「スタートアップ」の記事

「CASH」に「TABETE」、有望スタートアップがRubyを選ぶ理由

「CASH」に「TABETE」、有望スタートアップがRubyを選ぶ理由

2018.12.28

コークッキングとスタディプラスがRuby bizグランプリ大賞に

開発にRubyを選んだ理由は、生産能率にあり

グローバルでの利用、活発なコミュニティで利用者はさらに増加するか

リリース後わずか16時間で3.6億円をバラまき、瞬く間にサービスを停止した質屋アプリ『CASH』、飲食店や惣菜店などで余ってしまった料理とユーザーをマッチングするサービス『TABETE』、「塾や通信教育よりも断然安い」と高校生に人気の学習サービス『Studyplus』。これら話題のサービスに共通しているのは、開発言語に「Ruby」を採用していることだ。

Rubyは、まつもとゆきひろ氏が開発したプログラミング言語。1995年の一般公開以来プログラマーからの支持を集め、さまざまなサービスの構築に寄与してきた。Rubyの誕生地・島根県を中心として構成されたRuby bizグランプリ実行委員会は、この言語の継続的な発展を目指し、Rubyを活用したサービス事例の表彰式を開催した。

「Ruby biz Grand prix」。式には受賞企業のほか、島根県知事やRuby開発者のまつもと氏らも参加した

大賞を受賞したサービスはスタディプラスの『Studyplus』とコークッキングの『TABETE』。加えて、バンクの『CASH』やリブセンスの『転職ドラフト』などのサービスがPricing innovationを受賞、そのほかのサービスも特別賞やDevice Technology賞といった賞を受賞した。

なぜ彼らは開発言語にRubyを選択したのだろうか。会の終了後、コークッキング リードエンジニアの榊原徹哉氏、バンク 代表取締役兼CEOの光本勇介氏に、サービス開発や事業戦略を考える上でのRubyの重要性について話を聞いた。

短期間での開発にRubyの開発速度は必要不可欠だった

コークッキング リードエンジニア 榊原徹哉氏

――『TABETE』の開発にあたり、Rubyを選択した理由は?

榊原氏(以下、榊原):TABETEは、リリースまで3カ月しかない中で、エンジニアはたった3人だけ、中でもフルタイムで働くのは1人だけという状況で開発したサービスです。その状況で開発を間に合わせるためには、Rubyでなければ難しかったでしょう。

開発方針の変更に柔軟に対応できる点も理由の1つです。当社では「フードロス」という社会課題を解決するためのフードシェアリングサービスを展開しているのですが、こういったサービスの事例は少なく、手探りで進めていたために方針が変わることも少なくありませんでした。

――開発速度、方針の変更に迅速に対応できるのがRubyだった

榊原:Rubyの特徴として、コーディングの文章が少なく済むという点が挙げられます。少ない文字の組み合わせでバリエーション豊かな機能を作りこむことができるため、短期間での開発を実現することに加え、コンパクトな付け替えも可能です。「読みやすさ」も特徴で、例えば「ここの部分ってどういう仕組みで動いているんだっけ」と思った際に、一部を読んだだけで理解することができる。企業が陥りがちな、「開発者しか仕様がわからない」という問題も減少します。

――当初はコークッキングのエンジニアはもっと少なかったとか。現在のメンバーはどのように集まったのでしょう?

榊原:実は私がジョインしたのは途中からでして。Wantedly経由で「何やら面白そうなサービスがあるぞ」と興味を持ち、ジョインすることになりました。最初は2人で開発していたのですが、このままでは間に合わないと、COOがツイッターで呼びかけて沖縄のインターン生を採用し、3人で開発したという流れです。

――サービスを開発する上で、競合他社との差別化を図るためにしたことは?

榊原:似たようなサービスとして「FOOD PASSPORT」や「Reduce GO」などが並べられることがありますが、彼らはサブスクリプション型なので、完全な競合だとは思っていません。私たちは一品ずつ打っているため、例えばフェスやイベントなどでサービスを活用することも可能です。一見、フードシェアリングサービスという分野では競合に見えるのですが、ある種“フードロスと言う問題に一緒に挑んでいく仲間”というイメージを持っています。

――Rubyを使っていて、良かったと思うことはありますか?

榊原:Rubyは、コミュニティの活動が活発なのがいいなと思っています。例えば誰かが何かの機能を作りたい、と思ったときには、オープンソースで配布されている機能を自由に使うことができます。それらを組み合わせるだけでも、簡単にサービスを作ることもできます。今後もRubyのコミュニティは広がっていき、採用する企業も増えていくように思いますね。

適切なタイミングを見極めて、サービスを展開するために

バンク 代表取締役兼CEO 光本勇介氏(右)

――サービス開発にRubyを採用して良かった点について教えてください

光本氏(以下、光本):よく言われる話ですが、さまざまなライブラリがあること、自分たちが考えているものをスピーディに形にできることが長所だと思います。さらに、大きなサービスを1人で作っていくというのはエンジニアにとってかなりの負担であるため、多くの人に慣れ親しまれてる言語を選択する必要があります。そういった点で、Rubyは好ましい。また、エンジニアの採用もしやすいです。それは会社にとっての大きなメリットです。

――エンジニアはどうやって集めたのでしょう?

光本:「CASH」をリリースする前のメンバー集めは大変でしたが、幸いなことに、リリース以降はいろいろなメディアに取り上げられたこともあり、エンジニアへの認知が拡がり、採用しやすくなりましたね。そこからは求人媒体やHPからの応募が増えました。

――CASHはリリース直後に停止、その後再開したかと思えば、次は「TRAVEL Now」を発表しました。このように短いスパンで、サービスを次々と世の中に出すのはなぜですか?

光本:個人的に、事業を作るときに重要なことは「市場の選択とタイミング」だと思っています。それがすべてだと言ってもいい。どんなに良いアイデアであってもタイミングが違えば、流行るものも流行らないでしょう。これは今までの経験からすごく感じることです。出すべきタイミングを見極めて事業を形にすることが重要です。その中で、Rubyは私たちが想像しているものを形にする言語として、非常に優れていると思っています。

――「タイミングが重要」ということですが、市場調査などにはどのくらいの時間をかけているのでしょうか?

光本:昔は結構、市場調査をするタイプだったんですが、ここ数年は自分たちの直感を信じて事業を選定したり、開発したりすることが多いですね。私達のようなスタートアップ企業は、今までにないものであったり、新しい需要であったり、そういったものを創出することが使命だと思っています。

そのため、将来の需要や市場に関する情報というのは、市場調査からは得られないのかな、と個人的に思っています。できるだけクイックに、まずは世の中に出す。それが1番の市場調査になるんです。

――先月、MBO(マネジメント・バイアウト)を実施し、DMM.comが保有するバンクの全株式を取得されました。光本さんは「次のチャレンジ・事業を考える過程で、その形がベストだった」という旨のブログを書いていましたが、次の“チャレンジ”とは、どういったものでしょう?

光本:当社は、社名の通り「お金」をテーマにしている会社なので、それに関する事業を作っていますし、今後も何か新しい事業をするとしても、その軸は変わらないと思います。私たちの夢は、自分たちの手で誰にでも使ってもらえるようなマスの事業・サービスをつくること。ベンチャーとして事業を作ったのは、誰にでも知ってもらえるようなサービスをつくりたいと思ったから、そこに向かっていきたいです。

ありがたいことに、多くのメディアで話題にしていただいたこともあり、当社の認知は高まったかと思います。しかし、普段街を歩いていて、実際にサービスを使っている人を見かける、という機会はまだまだ少ない。しかし、伸びしろはまだまだあると思っています。私たちのサービスを、今後もっと多くの人に使っていただきたいっていうのが、私たちのチャレンジですかね。

拡がるRuby経済圏が作り出す、新たな可能性

本大会の審査委員長を務めた、まつもとゆきひろ氏

まつもとゆきひろ氏は表彰式後、Rubyが社会にもたらす影響をもたらす未来への期待を語った。

「Rubyから誕生した、社会を変えるインパクトを与えるビジネスが多く生まれています。これはみなさんの努力のおかげです。今や社会インフラになったTwitterも、かつてはRubyで開発されたものです。(中略)4度目の開催にして、多くの素晴らしい作品を選べたことを嬉しく思います」。

***

発表会の顔ぶれは、大手企業からベンチャーまで多種多様。中でもベンチャー企業が目立っていたのは、少人数・短期間でのサービス開発が行えるようになったことによって、さまざまなサービスが勃興していることが影響していると予想できる。Rubyの作り出す経済圏はますます拡がって行くのだろう。

話は変わるが、ここ数年、エンジニアが表彰される今回のような会が増えてきているように感じる。少し古いデータではあるが、ソニー生命が2017年に発表した「中高生の将来なりたい職業ランキング」では「ITエンジニア・プログラマー」が1位だったというし、2020年からは小学校でのプログラミング教育が始まる。エンジニアにスポットライトが当たり始めたことは、これからの社会を作り出す未来のIT人材が急増していく流れを考えると、当然のことかもしれない。

100歳のパナソニックが「スタートアップ」に前のめり

100歳のパナソニックが「スタートアップ」に前のめり

2018.03.31

パナソニックが、スタートアップ企業への投資戦略を加速している。同社がスタートアップ企業に対して積極的な投資、というイメージはあまりない。だが、そうしたイメージを崩す象徴的な動きが2つある。

ひとつは、シリコンバレーに拠点を置き、米国のスタートアップ企業に投資を行う「パナソニックベンチャーズ」。もうひとつは、パナソニック社内の新たなビジネスアイデアを切り出し、事業化するスタートアップ企業に対して出資する「BeeEdge」の設立だ。 いずれも、従来のパナソニックの発想には当てはまらない形で活動する。

パナソニックベンチャーズは、パナソニックグループとして、2017年4月に設立したコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)だ。

一般的に、独立系のベンチャーキャピタルは、機関投資家、事業会社、個人などから拠出された資金をもとに、ファイナンシャルリターンを目的に投資するのに対して、CVCは、企業が持つ資金を活用して、技術獲得や事業シナジーが見込めそうなスタートアップ企業に出資することが多い。だが、パナソニックベンチャーズは、CVCでありながらも、その手法はVCに近いものだといっていいだろう。

パナソニックは1998年から、シリコンバレーに拠点を置いて技術探索型投資を中心に展開し、これまでも40件以上の投資実績を残してきた。

パナソニックベンチャーズ 社長の木下 雅博氏は、「年平均では2件ほどの投資実績。だが、従来はR&D部門が中心であり、主にアーリーステージへの投資が多く、技術獲得に偏重し、ビジネスの視点が不十分だった」と反省する。特に、既存事業との親和性を重視する傾向が強く、新規事業領域の視点が薄いといった課題もあった。「さらに、数億円の決裁に半年間をかけており、意思決定に関するスピードが欠如しているという課題もあった。一般的なCVCが持つ問題点にはまっていたともいえる」(木下氏)。

パナソニックベンチャーズ 社長 木下 雅博氏

2015年になって同社は体制を見直し、新事業創出に向けた事業開発目的の活動を強化した。技術部門と企画部門の混成チームによるベンチャー戦略室を設置して、外部活用による新規事業の創出や、ベンチャー投資および協業による企画立案などの検討を進め、2017年4月に、新会社として、パナソニックベンチャーを設立した。そして今年、2018年にはその拠点を、シリコンバレーの中枢となるパロアルトに移転した。

シリコンバレーでパナソニックが目指すコト

パナソニックベンチャーでは、これまでにはない取り組みを開始している。ひとつは、迅速な意思決定を実現するために、1億ドル(約110億円)以内であれば、日本での決裁を不要とし、シリコンバレー側で決裁できるようにした。

CVCの場合、投資決裁は投資部門ではなく、事業会社の本社部門が行うことが多く、結果として意思決定が遅れることで、スタートアップ企業が求める速度と歩調が合わないという場合が多い。パナソニックも従来の仕組みは同様の課題があったが、意思決定のメカニズムを見直すことで、投資決裁の迅速化を図った。

2つ目は、ベンチャーキャピタリストの積極的な登用だ。シリコンバレーの場合は特に、情報獲得に人脈の太さが大きく作用する。パナソニックベンチャーでは、シリコンバレーで実績を持つVCのKPCB(Kleiner Perkins Caufield & Byers)およびCVCのインテルキャピタル出身の 2人のベンチャーキャピタリストを新たに採用したが、「これまでと比較して異次元の投資案件を持ってくる」といった成果が出ていると話す。

そして、3つ目は、ファイナンシャルリターンを重視した点だ。継続的な活動を行うには、儲かる会社であるということが前提であり、CVCの枠を超えた姿勢を打ち出した。10年間でのエグジットを想定した投資案件を中心に取り組んでおり、パナソニックが持つ現行事業とのシナジーを求めないことも決めた。「現行事業と親和性を前提にすると、新たなビジネスモデルや破壊的技術への投資は限られてしまう。パナソニックには4つのカンパニーがあるが、それらの事業領域と違う領域を狙っていく」(木下氏)。

出資比率は20%未満としたうえで、重点投資領域を「モバイル」と「SaaS」「AI」「API」「ウェアラブル」「インダストリアルIoT」「ロボティクス&ドローン」「AR/VR、3Dプリンティング」「オートノマスドイラビング」に据えた。パナソニックベンチャーが新体制を整えて本格的に活動を開始したのは、2017年6月から。だが、2017年12月までに4件、1500万ドルを投資しており、投資に対する速度は急速に高まっているといえよう。

その4件も、それぞれ取り組みがユニークだ。既存技術と比較して消費電力が10分の1以下になるマイコンを開発するファブレス半導体メーカーのAmbiq Micro(本社・オースティン)や、数100種類の金属を加工できる3Dプリンターを製造するDesktop Metal(ボストン)、SNS上の情報を収集・分析し、利用可能な知見に変えるツールのSprinklr(ニューヨーク)、独自の顧客情報分析によって顧客信用度をレーティングすることで最適な利率を算定する仕組みを提供するCSC Generation(サンフランシスコ)と、分野にとらわれていない。

これらの技術や製品は、パナソニックの事業とのシナジーも考えられるが、前提としているのは、いずれも「事業シナジーよりも、新規事業としてパナソニックの成長を側面からサポートする」というものだ。スタートアップ企業の速度に歩調をあわせた仕組みが、これらの案件への投資を可能にしている。

一方で新たに設立したBeeEdgeは、シリコンバレーに本拠を置く日系ベンチャーキャピタルのScrum Venturesと共同で設立した投資企業だ。パナソニックで家電事業を担当するアプライアンス社が49%を出資しており、社内にある新たなビジネスアイデアを切り出し、これを事業化するために設立するスタートアップへの出資が、主な役割になる。

BeeEdge 社長 春田 真氏(右)と、パナソニック アプライアンス社 社長 本間 哲朗氏(左)

BeeEdgeの社長に就任する春田真氏はScrum Venturesのパートナーを務めており、パナソニック アプライアンス社 社長の本間 哲朗氏は、「春田氏は、伝統的な日本の大手企業と、ネットワークのスタートアップ企業の両方の経験を持ち、両方の企業と会話ができる稀有な経営者である。経営はすべて春田氏に任せるが、一緒になって、新たな希望の種を育てたい」と意気込む。

春田氏は、住友銀行を経て、DeNA会長、プロ野球の横浜DeNAベイスターズのオーナーも務めた経歴の持ち主。アプライアンス社の本間氏は、「パナソニック本体では手がけにくいような、新たな尖ったアイデアを実現に結びつけるプラットフォームを提供する組織になる」と期待を寄せる。

こうした通常の決裁フローでは時間のかかる案件をスタートアップアプローチで取り組む手法は、パナソニックと並ぶ日本メーカーであるソニーも「SAP」というプログラムで取り組んでいる。

「最近、痛感しているのは、ICTが家のなかにシフトしてきて、家電メーカーや住設機器メーカーが取り上げることができる提案が増えている点。もし、米国からのアイデアがあれば、それを事業化して、家電と結びつけ、日本やアジア、インド、中国の市場に対して提案することもやっていきたい」(本間氏)

春田も、外部の力を使いながら、パナソニック社内で芽が出ていないアイデアを形にしていくことに期待感を示しており、「新たなサービス、新たなプロダクトを生み出したり、日々の生活に彩りを加えたりといったように、社会にとって意味のあるものを創出したい」と話す。

本間氏は、「パナソニックは2013年に事業部制を復活させ、すべての事業は事業部機軸で進めている。これはパナソニックにとって、大変強いDNAである」と評価しつつ、「技術開発部門などから新たな技術シーズが事業部に提案されても、事業部長がやらないと言えば、それでお蔵入りになってしまう」と言葉を濁す。今回の取り組みは、アイデアの受け皿をもうひとつ用意することで出口が複線化し、「既存の事業部にも刺激を与えるという副次的効果もある」(本間氏)。

アプライアンス社は既存事業部としても、社内イノベーションプロジェクト「Game Changer Catapult」をスタート。IoT×調理家電と連携し、オフィスで、いつでも安心・安全かつヘルシーで美味しいランチを食べることができる「Bento@YourOffice」や、キュレーションされた映像と音のコンテンツをリビングなどに自然な形で提供する「Ambient Media Player(AMP)」など、社内のアイデアを形にする取り組みを行っている。

美味しいランチを食べることができる「Bento@YourOffice」
自然にコンテンツを提供する「Ambient Media Player(AMP)」
歯のホワイトニングを行う「Sylphid」

パナソニックは、社内のアイデアをスタートアップとして事業化する一方、既存の事業には捉われず、米国のスタートアップ企業に投資をするという2つの取り組みを通じて、同社の成長を牽引する、新たな事業の創出につなげていく考えだ。事業シナジーだけに留まらず、新たな事業創出に向けたスタートアップ企業への積極的な投資は、パナソニックの事業や技術、製品の横への広がりと、新たな成長を生む原動力となりそうだ。