「アウディ」の記事

なぜアウディはレンタカー「アウディ オン デマンド」を始めるのか

なぜアウディはレンタカー「アウディ オン デマンド」を始めるのか

2018.06.04

アウディ ジャパンはレンタカーサービス「アウディ オン デマンド」を開始した。コンパクトカーから高性能なスポーツカーまでの幅広いラインアップで、望みの場所にクルマを届けてくれる充実のサービスが売りだが、なぜアウディは自社でレンタカーに取り組むことを決めたのか。

アウディ版レンタカー「アウディ オン デマンド」が始まった

シンプルな使い方、クルマの受け渡しはコンシェルジュに

「アウディ オン デマンド」はネットでクルマを予約するレンタカーサービス。小型車「A1」やSUVの「Q2」、同社のフラッグシップスポーツカーである「R8 Spyder」など、12モデル14台からクルマが選べる。借りるクルマは「コンシェルジュ」が指定した場所に届けてくれて、使い終わったら引き取りに来てくれる。返す時にガソリンを満タンにする必要はない。

同サービスは2015年に始まっており、東京は世界で7番目の都市、9カ所目の拠点となる。2018年末までに世界で79の拠点を設ける方針だ。

利用可能なクルマは12モデル14台。この秋に日本導入予定の新型「A7」もラインアップに加わるそうだ

具体的な使い方だが、まず専用サイトに行って利用日時を入れると、利用可能なクルマの一覧が出るのでそこから選ぶ。あとはクルマを受け取る場所と返す場所を入力すれば、予約確認メールが届いて完了だ。コンシェルジュからは利用日の前に電話がかかってくるので、そこで詳細な受け渡し場所を決める。

コンシェルジュが来てくれるエリアは都内13区

気になる利用料金だが、最も安い小型車「A1」で4時間7,200円、1日あたり1万8,000円、最も高い「R8 Spyder」で4時間5万1,200円、1日あたり12万8,000円の設定となっている。一般的なレンタカーよりも高いが、アウディ ジャパンの斎藤徹社長は「価格で勝負するつもりはない」と強気。コンシェルジュをはじめとするプレミアムな体験が既存サービスとの差別化につながるとの見方だ。

利用料金は一般的なレンタカーより高いが、普通であればオプション扱いの自転車用ルーフラックやチャイルドシートなどは無料で付けてもらえるし、冬場であればスタッドレスタイヤが無償だ。走行距離は無制限で、満タン返却の必要もない

自動車メーカーがレンタカーに参画する理由

それでは、同サービスをアウディ ジャパンが自社で展開する狙いとは何か。単純にタッチポイントを増やしたいというのが理由だとすれば、既存のレンタカー事業者と組んで、車両を提供するような手法もあったはずだ。

まず、同サービスに参画する背景として斎藤社長は、「世界中で都市化が進む中、東京のように過密な都市ではクルマを手放す、あるいは所有しない顧客が増えると予想されている。クルマは所有するのにコストも掛かるので、必要な時に、必要な分だけ乗る、文字通り『オン デマンド』なサービスに対するニーズは増える」との見方を示した。想定する客層は、「大都市に住んでいてクルマを所有していないが、質の高いモビリティを求める人、あるいはクルマを所有しているが、アウディを体験してみたい人」だという。

この「R8 Spyder」も借りて乗れる

将来的に、同サービスでクルマを借りてくれた人にクルマを販売するのが狙いなのか、それとも同サービスそのものをビジネスとして成立させたいのかとの問いに斎藤社長は、「どちらかといえば後者」と答えた。自動車業界ではカーシェアリングの普及などを受けて「所有から使用へ」という言葉が聞かれるようになっているが、「アウディ オン デマンド」もこの流れに沿った動きといえる。

既存のレンタカーやカーシェアリングでアウディに乗ることも可能ではあるが、アウディ ジャパンでデジタリゼーション モビリティ マネージャーを務める坂田真一氏は「フルラインアップはインポーターの強み」とした。また、自社でレンタカーを手掛ける理由の1つとして斎藤社長は「ノウハウの蓄積」を挙げ、「サードパーティーに頼むとブラックボックスになるので、最初の駆け出しのところは自分達でやって、ノウハウを貯めるのが大切」と語った。

斎藤社長(中央)とコンシェルジュの皆さん

例えばトヨタ自動車もそうだが、自動車業界では「モビリティサービスプロバイダー」を目指すメーカーが増えている。クルマを作って売るという既存のビジネスモデルだけでなく、クルマをコアとしつつ、周辺の多種多様なサービスも手掛けて収益を多角化しようとする動きだが、アウディが目指すのもそんな姿だ。その流れから見ると、アウディがレンタカーを自ら始め、ノウハウを貯めようとするのも自然な動きといえそうだ。

ブームは分かるけど…なぜ同一ブランドがSUVを多品種展開するのか

ブームは分かるけど…なぜ同一ブランドがSUVを多品種展開するのか

2018.05.09

自動車業界ではSUVブームだが、BMWの「X」やアウディの「Q」など、同じメーカーが何種類ものSUVをラインアップするのはなぜなのか。サイズの問題であれば「大」「中」「小」くらいで済みそうなものだが、BMWらが取りそろえる品種はもっと多く、正直に言って、街で見かけても車名を判別するのが難しいほどだ。そうなる理由をモータージャーナリストの清水和夫さんに以下で解説してもらう。

アウディのSUVには「Q2(画像左)」「Q3」「Q5(画像右)」「Q7」というモデルがあり、まだ種類は増える可能性があるようだ

多品種少量生産が流行する最近のドイツ車

その理由はいくつか思い浮かぶが、まず、高級車が売れるマーケットが増えたことが影響しているだろう。中国だけでなく、ASEANやインドなどでも富裕層が増え、そういった人たちが人とは違うクルマを欲しがるようになった。セダンとクーペの中間のような「4ドアクーペ」が登場してきているのも、そのあたりが理由かもしれない。

もう1つの理由は、世界的なSUVブームが、大きなクルマからフォルクスワーゲン(VW)の「ポロ」クラスまで伸びたこと。背が高いクルマは不安定とされてきたが、電子制御の安全機能(ESC:エレクトリック・スタビリティ・コントロール)のおかげもあり、背が高くても安全性が飛躍的に高まったことが要因だ。

BMWではSUVタイプのクルマを「SAC」(スポーツ・アクティビティ・クーペ)あるいは「SAV」(スポーツ・アクティビティ・ビークル)と呼び、車名は「X」の後に数字が付く。現時点でラインアップは「X1」~「X6」まである。画像は左が「X2」、右が「X3」だ

多品種生産は日本のお家芸だったが…

また、同じ生産ラインで多品種が作れるようになったことも重要なポイントだ。コンピューターで部品を管理する工場は「デジタルファクトリー」と呼ばれ、多くの種類の部品を扱うことが可能となった。試作品も3Dのデジタルで納品され、バーチャルなサイバー空間で試作生産が行われている。これが、ドイツが主導している「インダストリー4.0」のメリットだろう。

昔を思い起こすと、1980~1990年代は日本が多品種生産を得意とし、フレキシブルな生産ラインは日本のお家芸だった。器用な日本人は手作業で多品種を生産していたが、それに対し、欧米人はコンピューターというツールを使うことに真剣だったのだ。

スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

2018.03.05

クルマの電動化はスポーツカーの世界にも及ぼうとしているが、ポルシェも例外ではない。それどころか、同社は巨額の投資を行い、電化を急いでいる側面もある。そこで気になるのは、“電動ポルシェ”がポルシェらしいのかどうかだ。その辺りを含め、ポルシェの電動化についてポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長に話を聞いた。

ポルシェは独特の乗り味を持つクルマだが、電動化するとポルシェらしさは減るのか、増えるのか(画像は「911 タルガ 4 GTS」)

スポーツカーに電化の波、ポルシェ「ミッションE」の衝撃

スポーツカーの世界では、すでにハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)で市販されている車種もある。例えばポルシェは、2010年にSUVの「カイエン S ハイブリッド」を、また同様のシステムで2011年には「パナメーラ S ハイブリッド」を発売している。BMWは電動車の新しいブランドである「i」を立ち上げ、2013年にPHVスポーツカーの「i8」を発売した。

イタリアのフェラーリは、「ラ フェラーリ」(LaFerrari)というHVを世界限定499台で2013年に発売。このクルマには、F1のレースカーで当時採用していたエネルギー回生システムを応用した機構を用いているといわれる。

中でも、スポーツカーメーカーであるポルシェが、クーペボディの4ドア電気自動車(EV)「ミッションE」(Mission E)を2015年に発表し、2019年にも発売を開始する予定であると宣言したのは、かなり衝撃的な出来事だったといえるだろう。

2015年のフランクフルトモーターショーで発表された「ミッションE」のコンセプトカー(画像提供:ポルシェ ジャパン)

電動ポルシェに乗ってみた感想は?

その試作車に同乗したという、ポルシェ ジャパンの七五三木社長は、「まぎれもなくポルシェだった」(以下、発言は七五三木社長)と感動的に語る。では、「まぎれもないポルシェ」とは、どういう意味なのだろうか。

「コンピュータで操縦特性を変えられたり、エンジン車以上に駆動輪の制御が緻密な感じがしたりしましたが、ポルシェの開発者たちは、(電動化は)自動運転のようにクルマが走りを制御するのではなく、あくまで運転者を助けるための技術だと言います。運転者はハンドルから手を離すことなく、走る、曲がる、止まるの動きを、EVでもエンジン車と同じように感じられなければならないと考え、開発しているようです。制御装置の凄さではなく、人馬一体感が根幹となるスポーツカーでなければならないとの定義が、ポルシェAG(ドイツ本社)の中にはあります」

話を聞いたポルシェ ジャパンの七五三木社長

「EV化をしても、これまでと全く変わらないのが理想でしょう。ミッションEが目指すのは、加減速を何度繰り返しても、バッテリーの充電残量が減ることによる性能低下を覚えさせないこととのリリースも発表しています」

2017年7月、フランス政府と英国政府は相次いで、2040年にはエンジン車の販売を禁止するとの声明を出した。それ以降、自動車業界は電動化へと大きく舵を切り始めた。だが、ポルシェも同じように慌てて電動化へ移行したのではなく、あくまで電動化してもポルシェはポルシェという、スポーツカーの乗り味を実現できるから取り組むのだと、七五三木社長は力強く答えた。

ポルシェの始まりは電気自動車だった

そもそも、ポルシェの創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマは、EVの「ローナーポルシェ」だった。19世紀末のエンジンは未熟で、電動のモーターの方が動力として有望であった。

フェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマであるEVの「ローナーポルシェ」(画像提供:ポルシェ ジャパン)

ポルシェの電動化を支えるのが、ポルシェAGが発表した60億ユーロ(約8,000億円)を超える「E-モビリティ」(電動化車両などのこと)への投資だ。七五三木社長は次のように語る。

「主力工場のあるツッフェンハウゼンでは、それまで駐車場に使っていた土地にミッションEを作る工場を建てました。また、ドイツの雑誌には、2023~2024年の間に、50%を超える電動車比率にするとルッツ・メシュケCFOが語った記事が掲載されました」

「ミッションE」(画像はコンセプトカー)の試作車がすでに誕生している(画像提供:ポルシェ ジャパン)

「2015年のミッションEの公表に始まり、2017年には具体的な電動化車両の数値をCFOが語り、そのため60億ユーロを超える大きな投資を行うという、電動化へ向けた3つの大事な発表をポルシェAGは行っています」

あわせてポルシェAGは、同じフォルクスワーゲン(VW)グループのアウディと、EVのプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)の開発を共同で行うと発表している。これにより、開発速度を早めることができ、各社の投資額も抑制することが可能だとする内容だ。ただし、この点について七五三木社長は、現在コメントできる内容はないとした。

日本でも増え始めた「パナメーラ」のPHV

では、ポルシェの電動化の動きは、日本市場にどのような影響や、状況を生み出すのだろうか。

カイエンやパナメーラではPHVの販売が日本でも開始されているが、パナメーラの例でいえば、「2015年に販売の15%であったPHV比率が、新型パナメーラでは25%に増えています。そのような市場の変化の中で私が驚いたのは、『ポルシェカップ』というポルシェのワンメイクレースに出場していた方が、パナメーラのPHVをお求めになり、大変満足していらっしゃることです」と七五三木社長は語る。

「パナメーラ ターボ S E ハイブリッド」(画像提供:ポルシェ ジャパン)

ちなみにフランス市場では、2016年にパナメーラのPHV比率が10%ほどであり、ディーゼルエンジン比率がガソリンよりも高かった状況であったのが、翌2017年にはPHV比率が一気に65%まで高まったという。逆に、ディーゼルエンジン比率が激減し、エンジン車ではガソリンが上回る結果になっているとのことだ。

フランスは、全般的にディーゼル車の比率がもともと高かった。だが、昨年のフランス政府の発表より前の2014年に、パリのアンヌ・イダルゴ市長が、パリ市内へのディーゼル車乗り入れ禁止を打ち出した影響もあるだろう。

日本の充電インフラ整備にも目を向けるポルシェ

ミッションEの日本導入は、東京オリンピックの2020年前後あたりか、しばらく先となるようだ。導入までには電動車の受け入れ態勢を整えたいと七五三木社長は語る。

「テスラの例を耳にしたのですが、お客様の4割ほどは自宅に充電設備を持っていないとのことです。したがって、充電インフラの整備が重要であると思っています。ただし、それを1社でやるのは大変ですから、フォルクスワーゲングループとして充実させていければと考えています」

具体的には、ディーラーやサービス拠点に充電器の設置を進めるという。

日本で電動車の受け入れ態勢を整えたいと語った七五三木社長

充電設備の設置に日本独特の課題も

日本は、高級車や高性能スポーツカーを所有する富裕層も、マンションなど集合住宅に住む例が都市部では多く、一方で、既存の集合住宅の駐車場への充電設備の設置は、管理組合の合意を得なければ難しい状況にある。また、充電設備を利用した人に対する料金の徴収に認証機能などが必要となるため、急速ではない200Vの普通充電においても、高額の充電器を設置する必要がある。

戸建て住宅であれば、数千円の200Vコンセントに加え、配電盤からの配線工事であれば数万円から10万円程度で充電設備を設置できる。ところが、集合住宅では設置する上で課題があり、EV所有者が自宅に充電設備を設置できない比率が高い。

この状況を打破するため東京都は、集合住宅への充電器設置の費用と、管理組合などでの合意形成の支援を都として行うと、2018年の初めに表明した。

「まぎれもないポルシェ」の乗り味を提供できるか

ポルシェの電動車導入の件でもう1つ、七五三木社長は「できるだけ早くEVを導入し、お客様に体験していただくことも大切だと考えています」と話す。

日本ではなお、EVは走行距離が心配だとか、走りがよくないのではないかといった先入観を持つ人が多い。なおかつ、多くの人がモーターの走りを経験していないため、電動化したポルシェが、どのようなポルシェらしさを発揮しうるのか、想像できないというのが正直なところだろう。

「911 タルガ 4 GTS」(画像左)をオープントップにして走ると顕著に感じられるのだが、ポルシェはエンジン音にも独特の魅力がある。走りの静けさを特徴とするEVの「ミッションE」(画像右、提供:ポルシェ ジャパン)で、音はどうするのか。七五三木社長に聞いてみると「秘密」とのことだったので、何か工夫があるのかもしれない

ちなみに、600馬力のモーター出力を持つミッションEは、静止状態から時速100キロまでの加速をわずか3.5秒でやってのけると公表されているが、実はテスラの4ドアセダンである「モデルS」は同2.7秒だ。単に数値を比較するだけなら、スポーツカーより4ドアセダンの方が速いということがEVでは起こりうる。

記事の冒頭で七五三木社長が「まぎれもなくポルシェだった」と感想を述べたような乗り味を実体験することは、EVにとって何より重要であり、また何よりポルシェファンも安心するに違いない。

PHVの導入においても、環境性能を無視するわけではないものの、ポルシェはあくまで、パフォーマンスに重点を置いている。新型パナメーラのPHVは、最上級車種として位置づけられているくらいだ。つまりポルシェは、電気の力をクルマの走りに活用している。まずはポルシェの最新PHVが、どのようなポルシェらしさを携えているのかが気になるところだが、いずれ報告できる機会があるかもしれない。