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78万人のIT人材不足に一石、新たな人材育成に挑む「メイカーズチャレンジ」とは?

78万人のIT人材不足に一石、新たな人材育成に挑む「メイカーズチャレンジ」とは?

2019.03.19

2030年までに日本国内でIT人材が78万人も不足する危機的状況

学生や若手のIT育成に挑む新機軸の試み、その中身をレポート

企業内実施では難しい基礎育成や異能コラボを補完する可能性も

世界で500億台ものIoT機器が普及することが見込まれている2020年台がいよいよ目前に迫っている。

少し古い調査結果だが、2016年6月の経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材は2019年をピークに減少傾向へ転じ、2030年には(高位想定で)約78万人不足すると予測する。IT人材に限らず、日本では少子高齢化が進み、多くの業種で人手不足が発生するといわれている。

その対策の柱となるのが、人材育成だ。これまでの20世紀型のビジネスでの価値創造の要素が「ヒト・モノ・カネ」だったのに対し、今後は「データ・ソフト・サービス」に要素が大きくシフトするといわれている。すなわち、必要となる人材も大きく変わっていくことになる。それは、従来のICT企業に限ったことではなく、ユーザ企業においても然りだ。

そこで今回紹介したいのは、総務省が学生や若手エンジニアを対象にIoT人材育成を目的として実施している「Web×IoT メイカーズチャレンジ」である。2018年度は国内9か所でイベントが開催され、2019年2月から3月にかけては、東京でも開催された。この取り組みが何を変えようとして、どのような一石を投じているのか、イベントで実際に実施された内容を下敷きに紐解いてみたい。

Web×IoT メイカーズチャレンジ 2018-19

Web×IoT メイカーズチャレンジ開催の経緯

総務省の情報通信審議会の技術戦略委員会では、かねてよりIoT・ビッグデータ・AI時代の人材育成方策についての議論が続けられており、去る2016年には、中間答申というかたちで以下のような旨の提言も出されている。

「IoTを総合的に理解し、使いこなせる人材・アイデアを発想できる人材が求められており、若者やスタートアップを対象とした開発キットやオープンソースなどを使ったモノづくりを通じた体験型教育やアイデア・ソリューションを競うハッカソンの取り組みを推進することが重要である」

こうしたことを受け、日本最大規模の産官学のIoT推進組織「IoT推進コンソーシアム」の技術開発ワーキンググループ「スマートIoT推進フォーラム」に、「IoT人材育成分科会」が設置されることとなり、そこでの議論を踏まえてこの人材育成事業、Web×IoT メイカーズチャレンジがスタートすることになった。

IoT推進コンソーシアムとスマートIoT推進フォーラムの体制

では、具体的にはどのような人材が今後必要とされるのか? また、未来に向けて、どういった手法でそのような人材を育成していくのだろうか?

Web×IoT メイカーズチャレンジの基本方針などを策定する実行委員会の主査で、上述のIoT人材育成分科会の構成員でもある株式会社KDDIの高木悟氏と、同実行委員会で副査を務める一般社団法人WebDINO Japanの瀧田佐登子氏の両氏に、その点についての話を伺った。

高木氏は、IoTを活用し社会を変革する創造性豊かなエンジニアリング・イノベータ力を備えた若手人材の育成には、

(1)無線装置やセンサ・アクチュエータなどのハードウェアとコンピューティングロジックを中心としたソフトウェア双方を扱えるスキル
(2)情報システムの共通基盤技術となっているWeb技術に基づくIoTシステム構築スキル
(3)企業の製品開発やサービス企画の現場でも、新技術の迅速な導入にもスピード感を持って対応できるアジャイル開発に対応できるエンジニア力
(4)実際にアイデアを試作し、改良を繰り返して実現するプロトタイプ創出力といったスキル

が求められており、Web×IoT メイカーズチャレンジでは、特にそのあたりを意識したイベント設計を行っていると話す。

KDDI株式会社技術開発戦略部マネージャー:高木悟氏

ポイントになるのは、このイベントに参加する学生や若手エンジニアが、座学の講習だけでなく、ハンズオン形式の講習会で実際にボードコンピュータやセンサーやアクチュエータの扱いを体験し、一定の準備期間を設けたうえで、ハッカソンで実際にプロトタイピングを行うという一連のものづくりプロセスを実体験することにある。

Web×IoT メイカーズチャレンジでは、UIやクラウドを含む情報システム全体をひとつの標準化された中立的な技術体系のもとで「ハードウェアを制御できるスキル」を獲得する機会を提供しているが、Webを介することによって、OS、デバイスといったレイヤーごとの違いを吸収し、普遍性の高い共通な技術を学ぶことができる。さまざまなデータをやりとりするには、「Webがもっともやりやすい」と副査の瀧田氏も指摘する。そういった観点からイベント名にもWeb×IoTの文字が冠された。

WebDINO Japan代表理事:瀧田佐登子氏

東京大会の概要をレポート

では、東京大会の様子を交えつつ、本取り組みの具体的な流れを少しレポートしたい。2月9、10日の2日間にわたりハンズオンを含む講習会が開催された。IoTの基礎知識やWiFiやLTEなど、IoT開発には欠かせない通信技術やその根源となる電波の特性について講義を受けたうえで、実際に「Raspberry Pi 3」と各種センサーやデバイスなどの接続・動作を行うハンズオンを約1日半じっくりと行う。受講者は個人単位で参加申し込みを行うが、講習会の2日目にはチーム単位に分けられ、準備期間を置いた後日に開催するハッカソンに向けた準備をスタートする。

東京会場にて。チームでのアイデアソンの風景

チーム分け後は、まずはアイデアソンを実施し、「身近な人をハッピーにするIoTデバイスを作ろう」などといったテーマをもとに議論を進める。初めて会ったメンバー同士で、いかに議論を深めていくか、これが最初の試練といえるだろう。また、各チームには上限額25,000円の予算が与えられ、その中でハッカソンに提出する作品で使うセンサーなどの部品を用意する。ここでは準備期間中の材料調達を含むマネージメント力が求められる。

そして、ハッカソンに向けて作成する作品では、以下の要件が求められる。

・ネットワークサービスの連携、もしくはネットワークからのコントロールが可能なこと
・Raspberry Pi 3を使って、Web GPIO APIあるいはWebI2C APIのいずれかを利用すること

ちなみにハッカソンの審査基準は、以下の通り。

・ソフトウェア・ハードウェアの実装力
・アイデアの独創性・ユースケースの有用性
・無線の活用度

そして、今回の東京大会のハッカソンには、計35名8チームが参加した。

ハッカソンの各チームの様子。今回は計35名8チームが参加した

ハッカソンというと、賞金目当てのツワモノが集まるというイメージがある。しかし、メイカーズチャレンジは、そもそもが「学びの場」として開催しているため、ハッカソン初心者やスキルレベルが不安な学生であっても参加しやすい枠組みを用意している。とにかく、わからないことがあれば積極的にチューターやメンターに聞き、解決していく。終始なごやかな雰囲気で進んでいくことも印象的だ。

こちらはハッカソン2日目の様子。初日のなごやかさからは打って変わり、開発完了に向け緊張感も漂う

それでもハッカソンが2日目にもなると緊張感が漂う。決められた開発締め切りに向かって、時間との戦いである。その日のうちに審査が始まり、今回は、最優秀賞が1チーム、優秀賞が3チーム選出された。

最優秀賞受賞チームの皆さん。後ろに立つ3人は審査員

順序が逆になってしまったが、審査員は以下の通りである。

・村井純氏(慶應義塾大学 環境情報学部教授 大学院政策・メディア研究科委員長)
・小林茂氏(情報科学芸術大院(IAMAS) 産業文化研究センター教授)
・瀧田佐登子氏(一般社団法人WebDINO Japan代表理事、実行委員会副査)

各チームの作品やその他の情報については、Web×IoT メイカーズチャレンジの公式サイトで情報が提供されるので、参照してほしい。

Web×IoT メイカーズチャレンジの成果と今後

今回、2年目を迎えたメイカーズチャレンジの取り組みであるが、その成果はどうだろうか。高木氏は、ほぼ目的は達成されていると判断しているという。実践的な講習会とハッカソンの組み合わせに参加者の多くが満足しており、チューターのサポートやチームでの開発体験を貴重な機会だと感じてもらえたと、手ごたえを語る。

人材育成というと、とかく受講者が受け身の講習が行われがちだが、この施策は講習会からハッカソンまで、参加者が自ら試行錯誤しながら様々なスキルを身につけるアクティブ・ラーニングの機会となっている。瀧田氏は、プログラミングやハードウェアのスキルに限らず、少ないとはいえ制作予算の配分管理や、材料の調達、さらに時間配分やチーム内のコミュニケーションなど、プロジェクトのマネジメントを体験する貴重な機会にもなっていると説明する。

学生から社会人まで、参加者は様々

企業が社員に向けて行う人材育成は、成果の前に、そのコスト・手間暇が大きなハードルとなる。Web×IoT メイカーズチャレンジは、その課題を補完する答えの1つともいえるだろう。今回の東京開催の会場を見ると、30才未満の若手社会人も多く参加しており、大学生や高専生、高校生と混じってチームを組み、真剣にものづくりに向き合う姿が見られた。

Web×IoT メイカーズチャレンジは2019年度も各地で開催される予定だ。立場を問わず関心を持った読者の方がおられれば、将来に立ち向かう可能性のひとつとして、参加や見学を検討してみていただきたい。

3省3ガイドラインで、IT化と向き合い始めた日本の医療業界

3省3ガイドラインで、IT化と向き合い始めた日本の医療業界

2019.01.31

担当各省のガイドライン整備で医療業界にIT進出

震災もきっかけに、BCP対策の視点から医療データを電子化

遅れた日本、より良い生活のためにも早急な挽回を

出張先で体調を崩し、救急搬送されたとしよう。もし、持病を抱えていて、飲んではいけない薬があったとしたら… かかりつけの主治医や薬剤師がいれば、服薬の管理はしっかりできるだろう。しかし、出先の病院の場合、投薬情報や診療データが共有されていないことが多いはず。これはなかなかに恐ろしい話ではないだろうか。

頻発する大災害も危機感のきっかけに

そこで最近、注目を集めているのが「PHR(Personal Health Record)」である。その名が示すとおり、自分自身で健康に関するデータを管理するというものだ。では、そのデータはどこに保存するのであろうか。まさか、USBメモリに保存してつねに持ち歩く? そんなアブナイことはできない。

そもそもカルテやレセプトといった診療データは、非常にレベルの高い個人情報といえる。これまでは、厳格に管理のされた1つの医療機関内でしか利用されることはなかった。しかし、多様化する患者のニーズや、サービス向上の意識から、治療の現場では診療データの共有が重要な要素になってきている。

注目を集めるもう1つの要因が、巨大災害である。2011年3月の東日本大震災は甚大な被害をもたらした。医療機関も建物ごと破壊され、カルテなど多くの医療情報が失われた。実は、その1年前に厚生労働省は、医療情報をクラウドへ保存するクラウドサービスを認める法改正を行っていた。しかし、その時点ではクラウド移行は十分に行われていなかった。

医療データに限らず、バックアップの基本の1つに「BCP対策として、バックアップは遠隔地に保存する」という考えがある。BCPとはBusiness Continuity Planの略で、事業継続のために、不測の事態に備えて対策するというものだ。さらに、その前提として、如何にして医療データ(カルテなど)を電子化するかといった課題もある。最近では電子カルテを採用する医療機関も増えたが、いまだに紙のカルテを使用している医療機関は少なくない。電子化の具体策も重要な課題になるだろう。

まとめると、「電子化されたデータを適切に遠隔地にバックアップ、セキュアな共有」と、「紙などのカルテの電子化」を進める必要がある。

医療情報の3省3ガイドラインとは

一般的な医療機関が単独で、これらの実施にリソースをさくことは困難であろう。多くは、外部の民間業者に手段を委託することになる。そこで、外部に委託する際のルールや守るべき規範が生まれた。それが、「3省3ガイドライン」である。厚生労働省、経済産業省、総務省の各省が出しているガイドラインの総称で、具体的には以下の3つである。

・厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版(平成29年5月発行)
・経済産業省:医療情報を受託管理する情報処理事業者における安全管理ガイドライン(平成24年10月発行)
・総務省:クラウドサービス事業者が医療情報を取り扱う際の安全管理に関するガイドライン(第1版)(平成30年7月発行)

厚労省のものは医療機関が対象で、残りはサービスを提供する事業者が対象となる。これらは現在も検討が継続しており、2020年には、経済産業省・総務省による事業者向けガイドラインが統合整理され、「3省2ガイドライン」となる予定もある。

3省3ガイドラインが民間業者らのサービスに求める具体的な内容をかいつまむと、接続元IPアドレスの制限、クラウドサーバーIDS(不正侵入検知)/IPS(不正侵入防御)の導入、クラウドサーバーへのログの保管体制の整備などが機能として求められている。

この電子化・IT化で何が変わる?

AOSBOX Business Plusを発表するAOSデータの春山洋社長

3省3ガイドラインは民間事業者のビジネスを活性化し、医療の電子化・IT化を促進させるもの。では、このガイドラインに沿ったサービスでは実際、何ができるのか。具体例として、3省3ガイドラインに準拠して2019年春にAOSデータ社がリリースする予定のクラウドバックアップシステム「AOSBOX Business Plus」を見てみたい。

同サービスは、カルテやレセプトを電子化し、レントゲン・CTを画像データとして保全・共有するシステム。医療機関や患者の利便性を向上させるだけでなく、将来的にクラウド上にデータが蓄積されていけば、AIの分析などにより新たな知見を得られる可能性もあるだろう。

AOSBOX Business Plusのビジネスモデル
AOSBOX Business Plusの新機能
AOSリーガルテックの佐々木隆仁社長

AOSデータのグループ企業で、データ復旧技術に強みを持つAOSリーガルテック社の佐々木隆仁社長が、同サービスの発表会でこんな話をしていた。日本の司法・裁判制度の電子化・IT化は、世界的に見ると非常に評価が低いというのだ。世界銀行の調査では、司法・裁判のIT化に関連する項目において日本はOECD加盟35か国中25位で、政府もこれを問題視し、2020年までに3位以内を目指すとしているが、かなり厳しい状況である。

普段はスマートフォンを使い、オフィスの机にはPC、さらにクラウドサービスやSNSを駆使して情報を共有… 一般的な日本人の姿といってもよい。しかし、いざ行政サービスを受けようとすると、紙の用紙に手書きをし、収入印紙を貼って、本人が窓口に出向いて届けをしないといけない、そんな状況が当たり前で、非常にギャップがある。これが日本の現状である。

最大の原因は、既得権益を持つ人々が、なかなか現状を変えようとしない点だ。行政サービスなどでは、サービスを提供する側(政府や公官庁)自体が抵抗勢力であったわけだが、ようやく重い腰を上げ始めたという感じだろう。

世界銀行"Doing Business"における日本のランキング

AOSデータ社のサービスを例に医療業界の電子化を考えてみたが、3省3ガイドラインをきっかけに民間がビジネスを始めたことで、電子化に弾みがついたことは間違いない。将来を見据えて、変えるべきものは変えるという意思が大切だ。

今回は医療業界に焦点を当てたが、日本中が同じような状況なのかもしれない。未だにキャッシュレス決済の普及率ですら驚くほど低いのだ。使い古された感すらある「電子化・IT化」だが、現状に照らし遅れていることを認め、今後の日本の大きな目標にするべきだ。