強さの秘訣は共同生活? ゲーミングハウスに暮らすeスポーツチーム「野良連合」

強さの秘訣は共同生活? ゲーミングハウスに暮らすeスポーツチーム「野良連合」

2019.04.26

『レインボーシックス シージ』で世界4位の実力を持つ野良連合

選手は「ゲーミングハウス」で共同生活を送っている

オーナーと選手に、チームのことや共同生活のことについて話を聞いた

2016年発足とeスポーツチームとしての歴史は浅いながらも、その年に開催された「E-Sports Festival」香港大会にて、シューティングゲーム『レインボーシックス シージ』でアジアチャンピオンを勝ち取るなど、世界的な活躍をみせる野良連合。ゲーミングハウスを運営する「e’sPRO」とコラボレーションし、チームメンバーがゲーミングハウスで共同生活している点でも注目を集めている。

今回、野良連合のオーナー 貴族氏と『レインボーシックス シージ』のプレイヤーであるPapilia選手、ReyCyil選手、Merieux選手に、チームやゲーミングハウス、eスポーツ業界について話を聞いてきた。

舞台はあくまで世界! チーム発足5年以内の優勝を目指す

――野良連合は昨今のeスポーツブームとほぼ同時に発足しましたが、ブームとともに歩んできた立場から、eスポーツの現状についてはどう感じていますか?

野良連合 オーナー 貴族氏(以下、貴族):eスポーツという言葉が認知され、多くの人に見られるようになった印象です。オフライン大会の会場では多くのファンが来てくださるようになりました。女性の観客もビックリするくらいいらっしゃるんです。

また、いろんなところから、チーム運営についての話を聞かれるようになりました。ただ、スポンサーから聞かれるのはいいんですが、これからeスポーツに参入し、チーム運営をしていきたいって企業がタダでそのノウハウを手に入れようとしてくるのは、ちょっと話が違うんじゃないですかね。おっと、話が脱線しました。まあ、それだけ注目度が上がっているってことです。

たとえば、バトルロイヤルゲームの『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』は、ほかのゲームに比べて“観る専”の人が多い印象です。この前、韓国で試合をしてきたのですが、観客の7割くらいは女性で、手にアイドルのコンサートで使うような「選手の顔写真を貼り付けたうちわ」を持って応援している人もいました。

こういったムーブメントが起きているのは、eスポーツよりもYouTuberのおかげかもしれません。決してゲームの腕が高いわけではないですが、おもしろく紹介しているので、ゲームの認知度が上がっているのでしょう。

そして、ゲームに興味を持った人のなかで「自分でプレイしない層」が、プロプレイヤーの試合を観戦するようになったのだと思います。日本だと、野良連合のメインタイトルでもある『レインボーシックス シージ』の人気が急上昇していますが、話を聞いてみると、やはりYouTuberの動画がきっかけで知った人が多いみたいです。

野良連合のオーナー 貴族氏

――野良連合は『レインボーシックス シージ』や『オーバーウォッチ』『PUBG』などのタイトルで、世界を中心に活動していますが、拠点の日本で人気の対戦格闘ゲームへの参入は考えていないのでしょうか。

貴族:日本で流行っている対戦格闘ゲームといえば『ストリートファイターV AE』が代表的だと思うんですが、売上でいうと8万本くらいなんですよね。それに対して『レインボーシックス シージ』は300万本。日本でも一番人口が多いタイトルと言われています。

また、対戦格闘ゲームは海外でのプレイ人口も少なく、海外のeスポーツの格付けでも『レインボーシックス シージ』は“Tier1”タイトルですが、対戦格闘ゲームの各タイトルは軒並み“Tier3”のカテゴリー。この違いは、大会の数や賞金額の高さ、Twitchなど動画配信の視聴数によって決定されるわけですが、Tier1とTier3だとまったく違います。

おそらく、日本メディアもそういった状況に気づきはじめて、1~2年しないうちに流行は変わってくるのではないでしょうか。そういう観点からも、野良連合はTier1タイトルを中心に行っています。まあ、世界しか見ていない感じですね。

――野良連合を含め、日本チームの実力は世界でどの位置にいるのでしょうか。

貴族:野良連合は発足時の2016年から『レインボーシックス シージ』で日本代表として活動しており、それ以降ずっと代表です。ただ、年々代表になるのが辛くなってきていますね。今年はギリギリだったんじゃないでしょうか。そういう意味では、日本は全体的にレベルが上がっていると思います。

世界との差はそんなにあると思っていません。2018年は『レインボーシックス シージ』の世界大会でベスト4になりましたが、これも2回め。目標は発足から5年以内、つまり来年までに優勝です。選手はどう思っているんですかね。

――とオーナーがおっしゃっていますが、選手の方々はどうお考えですか? まだまだ世界との差は大きいと感じるのか、それとも敵わない部分はあるものの同じラインの延長線上のちょっと先を行っている感じなのか。

Papilia選手(以下、Papilia):そうですね、『レインボーシックス シージ』は、単純にエイム(シューティングゲームで標準を合わせること)や操作の腕などの個人技だけでなく、戦術やチームでの動きも重要なゲームです。個々のスキルは海外と大きな差がないと感じていますが、戦術面に関してはまだ足りない部分がありますね。そこをクリアできれば優勝できると思います。

今回、取材に対応してくれた野良連合の選手。左からPapilia選手、ReyCyil選手、Merieux選手

――先ほど日本で対戦格闘ゲームが流行っているという話がありましたが、その理由の1つに、日本人選手の活躍があると思います。『レインボーシックス シージ』に関しても、野良連合の活躍が日本での人気に大きく影響しそうですね。

Papilia:eスポーツタイトルは、新しいものが出てくると、一時的とはいえ、そちらに流れてしまうことがあるんです。

『レインボーシックス シージ』は、まる4年稼働していて、今年が5年目。その間にもいくつもの大型タイトルがリリースされ、『レインボーシックス シージ』の人口が減りそうなポイントはありましたが、野良連合がアジア大会で優勝したり、世界大会で活躍したりしたタイミングで『レインボーシックス シージ』のプレイ人口は伸びたと聞いています。なので、野良連合が活躍したことによって、日本の『レインボーシックス シージ』の人気が途絶えずに済んだのかなと思います。

ゲーミングハウスでの共同生活が野良連合を強くした

――2018年の“eスポーツ元年”を経て、チームにはどのような影響がありましたか?

貴族:スポンサーのオファーの数は増えましたね。以前は営業に行き、頭を下げてから話を聞いてもらっていましたが、最近は向こうから話を持ってきてくれるようになりました。

ただ、増えたのは増えたんですが、日本企業の場合だと9割くらいが「物品提供」の協賛オファー。ありがたいことではあるのですが、今は物品提供はお断りしています。

PCや周辺機器をご提供いただくことが多いのですが、選手には好きなデバイスを使ってもらいたいので、自分たちで購入しています。無料でも選手にしっくりこなければ、マイナスにしかなりません。選手やチームを健全に運営するには、やはり金銭的なご協力がありがたいです。もちろん、金銭面に関しても、以前より増えています。

――既存スポンサーからの提供資金額に変化はありましたか?

貴族:そうですね、ご提供いただく資金も増えました。まあ、僕らもスポンサーさんの商品はめちゃくちゃ売っていて、単純にユニフォームに企業ロゴを入れてるだけでもないので、スポンサーさんとしてもメリットは大きいと思います。

――スポンサー料が順調に増えているということですが、選手として満足のいく報酬はもらっていますか? さすがにオーナーの前では答えにくいですかね。

Papilia:言っても大丈夫ですか?

貴族:いいよ。

Papilia:僕は大卒なのですが、おそらく一般的な大卒の初任給よりは多くもらっていると思います。何より、この「ゲーミングハウス」に住んでいるのが大きいですね。家賃や光熱費、インターネットの通信費も自己負担する必要がないので、食費くらいしか使わないんです。月10万円ずつくらい貯金もできています。年間だと100万円超えますね。普通に会社員やっているより待遇面もいいんじゃないでしょうか。

野良連合が暮らす「ゲーミングハウス」

――ちょうどゲーミングハウスの話題が出たので、その話をさせていただきたいのですが、チームで共同生活するメリットとデメリットはありますか。

貴族:オーナー目線で言うと、チームが仲良くなれることですね。それによって成績も上がってきています。

ゲームをプレイした後には必ず反省会を行うんですが、一緒に住んでいると顔を合わせながら行うことができます。オンラインで反省会をすると、顔が見えないので、個々の選手がちゃんと反省会に向き合っているかわからないんですよね。もしかしたら、スマホをいじりながら参加しているかもしれないわけです。やはり直接話すと、反省会の濃さがまったく違います。

デメリットは、ケンカしたあとが面倒だなって思うくらいですね。とはいえ、ほとんどケンカしませんが。あ、チームとしては費用がかかります(笑)。ゲーミングハウスを使っているほかのチームは、家賃や光熱費、通信費を選手負担にしているケースが多いのではないでしょうか。おそらく、ゲーミングハウスの家賃などをチームで負担しているのは、日本では野良連合くらいだと思います。

――選手の方々はいかがですか。たとえば、共有スペースの片付けや掃除についてなど。

Papilia:掃除は最初業者が入っていたのですが、コストがかかるので、今は止めています。業者が来なくなってからは、自分たちで気がついたときに掃除をしている程度ですね。

特に当番などは決めてません。使用した人が片付けることも多く、自発的に行っています。メンバーのなかにはシェアハウスを経験した人もいますので、結構うまくいってますね。

貴族:めちゃくちゃ汚く使う人もいて、すごく汚かった時期もあったんですけどね。

Papilia:このゲーミングハウスでは、共有スペースのほかに、個室も割り当てられています。寝室とゲーム部屋の2つ。個室に関しては不干渉なので、シェアハウスといってもかなり自由があります。何時に起きて、何時に寝るというのも個人の裁量。ルールとしては、毎晩21時からスクリム(練習試合)を行うので、そこまでに揃っていれば問題ありません。そこだけは厳守ですね。だいたい夜中の1時くらいまで練習して、反省会をします。そのあと個人練習をするのか、寝るのか、何かほかのことをするのかも、選手それぞれですね。

あと、ゲーミングハウスのメリットとして、メンバーが寝坊しても、誰かが起こしてくれることが挙げられます。寝過ごして大会に遅れてしまうといった失敗がないのがいいですね。

貴族:電話で起こそうにも、電話くらいじゃ起きない人も多いので、直接起こせるのはいいことです。

ゲームだけでなくファンサービスも本気の野良連合

――野良連合はしっかりした選手が揃っている印象ですが、オーナーとして選手にはどのような教育をされていますか。

貴族:私の経験上の話ですが、タイトル問わずプロゲーマーは社会経験が乏しいことが多いので、必要であれば「社会人のあり方」を指導します。また、学生時代に部活などを経験していない人には、「チーム競技とは」をイチからたたき込むこともあります。

――プロになるとファンがつくわけですが、ファン対応についてはいかがでしょう。Twitterの発言や使い方についての指導などはあるのでしょうか。

貴族:野良連合は“ファンサービスが神”と言われることが多いんです。一応、選手にはしっかりファンサービスをするように伝えていて、選手はそれに応えてくれていますが、特に指導しなくても、ここにいる選手は問題ないでしょうね。

Papilia:Twitterについては、気をつけるようになりました。軽率な発言をしないように考えています。

ReyCyil選手(以下、ReyCyil):アマチュア時代とそんなに変化はないと思います。もともとSNSでは余計なことは言わないようにしていたので。ダイレクトメッセージをくださったファンには、全部返事をするようにしています。

貴族:ああ、選手たちはTwitterのリプライとかもちゃんと返信してますね。そこはすごいなって思っています。ただ、「選手はみんなリプライ返してくれるのに、なんで貴族さん返してくれないんですか」って、何度か言われたことありますね(笑)。ゲーム以外の仕事も忙しいので、Twitterで返信するのが難しいんですよ。

――先日、ファンミーティングを行ったようですが、そのような活動も頻繁に行っているのでしょうか。

貴族:ちょうど先日、ファンクラブ限定のファンミーティングを行いました。100名くらい集まったと思います。300人くらい来るときもありますので、先日のはこぢんまりとした感じですね。東京ゲームショウとかだと数千人来るので、「朝から夕方までサインしっぱなし」ということもあります。

――ファンミーティングではどんなことを行っているのでしょうか。

貴族:「叩いて被ってジャンケンポン」とかですね。

Merieux選手(以下、Merieux):一番いらないとこじゃないですか(笑)。まぁ、事実ですけど。質問コーナーがあったり、景品がもらえるジャンケン大会だったり、記念撮影だったり、サイン会とかだったりですね。

貴族:あとはファンに向けてグッズも作っています。野良連合のゲーミングデバイスがあってもいいかなと考えています。

また、今はアパレルにも力を入れていて、手前味噌ですが、パーカーはeスポーツチームが出しているもののなかでも飛び抜けてカッコイイと思います。

――世界で活躍するようになってから、ファンだけでなく、家族や友人の反応に変化はありましたか。

Merieux:もともと親がゲームをよくやっていたので、プロゲーマーになることについて反対されることはありませんでした。応援してくれています。海外で行われる世界大会だと、配信が早朝や深夜になるんですが、観てくれているようで、終わるとLINEとかで感想を伝えてくれたりしていますね。最初からあまり変わりません。

Reycyil:以前は働かずにゲームばかりしていたニートだったので、家族にはあまり良く思われていなかったと思います。でも、海外の大会に出場した際に、見直してくれたみたいで、そこから応援してくれるようになりました。

貴族:どんな感じで応援してくれるの? 「あの試合のプラントよかったよ」とか?

ReyCyil:うちの親、めちゃくちゃ詳しいじゃないですか(笑)。

Papilia:僕は、最初就活をしていて、内定もいただいたのですが、その道を選ばずにeスポーツの世界に入りました。それを後悔しないくらい、応援してもらっています。地元の人たちも喜んでくれていて、ちょっとした有名人って扱いになってるんです。僕がきっかけでゲームを始めてくれた人もいると聞きますね。

――選手のみなさんは、ゲーミングハウスに入居してよかったと感じていますか。

Merieux:僕は静岡出身で、地元の大学に実家から通っていたんです。野良連合に入って、このゲーミングハウスに入居することが決まったとき、大学を辞めました。活動も順調なので後悔していません。ゲーミングハウスに入れてよかったと思っています。

Papilia:僕は東京都出身なんですが、伊豆諸島なんですよ。高校進学の際に一人暮らしをはじめたので、個室があるうえに、家賃も光熱費も必要ない環境は本当にうれしいですね。住む前は「シェアハウスは嫌だな」って思っていたんですけど、今は快適に過ごせています。

ReyCyil:僕は山梨です。ゲーミングハウスに入居しなくても、オンラインで練習して、大会前だけ集まることもできますが、野良連合は海外遠征が多いので、それぞれが違う空港から現地に行くと何かと面倒なんですよね。ゲーミングハウスであれば、みんな一緒に行けるので安心です。

貴族:たしかに。ゲーミングハウスを使っていなかった頃は、「誰々は成田ね」「誰々は大阪ね」って感じで、みんなバラバラ。現地集合って感じでした。それがなくなったのは大きいですね。選手がフライトに遅れる心配もなくなりましたし。

――なるほど、本日はありがとうございました!

eスポーツを“魅せる”ゲーム内カメラマンという職業

eスポーツを“魅せる”ゲーム内カメラマンという職業

2019.04.24

さまざまな大会が開催されるようになったeスポーツ

大会では動画配信を行うことも珍しくない

eスポーツの映像はどのように生み出されているのか

RIZeSTで働く「ゲーム内カメラマン」に話を聞いた

「4いくよ、4。はい、いった」
「マップ出せる?」
「次、SunSister追って」

会場に設置したディスプレイやインターネット上の配信サービスで、ゲームの映像を届けるeスポーツイベント。プロゲーマーが火花を散らす舞台の裏側では、めまぐるしく変わる戦況に応じて、スタッフが視聴者を楽しませるための映像を手がけている。常にさまざまな指示が飛び交う配信室は、さながら“もう1つの戦場”といったところだ。

eスポーツの映像は、単純なプレイヤー視点のゲーム映像ではない。タイミングよく情報を表示させたり、スーパープレイが起きればリプレイを流したり、盛り上がるであろうシーンを近くから映したりと、いくつもの工夫がされているのだ。特に、広いフィールドのなかを、プレイヤーごとに異なる視点で動くゲームの場合は、視聴者にどのシーンを見せるのかが重要になってくる。

その役割を担うのが「ゲーム内カメラマン」と呼ばれる人たち。なかなか表舞台に出ることはないが、高度なゲーム知識と、豊富な経験がなければ務まらない。彼らの手で、視聴者の観たいシーンを絶妙な角度で切り取る――。それが、ゲーム観戦をエンターテインメントに昇華させているのだ。

今回は、eスポーツイベントを裏側から盛り上げるゲーム内カメラマンの話をしよう。

巧みな連携によって最適なシーンを届ける

「eスポーツのおもしろさを、視聴者にうまく伝えるための仕事です」

ゲーム内カメラマンとは何か? という問いに対して、RIZeSTでゲーム内カメラマンのスイッチャーを務める立石雄太氏はそう答えた。同社はeスポーツのイベント運営を請け負う企業。会場の設営からキャスティング、映像制作などを、トータルでサポートする。

RIZeSTでゲーム内カメラマンのスイッチャーを務める立石雄太氏

「たとえば、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)』というバトルロイヤルゲームでは、広いフィールドを移動する参加プレイヤー64人を平等に扱いながら、対戦が発生した場合はそこにフォーカスしたり、実況・解説の内容に合わせて表示画面を変えたりと、eスポーツの魅力を最大限届けられるよう心がけています」

最大100人のプレイヤーがフィールドに降り立ち、落ちているアイテムを駆使しながら最後の1人になるまで戦うバトルロイヤルゲーム『PUBG』。見事に最後まで生き残れたとき、「勝った! 勝った! 夕飯はドン勝だ!!」と画面に表示されることから、100人の頂点に立つことを「ドン勝する」と呼ぶ。2人のタッグプレイ(デュオ)や4人のチームプレイ(スクワッド)も可能で、その際の「ドン勝」の条件は、「ほかのチームのプレイヤーを全員倒すこと」だ。

日本ではDMM GAMESが、PUBGを使った国内公式eスポーツのプロリーグとして「PUBG JAPAN SERIES(PJS)」を開催している。ルールは4人1チームのスクワッド。16チーム計64人で、1日4試合ずつ、6日間行ってシーズンの覇者を決めるというものだ。

立石氏は、このPJSにおいて6人のゲーム内カメラマンを統括する「スイッチャー」として“ゲーム内カメラマンのボス”のような役割を担う。プレイヤーが64人いる状態でスタートするPJSでは、誰がどこで何をしているかわからない。そのため、ゲーム内のさまざまな場面をチェックしている「ゲーム内カメラマン」が観戦機能で撮影する画面を、戦況に応じて立石氏が切り替えているのだ。

PJSの会場。選手64人は同じ会場でPUBGをプレイする
PJS season2 Phase2 PaR Day1のアーカイブ動画。定期的に視点が切り替わっていくのがわかる

PJSを配信中の現場にお邪魔すると、立石氏は常に何らかの指示を出しているようだった。「次、2いくよ」とカメラの番号を伝えてから手元の機器を操作し、画面を切り替えたかと思えば、「SunSisterいける?」とチーム名をカメラマンに伝えて、次の動きを指示する。

「PJSの場合、カメラマン6人とマップ管理、そしてスイッチャーの計8人がゲーム映像を担当します。6人のカメラマンのうち中心にいる2名のリーダーに僕から指示を出して、そのリーダーが左右のカメラマンに指示をする流れです。状況に応じて『俯瞰の映像を撮りたい』『ここの戦闘を追おう』といったことを伝えていますね」

PJS配信室の様子。立石氏は6人から送られてくる映像を常に見比べながら、最適なものを選択する

現場にいるカメラマンはインカムでつながってはいるが、全員が一斉に発言すると混乱するので、リーダーを立てて連携するルールを決めたという。だが、スイッチャーが状況に応じて指示を出すとはいえ、カメラマンが言われた通りに動いているだけかというと、そうではないらしい。

「実況・解説の声は全員がしっかり聞いて、その情報を把握しながら動いてもらっています。特定の選手が話題に出たら、その選手のカメラに切り替えるようにしているのですが、それをイチイチ指示していたら間に合いませんからね。ただ、もちろんすべての情報を把握できるわけではないので、言葉はかけあうようにしています」

ゲーム内の状況に加え、配信室内での指示や、実況・解説の声にも耳を傾ける。PUBGの局地的な戦闘は一瞬で終わることも珍しくないので、決定的な瞬間を撮り逃さないように、さまざまな情報を把握しながらすばやく行動しなければならないのだ。

そのように情報が錯綜しがちな配信室内では、可能な限り連絡をスマートにしていき、「何も言わなくても伝わるようになるのがベスト」だと立石氏は考える。実際に現場でのやり取りを見ていると、かなり洗練された連絡系統が確立されているように思えたが、事前に綿密な打ち合わせなどは行っているのだろうか。

「ゲーム内カメラマンチームの打ち合わせは、実はおおざっぱなものです。『こういう場面ではこうしよう』といったことを決めておいても、実際はうまくいかないことが多いんですよ。その場で臨機応変に対応しなければいけないことがほとんどなので、決めるのは序盤・中盤・終盤ごとの大枠のルールだけです」

各プレイヤーがフィールド内でバラバラに散る序盤は戦闘が起きにくい。そのため、いくつかのポイントを短い間隔で順番に映していく。中盤はリーダーからの報告のみに限定し、最も盛り上がる最終局面では戦闘を仕掛けるプレイヤーがわかった瞬間にカメラを切り替えられるようにしているそうだ。

「このようなルールは、試行錯誤しながらほぼ毎週変えていますね。特にPJSでは、シーズン1からシーズン2に移行する際、大幅にルールが変わり、キル(敵のプレイヤーを倒すこと)を取れば取るだけポイントが入るようになったので、戦闘数が異常に増えました。シーズン1ではリーダー以外にも発言してもらっていたのですが、それだと混乱するようになったので、チームで話し合いながら、今の形にようやく落ち着いた感じです」

ルールが変わればプレイヤーの動きも変わる。プレイヤーの動きが変わればカメラもそれに合わせて動かなければならない。プロチームの情報はもちろん、プレイヤーの動き方まで把握しなければ、選手の魅力的なプレイを視聴者に届けることができないのだ。

「チームメンバーの入れ替わりやキルを取る選手、索敵を担当する選手などは把握しています。ただ、もちろんすべての戦闘を撮りきれるわけではありません。派手な戦闘が起きそうなときでも、先に別の場所で小さい戦闘が始まった場合には、そちらを最後まで追いかけるようにしています。そのチームのファンであれば、結末を見届けたいと思うはずですから」

手探りでスタートしたゲーム内カメラマンのキャリア

さまざまな情報を把握しながらタイミングよくゲーム画面を切り替えて「eスポーツイベントの映像」を生み出す立石氏。ゲーム内カメラマンという仕事が一般的に普及しているとは言い難いなかで、なぜこの仕事を選んだのだろう。

「最初からゲーム内カメラマンをやろうと思っていたわけではありませんでした。もともとは映画系の大学で音響などをやっていたのですが、秋葉原にあるe-sports SQUARE AKIHABARAでアルバイトを始めたときに、店長から映像をやってほしいと言われたのがきっかけですね」

アルバイトを始めたのは3年前。国内ではまだ「eスポーツ」という言葉すら知られていなかった時代だ。もちろん、eスポーツのスタッフもほとんどいない状況である。

「自分たちで全部やるしかないという状況でした。対戦格闘ゲームの大会『闘劇』でプロデューサーをされていた方がいろいろと教えてくださったので、正しい方向に成長できたと思いますが、手探りの部分も多かったですね」

ゲームイベントの映像周りをすべて担当していた立石氏。「ゲーム内カメラマン」というゲーム映像の担当ができたのは、さらに最近のことだという。

「僕はゲーム画面と実況・解説の様子、選手の様子などを切り替える放送全体のスイッチャーをやっていたのですが、以前アクションシューティングゲーム『オーバーウォッチ』のイベントを実施した際に、ゲームのカメラも必要だという話になりました。そこで、自分が担当するようになった形です」

急速に普及したeスポーツでは、まだイベント運営のノウハウが蓄積されているわけではない。実際にeスポーツ大会の運営経験を積み重ね、試行錯誤を繰り返していくことで「ゲーム内カメラマン」という存在の必要性に気付いたのだ。

「ゲーム内に限定されることで、これまで以上に知識が求められるようになりました。もともとゲームはやるほうなので、わかっていたつもりだったのですが、知識不足を実感することも多くて。練習試合や海外の配信を観て、勉強するようになりましたね」

PJSではゲーム内カメラマンが作業する部屋の横に、放送全体の切り替えを行う配信室があった

eスポーツの普及には映像クオリティのボトムアップが必要

eスポーツの主役はプロゲーマー。しかし、プロ選手にスポットライトを当てるためには、照明を持つ人が必要だ。現状では、まだ照明を当てる側の人間も少ないのではないだろうか。立石氏はゲームイベントを支える仕事について、今後どうなっていくべきだと考えているのだろう。

「コミュニティの大会でも映像クオリティが底上げされていけばいいなと思います。PJS以外にもPUBGのイベントを楽しめるのはいいことですし、毎日何かしらの楽しみが生まれますからね」

立石氏が望むのは、eスポーツ全体の映像クオリティの向上。エキサイティングな映像でeスポーツの魅力を伝えられる大会が増えれば、それだけファンが増える可能性がある。

「ただ、PJSはDMM GAMESさんのサポートによって、6人のゲーム内カメラマンをアサインできていますが、コミュニティレベルのイベントでは、同じPUBGでも、1人でゲーム内カメラマンを担当することがほとんどです。主催者が高いクオリティの映像を届けたいのかどうかにもよりますが、選手の優れたプレイや動きを観られないのは、視聴者にとっても残念なことだと思うので、小さい大会でも、練習試合でも、いいプレイをいい画面で観てもらえるようになるといいと思います」

ゲーム内カメラマン6人をアサインすることは、けっして簡単ではない。しかし、映像のクオリティを高めることができれば、視聴者の満足度も上がるはずだ。主催者やスポンサーが資金を出し惜しみすれば、それだけ出来上がる映像のグレードは下がってしまう。

「実際、練習試合の配信では視聴者数もそこそこ。コンテンツのレベルが上がれば視聴者数も増えるだろうし、視聴者数が増えればスポンサーのブランド露出も増えるはずです。PJSでは、投げ銭のようなスーパーチャット機能も実装されましたが、機能を搭載するだけでなく、観ている人たちがお金を出したくなるレベルのコンテンツを作ることが大事だと思いますね」

視聴者がお金を払いたくなるためには、コンテンツの質を高める必要があると考える立石氏。もちろん、高いクオリティの映像を制作するには、スタッフなどの運営体制をしっかりと整える必要があるのだ。

「僕がかつて見ていたeスポーツは、海外のコンテンツ。日本もそこに近づいてはいますが、海外シーンも同様に成長しています。PJSはゲーム内カメラマン6人態勢で進行しますが、韓国などはもっと人数が多いでしょうし、機材もいいものを使っているでしょう。そう考えればまだまだ、日本にも伸びしろはあるはずです」

eスポーツの発展にはコンテンツクオリティのボトムアップが必要。そう話す立石氏にとって、質の高い映像とはどのようなものを指すのだろうか。

「個人的な意見ですが、ゲーム内カメラマンはいかに視聴者が自然にプレイに入り込めるかが大事だと考えています。主役はあくまでも選手。選手を魅せるために、カメラという存在感をいかに消すか、それを目指して仕事していきたいですね。映像づくりにおいては、引き続き僕らの出せるベストを毎回更新していければなと思います」

ゲーム内カメラマンは、あくまで視聴者の目に過ぎない。カメラの存在をいかに消して、選手のプレイに没頭してもらえるかが大事だと立石氏は考える。口調こそは静かだったが、ゲーム内カメラマンとしてのこだわりが伝わってきた。

「正直、あまり表舞台には出たくないんです。そっとしておいてほしいと言いますか……(笑)」

取材を始める前に、立石氏はこう言った。eスポーツの主役はプロゲーマーであり、ゲーム内カメラマンは表舞台に出る必要はないと。

しかし、eスポーツを“魅せる”エンターテインメントへと昇華させている彼らの存在があってこそ、多く人が楽しめるコンテンツが生まれているのだ。eスポーツ普及への貢献度は、計り知れないだろう。

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有料チケットで成功したLJL、日本eスポーツイベントのお手本になれるか?

岡安学の「eスポーツ観戦記」 第3回

有料チケットで成功したLJL、日本eスポーツイベントのお手本になれるか?

2019.04.23

よしもと∞ホールで開催された「LJL SPRING SPLIT 2019 Final」

リーグが進むにつれて増えていったチームや選手の固定ファン

有料チケットにも関わらずリーグでは会場がほぼ満席状態

4月13日、よしもと∞ホールにて、『League of Legends(LoL)』の国内プロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」の王者を決めるプレイオフ決勝、「LJL SPRING SPLIT 2019 Final」が行われた。

対戦カードは2019年春季シーズンのリーグ戦を20勝1敗の圧倒的な強さで勝ち上がった「DetonatioN FocusMe」と、プレイオフのセミファイナルにてリーグ2位の「Crest Gaming」を3連勝で下し、リーグ3位からファイナルに勝ち上がった「Unsold Stuff Gaming」だ。Unsold Stuff Gamingのリーグ成績は12勝9敗と、DetonatioN FocusMeと比べると見劣りするが、チーム状態は上り調子なので、成績差以上の拮抗した試合が期待できそうだ。

20勝1敗の好成績で1位抜けしたDetonatioN FocusMe
リーグ戦3位からセミファイナルを勝ち抜き、ファイナルに進出したUnsold Stuff Gaming

観戦が前提のeスポーツリーグとして成功を収めたLJL

ファイナルの形式は「BO5方式(5戦3勝勝ち抜け)」だ。Unsold Stuff GamingがDetonatioN FocusMeをあと一歩まで追い詰めるシーンがあったものの、結局はDetonatioN FocusMeがリーグ戦の強さをそのままに、3連勝で優勝を果たした。

LJLで優勝したことで、DetonatioN FocusMeは、5月1日から19日にかけて、ベトナムと台湾で行われるMSI(Mid-Season Invitational)に日本代表として出場することが決まった。DetonatioN FocusMeは、昨年のWorldsでプレイインステージで初勝利をあげ、強豪C9をあと一歩のところまで追い詰めるなど、大活躍しただけに、MSIでもそれ以上の成績を期待したいところだ。

決勝に相応しい熱戦を繰り広げたが、結果は3-0でDetonatioN FocusMeで優勝した

今回の「LJL SPRING SPLIT 2019」は、よしもとクリエイティブエージェンシーが運営に加わったこともあり、会場もよしもと∞ホール。観客席が常設されている劇場を使用することにより、観客が観戦することを前提に行われたリーグ戦となった。試合はすべて有料(2500~3500円)で、日本のeスポーツイベントとしては画期的なリーグ戦と言える。

しかも、多くの試合でほぼ満席状態。もっとも少ない日でも6割以上の席は埋まるそうだ。開幕戦と今回のファイナルに限れば、立ち見席まで埋まるほどの人気ぶり。“観るeスポーツ”の先駆けとして、大きな成功を収めたのではないだろうか。

ファイナルは立ち見が出るほどの人気。チケットもあっという間に完売した

徐々に増えていったチーム/選手の固定ファン

観客についても、最初のうちは『LoL』のプレイヤーがプロの試合を観に来るという印象だったが、終盤になるにつれ、選手を応援するファンが増え始め、まさにスポーツ観戦やライブ観戦に近い状態になっていた。観客席を見回すと、誰がどこのチーム、どの選手のファンかひと目でわかるほど、応援が本格的になっていた。

DetonatioN Gamingのユニフォームを着て応援する観客もちらほら。Ceros選手やEvi選手を応援する手作り応援グッズを携えた人も

リーグ戦では、試合終了後にロビーでファンとチームの「ファンミーティング」が行われる。これは昨年も行われていたが、ファンにとっては選手と近づける貴重な場になっていた。

今回のファイナルでも、試合の終了後にフォトセッションやファンミーティングが行われた。死力を尽くした試合後に1時間以上立ちっぱなしでファンに対応するのは、選手にとって決して楽なことではない。しかし、それでもファンを楽しませるのが「プロ」である。

ただ、今後、さらに観客が増え、会場が大きくなった場合は、アイドルの握手会のように、1人あたりの時間を設定する、「はがし」と呼ばれる係員を配置するなど、多少の対策は必要になってくるかもしれない。

試合終了後、ロビーでファンミーティングを行うUnsold Stuff Gaming

今回のSPRING SPLITは、全試合をよしもと∞ホールで行っていたが、今後セミファイナルとファイナルは、もう少し大きな会場で実施してもよさそうだ。

今回は初めてリーグを通して有料チケットでの開催だったこともあり、どれだけの人が訪れるか未知数な状態で席数を増やすのは難しかったかもしれないが、SPRING SPLITを通じて運営の見通しもある程度できたはずだ。2年前のSUMMER SPRITのファイナルは、幕張メッセの幕張イベントホールで開催しており、その席数は固定席だけで3888席。このときもほぼ満席となっていたので、さらに大きな会場での開催も見込めそうである。

日本のeスポーツのなかでは、もっとも観客を集められるプロリーグの1つであるLJL。SPRING SPLITをさらなる飛躍のステップとして、SUMMER SPRITの成功も願いたいところだ。LJLがほかのeスポーツタイトルへも大きく影響することは間違いなく、日本のeスポーツの発展のきっかけとなるのは言うまでもないだろう。