「コミュニティ」の記事

西野亮廣から、挑戦者達へ― 著書『新世界』に込めた想い

西野亮廣から、挑戦者達へ― 著書『新世界』に込めた想い

2018.11.28

新著『新世界』を発売した西野亮廣さんに取材!

今、働くうえで重要なのは「お金」ではなく「どれだけドヤれるか」

相方へ、就活生へ…本では記されなかった“想い”を語る

キミが一歩踏み出すのに必要なのは「強い気持ち」なんかじゃない。「情報」だ――。

絵本やビジネス書を書いたり、国内最大級の有料会員制コミュニティ「西野亮廣エンタメ研究所」を運営したりと、話題に事欠かないキングコング・西野亮廣氏。冒頭のメッセージは、11月16日に発売された同氏の新著『新世界』に記されたものだ。

同著では、「なかなか一歩を踏み出しきれずにいる人」に向けた、“今知るべきお金と信用”を理解するためのノウハウが記されている。今回は、同著で西野氏が伝えたかった、もしくは伝えきれなかったメッセージの数々を聞いてきた。

西野亮廣氏。当日は「7000冊の本にサインを入れる」という気が遠くなるような作業の中、取材に応じていただきました

「挑戦する人たち」を後押したい

――『新世界』はどういった人たちに読んでもらいたいと思い、執筆されたのでしょう?

西野亮廣氏3冊目のビジネス書『新世界』。11月16日に発売し、20日時点で3刷13万5000部!

西野亮廣氏(以下、西野):自分みたいな、挑戦して、下手をすれば「村八分」に遭っているような人に届けばいいな、と思って書きましたね。

そういった方々の気持ちは、痛いほどよくわかるので(笑)。今回に限らず、僕の本はそういった人に向けて書いたものが多いです。

――では、あまり読者の年齢層は限定していないのですね

西野:そうですね。広い年齢層に受け入れられるようになっていると思います。例えば20歳前半の人を考えると、彼らって「上からも横からも潰されてしまう」じゃないですか。

若くて挑戦しようとしている人たちが、上の人たちから潰されてしまったら面白くない。そういった人たちが潰されてしまわないように、「ここさえ押さえていれば突破できるよ」という方法論を学べるような本にしました。

オンラインサロンに入るメリットって?

――著書でも触れられている西野さんのオンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」に入ると、どのようなメリットがあるのでしょう?

西野:基本的には、僕が毎日サロンに記事をあげてるので、それを読んで欲しいですね。「読み物」として、月額1000円の会費を払う価値のあるものを書いています。

余裕があればサロンのイベントに参加すると、メンバー同士のつながりができるので、それも強みだと思います。そこで仲間を作れば、次に自分がアクションを起こす時に協力者がいる状態になります。それと、例えば初対面の人でも「同じ中学校」だったり、共通の知り合いがいる人って、話が盛り上がるじゃないですか。そういう意味では、僕のオンラインサロンに入っていれば、共通言語が多くなるので、初めましてでも距離を縮めやすいというのも特徴ですね。

今選ぶべき、「自分にポイントが入る会社」って?

――『新世界』では、「社員に利用されない会社は廃れる」という意見が書いてありましたが、西野さんが思う「良い会社」とは、どういう会社なのでしょう?

西野:社員に「ポイントが入る」会社はいいな、と思いますね。反対に、働いても「ポイントが入らない会社」はよくない。例えば、社長のワンマン経営で、お金で社員を釣って「アレしろコレしろ」と指示を出すだけの会社では、会社にはポイントが入るけど、社員にポイントが入らない。

指標の1つとして、「フォロワーが増えるかどうか」が挙げられます。例えば幻冬舎の箕輪(厚介)さんの話が代表的です。箕輪さんは今あれだけ活躍していますが、彼が個人でいろいろな活動をすることにOKを出したのは、会社ですよね。

もし幻冬舎が個人の動きを制限してしまっていたら、箕輪さんは今のような影響力を持てていないかもしれない。さらにいうと、「窮屈だからこんな会社辞めてしまおう」と思っていたかもしれません。

――つまり良い会社とは、「社員の才能を開花させられるような環境」といったイメージでしょうか

西野:そうですね。才能があるなら、その才能を使いたいと思うのは当たり前です。でもせっかく優秀な人が入社したとしても、組織の歯車にしかなれないようだと、そこで得られるものが少ない。そうなると、社員はすぐに辞めてしまうかもしれないし、会社にはそもそも優秀な人が入ってこなくなってしまう。

個人でやりたいことがあったら、積極的にチャンスを与えてくれる会社が良いですよね。

――では、もし西野さんが今、就活生だったとしたら、どの会社に入りたいと思いますか?

西野:フリーランスになるでしょうね。でも、もしどこかに入る、という話だと……DMM.comさんとかですかね。社員にチャンスが与えられる会社ですし、やはり今はそういう面白そうなところに、才能が集まってきている。「あそこに行ったら、自分が主役になって面白いことをできそう」と思われる会社は、これからもっと成長していくでしょうね。

西野亮廣から相方「カジサック」へ

――「一歩踏み出す」と言えば、相方の梶原さんも、芸能界から「YouTube」の世界へと踏み出しました。その挑戦を横で見てて、どう思いますか?

西野:まぁ、「遅いよ」ってのが一番ですね(笑)。とはいえ、その挑戦はめちゃくちゃいいなと思っています。正直彼は、「2019年末までに登録者数が100万を越えなければ、芸人を引退します」と言っていますが、これにはもはや誰も興味ないと思うんですよ。

キングコング・梶原さんは10月1日、「新米YouTuber・カジサック」として本格的に活動を開始しました。(チャンネル登録者数は11月27日時点で約49万人)

西野:僕も、すでに芸人を辞めていますし。でも、芸人を辞めても僕の活動が特に変わっていないことは、世間にバレてしまっています。だから、あれ(梶原さんの宣言)にはなんのフックもないと思うんです。

ただ、そんなことはどうでもよくて。何よりも、自分がやりたいことを自分の意思でやっているので、それが色っぽいですよね。失敗したら自分の責任ですし、もし失敗しても学ぶことがある。そういうことを、彼はこれまでしてなかったから、今回の挑戦は応援しています。

どれだけ「ドヤれるか」が人材確保のカギ

――『新世界』では、西野さんがすでに執筆された『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』という2冊のビジネス書に続き、「現代の信用とお金」について書かれています。今回は特に「オンラインサロン」についての話が多かったように思いますが、それはなぜでしょうか?

西野:オンラインサロンの仕組みは、現代の働き方を考えるうえで重要な要素だと思ったためです。よく、知り合いの経営者から「給料を多く払っているのに、社員が辞めていく」という悩みを相談されるのですが、これは、オンラインサロンを運営している僕としては、当たり前の話なんですよね。

今、多くの人たちは「お金」よりも「充実感」、さらにいうと「どれだけドヤれるか」ということを重要視しているんです。「これだけ大きなプロジェクトに関わった」とか、「こんなにスゴイものを作った」とか、そういったドヤれる経験に価値を見出しているんです。

特に現代では、「アイツの活動は面白いな」と思ってもらえたら、お金は後からつくれるようになりました。インスタグラムのフォロワーが100万人いたら、そこに仕事が生まれるように。フォロワーを増やすためには、完璧なルックスだったり、完璧な作品だったり、何かしらの発信できることが必要になります。

だからこそ、オンラインサロンの運営者にも、経営者にも、「いかにしてドヤらせてやれるか」という視点が必要だと思います。そこで、経営者にオンラインサロンの知識を入れておいてほしいと思い、その話を書きました。

――では『新世界』は経営者に読んでほしい本でもあるということですね

西野:はい。ただ、それはあくまで目線の1つです。就活生にとっては、「ダメな組織」「いずれダメになる組織」の傾向を知るキッカケにもなると思います。その知識があれば、会社選びを間違えない。

折角行きたい会社に行っても、そこが2、3年後に潰れたら、それまでの努力が無駄になってしまいます。そうならないためにも、今の若い人たちは「お金と人の流れが変わってきている」ことを理解する必要がある。それらを理解するうえで、わかりやすいのがオンラインサロンなんです。

「発信の価値」が徐々に上がってきている

――「お金と人の流れが変わってきている」という話でいうと、西野さんが開催する「サーカス!」というイベントでは、“客だけでなく、制作スタッフもお金を払っている”のだとか。このような流れの変化は、なぜ生まれるのでしょうか?

西野:意味がわからないですよね(笑)。なぜ、制作スタッフがギャラをもらうのではなく、お金を払うのか。ただこれは、現代における「発信することの価値」を考えると、わかることなんです。

以前、「サーカス!」とは別に、僕のオンラインサロンで、音楽のイベントをしました。そのイベントは、お客さんよりもステージの出演者の方が高いお金を払うシステムで行いました。そうすると、イベント後の満足度はどちらが上か。結果は、応援する「客」よりも、応援してもらってスター気分を味わえる「出演者」だったんです。

これは先ほどの「どれだけドヤれるか」という話にもつながりますよね。本でも書いたように、将来は「制作スタッフや出演者が有料で、お客さんが無料」というイベントも開催できると思っています。

弾けた「オンラインサロン」バブル

――確かに、時代の潮流を感じるためにオンラインサロンの仕組みを学ぶことは重要だと思います。これからもオンラインサロンのブームは続くでしょうか?

西野:業界でいうと、オンラインサロンはもう下火のイメージですね。小規模のサロンは増えているようですが、全体を見るとサロンの会員って、徐々に減ってきてるんです。オンラインサロンのバブルはもう、弾けた感じはしますね

だから、もし僕が今大学生だったとしたら、サロンオーナーにはなりません。今からYouTuberを目指す人が、ヒカキンさんを超えられないように、もうオンラインサロンの勝敗はついたと思っています。

――では『新世界』で伝えたかったのは、「オンラインサロンのつくりかた」ではない、ということですね

西野:そうですね。オンラインサロンをこれからつくる、というのは難しいです。ただ、すでにあるサロンに入るのは賛成です。そこで「ここなら勝てるかも」というポジションを見つけて、新たな挑戦をするのはいいと思います。

例えば、芸人の渡辺直美ちゃんっているじゃないですか。彼女は今とても人気ですが、ずっとテレビで戦っていたら、今のようにはなってなかったと思うんです。テレビの枠は、もうすでにほとんど埋まってしまってますから。

彼女は、Instagramのような「自分が戦えるポジション」を見つけられたから、今の人気があるのだろうと思っています。

重要なのは「ストーリーを見やすくすること」

――西野さんは、「ディズニーを倒す」と自身の夢を発信し続けています。しかし、「一歩が踏み出せずにいる人」の中には、なかなか自身の夢や目標を発信できずにいる人も多いことかと思います。SNSの時代で“信用を勝ち取る”ためには、批判覚悟で、夢や目標を発信していった方がいいのでしょうか?

西野:やり方は人それぞれだとは思いますが、大事なのは「自分のストーリーを見やすくすること」。目標を掲げるというのは、その1つの手段にすぎません。

僕のオンラインサロンを例に考えるとわかりやすいかもしれません。サロンって、どのくらい入会者が減るかっていう数字が日割りで出るんですよ。どんな時に増えて、減っているか、というのもわかります。

わかりやすいのが、自分が勝っている時って、伸びないんです。でも、勝とうが負けようが、挑戦して「これどうなるの?」と思われるようなタイミングって、一番伸びるんです。

これって、マンガと一緒ですよね。主人公が強い敵と戦って「勝つか負けるか」というストーリーがあるから「続きを読みたい」と思う。主人公がずっと勝ち続けていたら、面白くないじゃないですか。

つまるところ、人はストーリーに反応しているんです。「これからの物語どうなっていくの?」と思わせられれば、応援してくれる人たちは増えます。

だから、もし何かアクションを起こしたい、と思った場合には「どうすれば自分のストーリーが見やすくなって、キャッチーになるのか」を考えて欲しいですね。その1つが、目標を掲げるということ。たとえ目標を達成できなくても、そこから這い上がるストーリーをどう作っていくかが重要です。

――では最後に、読者にメッセージをお願いします

西野:この本を読んで、どう思うかはお任せします。ただ読んだ後には、感情が高ぶって、何かしらのアクションを起こしたくなると思います。そうなったら、ソロバンをはじくのは一旦止めて、感情に従って行動してほしいですね。

――ありがとうございました

【西野亮廣氏の新刊情報】

『新世界』(KADOKAWA)

著者:西野亮廣
定価:1,500円(本体1,389円+税)
発行部数:3刷13万5000部(11月20日時点)

バカと付き合うな(徳間書店)

著者:西野亮廣、堀江貴文
定価:1,404円(本体1,300円+税)
発売日:10月26日
発行部数:5刷19万部(11月26日時点)

話題の”ティール組織”を体現 - サイハテ村「一万坪の社会実験」(後編)

話題の”ティール組織”を体現 - サイハテ村「一万坪の社会実験」(後編)

2018.09.04

熊本県「サイハテ村」が実践する新たなコミュニティについて取材

ルールがないことで、コミュニケーションが促進される

リーダーがいないことで、主体的に動く人材が生まれる

現代ならではのコミュニティをつくるためのオンラインサロンを開講

新たなコミュニティの形を目指す熊本県「サイハテ村」。約1万坪からなるこの地では、ルールもリーダーもない、お好きにどうぞ”な村づくりというコンセプトのもと、30人ほどの人々が暮らしている。ルールのないコミュニティで、村人はどのように生活をしているのか。彼らの暮らしから見えてくるものとは。

前編に引き続き、サイハテ村の「コミュニティマネージャー」坂井勇貴氏の話をお届けする。

坂井勇貴氏。1984年3月生まれ、長野県出身。CAMPFIRE・BASEなどの会社と提携し、三角エコビレッジ・サイハテのコミュニティマネージャーとして、運営およびプランニングの中枢を担う

”成功例”の轍を踏まないコミュニティ形成

筆者(以下、田中) : 社会とコミュニティの関係性が徐々に崩れている状況を打開するため、この村では新たなコミュニティの形を模索しているとのことですが、ルールがないということは、集団で生きていくうえで難しいように思います。これまで、学校・会社と、ルールのあるコミュニティでしか生きてこなかったので、想像がつきません。

坂井勇貴氏(以下、坂井) : 実際に、サイハテ村を始める際、長年エコビレッジに携わっていた人から「成功しているコミュニティには共通して、明確なルールがあり、カリスマ的リーダーがいるパターンが多い。その2つを手放してコミュニティを形成するなんて馬鹿げている」と批判されたこともありました。

しかし私たちは、そういった決まり事を無くしたコミュニティは、どう機能していくのか? ということを知りたいのです。決して、正解を見つけたいわけではありません。私たちがしているのは、数年、数十年先の未来を見据えた大規模な実験なんです。

ルールはコミュニケーションを殺しかねない

田中 : 実際に、サイハテでは30名ほどの村民が集まり、国内外から千人を超える人が村を訪れているそうです。坂井さん自身、全国各地でコミュニティ形成についての講演会を行っていらっしゃいますが、ルールがないコミュニティがなぜ存続し続けられるのでしょうか?

坂井 : 実はルールがないことにも、メリットがあるんです。例えば、ある出来事を考えてみましょう。この村に、「週に1度、村の美化作業を行う」というルールがあったとします。そうすると、もしそのルールを破ったときには、その人は罪悪感を感じ、周囲の人は、ルールを守らせるためにその人に罰を与えることになりますよね。

ここで問題となるのは、そこにコミュニケーションが生まれないことです。ルールを破った時点で、その人の言い分は受け入れられないんです。「寝坊してしまって……」と言ったところで、「じゃあ寝坊しないようにすればいいじゃん」という会話しか生まれない。

「ルールを破ったとき、そこにコミュニケーションは生まれない」というのはこれまでも何度か経験があります。こちらの言い分を言えない場合もしばしば

しかし、明確なルールが定められていない場合には「どうして美化作業をしないのか? 」「どうして寝坊をしてしまったのか? 」というコミュニケーションが生まれる。その結果「実は私はこの作業に意味がないと思っているから、起きてたけど来なかったんだ」といった、ルールを破った際には言えなかったその人の本音を聞き出せるようになるかもしれない。

田中 : 確かに。その関係性だと「私は朝が苦手だから、夜に1人で美化作業をさせて欲しい」といった意見も出るかもしれませんね。会社でも同じことが言えそうです。遅刻したら減給されたり、上司に怒られたりする。さらに、その罪の意識から上司とコミュニケーションを取りにくくなる。

坂井 : そうですね。つまり、ルールが人と人の上下関係を生み出し、フラットな関係性を築きにくくし、良いコミュニケーションが生まれにくくしているんです。今、『ティール組織』というビジネス書が人気なのをご存知でしょうか?

※『ティール組織 - マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』著 : フレデリック・ラルー、英治出版より販売(amazonリンク)

この本は2018年1月に日本版が発売となり、非常に反響を集めました。ティール組織とは、従来の「達成型」と呼ばれる組織とは大きく異なる組織構造や文化を持つ新たな組織モデルです。

簡単に説明すると、組織内での上下関係、ルールなどといった文化を撤廃し、フラットな関係性をつくることによって組織・人材に変革を起こせるということが書かれている本なのですが、サイハテではこの考え方に似たコミュニティが形成されています。

2018年7月、「ティール組織」をテーマとしたイベントをサイハテにて開催した

田中 : フラットな関係性を築きやすくなれば、上司とのコミュニケーションがとりやすくなり、自分の意見が発言しやすくなる。その結果、組織の風通しが良くなることが想像できます。

リーダーがいないから、『主体的に動く人材』が生まれる

坂井 : また、リーダーがいないため、主体的に動く人材が生まれやすいこともサイハテの特徴です。もともとここは、現在もサイハテに住んでいる工藤シンクが発起人となって誕生した村なのですが、彼はリーダーではなく、ただの住人。

私自身もサイハテに必要な役割を模索する中、この村での生活を発信する「サイハテメディア」というHPをつくったり、全国で講演活動をしたり、サイハテ村に関連するコンテンツやコラボ企画をつくったりして、「コミュニティマネージャー 」としての仕事を自主的に行なっています。

このように、サイハテの住人が各自で行動し、協力し、村をより良くしていこうと尽力しています。リーダーがいないからこそ指示を待つのではなく、主体的に動く人物が生まれやすいのは、この村ならではの特徴だと思いますね。

リアルで実践し、オンラインで学びを共有する仕組み

田中 : 暮らしを軸としたコミュニティから学ぶことがたくさんありそうです。

坂井 : これまでも日本各地でさまざまなコミュニティが生まれ、多くのアイデアや学びがありました。シェアリングエコノミーやティール型組織も今では多くの人に注目されていますが、私たちはずっと前から実践してきたことです。

ただ、横のつながりがなく、その知見を共有できないことが問題でした。そこで、こうした多様なコミュニティで生まれた知恵を共有し、さらに深めることのできる『NCU 次世代型コミュニティ大学』というオンラインサロンをつくりました。

このサロンは、サイハテを始めとして、東京・渋谷の駅近ビルで「拡張家族」という新たなコミュニティの形を提案するCift(シフト)など、日本中で活躍する多様な15のコミュニティをキャンパスに見立て、世界に誇れる次世代型のコミュニティ像を追求するオンライン大学です。会員数はローンチから1ヶ月ほどで約100人集まっており、今後も徐々に人数を増やしていきたいと思っています。

NCUで積極的に情報を発信するのは、全国15のコミュニティで活躍する実践者たちだ

田中 : 自身の所属するコミュニティで得た知見を、オンライン上で共有、議論をすることによって、体系化していくことができる場所というわけですね。

坂井 : はい。サロンに入会すると、Facebookの非公開グループ上で入会者どうしでのやり取りができるようになっています。このサロンを活用することで、リアルのコミュニティで検証したことをオンライン上で深め、またリアルに落とし込むことができる。これによって現代に合った次世代型のコミュニティづくりを促進していければ、と考えています。

「和の精神」に基づく次世代のコミュニティ像をつくりたい

田中 : サイハテの今後の展望についてはどのようにお考えでしょうか。

坂井 : うーん、実はそのことについてはあえて考えないようにしています。村人の1人としては、もっと人が増えて欲しいとか思うところはあるのですが。コミュニティマネージャーとして、「こういう風になればいいな」と思うことはありますが、それを推し進めてしまうと、リーダーのような存在になってしまいます。そのバランスをとるのが難しいところです。

一方で、私が運営しているNCUの件についていうと、こちらは明確な今後の目標があります。それは、未来社会に対して提案できる次世代型コミュニティ像を作ることです。

世界が賞賛する日本の「和の精神」。これはこれからの未来を語る上で重要なファクターになると確信しています。しかし、今のままでは古い伝統《個性や自由の欠如》として未来社会の軸になり得るとは考えられません。

急速に変化していく現代社会の中にあっても通用する“次世代型”コミュニティ。個性や自由を保ったまま、調和や安定を作り出すコミュニティカルチャーはここ日本だからこそ取り組むべき事だと考えています。

田中 : 日本ならではの「和の精神」がもととなって生まれる新たなカルチャー……。考えるとワクワクしますね。

編集後記

以上、サイハテ村と坂井氏の話を紹介した。筆者がこの村に滞在したのは1泊2日という短い時間ではあったが、村づくりの作業や食事の時間に、サイハテの住人、および一時的に訪れている人たちと交流することができた。

坂井氏と話していると、「どうやら大変そうなことをしている」ようにも感じるが、いざ村で生活をしてみると、何のことはない、ただの共同生活のようにも感じる。しかし、どこかで居心地の良さを感じることができたのは、現代で失われた「人と人のつながり」を色濃く感じることができたためだろう。

一緒に料理をして、夕食を共にする。村をより良くするために、共有スペースを作ったり、不要な木を伐採したりする。さまざまな行動を共にしていく中で、徐々に関係性が築かれ信頼感が生まれていく感覚は、「当たり前」のようでどこか懐かしいものであった。これこそ「村」というコミュニティの良さの1つであろう。

しかし、百聞は一見に如かず。言葉にすると「当たり前」のことでも、いざ体験してみると「当たり前のことができていなかった」と気付かされることが多くあったため、一度訪れて欲しい。

熊本県の辺境の地にあるサイハテは、ルールのないコミュニティだからこそ、人と人とのつながりを感じることのできる温かな場所であった。

ルールのないコミュニティはどうなる? サイハテ村「一万坪の社会実験」(前編)

ルールのないコミュニティはどうなる? サイハテ村「一万坪の社会実験」(前編)

2018.09.03

熊本県の辺境にあるエコビレッジ「サイハテ村」に潜入!

ルールもない、リーダーもいないコミュニティを実践

社会の構造が変化し、新たなコミュニティの形が求められている

「コミュニティ」の重要性が再認識されている。2017年にはFacebookが創業以来、初めて企業ミッションを変更したことが話題となった。

「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する――」

インターネットの発達に伴い、続々と誕生したYouTubeやFacebook、Twitter、Instagramなどのさまざまなプラットフォーム上で、人々は自らの趣味、趣向、価値観にあったコミュニティを選択、参加するようになった。

こうした流れはオンラインだけではなく、オフラインにおいても起こっている。熊本県・宇土半島の山奥にある「サイハテ村」も、特有な価値観のもと形成されたコミュニティの1つだ。

「お好きにどうぞ」というキーワードのもと、ルールもない、リーダーもいないという不思議な関係性で人々が住まうこの”変な村”が実践している「新たなコミュニティの形」とは何か。現地で村の雰囲気を味わってきた。

熊本県宇城市三角町にあるサイハテ村。天草市へとつながる宇土半島の山奥、約1万坪もの敷地に、約30人の住民が暮らしている。電車やバスは通っていないため、車でしかいくことができず、かつ道も狭いのでなかなか行きづらい。

村へいく途中に通る山道。「本当にここに人が住んでいるのか? 」と不安になる

サイハテ村に到着

三角エコビレッジ・サイハテ。現地のデザイナーが描いた特徴的な壁面の建物が多く存在し、独特の雰囲気を放っている

記事にすると一瞬でサイハテ村に到着してしまうのだが、現地までの道のりは長く、とにかくアクセスが悪かった。思わず「到着」という必要のない小見出しを使いたくなるほどに、「とにかく無事に着いたこと」に達成感を得た。

?? : ようこそ、サイハテ村へ。

到着して最初に出会った村人は、サイハテ村の「コミュニティマネージャー」の、坂井勇貴氏。取材当日の村案内をお願いしていた人物だ。

坂井勇貴氏。1984年3月生まれ、長野県出身。CAMPFIRE・BASEなどの会社と提携し、三角エコビレッジ・サイハテのコミュニティマネージャーとして、運営およびプランニングの中枢を担う

筆者 (以下、田中) : 本当に人が住んでいるんですね……! とにかく、無事にたどり着けて良かったです。途中、何度も心が折れそうになりました。

坂井勇貴氏(以下、坂井) : お疲れ様でした。まさか原付で来るとは(笑)。ちょっと休憩しましょうか。

ルールもリーダーもない、お好きにどうぞ”な村づくり

坂井 : 田中さんは、どうしてサイハテ村に取材に来ようと思ったんですか? 

田中 : 実は私、熊本県出身で、実家がこの近くなんです。もともと、どうやら変なコミュニティがあるということは知っていて。今回、夏休みで帰省するタイミングで、取材してみたいと思って伺ったんです。

坂井 : だから原付だったのか。

田中 : そうなんです。ここに来る途中の山道で何度も、パンクするんじゃないか? とヒヤヒヤしましたが、なんとか無事に来られました。今回はこの村に一泊してみて、サイハテが実践する”新たなコミュニティの形”について体感したいと思っています。

坂井 : 是非この村の雰囲気を感じてみてください。じゃあ村の紹介をしていこうかと思うんですが、その前に。この村の唯一のルールについて説明します。

田中 : ルール?

坂井 : この村のルールは、ルールがないこと。ルールもない、リーダーもいない、”お好きにどうぞ”の村づくりを行っているのがここ、サイハテ村なんです。

田中 : (「ルールがない」のが唯一のルール……なんだかややこしいな)

サイハテ村を探索!

坂井 : まずはここが、今日泊まってもらうゲストハウスです。

ゲストハウス。広く開放感のあるベッドスペース、清潔感のあるトイレ、お洒落なダイニングがあり、居心地がいい

田中 : 綺麗ですね。山奥にこんなに快適なゲストハウスがあるなんて……。

坂井 : 実はここ、2016年にクラウドファンディングで資金調達して作ったゲストハウスなんです。約200万円の資金を集めることができました。

田中 : ……これは、プールですか?

村に設置されているプール。当日は村に遊びに来ていた子供たちが遊んでいた

坂井 : はい、村の前身となった施設で使用されていたプールを村人達で綺麗にして使えるようにしたんです。

アースバッグと呼ばれる、土のう袋を積み上げて建造した建物。村の標高が高いため、その眺めはとても綺麗だ
サイハテ村では「完全な自給自足」を目指しているわけではないが、鶏やヤギの飼育、各種青果物の栽培がなされているとのこと

「エコ」に振り切らない、ハイブリッドなコミュニティ

田中 : 村の案内、ありがとうございました。のどかな場所ですね。ところで「エコビレッジ」というと、完全な自給自足を目指しているイメージを持っていたのですが、サイハテはそうではないんですか? 

エコビレッジとは、持続可能性を目標としたまちづくりや社会づくりのコンセプト、またそのコミュニティ。以下のように定義されている。

・ヒューマン・スケールを基準に設計される。

・生活のための装備が十分に備わった住居がある。

・人間が自然界に害を与えず、調和した生活を行っている。

・人間の健全な発達を促進する。

・未来に向けて持続的である。

フリー百科事典「Wikipedia」より引用

坂井 : そうですね。サイハテでは、そこまでエコに固執しているわけではありません。そもそも昔(といってもここ数十年で)、エコビレッジが誕生したのは「環境破壊を止めたい」とか「資源の浪費を抑えたい」とかいう考えから。その想いは私達にもありますが、だからって「エコじゃないから」という理由で、生活の不便さをすべて享受しているわけではありません。食糧が足りなければ、買いに行きますしね。

もちろん、パソコンもスマホも使います。この村の住民の多くはクリエイターで、パソコン1つでWebデザイナーとして働いている人がいれば、ドローンを使っている人もいます。決してテクノロジーを否定しているわけではなく、私たちが目指しているのは、現代にあったエコビレッジの形、テクノロジーとエコが融合した”ハイブリッドなコミュニティ”なんです。

なぜ今、”コミュニティ”が重要視されているのか?

田中 : ハイブリッドなコミュニティ、ですか。

坂井 : はい。ここ数年、「コミュニティ」という言葉をよく聞くようになったのは、今一度、人と人との関わり方を見直すタイミングが訪れているためであり、そこで重要になるのが新たなコミュニティの形だと考えています。

私は以前、人口が100人ほどの村に住んでいました。そこではハッキリと「村社会」が存在していたんです。それは昔であれば、どの地域にも当てはまったこと。しかし、高度経済成長期を境にその社会が一部崩壊し、核家族が増え、コミュニティの形が変わりました。

当時はそれでうまくいったのですが、現在、社会とコミュニティの関係性が徐々にアンバランスになってきています。一生懸命働いてもお金がない、近所付き合いがないため子どもや老人の面倒を見てくれる人がいない、そもそも何をするにしても人手が足りない。私たちは、そういった問題を解決するための新たなコミュニティの形をここサイハテ村で模索しているんです。

後編では、サイハテ村が新たなコミュニティの形模索する中で見えてきたこと、その課題などについて紹介します。(後編は9月4日公開予定です)