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コーヒーマシンとウォーターサーバーが「合体」 開発の狙いは?

コーヒーマシンとウォーターサーバーが「合体」 開発の狙いは?

2018.10.18

ネスカフェ日本とアクアクララがマシンを「合体」

水もコーヒーも使えるプランで需要の拡大を狙う

コーヒーの給水を自動化したことで新たな設置可能性も

ウォーターサーバーとコーヒーマシン。オフィスや家庭で利用されるふたつの機器が「合体」した新製品が発表された。

これは、ネスレ日本とアクアクララが、両者の製品をドッキングするために共同開発を行い、実現したもの。10月17日より予約受付を開始し、11月1日から発売する。

両社とも機器を無料で貸し出し、消費財の購入で利益を徴収するビジネスモデルは共通しているが、今回あえて機器を「合体」した狙いはどこにあったのだろうか。

ネスレ日本 代表取締役 社長兼CEO 高岡浩三氏(左)、アクアクラ 代表取締役 社長 赤津裕次郎氏(右)
製品概要

「合体」したマシンがもたらす利便性

今回発表された「一体型マシン」は、ネスレのコーヒー専用マシン「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ 50」、あるいはコーヒーや紅茶、抹茶も利用可能な「ネスカフェ ドルチェ グスト ジェニオ2 プレミアム」のいずれか1台と、アクアクララのウォーターサーバー「AQUA WITH」と一体化したもの。

この「一体型マシン」の開発は1年がかりで、「AQUA WITH」の開発と並行して行われた。コーヒーマシンは上記2機種決め打ちで、筐体にはめ込む格好。複数の機器を家庭用電源で稼働させるため、コーヒーマシンと水の利用を切り替えて行う仕様になっている。

水のタンクを下に置くタイプのサーバー「AQUA WITH」に、コーヒーマシンがドッキング。コーヒーマシンのとなりにあるのが水/湯のタップだ

「合体」したことによる利用側のメリットは、コーヒーマシンへ都度行う給水、余った水の廃棄といった手間を省けること。そして、コーヒーマシン単体の契約では得られない、温水・冷水の利用権も1つのプランに含むことだ。

コーヒーマシンを利用する時は、ウォーターサーバー側の「コーヒーモード」ボタンを押下してから操作する。

機器を「合体」した理由はこの上なくシンプルだが、両社がタッグを組んだ狙いはどこにあったのだろうか。ネスレ日本の高岡浩三 代表取締役 社長兼CEOが挙げた理由の一つは、「共働き世帯の増加」。夫婦がともに多忙な中で求められる家事の"時短"の一環として、この「一体型マシン」が利便性を提供できるとした。

もうひとつの理由は「季節」による需要変動。ネスレ日本側からすれば、夏はアイスコーヒーが、冬はホットコーヒーが求められるという違いがあり、オフィス向けのレンタルサービス「ネスカフェ アンバサダー」にはアイスコーヒー専用機もラインアップしている。

一方、アクアクララの商材である宅配水は、サーバーで温水も提供できるが、夏場の需要の方が高いという。それぞれが強い季節・商材を「一体型マシン」の展開で穴埋めし合い、両社の消費財の売り上げ向上を見込む。

現地で実際に使ってみたところ。コーヒーマシンの使い心地自体は当然変わらないが、給水の工程が無くなった分、煩わしさは減ったように感じた

また、従来給水が必要だったことからコーヒーマシンの設置をためらっていた、顧客のセルフ利用を想定した店舗での設置も提案。テスト稼働時には調剤薬局やスーパーマーケットのイートインコーナーに設置したところ、顧客満足度が向上したという。

テスト稼働時の利用者のコメントは2分50秒ごろから。

なお、利用の申込は両社でそれぞれ受付。マシンの設置は窓口問わずアクアクララ側で実施する。利用料金は、オフィス利用(ネスカフェ アンバサダー)も家庭設置も同額で、月額1,500円。ただし、家庭利用の場合は2年間のウォーターサーバー継続利用と、ネスレ定期便の申込が必要となる。

ネスレ日本の高岡社長は、「2019年までに5万か所に設置」と目標を明言。この数値は「宅配水業界の中ではとても大きな数字」であるとしながらも、これ以上の数が出るのではないかと予測していることを言い添えた。

2019年までに5万か所への設置を目指す

コーヒーマシンの給水・排水は、特に水場が近くにないオフィス利用においては大きく利便を損なう要因となりうる。また、本体下部に水タンクを置くタイプであれば、交換の際の負担も小さくなる。

既存製品が内包していた顧客の"小さな不便"を取り除く共同開発マシンで、どの程度需要を広げられるか注目したい。

「ライフ」の中に「ワーク」がある オカムラ、働き方改革の現在地

「ライフ」の中に「ワーク」がある オカムラ、働き方改革の現在地

2018.09.20

時代に即したワークスタイルを提唱するオカムラ

自社の「働き方改革」はどのように行ったのだろうか?

ワークとライフを「同列」にとらえない働き方を推進

無機質で効率重視の「昭和型オフィス」から脱却することで、働き方は変わっていく――。インタビュー前編では、オカムラが働き方改革に関する情報を発信するプロジェクト「WORK MILL」エバンジェリストの遅野井宏氏から、既存のオフィス空間から脱却し、時代に即したワークスタイルを実践するために必要なマインドセットについて伺った。

では、オカムラ自身は、長時間労働をはじめとした働き方にひそむ問題を、どのように解決しようとしているのだろうか。後編では、同社マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 戦略企画室 室長の薄良子氏に、同社が取り組んでいる社内向けの「働き方改革」についてお話しを伺った。

オカムラ マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 戦略企画室 室長の薄良子氏

──御社内の働き方改革について、いつごろ開始されたのか教えて下さい。

2018年6月に、これまでに実施していた働き方改革の取り組みを整理し「WiL-BE(ウィル・ビー)」と総称し、代表取締役社長の中村雅行を推進リーダーとして、さらに積極的に活動を展開していくことを発表しました。「WiL-BE」は、オカムラが提唱する「ワークインライフ(Work in Life)」から名付けました。

ワークインライフは、「Life(人生)にはさまざまな要素があり、その中のひとつとしてWork(仕事)がある」という考え方です。働く環境を提案する企業として、従業員自らがワークインライフの観点から、従業員自らがそれぞれどう生きどうありたいかを自律的に計画し、働き方改革を推進することで、いきいきと働き、思い描く生活を実現し、それを各業務を通して社会へ還元していくことを目的としています。

「WiL-BE」には多様な働き方の選択を実現する人事制度改革や、業務プロセスを見直す業務改革など現在6活動が位置付けられています。中でも、現場から1つひとつを改革していく活動が「働き方カエル!プロジェクト」と「ソダテルプロジェクト」です。今回はこの2つを中心にお話しします。

スモールスタートで働き方を「カエル」

まずは「働き方カエル! プロジェクト」からお話しします。2016年にスタートした、元々はボトムアップによる取り組みです。会社の管理部門では、パソコンを18:30にシャットダウンしたり、出退勤を自動的に管理したりできるシステムを導入したりしていたのですが、重要なのは「従業員の意識」であって、いくらハード面を整備しても、ドラスティックに改革するのは難しいと気づきました。

そんな現場と会社の思いが一致したことに加え、働き方改革を推奨する行政や社会の後押しもあって、2017年に「働き方カエル! プロジェクト」として全社展開されるようになりました。

──「働き方カエル! プロジェクト」の全社展開というのは、2017年から全国の拠点で開始されたということですか?

いいえ、そうではありません。社内から18拠点を選んで、限定的にプロジェクトに着手しました。こうしたプロジェクトは、はじめから全社で展開してもうまくいきません。「小さな成功」を少しずつ広げていく方針でスタートしました。

まず各拠点の課題を洗い出し、それに優先順位を付けた「重要度」や「緊急度」を割り振って、それが高い順にひとつずつ進めていくということを地道に行いました。拠点ごとのやり方を明確にし、研修にも参加してもらってスキルを浸透させました。

初年度のスケジュールは、かなり密に組み込みました。なぜなら、「いつまでに何を」という期限を設定していないと、経験のないプロジェクトのために動くのは大変難しいからです。

スケジュールには、進捗シェアや中間発表の時期を決め、「自分たちの拠点だけで戦っている」と感じさせることなく、事務局側も本気になって一緒に頑張っているんだということが伝わるようにしました。また、やはりインセンティブも重要ですので、最終の発表会で「良い取り組みをし、結果が出た」という拠点は表彰するなどして、盛り上げていきました。

──18カ所という数はスモールスタートの取り組みとしてやや多いように感じるのですが、各拠点の進捗はどのように把握されていたのでしょうか?

基本的に、各拠点は2週間に1度のミーティングを実施するのですが、Microsoft Office365の「Teams」を使って、ミーティングの日程が決まったらシェアしてもらうようにしています。「Teams」を見れば、各拠点の取り組みが進んでいるかどうかがわかります。

また、実際にミーティングで何を話したかという内容を、アジェンダという形でTeams上でシェアするようにしています。これにより、その拠点の進捗度合いが一目瞭然になりますし、別の拠点が同様の施策をしていた場合に、横のコミュニケーションを取ることができるといった副次的なメリットもあります。

このように拠点の課題を洗い出し、それらを「各拠点でできること」と「各拠点ではできないこと」という2つにわけました。前者は各拠点で解決できますが、後者は会社の制度や仕組みに関連することが多いので、各拠点では解決できません。そこで、会社の制度に関する質問や相談を拠点から吸い上げる仕組みを作りました。

2017年度に大阪の拠点が取り組んだ「早帰り意識カード」

2017年度、大阪の拠点で行われた取り組み例が「早帰り意識カード」で、帰宅時間の目標を社員自身で設定し、「◯時に帰る」というカードを掲示するものです。全員がメンバーの帰宅時間を把握できるため、今日すべきタスクなのか、手伝える人はいるかなど、業務上の判断を促進するのが目的です。

このカードを使うことで、「帰宅時間を意識して仕事の調整をするようになった」「声がけによってコミュニケーションが増えた」といった成果がありました。この施策は非常に効果が高いため、2018年から全社展開となっています。

また、別の拠点では「Teams」を活用し、朝礼に参加できない人でもその内容を音声で共有する施策も行われました。そもそも、朝礼で連絡事項だけを話すような場合、直接話を聞かなくても、掲示板のようにTeamsに記載しておけば済む話ですよね。それ以外にも、さまざまな立場の人が時短を目指してやっている工夫を見える化するなど、このTeamsというツールを情報プラットフォームにして有効活用しているのが、この拠点の素晴らしいところです。

「ライフ」の中に「ワーク」がある

──続いて、WiL-BEのもうひとつのプロジェクトである「ソダテルプロジェクト」についてもお教え下さい。

2016年の8月に「ダイバーシティ推進プロジェクト」が設置されたのですが、当社は女性比率が他社と比べて低いため、女性従業員比率の向上などの目標に掲げて取り組みを進めているのが「ソダテルプロジェクト」です。このプロジェクトはドラスティックな変革を起こしました。たった3年でここまで変わるの?と、(プロジェクト運営の立場である)私も驚いたほどです。

象徴的な変化として、「在宅勤務」ができるようになったことが挙げられます。出産や介護といったライフイベントに行き当たった時、たとえ働く時間が少なくなったとしても、その人らしく働き続けられるように、2017年に作られました。

また、働く時間が多様化すればもっと働きやすくなることから、例えば育児などの理由で時短で働いている方向けのフレックスタイムが制度として適用されました。元々、ほかの従業員に対してもフレックス制度は用意されていたのですが、コアタイム(出勤義務のある時間帯)が長めに設定されていたため、使いづらかったのです。そこでコアタイムを撤廃し、育児中でも働きやすくなったことが大きな変化だと思います。

──コアタイムの撤廃はどのようなメリットを生んだのでしょうか?

当社では30年ほど前から取り入れているのですが、社員みんながフレックスタイムを活用すると、互いに顔を合わせづらくなりますよね。コアタイムは、社員同士がリアルに顔を合わせてコミュニケーションを取るために作られたのではないかと思うのですが、その存在が制度そのものを使わない理由になってしまえば、そもそもの意味がなくなってしまいます。

制度は、時代とともに変化していいと思います。コアタイムを撤廃したことで個々人が自分にあった働き方をするきっかけになりました。

──実際にこの3年で女性従業員の比率は高くなっているのでしょうか?

増えてきています。2020年までに社員の20%を女性に、という目標も掲げているのですが、まずは今いる従業員がこの先もずっと当社で働けるようにするため、どうすればいいかということを優先して考えています。そうすれば、結果的に今後入社する人のためにもなると考えています。

──その流れで「テレワーク・デイズ」(働き方改革の運動であるテレワーク国民運動プロジェクト)にも参加されたわけですね?

はい、そうです。

──確かに、在宅勤務とテレワークはニアリーイコールではありますよね。

そうですね。我々は「サテライトオフィス」の設置も推進しています。これも時間の効率化を目指しての施策ですが、色々な所に支店を置くことで、その近くの取引先などに行った場合は自分の本拠地ではない支店で働くことができるので、移動時間の短縮につながっています。

──なるほど。必ず自席のあるオフィスに行かなければいけないという縛りから解き放たれるわけですね。

はい。どこでもいつでもストレスなく働けるという環境を、全社で実現しようとしています。

──最後に、「WiL-BE」プロジェクト全体で働き方改革に取り組む中で、従業員から好評だった、あるいは効果が著しく上がった制度がありましたら教えてください。

先ほど述べた「在宅勤務」や「サテライトオフィス」は非常に効果があり、好評です。ただ、働き方改革というのは、生産性を向上させるための「手段」ですよね。単に「早帰りのため」と勘違いしている従業員もいますが、それはあくまでも副次的な効果です。やはり個々がスキルアップして効率よく働けば仕事以外にも時間を回すことができ、結果的に家族や趣味などに時間を費やせるというわけです。

さきに述べた、働き方改革を包括するプロジェクト名の「WiL-BE」のWiLは、「Work in Life(ワークインライフ)」の頭文字です。ワークとライフという2つの要素を同列に捉えるのではなくて、「さまざまな要素からなるライフ(人生)があって、その中のひとつとしてワーク(仕事)がある」という考え方です。

つまり、ライフを構成する要素はワークだけではなく、ファミリーであったりホビーであったり…。そういった環境に従業員がいられるためにフォローしていこうという思いから、WiL-BEという名前が付けられました。

Work in Lifeというのは、どのような人生を過ごしたいかを自分で描くのが重要ですので、自律的にキャリアをデザインしていく必要があります。生産性の向上というのは、各々が自身のキャリアを考慮して自律的に働き、その上で成し遂げられるものですよね。「WiL-BE」はそういったところを目指しています。

──ありがとうございました。

働き方改革は「昭和型オフィス」の見直しから? 家具のオカムラに聞く

働き方改革は「昭和型オフィス」の見直しから? 家具のオカムラに聞く

2018.09.19

働き方改革は、働く人の拠点「オフィス空間」に影響している?

フリーアドレスや立つデスクワーク、定着している?

オフィス家具のオカムラから見た「変化」を聞いた。

2018年7月、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立した。そんな働き方改革に数年前から熱心に取り組んでいるのが、オフィス家具でその名が知られるオカムラだ。

同社は、社内のメンバーを中心に多様な視点と専門性を持つメンバーが集結した働き方改革プロジェクト「WORK MILL」(ワークミル)を立ち上げ、新しい仕事場をデザインし、よりよい働き方を引き出すさまざまな活動を行っている。

今回は、WORK MILLの中心メンバーである、同社マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 はたらくの未来研究所 所長・エバンジェリストの遅野井宏氏に、日本のオフィス空間と働き方にまつわる潮流について、お話を伺った。

「WORK MILL」に携わる遅野井宏氏(右)と、社会においてワークインライフをどのように実現していくかを探り、情報発信する「Work in Life Labo.(ワークインライフラボ)」の研究所長・薄良子氏(左)

──オカムラと言えば「オフィス家具を中心に展開されている企業」というイメージですが、働き方全体を扱うプロジェクト「WORK MILL」を立ち上げたいきさつを教えて下さい。

こうした取り組みを始めるまでは、弊社では会社の総務部門の方々に対し、新しい家具の入れ替え提案などをするのが主な業務でした。変化のきっかけは、東日本大震災をきっかけに「働き方」への意識が世間で高まったことです。

例えば、営業担当者がお客様から「働き方に対する提案」を求められるなど、ビジネス上、働き方に関する情報を発信していく必要が出てきました。そこでスタートさせたのが、WORK MILLというプロジェクトです。

WORK MILLの「MILL」にはふたつの意味があります。ひとつ目は働き方を多面的に見てみようという意味を込めて日本語の"見る"。そして本質的な価値を引き出していこうという意味での英語の「MILL」で、期待を込めてWORK MILLという名前になりました。

オカムラ マーケティング本部 フューチャーワークスタイル戦略部 はたらく未来の研究所 所長・エバンジェリストの遅野井宏氏

2015年12月にWebメディアを開設。書籍は2回の創刊準備号を経て2017年9月に初刊を出しました。空間を生業とする会社として、実際に場を持ってセミナーイベントを開催し、特定のテーマに対しての働き方を議論しています。

Webと書籍の両メディアでは取材ベースで働き方を議論するのに対し、「共創空間」と呼んでいる実際の場では対話をベースに特定のテーマで働き方を議論するといったことを、数多く手がけるようになっています。2015年に開始した当初、メンバーは10人ぐらいでしたが、年を追うごとにどんどん増えていきました。

──開始からわずか3年で、プロジェクトとして大きくなっているのですね。

そうですね。「社内の働き方改革」についてもこの3年間、WORK MILLのチームが直接関与したりアドバイザーという形で関与したりしながら、積極的に推進してきました。

ラボオフィス「CO-Do LABO」の一角にある「共創空間"Sea"」では、これからの「はたらく」のヒントがある場として、働き方に関するさまざまなセミナーやワークショップを開催している

──政府が大号令をかけて「働き方改革」を推進している中で、オカムラのビジネスに変化は何かありましたか?

我々のショールームやセミナーにお越しいただくお客様の傾向を見ると、今までは総務や施設に携わる方、すなわち「家具や空間を買っていただける方」が多かったのですが、色々な情報発信をしていく中で、総務以外の方々が我々と接点を持つ機会を増やしていただけるようになりました。

例えばIT関連の方々、情報システム系、人事関連、あるいは現場で改革を牽引していく方々からの問い合わせをたくさん受けるようになりました。我々は家具の会社なのに、ITの使いこなしについての相談まで受けることもあります。

──顧客からみて、オカムラのイメージが変わってきているのですね。

そうですね。そのように仰っていただけることが増えてきました。

──逆に、御社が長年取り扱ってこられたオフィス家具に関して、ここ数年の傾向はいかがですか?

我々が展開していく家具のバリエーションもだんだんカジュアルになってきていますし、オフィス空間での対話を重視するモノが増えてきています。家具に対する関心は高まっていると感じています。

これまでの傾向として、「いかに効率よく、多くの人数をワンフロアに詰め込むか」という方針のもと、家具を選ばれるお客様が多かったです。今は「1人で集中する場所」や「チームで効果的に対話する場所」など、多様な場所に対する関心が高まってきています。

──ということは、レイアウトに関しても変化があったのでしょうか。

はい、あります。「高密度で効率だけを考えて入れる」というのが今までの主流だとするならば、そこに対して何らかの「遊び」を設けて、縦横単純なレイアウトだけでなく、いかに従業員の対話を増やすか、偶然の出会いを増やすかといったことを想定して、動線を豊かに設計しています。

オカムラのラボオフィス。中央に円形のワークスペースを置き、導線に変化を持たせている。

また、「窓際」が上級管理職の人たちの場ではなくなってきたというのも傾向のひとつかもしれません。現在、窓際はコミュニケーションの場、あるいは集中の場など従業員に開放するケースが増えてきています。

フリーアドレスの成否をわけるポイントは

──少し前に、主にIT企業の間で「フリーアドレス」の導入がトレンドになりました。導入の成否をわける傾向などあれば教えてください。

まず、「よそでやっているから…」というような動機で始まった「目的のないフリーアドレス」は、基本的に失敗しています。

コストダウンだけを目的としたフリーアドレスは失敗するケースが多いですし、チームメンバーと適切なタイミングでコミュニケーションが取れる仕組みがなければ同じく失敗しますね。

逆に、何のためのフリーアドレスなのか、目的をしっかり設定している組織は成功しています。複数のプロジェクトを掛け持ちしてチームを渡り歩く働き方が主流となっている一方で、オフィスは固定席に縛られるというケースが増えていますが、こうしたプロジェクト型の仕事にシフトするとか、業務の内容を見直しながらフリーアドレスを導入するのであれば、成功に近づくのではないかと考えています。これには、ITがコミュニケーションを支えているかどうかも重要になっています。

ここでもうひとつ問題なのは、中間管理職の意識です。「自分の目の前に部下がいないと不安」「部下がどこで何をしているのか気になる」という意識がある場合、うまくいきません。フリーアドレスを成功させるには、中間管理職の意識が変わることが大きな要素となります。すなわち、総務、IT、人事制度という3つがしっかりと連携していなければ、フリーアドレスは成功しないと思っています。

──なるほど、抜本的に改革しないと頓挫するということですね。フリーアドレスの相談というのはここ数年でどれ位ありましたか?

我々は直接プロジェクトに関わる立場ではありませんので、はっきりとした件数はわかりませんが、基本的にフリーアドレスを想定した上でオフィス作りをするケースが多いです。ただし、仕事上どうしても固定席が必要だったとしても、固定席を持ちながらも多用の場をオフィスに作るということが行われています。

また、いまはフリーアドレスよりも「ABW」を導入することも多いです。ABWとは「アクティビティ・ベースド・ワーキング」の略称で、仕事内容やその日のコンディションに応じて働く場所や時間を自由に選択して、主体的、自立的に働く方法のことです。

会議スペースのほか、集中して作業するためのブースや、「スノーピーク」のキャンピング用品を置いたアウトドア感あるスペースなど、多様な場が用意されている

例えば「今は集中してこの資料を2時間で作りたい」という時には個人の集中ブースに入ったり、「チームメンバーとカジュアルに進捗を共有するためにブリーフィングをしたい」といった場合は立ち会議のような場所で30分程度、手早く打ち合わせをして終わらせるというように、仕事の内容に応じて場所を選び、適切に時間を使って仕事を終わらせるということの方が主流になってきています。したがって、多様な場所が存在しているというのが今のオフィスのトレンドとなっています。

「立って行うデスクワーク」の広がり

──2016年~2017年頃にオカムラをはじめオフィス家具メーカーが昇降型デスクを提案され、大手では楽天が一斉導入してスタンディングワークを提唱するという流れがありました。現在、昇降型デスクやスタンディングワークは定着した感はありますか?

完全に市民権は得たと感じています。認知率は非常に上がっていて、まさに楽天のケースは非常にセンセーショナルでしたし、それ以降も大きなオフィスで数千台単位で導入するケースもあります。

お客様から強い関心をいただくことから、我々も上下昇降デスクのバリエーションをどんどん増やしています。個人用のデスクもさまざまなタイプが出てきましたし、チームで打ち合わせするような場所にも上下昇降タイプが使われています。オフィスだけではなく、学校や実験室など業界や業種を問わず上下昇降による姿勢の変化が色々なところでもたらされるようになってきました。

──御社はオフィスチェアに定評がありますが、昇降型デスクの流行を後押しする情報として、「座りすぎが病気のリスクが増大する」といった海外研究が広がりつつあります。

「椅子の会社」である我々は、椅子に座ることのメリットもリスクも研究した上で商品を展開していますし、「正しく座ることの大切さ」をお伝えするようにしています。浅く座ったり、猫背で座ったりすると、椅子の機能がいくら高くてもサポート力が得られません。結果的に身体に負担が掛かり、生産性を下げる要因になりかねませんし、ヘルニアになるなどの健康面でもリスクを抱えます。そのため、正しい座り方が重要になってくるのです。

一方で、我々は昇降型デスクなどを用いて、立って仕事をするメリットも訴求しています。どの姿勢が「正しい」かではなく、どんなシーンに適しているかという視点が大切です。

以前、メガネ型デバイス「JINS MEME」を使って、仕事中の集中力を計測する検証を行いましたが、私は立って仕事をしたときのほうが瞬発力の高い集中力を発揮できることがわかりました。逆に、座って仕事をしたすると一定の集中力が長く保たれたのです。そのため、じっくり資料を作りたいときは私は座って作業します。

これは私個人の体験ですが、皆さんがそれぞれ、立ったときと座ったときの集中力が把握できれば、仕事内容に応じて姿勢を変えていくということが前向きにできるのではないでしょうか。

働く場所にもバリエーションを

──話は変わりますが、同じ備品がずらっと並ぶ典型的な日本のオフィスと、御社が今提案しているようなオフィスとでは、インテリアの雰囲気がまったく違います。働く人に与える心理的な効果などがあればお教えください。

ラボオフィス「CO-Do LABO」エントランスの「WORK MILL」ブースは、いわゆる昭和型の無機質なオフィスとは正反対の、カラフルでありながらもどこか温もりのある色使いが印象的

典型的な、いわゆる昭和型のオフィスというのは、グレーの壁に濃いグレーのカーペットが敷いてあり、明るめの色の天板の机と、青いオフィスチェアが置かれているというスタイルですよね。ちなみに、オフィスに導入されているチェアの色で一番多いのが「青」なんですよ。

こうしたオフィスでは、使われている色のカラーパレットを作ると片手で終わることが多いです。それって、無機質な空間ですよね。

そんな場所に人を閉じ込めておきながら、創造性高く働かせるというのは無理があるように思いませんか? 五感に何も刺激が無い状態でクリエイティビティを発揮しろというのは無理な注文だと思います。

大量生産や効率が重視された時代のオフィスでは、均一に同じものを管理しやすい形で並べるということが重要だったのです。現在のように労働人口が少なくなっている中では、個々の生産性を高めることが急務です。

いかに人間らしく、心身ともに健康で働けるかを考えた場合には、やはり自然光がたくさん入ったり、木目調など素材感のあるものを配置したり、カラフルな空間にしたりとか、言ってしまえば当たり前の空間ですが、そういった形にオフィスが変わってきているというのがひとつの大きな傾向だと思います。

──カラーパレットが片手で足りてしまうというのは、非常にわかりやすい例えですね。

それと、日本のオフィスは自席と会議室しか居場所がないところが多いんです。働く場所がそのふたつしか選択肢がないんですよね。

パーティションも取り外されていることが多く、確かにチームのコミュニケーションには良い状態だとは思うのですが、自分の仕事に集中したいときには周りがうるさかったり、視線が気になったり、さらには電話が鳴ったら取らなければいけないなど、仕事のリズムを邪魔するものが多く出てきます。

もちろん、そんな環境でも高い集中力を持って働ける人も中にはいますが、全員がそうではありません。そうなると会議室しか逃げ場がなくなりますが、会議室の予約は引っ張りだこなことが多く、ひとりで使うことはなかなか難しい。

結局、働く内容についてはバリエーションに富んできたにも関わらず、働く場所の選択肢がふたつしかないということに、もともと無理があった、不自然だったと思うのです。総務からすれば「同じような部屋を、たくさん」用意したほうが管理しやすいのですが、それが従業員の生産性を大きく損ねているのです。

そういった事実を我々が提案するときは意識して伝えるようにしていますし、お客様からも気づいていただけるようになりました。そういった所が大きく変化した部分だと思います。

過ごしやすいオフィスは「コストでなく投資」

──これからいわゆる昭和型のオフィスから現代向けのオフィスに移行したいと考えたとき、実現のために必要なことは?

これはなかなか難しい話ですが、ワークプレイスというのは「コストではなく投資」だということへ意識を変えていくことが非常に大きいと思います。コストだけを追求する意識から抜け出して、いかに従業員の状態が良くなるか、という点に目を向けることが一番のポイントではないでしょうか。

また、これは働き方改革の成否に大きく関わるのですが、せっかく新しいオフィスを作ったとしても、うまく活用しないと元の木阿弥なんです。上司が「目の前にいろ」と指示する、上級管理職がフリーアドレスやABWの働き方を実践しない、あるいはそういった考え方で働かない人が評価され昇進したりすると、現場のモチベーションは一気に下がってしまいます。

まずはオフィスを投資と捉えることと、その中で新しい行動を取ったり新しい価値を創出しようとしたりする人たちが正当に評価されることが、その新しいオフィスの成否を分ける大きなポイントになるのではないかと思います。

ただ、オフィスが変わることで、行動が変わり、その結果、意識が変わってくることもあります。ですので、投資という形で思い切ってオフィスを変えて、新しい行動が生まれてくれば、現場の意識は相当変わってくるという実感があります。

──なるほど。とてもわかりやすくお答えいただき、ありがとうございました。

ここまでは、オカムラから見た多くの日本企業に関するエピソードを聞いてきた。続いて公開する後編では、オカムラ社内での「働き方改革」とその結果について聞いていく。