「0円タクシー」が都内で運行開始 日本の交通不全に挑むDeNAの野望

「0円タクシー」が都内で運行開始 日本の交通不全に挑むDeNAの野望

2018.12.06

DeNAが東京で「0円タクシー」をスタート

「日本の深刻な交通不全」にビジネスチャンス

AI活用も視野にタクシー業界の抜本改革を狙う

ディー・エヌ・エー(DeNA)が東京都内で「0円タクシー」をスタートし、話題になっている。

同社は12月5日、この0円タクシーを可能とするタクシー配車アプリ「MOV」の発表会を開いた。同社オートモーティブ事業本部執行役員/事業本部長 中島宏氏は、「日本は深刻な交通不全に陥っている」と指摘する。その課題解決に挑むと意気込む「MOV」の取り組みを探る。

MOVの新サービス「0円タクシー」。5日から都内を走行中

タクシーのビジネス革新で日本の交通不全に挑む

中島氏が指摘する「交通不全」とは何か。鉄道路線廃止営業キロ数が1,100km、渋滞による経済損失が年間12兆円、東京圏の鉄道平均混雑率が171%といった深刻な課題が並ぶ。「スマートフォンのOSアップデートを怠るとサービスが使えなくなることもあるが、社会についても同じ。社会にとってのOSである交通のアップデートを怠ると、即日配送などの機能が使えなくなる」(中島氏)。こうした課題を改善するために、「インターネットとAIの力で、仕組みそのものからアップデートする」(同)という。

DeNA オートモーティブ事業本部 執行役員 事業本部長 中島宏氏
日本には交通不全の課題が山積している

そこでまずは「最も身近な交通であるタクシーの抜本的な効率改善に繋げたい」(中島氏)として、DeNAが神奈川県タクシー協会と共同で、県下のタクシー事業者にタクシー配車アプリ「タクベル」を提供したのが今年4月のことだ。

タクシーの課題は、集約すれば「使いたいときになかなか使えない」という点だ。国内に比べると海外ではライドシェアが普及しており、スマートフォンアプリから配車するサービスが市民権を得ている。タクベルも同様のサービスだが、少し事情が異なるという。

「大前提として日本のタクシーは質が高く、ライドシェアは必要がない」と中島氏。問題は、各社のシステムがバラバラになっていて、従来の電話と新たなアプリによる配車で整合性がとれていないため、同時に配車されてしまうなど、「最適化されていない」こと。タクベルではこれを重点的に改善した。

これまでのタクシー配車アプリは、タクシーの無線システムと接続して使うことが前提だったが、タクベルでは、それぞれのタクシー乗務員がスマートフォンを持ち、そのアプリ同士が連携する「アプリ連携方式」を採用した。無線システムには繋がず、従来の電話配車のシステムと共存したことで、電話とアプリのダブルブッキングが発生しないようにした。さらにメーカーと組んで、タクシーメーター連携もできるようにした。

タクベル(MOV)のシステム

実際、4月からタクベルがサービスを提供したところ、実績があったほかのサービスと比較して、「爆発的に(乗車を)伸ばすことに成功した」(中島氏)。結果として、5~6倍の乗客数を達成したという。

実車回数の推移。タクベル導入で一気に拡大した

競争は一層激化、MOVの勝算は? AI活用も視野

「アプリ連携方式とメーター連携で爆発的に数字が伸び、タクシー事業者の経営効率を改善できた」(中島氏)ことから、東京への進出を決め、サービス名称も「MOV」へと変更した。

ただ、「タクシー配車アプリは乱立の様相を呈している」という問題がある。各社がサービスを提供しているが、中島氏は無線機連携の方式ではタクシーの業務改善に繋がらないため、アプリ連携とメーター連携によるMOVのような配車アプリに優位性があると主張する。

また、中島氏は「ようやくシェア争いが始まった。2018年を皮切りに、2020年にかけて日本でもタクシー配車アプリ戦争が起きる」と、競争が本格化するのはこれから、という認識も示す。日本のタクシーは24万台ともいわれているが、どの配車アプリも数千台から1万台程度のタクシーしか対応しておらず、MOVとも大きな差はないというのが中島氏の認識だ。

そうした中でMOVの勝算は、タクベルでの実績だ。他社比で5~6倍という配車数に加え、月間6.5万件の乗車件数は「神奈川県という立地に限った件数では他社の追随を許さない。かなりの競争力がある」(中島氏)。

さらに、MOVに参加したタクシー事業者にはQRコード決済用のタブレットや、クレジットカードなどに対応した対面用決済端末もレンタルする。別途決済端末を用意する必要がなくなり、初期費用を抑えることもできる。決済手数料も、MOV参加事業者というボリュームを生かして低廉化できるため、キャッシュレス化にも貢献できるとしている。

レンタル提供するタブレット端末

「タクシー配車アプリ戦争」の武器としてAIにも期待する。今後はビッグデータ解析によって、乗客を拾いやすいルートをAIが提案するAI運行支援技術を提供する計画だ。現在開発中だが、来年後半にも提供を予定している。

この技術は、タクシーの配車情報などのプローブ情報と鉄道、天気、イベントなどの各種交通関連情報を組み合わせて解析することで、「この日この時間のこの場所にどの程度乗客がいるか」という予測をAIが行うものだ。この予測のみをタクシーの乗務員が活用するのは難しいが、さらに「今から5分間、最も営業収入が高くなる走り方」を分析し、それをルートとして地図上に表示するなど、加工して提供する。AIの言う通りに走れば、そこに乗客がいる、という訳だ。

タクシーのプローブ情報
各種交通情報などをビッグデータとしてAIで解析する
時々刻々と変わる乗客がいそうなエリアを道路ごとに表示できる
予測ルートを乗務員のスマートフォンに提供。ルートに従えば乗客が発見できる可能性がある、という

タクシー乗務員はベテランと新人で収入が倍違うこともある。経験が大きな差となるが、この差をAIで埋める。開発当初は「新人ドライバーにも負けるレベルだった」というが、現在までにAIアルゴリズムの改良を重ね、地元タクシーの平均収入程度までは稼げるようになっているという。

タクシー乗務員はベテランと新人で平均の収入に2倍の差がある
AIに従うと平均収入程度は確保できることで、特に新人にとってメリットが大きい
実際に試したタクシー乗務員の声

サービス拡大に関しても、京都、大阪、神戸エリアでのサービス展開を検討しており、すでにタクシー事業者数社からは協力の内諾を得ているという。一定のタクシー台数が必要なので、最低限のタクシー数が集まった段階でサービスを提供。来春にはスタートしたい考えだ。

MOVの取り組み、大きな目玉に「0円タクシー」

MOVではタクシーの新たなビジネスモデルも模索する。乗せたいタクシーと乗りたい乗客という2者のマッチングを行うのがタクシーだが、ここに第3者を組み込んで多者間でマッチングさせる。その端的な例として5日から始めるのが「0円タクシー」だ。

タクシーと乗客に加えて第3者もマッチングするプラットフォームを提供
「0円タクシー」のビジネスモデル

これは、広告を出したい企業が乗客の利用料金を負担し、その代わりにタクシーに広告を出す、という仕組みで、第1弾として12月いっぱい、日清食品がどん兵衛を使った「どん兵衛タクシー」を都内で走らせる。車外と内装をどん兵衛でラッピングして、後部座席のタブレットに広告を流すなど、どん兵衛をとことんアピールするタクシーとなっており、MOVアプリからのみ配車できる。

どん兵衛でラッピングされたどん兵衛タクシー

0円タクシーについて中島氏は、「初めての取り組みでどうなるか想像しきれない部分もある」としながら、すでに引き合いがあり、「継続して行っていく」見通しだという。今回のような広告モデルだけでなく、例えば学校や行政などとの異なるコラボレーションも見据え、「新たな体験、収益のあり方を実現」していくことが目標だ。

協業の幅をひろげ、単なる移動だけではない体験を提供したいという

国内では、Uber、Japan Taxiなどの配車アプリがある程度の存在感を出してきたが、それでも利用者は全体の1%程度だという。未だにほとんどは流しや電話配車になっており、諸外国との差は大きい。単に海外の配車アプリの仕組みを持ち込んでも効果は薄く、日本独自の仕組みが必要というのが中島氏の考えだ。

タクシー乗務員が仮に1日10時間勤務をした場合、乗客が乗っている時間は20~30%の時間、つまり2~3時間しかないという。第一に、この乗客が乗っている時間を伸ばすことが業務改善に繋がるとしており、これを「ドラスティックに改善していくことが日本のタクシー事業者にとって極めて大事」だと指摘する。

そうした点を武器として他社に対する優位性を確保し、タクシー配車アプリ競争の生き残りをかけた戦いに挑む。

「ES」と「UX」ではテイストが違う? 2台の新型車で見るレクサスデザインの今

森口将之のカーデザイン解体新書 第9回

「ES」と「UX」ではテイストが違う? 2台の新型車で見るレクサスデザインの今

2018.12.05

レクサスデザインは3世代に分けられる

「LC」からの流れを受け継いだ「ES」のエレガンス

「UX」は特殊なレクサス? 大胆なデザインになった理由とは

2018年秋、レクサスの新型車2台が日本に登場した。北米では1989年から販売してきたセダンの「ES」と、新型車のコンパクトクロスオーバーSUV「UX」だ。2台を眺めると、同じレクサスながらデザインのテイストが異なることに気づく。なぜ違うのか。レクサスデザインの変遷を振り返りながら考えた。

2018年11月27日に発売となったレクサスのコンパクトクロスオーバーSUV「UX」

日本でも世界でも好調のレクサス

1989年にまず北米で発売し、2005年の日本導入から今年で13年となるレクサスブランドが今、存在感を高めつつある。昨年はラグジュアリークーペの「LC」を登場させるとともに、フラッグシップセダンの「LS」ではモデルチェンジを実施。今年の秋にはESとUXを続けて発売した。

2017年に登場したラグジュアリークーペ「LC」。この画像は特別仕様車の「Luster Yellow」だ(画像提供:レクサスインターナショナル)

レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは、11月27日のUX発表会で同ブランドの販売実績に言及した。2018年1月~10月の販売台数は、グローバルで前年同期比6%増の56万7,000台を記録。日本では、なんと35%増の4万6,900台を達成したという。いずれも過去最高だ。

3世代にわたるレクサスのデザイン史

レクサスをデザインという視点で見た場合、3世代に分けられるのではないかと個人的には思っている。

第1世代は2005年の日本導入時にデビューした「IS」と「GS」、その翌年に登場した「LS」、2009年に発表となったクロスオーバーSUV「RX」とブランド初のハイブリッド専用セダン「HS」、2年後に加わったハイブリッド専用ハッチバック「CT」だ。

日本導入当時、レクサスは「微笑むプレミアム」というキャッチコピーを使っていたと記憶している。強烈な押し出しでアピールする欧米のプレミアムブランドに対抗するためのメッセージだった。この言葉を反映し、ISもGSも優しさを感じさせる造形だったという印象が残っている。

ところが、2012年1月に発表された現行「GS」から、イメージが変わりはじめた。最大の特徴は、バンパー上下のグリルをつなげ、中央から上下にいくほど幅が広くなる「スピンドルグリル」の採用だった。それ以外にも、前後のランプは「L」をモチーフとした大胆な造形になり、サイドやリアのラインもシャープになっていた。このクルマを機に、レクサスのデザインは第2世代に入ったと見ている。

「GS」からスピンドルグリルを採用した(画像は2015年11月に発売となったマイナーチェンジモデル、提供:レクサスインターナショナル)

翌年モデルチェンジしたIS、このISをベースとしたクーペの「RC」、2014年に新登場したクロスオーバーSUVの「NX」、その翌年に日本初登場となったフラックシップSUV「LX」と現行RXが、この第2世代に属すると思っている。

特にNXは、ブランニューということもあって表現が明確で、スピンドルグリルは上下に大きく開き、ヘッドランプは吊り上がり、SUVらしい力強さを表現する前後のフェンダーラインは角張っていて、とにかくシャープという印象だった。

2014年7月に発売となった「NX」(画像提供:レクサスインターナショナル)

その流れが変わったという印象を抱いたのが、2017年3月発売のラグジュアリークーペ「LC」だった。レクサスは2012年のデトロイト・モーターショーで発表したコンセプトカー「LF-LC」を量産化するという意図でLCを開発。市販の予定がなかったコンセプトカーを商品化するにあたり、2mを超えていた全幅、極端に低かった全高を常識的なレベルに収めつつ、オリジナルを忠実に再現するためにGA-Lプラットフォームを新たに用意した。

今のレクサスを築いたラグジュアリークーペ「LC」

LCの特筆すべき点はエクステリアデザインで、豊かに張り出した前後のフェンダーを含め、キャラクターラインはほとんどなく、複雑な曲面でフォルムを構築するという、それまでの日本車にはあまり見ない造形を実現していた。前後のランプも形状は個性的でありながら控えめで、必要以上に威圧感を与えることはなかった。

レクサスのラグジュアリークーペ「LC」

LCはインテリアも一新していた。クーペというと、どうしても躍動的なデザインになりがちなところ、LCは水平基調のインパネに小ぶりなメーターパネルで落ち着いた世界観を表現。ドアトリムを走るラインもゆったりした曲線で、大人っぽさを印象づけていた。

2017年10月に登場した現行LSも、同じGA-Lプラットフォームを採用している。フラッグシップセダンだけあってインテリアは凝った意匠で、例えばドアトリムのオーナメントは、切子細工をモチーフとした繊細な造形が特徴的だった。一方、エクステリアはプレスラインを最小限に抑え、「6ライト」(前後ドアとリアウインドーの間にも窓がある)のサイドウインドーによるエレガントなシルエットを強調していて、LCからの流れを感じさせた。

レクサスのフラッグシップセダン「LS」(画像提供:レクサスインターナショナル)

優雅なルーフラインの「ES」

そして、2018年10月に発売となった「ES」もまた、スピンドルグリルやヘッドランプで個性的な表情を出しつつ、ボディサイドについては無駄な装飾に頼らず、ゆったりしたカーブを描くクーペのようなルーフラインで優雅さを強調している。インテリアについても同じで、水平基調のインパネと小ぶりなメーターパネル、柔らかいラインのドアトリムなどは、LC以来の流れを受け継いでいる。

「LC」からの流れを感じさせる「ES」のデザイン(画像提供:レクサスインターナショナル)
「ES」のインテリア

ところで、このESは、市販車としては世界で初めて「デジタルアウターミラー」を採用したことでも話題を呼んだ。サイドミラーの形状を一変させるので、当然ながらクルマのデザインにも影響を与える装備だ。筆者は先日、試乗会で実際に体験してきたので、印象を簡単に報告する。

2016年の保安基準改定により、サイドミラーに鏡以外を用いることが可能になったことを受けて開発が始まったデジタルアウターミラー。ESのデビューが近づくタイミングで実用化のめどがたったので、初めて搭載したのだという。

「ES」が市販車として世界で初めて装備したデジタルアウターミラー
外から見るとこんな感じだ

後付け感のある左右のディスプレイは、こうした経緯を象徴したものである。今後は設計当初から採用が決まるので、一体感が高まっていくだろう。ディスプレイの場所についても、現在はミラーに近い場所に置いているが、二輪車にも乗る筆者の感覚としては、メーターパネルの左右でもいいのではないかと思った。

実際に使ってみると、ディスプレイの解像度をもう少し高めて、遠近感が分かるような3D的な表現を盛り込んでほしいという要望を抱いたものの、天候や周囲の明るさに関わらず、クリアな画像が見られるところはありがたかった。

さらにデジタルアウターミラーは、状況に合わせてズームしてくれる。例えば右左折時、ウインカーを出すとカメラは望遠から広角になり、周囲の状況をより広く映し出す。デジタルならではの機能で安全性も高まりそうだ。

「UX」のカタチが第三世代のデザインとは異なる理由

そんな体験をもたらしてくれた試乗会から2週間後、今度はコンパクトクロスオーバーSUVの「UX」が発表となった。発表会場で見たUXは、LCからESにかけての流れとは少し異なるデザインを身にまとっていた。

レクサスデザインの潮流とは立ち位置が違う印象の「UX」(画像提供:レクサスインターナショナル)

顔つきは他のレクサスと共通しているものの、前後のフェンダーは力強く張り出し、ボディサイドは2本のキャラクターモールがリアに向けて跳ね上がる。黒いフェンダーアーチモールやリアコンビランプが、空力特性を考えた形状である点も目立つ。

でも、レクサスのデザインがここから再び変わっていくわけではないと筆者は思った。UXのコンセプトは「Creative Urban Explorer」。新たなライフスタイルを探求する「きっかけ」(英語ではcue、コンセプトの頭文字とかかっている)となることを目指すクルマだとレクサスは位置づける。その大胆なデザインは、コンセプトに合わせたものなのではないだろうか。

「UX」の大胆なデザインは、コンセプトを体現したものなのかもしれない(画像提供:レクサスインターナショナル)

輸入車でも、似たような考えのもとに生まれたクルマがある。ボルボのコンパクトSUV「XC40」だ。デザインの基本的なフォーマットは上級SUVの「XC90」と「XC60」から受け継ぎながら、2トーンカラーや台形を強調したキャラクターライン、プレーンなリアパネルなど、兄貴分にはない斬新なディテールを取り入れている。

ボルボ「XC40」は同社SUVシリーズの末っ子だが、兄貴分とはテイストの違うデザインを採用している

少し前にも紹介したが、BMW本社で唯一の日本人デザイナーである永島譲二氏も、SUVはデザイン面で「冒険しやすい」クルマだと話していた。ドイツ車が中心になって築いてきた、上から下まで同一のデザインでそろえるというブランディングに飽きがきているからこそ、BMWやボルボは多様化を認める路線にシフトしつつあるのだろう。

この予想が正しければ、最近登場したレクサスの2台、セダンのESとクロスオーバーSUVのUXが、異なるテイストのデザインをまとっているのは当然だ。多様な見せ方を試みるレクサスは、最新のトレンドをよく理解していると感じる。次のレクサスはどんな方向で攻めてくるのか。カーデザインには想定外の驚きがあったほうが楽しい。

その上質感はどこから生まれるのか? 安東弘樹、「MINI」の秘密に迫る!

安東弘樹のクルマ向上委員会! 第8回

その上質感はどこから生まれるのか? 安東弘樹、「MINI」の秘密に迫る!

2018.12.04

「ドアヒンジ」から感じたMINIの安心感

価格は同クラス国産車の倍? それでもMINIに惹かれる理由

BMWのブランドになっても残る独特の雰囲気

クルママニアの安東弘樹さんと話していると、しばしば「クルマの上質感」が話題になる。例えば、安東さんが買おうかどうか悩んでいる「MINI」(ミニ)の「クラブマン」というクルマでいえば、後席ドアの閉まる音すらも上質だと感じるのだそうだ。

ミニというブランドの、何が安東さんに訴えかけるのか。同ブランドはBMW傘下なので、BMWの100%子会社であるビー・エム・ダブリュー株式会社を一緒に訪れ、安東さんに取材してもらった。対応してくれたのは、BMWブランド・マネジメント・ディビジョン プロダクト・マーケティングでプロダクト・マネージャーを務める丹羽智彦さんと広報部製品広報マネージャーの前田雅彦さんだ。

ビー・エム・ダブリューを訪れた安東さん(取材風景の撮影:安藤康之)

クルマ選びを左右する質感の問題

ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん(以下、丹):ミニの上質さって、どういうところでお感じになるんですか?

安東弘樹さん(以下:安):ドアヒンジ(※)1つとってもそうですし、ドアの質感とか、特に後席を私はよく見ていて。前席は、最近の日本車も頑張っているんですけどね。例えばヒンジの鍛造、前は鍛造だけど後ろは違うとか、マニアックな所を見るので、やっぱり、そこは質感に表れてくるじゃないですか。

※編集部注:ドアヒンジとは、ドアとクルマをくっつけている部品のこと

:装備なんかは「アテンザ」(マツダのフラッグシップ車。安東さんは先日、新型を試乗した)も頑張っていて、自分としては必須のシートベンチレーション(背もたれと座面の広範囲に小さな吸い出し口があり、空気の流れを作ってくれる機能のこと)が付いたし、値段も割安なんですけど、ステアリングの取り付け剛性だとか、後席ドアの重厚感とかって、どうしてもかなわない部分が国産車にはあって。

安東さんがジャガー「F-PACE」、ポルシェ「911 カレラ 4S」に続き、3台目に買おうと悩んでいるクルマがミニ「クラブマン」(画像)、マツダ「アテンザ」、トヨタ「カローラ スポーツ」の3台であることは以前、お伝えしたとおり。ただ、この「次のクルマ問題」については、自宅の駐車スペースに関する新たな課題が浮上したり、別のクルマが候補に上がってきたりするなど、事態は紛糾している模様。そのあたりは、この連載でゆくゆくお伝えしたい

:例えばベンチレーションなんかは、前々から「付けてください」とマツダさんにはいっていて、「安東さんのために付けたので、責任もって買ってください」と冗談でいわれたくらいなんですけど、じゃあアテンザを選ぶかというと、やっぱり、ミニの質感を捨てられないというか。

実際のところは分かりませんけど、ぶつかるとか、いざという時に、あのドアなら衝撃を避けられるんじゃないかなと思ったりもします。やっぱり、NCAP(自動車の安全性能を比較評価する自動車アセスメントのこと。星の数で評価する)だけでは、分からないじゃないですか。星の数とリアルワールドは違うと思うので。そういう意味でも、ミニの質感の高さが捨てられないんですよ。

価格差はあっても、クルマの上質感は捨てられないと安東さん

:一番知りたいのは、簡単にいうと、何がそう感じさせるのかということ。あの高品質感、重厚感、例えばドアを閉めた時の「ガチッ!」という音もそうだし、それはドアの自重ではないと思うんですけど。

:ドアの部分に関しては、たぶんBMWも同じで、グループとしてのポリシーだと思うんですけど、ヨーロッパで走るクルマとしては、「低速域でぶつかったから大丈夫だった、高速域ではダメだった」では許されないので、重厚感を持たせていると思います。

あと、見てもらえば分かりますが、純粋にドアが分厚いんですよ。そこも、質感としては当然、出てきます。ただ、一部のお客様には「重いよね、ドアが」といわれてしまうんですけど、その部分を分かっていただければ。

ビー・エム・ダブリューの丹羽智彦さん

:5年ほど前、会社の同期が小さいクルマを買いたいというので、一緒にいろいろとクルマを見たんですね。「ポロ」(フォルクスワーゲン)とか「マーチ」(日産自動車)、「ヴィッツ」(トヨタ自動車)なんかを見ていて、彼は「ポロはドアが重くてヤダ。日本車は軽くていい」っていってて、最初はそっちに傾いてたんですけど、彼は軟派な奴なんで、「女の子には輸入車の方がアピールできるんじゃない?」っていったら、「えっ、そうなの!?」ってことで、結局は輸入車を買ったんですけど。

で、2年くらい乗った後、次のクルマはどうしようって話になって、また見て回ったんですよ。そしたら、今度は日本車のドアに「うわ、こんな軽いの!?」となって、そこで気づくんですよね。2年乗って初めて、重い方が安心感があると気づく。こういう部分って、所有してみて初めて分かる部分なんだなと感じたんですけど、ミニではどうやってお客さんに訴求してるんですか?

フォルクスワーゲンの「ポロ」(画像は現行型)

:国産からミニへの買い替えを検討されるお客様は、どうしても国産のマインドセットでいらっしゃいますよね。安東さんの話ではないんですけど、そういうところって、国産の強さでもあると認知はしています。ただ、輸入車では別のところを見ていただけるよう、重厚感などは説明することにしています。

:どのくらい伝わるものなんですか。

:最初は、そう簡単ではないと思いますね。

:彼(ポロを買った同期の方)も「モテるよ」といわなければ、日本車を買ってたと思いますよ。だから、「ステータスシンボルは必要ない」という人に、輸入車を勧めるのって結構、難しいですよね。

:例えば、「走ってて楽しい」って分かりにくいんですよ。実際はいろんな要素が絡んでいて、最後に感触として「楽しい」と分かるんですが、では具体的に、という説明が難しいところで。そこは、メーカーとしても考えるべきポイントかなと思います。特にミニは、国産から結構、お客様が入っていらっしゃるので。そこは強化しなければいけないし、試行錯誤してやっているところです。

ミニは適正価格?

:あと、知れば知るほど、ミニの価格が適正であることは分かるんですけど、国産車にしか乗ってこなかった人にとってみれば、簡単にいうと、オプションをいろいろ付けると、同じセグメントの国産車と比べて倍くらいの値段になりますよね?

:ですね。同じ値段で2つくらい上のセグメントの国産車が買えるので、「なぜミニを買うの?」とはなってしまいますよね。

:まさに、ミニとアテンザが同じくらいというか、一方はマツダのフラッグシップなのに、むしろミニの方が高かったんですよ、私の場合。「クラブマン」で、ディーゼルエンジンの「クーパーSD」(というグレードのこと。ディーゼルエンジンを搭載。最初の価格設定は437万円)にして、好きなオプションを満載にすると、税金を含め600万円くらいになってしまって。で、アテンザは全部付けて500万円程度だったんですよ。

安東さんの見積もりだと、ミニ「クラブマン」はマツダ「アテンザ」(画像)より100万円くらい高くなったそうだ

:それでも、私は悩むし、結局、最終的にはミニにしそうな気がするんですね。アテンザもものすごくいいクルマで、マツダの開発の方も「輸入車に何とか(追いつきたい)!」って気持ちを持っているし、マツダの試乗会に行くと、ついつい話が長くなってしまうんですけど。でもやっぱり、「そっちに思い切れない(マツダが海外のプレミアムブランドのような方向性に振り切れない、という意味)のは、ミニのようなブランド力があるかないかなんです」というようなことを、マツダの方もおっしゃっていて。

BMWグループに入りミニは変わったか

:でも、ミニも最初は大衆車から始まっていますよね? 今はBMWで作っていますけど、そのことって、ブランドイメージに少なからず関係あると思います?

:やっぱり今のミニって、先代のミニというか、少し前のモデルに比べると、非常にBMWの部分が入ってますね。どちらかというと、「ゴーカートフィーリング」(ミニの走り味の代名詞となっている言葉)って、前の世代の方が、より感じられるのかなと思うんですけど、そういう意味で少し、クルマとしても、スタイルは変えてますね。

画像はMINIの基幹車種である「ハッチバック・モデル」の「3ドア」。このハッチバックには3ドアのほか、「5ドア」と「コンバーチブル」(オープンカー)というラインアップがある

:正直、ミニとBMWが頭の中で結びついてるお客さんって、どのくらいいらっしゃるんでしょう? ブラッと来たお客さんで。

:どうでしょう?

ビー・エム・ダブリューの前田さん(以下、前):半分くらいはいらっしゃるかな?

:それ(BMWがミニを作っていること)を知ると、値段とか、納得感あるんですかね?

:良し悪しですけど、BMWが作っているということで、「すごいんだ」とか、「ちゃんとしてるんだ」と思っていただけたり、サービスも安心と思っていただける一方で、ミニのブランドが薄れてしまう懸念もあります。ですから、弊社の中でもブランドは完全に分けていますし、お店も分けてます。例えば、弊社ではミニのオフィスは“ミニっぽく”したりもしています。

:そこは、しっかり分けてますね。ロジスティクスなんかは一緒ですけど、ブランドのマーケティング戦略とか、商品ポジショニングとかは完全に別々で、ディーラーさんも別々。でも、BMWの要素はミニにも入れつつやってます。

ミニ「ハッチバック・モデル」の「5ドア」
BMW「X5」。ミニはBMW傘下のブランドだが、両者のカラーは全く違う

この後、話題はミニの商品ラインアップへと移っていく。安東さんからは具体的かつマニアックな要望・質問が続出したが、その模様は次回、お伝えしたい。