「カルチャー」の記事

YouTube Musicの時代だから、復活する「Winamp」に期待すること

山下洋一のfilm@11 第1回

YouTube Musicの時代だから、復活する「Winamp」に期待すること

2018.11.19

iTunes以前にデジタル音楽革命を起こしたWinampが2019年に復活予定

開発者が自分たちの欲しいソフトウェアを形にしたのがWinamp

2019年版はモバイルとストリーミングでモダンなアプリに

Winamp」が復活する。AOL時代のようにブランド名だけで存続するような復活になる可能性は否めない。でも、Winampはかつて、Pandoraにも、Spotifyにもなれる存在だった。1990年代後半にWinampを使っていた1人としては、多くのギークを魅了したトガったWinampの復活を期待せずにはいられない。

爆発的に成長した独立時代、AOL傘下になって衰退

Winamp復活を報じたTechCrunchの「Winamp returns in 2019 to whip the llama's ass harder」によると、新生Winampはモバイルとストリーミングに活路を見いだそうとしている。Winampの権利を取得したRadionomy社のAlexandre Saboundjian氏 (CEO)は、デスクトップ版について「すでに勝負はついた」と言い切っている。音楽の楽しみ方の主流がモバイルとストリーミングに移行しているのだから、それらをターゲットにするのは当然だ。ただ、それだけでは「Winamp」という名前で、Winampを思わせるデザインのメディアプレーヤー・アプリが登場するだけで終わりそうな不安を禁じ得ない。では、Winampを冠するのに何が必要なのかというと、オリジナルWinampが備えていたカルチャーだと思うのだ。

Winamp 6の公開に備えて、まずは開発版のリークがユーザーの間に広まっている不安定な現状への対策として、公式ベータ版のWinamp 5.8を10月末に公開、開発が実際に進んでいることをアピールした

今では、「Winampを使ったことがない」という人も多いと思うので、まずはその歴史を簡単に紹介しよう。

Winampは、ユタ大学の学生だったJustin Frankel氏とDmitry Boldyrev氏が、MP3デコードエンジンをWindowsユーザーインターフェイスに統合したシンプルなオーディオプレーヤー(ソフトウェア)から始まった。バージョン1.0のリリースは1997年、音楽はCDで聴く時代に、学生を中心にMP3形式のオーディオファイルが普及し始めた頃だ。MP3なら数百曲・数千曲の音楽を全てPCに入れて管理できる。CDを入れ換えることなく、手軽に音楽ライブラリを楽しみたい……そんなWindows PCユーザーのニーズに応えたプレーヤーだった。

Winampは最初のMP3プレーヤーソフトではない。しかし、Winamp以前にあったMP3プレーヤーは、オーディオデコーダー然としていたり、音楽プレーヤーとして使いにくいツールばかりだった。Winampは、今で言う音楽を聴く"体験"にフォーカスして作られた最初のMP3プレーヤーと言える。Winampを作った理由について、Frankel氏は「自分が欲しいソフトウェアを作った」と述べている。その後、Winampは数多くのファイル形式に対応、プラグインを使った拡張、スキンによる外観のカスタマイズ、幅広いUSBデバイスのサポートを追加していく。

今でこそOSベンダーが提供するメディアプレーヤーでも不自由を感じないが、音楽CDが主流だった20年前は、違法ダウンロードに結びつけられてMP3が危険視され、著作権保護技術が施されていないデジタル圧縮ファイルのサポートは限定的だった。そうした中でWinampは、AOLに買収されるまで、小さな開発チームが自分たちが欲しいと思ったプレーヤーを形にし続け、不自由を自由に変えてきたから、多くのギークから支持され、ユーザーを爆発的に増加させた。

つまり、環境や常識に囚われず、自分達もユーザーの1人である開発者が、自分達が欲しいと思っているソフトウェアを形にしてこそWinampなのだ。

開発していたNullsoftが1999年にAOL傘下に収まってから、トガっていたWinampが瞬く間に丸くなった。AOLは同時期に当時のネット音楽サービスでトップだったSpinnerも買収し、Nullsoftと開発チームを統合した。うまく機能すればWinampに音楽サービスを融合させる相乗効果が期待できたが、2つのチームはなじまなかった。Nullsoftはわずか4人。ユーザー数はWinampの方が多かったが、すでに大規模なチームになっていたSpinnerが予算やプロジェクト運営の主導権を握るようになって、Nullsoftはかつてのように自分たちのアイディアを形にできなくなくなった。

AOLにおいてもFrankel氏は、中央サーバを持たないファイル共有クライアント「Gnutella」を開発するなど、常識にとらわれないエンジニアであり続けた。そんなFrankel氏をAOLは煙たがるようになり、Frankel氏もAOLインスタントメッセンジャーの広告をブロックするプログラムを書いたり、AOLによるNullsoft買収の4年目のアニバーサリーに「WASTE」という暗号化を用いたファイル共有ネットワーク・ツールをリリースしたりするなど、AOLに反旗を翻すような行為を繰り返した。

開発者だけではない。そもそも当時Winampを好んだ音楽ファンやギーク達は、Time Warnerと合併して巨大メディア企業化するAOLを嫌悪する傾向が強く、NullsoftがAOL傘下になったことで急成長のコアとなったユーザーが離れ、Winampコミュニティも骨抜きになった。エピソードを1つ紹介すると、WinampのインストールにAOLのサービスをバンドルしようとしたAOLに対してFrankel氏が激怒。「WinampのユーザーはAOLなんか求めていない! 彼らはAOLのことをクソだと思っているんだよ!」と言い放った。2003年末、Winamp 5のリリースを見届けてFrankel氏はAOLを離れた。

当時Winampはメディアプレーヤーの強力な製品ブランドになっていたため、Frankel氏が去ってからもアクティブユーザーが増え続け、10周年となる2007年に約9,000万人にまで伸びた。しかし、音楽市場に変化を起こす影響力を持ったユーザーはWindows市場にも浸透し始めたiTunes (とiPod)へと移っており、ピークを過ぎてからWinampは急速に衰退し、2013年にNullsoftが開発および配布終了を発表した。

成熟市場ではユーザーが少ないが、Winamp 5.8でも必要な容量は35.9MBと軽量であるため、グローバル規模では今も約3,000万人が利用している

目指すのは「音楽版のYouTube」

Winamp 6.0がどのようなソフトウェアになるのか、Radionomyは断片的なヒントしか公表していない。Radionomyは、誰でもネットラジオを開設できるオンラインラジオ配信のプラットフォームを運営する。数万規模のステーションが登録されており、同社がWinampを買収した際には共に取得したSHOUTcast (約50,000のネットラジオ局を抱える)の方が欲しかったとも言われた。

Saboundjian氏は、モバイルにおいてユーザーがオーディオプレーヤー、ネットラジオ、ポッドキャストなど複数のアプリを切り換えながら使っているのをWinamp 1つにまとめるとしている。その点に関しては賛否両論だ。FacebookがMessengerを分離したように、1つのアプリが多機能であるより、サービスごとにアプリが独立していた方がモバイルでは使いやすいという声もある。90年代後半にMP3プレーヤーが求められたほど、今日のモバイルユーザーが十徳ナイフのような音楽/オーディオ・アプリを強く求めているとは思えない。

Radionomyがネットラジオをもっと普及させたいと考えているのであれば、同社はWinampのイメージに囚われず、自分たちが欲しいモバイルアプリやサービスを形にした方が、よりWinampらしいWinamp 6になるのではないだろうか。

日本でラジオはオールドメディア化して縮小傾向にあるためイメージしにくいと思うが、欧米でラジオは今でも健在だ。英国だと90%以上の人がラジオを聴き、若い世代も例外ではない。欧米では音楽を中心にたくさんのラジオ放送を受信でき、様々な番組を楽しめる。ニッチなトピックを含めて自分好みの番組を見つけられるから、多くの人の生活にラジオがとけ込んでいる。だから、より多くの番組を、多デバイスに提供できるネットラジオに対する需要は大きい。

誰でもラジオ番組を持てるRadionomyが狙っているのは、音楽をかけられて、Podcastのように自由な「音楽版のYouTube」のような存在だ。それなら「YouTube Musicがすでにある」という声が聞こえてきそうだが、残念ながらYouTube MusicはYouTubeが高品質なビデオコンテンツを作り出すユーチューバーを生み出したような存在にはなっていない。むしろRadionomyはそこにフォーカスしてWinampをデザインした方が、かつてのWinampのようにユーザーコミュニティの支持を得られる可能性があるように思う。

RadionomyはWebサイトなどに「Cast、Play、Sell」というスローガンを掲げている。メディアプレーヤーより、もっとソーシャルなソフトウェアをイメージさせる。音楽ファンだけではなく、アーティストや配信者のチャンスを広げるプラットフォーム。WinampがMP3音楽プレーヤーの草分けとなった時も、人々が音楽に触れ、音楽を話題にする環境を作ったことが、ユーザーの爆発的な拡大につながった。現在の開発チームも、そんなイメージで「Cast、Play、Sell」を掲げていると期待したい。

Nullsoftは「It really whips the llama's ass! (ラマの尻をしばく)」というスローガンでWinampをインターネットコミュニティにアピールした。Winamp 6のメーリングリストの登録を呼びかけるWebページで「登録プロセスではラマに危害は及ばないが、いずれしばく!」とRadionomy

「山下洋一のfilm@11」は、シリコンバレーを中心にテクノロジー企業の勃興を追い続けてきた筆者が、独自の視点で米国の”今のリアル”を切り取る連載コラムです。

伸び悩むアルコール飲料市場で、クラフトビールが注目されている理由

伸び悩むアルコール飲料市場で、クラフトビールが注目されている理由

2018.11.08

近年、「クラフトビール」が市場で存在感を増している

大手・キリンも自社レストランなどでクラフトビールを提供

人気の高まりの背景について、SVB社長に聞いた

日本の酒文化でもっともポピュラーな飲料といえばビールだろう。一般的にビールというと、淡い麦色で強い炭酸が入っており、キレがあるものが多い。商品によって細かい違いはあるが、コンビニやスーパーで販売されていたり居酒屋で飲めたりするビールはほとんどがこのタイプだ。

一方で、そうした従来のものとは異なるイメージのビール――クラフトビール――がここ数年、存在感を増している。クラフト(手工芸品)という名前の通り、小規模なブルワリー(ビール醸造所)で職人が工夫をこらし丁寧につくりあげたビールのことである。現在では大手ビール会社も参入し、クラフトビールを提供するレストランも次々にオープンするなど、クラフトビール市場は順調な伸びを見せている。

なぜ今、クラフトビール人気が高まっているのか。市場の成長と共に今後、どんな展開を見せるのか。キリンビールが運営するブルワリー併設レストランSVB TOKYO(スプリングバレーブルワリー)の代表取締役社長を務める島村宏子氏を取材した。

SVB TOKYO 代表取締役社長 島村宏子氏。キリンビール運営のブルワリー併設レストランSVB TOKYO(代官山)で取材を行った。

地ビールブームを越えたクラフトビールの今

――クラフトビールという言葉はかなり定着してきていますが、曖昧なイメージで捉えている方も多いと思います。あらためて定義について教えていただけますか。

島村:酒税法による定義もありますが、そうするとかなり狭い部分しかクラフトビールと呼べなくなってしまいます。ですので今回は、私たちが思うクラフトビールについてご説明します。クラフトビールとは、ブルワリー(ビール醸造所)やつくり手の個性、思いが詰まった、独創的で奥深いビールのことをいいます。

副原料にいろいろな素材を使うなど、チャレンジできるのもクラフトビールの特徴といえます。たとえばSVBでは塩を使ったゴーゼというビールや、マスカットを使ったフルーツタイプのビール、バラを漬け込んだビールなど、今まであまりなかった副原料を使ったスタイルにチャレンジしています。

――以前、地ビールがブームになったこともありました。地ビールもクラフトビールといえるのでしょうか。

島村:地ビールは94年に解禁され、町おこしの一環として盛り上がりました。地ビールもクラフトビールと呼んでいいとおもいますが、以前の地ビールと今のクラフトビールは少し違います。クラフトビールをフックに町おこししようとしていた頃とは違って、さらに社会貢献的な意義も付加したブルワリーや若い生産者が増えています。こうした流れは海外とも似ています。

――具体的にはどんなブルワリーがありますか? 

島村:たとえば(岩手県の)遠野です。私たちもお世話になっているホップの産地ですが、こちらの遠野醸造さんなどは国産ホップのブランド化を進めており、自分たちでもブルワリーを立ち上げています。また、大阪のうめきたプロジェクトでは、梅田のど真ん中でホップ作りにチャレンジされています。

クラフトビールの広がり

――キリンビールでもクラフトビールをつくるブルワリー併設のレストラン・SVBを運営されています。どんな思いでオープンされたのでしょうか。

島村:キリンビールの社員は当然、ビールが大好きです。ただ、一般的なビールは、ワインやウイスキー、日本酒や焼酎などブランドとして立ったものに比べると、どうしてもスタイリッシュさに欠けるところもありました。実はビールも奥深い飲み物なんだということを知ってもらい、新しいビールの未来を作っていきたいという思いでオープンしたのがSVBです。

SVB TOKYOの店内には醸造用のタンクがある

――代官山以外にも横浜、京都、銀座と4店舗展開されています。それぞれのコンセプトなどを教えてください。

島村:代官山店は革新性がテーマです。新しいスタイルを創造するべく、素材や作り方などの情報を海外から入手して取り組んでいます。たとえば出汁を使ってみたり、ワインのように樽で熟成してみたり、いろいろなことに挑戦しています。キリンビールにも味の知見があるので、それらを融合することで新しいクラフトビールの楽しみを広めていきたいと考えています。

SVB YOKOHAMA(左)、SVB KYOTO(右)

横浜店はビール発祥の地ということもあり、歴史や伝統をテーマに。京都店は日本の伝統の美意識を革新的に伝えること。そして銀座はふらりと立ち寄れる場所をコンセプトにしています。

――客層はいかがですか。

島村:本当に様々な方に楽しんでいただけています。特に最近は若い女性がクラフトビールを楽しむ姿を見ることが増えました。SVBもそうですが、先日銀座で開催したフレッシュホップフェストでも思った以上に若い女性が多かった印象です。ワインや焼酎ブームも女性が牽引しましたが、そういった流れがクラフトビールにも起こりつつあるのかもしれません。

意外な料理とのペアリング

――SVBでは様々な種類のクラフトビールを丁寧な解説つきで楽しめるだけでなく、ワインのように料理とのペアリングで楽しむこともできますよね。

島村:色、味、香り、それらを料理と共に楽しんでいただくのがSVBでのスタイルです。注ぎ方にもこだわっていますし、ものによってはワイングラスでお出しするなど、従来のビールのイメージと違う驚きも楽しんでいただければと思っています。

――ビールとおつまみの組み合わせを6種類一気に楽しめるペアリングセットはユニークな試みだと思いました。

6種類のビールにあうおつまみを楽しむ「ペアリングセット」

島村:ビールといえば枝豆や揚げ物のイメージですよね。その組み合わせもおいしいのですが、それだけではなく魚料理や肉料理に合うビールもあるのです。たとえば濃厚なソースを用いた肉料理の場合、通常のビールは負けてしまうのですが、クラフトビールなら受け止めることができます。

また、ジャズベリーというフルーティーなクラフトビールがありますが、最初はスタッフもそれが肉料理と合うとは思っていませんでした。ところが試してみたところ、まるでロゼワインのように肉料理に合わせることができたのです。

――ビールでそういったペアリングを楽しめるのは面白いですね。驚きと発見があります。

島村:まさに私たちがご提供したいのは驚き――ビアサプライズなんです。飲み比べやペアリングもそのための一つの表現です。SVBのスタッフはビールファンを一人でも増やしたいという使命感で仕事をしています。ブルワリー同士も交流が多く、よく他のブルワリーさんからの相談に乗ったりもしているんですよ。そうやって切磋琢磨しているところも、従来のビール会社の競争とは違う部分かもしれません。

――今後のビジョンやクラフトビールの展望についても教えてください。

島村:たくさんのブルワリーさんと連携しながらビールの未来を作っていきたいですね。現在、キリンビールではクラフトビールを提供するためのタップマルシェという小型の機械を飲食店向けに提案しています。それが広がっていくことで、クラフトビールを楽しむ場作り、機会作りにつながるのではと思っています。

調査をすると、首都圏の88%の方が「クラフトビールを知っている」と答えてくださるのですが、そのうち一度でも飲んだことがある人はまだ20〜25%程度しかいません。逆にいうと、クラフトビールを知っているけれどまだ飲んだことがない人がたくさんいるわけです。そうした方に今後、どう提案していけるかがポイントだと思います。

***

ブルワリーの個性や副原料による味の違い、さらに料理とのペアリングといった楽しみ方は、これまでの一般的なビールにはあまり見られなかったクラフトビールならではのものである。同じビールと名のつく飲料ではあるものの、クラフトビールは従来のビールの延長線上ではなく、まったく別の飲み物として支持されているのだろう。一方で、手軽さや価格面、知名度では居酒屋での「とりあえず生」にはまだまだ及ばない。クラフトビール市場の成長を今後も見守りたい。

男性の化粧、変化する「常識」 日本発・メンズコスメブランドの狙いは

男性の化粧、変化する「常識」 日本発・メンズコスメブランドの狙いは

2018.11.07

男性向けコスメブランド「FIVEISM×THREE」登場

身だしなみの一環として違和感ない使用感を設計

同ブランドから「男性のメイクアップ」を文化に

女性の「化粧」、男性の「身だしなみ」。現代社会のステレオタイプな常識が、静かに変わろうとしている。

この夏、ポーラオルビスHDのACROが、男性の使用に特化したコスメブランド「FIVEISM×THREE」(ファイブイズム バイ スリー)を発表し注目を集めた。多くの男性にとって化粧は縁遠いもの、という感覚があったのだが、実はこうした「常識」も、徐々に変わりつつあるという。

今回は、メンズコスメブランド「FIVEISM×THREE」の現状や、男性にとっての化粧について、同ブランドを擁するACROの御後章社長と、同ブランドのオフィシャルメイクアップアーティストのHIROKI氏にお話を伺った。

ACROの御後章社長(右)、「FIVEISM×THREE」オフィシャルメイクアップアーティスト・HIROKI氏(左)

――「FIVEISM × THREE」の商品は、伊勢丹新宿店メンズ館など百貨店を中心に販売をスタートしていますね。評判はいかがですか?

御後社長
伊勢丹新宿店メンズ館に関して言えば、想定をやや上回る注目をいただいています。一番人気は「ネイキッドコンプレクション バー」、いわゆるファンデーションです。我々としてもこの商品をイチオシにしていますし、お客様からみてもトライしやすいそうですね。

HIROKI氏
現在売り場に来ていただいている男性は、メイクアップに興味を持っていただいている方で、自分に合ったものが欲しいという明確なニーズを持っています。それに対して、「ネイキッドコンプレクション バー」は色展開が15色と豊富ですから、これが売れ筋になっているのではないか、と思います。

同ブランドを代表する商品のひとつ「ネイキッドコンプレクション バー」

――15色というと、女性のファンデーションより種類が多いですね。やはり男性の肌色のほうがバリエーションが豊かだったということでしょうか。

御後社長
そう思いませんか? 男性の中には、かたや日焼けして健康的な小麦色の肌の方がいて、その一方で女性と同じくらい肌に気を遣って美白している方もいるように、個々のライフスタイルによって、肌に対する意識に幅があります。

HIROKI氏
「ネイキッドコンプレクション バー」の標準色は8番で、番号が大きいほど濃い色になっていくのですが、7番、8番が今の売れ筋です。また、美意識が高く肌のお手入れをされている方が多いので、6番もよく出ています。

御後社長
まだ実売データの集計などはないので所感の段階ですが、ブランド立ち上げの段階でお越しいただいているのは美意識が高い方々なので、肌に対する意識が高いためか、思ったよりも明るめの色が出る傾向にあります。また、グローバル展開するにあたって、色の幅はさらに広げないといけないかもしれないですね。

――想定ターゲットと来店者は一致していますか? それとも差異がありましたか? 

御後社長
「FIVEISM×THREE」では、20代以上の美意識が高い男性をコアターゲットにしており、極端に年齢を絞ることはしていません。ただ、若年層の方のほうが興味を持っていただくことが多いようです。ただし、伊勢丹新宿店メンズ館の動向は例外です。感度が高い人が日本一多く集まる店舗なので、年配の方から外国人の方まで幅広く来店されているそうです。

「男性の化粧」、市場の反応は?

――近代日本では、「男性の化粧」というのは一部の職業に限定された行いであったように感じます。狭い範囲の話ですが、社内の同僚や上司(30~40代)は化粧を体験したことはなく、中には抵抗を持っている人もいました。市場の反応はいかがですか? 

「FIVEISM×THREE」商品一覧

御後社長
私もこの商品を通じて学んだのですが、いまの20代の男性は、自然にメイク用品を使っているということです。コンシーラーやファンデーションなど、女性用のものを使っている方もいらっしゃいます。

若い方々のほうが(「FIVEISM×THREE」の商品含めメンズコスメ商品を)受け入れやすいということかもしれません。

――このブランドができる前から、若年層の男性には受け入れる下地があったのですね。

御後社長
そう思います。また、女性用化粧品は、当然ながら女性の肌の特性に合わせて作られていますので、男性の肌に乗せたときにパフォーマンスを発揮しきれません。私も自社の女性用ファンデーションが発売される際は商品を使ってみるのですが、その時の使用感と、「FIVEISM×THREE」のそれを比較するとまったく違うんです。

男女の肌の違いは、やはり皮脂のバランスにあります。「FIVEISM×THREE」は男性の肌に合わせて作られているので、肌に自然とフィットし、つけている感覚がありません。私どもの商品をお使いいただいている方々も、これまで女性用の化粧品を使っていた時の感触と異なるために、選んでくださっていると感じます。

――HIROKIさんもそう感じますか?

HIROKI氏
そうですね、関心があるというよりは、若い世代の方は化粧を「当たり前」にとらえていると感じます。いまはジェンダーフリーな社会になっていて、「女性だから」「男性だから」というコミュニケーションが少なくなっています。ファッションもそうですね。スキンケアや香りを取り入れたりしていても、若い世代は「美意識が高い」とは思っていない。それが当たり前なんです。 

「男性のメイクアップ」の印象を変えていく

――皮脂分泌に対する調整のほか、メンズコスメだからこそ行った商品設計はありますか?

御後社長
ひとつ大切にしているのは、女性が使う化粧品の「行為」とは絶対的な違いが出るように設計しています。女性用のファンデーションであれば、コンパクトを開けてパフを持ち、顔に当てて塗布しますが、この動きが社会的に女性的なイメージを持っているので、男性には抵抗があると考えました。男性の普段の身だしなみは、髭を剃る、歯を磨くなど「握って使う」行為なので、ネイキッドコンプレクション バーはスティック状にし、そのまま塗布できるようにしています。

ネイキッドコンプレクション バー

いわゆるアイシャドウである「アイシェードトランス」に関しても、パッケージの下半分にあえて持ち手になる部分を付けています。それによって、普段男性が持ち歩くライターや携帯電話のような感覚で使っていただけるようにしています。デザインも含めて男性も違和感なく、それこそヒゲをそり歯を磨くように使っていただくことを目指しています。

アイシェードトランス

また、商品の仕様とは違うのですが、先ほどおっしゃられた「化粧に抵抗のある男性」がメイクアップに対してお持ちの印象を変えていくことも大切だと思っています。

――男性のメイクに対する抵抗感、固定観念はあるかと感じます。

御後社長
先ほど若い年代の方のお話をしましたが、最近はジェンダーフリー化していて、女性の男性っぽいファッション、男性の女性っぽいところを取り入れたファッションが自在に登場していて、入れ替わりがすごく早い。ですが、僕らの世代はどこかでそうした動きにはまだ抵抗感を持っているように思います。

最近は私自身が同年代の男性の前で、「FIVEISM×THREE」の商品を使ってみせることも多いです。みなさん、最初は「化粧をするのか…」と身構えるのですが、ささっとやってみせると、「なんだ、簡単だし、それほど大きく変わらないのか」と仰います。

――もしかして、男性の中には、化粧品を塗ると例えば肌が極端に白くなるようなイメージがあるんでしょうか。

御後社長
そうですね。顔の肌は白く、まぶたが青く、唇がピンクになるようなイメージをお持ちの方が多いようです。

「FIVEISM×THREE」のアイテムでも、唇に塗る「リップディフェンス」にブラックがあるんです。モノだけを見ると、塗ったらロック歌手のように唇が真っ黒になるのでは、という反応があるかもしれないですね。男性全般で言えばメイク用品に触れる機会が少ないので、見たままの色が発色すると思う方が多いのですが、このブランドの商品は基本的に発色は緩やかで、このブラックも唇の色を締める程度です。

リップディフェンス(ブラック)

これまでお話してきたような思いをお伝えするために、弊社ではメイクアップではなく「センスアップ」という言葉を用いてコミュニケーションを行っています。言うなれば、洋服と同じような感覚で化粧品を取り入れてほしいということです。

今、私もハイライト(鼻筋などに塗って顔に立体感を出す工程)を入れて、アイブロウを描いていますが、それとわからないくらいだと思います。日常に化粧を取り入れることは難しくないし、さりげなく行えるということを、センスアップという言葉と共に伝えていきたいです。

化粧がはじめての方にオススメするなら? との問いに、御後社長が選んだのは「アイブロウスティック」。スポーツの怪我や加齢などで欠けてしまった眉を補う程度にさっと入れられる。さりげない発色で描き味も良好という。
HIROKI氏のオススメは、「インジーニアスタッチ バー」。女性であれば化粧の仕上げに使うフェイスパウダーがスティックになったもの。男性は皮脂が多く「テカり」がちだが、これ1本で清潔感あるさらっとした肌を手に入れられるのが魅力という。「ネイキッドコンプレクション バー」に重ねても使える。

――冒頭お話されていた「ネイキッドコンプレクション バー」以外に売れ筋があれば教えてください。

御後社長
「ネイルアーマー」、マニキュアの売れ行きがいいみたいですね。

ネイルアーマー

HIROKI氏 
はい、こちらの想像以上にネイルアーマーの指名買いが多かったですね。プレゼント用途などももちろんあるんですけれども、「ネイルを見に来た」というお客様が多かったです。

前から男性用のネイルサロンもありましたし、いわゆる身だしなみとして、手元が見られているという意識が浸透しているのかもしれません。一時期はほぼ全店で欠品しているくらい、売れ行きは好調でした。

――人気色は?

御後社長
特に人気のあるのは01番。見た目は淡いピンク色ですが、塗ると透明に近い発色で、ツヤが出ます。女性用ネイルではすでに市場にあるような色味ですが、これまでネイルカラーを買って塗るという行為は男性にあまり浸透していませんでしたから、目新しかったのかもしれません。爪を綺麗に見せたい、身だしなみに気をつけたいという意味からすると、とても使いやすい色ですね。

その他のカラーについても、自己表現としてやってみたいという方が潜在的にいらっしゃったのかもしれません。それに、女性用のネイルカラーの多くは、男性が使うには抵抗のある色が多いとも思います。

御後社長のネイル。複数のカラーを、ラフに塗布していた。「ネイルに限りませんが、(男性のメイクは)仕上げが多少荒くても、自然に仕上がれば様になります」

――その他のアイテムも含め、カラー展開の方針は?

御後社長
ブランド立ち上げ当初なので、まずはベーシックな色をそろえました。今後はアグレッシブなカラーも展開していく予定です。

――11月下旬には東京・丸の内にTHREE含め2ブランドを擁した路面店を出されますね。今後の展開について、最後にお聞かせください。

御後社長
世の男性全員が、一瞬にして「FIVEISM×THREE」を買うようになる、という状況は、すぐには生まれないと思っています。なぜ伊勢丹新宿店メンズ館から、なぜ有楽町の阪急メンズ東京から販売をスタートしたか。そこが、日本で一番おしゃれで、感性のアンテナが高い人々が集まる場所だからです。

今のところ、大都市を中心に店舗を置いて情報を発信し、そこから伝播していくようなイメージで展開していければと考えています。全国、ひいては世界に薄く広く存在しているニーズを持つ人たちとはWebでつながるべきと思っていますので、ECで展開していくのがよいだろうと感じています。

このブランドから始まり、男性の化粧が文化として根付き理解が深まってくれば、もっと展開を広げてもよいとは思います。

――ありがとうございました。