「インバウンド」の記事

今知っておくべき、「進化形カプセルホテル」

瀧澤信秋のいろはにホテル 第6回

今知っておくべき、「進化形カプセルホテル」

2019.05.31

ホテル評論家・瀧澤信秋氏による連載!

オススメの「進化形カプセルホテル」は?

カプセルホテルは「安価で気軽」から「高クオリティ」へ

“カプセルホテル総論”としてカプセルホテルの定義を再考し、業界の変化などにも触れた前回に引き続き、今回は「進化系カプセルホテル」を中心に知っておきたいブランド・店舗を紹介していく。

グルメにフィーチャーする「グランパーク・イン横浜」

横浜駅西口至近という好立地の「グランパーク・イン横浜」は、進化系の一翼として存在感のあるカプセルホテルだ。その立地のよさは、訪日外国人旅行者もひきつけるだろう。系列店には男性専用の「グランパーク・イン北千住」があリスタイリッシュで人気だが、横浜店ではよりデザイン性を高め女性専用エリアも設けたことで更に洗練された印象を受ける。

「グランパーク・イン横浜」

女性も利用するということもあり、導線からアメニティまで気遣いが光るのがこのホテルの特徴だ。使うほどにその気遣いに驚く、ハイセンスカプセルホテルである。何より、グルメなカプセルホテルという点に注目したい。併設されているレストラン「ザ・ブックカフェ」では多彩なメニューをオシャレに楽しめる。

進化系の先鋒にして代表格「豪華カプセルホテル安心お宿」

次に紹介するのは、進化系カプセルホテルの代表格として知られる「豪華カプセルホテル安心お宿」だ。

「豪華カプセルホテル安心お宿プレミア 新宿駅前店」
このホテルは、東京都内の駅近立地で5店舗を展開している。デザイン性の高さを基本としつつ数百種類という圧倒的な無料サービスの提供で知られるが、多様な決済方法やスマートフォン・タブレットなどを活用したloTスマートカプセルホテルなど、カプセルホテルの常識を覆してきたブランドとして常に業界を牽引してきた。

都内の店舗は男性専用であったが、2018年4月に開業した、東京以外では初の店舗となる「豪華カプセルホテル安心お宿 プレミア京都四条烏丸店」は、女性も利用できる、まさに“安心お宿”の名を体現する場所だ。

「豪華カプセルホテル安心お宿 プレミア京都四条烏丸店」

男女別の隠れ家ラウンジでは、高級マッサージチェアをはじめ、漫画や雑誌、味噌汁にフリードリンクなども無料提供しており、ゆったりとした時間を過ごすことができる。また、女性限定の岩盤浴をはじめ、女性フロアのプレミアルームにはフェイススチーマーやレッグマッサージといった美容家電も設置し徹底した女性目線を追求している。

さらにグループで宿泊する女性ゲスト向けのドミトリー部屋「女子会ルーム」は驚愕。4つのキャビンが向かい合って設置されたカプセルホテル業界初のドミトリー部屋だ。ゲスト各々のカプセルキャビンというプライベートスペースが常識だっただけに注目のトライといえるだろう。  

一般ホテルブランドが展開するカプセルホテル

ホテル業界としてもカプセルホテルが注目される中、人気ホテルブランドがカプセルホテルに進出する傾向が続いている。

例えば、以前本連載でも紹介した、大浴場があるビジネスホテルとして人気のドーミーインが展開する「global cabin」がそれにあたる。「カプセルホテルの合理性とドーミーインの快適性」を標榜しており、五反田・水道橋・浜松・横浜中華街と4店舗展開する。ここではカプセルユニットに加え、食事やパソコンワークができる「デスク」を設置したプライベートスペースを確保しており、かつレディースフロアも完備されている。

さらに、宿泊特化型からリゾートまで全国へ多彩なホテルを展開する「マイステイズ」ブランドもカプセルホテルへ進出。「MyCUBE by MYSTAYS浅草蔵前」は和の雰囲気が魅力だ。全7フロア中、女性専用は2フロア。カードキーで宿泊フロアだけに停止するエレベーターなど、よりセキュリティを強化している。

オススメしたい“女性専用”のカプセルホテル

男性専用から女性も利用できるエリアを設けてきたことが進化系カプセルホテルでみれらる傾向であることは既に述べたが、遂に女性専用のカプセルホテルも誕生し、支持を得ている。

「NADESHIKO HOTEL SHIBUYA」は館内全体で和を意識しており、和服姿の女性スタッフもいるなど、旅館さながらのおもてなしを受けられるホテルだ。

「NADESHIKO HOTEL SHIBUYA」

そのほか、白やピンク、パステルカラーを基調とした女性らしい内外装で人気なのが「秋葉原BAY HOTEL」。こちらはまさに女性専用カプセルホテルといったイメージだ。洗面台ブースには基礎化粧品などのコスメ類やヘアアイロンなどもあり女性目線の気遣いに溢れている。

「秋葉原BAY HOTEL」 (画像はHPより)

「カプセルホテル」は新たなフェーズへ

ここ数年ホテルの稼働率や料金の高まりが話題となってきた。相変わらずホテル建設・開業ラッシュが続く中で更なる競争の激化がみられ、エリアによっては活況の鈍化も指摘されている。

特に進化系カプセルホテルの料金設定は、ビジネスホテルのボトム料金と被る印象があり、古いビジネスホテルよりはオシャレな進化系カプセルホテルというニーズを取り込んできた。ところが、新しくキレイなビジネスホテルの料金も値頃感が出てきており、不安視するカプセルホテル運営会社の声も聞こえてくる。

過去、安全性や快適性で疑問符がつけられていた宿泊形態が進化し、デザインやサービスなどに気遣った進化系カプセルホテルが台頭してきた。リーズナブルな旅を求める訪日外国人旅行者にも相変わらずの人気だ。

とはいえ、カプセルホテルの基本は“安価で気軽な地元密着の宿泊施設”ともいえる。安心安全な施設として市民権を得つつあるカプセルホテルは、高いクオリティが担保された宿泊業態という新たなフェーズへ突入しているといえよう。更なる進化と共に、それら基本の踏襲にも注目したい。

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「旅行革命」でカプセルホテルはここまで進化した

瀧澤信秋のいろはにホテル 第5回

「旅行革命」でカプセルホテルはここまで進化した

2019.05.30

ホテル評論家・瀧澤信秋氏による連載!

カプセルホテルは時代の変化に合わせて進化している

魅力がありあまる「進化形カプセルホテル」を語り尽くす

旅行といえば、旅行会社の店舗へ出向きアレンジするのが定番――、というのはもはや一昔前の話だ。

今ではオンライン上で様々な手配ができるようになった。インターネットの普及がもたらした「旅行革命」が、旅の手配ばかりではなく、移動手段の多様化や機能性・利便性の向上をももたらしている。

近年の宿泊業全体でみれば、訪日外国人旅行者の激増等によりサービスも変容し、様々な旅行者のニーズに応える宿泊施設が誕生し続けている。

カテゴリーでいえばシティホテルやビジネスホテルといった伝統的な区分にとどまらず、ワールドワイドなラグジュアリーブランドの進出、ライフスタイルホテルといった新たな概念の広まりや、付加価値を打ち出す進化系ビジネスホテルの誕生など、枚挙に暇が無い(※1)。また、レジャーホテルの一般ユース取り込みなどについても本連載で指摘したところだ(※2)。

参照:
※1.なぜ東横インは、宿泊料が一定なのか? 多様化するビジネスホテルの今
※2.時代とともに変わるホテル - ラブホは「レジャーホテル」へ

宿泊業の活況に伴い、稼働率の上昇や料金高騰という事態も指摘されるようになってきた。そのような中、リーズナブルに移動できる手段が流行ったことで、安価で利用できる宿泊施設が大いに注目されている。法律的な区分としては「簡易宿所」が代表例だ。大まかにいうと、料金は一般ホテルと一線を画す安さにして、客室(空間)を多人数で共用するというイメージ。「カプセルホテル」や「ホステル」が知られるところである。

そこで今回は、カプセルホテルに注目した話をお届けしたい。

時代と共に進化してきた「カプセルホテル」、あなたはどれだけ知っていますか?

カプセルは「部屋」ではない

そもそも、カプセルホテルの就寝場所であるカプセルは“個室”ではない。消防法等法令の関係もあり、鍵がかからないようになっている。多くのカプセルが並ぶ部屋全体が“客室”であり、前述の通り1室を多人数で共用する前提により複数のベッド(カプセルユニット)が1室にあるという考え方だ。ちなみにこれはホステルも同様で、1室に二段ベッドが並ぶタイプがよく知られているところだろう。

他の宿泊施設同様に、簡易宿所にも入浴施設(シャワーという場合もある)を設けることが法令で定められているが、そもそもカプセルホテルでは充実設備の大浴場が設けられているケースもよくみられる。露天風呂やサウナ、ジャグジーなど、カプセルの宿泊利用の他に大浴場のみの利用者などへサービスを提供する施設も多い。そもそも温浴施設をメインにしつつカプセルホテルも営業している、という施設もみられるほどだ。

「宿泊業」という点から見ると、簡易宿所は営業許可やイニシャルコストといった点からハードルが低い上に、参入・撤退のスピード感という点も秀でているのが特徴だ。

さらには、国際紛争や経済・環境問題など、様々な要因で一気にクールダウンするリスクを内含するインバウンド需要にも、柔軟に運営対応できる業態ともいえる。ユーザー視点に立っても、ある程度のプライバシーが確保されるカプセルホテルは、簡易宿所でも利用しやすい業態である。

どこからが「カプセルホテル」なのか?

筆者は2014年に、“365日365ホテル”というテーマで毎日異なる宿泊施設へチェックインするミッションを続け、結果として372軒の宿泊施設へチェックインした経験がある。

その過程で東京にあるすべてのカプセルホテルへもチェックインする機会を得たのだが、その進化には驚愕するばかりだった。筆者自身、カプセルホテルといえば終電に乗り遅れたサラリーマンが仕方なく利用するといった「緊急避難」的なイメージを持っていた。そして一般的にも、安全・安心の担保という面から疑問符を持たれていた。

ところが、都心の駅から近い一等地に立地し、デザインやサービスなどに気遣った施設が続々と誕生していたのだ。この状況に衝撃を受けた筆者は、これらを「進化系カプセルホテル」と名付け、メディアで情報発信を行った。その後もかような“ブーム”は続き、カプセルホテル活況といえる状況が進んできた。

「進化形」の増加で、カプセルホテル活況が続く

そしてこのブームは、多様な“カプセルスペース”を誕生させた。ホステルとして営業している施設に木枠で二段の就寝スペースが誕生すると、その光景はまるでカプセルホテルのようだったし、「本」をテーマにした施設では、本棚に囲まれ枠で区切られた就寝スペースがあり、その専有面積はまさにカプセルホテルそのものだった。

一般にカプセルホテルというと、たくさんのカプセルが”カイコ棚”のようになっているイメージは共通しているものの、上述した木枠で組んだベッドスペースも、カプセルホテルを標榜する。かような情況に“そもそもカプセルホテルの定義とは何なのか”と考えるようになった。

メディアもカプセルホテルへの興味は尽きないようだ。筆者はテレビや雑誌と関わる仕事もしているが、「カプセルホテルについてとりあげたい」というオファーは2~3年前から激増した。

話を聞くと、カプセルホテルというワードは視聴者や読者に対してフックがあるのだという。まさにカプセルホテルというワードありきの企画であるが、ワードそのものの持つインパクトは大きいようにも思う。

一方、筆者はカプセルホテルとはあくまでも“カプセルユニットを用いた業態”と定義づけている。カプセルユニットは、専門メーカーにより研究され、製作・販売されている。快適性や機能性はもちろんのこと、実際にメーカーを取材してみると、安全性担保などの面からも様々な工夫が為されていることがうかがえるので面白い。

「進化系カプセルホテル」の一部を紹介

カプセルユニットといえば、上下2段で正方形の入り口、奥に長い就寝スペースが並ぶ光景をイメージするが、カプセルホテルの進化は多様なスタイルのユニットを誕生させている。

その代表格が横から出入りできるタイプのユニットだ。この形式は以前から存在していたが、横長の側面から出入りできるので楽な上、進化系では大きなテレビを枕と対の壁面に設置することも多くみられる。上下交互に配置すればプライベート空間を確保できるというのもこのタイプの特徴である。

横からスムーズな出入りができるようなつくりのカプセルユニットもある

また、「キャビン」という名称で知られるファーストキャビンでは、比較的広い空間を確保し、かつキャビン内はいずれも直立できる上下空間を確保する。これまたカプセルホテル同様に簡易宿所のカテゴリーであるが、「カプセルホテルでもなく、ビジネスホテルでもない、新しいスタイルのホテル」(公式HPより)としてカプセルホテルとは一線を画している。

ファーストキャビンの余裕ある空間

そのほか、進化系カプセルホテルの特徴として「女性専用エリア」の存在が挙げられる。カプセルホテルといえば、サラリーマンを代表とする「男性専用の施設」と認識される時代が長かった。

しかし、頭書のとおり、旅行の多様化、さらには移動手段の簡便化によって、若年から老年の女性ひとり旅の需要は喚起された。女性が利用できるカプセルホテルの誕生は必然だったのかもしれない。

いまや進化系カプセルホテルでは、女性専用フロアは常識であり女性専用エレベーターまで設置する施設もある。さらには女性しか利用できない施設も徐々に増えている。

安心して利用できるように設置された専用エレベーター

一方で、昔ながらのトラディショナルスタイルのカプセルホテルも根強い人気がある。進化系に対しいわゆる「旧態型」とも表せる施設であるが、何より進化系に比べて安いことが魅力だ。進化系が4~5,000円というイメージに対して、2~3,000円、中には1,000円台といった施設もある(料金は繁閑などで変動する)。

こうしたホテルはデザイン性やサービスなどは限定的であるが、長期利用プランなど低料金の強みを生かした利用形態にマッチしているのが特徴だ。 

昔ながらのスタイル

以上、昨今のカプセルホテルについての話をしてきた。次回は筆者が体験した実際の店舗をいくつか紹介するので、こちらも併せてチェックしていただければ幸いだ。

次回は、「今知っておくべき進化形カプセルホテル」について。ホテル評論家・瀧澤氏がオススメするカプセルホテルとは――?

※掲載は5月31日を予定しています。

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訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

先鋭ベンチャー LOCK ON! 第8回

訪日外国人と“飲みニケーション”できるマッチングサイトが見いだす価値とは?

日本の若者が敬遠し始めている“飲みニケーション”

訪日外国人をターゲットとした“異文化飲みニケーション”サービスが誕生

居酒屋がビジネスのヒントを得られる貴重な場になる可能性も

ここ最近、若者に嫌われがちな慣習に「飲みニケーション」がある。

これはいうまでもなく、仕事を終えた後、同僚たちと居酒屋などに集結し、アルコールの力を借りて互いの胸襟を開き、親睦を深めるコミュニケーション手法のこと。しかし、終身雇用や年功序列が崩壊した今や「会社の人とプライベートの時間まで削って仲良くなろう」というモチベーションは薄れた。「“飲みニケーション”って、いらなくね?」というムードが蔓延。令和時代に廃れてしまいそうな慣習ともいえる。

会社に勤める日本人の若者には、風当たりの強い飲みニケーション。それを新たなカタチとしてビジネスにつなげているのが、アシノオトの木村壮介さんだ。では、どんなビジネスなのか、木村さんに聞いた。

アシノオト代表の木村壮介さん。高校卒業後、兄が起こしたグループウェアメーカーにジョインして、エンジニアとして活躍。ウェブマーケティングの会社へ転職し、ウェブコミュニティの開発運営などを経て独立。訪日外国人とローカル日本人をつなぐQ&Aサイト「Hub Japan」を起ち上げ。2017年、同サイト内で「MEET&EAT」をスタートさせた

サービス名はHub Japan「MEET&EAT」。ネット上のプラットフォームを介して知らない者同士がマッチングし、文字どおり、食べて、飲む。”飲みニケーション”で親睦を深める、というわけだ。

もっとも「MEET&EAT」がマッチングするのは上司と部下でも、出会い系的な若い男女でもない。木村さんが飲みニケーションのターゲットにしているのが訪日外国人と日本人。日本を訪れた海外からの旅行者と、日本にいる人たちを居酒屋でつなぎ、親睦を深めさせる。いわば“異文化飲みニケーション”を提供しているのだ。

旅行者の「美味しい」は、アテにならない

きっかけになったのは、木村さんの経験だった。

「新婚旅行のときに覚えた違和感。そこからはじまったんです」(木村さん)

木村さんがイタリアへ行ったのは2015年。奥さんと2人で楽しみにしていたのが本場のイタリア料理だった。旅行に関する大手口コミサイトでみつけた店を、まず巡った。待ちに待った本場の味。それが実にいまいちだった。

「『こんなものかな…』とも思ったけれど、2日目に偶然仲良くなった地元のおばちゃんが『昨日はどこで食べた? 駅前の店? ダメダメ。行くならあっちの店よ』と教えてくれたんです。すると今度はめちゃくちゃ美味しかった。それが衝撃でした」(木村さん)

美味しさに対する衝撃だけじゃない。圧倒的な集合知を誇るネットの口コミサイトが、地元のおばちゃんのアナログな知見に勝てないことにこそ、木村さんは感銘を受けた。

「考えてみたら当たり前なんですけどね(笑)。世界中の質の高いユーザーが口コミを書き込めたとしても、書き手が旅行者である以上、底はしれている。地域にずっといる人の知識には敵いませんから」(木村さん)

そこに着想の芽があった。

ならば「地元の人と海外からの旅行者をQ&Aでつなぐローカルコミュニティサイトがあったら喜ばれるのでは?」と考えた。ヤフー知恵袋のような巨大なQ&Aサイトや、SNSで直接つながったコミュニティサイトはあるが、越境してローカルの人と旅行者をつなぐQ&Aサイトは意外と見つからない。

それまでグループウェアの制作運営や、企業向けのコミュニティサイトの開発運営を手がけるITエンジニア・ディレクターだったが、独立起業の潮目を感じた。個人的に「社会課題の解決につながるような事業で独立したい」と考えていたことも後押しになったという。

「どんな課題か? “グローバリゼーション”とそれに伴う文化の均質化“への危惧ですね。なんていうと大げさですけど、目立たないけれど素敵なスポットや、小さくても美味しいお店が、情報の均質化で目立たず消えていく。盛りあげないともったいないなって、感じていたのです」(木村さん)

そして2016年に独立。自らプログラムを書けること、奥さんもWebデザイナーだったこともあいまって、すぐさまシンプルなQ&Aサイトを立ち上げた。名前は「Hub Japan(ハブ・ジャパン)」。訪日予定、あるいは訪日中の外国人ユーザーが英語でクエスチョンを書き込むと、日本のローカルユーザーがアンサーを書き込んでくれるシンプルな仕組みだ。

たとえば「東京でオススメの穴場の寿司屋は?」「サクラを見に大阪へ行くが、気温は? 上着は持参したほうがいいか?」といった具合に欧米を中心に訪日予定の人たちから英語で書き込む。すると、サイトに埋め込んだGoogle翻訳エンジンが日本語に変換してくれるので、日本人も気兼ねなく「現地の声」を書き込める。その日本語は、書き込んだユーザーが読めるように、英語に変換されるわけだ。

「ただオンラインだけだとつまらないのでリアルでも何かやりたいと考えた。そこで『体験の仲介サービス』をやろうとしたんです。訪日外国人が興味のありそうな、着物の着付けとか、お茶の体験とか、いろいろ試しにやってみたら……」(木村さん)

そうしたなか、圧倒的に参加者の好評を得た体験イベントがあった。「居酒屋探訪」ツアーがそれだ。

日本人には当たり前の居酒屋に価値があった

赤提灯や縄のれんが目印の大衆居酒屋から、高級割烹ぜんとした高級店まで、バラエティに富む居酒屋レストランは、日本全国に23万店以上あるといわれる。日本独自の酒とつまみが効率よく味わえるうえ、日本の生活文化や日本人とふれあう機会もあるため、今や訪日外国人にも人気のスポットだ。

ただ興味はあれど、観光客が海外の夜の街に繰り出して、初めての居酒屋に入るのはハードルが高い。ボッタクリ店などにあたるリスクもある。しかし、勝手知ったるローカルの日本人が薦める店に、しかも一緒に入って楽しめるとあれば、安心感が高まる。

「一方で居酒屋などの飲食店も、訪日外国人のお客様を呼び込みたいけれど、お店を知ってもらえていないというのが、多少の機会損失になっていた。なので、飲食店の販促の仕組みとして活用してもらえると考えたんです」(木村さん)

試しに「ハブ・ジャパン」をとおして「日本の居酒屋で日本人と語り合おう」というツアーを告知すると、すぐに外国人観光客から応募があった。木村さんが試験的にアテンドをする。奥さんや友達とともに外国人複数×日本人複数で、オススメの居酒屋にむかい「カンパイ!」からはじめると、異様な盛り上がりをみせた。

英語もできず、そもそもコミュニケーションも苦手だった木村さんだが、酒が入り、気持ちが大きくなると「身振り手振りで必死に会話をしている自分」に気づいた。飲みニケーションあなどれじ、だ。

「また、もちろん海外の方々に『日本に来た目的は?』『何を楽しんだ?』などと聞くことも楽しいのですが、実のところ彼らから日本について意表をつく質問をされることにこそおもしろさ、価値を感じました」(木村さん)

「日本で最もポピュラーな宗教は?」とか、「無宗教? ではなぜあれほど神社があり、誰しもお参りしているんだ?」とか、「あなたにとって蕎麦とはなんですか?」とか――。

「蕎麦については、おもしろかった。自分にとって蕎麦とは何か、なんて考えたことなくて(笑)。日本人同士だったら絶対に聞いてこないような質問をどんどん向けられる。結果、むしろ日本のこと、日本文化のことを深掘りせざるを得なくなったんです。また海外の人たちが、日本の何に興味があるのかも肌感覚でわかる。これって観光施策や訪日外国人向けビジネスのヒントが得られる貴重な場になるなって」(木村さん)

だから、日本文化を深掘りしたい「訪日外国人」、質の高いインバウンド客を集客したい「居酒屋」、そして外国人とフランクに交流することで刺激やアイデアを得たい「ローカルの日本人」。この三者を“三方良し”でつなぐプラットフォームとして、2017年末に作った。

仕組みはやはりシンプルだ。ローカルの日本人ならFacebook認証をとおして「ハブ・ジャパン」にまず登録。そこから「MEET&EAT」のサイトに行く。同じようにログインして日本滞在中の「居酒屋で交流したい」と書き込んでいる訪日予定の外国人アカウントをチェック。都合のいい場所や日時、気の合いそうなプロフィールの団体がいたら「マッチング希望」をクリック。返信を待つ。マッチングとなれば、メールでのやりとりができるようになり、「MEET&EAT」内で指定する居酒屋店をチェックして予約。当日、最寄りの駅前で待ち合わせて、予約時間に店にいき「カンパイ!」となるわけだ。

外国Hub Japanの利用者たち。未成年かどうかの判断はFacebook認証で行われる。トラブルが起きないように、基本2~3人ずつしかマッチング登録できない

今はサイト経由で飲食店への予約が発生したときに、紹介料を得る仕組みで運営中。都内数十店舗の居酒屋と契約を結び、月30人程度の訪日外国人からのリクエストに応えている。

「ビジネスの規模はもう本当に小さい。受託の仕事を続けながら、まだまだ手探りの段階です。ただ小さいながら手応えも感じています」(木村さん)

「またぜひ居酒屋で飲みたい」と訪日外国人のリピーターが増えている。「生きた英語を学びたい」「楽しい飲み会を開きたい」というローカル日本人も増加中だ。とくに「企業のインバウンド担当をしているが、本当のニーズがつかめない。ヒントを得たい」「飲食店を経営しているが外国人向けにメニューやサービスを充実させたい。直接リサーチできるのでは」とマーケティング・リサーチの場として価値を見出している人も現れ始めているという。

飲みニケーション、やはりあなどれじなのだ。

「まあ、まだまだ小さい事業で、どこまでできるかわからないけど(笑)」(木村さん)と、取材終盤、木村さんは繰り返した。ただ、目立たないけど素敵なビジネス。盛り上げないともったいない、と……。