ゴーン氏最後の野望「世界覇権」に暗雲? 日産自動車の業績に異変

ゴーン氏最後の野望「世界覇権」に暗雲? 日産自動車の業績に異変

2018.02.14

2017年のグローバル販売でトヨタを抜いて世界2位のポジションを獲得した日産・ルノー・三菱自動車の3社連合。トップに立つカルロス・ゴーン氏にとって、世界覇権が現実味を増してきたように思える状況だが、アライアンスの中核をなす日産の現状は心配の種となっているかもしれない。

日産の業績に変調?

通期の営業利益が大幅減の見通しに

日産自動車は、今期(2017年4月~2018年3月)の連結営業利益が前期比23.9%減の5,650億円となる見通しを発表した。

本業の儲けを示す営業利益でこれだけの大幅減となるのは、昨年に発覚した国内工場の無資格検査問題により生産や輸出に遅れが発生したことに加え、国内販売減少の影響が拡大したことによる。

さらに、これまで日産の稼ぎ頭であった米国販売で過剰在庫を抱え、インセンティブ(販売奨励金)を積み増す悪循環が顕在化し、利益を大きく悪化させている。日産の今期最終純利益は7,050億円を確保する見通しだが、このうち2,077億円は米国の税制改革(法人減税)の効果が出たものであり、「2,000億円をかさ上げしたモノが実情」(日産の田川丈二常務役員)ということである。

2017年4月、長期政権のカルロス・ゴーン氏から社長を禅譲される形で発足した西川廣人日産体制だが、国内工場での無資格検査問題、米国販売における乱調と、スタートから躓いた状況にあり、その立て直しが急務となっている。

日産の2017年度第3四半期決算説明会に登壇した田川常務

3社連合はVWに次ぐ世代第2位の規模に

一方で、2016年に燃費データ不正問題で窮地に陥った三菱自動車に34%出資して日産の傘下に収め、「ルノー・日産・三菱自」連合という新たな国際3社アライアンスの枠組みを統率するゴーン氏の野望は、3社連合による世界覇権だ。

2017年の世界販売ランキングで、ルノー・日産・三菱自連合は1,060万8,366台(前年比6.5%増)とトヨタグループの1,038万6,000台を抜き、トップを走るフォルクスワーゲン(VW)グループの1,074万1,500台に迫る2位の座を確保した。

ゴーン氏は、3社の会長とルノーの社長・CEOを兼務しており、三菱自動車の約100万台を上乗せして、3社連合で世界販売1,000万台超えを果たしたわけである。

しかし、この3社連合の中核である日産の変調は、ゴーン氏の野望達成に暗雲を投げかけるものであり、ゴーン氏自体にも、長年にわたる日産とルノーのマネジメントに対して、求心力を保持し続けられるかという疑問が突きつけられることになりそうだ。

世界最大の自動車市場・中国では積極姿勢

日産は、無資格検査問題の影響が色濃い日本事業の正常化や米国販売の立て直しを尻目に、中国での販売拡大戦略をぶちあげている。

中国での合弁先である東風汽車では、2022年までの5年間で600億元(1兆円強)を投資する計画を発表。中国での販売台数は、昨年の150万台から2022年までに260万台まで引き上げるとする。また、純粋な電気自動車(EV)や、日産独自のハイブリッド技術である「e-POWER」搭載車を含めた20車種の電動車を投入し、2022年までに電動化車両の販売台数を78万台(全体の30%)に引き上げるというのだ。

世界最大の自動車市場となった中国では、独VWを米GMが追い、さらにホンダ、日産、フォード、トヨタが第三勢力を形作る構図となっているが、日産はこの第三勢力から抜け出し、VWおよびGMと並ぶ位置づけを確保していく方針だ。中国が国策とする電動化施策に呼応してEV化を積極的に進める一方、中国の配車アプリ大手である滴滴出行とルノー・日産・三菱自連合がEVシェアリング協業で提携合意するなど、積極的な動きをみせている。

日産のEV「リーフ」

国内販売に復活の兆し? 米国では攻めの姿勢が裏目に

一方、国内販売では無資格検査問題によるダメージからの復活を進めることが課題だ。国内販売は「昨年10~12月の受注は減少したが、今年に入って1月は昨年を超える受注に戻ってきている」(星野朝子国内営業統括専務)とする。だが、「セレナ」から続く新型車投入による国内巻き返しの途上で、2代目となったEV「リーフ」の発売間際に無資格検査問題が発覚したことは、日産ブランドのイメージダウンにつながった。消費者心理に与えた影響は大きいだろう。

加えて、三菱自からOEM供給を受ける軽自動車も、ようやく燃費不正問題が落とした影を払拭してきたばかりの状況である。今や国内販売シェアで5位のメーカーとなった日産が、厳しい国内販売競争で立て直しを図るのはこれからである。

「ノート」(画像)が2018年1月の国内登録車販売で1位となるなど、復活の兆しも見える日産だが、国内事業の立て直しはこれからだ

さらに、米国販売における過剰在庫問題は、ピークアウトした米国市場において日産の卸売りと小売りのアンバランス、高騰したインセンティブの正常化に向けた大きな課題となっている。

米国の自動車市場は2016年をピークとし、2017年は1,723万台と前年から2%減少して縮小傾向を示す。需要構造は乗用車セダンからピックアップトラックや大型SUVへとシフトしている状況だ。

日産は、この全需動向や需要構造変化の見通しを誤り、従来の攻めの戦略を進めたことでインセンティブの高騰を招き、過剰在庫を抱える結果となった。日産にとって米国は、中国とともに収益基盤であるだけに、米国事業の失敗は大きな痛手となる。米国事業の立て直し、販売正常化も急務となっているのだ。

3社連合では野心的な数値目標が先行

日産の無資格検査問題では、長年この検査不正が続いていたことで、17年間も日産の社長を務めていたカルロス・ゴーン氏の経営責任を問う声も出た。

日産はルノーの傘下に入ってからV字回復を達成し、国際アライアンスの成功例とされてきた。むしろ、V字回復後は日産がルノーを助ける構図ともなっている。2016年には燃費不正で窮地に陥った三菱自動車を助ける形で日産が資本提携し、三菱自は日産流経営手法の導入で業績V字回復の流れを作りつつある。

ゴーン氏がルノー・日産・三菱3社連合の会長として、2022年までの中期経営計画をパリで発表したのが2017年9月。3社連合は2022年に2016年比4割増の1,400万台を販売すると宣言したことに加え、2020年までにEV専用の共通プラットホームを用意し、中計期間中に12車種のEVを投入して「EVのアライアンスリーダーとなる」(ゴーン会長)と怪気炎を上げている。

一方で、今年に入り、ゴーン氏が約13年間務めたルノーのCEOを退任するとの報道が出ていたが、一転して続投することになりそうな情勢となった。だが、フランス政府は後継となるナンバー2を明確にするよう求めているという。

アライアンスの扇の要、日産の真価が試される

ルノーはフランス政府の意向を配慮しつつ、ライバルのPSA(プジョー・シトロエン)グループにも対抗していかねばならない。PSAはGMからオペルを買収したことで、昨年の欧州販売ではVWに次ぐ2位の座を確保している。また、三菱自動車は、今期中に黒字転換を達成し、V字回復に向かおうとする順調な動きを見せているが、持続的成長への体制づくりはこれからが本番だ。

ルノーと三菱自動車もそれぞれの事情を抱える中、アライアンスの扇の要として日産の真価が試される

ゴーン氏の信頼が厚い西川日産社長としては、この3社連合で世界覇権を、とのゴーン氏の野望を実現していくためにも、日産の立て直し、現状打開を早期に図らねばならない。つまり、ゴーン経営の真骨頂と言われたコミットメント(目標必達)経営からの転換も迫られているのだ。「収益と成長のバランス」経営を打ち出した西川日産の経営手腕が問われる。

三菱自動車が中期計画、野心的な数値目標より注目すべき「自律」の姿

三菱自動車が中期計画、野心的な数値目標より注目すべき「自律」の姿

2017.10.24

三菱自動車工業(以下、三菱自)が3カ年の中期経営計画「DRIVE FOR GROWTH」を発表した。グローバル販売130万台、売上高2.5兆円という目標は、2016年度比でいずれも30%以上の増加となる野心的な数字だ。この期間中にフリーキャッシュフローは黒字化するとし、コスト管理の徹底を図ることで効率的かつ規律ある業務体系の構築を目指すという。

東京都港区にある三菱自の本社

土台づくりの3年間

この新しい中期経営計画は、三菱自が燃費データ不正問題を契機に日産自動車の傘下に入ってから約1年が経過する中で、ルノー・日産連合の一員として、立ち位置をしっかりと固めるための土台づくりとなる。

つまり、過去のリコール隠しから燃費データ不正に至るブランド失墜を受けて、三菱自は真の信頼回復に向けて歩き出すことになる。組織改革を実行し、企業文化を変貌させることで、同社の強みを生かした成長と、ルノー・日産・三菱自連合の枠組みを確立させるため、第1ステップとして大きな意味を持つのが同計画だ。その成否が、三菱自の生き残りを占うことになると言っても過言ではない。

三菱自の益子修CEOも、新計画の発表で「完全に信頼を回復させることがこの中計3年間を通じて第一の優先経営課題だ」と強調した。そして、3つのポイントとして「信頼の早期回復、業績のV字回復、3カ年の新車投入を成功させる」ことを挙げた。

中期経営計画の発表会に登壇した三菱自動車の益子修CEO

電動化技術・SUV・アセアン市場に強み

すでにカルロス・ゴーン3社連合会長が、2017年9月にフランス・パリで2022年までのアライアンスとしての中計を発表している。三菱自の会長も兼務するゴーン氏は、3社連合で2022年には2016年比40%増のグローバル販売1,400万台を達成し、世界トップとしての地位を確立するとの野望を明確に示した。

また、3社連合で12車種の電気自動車(EV)を投入するとし、この分野におけるリーダーの座を意識する一方で、プラットフォーム(車台)の共通化を拡大する方向性を示し、ルノー・日産連合に三菱自を入れたロゴも明示することにより、三菱自の強みであるプラグインハイブリッド車(PHV)およびSUVの商品力とアセアン戦略を連合に組み込むことへの期待をにじませた。

アライアンスのロゴ

ゴーン氏の発表を受けて、ルノーはすでに中期経営計画を発表済み。日産も当初は10月16日に発表予定だったが、無資格従業員の完成検査問題が発覚したことで延期となった。三菱自の中計は、3社連合の6カ年計画に対し、信頼回復の優先課題もあるため、まずは3カ年で連合中計と擦り合わせる土台づくりを狙うことになる。

再建に向けた試金石

2015年春の燃費不正問題は、1990年代末のリコール隠しが2000年代に入って再び発覚し、三菱自の経営が独ダイムラーから三菱グループによる支援へと揺れたあげくのことであった。結果として、2016年10月には日産が三菱自に34%を出資。三菱自は日産傘下、つまりは「ルノー・日産連合」の一員として再生へのスタートを切ったのである。

今回は日産の傘下入り以来、三菱自が発表した初めての中計であり、この計画は、本当の意味で過去を断ち切って再建を具現化できるかどうかの試金石ともなるものだ。日産傘下入りで三菱自の会長に就任したゴーン氏は、三菱自に対し、開発・品質担当の山下光彦副社長に加え、日産でゴーン氏の腹心と言われた世界6地域統括のトレバー・マンCPO(チーフ・パフォーマンス・オフィサー)をCOO(最高執行責任者)として送り込んでいる。この体制で約1年が経過した。

三菱自のCOOとして初めて公の場に姿を現したトレバー・マン氏

すでに三菱自は、ゴーン流日産方式の経営改革を導入している。日産主導のコスト改善策により、三菱自の業績はV字回復基調を示している。この流れに拍車をかけて、基盤を固めようというのが今回の中計だ。

台数で30%以上の成長、鍵を握る新商品の動向と地域戦略

中計全体のフレームワークとしては、2016年度と2019年度の比較でグローバル年間販売を92万6,000台から40%増の130万台、売上高を1兆9,066億円から30%増の2兆5,000億円へと引き上げるのが目標だ。営業利益率は0.3%(営業利益51億円)を6%以上(同1,500億円以上)とし、フリーキャッシュフローでは1,189億円の赤字を800億円の黒字に持っていくとしている。2016年度実績比ではあるが、V字回復後にかなりの成長を見込む戦略だ。

その戦略的施策として、「商品の刷新」と「中核市場への注力」で売り上げの成長を実現し、コストを最適化していくという。特に商品力については、三菱自がパイオニアであるSUV、日欧で販売トップのPHV、軽自動車EVも視野に入れる電動化技術などの強みをいかし、11車種のモデルチェンジ計画を打ち出した。

「エクリプス クロス」はグローバルSUV戦略の新型車であり、「エクスパンダー」は東南アジア向け戦略MPV(マルチ・パーパス・ビークル、多目的車両)として、すでに好調な立ち上がりをみせる
画像は2017年4月に「モータースポーツジャパン 2017 フェスティバル イン お台場」で日本初公開となった「エクリプス クロス」(海外仕様)

一方、ここ10年ほどは世界で100万台程度にとどまっていた販売台数を、2019年度には130万台へと増販させる目標に向けては、中核市場への注力で成長を目指していく。元々、三菱自が強いアセアン・オセアニアは「主力地域」、中国・北米は「注力地域」、日本は「回復地域」の位置づけだ。益子CEOは「3年間での新車投入を成功させないと、この中計が成立しない」とし、得意のPHVを主力に電動化も積極展開するとした。

日産傘下入り後の三菱自による再建の方向は、同社の培った東南アジアでの強みをいかす戦略と、「i-MiEV」、軽自動車EV、SUV「アウトランダー」のPHVをベースとする電動車シフトの加速が主力となる。

「アウトランダーPHEV」

一時は世界に類を見ない総合自動車メーカーだった三菱

一方で、リコール隠しから燃費不正問題にまで及んだ、コンプライアンスが抜けた企業体質がどこから来たのか。この問題を見つめ直すことも重要だろう。三菱重工業からの分離独立が1970年。軽自動車から幅広い乗用車、軽トラから大型トラックまで抱えた、世界に類を見ない総合自動車メーカーとして、1990年代半ばまでには三菱グループも一目置く存在にまで成長したのが三菱自だ。一時は、親会社の三菱重工の業績を抜き、ホンダとの買収・合併話が浮上したり、「日産の背中が見えた」と豪語する社長も出たりした経緯を筆者は見てきた。

ルノー・日産連合という国際アライアンスに三菱自が加わったことで、3社連合を率いるゴーン氏による世界覇権も夢ではなくなった。今回の三菱自の中計でも、東南アジア市場とPHVという三菱自の強みについては、ゴーン氏も日産には無いものとして期待を寄せていることだろう。

三菱自はアセアンに強い

アライアンスの屋台骨が揺らぐ中で

だが、皮肉にも3社連合の中核である日産で無資格検査問題が発覚し、コンプライアンスを問われる問題が尾を引きそうな状況となった。この問題については、ある意味でゴーン長期政権の歪みの現れではと指摘する声も上がっている。三菱自の益子CEOは、「今回の件でアライアンスに影響はない」と言うが、三菱自の社内ではダイムラー主導経営の過去もあって、日産主導による改革を進める中で、当の日産が不祥事を起こしたことについて様々な思いがあるだろう。

いずれにしても、日産傘下で再建に向かう三菱自にとって、過去の不祥事での経験をいかし、「自律」した企業として成長していく流れを示せるか、三菱自なりの信頼回復への道を進めるこの3カ年中計は、何よりも重要なのだ。

長期政権のゴーン日産、ここで社長交代する真意

長期政権のゴーン日産、ここで社長交代する真意

2017.03.07

日産自動車のカルロス・ゴーン社長が2017年4月1日付で同社の社長兼CEO(最高経営責任者)を退任する。同氏は日産がルノーと資本提携し、ルノー/日産連合をスタートさせた1999年に、ルノーが日産COOとして派遣した人物。実に18年も日産の経営を担ってきた。ここでようやくの社長交代となる。

長きにわたり日産を率いてきたゴーン氏が、ついに社長の座を譲ろうとしている

カルロス・ゴーンといえば、自動車産業界を知らない人にも「名経営者」としてその名を轟かせているほどである。1990年代後半の日産経営破綻のなかで、最後に助けを求めたルノーと日産が資本提携したのが1999年3月。実質的にルノー傘下となった日産に再建の旗手として送り込まれてきたのがゴーン氏だった。日産COOとしてゴーン氏が中心となってまとめ、1999年10月に発表した中期3カ年経営計画(中計)「日産リバイバルプラン(NRP)」が日産復活の原点だ。

そこで注目を集めたのが「コミットメント(目標必達)経営」だった。

日本企業にも影響を与えたゴーン流経営

その日産再建計画では、2000年度の黒字化、2002年度の利益率4.5%以上を数値目標として掲げたのだが、一気に目標をクリアした姿は日産のV字回復として話題になり、ゴーン流コミットメント経営は世間に広まった。ゴーン経営はクロスファンクショナルチーム(CFT)の活用やダイバーシティの積極採用など、日本の企業経営や組織のあり方、人材活用などにも大きな影響を与えた。

ゴーン氏が日産に来てから18年が経過したが、同氏はこの間、ルノーの社長・CEOにも就任してルノー/日産連合を確固たるものとした。一方で、その後の日産中計におけるコミットメントはやや色あせてきた感も出てきている。

これを打ち消すだけのインパクトを与えたのが、昨年、三菱自動車を傘下に収めた一件だ。三菱自の再建が前提ではあるが、ルノー/日産連合全体のグローバル販売は世界のトップに伍する1,000万台規模となり、ゴーン氏の世界覇権への野望が現実視されたのだ。

ゴーン氏は、日産の社長・CEOは譲るが日産を退任するわけではない。代表権を持つ会長として、ルノー、三菱自、提携拡大を狙う独ダイムラーなど、アライアンス全体を統括する役割りを強める。いわばグローバル連合のまとめ役に軸足を移すということなのである。

日産の潜在力を引き出した経営手法

筆者は、ゴーン氏が2001年に日産の社長兼CEOの座に就き、日産V字回復を確実にさせた時期にインタビューしたことがあるが、最初に立って握手をした際、筆者より小柄だったのは意外だった。その頃はテレビでもよく見かけたが、映像を通して見ていたのは、大柄で自信満々な外国人だったからだ。限られたインタビュー時間では、大きな身振りを伴う早口でまくしたてたゴーン氏。厳しい質問は上手くそらすな、という印象も受けた。

ゴーン日産の功罪の功は、何よりも日産を早期に再建させたことだ。ゴーン氏は当初「コストカッター」と呼ばれ、工場閉鎖を実施し、サプライヤーの「系列」を一掃した。旧日産には、組合問題など古いしがらみにとらわれ、経営問題にまでつながった体質があった。ゴーン流は欧米での厳しい経営を実践。剛腕とも見られるドライな経営手法が、日産の潜在力を引き出したともいえる。

また、ゴーン氏自身がレバノンからブラジルに渡った祖父の民族性を持つ。つまり、ブラジルで生まれてレバノンで育ち、大学はフランスのエリート校で学び、生まれながらにしてグローバルで生き抜く感覚を植え付けられていたのだ。それがミシュランで若くして頭角を現し、ブラジルと米国でトップ経営者としての力を磨き、ルノーにヘッドハンティングされ、更には日産再建の旗手として脚光をあびることになったのだ。

いずれにせよ、ルノー/日産とダイムラーとの提携を実現させ、三菱自を傘下に収めるなど、世界の自動車業界におけるアライアンス(提携)の成功例を作ったのはゴーン氏の手腕である。

窮地に陥っていた三菱自動車に手を差し伸べた日産

日本市場では苦戦

ただし、ゴーン日産の時代が長くなるにつれて、「そろそろ日本人に社長を譲ってもいいんじゃないか」とか、「ゴーン日産も賞味期限切れだな」といった声が、ちらほら聞こえるようになってきた。

そういった声が聞こえだしたのはなぜか。日本国内市場における日産の販売が低下し、シェアダウンの傾向にあったことも理由の1つだろう。かつて日産の国内販売は、トヨタ自動車をライバルとし、ともに国内市場を引っ張ってきたのだが、最近の日産は、国内販売において第5位の座に甘んじている。

セレナに続きノートを投入、日本市場で巻き返しへ

2016年8月に日産は新型「セレナ」を発売。自動運転レベル2の「プロパイロット」を搭載するなど、新技術を多く採用した新型車は好評を博した。だが、このクルマは日産として国内では2年半ぶりの新車だったのだ。

ゴーン体制がグローバル戦略において、日本市場を軽視していたことは否めない。実に2年半も国内で新型車投入がなかったことで、新型セレナ投入直前の第1四半期(4~6月)の日産の国内シェアは8.3%と一桁台にまで落ち込んだ。他社の販売店からは、「日産ディーラーさんは良く耐え忍んできたね。ゴーン社長は日本市場を軽視しているんじゃないの」との声が聞かれたほどだった。

ゴーン日産がマーケットの大きい米国や中国などを重視しているのは明らかであり、収益性の面からも、日本の比重が小さくなっていたことは確かだ。もっとも、セレナに続き「ノートe-POWER」を投入するなど、商品力を強化し、巻き返しを図る動きも出てきている。

発売から好調を維持し、2017年2月末までに累計6万5,000台を売った新型「セレナ」(左側)。電気自動車の乗り味を実現するパワートレインが話題を呼んだ「ノートe-POWER」もよく売れている

ゴーン氏は電気自動車(EV)で世界覇権を狙うと豪語していたが、そのEV戦略も販売目標とずれて伸び悩んだ。EVでは、むしろ米テスラが世界で話題を集め、日産のお株を奪う動きを示している。

また、ゴーン氏の高額報酬に批判が集まったこともある。日産で10億円、ルノーで9億4,000万円、さらに三菱自の会長報酬も加わるわけで、ルノーの筆頭株主であるフランス政府から注文がついて減額となったのも頷ける。

特徴的なパフォーマンスもゴーン流だが、攻めている状況では強いが、弱い面があると上手く逃げるようなところがあるのは、インタビューでも感じたところだ。

後任の西川氏はコストダウンで力を発揮

ゴーン日産社長の後任は、西川(さいかわ)廣人共同CEOだ。2017年4月に就任する。ゴーン氏62歳、西川氏63歳と同年代の後継となるが、西川氏は購買畑でルノー/日産連合における共同調達によるコストダウンに力を発揮し、頭角を現した人だ。ゴーン氏の信頼も厚く、日産代表として日本自動車工業会会長に送り込んだ時の肩書きは副会長兼CCO(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)だった。

ゴーン氏からの信頼も厚い次期社長の西川氏

また2015年秋には、ルノー・日産へのフランス政府の干渉が強まる中で交渉役も務めた。同年暮れに西川氏がパリからテレビ記者会見し、「日産、ルノー、フランス政府が日産の経営の自主性を担保し、アライアンスの将来を守ることで合意した」ことを発表した。

当時の西川氏は、これを受けて「ルノーと日産の信頼関係は、ゴーンCEOの力強いリーダーシップで築き上げられたことは言うまでもありませんが、さらに将来に向けて一歩前進したとも言えるでしょう」との声明を発表した。さらにこの合意の意義について、「ゴーンCEOが退任しても十分仕事ができる関係を築いた」と語っている。この頃からゴーン氏は、西川氏に社長を譲る覚悟を決めていたのだろう。

ルノー/日産連合が、1990年代末から2000年代初頭に起きた世界の自動車メーカー間の合従連衡において、アライアンスの成果を上げたモデルケースとなったことは確かだ。瀕死の状態にあった日産がルノーの援助(カネ、ヒト)によって再生し、一方で再生後の日産は、ルノーの持ち分法適用会社としてルノーに持ち分利益を上納することで、ルノーの業績を支えているという関係にある。

ただ、現在のルノーと日産は株式を持ち合う関係にあるものの、ルノーの日産への出資比率が43.4%であるのに対し、日産のルノーへの出資比率は15%で、かつ日産の持つルノー株には議決権がない。日産はルノーの了解なしにルノー株の売買ができないなど、資本面では不平等な提携関係にあったのだ。

アライアンスの成功例となったルノー/日産連合だが、互いの出資比率には大きな差がある

新中計で問われる日産の真価

日産が進める中期経営計画「日産パワー88」は2017年3月末で終了する。世界販売の市場占有率(シェア)と営業利益率の双方で8%を目指したのだが、ともに届かないことになりそうだ。そういった意味で、ゴーン経営の妙味であったコミットメントは、ここへきて微妙なものとなっているのだ。

ゴーン氏は、三菱自を加えた世界1,000万台規模のトータルアライアンス統括やルノーの経営強化に軸足を移すことになる。三菱自がV字回復を達成すれば、次のステップに進むことも考えられる。つまり、経営者としての実績と栄誉に多額な報酬を得た後は、第二の故郷であるブラジルで大統領となり、経済再建に取り組むという話が、ジョークだとばかりも言っていられない状況なのだ。

日産としては、西川新社長のもとでスタートする新中計の方向性で同社の真価が問われる。ゴーン日産18年からの大きな転機となるのも間違いない。三菱自を加え、ダイムラーとの提携の拡がりも求めるルノー/日産連合。その中核企業として、日産は立ち位置を確保していくことができるか、ということになろう。