「スイーツ」の記事

“みんなの力”がリアルを動かした「ティラミスヒーロー問題」

カレー沢薫の時流漂流 第26回

“みんなの力”がリアルを動かした「ティラミスヒーロー問題」

2019.02.04

漫画家・コラムニスト カレー沢薫さんの社会派連載!

第26回は、「ティラミスヒーロー問題」について

私のように一日68時間ほどツイッターをやっている人間なら、「ティラミスヒーロー問題」のことを一度は目にしただろう。

「ティラミスヒーロー」とはシンガポールの人気ティラミス屋で、2013年から日本にも進出。主にデパートの催事などで、オリジナルキャラクターの描かれた「瓶入りティラミス」の販売を行っていたそうだ。

そのシンガポールのティラミスヒーローに酷似したティラミス屋が表参道にオープンしたとして話題になったのだ。これから神戸にも出店する予定らしい。

問題のティラミス屋の名前は「HERO’s」。こんな名前だが乾物屋で看板商品は瓶入りかんぴょう、と言うならまだ「そういうこともあるかな」という気はするが、この店の商品もキャラクターが描かれた瓶入りティラミスだ。この時点で完全に黒だし、確信犯である。

また、それだけなら「パクり業者め、速やかに営業を止めるか、かんぴょうを売れ」という話になるだけだが、このティラミスヒーロー問題が大きく騒がれたのは、単に売れた店を真似しただけではないからだ。

本家シンガポールの「ティラミスヒーロー」は、日本で「ティラミスヒーロー」の屋号とロゴの商標登録を行っていなかった。そしてパクった方とされている「HERO’s」の方が「ティラミスヒーロー」という屋号、および本家のほぼコピーであるロゴの商標登録をしてしまったため、本家の方が「ティラミスヒーロー」という文言を日本で使えなくなってしまったのである。

つまり、法律上ではパクった側に権利があり、本家がそれを使うと逆に罰せられるという状態なのだ。そんなことがあっていいのか、と多くのツイッター民が絶望し怒ったのが、今回の件が大きく拡散された理由である。

この「HERO’s」の親会社は「gram」という。パンケーキが売りのカフェを出店しており、全国にかなりの店舗数があるようだ。

しかし、この「gram」そのものも、元々あった人気カフェの屋号と商材を奪ったもの、という噂があるほか、ローソンの人気商品「プレミアムロールケーキ」など、自社と関係ない有名スイーツの名前を商標出願しているそうだ。これらをティラミスヒーローの騒動とあわせて考えれば、商標未登録の人気商品を狙った「乗っ取り」の常習会社では、と言われている。

「ツイッター民の怒り」が持つ力と「弱点」

やり方だけ見ると吐き気を催す邪悪だが、「悪い奴ほど法律を守る」と言うように、日本の法律上、「HERO’s」や「gram」が罰せられることはない。

ただ、このツイッターでの騒動を受けて、各種メディアがこの問題を取り上げたことで、オープンしたばかりの「HERO’s」の店舗には客が来なかったり、逆に本家ティラミスヒーロー(編集注:現在は屋号をティラミススターに変更)の催事会場には客が殺到したりしている。「ツイッター民の怒り」というのはすでにバカに出来ないものであり、暴走しがちではあるが、問題提起や世の中を動かす力を持っているのも確かである。

しかし、「ツイッター民の怒り」には「長持ちしない」という特徴がある。何故ならツイッター民には他に怒ることがたくさんあるからだ、実に多忙なのである。実際、ツイッターを一日68時間やっていると、「嫌な事件」を5つは目にする。

ティラミスヒーローの件もその一つに過ぎず、HERO’sも「(同社が商標出願したロゴに関して)シンガポールの日本側運営会社に対し、その使用権をお渡しする所存でございます」という発表以降、普通に営業している。その内、新しい「嫌な事件」にツイッター民の関心は移り、HERO’sはうやむやの内に逃げ切るだろう、という見方もある。

確かに、世の中は一日68時間ツイッターを見ている人ばかりではないので、騒動が沈静化した後、何も知らない人が「瓶入りティラミスおもろいやんけ」と買ってしまうことは大いにあるだろう。しかし、今回の事件の真に嫌なところは、ティラミスヒーローのキャラクターが猫、つまりおキャット様という点である。

本家ティラミスヒーローは「世の中に瓶入りティラミスを広めるために活動するヒーローアントニオ」という猫をキャラクターにしており、そのストーリーだけで泣いてしまう。それなのに今回の騒動のせいで、アントニオは「ティラミスヒーロー」を名乗れなくなってしまったのだ。もう本当に泣く。

そして「HERO’s」の方も、ヒーローをモチーフとした数種類の猫のキャラクターを使っている。会社のやり方がどれだけ汚かろうと、猫はかわいい。この猫たちが描かれたティラミスが、運営会社の風評により売れ残っているかと思うと、とてもじゃないが「ざまあ」とは思えない。まさに、人間如きのいざこざにおキャット様が巻き込まれている状態である。

このおキャット様の犠牲から我々が何を学ぶべきかというと、まずおキャット様を私欲のために利用すると必ず地獄の業火に焼かれて死ぬという点。そして、商売をやる以上「うちのような小さいところがまさか」とは思わずに、商標登録ほか、権利に関しては法的に主張できる状態にしておかなければならないということだ。

特におキャット様関連で商売をさせていただこうと思っているものは必須である。自分のおキャット様は自分で守らなければならない。

ちなみに、「HERO’s」は現在もフランチャイズを募集しているようだ。今の騒動を知らずに「何か話題だし」と申し込む人がいたら、情弱を越えて商売自体に向いていないと思うが、gramについてはすでにフランチャイズ店があり、今回の件で深刻な被害を受けている店もあるという噂がある。

こちらも告発がツイッターでなされ、炎上の後アカウントを消してしまったようだ。気の毒な話ではあるが、フランチャイズ店舗は親企業の良い評判や知名度を借りて運営するものなので、逆に悪い風評に左右されるのも致し方ないところがある。

もしフランチャイズで何か店をはじめようと思ったなら、その会社のことを良く調べてから行うべきだろう。それが自分のためであり、おキャット様のためにもなるはずだ。

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にわかに注目を集め始めた「フラワーバレンタイン」

にわかに注目を集め始めた「フラワーバレンタイン」

2018.02.14

この記事が掲載される2月14日、例年の行事である「バレンタインデー」だ。もうすぐ仕事を終え、帰り際にチョコレートを購入し、配偶者や好意を寄せる相手に贈ろうと考えている方も少なくないはずだ。

しかし、このバレンタインデー、近年はパッとしなかった。以前は、2月に入ると菓子メーカーが多数の広告を打つことで、「もうそんな時期か」という感覚を呼び覚ませていた。もちろん、コンビニではギフト用チョコレートのコーナーが設けられたり、駅ナカのショップや百貨店ではスタッフが呼び込みなどをしたりしている。だが、バレンタインデーに以前の存在感はない。

義理チョコによる功罪

まず、ビジネスシーンにおいての習慣が薄れてきた。かつては「義理チョコ」と呼ばれるものを配るのが当たり前のように感じたが、最近は「社員間における虚礼廃止」という方針を採る企業が増えてきた。それはそうだろう。たとえ安価な義理チョコとはいえ、複数の男性に配るとなれば、金銭的な負担になる。一方で、ホワイトデーにお返しをするという男性はあまり多くない。

また、イベントの嗜好が変化してきているのも一因といえる。近年はバレンタインデーよりもハロウィン、イースターなどに若い世代は熱中している。好意を持つ相手と1対1で過ごすよりも、大勢で盛り上がるイベントのほうが注目されているのだろう。

こうした、傾向について、やはり義理チョコに功罪はあると思う。義理チョコはバレンタインデーの一般化に寄与したが、贈るほうからすれば金銭的負担だ。しかも言葉は悪いが、「贈りたくない相手」にも配らなくてはならい。ゴディバが義理チョコに対するネガティブキャンペーンを展開していることも知られている。

では、感謝を表したい相手、好意を伝えたい相手にギフトを贈るという本来の目的になるとどうだろう。もちろん高価なチョコレートを贈るというのが本筋だろうが、さまざまなギフトの可能性が出てくる。そのうちのひとつが「フラワー」だ。

取材先である第一園芸にディスプレイされた花束。さまざまな花があるが、バラの人気は普遍的だという

実はフラワー業界は長いこと硬直してきた。硬直というと聞こえは悪いが、要は長期間一定の水準で売り上げがあり、生花店はおのおので「街のビジネス」として成り立ってきた。ただ、この状況がいつまでも続くとは限らない。たとえば冠婚葬祭。一昔前はこうした際には生花が多く飾れることが多かったが、今ではその習慣も下火になりつつあるという。

協議会設立で消費拡大・需要喚起を目指す

こうした現状から、生花の消費拡大・需要喚起・プロモーションを行うとして、花の国日本協議会(FJC)が立ち上げられた。これまで、個々の小売店の取り組みに寄ってきた生花業界に、大型のプロモーションを仕掛けるという組織だ。

その最たるプロモーションが「フラワーバレンタイン」。これは2月14日に感謝を伝えたい相手、好意を表したい相手に花を贈ろうというものだ。そもそも日本のバレンタインデーは、女性から男性にチョコレートを贈るという慣習が染みついているが、これは製菓メーカーが仕掛けたことだ。海外では男性が女性にフラワーを贈呈するというのが一般的。もちろん、女性から贈っても問題はない。

FJCによると、近年、花を贈る習慣が日本でも根付いてきているという。特にバレンタインデーに限らずとも、過去1年以内に花を贈ったという男性は、4年前に比べ3倍に増えているという。「花を贈るなんてキザだ」という過去の考えが薄れてきた証拠だろう。なお、FJCではフラワーバレンタインのイメージキャラクターに“キングカズ”こと、三浦知良氏を起用している。男性ファンも多い三浦氏ならPRに最適だろう。

さて、この記事のため銀座三越1Fにある第一園芸を訪れたが、取材中、多数の男性が花を求めに来店していた。花を贈る習慣が根付き始めたのは間違いなさそうだ。

マックフルーリーとパナップが“禁断のコラボ”に踏み込んだ理由

マックフルーリーとパナップが“禁断のコラボ”に踏み込んだ理由

2017.10.25

「マックフルーリー」の10周年を記念する日本マクドナルドと「パナップ」のコラボ相手を模索していた江崎グリコ。この両社が共同開発で作り上げたのが、本日発売となる「マックフルーリー パナップグレープ」だ。本格的な冬の到来を前に始まったアイスとアイスの“禁断のコラボ”は、マックにとってカフェタイム強化戦略の一環にもなる取り組みだ。

本日発売の「マックフルーリー パナップグレープ」

マクドナルドは10月25日から「マックフルーリー パナップグレープ」を期間限定で販売する。価格は税込み290円だ。TVコマーシャルは、江崎グリコの商品開発担当者に対して執拗にコラボ企画を持ち掛けるマクドナルドいう図式で描かれるが、実際のところは、両社ともに提携先を模索していた時期が偶然のように重なったのだという。

商品発表会では、両社の開発担当が座談会形式でコラボ商品の誕生秘話を語ったが、それによると今回のコラボ商品は、江崎グリコが持つパナップソースをマクドナルドのソフトクリームにかけて混ぜただけの商品ではないらしい。

単なるコラボではなく真剣勝負の結果

マックフルーリーとパナップは両方ともアイスクリームの1種だが、実は各商品のおいしい温度は異なる。それ故、パナップソースをそのままマックフルーリーにかけても、ソース本来の香りや甘み、酸味などは再現できなかった。そのため、マックフルーリーのおいしさが最適になるよう、江崎グリコとしてもソースの改善などに取り組まざるを得なかったという。

結果として、両社はレシピを共有することにより、この大きな課題を克服した。江崎グリコにとってみれば、会社を代表する門外不出のソースを使うコラボ商品であるゆえに、この決断には相当な勇気が必要だっただろう。

パナップとマックフルーリー、それぞれの特徴は

パナップは冷凍アイスゆえに最初は固く、食べ進めるうちに溶け出し、木のスプーンが刺さる深さが変化する。細長い容器ゆえにすぐに溶ける商品ではない。じっくりと時間をかけて溶け出していく。何かをしながら、時間をかけて食べる。少しずつ木のスプーンの刺さり具合が深くなる。年輪の数も増えると同時にソースのリング数も増える。これこそが、パナップと過ごす時間を楽しむ真骨頂だ。アイスの温度変化により、香りと甘さ、酸味の度合いも変化する。最初はくぐもっていた香りが、華やぐように変わる。温度が上昇することで、香りと甘さの感度が連動するように上がるのである。

ふたとスプーンにマックフルーリーの秘密が?

一方、マックフルーリーはベースとなるソフトクリームにソースと砕いたワッフルコーンを混ざった状態でカップに入れて提供される。経験の浅いアルバイトのクルーでも、簡単にできる製造工程となっている。誰でも作れる秘訣は、カップのふたと謎のプラスチックスプーンにある。

カップのふたは、コーンが飛び出さないようにすると同時に、ふたのふち近くに円を描くようにカップを回すことで、絶妙の混ざり具合になるという。スプーンは食べる時にも使うが、実は攪拌(ホイップ)する羽の役目も兼ねている。四角い穴は攪拌する機械に取り付けるときの穴。カギのようなストッパーは器具に取り付けた時の固定具の役割を果たす。

攪拌がマックフルーリーらしさを作り出す

その構造は、空気をいっぱいに含んだ、口どけのよいまろやかなクリームを作るために安定した高速回転に耐えうる。プラスチック製のスプーンは中空のため、アイスの冷たさが直接手に伝わらない効果ももたらしている。また適度な太さのため、攪拌時の強度を保つだけでなく、年齢を問わず持ちやすい形状ともなっている。

パナップが食べ進めるうちに変わっていくアイスである一方、マックフルーリー パナップグレープは、アイスクリームを攪拌して出来たてを提供する。最初から香りが開き、甘みと酸味のバランスを感じる温度だ。江崎グリコ監修のグレープソースを使っているとは言いつつ、パナップとは全く別の商品といっていい。

冷たいスイーツはコンビニの得意商品

実は冷たいスイーツはコンビニのお手の物である。パフェやケーキ、シュークリームなど、多くのスイーツがかなりのスペースを確保している。マクドナルドの挑戦は「作りたての味わい」を提供することだ。コンビニなど、他社の商品にはない魅力を顧客に提供しようと試みている。

マックフルーリーの製造工程を見ると、攪拌は短時間で高速だ。ソフトクリームはもともと空気を多く含んでいるのだが、この工程により、さらに多くの空気を内包することとなる。この加工により、まろやかな口当たりと溶けやすい状態を獲得したソフトクリームが、マックフルーリーの基本となる。

完成品として店舗に並ぶスイーツでは、「作りたて」や「出来たて」の味わいを求める顧客の要望には応えきれない。「出来たて」という点において、マックスイーツはコンビニスイーツに対し、商品の差別化・価値創りの面で一歩リードしている。

「出来たて」という商品価値がコンビニスイーツとの差別化ポイントだ

マックフルーリーはマクドナルドの可能性を広げるか?

マクドナルドがハンバーガーをメインとする業態であることは疑問を挟む余地がない。かつてはコーヒー専売店と覇を競うため、「マックカフェ」として新しい業態を展開しようと試みたが、商品設定や価格設定が顧客の支持を得られず、事業縮小を余儀なくされた。今はハンバーガーショップという業態の中で、多くの顧客の支持を獲得できる商品設定に取り組んでいる。

マクドナルドでスイーツを楽しむ、という選択肢を消費者に認知してもらうために、同社では先頃、熱いスイーツである「シナモンメルツ」とコーヒーのサンプリングを実施。ハンバーガー店でアイドルタイムとなりがちな午後のカフェタイムを強化しようと大量のコーヒーを無料で提供した。

7年ぶりに復活した「シナモンメルツ」とプレミアムローストコーヒー。マクドナルドはシナモンメルツ復活にあわせて、コーヒー1.3億杯の無料キャンペーンを展開し、カフェタイムの集客強化を図った

シェイクではなくフルーリーにしたコラボ商品

コラボ商品の誕生秘話として、江崎グリコは企画当初、パナップとマックシェイクのコラボ商品を想定していたとの後日談が紹介された。江崎グリコの商品企画担当によれば、Twitterでパナップとシェイクが比較されることが多かったことが、そう考えた理由の1つだという。マクドナルドがシェイクとして今回のコラボ商品を展開しなかった理由は、おそらく「スイーツ」としての商品展開に魅力を感じたためだろう。

日本アイスクリーム協会の統計によると、アイスクリーム類の販売額・量は、ここ数年右肩上がりに増加している。アイスクリームは暑い時期の食べ物と思われがちだが、実は冬でも購入されているという実態もある。夏は気温が高いために氷菓が好まれるが、通年で人気を博しているのはアイスクリームなのだ。温かい飲み物が求められる季節になると、おやつのスイーツとしてアイスクリームの出番も増える。温かい飲み物と一緒に食べると、アイスクリームの甘さはさらに引き出される。温度は糖度の感度を高めるとも言われているのだ。

マックの提案は新たな選択肢となるか

カフェタイムのおやつとして提案された新商品マックフルーリー パナップグレープ。江崎グリコとマクドナルドが組んで生み出した「出来たてスイーツ」は、温かく、きれいになった店内でカフェタイムを過ごしてほしいというマクドナルドからのメッセージだ。モノだけを販売するのではなく、快適な店舗環境や過ごし方、利用シーンを含めた提案を増やしつつあるのが現在のマクドナルドだ。

今回採用された専用カップには、約5個に1個の割合でスマイルマークのついた「当たりカップ」が存在する。“インスタ映え”やSNSを通じた拡散を意識した販売戦略にも抜かりはない

マクドナルドの提案は、スイーツの購入先として消費者の新たな選択肢になりうるのだろうか。少なくとも、選択肢が増えることは消費者にとって利点と言える。価格もドリンクとセットで500円以内と考えられる。この価格帯は、かつてマクドナルドが得意としてきた範囲でもある。

価格は安いが質も悪い商品は、自然に淘汰される時代だ。質がよく、価格が妥当であることが消費者の選択を勝ち取る時代ともいえる。江崎グリコという強力な味方を得たマクドナルドの新しい挑戦は、11月下旬までの期間限定で始まった。