タワー型空清のパイオニア・バルミューダの「後継機種」開発の裏側(前編)

モノのデザイン 第51回

タワー型空清のパイオニア・バルミューダの「後継機種」開発の裏側(前編)

2019.04.10

バルミューダが空気清浄機「BALMUDA The Pure」を発売

同社初の「後継機種」、内部機構は一新

機器の「中」まで美しくデザインするこだわりの意図は

バルミューダから3月に発売された空気清浄機の新製品「BALMUDA The Pure」(以下、The Pure)。同社の空気清浄機と言えば、2012年に「JetClean」、2013年に「AirEngine」が発売されてきたが、今回はその後継機とも言うべき製品だ。

常にベストな形で完全なる"完成品"として製品を世に送り出すことをポリシーとしてきた同社が、同じカテゴリーの製品をこのようなかたちで発売するのは異例となる。今回は、発売に至る経緯や、新製品でのこだわりのポイントについて、デザイン面を中心に伺った。

3月14日発売の「BALMUDA The Pure」(税別5万2,000円)

タワー型の開拓者が挑んだ「最高の性能」

「もともとは、後継機種という立ち位置ではなかったんです。2013年にAirEngineが発売されて以降、空気清浄機の技術の大枠が確立できているので、もっといいものだったり、もっと他の価値を提供できるのではないかということで開発がスタートしました」と明かすのは、マーケティング的な観点から商品企画と開発の統括を担当した、同社マーケティング部プロダクトマネジメントチームの坂元宏範氏だ。

そうした発端の中で、製品はデザイン、機構・設計の担当者がそれぞれに技能を追求していき、ある時点から今のかたちに切り替わり、一本化されていったのだという。

先代モデルにあたる、2013年発売の「AirEngine」

空気清浄機が世に広まり始めた2012年、2013年から既に月日が経ち、市場が成熟してきた中で、バルミューダとして新たに目指した、“今”の最高の形の空気清浄機。至上命題として掲げられたのは、第一に性能のアップだ。

一般論として、空気清浄機の性能のカギを握るのは、ファンとフィルターの大きさ。単にファンやモーターのサイズを大きくすれば済むことではあるが、AirEngineがユーザーから大いに受け入れられた理由のひとつには、タワー型で設置スペースを取らない、そのサイズ感と形状がある。

フィルターとファンを垂直方向に積み上げた構造のタワー型の空気清浄機は今では珍しくはないが、その元祖はJetClean、AirEngineだ。いわばバルミューダの空気清浄機の象徴と言ってもいい部分。デザイナーとして、The Pureのクリエイティブ・消費者目線での意匠設計を担当した、同社クリエイティブ部マネージャーの高野潤氏は「デザイン面ではAirEngineの意匠が引き継がれました」と語る。

そこで、新製品の開発で大きな課題となったのは、本体のサイズ・形状を保ったままで性能を上げること。物理的にはそのままでは相容れない要素を両立しなければならない上に、The Pureでは、従来は2つ装備されていたモーターが1つになった上で性能を上げるという難題が課せられた。その結果、採用されたのが"整流翼"という部品だ。航空機のジェットエンジンでも採用されている技術を流体力学に基づきThe Pureのために応用、再設計された。

「文字どおり、風の流れを整える翼で、下から吸った空気を真上に押し上げることで風量をアップさせることができる、The Pureの技術面ではとても大事な部分です。デザインが決まっている中で、特にヒントがあったわけではなく、性能を上げるにはどうしたらいいのかを考えていろいろと文献などを漁って絞り出してきた方法なんです」(坂元氏)

モーターの数を1つに減らしつつも、風量を上げるために採用されたのが"整流翼"。ファンによって発生させた風の流れを真上に巻き上げることで増幅させる

機器の「中」まで美しく仕上げるこだわり

The Pureでは、空気の吸込み口の機構やフィルターの構造も、AirEngineとは異なる仕組みが採用されている。

従来モデルのフィルター。筒状で、側面から吸い込んだ空気を横から捉える方式だった

AirEngineでは、本体下方の両側面にある無数のパンチ穴から吸い込んだ空気を筒状のフィルターでろ過する仕組みであったのに対して、The Pureでは、本体の下部に設けられた、前後の吸気部から空気を吸い込んだ後、プレフィルター、集じんフィルター、脱臭フィルターの三層から成るボックス状のフィルターでろ過して、浄化する。

「フットプリント(設置面積)を変えずに、性能を上げるという制約がある中で、フィルターとファンのサイズは本当にせめぎ合いでした。そんな中、空気を垂直方向に一直線に吸い上げるという方法のほうが、空気の流れに対してごく自然な構造で効率がよいということから、今回の仕組みと構造が採用されました」と話すのは、機構・設計を担当した、同社商品設計部機構設計チームの岡山篤氏だ。

The Pureで採用されたフィルター。箱状で、下方から捉えた空気を垂直方向に通過させて、フィルターの網の目で不純物を漉し取る仕組みだ。空気を排出する上側には脱臭フィルターも備える

ファンとフィルターの仕様の変更は、性能面の向上だけでなく、メンテナンス性の改善にも関与している。

「AirEngineでは、フィルターを交換する際にカバーが外しにくかったり、ひと手間かかってめんどうだといった声も一部でありました。そこで今回は、ユーザーが迷わないで使うことができ、かつ容易に交換できるように、背面のハッチを開けるとそのままフィルターに手が届き、引き出すだけで簡単に交換できるように、フィルターへのアクセスを極力シンプルにしました。ファンやガード、整流翼といったホコリが溜まりやすい部品は、いずれも取り外して水洗いすることが可能で、外す際もガードを回すだけにしたりと、極力ユーザーの負担を減らすように工夫しています」と岡山氏。

JetClean(右)とThe Pure(左)の背面の違い。フィルターの取り出し部分の構造がシンプルになり、アクセスがしやすく改良されて手入れがしやすくなっている
フィルターの交換時はカバーを外し、ボックス上のフィルターをスライドさせるだけで済む。内部も空洞なので直接手を入れて手入れがしやすい

デザイン上のこだわりは、内部の構造にまで抜かりがない。

「バルミューダのファンの方は、ガジェット好きな人も多く、中を分解したりするのが好きなんです。なので、開けられることを前提に、例えば部品感が出ないように外からはネジが見えないようにしたり、光の反射を考慮したシボ加工を施したり、中の構造までかっこよく見せるよう細かい部分1つひとつまで作り込んでいるんです」(高野氏)

見た目の美しさへのこだわりは内部の奥深くまで徹底している。ファンの下側は通常はユーザーの目に触れない部分だが、分解して手入れできる構造のため、ネジが見えないようにしたり、色味などに細部に至るまで美しく仕上げられている

およそ6年の時を経て刷新されたバルミューダの空気清浄機。前編では、リニューアルに至った経緯や、見た目の印象を大きく変えることなく性能アップと使い勝手を改良されたポイントについて紹介した。次回後編では、新たな要素として加えられた進化について語ってもらう。

フランス発・冷凍食品スーパー「Picard」が都外に初出店 共働き需要つかみ拡大なるか

フランス発・冷凍食品スーパー「Picard」が都外に初出店 共働き需要つかみ拡大なるか

2019.03.18

フランスの冷凍食品専門スーパー「Picard(ピカール)」が横浜に出店

路面店ではなくSC入居、イートイン併設で狙う「使われ方」

高品質な冷凍食品で共働き需要をつかめるか

フランスの冷凍食品専門スーパー・「Picard(ピカール)」が2016年11月に日本に上陸して以来2年あまり。第一号店の青山骨董通り店(東京・港区)を皮切りに都内8店舗、スーパーイオン内に2店舗と着実に拡大を続ける中、3月14日、都内以外で初出店となる「ピカール 横浜ベイクォーター店」(横浜市神奈川区)をオープンした。

横浜駅に隣接する大型商業施設・横浜ベイクォーター3階にオープンした「Picard横浜ベイクォーター店」。営業時間は10時~21時

横浜では商業施設内へ出店、その狙いは

新店舗は、都外への進出のみならず、日本におけるピカールとしては初の試みが多い。まずは、大型商業施設内への出店(※小型店舗「Petit Pocard」除く)。開店前日の報道陣向けの内覧会に出席した、ピカールの運営企業であるイオンサヴール代表取締役社長の小野倫子氏は、出店の理由を「立地はもちろん、駐車場も併設している点が大きい」と説明。ファミリー層を中心に普及拡大を図りたい意向だ。

同店の売れ筋商品として"クロワッサン"を挙げた、イオンサヴール代表取締役社長の小野倫子氏。毎月6の付く日は1袋100円引きとなるプロモーションを各店舗で実施しているという

入居先の横浜ベイクォーターと言えば、2006年8月に横浜駅東口に開業した商業施設。横浜駅前という好立地でありながら、隣接地には超高層オフィスビルとタワーマンションが立ち並び、観光スポットであると同時に住宅エリアでもある。しかも、トレンドの発信地でもあり、情報感度の高い層が集まる場所だ。

これまでは本国・フランス同様に路面店への出店が多かった。横浜店の立地は、近隣住民のみならず、観光客を含めた多くの人にピカールブランドを認知してもらうには格好の場所とも言えるだろう。

フランス本国のピカールでは、2018年11月から店舗デザインを"マルシェ"(市場)をテーマにしたものに刷新しているが、新店舗では日本では初となる木目調であたたかみのあるデザインを採用。従来の店舗に比べると、スーパーというよりもコンビニエンスストアのような、親しみの持てる明るい雰囲気だ。

売場面積は約120平米。木目調のショーケースやディスプレーを採用し、日本における既存の店舗とは趣の異なる親しみやすい雰囲気となっている

さらに、同店ではイートインコーナーを併設。店内に電子レンジを設置して、購入した商品をその場で食べることができる他、既に一部店舗で実験的に導入していた、カフェコーナーも本格的に開始。人気商品であるクロワッサンやデザート、スナックとドリンクを組み合わせたセットメニューを提供し、買い物客が手軽に利用できる飲食需要にも応える。

店内の一角と店舗外に全部で18席の飲食スペースを併設。店内には自由に使える業務用の電子レンジが2台置かれ、購入した商品をその場で食べることができる
店内にあるカフェコーナー。購入した商品と一緒に楽しめるコーヒー、紅茶、オレンジジュースを販売する他、店内で焼き上げたクロワッサンなどとドリンクをセットにした「クロワッサンセット」(税抜278円)など、セットメニューも用意。オレンジジュースは店頭のジューサーでその場で作られる生絞りを提供する

また、ピカールとしては完全初の試みとなる、冷凍用のロッカーを設置。購入した商品を一時保管しておき、他店での買い物への利便性を高める。ロッカーは返却式のコイン型で、21時の営業終了後も23時まで利用できる。80リットル相当の容量のボックスが6つ設けられている。

専用のコインロッカー。店舗の外にあるため、21時の営業終了後も23時まで利用できる

商品配置の変更で「わかりやすさ」を向上

フランス発祥のピカールは、現在はイタリア、スイスなどヨーロッパ8カ国で1000店舗以上を展開。パンをはじめ、前菜、野菜など約1000品目を取りそろえるフランスに対して、日本で販売されているのは約360品目ほど。同店では国内の取り扱い品目のうち、ほぼすべてのアイテムを取り揃えるという。

「ラインアップは既存の店舗と同様ですが、すぐに食べられるデリ系の食品を目立つように置くなど、商品の配置を変更しています。野菜がたくさん食べられるメニューも提案していきたいです」(代表取締役社長・小野氏)とのことだ。

約360点ある商品は、野菜、ミート、シーフード、パン、デザートなどカテゴリー別に分類され、日本人にとってもわかりやすい商品展示
"アペリティフ(おつまみ)"や"取り分け料理(大皿料理)"のラインナップが充実しているのは、フランス発祥の冷凍食品スーパーならでは

共働き需要、ピカールの追い風となるか

フランスをはじめとする欧米諸国と同様に、日本でも近年、共働き世帯が増え、数年前についに有職主婦と専業主婦の割合が逆転した。

筆者が10余年前にフランスに在住していた時代から、多くの家庭で親しまれていたピカールの日本上陸は、個人的に大歓迎だった。だが、文化も食生活も大きく異なる日本において、どのように商品が消費者に受け入れられるかは、正直未知数であるという印象を当初持っていた。

聞くところによると、フランス本国においてもピカールは2年ほど前から積極的なイメージの刷新を図っているとのこと。横浜ベイクォーター店は、本国の路線をそのまま辿ったかたちで、"新しいピカール"を日本でいち早く取り入れた店舗ということになる。

アルコール類として、フランスのビールやワインを各種取り揃えているのもフランス発の店舗らしい

共働き世帯の増加に伴い、各家庭において家事の効率化や時短が求められる中、手軽に食べることができ、保存性も高い冷凍食品は有効な手段の1つ。その需要が今後日本においてもますます高まるのは必至だ。

日本のこうした社会構造の変化を追い風に受け、ピカールが日本の食卓にどのように浸透していくか。イオンサヴールの今後の戦略や取り組みに期待と注目が集まる。

一社独占の食洗機市場、切り込みをかけたAQUAの思惑

モノのデザイン 第50回

一社独占の食洗機市場、切り込みをかけたAQUAの思惑

2019.01.16

一社独占状態だった日本の食洗機市場にハイアールが参戦

AQUAブランドの食洗機を日本向けに徹底カスタマイズ

中国生まれの日本向け製品に込められた狙いとは

AQUA(アクア)から10月に発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の食洗機市場(卓上タイプ)は、かつて複数のメーカーが参入していたものの相次いで撤退。最近までは国内メーカー1社による単独市場だったところに、中国のハイアールグループの1社である同社が参入し、初めてリリースした製品だ。

AQUAから発売された、食器洗い機「ADW-GM1」。日本の卓上タイプの食洗機にはなかった、独自の仕様とデザインも注目を集めている

幅485×高さ475×奥行390mmとコンパクトなサイズ感ながら、日本電気工業会自主基準に基づく食器の標準収容量は24点で、2人~3人世帯に適している。日本市場における卓上タイプの食洗機には、これよりもやや小型で少ない容量か、大型・大容量の選択肢はあるが、このサイズ・容量はこれまで存在していなかった。まさに、既存ラインアップの隙間を埋めるような商品となっている。

小人数世帯のキッチンでも設置しやすいサイズと容量を実現していることに加えて、見た目もかなり個性的だ。そこで今回は、アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏に、同製品の意匠としてのデザインのこだわりや、デザインにつながる機構・設計上の工夫や苦労話を伺った。

アクア マーケティング部ランドリー企画部マネージャーの松本泰良氏

日本ユーザーに“安心感”を与えるための製品仕様

本製品の外観上のデザインの特徴として、前面の扉部分にガラストップが採用された、ラウンド状のフォルムが挙げられる。これまで卓上型の食洗機で一般的だった四角い箱型ではなく、横から見ると正面の扉がDの字のように湾曲しており、一枚板のガラス扉越しに内部の様子も確認できる。

こうしたデザインと形状が採用されたキーワードは“安心感”だという。

「食器洗い機が日本で普及があまり進んでいない理由のひとつとして、本当に汚れが落ちるのかという不安があります。そこで、洗浄中の中の様子が見えることで、安心感と納得感を得てもらえるのではないかと考え、中が見えることにこだわりました」

ラウンド形状と1枚板のガラストップが採用されたデザイン。洗浄中の様子を確認できることにより、ユーザーに安心感と信頼性を与える効果も狙った

本製品、実は既に中国で販売されている商品を日本向けにカスタマイズしたもので、外観は殆どそのまま。中国では複数のカラーバリエーションが展開されているが、日本向けにはホワイト1色に絞った。また、機種についても、中国では複数のラインアップが展開されている。そんな中、日本市場向けの第1弾製品にこの機種が選ばれた理由について、松本氏は次のように話した。

「日本市場では、これまで卓上型の食器洗い機というと四角い箱のようなイメージでした。今回市場に参入するにあたっては、似たイメージの製品よりも、まったく違った外観のもののほうがお客様の目に留まりやすいだろうと、差別化の意味でこの製品を選びました。カラーに関しては、“清潔感”のイメージが大切だと思い、白を選択しました」

「ADW-GM1」の元になった中国の製品。日本のR&D部門が、中のカゴや洗う行程のシステム設定といった国内向けカスタマイズを担当した。中国向けの製品は、ホワイトの他に写真のゴールドやブラック、ピンクといったカラバリも展開されている

AQUAでは、2018年11月に縦型洗濯機も発売している。そちらもフタが透明で中が見えることを意識したデザインだが、「当初はシリーズとして同時に発表するということも考えていました」と松本氏。

「洗濯中の様子が見えるというのが、AQUAの洗濯カテゴリの製品コンセプトにあります。共通したデザイン意匠を持たせることで、AQUA製品で揃えた場合、家庭内のインテリアに統一性が持てるようにしています。弊社では、商品自体が主張するのではなく、生活の中に溶け込むデザインを意識しています」と、その意図を明かす。

11月に発売された縦型洗濯機「AQW-GTW100G」。AQUAに共通した"中が見える"というデザイン意匠を持つ製品だ。シリーズのように揃えることで、家庭内の家電のインテリア性に統一感を持たせることも可能にした

他社製品との差別化という面では、内側をステンレス仕様にしているのも特筆すべき点だ。水流を噴射する部分であるノズルなど一部を除いて、内側のほとんどがステンレスだ。中国市場向けの製品と同じ仕様だが、「中が見えるからこそ、清潔感が大切になります。その点、傷が付きにくく、汚れにくいステンレスは最適です。ステンレスを採用したのは、中が見える安心感、清潔感という一貫した製品コンセプトに連動した理由からです」と説明する。

日本市場の隙間を狙うために試行錯誤

日本向けにカスタマイズが行われた部分の中でも、中国向け製品との違いが最も際立つのは、食器をセットする“かご”の形状だ。前述のとおり、本製品の標準収容量は24点。松本氏によると、コンパクトサイズであっても18点以上を目標値として掲げていたという。そこには、市場になかったラインナップを投入したいという狙いがあった。茶碗や深鉢といった和食器ならではの形状の器も収まる設計であり、かつ効率よくレイアウトするにはどうしたらいいか、試行錯誤を繰り返した。

「箸用のカゴの前後に配置されているカゴは、当初同じ高さにありました。ところが、モニターテストの結果、食器の出し入れがしづらいということでしたので、後ろのカゴの高さを少し上げてあります」と松本氏。さらに、中国用はワイングラス用のフックになっている上方の空間にも、カトラリーなどをセットできる日本独自仕様の棚状のカゴを設置。デッドスペースを解消し、収容量の増加につなげた。

現在の日本の市場にはないラインナップの穴を埋めるべく、コンパクトな本体サイズながら、食器の標準収容量24点を実現。日本の食器の独特な形状に合わせて、デッドスペースを減らし、効率的なレイアウトが何度も試行錯誤された
水を噴射するノズルを上・中・下段に計4つ備え、セットした食器に効果的に水が当たるようにノズルの向きも工夫されている
よく見ると、各エリアでカゴの段差を設けるなどして、効率の良い食器の配置と洗浄性を高めるための配慮がされている

流れ落ちた野菜くずなどを溜めておくための“残さいフィルター”と呼ばれる底面の部品には、ボックス式が採用されている。ボックス式は、残さいが外からは見えず、食器にニオイが移りにくいという長所がある。中国の仕様と同じだが、日本向けにはボックスを開け閉めする際の目印となるように絵文字を施したとのこと。同様に、カゴの一部にもマークを付け、セットする食器の種類が視覚的にわかるようバージョンアップした。

ボックス式の残さいフィルターは、開閉の際にわかりやすいように目印のイラストが設けられている。日本独自の仕様だ
同様に、カゴの部分にも何をセットするエリアなのかがわかりやすいよう、マークが付けられている

中華料理にも負けない洗浄力で勝負

日本市場に向けた容量アップにも成功した本製品だが、食器の詰め込み過ぎは、洗浄力に影響を与えることもある。率直にこの疑念をぶつけてみたところ、松本氏は自信を持って次のように答えた。

「中華料理は油を多く使うので、中国では日本以上に高い洗浄力が求められます。そのため、本製品には下段に2つ、中段、上段にも1つずつ水を噴射する高圧ノズルを設けており、強力かつ隅々にまで水を行き渡らせることができます。日本向けにカスタマイズしつつも、中国企業であるハイアールの持つリソースもしっかり活かした食洗機に仕上げています。日本でも発売前に20人ほどの方にモニターとして試用してもらいましたが、洗浄力に関しては大いに評価していただきました」

操作・表示部にも密かに日本向けにカスタマイズされた部分がある。稼働中、中国用は残り時間が表示されるのに対し、日本用は全行程のうち現在どの段階にあるのかが棒状の印でグラフィカルに示されるように変更されている。「日本人のほうが、きめ細かなことを知りたいという要望が強い」ため、現状をひと目で把握できる表示方法にした、というのが理由だ。

シンプルながらわかりやすい表示・操作部。運転中、中国向けの製品では残り時間が数字で表示されるのに対して、日本向けでは進行過程を棒状の印でグラフィカルに指し示す仕様に変更されている

その他、中国向け機種では背面に"軟水器"と呼ばれる硬水を軟水に変える部品、庫内には軟水にするための薬剤の投入口が設けられているという。もともと水道水が軟水である日本にこの機構は不要なため、取り外した結果、コストと庫内スペース両面の削減につながった。

また、給水バルブやモーター周りのモジュールなども、日本向けには耐久性と耐熱性が強化された部品が採用されている。「世界でも有数の安全基準を持つ日本で"Sマーク"を取得するためには必須の事項。日本側からの要求があまりに高く厳しいので、現地の技術者が怒り出したほどです(笑)。とはいえ、クリアしなければ日本では販売できないと説明したところ、納得してしっかり対応してくれました」と松本氏。

ところで本製品の外形寸法は、日本の標準的なシステムキッチンの作業台にピッタリと収まる。しかし、サイズは中国仕様と1ミリも変えずに済んだという。

「もともと脚が絞られた設計なので、フットプリント自体は日本の一般的なキッチンの作業スペースにも収まりました。反面、高さや扉の重さといった点に関しては、やや弱点であると承知しています。ですがラウンド形状は中を見やすくするためのもので、ガラス扉の重厚感も上質さのためには外せない要素です。社内ではデザインをマイナーチェンジする案もありましたが、独自性があったほうがいいだろうと、オリジナルのデザイン性が損なわれないように中身だけをカスタマイズしました」

「日本仕様はカウンターキッチンやアイランドキッチンに置かれる場合も想定して、背面側の処理も極力美しく仕上げてあります。高さは出てしまいますが、ガラス扉を採用しているので圧迫感を抑えたデザインにはなっていると思います」

日本では、カウンター式やアイランド型のキッチンスタイルも多いため、背面や側面もデザイン性を損ねないように極力美しく仕上げたとのこと

AQUA初の日本向け卓上型食洗機として投入された本製品。既にいくつものメーカーが撤退してきた食洗機市場にあえて参入する第1弾製品だからこそ、「デザイン面でも選ばれるものになる必要がある」と語った松本氏。しかし、既に完成されたプロダクトの寸法や外観を変えることなくそれを実行するのは、一から作り上げる以上に制約があり、難しい部分も多い。

また、国内向けにカスタマイズされているとはいえ、元は中国市場向けに作られた製品を、日本の消費者がどのように受け入れるかという点でも注目に値する。ふたつの意味でチャレンジングなこの製品は、今後の食洗器市場の行方を占う意味でも、試金石になるかもしれない気になる製品だ。