloudが利用されていることがある。また、Adobe Experience Cloudはそうしたクリエイターツールと親和性が高いツールとして発展して採用されているという事情もある。

Adobeは年々Adobe Experience Cloudを拡張し続けており、さらに競合となる企業の買収などによりサービスのポートフォリオ(製品ラインナップ)を増やしつつある。昨年はMagento(マジェント)とMarketo(マルケト)の二社を買収し、それぞれの製品である「Magento Commerce」と「Marketo Engage」をAdobe Experience Cloudに統合している。

Adobe Experience Cloudの仕組み、一番下のレイヤーにAdobe Experience Platform(AXP)がある。ここにMagentoも今年から加わっている
昨年Adobeが買収を発表したMarketoもAdobe Experience Cloudに統合された

Adobe Experience Platform(AXP)の構想は、昨年のAdobe Summitで明らかになったものだ。このAXPが基礎となり、Adobe Experience Cloudが統合する複数サービスで、顧客のID、プロフィール、データ、コンテンツなどを共通化する。

Adobe Experience Platform(AXP)が一般提供開始へ

Adobe Experience Cloudでは古くからあるサービスと買収などで得た新サービスなどを徐々に統合してきたため、これまでは共通化が十分でなく、同じ傘の下で動くサービスであっても、統合したメリットのすべてを得ることができていなかったのだ。

そのAXPが今年のSummitにて、ついにベータ版から抜け、正式に一般提供を開始することが明らかになったわけだ(提供開始時期はリージョンにより異なり、まずは米国で開始予定)。これにより、AdobeがAdobe Experience Cloudで本当に実現したかった、真に統合された利便性の高いサービスが展開できるようになる。

破綻寸前だった家電小売を救い、銀行のDXを推進

今回、AdobeはAdobe Experience Cloudを利用したユーザー企業の事例をいくつか紹介した。その中でも印象的だったのはBestBuyとSunTrust銀行の事例だ。

BestBuyは米国の家電小売企業で、米国でのヤマダ電機やヨドバシカメラであると言えば理解しやすいだろうか。以前は家電の販売で全米1位の企業だったが、近年はAmazonなどに押されて、実店舗に展示している商品がeコマースのショールームとなる「ショールーミング」という現象に悩まされ、一時は経営難がささやかれたほどだった。

「その当時は本当に厳しかったよ」と苦笑しながら登場したBest Buy CEO ヒューバート・ジョリー氏は、Adobe CEOのサンタヌ・ナラヤン氏と一緒にBest BuyがExperience Cloudでどう変わったかを説明した。

例えばExperience Cloudの導入により、年間200ドルで家電の設定などを行なうサポートサービスを効果的に提供できるようになり、顧客との結びつきが強化できた。ショールーミングで破綻寸前だった同社がデジタル変革で大きく変わったことをアピールし、今後は、AXPをBest Buyのデジタルマーケティングの基盤として使っていく意向も述べた。

Best Buy CEO ヒューバート・ジョリー氏(左)とAdobe CEO シャンタヌ・ナラヤン氏(右)

一方のSunTrust銀行は、米国の中東部で支店を展開している銀行で、デジタルマーケティングにExperience Cloudを利用している。PC向けのWebサイトだけでなく、モバイルアプリでもExperience Cloudを利用して効率よく提供しているという。

SunTrust銀行ではデジタルマーケティングにAdobe Experience Cloudを採用
モバイルアプリにも対応している

伝統的大企業でさえデジタルマーケティング、況や――

SunTrust銀行のCMO(最高マーケティング責任者)のスーザン・ジョンソン氏は、実はかつてはエンジニアで、ITに深く関わっていたという。

この事が示していることは、既に伝統的な企業のマーケティング担当者でさえ、デジタルに精通していなければ、売り上げを伸ばすことはできない。徐々にそうした世界になってきているということだろう。

SunTrust銀行 CMO(最高マーケティング責任者) スーザン・ジョンソン氏(左)とAdobe CTO(最高技術責任者)のアベイ・パラスニス氏(右)

今後、音楽業界や動画業界が経験してきたようなデジタル化が、従来のITがターゲットにしたような世界から、新聞、テレビ、そして自動車といったこれまではデジタルとは無縁だったような企業にも広がっていくと考えられている。

そうした時が来てからデジタルマーケティングに取り組んで行くのか、それともまだ始まりの段階で積極的に取り組んで行くのか。2社の事例は、そうした問いを否応なく伝統的な企業に突きつけている、そう言えるのではないだろうか。

ナラヤン氏は「すべての組織にとって顧客のユーザー体験を管理していくことは必須になっていくだろう」と述べ、同社のAdobe Experience Cloudがその助けになるとまとめて講演を終えた。

エバンジェリストからアドボカシーへ、MicrosoftとIBMが進める開発者起点のIT変革

阿久津良和のITビジネス超前線 第7回

エバンジェリストからアドボカシーへ、MicrosoftとIBMが進める開発者起点のIT変革

2018.12.18

デジタルトランスフォーメーションは世界的な潮流

重要な役割を果たす「デベロッパー・アドボカシー」とは?

大きなデジタル変革、日本企業が”また”乗り遅れないために

昨今のIT企業では、「エバンジェリスト(伝道師)」ではなく「デベロッパー・アドボカシー」「デベロッパー・アドボケイト」という肩書きを目にすることが多い。本来は、その権利を代弁・擁護し、権利実現を支援する「アドボカシー(advocacy)」の実践者を指す言葉だが、昨今のデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の潮流で欠かせないキーワードとなりつつある。今回は大手IT企業でアドボカシー職を務める2人の著名人に話をうかがった。

エバンジェリストからデベロッパー・アドボカシーへ

日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)でデベロッパー・アドボカシー事業部を統括する大西彰氏は、エバンジェリストとデベロッパー・アドボカシーの違いについて次のように説明した。「エバンジェリストはテクノロジーとマーケティングのハイブリッドで、世界観や製品の良いところを1対大勢で主張する。デベロッパー・アドボカシーは現実の開発者と1対1で向き合う。例えば(機能が正しく)動作しないといった悩みに開発者と同じ目線で受け止め、その声を本社へフィードバックする」。つまりエバンジェリストもデベロッパー・アドボカシーも対する相手は顧客でありながら、その役割は似て非なる。

日本IBM デジタル・ビジネス・グループ デベロッパー・アドボカシー事業部 Tokyo City Leader(事業部長) 大西彰氏

日本マイクロソフト(日本法人)からマイクロソフトコーポレーション(本社)直属の組織に席を移し、デベロッパー・アドボカシー職を務める寺田佳央氏も同様の説明を行いつつ、「私の中では(エバンジェリストからデベロッパー・アドボカシーへ)肩書きが変わっても、取り組む内容や姿勢はさほど変わっていない。Javaを盛り上げる上でコミュニティと良好な関係を築くことが大切で、Javaエバンジェリスト時代から開発者との会話や交流をとても大切にしてきた」と振り返る。奇しくもその発言は大西氏も同様で、「本質は変わっていない。振り返ると日本マイクロソフトのエバンジェリスト時代もデベロッパー・アドボカシー的な活動だった」と語る。

マイクロソフト デベロッパー・リレーション クラウド+AI リージョナル・デベロッパー・アドボカシー 寺田佳央氏

ここから見えるのは、顧客に寄り添うという顧客ファースト視点を両者とも重視しており、その意識を具現化したのがデベロッパー・アドボカシーという役割なのだろう。

ここで両者の背景を説明したい。大西氏は日本マイクロソフトで約12年、エバンジェリストなどを務め、2017年10月から日本IBMに移籍。IBMは「本社CEOのGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)やCDO(Chief Digital Officer)のBob Lord(ボブ・ロード)も開発者にコミットすることを明言」(大西氏)しているように、開発者への関与を強化し、現在約200名のデベロッパー・エコシステムグループで広域な情報発信や個別の重要顧客を支援する活動を行っている。同社は主要なビジネス拠点にリーダーを配置しているが、東京の拠点は少数精鋭でデベロッパー・アドボカシー、プログラムマネージャーらが活動中だ。

寺田氏のJavaに関する活動は、以前の日本オラクル時代から有名であったが、2015年7月に日本マイクロソフトへ移籍。とあるイベントへ参加した際、「以前のマイクロソフトとは大きく変わった」という印象を持ったのが最初で、さまざまな開発言語に積極的に対応したMicrosoft Azureの可能性に惹かれたことで籍を移したという。Unix や Java の文化しか知らない自分だからこそ、そして代表的なマイクロソフトの競合企業 (Sun Microsystems) に勤めていた自分だからこそ、大きく変わったマイクロソフトの今を伝えられると考えた。そして「『Microsoft Love OSS !!』のメッセージを日本全国の開発者・運用者の皆様にお届けしたい」(寺田氏のブログより言葉を抜粋)と自身の役割を語っていた。現在、寺田氏もマイクロソフトコーポレーション所属で、千代田まどか氏(ちょまど)と共に日本リージョン(地域)担当のアドボカシーとして活動している。

日本はやっぱり遅れ? デジタルトランスフォーメーション

さて、各社がデベロッパー・アドボカシーという役割を設ける理由だが、背景には世界的なDXの潮流が大きい。デジタルテクノロジーで企業の変革を起こすには、ソフトウェアによる最適化が必要だが、そのソフトウェアのコードを書く開発者は特に日本で軽視されがちだ。

ビジネスリーダーとソフトウェア開発者の両者が「両輪」となってサービス開発を共に進めるのが理想ながらも実現していない。トラディショナルな企業の縦割り構造や旧態依然の企業文化など、DXが進まない理由は多岐にわたるが、この状況について大西氏は、「専門家の皆さんは難しく語っているものの、とどのつまり『(1)無駄な時間を省いて、(2)最初に全体を判断し、(3)どこからでもアクセスできる』。この3つが重要」と指摘する。

他方で両社に共通するのがクラウドの存在だ。日本IBMは「IBM Cloud」、日本マイクロソフトは「Microsoft Azure」を持つプラットフォームベンダーだが、クラウドの主役はSaaSなどクラウド上で動作するサービスであり、サービスを開発する開発者が最重要となる。そのため日本IBMは、現実世界のシナリオに則したオープンソースのアプリケーション集「IBM Developer Code Patterns」を運営して、「開発者の目的にあったシナリオを見つけて頂き、素早く試してもらう道を作る」(大西氏)活動を続けてきた。また、2018年6月11日に開催したThink Japan IBM Code Dayには3,000人以上が来場。他社ベンダーも参加する同社としては史上初のイベントに対して、「古くからお付き合いのあるパートナー様からは『IBMも変わった』というポジティブなフィードバックを頂いた」(大西氏)。

このように開発者コミュニティに対する積極的な姿勢は、日本マイクロソフトも同様だ。日本マイクロソフトの年次イベントである、de:code や Tech Summitでは、WindowsやOffice、.NETと言った既存のマイクロソフト製品・技術のコミュニティやファンをとても大切にしながらも、さらに今では当たり前のようにOSS に関連したセッションも数多く行われている。また、寺田氏はMicrosoft MVPに代表されるインフルエンサー支援やコミュニティへ積極的に参加している。

そして寺田氏の今の活動には、デベロッパー・アドボカシーへ就任する前の経験が、大きな影響を与えていると言う。「2年ほど前までは、プレゼンで発表することが業務の中心だった。それが、昨年よりお客様の実ビジネスの課題を、目の前で直接解決していく“ハックフェスト”を実施するようになった。もちろんプレゼンはとても重要で今後も実施していく。しかし、テクノロジーの領域によっては、約1時間のセッションで伝えることが難しい技術もある。たとえば、Kubernetesのような、開発手法、運用方法、DevOps、マイクロサービスのように多岐にわたるノウハウが必要な技術だ。ハックフェストは、プレゼンより多くの時間を掛け、アーキテクチャや実際のコーディング内容を確認し、操作方法でつまずくポイントを詳細に説明できる。実際に参加されたお客様やコミュニティ・メンバーが短期間で著しい成長される姿を目の当たりにし、この取り組みは素晴らしいと感じたと共に、この体験が私自身も大きく成長させた。そしてアドボカシーになった今も、コミュニティに向けてハックフェストを実施している」と、開発者と同じ目線で語る重要性を力説する。

寺田氏はデベロッパー・アドボカシーとして、「私自身は顧客が幸せになることを考えて、顧客が作りたいシステムに関する情報や技術をお届けしたい。その結果として日本IT市場が前進する活動を続けたい」と抱負を語る。大西氏も「IBMはさまざまなテクノロジーにコミットしている。開発者に対してオープンであるイメージを伝えて『ファン』になって頂きたい。個人的には日本のDXを加速させるために顧客支援を続けていく」(大西氏)と述べ、コミュニティや顧客に対する支援と、日本企業のDX推進を目指す姿勢を示した。

各社は開発者起点のエコシステム拡大を展望

お二人の取材を通じて感じたのは、ソフトウェア開発者の重要性である。筆者も以前はプログラマーとして働いた経験を持つが、今思い返せば恵まれた環境とは言い難かった。各所で叫ばれているDXの本質はワークフローを最適化するサービスにあり、サービスを開発するソフトウェア開発者にある。それを理解しているIT企業は開発者起点のエコシステム拡大を踏まえて、デベロッパー・アドボカシーの活動を始めているのだろう。

阿久津良和(Cactus)