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Facebookの「自由すぎる働き方」はなぜ成り立つのか【働くママ対談】

働き方革命!人生を豊かにする「選び方」 第1回

Facebookの「自由すぎる働き方」はなぜ成り立つのか【働くママ対談】

2019.02.20

子どもを育てながら社会で活躍する2人の「ママ」が対談

Facebookが社員に求めている働き方って?

仕事とプライベートを上手に回すために必要な考え方とは

「選択」と「働く」をテーマに、ビジネスの一線で働く2人に対談してもらった。

2人は、かつて共にP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)でPR戦略に携わっていた同僚であり、共に子を持つ「ママ」でもある。1人はフェイスブック ジャパンの執行役員である下村祐貴子さん、もう1人は株式会社デリィスを起業し、「ブランド価値プロデューサー」として、企業の課題解決に取り組む杉浦莉起さん。

フェイスブック ジャパン 執行役員 広報統括 下村祐貴子(左)、デリィス 代表取締役社長 ブランド価値プロデューサー 杉浦莉起(右)

杉浦さんの近著『いつでも「最良」を選べる人になる』では、全体を通して「選択」が大きなテーマになっている。グローバル化にダイバーシティ(働き方の多様性)、女性活躍、働き方改革……。私たちは今、働き方、さらには生き方を自由に選択したいと求めている。ワークライフバランスという言葉では足りない、「ワークとライフのカスタマイズ」が必要だ。

かつて共に働き、今ではそれぞれの道をつくった2人は、これまでにどういった「選択」をし、そして現代の「働く」ということをどう捉えているのだろう。そこには、我々の人生を豊かにする働き方のヒントがあるかもしれない。

Facebookが求める、社員の生き方・働き方って?

杉浦莉起(以下、杉浦):
久しぶり……、ていっても、よく近所の公園で会うけどね(笑)。

杉浦莉起:上智大学卒後後、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループにて宣伝広報に従事。その後P&Gジャパンに転じ、SK-Ⅱ、パンパース、ブラウンジレットなどのブランドコミュニケーション戦略/PRに携わる。その後ブランド価値プロデューサーとして独立し、現職

下村裕貴子(以下、下村):
仕事で向き合うのは久しぶりですね(笑)。今日はよろしくお願いします。

下村裕貴子;神戸大学発達科学部卒業後、P&G入社。「パンテーン」などの広報・渉外を担当、日本市場におけるヘアケアブランドのPRに従事。2010年、家族とともにシンガポールに転勤、ヘアケア部門やプレステージ香水などのアジア地域広報、「SKⅡ」のグローバル広報としてPR戦略をリード。帰国後、2016年12月より現職

杉浦:
今、Facebookではどんなことをされているの?

下村:
コーポレートや自社製品の広報。あとはFacebook、Instagramを広告プラットフォームとしてマーケターに認知してもらうための広報。それと広報とは別に、社内外にダーバーシティの推進をするチームの活動もしています。

杉浦:
ダイバーシティ推進って、具体的にはどういうことを?

下村:
「無意識のバイアス(偏見)」という言葉がありますよね。人はさまざまな属性に対して、無意識のうちに人に偏りを持って見たり接したりしてしまいます。そんなそんな考え方を無くすためのトレーニングを行っています。

Facebook社員は年に1度、そのトレーニングを受ける必要があります。私は、その内容をしっかりかみ砕いて、わかりやすくするとか、社員全員がトレーニングを受けるよう、促したりしています。

あとは、育休取得を検討している女性社員、男性社員に対して「休暇を取ってもいいんだ、休むとこんなことがあるんだ」って思えるようにベネフィットを伝える活動です。実際に育休や産休を取った人に自身の体験談を話してもらったり。「無意識のバイアス」への取り組みは社外に向けても研修プログラムを提供しています。

杉浦:
なるほどね。それでは、Facebookについて教えてください。そういう取り組みは社員の働きやすい環境のためだと思うのですが、そもそもFacebookという会社は、社員にどういう働き方、生き方をして欲しい、と考えているのでしょう?

下村:
Facebookでは「コミュニティづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」というミッションを掲げています。そして、その世界を実現するために、いくつかの「コアバリュー」というものを設定してます。

コアバリューは5つあるんですが、特に私が「いいね! 」と思っているのは、「Move Fast(早く動くこと)」「Be Bold(大胆に行動すること)」「Build Social Value(社会的価値を生み出すこと)」の3つ。こういったバリューを達成するような働き方をしてほしい、というのが会社の想いです。そして、そのためにオフィス環境や福利厚生が整えられている、というイメージです。

男性役員の育休取得は仕事に役立つ?

杉浦:
Facebookの育児休暇は、男女ともに有給扱いで4か月も取得できると聞きましたが、それもコアバリューを達成するためかしら?

下村:
ですね。似たような制度を取り入れている企業もあるかと思いますが、Facebookは男性の育児休暇の取得率が高いのが特徴です。「子育ては母親のものだけではない」という考え方はもちろん、男性が実際に子育てを経験することで、それが組織作りにも活きてくる、という考えです。

育児休暇を取得した人がマネージャーになったときには、考え方が変わることでしょう。例えば、女性の部下や同僚ができたときに、やっぱり実際に自分が経験しているのとそうでないのとでは、接し方が全然違うと思うんです。

あと、上司が休暇を取ることで部下がそこに続きやすくなります。一昨年には男性の役員が育児休暇を取得したんですが、その後、休暇取得率が一気に増えました。特にそのチームは、男性の育児休暇の取得が続いたこともありました。

でもそのチームは、それぞれが育児の大変さを知って、自分が周りにサポートしてもらったという考えも持ったから、お互いにサポートし合ったんです。「前に助けてもらったから、次は自分の番だ!」って。

杉浦:
そういう制度って、確かに用意している企業は多いけど、なかなか上手く活用できないところも多いですよね。上が取らないから続かない。それは、その男性役員の方に「あなたが休暇を取れば、みんなが取りやすくなるから」って働きかけをされたの?

下村:
少し(笑)。テクノロジー企業って、ただでさえ休みが少ないイメージじゃないですか。でも今、優秀な若い人に来てもらうには、働きやすい環境を整える必要があると感じています。だから、その方が休暇を取ったあとに、「男性の役員ですらとってるんだから、全然心配しなくていいんだよ」というコミュニケーションを取るようにしました。

とても良かったのが、その方が自身の体験談をもとに、「育児休暇を取ったことで、自分にとって良かったこと、奥さんにとって良かったこと、会社にとって良かったこと」を社内に共有してくれたんです。

育児って、体験してみないとわからないことが多いじゃないですか。それこそ、オムツを変えるだけでも。彼も、「まさか男の俺がオムツを変える事態になるとは」と言っていました。でも、その経験があるから、子どもを持つ部下のマネジメントにつながるし、チーム内のサポート体制の強化にもつながったんです。

Facebookで働く上での「いいね!」ポイントは

杉浦:
ほかにも、Facebookならではの取り組みや制度で、これは「いいね!」というものはあります?

下村:
少しテーマから逸れ気味ですけど、やはりテクノロジーの会社なので、テクノロジーで業務をサポートする下地があるのがいいですね。

例えば、Facebookが提供している「Workplace」がそうで、当社でもグローバルを通して使っています。これ、簡単にいえば、”ビジネス向けのFaceBook“なんですが、この上でいろんな仕事を進めています。基本的にUIはFaceBookと同じで、使い勝手も変わりません。ここでいろんなグループを作り、コミュニケーションを取っています。

Workplace

Workplaceのいいところは、「みんなが知らない情報はない」という状況を作り出せること。メールを送る際に「誰をCCに入れるのか、Toにするのか」とかを決める手間が省けたり、Workplace上で情報を流すことで、誰でも簡単に情報の発信・受信ができるというメリットがあります。

そこから情報を得た人が、すぐに発信者にチャットして、そこからビデオ会議を始める……みたいな感じで、非常に短時間で仕事を進められる。これがリモートワークの促進にもつながっていて。このあたりはFacebookで働く上で、いいところだと思います。

コアタイムすら曖昧? 自由すぎる社風はなぜ成り立つ

杉浦:
そういえば、Facebookは「業務の開始・終了時刻のほとんどを社員自身に任せている」って本当? 自由すぎて心配になる(笑)。

下村:
そんなこともないんですよね。なんででしょう……。一応、コアタイムは設定しているんですが、特に誰も気にせず、自由な時間で働いていますね。いつ会社に行っても、いつ帰っても、誰も何も言いません(笑)。

実際に私も、先日、息子がインフルエンザにかかっちゃって。2日間会社を休んでたんですが、家で働いていたので、まったく問題なく。極端な話、子どもが寝たあと、夜から働く、とかでも問題ないんですよ。ほかにも、「PTAの集まりがあるから早めに帰ります」とか、チーム内で事前に共有しておけば特に問題になってないですね。

杉浦:
本当に自由ね。日本企業や、日本人が多いような外資企業からも良く聞きますが、未だに「残業する方が偉い」って思ている人も多いですよね。だから、自由な働き方といっても、ほかの企業が真似しようと思ったら、企業側も従業員側もどの程度まで自由に、と疑問に感じそう。

下村:
査定が厳しい、というのは影響しているでしょうね。Facebookでは1年に2回の人事評価制度があって、そこで周りの同僚や上司、部下などから360度評価を貰う必要があるんです。上下関係にとらわれずにあらゆる角度から評価されるため、もし仕事がうまく回っていないようだったら、的確なフィードバックが来るんです。「ここはもっとこうした方がいいね」とか。さっき言ったコアバリューの面で、「ここが欠けてるよね」とか。

だから結論としては、「仕事さえちゃんとできていれば、働き方は個人の自由」というのがFacebookの働き方です。

杉浦:
査定がしっかりしているから、自由な働き方が成り立ってるのね。でも、実際に仕事をしていても、会社以外の場所で仕事の頻度が高いと、罪悪感のようなものも生まれそうですが。

下村:
私も少々の罪悪感を覚えつつ、でもコアな部分をしっかりやっていれば、周りも納得しているのかな、と思ってますね。

杉浦:
しっかりと、会社が「あなたは何をする人で、こういう責任がある」というところを明確にしているから、そうした自由な働き方が成り立っていくのかもしれないね。

アフター5はビールも飲める? 先進的なオフィスの秘密

杉浦:
「自由な働き方」と言えば、このオフィス(フェイスブック ジャパン)はオープンスペースが多かったり、飲み物も自由に飲めたり…… この空間は、何か考えがあって設計されてるの?

下村:
オフィスには「Open & Innovative」というテーマがあって、特にオープンスペースが広いのが特徴です。動線も工夫されていて、ディスカッションや会話が、いろんなところで起こるようにしています。

いつもの同じ人ではなくて、たまたま横に座った人との会話がキッカケで、新しいアイデアが生まれるんです。私も、1週間に2日くらい、あえて場所を変えて仕事をしてます。そこで、「最近こんなことをしているんだけど」なんて話をすると、「あ、じゃあ一緒にこれしようよ」ってなることがよくあります。

オフィスに用意されたオープンスペースの一部

杉浦:
意識的に場所を変えて仕事するって面白い考え方ね。

下村:
私の場合は「これだけ素敵なオフィスだから、楽しまなきゃな」と考えているので(笑)。もちろん、ずっと同じ場所で仕事をする「この場所が好きだから」派の人もいますよ。ほかにも、小さなキッチンもあって、軽食が用意されたり。ビールもあって、夕方には飲みながら仕事している人を見たこともあります(笑)。

マイクロキッチン

杉浦:
え!! 大丈夫? 生産性とか心配だわ(笑)。

下村:
自分に厳しい人が多いから、特に何も問題があると感じたことはないですね。飲みすぎて仕事ができない、という人も見たことありませんし。一応17時からはアルコールOKという決まりだから、さすがに昼から飲む、とかいうことはないんですが、夕方になると、プシュっとお酒を開ける音が聞こえてきます。

杉浦:
本当に自由ね……。会社の雰囲気が秩序を保ってるのかな。そもそも、自由な環境の中でも活躍できる人を上手く採用しているから、大丈夫なのかしら。

下村:
両方あると思いますね。採用の際にも、平均4~5人はFacebook社員と面談する必要があって、コアバリューに沿った行動をできる人、自律して仕事できる人、というのは見極めています。

杉浦:
でも、「自律する」って難しいですよね。自由すぎるってことは、自分でいろんなことを「選択」して行動する必要があるわけで。みんながそこを上手く「選択」できているのは何故でしょう?

下村:
コアバリューに共感しているから、そして、ミッションに呼応して入社している人が多いから、というのはあると思います。

「24時間オンライン」の中、自分の時間はどう作る?

下村:
悪いことも言わせてもらうと、メッセンジャーとか、テクノロジーで24時間すべてが仕事につながってしまうから、それが結構辛いこともあります。時差があるため日本が夜中でも、日中に仕事をしている海外の社員から連絡がきて、起きちゃうこともある。

そこから早急に対応しなきゃってこともあります。テクノロジー企業で良かったという反面、悪い面はあります。休む時間は自分でしっかりと作らないと、すごく体力を消耗するんですよね。

杉浦:
なるほどね。自身が「ママ」でもあるから、上手く時間を使わないと、バランスも保てなくなりますよね。そのためにも、働く上で「こういうところは大事にしている」という、優先順位付けやマイルールみたいなものってあるの?

下村:
パーソナルな部分で言うと、私はできるだけ家族と一緒にいたいから、「平日は早く帰る」「休日は家族を優先する」といったルールを決めています。だから、土日は本当にオフにさせてもらう代わりに、平日の朝は早く起きて、5時ころから仕事をするようにしていますね。

そうすると健康的というのと、あとは本社がサンフランシスコなので、ちょうど日本が朝のタイミングで本社の人と一緒に仕事を進められる。こっちが朝5時の時、向こうが昼12時なので、起きて3時間くらいは家で働いて、そこから出社しています。その代わり帰るのは早めにして、18時には帰ってますね。

杉浦:
時差の問題もあるから、終わらせるべき仕事はそこで終わらせていると。そうやって工夫して、ワークライフバランスを保っているのね。

下村:
ほかには、仕事で関わる人たちに、「私はこれからこういう働き方をしたい、こんなことをしたい」ということを共有しています。例えば「午後18時に帰宅する」となったら、チームが意識的にミーティングなどの対面での作業が必要になる仕事を、早めの時間に設定してくれるようになりました。

仕事でも、「来週はこれが第一優先だから、ほかの仕事よりもこれを優先してね」みたいなのを言うようにしていて。

杉浦:
素晴らしい。そうすると、周りもやるべきことに集中できるから、生産性も上がりそう。

「強み=好きなこと」 迷ったら、好きなことを選ぶ!

杉浦:
Facebookで働きはじめて、いろんな悩みや葛藤があったと思いますが、その中でマイルールを決めて働き方を上手く舵切っているのが素晴らしい!と思いました。最後に、教えてください。自分の経験や、同僚の働き方を見て、なにかほかの人が真似できるような「選択上手になるコツ」はありますか?

下村:
Facebookは、個人の強みを「得意なこと」ではなく、「好きなこと」だと捉えています。得意な仕事ばかりせず、自分が本当に好きな仕事をするように推奨してます。だから、選択上手になるコツは、「自分の直感と好きなことに従った行動をすること」ではないでしょうか。

杉浦:
強みは得意なことではなくて、好きなこと……。実は私もそう思っていて、この本(注:前述の『いつでも「最良」を選べる人になる』)でも似たようなことを書いています。本当ですよ(笑)。

「強み=自分の得意なこと」と捉えている人は多いけど、それを仕事で続けていると、いつのまにか消耗して、疲れてしまう。でも、「好き」って一番エネルギーになるから、たとえ失敗しても、また挑戦できるからね。

迷ったら「直感」と「好きなこと」を考えて行動すればいい――、最後にいいことを聞けてよかった。今日はありがとうございました。

「迷ったら、直感と好きなことに従って、選択する」
オフィスに「メディア・アート」を導入するという新潮流

オフィスに「メディア・アート」を導入するという新潮流

2019.02.19

働きやすいオフィス構築に取り組む企業が増えた

アンダーデザインがオフィス環境作りに選んだメディア・アート

メディア・アートでリブランディングにも挑戦する

ここ数年、オフィスの緑化を進める企業が増え、なかには水が流れる小さな滝を表現するオブジェを導入したオフィスもある。これらは植物や水といった自然物をオフィス環境に導入することで、そこで働くスタッフに安らぎを感じてもらおうという取り組みだ。

しかし最近は、オフィスの緑化ではなく、「メディア・アート」により、スタッフに快適に働いてもらおうという動きも見え始めてきた。

そもそもメディア・アートは、「芸術表現に新しい技術的発明を利用する、もしくは新たな技術的発明によって生み出される芸術の総称的な用語」(出展:Wikipedia)とあるように、テクノロジーを活用した芸術作品。芸術ユニット「明和電機」や、メディア・アーティスト 落合陽一氏の作品が有名だ。

そのメディア・アートをオフィスに導入するのは、自然物による緑化オフィスとは方向性が真逆のようなイメージを感じる。だが、スタッフに心地よく仕事をしてもらおうという意味では、同じ方向を向いているといっていい。

こうしたメディア・アートによって、自社のオフィス環境を洗練、改善しようと積極的に取り組んでいる企業がある。ITインフラ構築や空間プロデュースなどを手がけている、アンダーデザインという企業だ。

洗練されたオフィス構築のためのメディア・アート

同社は「OFFICE × ART -digital-」をテーマとするワーク&アートスペース事業の展開を計画中。現在は自社のオフィスで実験中だが、成果があれば他社への販売を検討する考えだ。

実はアンダーデザインは、創業70年を数える意外と古い企業。戦後から高度成長期にかけて、急速に発展していった電話などの通信インフラの構築・整備をメインの事業としてきた。やがてITが発達すると、コンピュータ・ネットワークの領域にも事業領域を広げている。つまり、通信技術の進歩とともに、歩んできた企業なのだ。ちなみに、アンダーデザインの旧名は「旭コムテク」で、2018年10月に改称した。

戦後から通信インフラを手がけたアンダーデザインの受付電話。若い人のなかには、使い方がわからないという声も

現在、同社の名古屋オフィスにメディア・アートが導入されている。正方形の高輝度LEDパネル数枚がオフィス内に飾られているのだが、気象情報をネット経由で取得し、その変化によりツリー構造状に光が走るという映像を映し出している。この映像のパターンは気象情報の変化をもとにリアルタイムで生成しているので、常に変化し、同じ図柄になることはないそうだ。なお、この作品は映像音響インスタレーションを中心に国内外で活躍するアーティストの平川紀道氏によるもの。

高輝度LEDに映し出されるツリー構造

メディア・アート導入で企業のリブランドを推進

では、なぜメディア・アートを導入しようと考えたのか。アンダーデザイン 代表取締役社長 川口竜広氏は、「社員がクリエイティビティを発揮しやすいオフィス環境をつくるのが目的。日本の中小企業は技術力があるし、経営基盤が強いところが多い。だが、唯一足りなのが“クリエイティビティ”だと思う。この点においてはアメリカに大きく差をつけられている」と話す。メディア・アートをオフィスに導入すれば面白いし、クリエイティビティの向上につながるかもしれないと思ったそうだ。

アンダーデザイン 代表取締役社長 川口竜広氏

ただ、メディア・アートのオフィス導入にはもうひとつのねらいがあると川口氏は続ける。前述したように、同社は70年の歴史を誇る。ただ、それだけに組織が硬直しがちなのだそうだ。「これまで、何度か“企業のイノベーション”に挑戦した。だが、70年続けてきた“通信インフラ”というメインの事業の文化に押され、なかなか定着しなかった。それならば、まったくその領域と異なる文化を創り出すしかない」と川口氏は考えたそうである。それが、メディア・アートというわけだ。

そのためにリブランディングを行った。社名変更もしたし、これまでとは異なる新組織を立ち上げた。事業所も分け、そしてワーク&アートスペース事業に精通した人材を集めた。まずは、同社の名古屋オフィスでメディア・アートを試し、随時、ほかの拠点にも広げていく考えだ。そして“これはいけそうだ”という成果と手応えを感じたら、社外への提供も視野に入れている。

川口氏はメディア・アート導入でもうひとつの効果が得られたと話す。ホームページを洗練されたものに刷新した効果ともあいまって、就職希望者が増え、「これまで応募してこなかったような人材が採れるようになった」(川口氏)というのだ。

アンダーデザインが「OFFICE × ART -digital-」の施策を開始してから、まだそこまで時間は経っていないが、今後、メディア・アートを理解する企業が増えるかどうか、それが“新潮流”を生み出すカギとなるだろう。

生産性向上のカギは空間にあり? 「働き方改革」実現に向けたイトーキの好手

生産性向上のカギは空間にあり? 「働き方改革」実現に向けたイトーキの好手

2018.12.25

「働き方改革」が叫ばれる一方、まだまだ低い日本の労働生産性

オフィス関連事業のイトーキが新オフィスをオープン

杏林大学名誉教授が語る「活動空間と脳の働きの関係性」とは?

一億総活躍社会の実現を目指し、企業が熱心に取り組んでいる「働き方改革」。労働人口の減少が続く昨今、社員の作業効率を上げるためにさまざまな施策を打っている企業は多いだろう。しかし、日本生産性本部の発表によると、日本の労働生産性はOECD加盟35か国中20位と、加盟国平均を下回っている。

この現状を打破すべく、新たな取り組みに挑戦しているのが、オフィス関連事業を手掛けるイトーキだ。

イトーキがプレス向けに公開した新オフィス「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」

同社は12月、本社機能の集約・移転に伴い、プレス向けに新オフィスを公開した。そこからは、“オフィスのプロフェッショナル”ならではの、ワーカーの生産性を向上させるための工夫が見てとれた。このオフィスの特筆すべき点は、「空間の作り方」にある。

同社が新オフィスに仕掛けた工夫とはどういったものか。新オフィスの公開に先立って行った実験も踏まえて紹介する。

「活動に合わせた空間」こそ、生産性向上のカギ

杏林大学名誉教授の古賀良彦氏。著書に『いきいき脳のつくり方 臨床医が明かす"しなやかな脳"の科学』『睡眠と脳の科学』など

同社の行った実証実験は、「活動空間と脳の働きの関係性」を調査するというもの。ここで得られた結果は、オフィスにおいて「複数の空間を準備すること」の有用性を示すものになった。

監修を務めた杏林大学 名誉教授の古賀良彦氏は「実験の結果、活動特性に適した空間の選択が、ワーカーの生産性の向上につながる可能性があるということがわかりました」と語る。

実験内容は、複数の異なる空間において、さまざまな活動を行った際の被験者の脳血流量を測定し、その変化量を比較するというもの。

実験の結果、活動する空間によって、脳血流量が変化することがわかったのだという。脳血流量の増加は、すなわち脳の活性時に必要になる酸素の量の増加を意味する。つまり、「活動内容に応じた適切な空間選択が、脳のパフォーマンス向上、ひいては生産性の向上につながる」というわけだ。

実験を行った空間の例。視覚・聴覚環境の影響が少ない「クローズ空間」(左)、視覚・聴覚環境の影響が大きい「オープン空間」(右)。これに加えて、この中間にあたる「セミクローズ空間」でも脳血流量を測定した

「クローズ空間では、“判断力を必要とする作業”に必要な前頭葉が、そして、少し開けたセミクローズ空間では、“単純な繰り返し作業”に必要な左脳がもっとも活性化することがわかりました。前者は企画職やプランニング職、後者はデータの処理や整理を行うような仕事などが当てはまります」(古賀 名誉教授)

なお、オープン空間では、特徴的な脳血流量の変化は見られなかったとのこと。そういった空間は、頻繁なコミュニケーションを必要とする場合には向いている一方で、集中して作業する際には、セミクローズ・クローズ空間と比べると不利な可能性があるということだ。

ABWは、オフィスの在り方ではなく「働き方戦略」だ

しかし、「活動内容によって適した空間を選択するのが良い」ということがわかっていても、企業側にその機能が用意されていなければ意味がない。そこでイトーキは、新オフィスにワーカーの「10の活動」に適した空間を複数用意した。

イトーキが用意した、10の活動に合わせた空間。「高集中」「電話/WEB会議」「2人作業」など、さまざまな活動に適した複数の空間を用意している
イトーキ 営業戦略統括部 営業企画部 マーケティング戦略企画室 チームリーダー 藤田浩彰氏

オフィス移転のプロジェクトリーダーを務めた、イトーキ 藤田浩彰氏は「新オフィスは、ABW(Activiti Based Working)の考え方を元に作ったものです」と説明する。

ABWとは、オランダのワークスタイルコンサルティング企業「Veldhoen+Company」が提案する新たな働き方戦略。「いつでも、どこでも、誰とでも働くことができる」環境を整えることによって、ワーカーの生産性の向上を実現するものであり、グローバルではすでにLEGOやIKEA、VOLVO、MSDなどがこのABWを導入している。

「昨今、『働き方改革』を実現するためのワークスタイルとして注目を集めているABWですが、日本では、まだまだ本来の考え方が普及しきれていないのが現状です」(藤田氏)

同氏によると、ABWは「テレワーク」「フリーアドレス」などと混合されがちであり、単に「ABW=働く場所を自由に選ぶことのできるオフィス」という誤った認識を持つ人が多いのだという。

「ABWは、『働き方の戦略』とも言えます。オフィス改革だけで実現できるものではなく、社員の意識や、社内の制度を変えることによって、形になっていくものなのです。今回の新オフィスは、あくまで当社の掲げる目標を実現するために作ったものですが、働き方改革に取り組む企業にとっては、1つの事例として参考になると考えています」(藤田氏)

イトーキ新オフィスに用意された空間の一例。こちらは「高集中スペース」。壁を用いて空間を作り出し、余計な音や視線を遮断することで生産性の向上に寄与する
オフィスに用意された空間の図。複数の空間が用意されているため、ワーカーが分かりやすいように見取り図が壁に示されている

心頭滅却せずとも、快適な空間を用意すればよい

「『心頭滅却すれば火もまた涼し』という考え方は、必ずしもすべての人に当てはまるものではありません」とは、先に紹介した古賀 名誉教授の言葉だ。

「人は常にさまざまな環境要因の中で仕事をしています。そうした中で、誰もが常に夢中で仕事を続けるのは難しいでしょう。家でさえ、寝室・リビング・和室などのさまざまな空間が用意されています。それにも関わらず、営業・企画・事務など、単一の空間にさまざまな作業を行う人が混在するのはおかしな話ですよね」(古賀 名誉教授)

集中して仕事をしたいときに、周りから話し声が聞こえ、10分に一度は固定電話が鳴る、といった環境では、集中力が続かないのは当たり前だ。しかし、コミュニケーションも電話も仕事をするうえで欠かせない要素であり、なくすことはできない。そうした中で、それぞれの作業に適した空間を設けることは、ワーカーの作業効率の向上につながることだろう。

電話/WEB会議用空間(左)、アイデア出し等に利用される空間(右)

「働き方改革」が叫ばれてしばらく経ち、テレワークの普及、コワーキングスペースの増加、フリーアドレスの導入など、現代の「働く」を取り巻く環境は変化してきている。労働生産性の低さが嘆かれる日本で、こういった取り組みはどのように花を咲かせるのだろうか。

イトーキの新オフィスはショールーム機能も有しており、社外の人であっても、希望すれば内覧することも可能だという。ここから見える新たな働き方は、日本で働き方改革に注力する企業が、新たな一手を考える上で参考になるものになりそうだ。

上に挙げた空間のほかにも、知識共有のための空間、さらには、精神を落ち着けるためのマインドフィットネス、ヨガなどのプログラムを実践する空間も用意されている