「スタートアップ」の記事

テスラとフォード、メルセデスが注目する「SparkCharge」の

テスラとフォード、メルセデスが注目する「SparkCharge」の"EV未来予想図”

2019.03.04

ポータブルEV充電ユニットを開発する米SparkCharge

自動車メーカーやロードサービスと組み、「どこでも充電」へ

Uberやドローンの活用も視野に入れ、EV普及促進図る

砂漠のど真ん中で、EV(電気自動車)の充電が切れる。アプリを開いてしばらく待つと、ドローンが高速充電ユニットを持ってきてくれる。数十分で充電が完了し、また車を走らせる――。

「なぜ砂漠でEVを走らせているのか」という疑問はさておき、米スタートアップのSparkCharge(スパークチャージ)が目指すのは、そんな世界だ。

スパークチャージは2014年、ニューヨーク・シラキュース大学の寮の一室で生まれた。それからわずか5年、同社はフォード・モーターやテスラ、メルセデス・ベンツといった自動車業界の雄から熱い視線を送られるようになる。それはいったいなぜか。

米国テキサス州・ダラスにて行われたダッソーシステムズ主催の3次元CADイベント「SOLIDWORKS World 2019(ソリッドワークス ワールド)」に参加していた同社の創業者であり現CEOのJoshua Aviv(ジョシュア・アビブ)氏と、同社CTOのChristopher Ellis(クリストファー・エリス)氏に、スパークチャージのユニークな事業と戦略について聞いた。

スパークチャージの創業者、兼CEO(最高経営責任者)のJoshua Aviv(ジョシュア・アビブ)氏(左)、CTO(最高技術責任者)のChristopher Ellis(クリストファー・エリス)氏(右)

「SOLIDWORKS World 2019」

2019年2月11日~13日まで米国テキサス州ダラスで行われた、世界最大級の3次元CADイベント。ダッソー・システムズ・ソリッドワークス(以下、ソリッドワークス)の年次ユーザーイベントであり、世界中のソリッドワークスユーザー、代理店、パートナー企業、ソリッドワークス社員など、合計7000人以上の来場者が一堂に会した。

「マイ充電ステーション」でEV普及へ

地球温暖化をはじめとする環境問題、および世界のエネルギー問題を見越し、自動車メーカーは相次いでEVに参入。出荷台数も年々増加している。各メーカーの努力によって年々航続距離が伸び、より実用的になってきている一方、まだまだ「充電インフラの不足」がネックになっている。

その問題の解決し、EV普及を促進することがスパークチャージのミッションだ。

「大学在学時、EVを所有していた私は、充電インフラが不足していること、そしてその充電スピードに問題を感じました。アメリカのハイウェイには約40マイルごとに1つ、充電ステーションが用意されているのですが、充電には何時間もかかってしまう、非常に効率の悪いインフラだったんです」(アビブ氏)

ジョシュア・アビブ氏

「迅速に充電ができ、かつ車のトランクに収まるようなものがあれば、いつでもどこでも充電できるのではないか」。そう考えたアビブ氏は、「マイ充電ステーション」というアイデアを思いつき、充電ユニットの開発に取りかかる。その製品はすぐに注目を浴び、出資者・メンターが集まったところで、スパークチャージが誕生した。

【SparkChargeの高速充電ユニット使用イメージ】

優秀なエンジニアとの出会いも、同社の成長につながった。開発担当者のクリストファー・エリス(Christopher Ellis)氏は、元々NASAで衛星に使われる電源システムの開発に携わっていたそう。そのノウハウを活用し、より小さくて軽いユニットで、より急速な充電を行えるようにした。

「元々、充電ステーションは『冷蔵庫』ほどの大きさが一般的でした。私たちの製品ではそれを、『機内持ち込み手荷物』くらいのサイズに小型化することに成功したんです。詳述は避けますが、これまで製造業の現場で利用されていたようなモジュール化技術を用いたバッテリ容量のコントロール、およびNASAで学んだ電力系統技術などを活用している点が、他社との差別化ポイントです」(エリス氏)

5月よりアメリカで導入、今後も広がる可能性

「マイ充電ステーション」に着想を得た同社の目指すところは、コンシューマー向けの充電ユニットの販売だ。ただ、直近で行うのはBtoB向けへの展開であるという。例えば、アプリからの注文で充電ユニットを運び届けるサービスや、自動車ディーラー/ロードサービス事業者への販売、さらにはセブンイレブンなどの店舗への設置も検討中だそうだ。

すでに6~7社が導入を検討しており、2019年5月から各社が事業を展開していくめども立っている。また、2019年末までには米国内で約10社がスパークチャージの製品を使用した事業を展開する見込み。

こうした同社の技術やビジネスモデルに惚れ込み、スパークチャージとパートナーシップを結んでいる企業の中には、テスラやフォード・モーター、メルセデス・ベンツといった、自動車業界の雄たちもある。

ほかにも、自動車保険ビジネスを展開する「Agero」、「AAA(全米自動車協会)」、エネルギー関連事業の「BP」などともパートナーシップを締結している

同社の事業は、ソリッドワークスワールド2019にて行われた、ダッソー製品群のライセンスを獲得できる「3D EXPERIENCE Pitch」でも高い評価を受けた。ダッソー・システムズのCEOであるベルナール・シャーレス(Bernard Charles)氏やグローバルデザイン誌「CORE77」、STEM教育「BASE11」のトップからなる審査員、およびイベント参加者の投票の結果、見事優勝を果たした。

ピッチの様子

アビブ氏は今後の展望について、「あくまで可能性の話」と前置きしたうえで、ドローンを用いた遠隔地への充電ユニットの配送、「Uber」や「Lyft」などのライドシェアサービスとの連携も検討しているという。

まだまだ成長段階のスパークチャージであるが、そのポテンシャルは高そうだ。大手自動車メーカーが注目する、SparkChargeの描く「EVの未来予想図」は、今後どのような形で実を結ぶことになるのだろうか。

将来は原発でも? 「油を泳ぐ無人点検ロボット」は海を渡るか

将来は原発でも? 「油を泳ぐ無人点検ロボット」は海を渡るか

2019.02.28

無人ロボットでの原油タンク点検を行う米スタートアップ

点検コストを大幅に削減するロボットとは?

製造業でも「リモートワーク」、人材獲得にも貢献

米マサチューセッツ州・ボストン。北大西洋に面したこの地では、海洋研究所が盛んだ。

そこには、1985年の「沈没したタイタニック号の発見」に一役買ったウッズホール海洋研究所があり、言わずと知れた超名門校のMIT(マサチューセッツ工科大学)でも、海洋工学を学ぶことができる。

そんな地で生まれたスタートアップ企業「Square Robot(スクエアロボット)」が面白い。彼らが操縦する船が泳ぐのはただの海ではなく、"油の海”だ。

米国テキサス州・ダラスにて行われたダッソーシステムズ主催の3次元CADイベント「SOLIDWORKS WORLD 2019(ソリッドワークス ワールド)」に参加していた彼らと、そのユニークな事業と戦略について話すことができた。

スクエアロボット 創業者のウィリアム・オハローラン(William O'Halloran)氏、リードメカニカルエンジニアのチャーリー・オコネル(Charles O'Connell)氏

「SOLIDWORKS WORLD 2019」

2019年2月11日~13日まで米国テキサス州ダラスで行われた、世界最大級の3次元CADイベント。ダッソー・システムズ・ソリッドワークス(以下、ソリッドワークス)の年次ユーザーイベントであり、全世界のソリッドワークスユーザー、代理店、パートナー企業、ソリッドワークス社員など、合計7000人以上の来場者が一堂に会した。

無人調査ロボットでブルー・オーシャンを行く

スクエアロボットは、2016年に設立されたまだまだ若い企業だ。

手掛けるのは、無人ロボットを活用した「原油タンクの調査・点検」事業。マサチューセッツ州・ボストンに本社を構え、現在は15人態勢で無人ロボットの製造・設計、およびその運用を行う。

無人ロボットが原油タンクの中を泳ぎ、異常部分がないかを点検する

スクエアロボットの創業者であるウィリアム・オハローラン(William O'Halloran)氏は「ライバル企業は思い当たらない」と、その市場優位性を語る。

前職では防衛産業向けの無人潜水機を設計していた同氏だが、その時にたまたま聞いた「製油所の抱える問題」から、スクエアロボットが誕生した。「問題」とは、点検作業にかかる大量のコストであった。

「原油タンクを点検するにあたって、かつてはタンクを一度空にして、横から穴をあけ、そこから人が入って検査する、という手法がとられていました。しかしその手法では、タンク1つあたり約50万~200万ドルもの費用がかかるほか、再稼働までに約3か月もの時間がかかるという問題があったんです」(オハローラン氏)

スクエアロボットが目指すのは、この非効率的な点検方法の代替案である。そのための手段が「油中でも泳げるロボットによる点検」であった。

「我々のサービスでは、点検のためにわざわざ油を抜く必要もなく、たった8時間で調査を完了します。さらには、簡単な設備のメンテナンスも可能です。これにより、顧客のタンクの点検にかかる費用を10%~20%にまで縮小できます。腐食率に応じた点検頻度の見直しを提案することで、タンクのより安全な運用にもつなげられます」(オハローラン氏)

スクエアロボット 創設者のウィリアム・オハローラン(William O'Halloran)氏

人材獲得につながった「リモートワーク」

事業だけでなく、働き方もユニークだ。

例えば、リモートワーク。スクエアロボットの技術を支えるリードエンジニアのチャーリー氏は、ニューヨークに住みながら、ボストンにいる本社チームを率いている。

「しばらくボストンで暮らしていたんですが、ニューヨークに移住して、別の企業で働く予定でした。その頃、スクエアロボットの話を聞き、ロボットを設計するためのプログラムもクラウドベースであったため、リモートでの参加が容易であることに魅力を感じ、スクエアロボットにジョインしました」(オコネル氏)

リードメカニカルエンジニアのチャーリー・オコネル(Charles O'Connell)

もちろん、「リモートワーク」という働き方は決して新しいものではなく、すでに取り入れているという企業は多い。GoogleドライブにSlackなど、さまざまなコミュニケーションツールを活用すればデータの共有は可能だし、急ぎの連絡は電話でしてしまえばいい。

ただ製造業に限って言えば、少し状況が異なる。

最新のCADデータをどうやって共有するのか、クラウドのセキュリティは安心できるものか、製品の設計・開発・保守といったサイクルをどうやって管理するのか……。そこで活用したのが、先述のソリッドワークスであった。

「今は多くのツールが揃っています。当社には現在、ソリッドワークスを使っているエンジニアが5人いるのですが、それぞれ居場所も違うし、複数のプロジェクトを抱えています。前はGoogleドライブにCADデータを格納していましたが、ソリッドワークスを使用することで、よりデータのやり取り、各メンバーの抱えるプロジェクトの把握を簡単に行えるようになりました」(オコネル氏)

現代において、さまざまなコミュニケ―ションツールが発達し、働き方は自由になっている。しかし、セキュリティの高いプラットフォーム上でデータをやり取りできる、修正を加えたら通知を送れる、といった、「エンジニア視点」のサービスは、今後さらに求められるようになるだろう。

「働く場所の制約」が外されたことで、本来獲得が難しかった人材を確保できたというこの事例は、製造業でもリモートワークが有効な手段になることを示す好例と言えそうだ。

「原油タンク」以外も視野に、将来は原発での利用も?

オハーラン氏はスクエアロボットの将来性に自信を見せており、そして今後の展望を次のように語る。

「世界中には10万機のタンクがあるといわれています。その約半分が原油のタンクで、その半分がアメリカにあります。今年から来年にかけてはアメリカでの成長を目指し、その後は国際展開も視野に入れています」(オハローラン氏)

折しも日本では「原子力発電所」をいかに検査、メンテナンスするのかが大きな課題となってしまっている。スクエアロボットの取り組みは何かのヒントにならないだろうか。オハーラン氏は「実際に今、事業として具体的に手を付けているわけではないものの、技術的にはできることがある」と話す。

スクエアロボットは数年以内に国際展開を目指しているが、その際の拠点候補には日本も含まれているという。彼らの自動ロボットが海を越え、日本で活躍する姿を目にする日も、そう遠くはないかもしれない。

ツイッター創業者と歩んだ10年、モバイル決済「Square」の歴史を振り返って

ツイッター創業者と歩んだ10年、モバイル決済「Square」の歴史を振り返って

2019.02.21

小規模決済の雄「Square」はどのように生まれたのか

創業のきっかけは「アメックスが使えなかった」こと

今アントレプレナーに必要なのはMBAより、作る能力だ

「10年前、ある女性がアメリカン・エキスプレスで私の作ったガラス工芸品を買えないことに、ひどく腹を立てました。『なんだなんだ!』って。そこで、ジャックに電話をしたんです。『彼女が出したアメックスを簡単に決済できるようなサービスを作ろう』と」

モバイル決済サービス大手「Square(スクエア)」の共同創業者であるジム・マッケルビー氏は語る。米国テキサス州・ダラスにて行われたダッソーシステムズ主催の3次元CADイベント「SOLIDWORKS WORLD 2019(ソリッドワークス ワールド)」の基調講演でのことだ。同氏自身、ソリッドワークスユーザーであり、スクエアの開発にも使用している。

「SOLIDWORKS WORLD 2019」

2019年2月11日~13日まで米国テキサス州ダラスで行われた、世界最大級の3次元CADイベント。

ダッソー・システムズ・ソリッドワークス(以下、ソリッドワークス)の年次ユーザーイベントであり、全世界のソリッドワークスユーザー、代理店、パートナー企業、ソリッドワークス社員など、合計7000人以上の来場者が一堂に会した。

スクエア共同創業者のジム・マッケルビー氏

これはスクエア創業時のエピソードである。「今日はスクエアが誕生して10年が経った、特別な日」とジム氏は同社が歩んできたこれまでの道のりを振り返る。

彼の話は、世界を席巻する決済サービスが生まれるまでのストーリー、そして同氏が考える「アントレプレナーに求められる力」にまで及んだ。

モバイル決済サービス「スクエア」って?

「スクエア」と聞いてもハテナマークが浮かぶ人もいるだろう。筆者はそのサービスを使った経験がないし、「モバイル決済大手」「米国Fintech(フィンテック)企業の雄」と同社を表現する言葉を並べても、ピンと来ない。

しかし、先述のジャック(フルネームはジャック・ドーシー)氏という人物が「Twitterの創業者」であること、このサービスのローンチがFintechの波が来る以前(2010年)であったことを挙げれば、その重要性がわかりやすいのではないだろうか。

スクエアが提供するのは、”手軽なカード決済サービス”。用意するのはカードリーダーとアプリと、スマートフォン(もしくはタブレット)の3つだけ。スマートフォンのジャックにリーダーを差し込み、対応したクレジットカード(もちろんアメックスも含む)を読み込ませるだけで、決済できるという仕組みだ。

スクエア使用イメージ

その導入の簡単さや、申請後の審査の速さなどから人気を集め、個人事業主や開業直後のビジネスの場などで人気を博している。

最近だと、同社が提供する決済アプリ「Cash(キャッシュ)」において、アメリカ50州すべてでビットコイン(Bitcoin/BTC)の取引ができるようになったことも話題になった。

まだフィンテックという言葉が広く一般に知られる前に生まれ、業界の最前線に立つ企業である。

その時、ジャックは15歳だった

世界的な企業が生まれた時、その創業時のエピソードは「神話」のような扱いを受け、語り継がれる。

よく知られているのは、ウィリアム・ヒューレット氏とデビッド・パッカード氏が創業したヒューレット・パッカード(HP:Hewlett-Packard)であろうか。

HPの歴史は、カリフォルニア州・バロアルトにあるパッカード氏のガレージから始まった。そのガレージは今もなおHPが所有しており、「シリコンバレー発祥の地」として、米国家歴史登録罪に指定されている。

最近だと、民泊大手のAirbnbの創業話も有名だ。同社は、サンフランシコのアパートに一緒に住んでいたジョー・ゲビア氏とブランアン・チェスキー氏が国際デザインカンファレンスの際、アパートの自室リビングでエアーベッドと朝食を20ドルで提供することから始まった。

では、スクエアはどのようして生まれたのか。

「私がジャックに初めて会ったのは、まだ彼が15歳の時でした」と、ジム氏は「アメックスのエピソード」よりも昔、ジャック氏との出会いについて語る。

ジム氏はスクエアの共同創業者であると同時に、ガラス細工の職人でもある。しかし、ジャック氏と出会った頃は、まだガラス細工一本では生計を立てられずにいた。

「当時私が勤めていた会社では、紙の書類をスキャンしてCD-ROMに保存し、クライアントに提供するという事業を行っていました。しかし、インターネットが普及したことで事業の立て直しを求められました。その時、私と一緒に立ち上がったのがジャックでした」

窮地に陥っていた会社は再構築され、現在も(当時とは違う)事業を続けている。ジャック氏は弱冠15歳から経営者としての大器の片鱗を見せていたというわけだ。

アメックスが使えない!

勤め先を共に立て直した経験から、2人は「一緒に事業をしよう」と話していた。一方で、ジム氏のガラス細工の仕事も軌道に乗ってきた。

ある時、彼の作った「ガラス製のトイレの蛇口」が人気を博した。これがスクエア誕生のきっかけになった。

見た人の多くに「これが欲しい」と言われるようになり、「声を掛けられるたびに、『これがなくなると困るんだ』と値段を吊り上げていきました。しばらくすると、誰も買う人はいなくなりましたが(笑)」。

「ガラス製のトイレの蛇口」

ある日、また蛇口を購入したいという客が来た。それが冒頭に述べた女性であった。彼女はその高い商品をアメックスで購入しようとしたが、「そのカードは使えない」とジム氏が言うと、ひどく腹を立てて購入を諦め、帰ってしまった。

「折角の売り上げの機会を、『クレジットカードを使えない』という理由で失ってしまったのです」。

――それから10年。日本でも未だに、支払い時に「クレジットカードは使えないんです」と言われることは少なくない。そこで手持ちの現金がなければ支払いできないし、近くにATMがなかったら「カードが使えないならいいです」と断らざるを得ない。

そんなことが何度も続き、せっかくの販売機会を逃すようであれば、事業者にとっては大きなダメージになる。だからこそスクエアは、当時のジム氏のような小規模な事業者であっても受けられるような「シンプルな決済サービス」の提供を目指した。

MBAより必要なのは「作る能力」だ

「これからアントレプレナーを目指す人はMBAを取得するよりも、機械工学やコンピュータサイエンスを学んだ方がずっといいでしょう。アイデアを語るよりも、実際にモノを作る能力が重要なんです」

ジム氏がスクエアで得た経験から、こう語る。

決済サービスを作ると決めてから、ジム氏はハードウェアを、ジャック氏はソフトウェアを担当し、すぐにプロトタイプを作った。「ようやくできたプロトタイプは、散々たるものでした。でも、それが大事だったんです」と同氏は当時を懐かしむように振り返る。

プロトタイプ。右から初期に作ったもの、それから2つ目、3つ目に作ったもの

プロトタイプができる頃に、スティーブ・ジョブズ氏とのミーティングの機会があった。しかし、ジム氏はパニックに陥いる。ジョブズ氏が”デザイン狂い”であると知っていたためだ。

「ご存知の通り、ジョブズはデザインに"あまりにも強い”こだわりを持っていました」。プロダクトを気に入ってもらうためにはどうすればいいかと考え、ヒントを求めてApple Storeに走った。そこで見た『研磨されたアルミ』にヒントを見出し、二晩徹夜でプロトタイプの改良に着手したものの、思うようにはいかなかった。

その経験は、彼に新たな気づきを与えた。「プロダクトの改良には、反復作業を早くやる必要があるとわかりました。スピードはすべてを解決するんです」。その後は開発サイクルを速め、改良を続けた。ベンチャーキャピタル(VC)の投資を必要とする頃には、すでに機能する製品が完成していた。

「VCのピッチに参加したとき、『ジャックです、ジムです、まずはクレジットカードを出して』と言って、ベンチャーキャピタリストのクレジットカードを読み取り、いくらかの決済を行ったんです。VCのピッチに行くときに、完成品を持っていく人は少ない。アイデアだけではなく、機能するモノがあったのが良かったんです」

「今思えば、完璧なピッチだったかもしれませんね」

そして創業から10年が経った今、同社は時価総額300億ドルを超える企業になった。ちなみにこれは現時点で、ツイッターのそれよりも高い。

ジム氏が直面した、決済できなかった客のアメックス。そこから始まったスクエアは、ごく小さなカードリーダーとシンプルなシステムで、小規模ビジネスの在り方を変えた。

現在までに得た成果も、単なるアイデアの提案だけでなく、実際にモノを作ることができたからこそ。「作る能力」は、ここから先の未来に必要となる、重要な資質なのだろう。