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クラウドファンディングは「1万人超の製作委員会」海外が求める日本アニメへの挑戦

クラウドファンディングは「1万人超の製作委員会」海外が求める日本アニメへの挑戦

2018.09.20

近年、海外で「日本のアニメ」の需要が高まっている

いち早く海外需要を意識して作られた「UNDER THE DOG」

「1万3000人の製作委員会」が生んだこの作品の「お金の話」を激白

日本独自の文化・産業として、「アニメ」の存在感が高まる昨今。産業面は好調な一方、従事するクリエイターの賃金や収益構造が問題視されており、消費者、つまりアニメファンが「お金の動き」に注目している度合いは高い。

クラウドファンディングで資金を集めて2015年に本編を公開、2018年に入って劇場版も展開した「UNDER THE DOG(アンダーザドッグ)」は、そうした「お金の動き」が既存のアニメとは異なる事例として象徴的だ。

国内のTVアニメの製作費用は、複数の企業が予算を持ち寄って企画を立ち上げる「製作委員会方式」によって捻出されている。消費者が直接作品に寄付をするクラウドファンディングは、こうした既存の資金構造とは真逆とも言える。

アニメファンの側からすれば一見すると理想的にみえる"民主的な製作フロー"は、実際のところ、クリエイティブの現場にどのような作用を与えたのだろうか?

今回は、ポップカルチャーとテクノロジーのイベント「YouGoEX」にて行われたアニメカンファレンス「世界から見た日本のアニメの潮流とKickstarterではじめて成功した日本アニメ『UNDER THE DOG』のレポートをお届けする。

世界に広がる「日本アニメ」

同カンファレンスは、CiP協議会が連続開催しているうちのひとつで、YouGoEXとコラボレーションして開催されたもの。冒頭は、モデレーターを務めたジャーナリストの数土直志氏が、海外でも広がりを見せる日本のアニメ産業の現状を解説した。「UNDER THE DOG」は、「アメリカの視聴者をターゲットにした日本アニメ」だからだ。

日本アニメの産業規模は、ここ7年ほど右肩上がりの成長を見せている。これは舞台、声優などアニメ周辺産業が広がっていること、海外での需要拡大が要因にあるという。アニメ産業市場のうち35%は海外市場における売り上げだ。

海外における日本アニメ市場の推移

2005~2006年ごろ、海外ではアニメの海賊版ソフトが横行するなどの逆風が吹いたが、現在はネット配信が普及。特にアメリカ、中国では正規配信が進み、国内同日配信により、日本との時差なく日本アニメを体験できるようになった。

かつて”巨大なニッチジャンル”と言われていた日本アニメだが、数土氏は「海外でアニメを消費する人々からみても、すでに日本アニメはメインカルチャーに入っている」とコメント。2000年代に急拡大したアニメコンベンションは全世界で開催されており、特に大規模なアニメエキスポ(米国)では延べ動員35万人という巨大イベントとなっている。 

また、サンライズとハリウッドの協業によるハリウッド版ガンダムの製作、「君の名は。」のコミックスウェーブフィルムが中国の企業と協業したアニメ映画「詩季織々」など、国内の制作会社が海外のオファーを受けた取り組みが目立つようになってきたことに触れた。

こうした拡大傾向は好ましい一方で、アメリカなど国外においても、日本アニメのスタイルが生み出せるようになってきていることを指摘。ここに日本企業がどう関わるかが重要になると語った。

さて、日本アニメのテイストが海外において求められている潮流を、「UNDER THE DOG」のプロジェクトではどう利用していったのだろうか。

アメリカで求められる「日本アニメ」を狙った

ここで、「UNDER THE DOG」の発起人のひとりであるゲームデザイナー/原作・脚本家のイシイジロウ氏と、同プロジェクトの運営に携わったプロデューサー・片岡義朗氏にバトンが渡った。

イシイジロウ氏(ゲームデザイナー/原作・脚本家/映画監督) チュンソフト、レベルファイブにおいて主にADVのシナリオ監督プロデュースを務めた後2014年に独立。2015年に起業(ストーリーテリング社)。「モンスターストライク」(3DS・アニメ)やTVアニメ「ブブキ・ブランキ」(2016)、実写映画「女流棋士の春」など。

まず、「UNDER THE DOG」は、先に数土氏が解説したような海外との協業企画ではなく、国内発・国内制作の企画だった。近年、Netflixが出資した「日本アニメ」が製作されているが、こうした流れが起こる前に、インディーズで作られたものだ。

この企画が動き出した2014年ごろ、アメリカには「見たいと思える日本アニメがなかった」という人が多かった、とイシイ氏。当時の日本ではいわゆる「ハーレムもの」や「日常もの」など、若い女性が多く登場する作品が百花繚乱となっていた一方、アメリカで好まれるのは「AKIRA」「攻殻機動隊」など90年代に作られたコアな作品で、ニーズが満たされていなかったのだ。

彼らが見たい「90年代のアニメ」をぶつける。そうした狙いで、「UNDER THE DOG」は始まった。

折しも、Kickstarterをはじめ、クラウドファンディングがあらたな収益方法として話題になっていた2000年初頭。ゲーム業界では、インディーズゲームの開発プロジェクトなどが多く見られたが、イシイ氏はレベルファイブ在籍中だったためゲームを職務外で作ることは叶わず、90年代に作ったアニメの企画が成就せず残っていたことも状況と合致した。

ただ、発案当時は斬新だった「銃と少女」の組み合わせも、同ジャンルの作品が多く生まれたことで陳腐化しつつあった。そこで、無敵の女の子が活躍するストーリーではなく、彼女たちを「90年代のシビアな世界に置いてみたらどうなるか」と、ストーリーを現代にそって調整した。

高額寄付が一点赤字に、誤算と反省

片岡嘉朗氏(プロデューサー/コントラ代表)

ここからは、片岡氏による「お金の話」に移る。クラウドファンディングは、募集期間を1カ月、58万ドル(約6500万円)集まれば成功という目標設定でスタート。しかしフタを開けて見れば、追加販売分を含めて91万ドル(約1億円)もの金額が集まった。支援者の数は1万3000人程度、92%が外国人で、日本人はわずか8%だった。コンテンツの狙い通り、「海外の日本アニメファン」に支持された。

ここまで見れば大成功…だが、最終的な収支は「数千万円の赤字」。制作費は想定の10%程度の予算超過で、これは現場の頑張りとしてはありうる超過といえるとのこと。だが、ビジネスの部分で想定外の費用が膨らんで寄付収入を上回ってしまい、結果的に著作権を持つことになったアニメ制作のキネマシトラスが、それを引き受けることになってしまった。

イシイ氏は、安藤真裕監督、コザキユースケ氏など、これまで関わりのあった一線級のクリエイターに声をかけた一方で、「自らの名前を前面に出し、ファンディングをしたという枷もあり、そのプレッシャーからかクオリティ的に暴走してつくってしまったところもあるかも知れない」と振り返る。片岡氏も、「現場としては、クオリティが著しく高いものを作って初めて寄付した人に喜んでもらえるという意識があった」と付け加えた。

また、赤字の最大の原因は、クラウドファンディングという資金募集形態にあった。業界に前例がなく、さまざまな部分で対応が後手に回ってしまった。

日本のアニメでとられる資金調達方法として「製作委員会方式」があるが、参加企業は3~12社程度だという。一方、クラウドファンディングはファンによる少額寄付を集めるものだが、結果として「クライアントが1万3000人いる製作委員会」のような状況になってしまった。出資者一人ひとりから、プロジェクトの進捗やリワード(寄付の対価となる物品などのこと)に関する問い合わせが次々に届くため、その対応を行うための専用のシステムとそれを運用する人員を確保しなければならなかった。

2016年当時、公式アカウントのツイートは英語で行われていた。

寄付プラットフォームのKickstarterはアメリカ企業で、支援者の大半も英語話者であったことから、問い合わせから契約書類まで、語学スキルを持つスタッフによる対応システムの構築が急務となった。契約関連の業務では翻訳のみならずKickstarter側との交渉を行わなくてはならず、こうした部分込みで行える人材の雇用は当然費用がかかる。加えてKickstarterの利用にはアメリカに現地法人を置くことが必須で、こうした体制づくりすべてを行うのは非常に厳しかったという。

また、Kickstarterの仕組みとして、寄付の対価(リワード)を渡す約束をしていた。「リワードの種類が多い方が多くの寄付が集まる」というTipsを参考に、作品のBlu-rayソフトやグッズなどさまざまな物品を用意したが、それぞれの製作手配や配送などが必要で、募集開始時点では想定していなかった事務コストがかさんでしまった。

その上、アメリカの郵便と物流の事情は日本のそれとは大きく異なり、配送だけで全く想定していなかった事態が勃発。そのあらゆる事柄に、別途の費用がかかってしまった。たとえば、中止にしたリワードの寄付者に、返金か別リワードへ移行かの選択を依頼する連絡などのため、問い合わせ対応を全件完了させるまで公式サイトの公開時期を延長したことで、サーバ費用などの維持費も膨らんだ。

ちなみに、作品に寄付するほどのファンなら大丈夫だろうと作品データの配布をリワードに含めたところ、違法アップロードが世界的規模で大量に見つかったという。作り手からすれば、この作品の収益は二次利用で上げることを考えていたにも関わらず、その最終的な目標に対して致命的な打撃となる、ガックリしてしまうようなトラブルも明かされた。

赤裸々に失敗談が語られたが、片岡氏は「当然、次からはこうしたノウハウがあるので、赤字にはならないし、Kickstarterが無ければこの映像著作物が生まれなかったのは事実で、この仕組みには感謝している」とコメント。

そしてイシイ氏は、「PVの制作費だけを集めるのなら、こうした顛末にはなっていなかった。全制作費を集めようとするとトラブルが起きがち。中国資本のクラウドファンディングも注目されているのでまだまだ活用の余地はある」と語った。ただし、お金の回収に着目しすぎず、現場の事務作業や実際に使える金額を確認した上で進行しないといけない、とつけたした。

表現のローカライズにひそむ危険

最後に、数土氏から日本と海外の比較をベースとした質問が投げかけられた。

「日本と世界で好まれる表現の違いは?」という問いに対し、イシイ氏は、「日本のほうが規制について言われる部分は多い」とコメント。戦闘シーンなどの暴力表現、政治的な内容などについては海外のほうが自由度は高いという。

一方、片岡氏は、プロデューサーの視点から、日本アニメが海外に「合わせすぎる」ことに警笛を鳴らす。白黒つけない決着のような日本らしさが支持を受けている大きな要素のため、過度なローカライズは必要ないと断言。かつて「遊☆戯☆王」の米国展開を手がけた際、現地の関係者から「(気弱な表遊戯はヒーローらしくないため)主人公は裏遊戯だけにしてほしい」とリクエストされたエピソードを例に挙げ、「ヒーローは強くあるべきというアメリカの観念に屈したら原作の持ち味は崩れてしまう」とコメント。日本の漫画・アニメの持つ「らしさ」を守るべきと強く訴えた。

講演の主題となった『UNDER THE DOG』だが、直近では2018年6月23日~7月6日にかけて、国内の3劇場で劇場版『UNDER THE DOG Jumbled [アンダー・ザ・ドッグ/ジャンブル]』を公開した。映画館での上映は終了しているが、オンラインストアでのBlu-ray通販は行われている。作品が気になった人はこちらでチェックしてみてほしい。

「40代になっても続けたい」- プロコスプレイヤーえなこさんが仕事観を語る

「40代になっても続けたい」- プロコスプレイヤーえなこさんが仕事観を語る

2018.09.14

好きなコスプレを続けていたらいつのまにか「プロ」になっていた

コスプレだけでなく幅広いジャンルで活躍するえなこさん

これからも好きなコスプレの仕事をメインでやっていきたい

ある人は初音ミクのコスプレをし、ある人は八九寺真宵で噛みました。僕と契約をして魔法少女のコスプレをする人もいれば、水着ニトクリスだと布をかぶる人もいるだろう。ポプ子とピピ美になって中指を立てる人もいるかもしれない。

近年、アニメやマンガ、ゲームなどのキャラクターに扮する「コスプレ」は、1つの文化として定着しつつある。アニメ関連のイベントなどでは、必ずと言っていいほど会場を歩くコスプレイヤーの姿を見かけるようになった。なかには、趣味の枠を越え「プロ」として活躍する人まで出てきている。

そんなプロコスプレイヤーに謁見するチャンスがあると聞いて、北電子のパチスロ新機種『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(ダンまち)』の発表イベントに駆けつけた。ゲストはプロコスプレイヤーのえなこさん。ダンまちのキャラクターである女神・ヘスティアさまのコスプレで登場だ。

イベントに登場したプロコスプレイヤーのえなこさん

ダンまちは、原作小説がシリーズ累計発行部数900万部を超える作品。2015年4月にテレビアニメが放送されると、ヘスティアさまのトレードマークである“例の紐”がアニメショップで販売されるほど、大きな話題を呼んだ。もちろん、えなこさんも例の紐はバッチリ再現。紐がなければヘスティアじゃないと言わんばかりの存在感を出していた。

ヘスティアさま
例の紐を見せるえなこさん

趣味のコスプレが気づいたら仕事に

今回の新機種発表会のように、プロコスプレイヤーとして多方面から引っ張りだこのえなこさん。ヘスティアの姿でイベントに華を添えるだけでなく、アニメの魅力を語り、パチスロの新機種をPRする。なるほど、プロモーションとしてはこれ以上ないくらい頼もしい存在かもしれない。しかし、本来趣味というイメージが強いコスプレで、どうすればプロと呼ばれるようになるのか。直接えなこさんに聞いてみた。

「明確な定義があるわけではないのであくまでも個人の意見ですが、言葉通り、コスプレをするお仕事をもらえるようになれば、それはプロコスプレイヤーと呼んでいいと思います」

仕事としてコスプレをする人がプロコスプレイヤー。まぁ当然のことと言えば当然だ。えなこさんレベルになれば、さまざまなイベントに呼ばれることもわかる。しかし、その域に到達するのは簡単ではないはず。実際えなこさんは、どのようにしてプロになったのだろう。

「私の場合、ずっと趣味でコスプレをしていて、いろいろなご縁があった結果、今の事務所に所属することになりました。気がついたら仕事になっていたという感じですね。なので、プロになりたいとか、コスプレを仕事にしようとか、そういうことを考えていたわけではありません。自分でもびっくりしています」

もちろん人知れず努力や苦労もしただろう。しかし、何よりも「好き」という気持ちが原動力になり、コスプレを続けたことで、いつのまにかえなこさんはプロコスプレイヤーとして活動するようになったのだ。

自由に楽しむプライベートとより気合の入る仕事

プロコスプレイヤーでありながらも、えなこさんはプライベートでも一般のコスプレイヤーとしてイベントなどに参加している。まさにコスプレ漬けの日々だが、趣味と仕事では何かが違うものなのだろうか。

「趣味でコスプレをする際は自由にやっています。徹夜で衣装を作ったり、前日までウィッグがセットできていなかったりしても、自己満足の部分もあるのであまり問題ないでしょう。ただし、仕事のコスプレはそうはいきません。やはりいっそう気合が入りますよね。中途半端なものは、作品の公式さんはもちろん、ファンの方にも失礼です。そのため念を入れて準備しますよ」

仕事では気合の入り方が違うというえなこさん。コンテンツを楽しむ側から楽しさを伝える側になることで意識も変わるようだ。

「お仕事によっては公式さんに衣装を作ってもらうこともあるのですが、フィッティングをする際に『ここはこうしたほうがいい』『このキャラっぽさを出すためにはこうしよう』という意見も出します。また、コスプレイヤーは、キャラが作中でやらないようなポーズは取らないので、キャラの研究も怠りません」

パチスロ『ダンまち』の発表会では、ヘスティアTシャツを身にまとって登場したワーナー ブラザーズ ジャパン テレビアニメ ダンまち 宣伝プロデューサーの前田有希氏(写真左)と、年間およそ300作品のアニメを観ているアニメ研究家でフリーアナウンサーの中倉隆道氏(写真右)とともに、アニメ『ダンまち』の魅力を語り合った

40代になっても好きなコスプレを軸に仕事をしていきたい

コスプレだけにとどまらず、ゲーム『フォートナイト』をプレイしたり、テレビ番組の「逃走中」に出演したり、CD「OOps!!」を発売したりと、多方面での活躍が光るえなこさん。最近の仕事について次のように話す。

「最近は、今までやったことのないようなお仕事をする機会が増えましたね。これまで苦手だと思っていたことにもチャレンジするようになりました」

たしかに、テレビや雑誌などで、えなこさんを見かける機会が増えたという人も多いのではないだろうか。それほどまでマルチに活動しているのであれば、慣れない仕事があるのも当然だ。ちなみに、苦手なこととはどのようなジャンルの仕事なのだろう。

「演技ですね。セリフを覚えるのが苦手で、これまで演技の勉強をしたこともなかったので、いままで演技は無理だと思っていました。でも、ありがたいことにお仕事をいただいたので挑戦してみることにしたのです」

コスプレをきっかけに、えなこさんは新たな領域にも踏み出した。苦手なことにも臆さず挑戦していく姿勢。それもまたプロ意識の1つといえよう。これからも新たな領域を開拓していくのだろうか。

「う~ん、そうですねぇ。でもやっぱり、コスプレをするのが好きなので、今後もアニメやゲームのお仕事に携われたらいいなと思います。それこそ40代になっても!」

えなこさんはまだまだコスプレイヤーとして、コスプレをメインに仕事していくことを力強く宣言した。話を聞いていても、本当にコスプレが好きなんだということが伝わってくる。

「また、今後はたくさんのコスプレイヤーさんが増えればいいなと思っています。そのなかで、お仕事としてコスプレをやっていきたいと思う人が増えて、プロコスプレイヤーが増えていけばいいなと。そのためにも、私自身がテレビや雑誌などのメディアに出て、コスプレの世界をもっと多くの人に知ってもらいたいと思っています」

今までなかった「プロコスプレイヤー」という概念を生み出したえなこさん。次に目指すのは「コスプレの魅力をもっと多くの人に知ってもらうこと」だという。多方面で活躍しながらも、えなこさんがコスプレイヤーであり続けることは、コスプレはもちろん、アニメやゲームなどさまざまなジャンルの発展に大きな影響を与えそうだ。

日本アニメが世界で勝つために必要なことは、国産化と異業種連携である

日本アニメが世界で勝つために必要なことは、国産化と異業種連携である

2018.09.04

近年トレンドになっている“非写実的”なCG表現

丁寧な仕事や高いクオリティは世界でも認められる

今後は異業種と組んで新たなマネタイズモデルの構築が必要

2018年8月21日、“Pop & Tech”をテーマにしたイベント「YouGoEX」において、アニメ関連企業と異業種のマッチングを目指すABPF(アニメビジネス・パートナーズフォーラム)と、CiP(コンテンツ・イノベーション・プログラム)協議会が、「世界にチャレンジする日本のデジタルアニメーション」というカンファレンスを開催。ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役の塩田周三氏と、神風動画 代表取締役の水崎淳平氏の2人が、CGのトレンドやアニメ業界の未来について意見を交わした。

CGのトレンドは“Non-Photoreal”

カンファレンスの冒頭、まずは両氏から自社の紹介が行われた。

ポリゴン・ピクチュアズ 代表取締役の塩田周三氏

塩田氏「ポリゴン・ピクチュアズはコンピューターグラフィックスを用いてアニメーションを作るという目的のために作られた会社。1983年に創業し、今年で35周年を迎えました。私の認識が正しければ、世界最長寿のデジタルアニメーションスタジオです」

ポリゴン・ピクチュアズはCGアニメーションを作るアプリケーションの開発や、エンターテインメントにおけるアニメーションの本格的活用、日本アニメにおけるCGの活用を行ってきた。最近の作品では、アニメーション映画『GODZILLA』三部作を手がけており、2018年11月には第三章『GODZILLA 星を喰う者』を公開する予定だ。

『GODZILLA 星を喰う者』予告映像
神風動画 代表取締役の水崎淳平氏

水崎氏「神風動画は“紙を使わないでアニメーションは作れるのか”という命題のもとで事業をスタートさせた会社です。法人としては15年、個人事業として2~3人でやっていた時期をカウントすれば、約20年が経過しました。テレビアニメのオープニングやミュージックビデオ(MV)など3~4分の映像制作が多く、最近ようやくアニメ映画『ニンジャバットマン』で長編にもチャレンジしたところです」

紙を使わないアニメーション制作に挑戦している神風動画。社内には、アニメを描くための紙が1枚もないのだという。

『ニンジャバットマン』予告映像

両社ともデジタルでスタートした映像制作会社だが、近年はデジタルツールによる作画が一般的になってきたこともあり、デジタルとアナログの境界はあいまいになってきた。新しいタッチのアニメ作品が生まれ、今までにないような表現の可能性も生まれているそうだ。

塩田氏「アメリカで行われるCGの国際会議・SIGGRAPH(シーグラフ)では、最近『NPR(Non-Photorealistic Rendering)』について取り上げられることが増えました。Non-Photorealとは“非写実的”ということ。これまでCGの世界では、実際の世界に存在するものをいかにして描写するかを競ってきていましたが、今はいかにして手描きのような絵を描写するかを競うように変化しています。これはおもしろい展開でしょう」

たしかに、アニメやゲームでは手描きイラストのようなCGが増えてきた。おそらく、バーチャルYouTuberなども、Non-PhotorealなCG表現に含まれるのだろう。

最近では『BLAME!』や『亜人』シリーズ、『シドニアの騎士』など、Non-PhotorealなCGアニメ作品を手がけているポリゴン・ピクチュアズだが、最初から非写実的な表現を目指していたのだろうか。

塩田氏「私が会社にジョインしたのは1996年です。ちょうどデジタルコンテンツバブルとでも言いますか、PlayStationが発売されたあとで、日本が市場をけん引している“ワクワク”のさなか。しかし、バブルは続かず、次に挑戦したハリウッドフィルムでも思うような成果を上げることができませんでした。まともにやっちゃ勝てん。そう思いましたね」

それでも勝つための手段を模索した塩田氏。そこで、Non-Photorealに行き着いたという。

塩田氏「CGの得意なリアルな表現より、ちょっとハズすほうが勝てるのではないかと考えました。あえてガチガチのポリゴンのままにしたり、動きをカクカクに作ったりと、試行錯誤を繰り返しているうちに1つの完成形が見つかりました」

その完成形が『ストリートファイター』シリーズにおける絵画調の映像だ。

塩田氏「『ストリートファイター』の映像が世界的な反響を呼び、海外からの受注も増えていきました。そこで、ディズニーの『トロン:ライジング』という映像を手がけることになるのですが、同作で目指したのが『描き手のデザインをいかにCGらしくないように見せるか』ということ。なかなか大変でしたが納得のいく作品が完成し、これができるなら日本のアニメもCGでできるのではないかと思っていたところ、アニメ『シドニアの騎士』の制作が始まったのです」

こうして、コミック原作『シドニアの騎士』のアニメ制作を担当することになったポリゴン・ピクチュアズ。さまざまなチャレンジを繰り返すことで、「ハリウッドに正面から立ち向かうのではなく、2Dらしいルックで勝負したほうが勝てる」と、Non-PhotorealなCG表現に行き着いた。

水崎氏「私たちは20年前から、ポリゴンに絵を貼り付けてみたり、セル画に見えるようなレンダリングの仕上げをしてみたりして、手描きで嫌われがちな瓦礫をアニメ的なCGで表現するなど、実験的な取り組みをしていました」

神風動画は「アニメ表現をデジタルで制作できるのか」という考えでスタートしたため、当初からNon-Photorealな表現を目指していたという。

水崎氏「レギュラー案件のような形でゲーム『ドラゴンクエスト』シリーズのお仕事をいただくようになったのですが、鳥山明先生のキャラクターデザインを再現するためには2D的な映像を作る必要がありました」

ゲームやアニメのオープニングなどを中心に手がけている神風動画にとって、原作や本編のイメージを再現するためにも、Non-Photorealな表現は自然なことだったのだろう。

ちなみに、本稿の内容とは関係ないが、神風動画の作品で個人的におススメしたいのがアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 第三部』後半のオープニング。映像の迫力もさることながら、物語がクライマックスに近づくと、従来のオープニングとは最後の部分だけ異なり、ディオが突然オープニング中に「ザ・ワールド」を使うのだ。何を言っているのかわからないと思うが、ここにはありのまま起きたことを書いている。

国産の作品を意識し、他業界と連携していくことが、日本アニメの生きる道

NPRという手描き風CGを武器にアニメーションを制作している両社。ポリゴン・ピクチュアズは海外作品の映像を手がけたり、神風動画は『ニンジャバットマン』が海外で話題を読んだりと、活躍の場は国内に留まらない。日本のアニメが世界で認められるためには、何が必要なのだろうか。

塩田氏「我々はアニメとは完全に別物だと思われていたので、ゲーム業界やイベント映像などが主な取引先でした。そのため、海外に販路を求めたのです。丁寧な仕事、納期の順守、付加価値の提供によるコストパフォーマンスの高さなどが評価されたように思います。そして、いざ日本で『シドニアの騎士』をやろうと考えたとき、Netflixが大きな力をつけており、そこに注目しました」

ポリゴン・ピクチュアズが『シドニアの騎士』を手がけようとしていた頃は、Netflixが「日本のアニメを世界に流してみよう」と考えていたタイミングでもあった。

塩田氏「ビデオの配達からネット上での映像配信に事業を移行させる際、Netflixでは多くのテレビ関係者を採用しました。そのなかには我々が海外で一緒に仕事をしたことのある知り合いが多かったこともあり、Netflixとスムーズに連携することができました。世界に向けたネット配信は非常にいいチャンスだと思います。今まで海外のオタクは、ネットの違法ダウンロードで日本のアニメを探すしかありませんでした。しかし、それは作品を届けられていなかった日本の業者にも問題があったように思います。ようやくリーガルに視聴できる環境が整ったことで、アンダーグラウンドに潜んでいたオタクたちが出てきているのではないでしょうか」

海外の仕事で得ていた信頼がNetflixとの連携につながり、『シドニアの騎士』は世界へ配信されたのだ。

水崎氏「私は元々、国内アニメの低い予算で、無理して生活を切り詰めながら制作をすることに違和感を覚えていたので、国内発案のアニメに乗っかるつもりはあまりありませんでした。密度高く詰め込むという神風動画ポリシーを維持しながら長編を作成するのは無理だと考えていたため、『ニンジャバットマン』もはじめは乗り気ではなかったのですが、説得されてパイロットの5分映像を制作したところ、『本編楽しみにしているよ』と言われ、いつの間にかやる流れになって……。とりあえず20分のものを作ってみようとスタートし、最後のほうは引くに引けなくなってしまい、完成してしまいました」

Netflixをきっかけに世界へアニメを配信した塩田氏と、『ニンジャバットマン』で海外で名が知れ渡った水崎氏。形は違えど、「丁寧な仕事が評価されてネットワークが構築される」「密度の高いハイクオリティな映像描写が認められる」と、どちらもコンテンツに対する妥協のない姿勢が生み出した結果と見て取れるのではないだろうか。

また、海外でアニメが認められるようになると、世界中で「アニメっぽいけどアニメではない」作品が制作されるのだという。

塩田氏「寿司のようなものです。江戸前寿司職人からすると、カリフォルニアロールは寿司ではないと感じるかもしれませんが、現地の人からすれば寿司ですからね。そのため、今後日本の制作者は、差別化をするだけでなく、海外と組んで新たなジャンルを創造するなど、試行錯誤が求められるようになるでしょう。私としては、アニメというジャンルから出たいと考えています。アニメと名前が付いた途端、予算が限定的になってしまうので」

水崎氏「たしかに、アニメも寿司のようになっていくかもしれません。ただ、『アニメってどの国のものだっけ』と思われるようになるのが怖いですね。我々は元祖として、『日本アニメはやっぱ違うわ』と思われるように、存在感を示していきたいと思います。そのために必要なことは“国産”にこだわることではないでしょうか。最近ではアニメの制作工程を海外に発注することが一般的ですが、その結果、日本のクリエイターが育たなくなってきている気がします。海外に発注する理由はもちろん安いから。徐々にアニメは安いという考えはなくなってきていますが、しっかりと予算を考えていただき、業界を育てていきたいですね」

塩田氏「アニメーション業界の状況はよくなってきていますが、私はコンテンツを作る身として、視聴する行為に対して金銭的な価値が生まれにくくなっていることに危機感を覚えています。配信などで月額制が普及するにしたがって、個別のコンテンツを視聴することに対してお金を払う行為が少なくなってきましたよね。そのため、今後は映像を届けるだけでなく、体験などに変えて、マネタイズしていくことが重要だと思います。ゲーム業界やプロダクト業界などとつながっていかなければ、未来はないでしょう。この国でできることはまだまだあります。他業界と組みながらコンテンツおよびその入れ物を再定義しながら、世界に展開していければと考えています」

海外で認められるからこそ、世界中でアニメが制作されるという状況が生まれる可能性がある。そのときに、「これが日本アニメだ」と絶対的なポジションを確立できるかは、クリエイターの腕にかかっているだろう。高い予算を獲得すること、新たなマネタイズの仕組みを構築することなどを通じて、才能を伸ばす場を整えて、多くのスタークリエイターが生まれることを願うばかりだ。